説明

燃料電池の燃料分析方法、燃料分析装置及び燃料電池

【課題】電池構成を複雑化することなく、バイオ燃料電池で使用される燃料中の有効成分量を検知することができる燃料電池の燃料分析方法、燃料分析装置及び燃料電池を提供する。
【解決手段】表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料について、物性及び/又は電気的特性を測定する測定部とこの測定部に測定対象の燃料を導入する燃料導入部と、測定部で測定された燃料を排出する燃料排出部と、を有し、この装置の燃料導入部を燃料タンクに連結すると共に、燃料排出部をバイオ燃料電池の電池部に連結し、測定対象の燃料の物性及び/又は電気的特性を測定した後、その値から、燃料中の有効成分量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元酵素を用いたバイオ燃料電池における燃料分析方法、この方法を用いた燃料分析装置及びこの装置を備えたバイオ燃料電池に関する。より詳しくは、燃料に含まれる発電に寄与する成分の量、即ち、有効成分量を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
反応触媒として酸化還元酵素を使用したバイオ燃料電池は、グルコース及びエタノールのように通常の工業触媒では利用できない燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い次世代の燃料電池として注目されている。図6は酵素を使用したバイオ燃料電池の反応スキームを示す図である。例えば、図6に示すように、グルコースを燃料とするバイオ燃料電池の場合、負極(アノード)ではグルコース(Glucose)の酸化反応が進行して電子が取り出され、正極(カソード)では大気中の酸素(O)の還元反応が進行する。
【0003】
このバイオ燃料電池では、気体燃料や液体燃料も使用可能であるが、グルコースなどの固体燃料の水溶液や市販の飲料(糖を含む清涼飲料及びアルコール飲料など)を用いることもできる。その際、グルコースやエタノールなどの発電に寄与する有効成分の濃度から、電池の残容量や発電量を知る必要がある。
【0004】
一方、メタノール型燃料電池や発電機では、一般に、メタノールやガソリンなどの液体燃料の液量(体積)から燃料源残量を求めており、従来、燃料容器に残量を確認するための窓を設けた燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、一次電池や二次電池では、電池の電気化学的特性を用いて残電気容量を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−158592号公報
【特許文献2】特開2006−313735号公報
【特許文献3】特開2006−173006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、バイオ燃料電池の場合、燃料中に発電に寄与する有効成分以外の成分が含まれており、発電により有効成分が消費されても電池内の溶液は減少しないため、液量(体積)測定のみでは、残容量を正確に予測することができないという問題点がある。
【0007】
また、発電機の一種であるバイオ燃料電池の場合、燃料を継ぎ足すことも可能であり、その場合、有効成分濃度が異なる溶液同士が混同されるため、発電時の電気化学的特性を測定したとしても、残容量の予測が更に困難になる。更に、グルコースなどの有効成分濃度を直接測定可能なセンサー(バイオセンサー)を用いる方法も考えられるが、この方法は、有効成分を高濃度に含有する燃料の測定には適さず、それを回避しようとすると、電池構造が複雑になる。
【0008】
そこで、本発明は、電池構成を複雑化することなく、バイオ燃料電池で使用される燃料中の有効成分量を検知することができる燃料電池の燃料分析方法、燃料分析装置及び燃料電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池の燃料分析方法は、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定する工程と、前記物性及び/又は電気的特性から、前記燃料中の発電に寄与する有効成分量を求める工程と、を有する。
ここで、電極の表面とは、電極の外面と電極内部の空隙の内面との全体を含み、以下の記載においても同様とする。
本発明においては、燃料の物性及び/又は電気的特性から、燃料中の有効成分量を求めているため、電池構成が複雑にならない。
この方法では、更に、前記有効成分量から、前記バイオ燃料電池の出力及び/又は容量を算出する工程を有していてもよい。
また、粘度、屈折率、旋光度、吸光度及び電流値のうち少なくとも1種の値を測定することもできる。
【0010】
本発明に係る燃料電池の燃料分析装置は、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定する測定部と、該測定部に測定対象の燃料を導入する燃料導入部と、前記測定部で測定された燃料を排出する燃料排出部と、を有するものである。
この燃料分析装置では、前記測定部に、粘度計、糖度計、分光器及びバイオセンサーのうち、少なくとも1種の検出器を設けることができる。
また、前記燃料導入部が燃料タンクに連結されると共に、前記燃料排出部が前記燃料電池、燃料タンク又は廃液タンクに連結されていてもよい。
【0011】
本発明に係る燃料電池は、前述した燃料分析装置を備えるものである。
この燃料電池では、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えた1又は複数の電池部と、該電池部に注入される燃料が充填された燃料タンクと、前記電池部と前記燃料タンクとの間に設けられ、該燃料タンク中の燃料を前記電池部内に供給する燃料供給部と、を有し、該燃料供給部に前記燃料分析装置が配設されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物性及び/又は電気的特性から、燃料中の有効成分量を求めているため、電池構成を複雑化せずに、電池の残容量や燃料の発電量を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態の燃料分析方法を用いたバイオ燃料電池の容量・出力判定方法を示すフローチャート図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の燃料分析装置の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2に示す燃料分析装置1をバイオ燃料電池に取り付けた状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態のバイオ燃料電池の構成を模式的に示す図である。
【図5】図4に示すバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。
【図6】酵素を使用したバイオ燃料電池の反応スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態
(バイオ燃料電池に使用する燃料中の有効成分を検出する方法の例)
2.第2の実施の形態
(バイオ燃料電池の燃料分析装置の例)
3.第3の実施の形態
(燃料分析装置を備えたバイオ燃料電池の例)

【0015】
<1.第1の実施の形態>
[分析方法]
先ず、本発明の第1の実施形態に係るバイオ燃料電池の燃料分析方法について説明する。本実施形態の燃料分析方法においては、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定し、その結果から、発電に寄与する有効成分の含有量を求める。
【0016】
[燃料]
本実施形態において分析対象とする燃料は、特に限定されるものではなく、固体、液体及び気体のいずれの状態でもよい。具体的には、グルコースやエタノール及び酸素などの有効成分を含有する溶液の他、エタノール蒸気や水素などの気体燃料や、角砂糖などの固体燃料がある。更に、バイオ燃料電池では、ゼリーなどのゲル状又は固形状の食品や市販の飲料も燃料となり得るが、本実施形態の燃料分析方法では、これらについても分析することが可能である。
【0017】
[測定]
また、この燃料の物性及び/又は電気的特性の測定は、(a)電池部に注入する前、(b)電池部に注入する際、(c)電池部内のいずれか、又はこれらを組み合わせて行う。例えば、バイオ燃料電池の残容量を予測する場合は、電池部内に貯留されている燃料の物性又は電気的特性を測定する。また、使用前の燃料について、発電量(有効成分量)を知りたい場合には、電池部に注入する前や注入時に測定すればよい。
【0018】
測定する物性としては、例えば、粘度、屈折率、吸光度、比重及び旋光度などが挙げられる。また、電気的特性としては、例えば、電流値などが挙げられる。更に、これらと併せて、燃料の液量や体積などを測定してもよい。
【0019】
なお、糖度、粘度及び吸光度などの物性は、有効成分の量を直接示すものではないため、簡易的な判別に用いる場合は問題ないが、より正確な有効成分量を知る必要がある場合は、補正を行うことが望ましい。その際の補正の方法としては、例えば、燃料の液量や体積を測定し、その値に基づいて物性値を補正したり、市販されている飲料のように、各成分量が表示されているものについては、その値を参考に補正したりすることができる。
【0020】
一方、燃料の吸光度から有効成分量を求める方法の場合は、燃料に特定の標準物質を含有させたり、既に含有している物質を標準物質として利用したりすればよい。そして、この標準部物質のピーク強度などに基づいて、測定値を補正することにより、より正確な有効成分量を求めることができる。
【0021】
[容量・出力判定方法]
次に、前述した燃料分析方法を用いて、バイオ燃料電池の容量及び出力などを判定する方法について、燃料に市販の飲料を使用する場合を例にして、説明する。図1は本実施形態の燃料分析方法を用いたバイオ燃料電池の容量・出力判定方法を示すフローチャート図である。市販の飲料を燃料として使用する場合は、先ず、図1に示すように、容器に添付されているバーコードを読み取り、その飲料が、燃料となり得るか、即ち、有効成分を含有しているか否かを調べる。
【0022】
また、別途、製品別のデータベースを作成しておき、品名からその成分を検索できるようにしてもよい。そして、これらの結果、対象製品が、有効成分を含有しないものであると認定されたときは、「使用不可(NG)」の判定をし、また、有効成分を含有するものであったときは、「使用可」の判定をする。
【0023】
その際、各製品のデータの中に、有効成分濃度が含まれていたときは、併せて、燃料として使用したときの「出力判定」及び「容量判定」を行ってもよい。また、物性や電気的特性及びその他の項目を予め測定し、含有されている成分及びその含有量、容量密度(Wh/ml)などの情報がデータベース化されている場合は、例えばQRコードやその他専用の標準フォーマットバーコードを、リーダーを備えた検出器で読み取ることにより、これらの情報をダウンロードして、「出力判定」及び「容量判定」を行ってもよい。
【0024】
更に、データベースに、有効成分に関する情報以外に、酵素反応の阻害物を含有するもの、組合せて使用すると支障がでるものなどの情報を記録しておき、測定対象の燃料がこれらに該当するものであった場合は、「使用不可(NG)」の判定をするようにしてもよい。これにより、燃料として不適当な材料の使用を、未然に防止することができる。
【0025】
その後、燃料が固体の場合は質量計により、液体の場合は液量計により、気体の場合は圧力計により、その量を測定し、必要に応じて燃料を希釈して、バイオ燃料電池内に注入する。
【0026】
そして、燃料注入後、更に燃料を追加する場合は、電池部に注入する際に追加する燃料について、又は、電池部内で追加されたものを含む燃料全体について、物性又は電気的特性を測定する。その際、簡易的な判定でよい場合は、粘度計、糖度計又は分光器などにより、燃料の粘度、糖度(屈折率・比重・旋光度)又は吸光度を測定する。そして、その結果が予め設定した値又は範囲から外れていた場合は、「使用不可(NG)」の判定をし、設定値(範囲)内であった場合は、その結果を基に、電池容量を算出する。
【0027】
次に、測定結果が、設定値(範囲)内であった燃料については、必要に応じて、その結果を基に、電池容量を算出する。具体的には、電極に、例えばグルコースオキシダーゼが固定されたバイオセンサーにより、グルコースとの反応による化学ポテンシャル、熱又は光学的な変化を電気信号として検出する。そして、その結果に基づいて、出力やより正確な電池容量を予測する。その際、燃料極及び空気極の両方を備えた電池構造のバイオセンサーを使用すると、より正確な電池容量を予測することができる。
【0028】
また、バイオセンサーは、有効成分を含有しないものが追加注入された場合以外にも、例えば酵素反応の阻害物質を含むものや現在充填されている燃料との相性が悪いものが追加注入された場合に、それらを検知することが可能である。これにより、このような場合でも、容易にかつ確実に「使用不可(NG)」の判定をすることができる。その際、燃料極で使用される酵素に加えて、空気極で使用される酵素も、電極に固定することにより、空気極での反応を阻害する物質についても、検出することが可能となる。
【0029】
更に、より高精度に、バイオ燃料電池の出力及び容量を予測したい場合は、粘度などの物性を測定する前に及び/又は物性測定の代わりに、バイオセンサーによる電気的特性の測定を行ってもよい。例えば、判定用バイオセンサーで使用可能か否かの判断を行い、その後、使用可能なものについて、物性測定の代わりにバイオセンサーによる測定を行う場合は、アンペロメトリー法により「出力」の判定を行い、クローメトリー法により「容量」の判定を行う。その際、当然ながら、前述した電池構造のバイオセンサーを使用することもできる。
【0030】
なお、これらの測定は、バイオ燃料電池に注入前の燃料で行ってもよいが、例えば、燃料タンクと電池部との間に、粘度計、糖度計又は分光器を設け、電池部に注入する直前に測定するようにしてもよい。更に、電池部にバイセンサーを設けることにより、発電中及び/又は停止しているときに、電池部の燃料の測定を行ってもよい。これにより、その電池の残容量を知ることができる。その際、例えば電池部内の燃料の量が少ない場合、測定用にサンプリングした燃料を廃棄すると、残容量の値に与える影響が大きくなる。このような場合は、サンプリングした分の電池容量(発電量)を、もとの燃料の発電量から引けばよい。
【0031】
なお、より正確に電池容量を知るためには、発電前の燃料の容量に加えて、発電中の燃料の容量及び実際の発電量の総量(積分値)を、停止中及び発電中にかかわらず、リアルタイムで測定し、算出することが望ましい。これにより、燃料漏れや燃料劣化の発生を、早期に発見することができる。また、本実施形態の燃料分析方法では、例えば、データベースから取得した色素やカフェインなどの燃料以外の成分の濃度と、電流値又は吸光度の測定値とから間接的に有効成分量を求め、前述した測定から直接的に求めた値と併せて、容量や出力の予測を行うこともできる。
【0032】
更に、これらの測定と、温度センサー、pHセンサー及び参照電極などを併用すると、燃料切れか、電池性能の可逆的な劣化(電極近傍の燃料枯渇や酸素・プロトンの供給不足など)か、不可逆的な劣化(酵素の熱変性や内部部材の破損など)かを判別することができる。これにより、ユーザーに、燃料追加、ポンプ始動、内部溶液の攪拌及び交換、電池自体又はその一部の交換など、その症状に対して、最適な行動が何であるかを知らせるシステムを実現することが可能となる。
【0033】
このように、本実施形態のバイオ燃料電池の燃料分析方法では、物理化学的及び/又は電気化学的手法により、燃料の物性や電気的特性を測定しているため、電池構成を複雑化することなく、バイオ燃料電池で使用される燃料中の有効成分量を求めることができる。更に、物性測定と電気的特性の測定を併用することにより、より正確な出力及び容量を予測することが可能となる。
【0034】
<2.第2の実施の形態>
[全体構成]
次に、本発明の第2の実施形態に係るバイオ燃料電池の燃料分析装置について説明する。本実施形態の燃料分析装置は、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定し、その結果から、燃料中の有効成分量を求めるものである。
【0035】
図2は本実施形態の燃料分析装置の構成を模式的に示す図である。図2に示すように、本実施形態の燃料分析装置1は、燃料の物性及び/又は電気的特性を測定する測定部2と、この測定部2に測定対象の燃料を導入する燃料導入部3と、測定後の燃料を排出する燃料排出部4とを備えている。
【0036】
[測定部2]
測定部2には、糖度計、粘度計及び分光器などの物性測定器、バイオセンサーなどの電気的特性測定器のうち、少なくとも1種が設けられている。その際、糖度計としては、例えば、屈折率から糖度を求める屈折糖度計、測定対象の溶液を投下した光の旋光度から糖度を求める旋光糖度計、近赤外光を照射してその光の吸収度合いから糖度を求める近赤外光糖度計などを使用することができる。ただし、この装置は、検出対象の有効成分が、ショ糖の場合にのみ適用可能である。
【0037】
粘度計は、特に限定されるものではないが、例えば、毛細管粘度計、落下球粘度計、回転粘度計、振動粘度計、平行平板粘度計及び気泡粘度計などを使用することができる。また、バイオセンサーは、検出対象の有効成分に応じて、適宜選択することができるが、例えば、有効成分がグルコースの場合は、電極にグルコースオキシダーゼが固定され、グルコースとの反応による化学ポテンシャル、熱又は工学的な変化を電気信号として検出可能なものを使用することができる。
【0038】
更に、測定部2は、燃料と接触する部分が、果物や植物に直接刺せるような構成となっていたり、容器の入口から燃料まで距離がある場合でも対応可能な長さになっていたりしてもよい。
【0039】
[判定部・表示部など]
また、この燃料分析装置1には、燃料の物性値及び/又は電気的特性から、その溶液を使用したときのバイオ燃料電池の容量や出力を予測する判定部が設けられていてもよく、更に、その結果を表示する表示部を設けることもできる。なお、本実施形態の燃料分析装置1には、前述した機能以外に、履歴を記録しておいて表示する機能、電池の寿命を予測する機能、廃棄方法を表示する機能及び電圧測定機能などを備えていてもよい。
【0040】
[動作]
次に、本実施形態の燃料分析装置1の動作について説明する。本実施形態の燃料分析装置1は、前述した第1の実施形態の燃料分析方法により、燃料中の有効成分を検出するものであり、独立して又はバイオ燃料電池と一体で使用される。その際、燃料排出部4を、例えば燃料タンク、廃液タンク又はバイオ燃料電池の燃料注入口に接続して使用することもできる。また、独立して使用する場合は、燃料タンクや飲料容器などから、測定対象となる燃料を適量採取し、燃料導入部3を介して、測定部2に導入する。
【0041】
その後、測定部2において、その燃料の粘度、糖度及び吸光度などの物性、電流値などの電気的特性を測定する。そして、測定後の燃料は溶液排出部4から排出されるが、測定結果に応じて、測定後の燃料を、燃料タンクに戻したり、廃液タンクやバイオ燃料電池の燃料注入口に導入したりすることもできる。
【0042】
このように、バイオ燃料電池に注入する前に、予め、燃料の物性及び/又は電気的特性を測定し、その有効成分量を求めておくことにより、燃料をバイオ燃料電池に注入する前に、使用の可能か否かを判定することが可能となる。また、複数の電池に注入する場合でも、短時間で、数多く測定を行うことができ、更に、子供が複数の材料を混合して調整したような燃料であっても、容易に分析することができる。更にまた、装置を小型化しやすく、修理及び交換も容易である。
【0043】
図3は図2に示す燃料分析装置1をバイオ燃料電池に取り付けた状態を模式的に示す図である。一方、図3に示すように、燃料分析装置1がバイオ燃料電池10と一体で使用される場合は、燃料導入部3が使用前の燃料が充填された燃料タンク20に連結され、溶液排出部4がバイオ燃料電池10の燃料注入口に連結される。即ち、燃料タンク20に充填されている燃料21が、燃料分析装置1を介して、バイオ燃料電池10に注入されるようにする。このとき、測定後の燃料が、廃液タンクに導入されるような構成や、再度燃料タンク20に戻るような構成にすることもできる。
【0044】
このように、バイオ燃料電池に注入される直前に、燃料の物性及び/又は電気的特性を測定し、その有効成分量を求めることにより、リアルタイムでの測定が可能となる。また、他の様々なパラメータと組み合わせることにより、より正確な測定をすることができる。
【0045】
このように、本実施形態のバイオ燃料電池の燃料分析装置では、物理化学的及び/又は電気化学的手法により、燃料の物性及び/又は電気的特性を測定し、その結果から有効成分量を求めているため、電池構成を複雑化することがない。また、これらの値から、その燃料を使用したときのバイオ燃料電池の出力及び容量を予測することもできる。
【0046】
<3.第3の実施の形態>
[全体構成]
次に、本発明の第3の実施形態に係るバイオ燃料電池について説明する。図4は本実施形態のバイオ燃料電池の構成を示す概念図であり、図5はその発電原理を模式的に示す図である。図4に示すように、本実施形態のバイオ燃料電池30は、2つの電池部11、12を備えており、これら2つの電池部11,12に1つの燃料タンク20から燃料が供給される構成となっている。そして、燃料タンク20と電池部11,12との間に設けられた燃料供給部13には、前述した第2の実施形態の燃料分析装置1が設けられている。
【0047】
[電池部11,12]
電池部11,12は、例えば、図5に示すように、アノード31とカソード32とが、プロトン伝導体33を介して対向配置された構成とすることができる。その際、アノード31としては、導電性多孔質材料からなる電極の表面に酸化還元酵素が固定化されているものなどを使用することができ、カソード32としては、導電性多孔質材料からなる電極の表面に、酸化還元酵素及び電子メディエーターが固定化されているものなどを使用することができる。ここで、電極の表面とは、電極の外面と電極内部の空隙の内面との全体を含み、以下の記載においても同様とする。
【0048】
この構成の場合、アノード31においては、表面に固定化された酵素により燃料を分解して、電子を取り出すと共にプロトン(H)を発生する。一方、カソード32においては、アノード31からプロトン伝導体33を介して輸送されたプロトン(H)と、アノード31から外部回路を通って送られた電子(e)と、例えば空気中の酸素(O)とにより水(HO)を生成する。
【0049】
また、アノード31を形成する導電性多孔質材料には、公知の材料を使用することができるが、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。更に、アノードの表面に固定化される酵素としては、例えば燃料がグルコースである場合は、グルコースを分解するグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。
【0050】
更にまた、燃料にグルコースなどの単糖類を用いる場合には、アノード31表面に、GDHのような単糖類の酸化を促進して分解する酸化酵素と共に、補酵素酸化酵素や電子メディエーターが固定化されていることが望ましい。補酵素酸化酵素は、酸化酵素によって還元される補酵素(例えば、NAD,NADPなど)と、補酵素の還元体(例えば、NADH,NADPHなど)を酸化するものであり、例えば、ジアホラーゼなどが挙げられる。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素が酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して電極に電子が渡される。
【0051】
電子メディエーターとしては、キノン骨格を有する化合物を使用することが好ましく、特に、ナフトキノン骨格を有する化合物が好適である。具体的には、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)などを用いることができる。また、キノン骨格を有する化合物としては、ナフトキノン骨格を有する化合物以外に、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。更に、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物と共に、電子メディエーターとして作用する1種又は2種以上の他の化合物を固定化してもよい。
【0052】
燃料に多糖類を用いる場合には、前述した酸化酵素、補酵素酸化酵素、補酵素及び電子メディエーターに加えて、多糖類の加水分解などの分解を促進し、グルコースなどの単糖類を生成する分解酵素が固定化されていることが望ましい。なお、ここでいう「多糖類」は、広義の多糖類であり、加水分解によって2分子以上の単糖を生じる全ての炭水化物を指し、二糖、三糖及び四糖などのオリゴ糖を含む。具体的には、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、マルトース、スクロース及びラクトースなどが挙げられる。これらは2以上の単糖類が結合したものであり、いずれの多糖類においても結合単位の単糖類としてグルコースが含まれている。
【0053】
また、アミロースとアミロペクチンとはデンプンに含まれる成分であり、デンプンはアミロースとアミロペクチンとの混合物である。例えば、多糖類の分解酵素としてグルコアミラーゼを使用し、単糖類を分解する酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを使用する場合には、燃料にはグルコアミラーゼによりグルコースにまで分解することができる多糖類を使用することができる。このような多糖類としては、例えばデンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン及びマルトースなどが挙げられる。ここで、グルコアミラーゼは、デンプンなどのα−グルカンを加水分解しグルコースを生成する分解酵素であり、グルコースデヒドロゲナーゼは、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化する酸化酵素である。
【0054】
一方、カソード32を形成する導電性多孔質材料にも、公知の材料を使用することができるが、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。このカソードに固定化される酸素還元酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼなどが挙げられる。また、これらの酵素と共に固定化される電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、フェリシアン化カリウム及びオクタシアノタングステン酸カリウムなどが挙げられる。
【0055】
更に、プロトン伝導体33は、電子導電性がなくかつプロトン(H)を輸送することが可能な材料であればよく、例えば、セロハン、ゼラチン及び含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂などが挙げられる。また、プロトン伝導体として、電解質を使用することもできる。
【0056】
なお、電池部11,12に設けられる各電極は、表面に酸化還元酵素が固定化されているものに限定されるものではなく、電極表面に酸化還元酵素が存在しているものであればよい。具体的には、表面に酸化還元酵素を有する微生物が付着し、アノード31及びカソード32において前述した作用が行われるような電極を使用することもできる。
【0057】
[燃料タンク20]
燃料タンク20は、電池部11,12に供給される燃料21が充填されている。その形状、容積、材質などは、特に限定されるものではないが、例えば、一部又は全部が、透明若しくは薄色の材料で形成されていて、内部の様子(液量など)が目視で確認できるような構成のものが好ましい。
【0058】
また、燃料タンク20に貯留され、電池部11,12に供給される燃料21は、例えば、糖、アルコール、アルデヒド、脂質及びタンパク質などの有効成分又はこれら有効成分のうち少なくとも1種を含有する液体又は固体などである。本実施形態のバイオ燃料電池1で使用される燃料における有効成分としては、例えば、グルコース、フルクトース、ソルボースなどの糖類、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸、蟻酸、ピルビン酸などの有機酸などが挙げられる。その他、脂肪類やタンパク質、これらの糖代謝の中間生成物である有機酸などを有効成分として使用することも可能である。
【0059】
[動作]
次に、本実施形態のバイオ燃料電池30の動作について説明する。本実施形態のバイオ燃料電池30では、燃料タンク20に充填されている燃料21は、燃料供給部13に設けられた燃料分析装置1で、その物性及び/又は電気的特性が測定された後、各電池部11,12に注入されるようになっている。
【0060】
そして、例えば、燃料分析装置1での検出結果に基づいて、電池部11,12への燃料供給をON/OFFする。例えば、燃料分析装置1において検出された有効成分量が、設定値(範囲)から外れている場合は、燃料分析装置1の溶液排出部4を閉じたり、電池部11,12の燃料供給口を閉じたりして、燃料分析装置1内の溶液が電池部11,12に流入しないようにする。又は、流路を切り替えて、廃液タンク(図示せず)に流入するようにしてもよい。
【0061】
このように、本実施形態のバイオ燃料電池30では、燃料タンク20と電池部11,12との間に設けられた燃料供給部13に、燃料分析装置1を配置しているため、電池構造を複雑化することなく、容易に燃料中の有効成分量を求めることができる。
【0062】
なお、本実施形態の構成は、複数の電池部が直列又は並列に接続されている構造のバイオ燃料電池に適用可能であるが、当然ながら、電池部が1つ設けられた「単セル」構造のものにも適用することができる。また、燃料分析装置1の構成及び動作は、前述した第2に実施形態に記載した通りである。
【符号の説明】
【0063】
1 燃料分析装置
2 測定部
3 溶液導入部
4 溶液排出部
10、30 バイオ燃料電池
11、12 電池部
13 燃料供給部
20 燃料タンク
21 燃料
31 アノード
32 カソード
33 プロトン伝導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定する工程と、
前記物性及び/又は電気的特性から、前記燃料中の発電に寄与する有効成分量を求める工程と、を有する燃料電池の燃料分析方法。
【請求項2】
更に、前記有効成分量から、前記バイオ燃料電池の出力及び/又は容量を算出する工程を有する請求項1に記載の燃料電池の燃料分析方法。
【請求項3】
粘度、屈折率、旋光度、吸光度及び電流値のうち少なくとも1種の値を測定する請求項1又は2に記載の燃料電池の燃料分析方法。
【請求項4】
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えたバイオ燃料電池において使用される燃料の物性及び/又は電気的特性を測定する測定部と、
該測定部に測定対象の燃料を導入する燃料導入部と、
前記測定部で測定された燃料を排出する燃料排出部と、
を有する燃料電池の燃料分析装置。
【請求項5】
前記測定部には、粘度計、糖度計、分光器及びバイオセンサーのうち、少なくとも1種の検出器が設けられている請求項4に記載の燃料電池の燃料分析装置。
【請求項6】
前記燃料導入部が燃料タンクに連結されると共に、前記燃料排出部が前記燃料電池、燃料タンク又は廃液タンクに連結される請求項4又は5に記載の燃料電池の燃料分析装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項に記載の燃料分析装置を備えた燃料電池。
【請求項8】
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えた1又は複数の電池部と、
該電池部に注入される燃料が充填された燃料タンクと、
前記電池部と前記燃料タンクとの間に設けられ、該燃料タンク中の燃料を前記電池部内に供給する燃料供給部と、を有し、
該燃料供給部に前記燃料分析装置が配設されている請求項7に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−238477(P2011−238477A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109234(P2010−109234)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】