説明

燃料電池の膜−電極接合体、電極製造用転写シート及びこれらの製造方法

【課題】ガス拡散層の変形が少なく、強度に優れ、抵抗値を増大させることなく、長期に亘って優れた排水性、ガス透過性及び拡散性、低加湿運転時の保水性を備えたガス拡散層から形成される膜−電極接合体及びこれを製造するための転写シートを提供する。
【解決手段】膜−電極接合体は、発泡層/カーボン層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/カーボン層/発泡層で構成される燃料電池用の膜−電極接合体であって、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜−電極接合体、電極製造用転写シート及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する膜−電極接合体(MEA)は、ガス拡散層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/ガス拡散層の層構造を有している。
【0003】
ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、ガス透過率が良好なことが必要とされる。また、ガス拡散層には、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための伝導性も必要である。さらに、触媒層上で発生する生成水が、ガス拡散層の空隙を埋めてしまうとガス透過性や拡散性に悪影響を及ぼすため、ガス拡散層は高い撥水性(排水性)を有することも必要とされる。しかしながら、低加湿運転時には、イオン伝導性固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ということもある)を保湿する必要があるため、保水性も必要とされる。
【0004】
そのため、今日までに、カーボンブラック及びフッ素樹脂を含有するカーボン層をガス拡散層として使用する技術(特許文献1)、カーボンブラック及び熱硬化性樹脂を含有する多孔質膜をガス拡散層として使用する技術(特許文献2)、ガス拡散性能の異なる二層のカーボン層からなる積層体をガス拡散層として使用する技術(特許文献3及び特許文献4)が提案されている。
【0005】
しかしながら、これら特許文献1〜4に記載されているガス拡散層は、種々の欠点を有している。
【0006】
例えば、特許文献1に記載のガス拡散層では、ある程度の排水性は向上するものの、低加湿、低電流密度等の運転条件下では、生成水が少なく、イオン伝導性固体高分子電解質膜が乾燥しやすくなり、電池性能が低下する問題点を有している。
【0007】
特許文献2に記載のガス拡散層は、変形に強く、強度に優れているものの、排水性が不十分であるという欠点がある。
【0008】
特許文献3及び特許文献4に記載のガス拡散層では、保湿性及び排水性は向上するものの、撥水材料に絶縁性のフッ素樹脂を使用し、これを二層にして用いていることから、単層に比べ抵抗値が高くなるという問題がある。
【0009】
更に、特許文献1及び2に記載の技術では、ガス拡散層は導電性多孔質基材上に形成されているが、導電性多孔質基材は、高い導電性及びガス拡散性を備えているものの、導電性多孔質基材の製造時に2000℃以上の高温で焼成する必要があるため、製造コストが格段に高くなる致命的な問題点を有している。
【0010】
そのため、例えば、炭素繊維、導電性ポリマー及び熱可塑性樹脂からなる電極製造用スラリー組成物をガス拡散電極としてシート状に形成する方法が提案されている(例えば特許文献5)。しかしながら、特許文献5に記載のスラリーから形成されるガス拡散層は、変形に強く、強度に優れているものの、排水性が不十分であり、また、イオン伝導性固体高分子電解質膜へ直接形成することから、電極製造用スラリー中の溶剤により、電解質膜が膨潤し、均一かつ精度良く、ガス拡散層を形成することができないという問題を有している。
【0011】
従って、ガス拡散層の変形が少なく、強度に優れ、抵抗値を増大させることなく、長期に亘って優れた排水性、ガス透過性及び拡散性、低加湿運転時の保水性を備えたガス拡散層から形成される膜−電極接合体の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−89968号公報
【特許文献2】特開2004−119072号公報
【特許文献3】特開2006−324104号公報
【特許文献4】特開2001−338655号公報
【特許文献5】特開2008−66151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ガス拡散層の変形が少なく、強度に優れ、電気抵抗を増大させることなく、長期に亘って優れた排水性、ガス透過性及び拡散性、低加湿運転時の保水性を備えたガス拡散層から形成される膜−電極接合体、及びこれを製造するための電極製造用転写シートを提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、転写基材上に、離型層、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有する発泡層、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有するカーボン層並びに触媒層が順次形成された燃料電池の電極製造用転写シートを用いて、イオン伝導性固体高分子電解質膜上に触媒層、カーボン層及び発泡層を転写することにより、電解質膜上に触媒層と所望のガス拡散層とを容易に形成でき、上記課題を解決した膜−電極接合体が得られることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0015】
本発明は、下記項1〜18に示す膜−電極接合体及びその製造方法、燃料電池の電極製造用転写シート及びその製造方法、並びに燃料電池を提供する。
項1.発泡層/カーボン層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/カーボン層/発泡層で構成される燃料電池用の膜−電極接合体であって、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、膜−電極接合体。
項2.前記発泡層は導電性繊維を更に含有している、項1に記載の膜−電極接合体。
項3.前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項2に記載の膜−電極接合体。
項4.前記カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有している、項1〜3のいずれかに記載の膜−電極接合体。
項5.前記カーボン層は導電性繊維を更に含有している、項4に記載の膜−電極接合体。
項6.前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項5に記載の膜−電極接合体。
項7.項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法であって、
(A)基材上に、離型層、発泡層、カーボン層及び触媒層が順次形成され、前記基材は、300℃における熱収縮率が0.5%以下の高分子フィルムであり、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、燃料電池の電極製造用転写シートの触媒層面を、イオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に触媒層が電解質膜を挟んで対面するように配置する工程、
(B)熱プレスにより、電極製造用転写シートとイオン伝導性固体高分子電解質膜とを接合する工程、
(C)電極製造用転写シートの基材を剥離する工程、
を備えた、膜−電極接合体の製造方法。
項8.項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体を備えた燃料電池。
項9.基材上に、離型層、発泡層、カーボン層及び触媒層が順次形成された燃料電池の電極製造用転写シートであって、前記基材は、300℃における熱収縮率が0.5%以下の高分子フィルムであり、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、電極製造用転写シート。
項10.前記発泡層は導電性繊維を更に含有している、項9に記載の電極製造用転写シート。
項11.前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項9又は10に記載の電極製造用転写シート。
項12.前記カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有している、項9〜11のいずれかに記載の電極製造用転写シート。
項13.前記カーボン層は導電性繊維を更に含有している、項12に記載の電極製造用転写シート。
項14.前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項13に記載の電極製造用転写シート。
項15.項9〜14のいずれかに記載の燃料電池用電極製造用転写シートの製造方法であって、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層を形成する工程、
(3)カーボン層形成用ペースト組成物を発泡層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、発泡層上にカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
を備えた、燃料電池の電極製造用転写シートの製造方法。
項16.項9〜14のいずれかに記載の燃料電池用電極製造用転写シートの製造方法であって、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、更に該発泡層形成用ペースト組成物上にカーボン層形成用ペースト組成物を塗布する工程、
(3)塗布された発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層及びカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
を備えた、燃料電池の電極製造用転写シートの製造方法。
項17.項9〜14のいずれかに記載の電極製造用転写シートを使用して得られる膜−電極接合体。
項18.項17に記載の膜−電極接合体を備えた燃料電池。
【0016】
1.電極製造用転写シート
本発明の燃料電池の電極製造用転写シートは、基材上に、離型層、発泡層、カーボン層及び触媒層が順次形成されている。
【0017】
<基材>
基材としては、300℃における熱収縮率が0.5%以下、好ましくは0.1〜0.3%の高分子フィルムが使用される。基材の熱収縮率が0.5%より大きい場合には、基材が変形するために、焼成時での撥水層の形成時に撥水層自体の構造が大きく変化し、発電性能に悪影響を及ぼす。
【0018】
本発明で使用できる基材としては、具体的には、芳香族四塩基酸と芳香族ジアミンとの縮重合によって得られるポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製のカプトン)、ポリパラバン酸アラミドフィルム等が挙げられる。例えば、デュポン社製のカプトンHは、ピロメリット酸二無水物と、4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを有機溶媒中にて重合したものである。
【0019】
基材の厚みは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは10〜60μm程度とするのが好ましい。
【0020】
<離型層>
本発明の転写シートは、基材上に離型層が形成されている。離型層を形成させることにより、後述する触媒層、カーボン層及び発泡層を固体電解質膜上に容易に転写させることができる。
【0021】
離型層としては、例えば、公知のワックスから構成されたもの、フッ素系樹脂からなるもの、酸化珪素からなるもの等が挙げられる。なかでも、300℃程度の焼成にも耐えられる点から、酸化珪素からなる離型層が好ましい。
【0022】
酸化珪素は、一般的にSiOx(0≦x≦2)で表されるものである。本発明では、酸化珪素からなる離型層は、実質的に酸化珪素からなることが好ましい。
【0023】
離型層の厚みは限定的ではないが、通常2〜200nm程度、好ましくは5〜100nm程度とすればよい。この範囲とすることにより、離型層を均一に形成できる。
【0024】
<発泡層>及び<カーボン層>
本発明において、発泡層及びカーボン層は、電池反応時に生成する水の排水性を高め、ガス拡散層の抵抗値を低減し、良好な電池特性を発揮するために設けられる。特に、発泡層は排水性の向上に寄与する。
【0025】
本発明において、発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している。
【0026】
前記発泡層は、導電性繊維を更に含有しているのが好ましい。導電性繊維を更に含有させることにより、クラックの発生を抑制できる利点がある。
【0027】
導電性繊維の中でも、金属繊維を使用することにより、機械強度の向上、導電性の向上等が期待できる。また、金属繊維を配合することにより排水性の向上、保水性の向上等も期待できる。
【0028】
本発明において、カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有しているものが好ましい。
【0029】
前記カーボン層は、導電性繊維を更に含有しているのが好ましい。導電性繊維を更に含有させることにより、クラックの発生を抑制できる利点がある。
【0030】
導電性繊維の中でも、金属繊維を使用するのが好ましい。金属繊維を使用することにより、機械強度の向上、導電性の向上等が期待できる。また、金属繊維を配合することにより排水性の向上、保水性の向上等も期待できる。
【0031】
発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、気孔形成剤及びフッ素系樹脂を含む発泡層形成用ペースト組成物を基材上に塗布し、乾燥及び焼成することにより、形成される。
【0032】
カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含むカーボン層形成用ペースト組成物を発泡層上に塗布し、乾燥及び焼成することにより、形成される。
【0033】
本発明においては、発泡層及びカーボン層は、それらの気孔率が異なっており、発泡層の気孔率はカーボン層のそれよりも大きいのが本発明の特徴である。発泡層の気孔率は、発泡層形成用ペースト組成物中への気孔形成剤の添加量の増減により、自由に制御することができる。
【0034】
発泡層及びカーボン層の気孔率は、例えば、(株)島津製作所製の水銀ポロシメータによる水銀圧入法により測定することができる。発泡層の気孔率は、78%〜98%が好ましく、80%〜95%がより好ましい。カーボン層の気孔率は、45%〜75%が好ましく、50%〜75%がより好ましい。
【0035】
導電性炭素粒子
導電性炭素粒子は、導電性を有しているものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。導電性炭素粒子を配合することにより発泡層及びカーボン層に優れた導電性を付与することができる。
【0036】
導電性炭素粒子の算術平均粒子径は、通常5nm〜200nm程度、好ましくは20〜80nm程度である。この導電性炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0037】
熱硬化性樹脂
本発明において熱硬化性樹脂は特に限定されず、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラニン樹脂、シリコーン樹脂等を適宜選択できる。これらの樹脂は耐熱性、機械的強度、柔軟性等を考慮して用途に応じて選択されるが、例えば、機械的強度及び耐熱性の観点ではフェノール樹脂が好ましい。
【0038】
フッ素系樹脂
本発明で使用するフッ素系樹脂は、フッ素を含有し、重量平均分子量が10万〜1000万程度のポリマーであれば特に限定されない。フッ素系樹脂としては、公知又は市販のものを使用できる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。これらのフッ素系樹脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
このようなフッ素系樹脂を含有することにより、発泡層及びカーボン層に高い撥水性を付与できると共に、導電性炭素粒子等を基材表面により強固に結着できるため、優れた撥水性を長期に亘り維持させることができる。
【0040】
フッ素系樹脂の溶融粘度は380℃で10〜10Pa程度であり、融点は270〜327℃、平均粒子径は0.3〜30μm程度が好ましい。
【0041】
導電性繊維
導電性繊維としては、例えば、導電性炭素繊維、金属繊維、金属被覆合成繊維等が挙げられる。
【0042】
導電性炭素繊維としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、ワイヤーカップ、ワイヤーウォール等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、1種又は2種以上を使用することができる。導電性炭素繊維の平均繊維径は限定的でなく、50〜400nm、好ましくは100〜250nm程度とすればよい。導電性炭素繊維の平均繊維長も限定的でなく、5〜50μm、好ましくは10〜20μm程度とすればよい。導電性炭素繊維の平均アスペクト比は、10〜500程度である。なお、導電性炭素繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0043】
金属繊維としては、例えば、ステンレススチール、鉄、金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン等を細く、長く伸ばす伸線法、又は切削法により作製された繊維が使用でき、1種又は2種以上を使用することができる。特に、耐腐食性、強度等の面からステンレススチール等が好ましい。
【0044】
金属被覆合成繊維としては、例えばアクリル繊維に金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン等をコーティングした繊維等が挙げられる。
【0045】
金属繊維及び金属被覆合成繊維の平均繊維径は限定的でなく、5〜100μm程度であるのがよい。金属繊維及び金属被覆合成繊維の平均繊維径が5μm未満では三次元構造体の製造時に充填密度が過度になり空隙率の高い構造体が得られず、平均繊維径が100μmを越えると剛性が大きくなり過ぎ、電解質膜と一体化した際に電解質膜を損傷する惧れがある。金属繊維及び金属被覆合成繊維の平均繊維長も限定的でなく、5〜600μm程度、好ましくは10〜500μm程度とすればよい。金属繊維及び金属被覆合成繊維の平均アスペクト比は、1〜100程度であり、好ましくは3〜50程度である。
【0046】
金属繊維及び金属被覆合成繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0047】
これらのなかでも、金属繊維を含有することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性を一段と向上させることができる。また、クラックの発生が抑えられることで排水性及び保水性を一段と向上させることができる。
【0048】
また、金属繊維を含有させることにより、ペースト塗布表面でのクラック発生が抑えられることから、機械的強度に優れ、成形性及び加工性を一段と向上させることができる。
【0049】
本発明で形成される発泡層に含有される熱硬化性樹脂の量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。また、本発明で形成される発泡層に含有されるフッ素系樹脂の量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常1〜500重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜500重量部である。
【0050】
熱硬化性樹脂が多い場合は、熱硬化性樹脂に導電性が無いため、導電性の低下やガス拡散性の低下の惧れがあり、熱硬化性樹脂が少ない場合、機械的強度の低下や炭素繊維と炭素粒子等の結着性低下の惧れがある。
【0051】
フッ素系樹脂が多い場合は、フッ素樹脂が絶縁性材料のため導電性が低下し、また樹脂が細孔を埋めるためにガス拡散性の低下の惧れがある。一方、フッ素系樹脂が少ない場合には、触媒層で生成される生成水に対して十分な撥水性が得られない惧れがある。
【0052】
本発明で形成される発泡層には、導電性炭素繊維が含有されていてもよい。導電性炭素繊維の含有量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常0〜500重量部、好ましくは5〜350重量部、より好ましくは10〜200重量部である。
【0053】
本発明で形成される発泡層には、金属繊維又は金属被覆合成繊維が含有されてもいてもよい。金属繊維及び金属被覆合成繊維の含有量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常0〜100重量部、好ましくは3〜80重量部、より好ましくは5〜50重量部である。
【0054】
なお、本発明で形成される発泡層には、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維が上記の範囲内で混合されていてもよい。
【0055】
本発明で形成されるカーボン層に含有されるフッ素系樹脂の量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常1〜500重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜500重量部である。
【0056】
本発明で形成されるカーボン層には、導電性炭素繊維が含有されていてもよい。導電性炭素繊維の含有量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常0〜500重量部、好ましくは5〜350重量部、より好ましくは10〜200重量部である。
【0057】
本発明で形成されるカーボン層には、金属繊維又は金属被覆合成繊維が含有されてもいてもよい。金属繊維及び金属被覆合成繊維の含有量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、通常0〜50重量部、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは5〜15重量部である。
【0058】
なお、本発明で形成されるカーボン層には、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維が上記の範囲内で混合されていてもよい。また、本発明で形成されるカーボン層には、熱硬化性樹脂は含有されていない。
【0059】
発泡層及びカーボン層の厚みは、限定されるものではない。
【0060】
例えば、発泡層の厚みは、通常10〜300μm程度、好ましくは50〜200μm程度である。また、カーボン層の厚みは、通常1〜100μm程度、好ましくは10〜50μm程度である。
【0061】
発泡層は、膜−電極接合体とした場合に、最外層となるため、剛性が必要であり、且つ、ガス拡散性を向上させるために、厚み方向に厚さが必要となる。カーボン層は、燃料ガスの燃料電極への移動及び酸化剤ガスの酸化剤電極への移動、あるいは電極反応の際の酸化剤電極に生成される水の排出を容易にするため、発泡層よりも薄膜に形成されているのが好ましい。
【0062】
<触媒層>
本発明の転写シートは、基材上に離型層、発泡層及びカーボン層がこの順に形成され、更に該カーボン層の上に触媒層が形成されている。
【0063】
本発明の転写シートに触媒層を形成することで、一度のみの転写工程により、触媒層、カーボン層及び発泡層を固体高分子電解質膜に直接転写することができる。
【0064】
触媒層は、公知又は市販の白金含有の触媒層(カソード触媒又はアノード触媒)を使用することができる。具体的には、触媒層は、(1)触媒粒子を担持させた炭素粒子及び(2)水素イオン伝導性高分子電解質を含有する触媒層形成用ペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成されるものである。
【0065】
触媒粒子としては、例えば、白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄、コバルトから選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。
【0066】
また、水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。
【0067】
触媒層の厚みは限定的ではないが、通常1〜100μm程度、好ましくは2〜50μm程度とすればよい。
【0068】
なお、触媒層には、撥水剤として、フッ素樹脂や非ポリマー系フッ素材料であるフッ化ピッチ、フッ化カーボン、フッ化黒鉛等を添加することもできる。
【0069】
次に発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物について説明する。
【0070】
発泡層形成用ペースト組成物
本発明において、発泡層を形成するためのペースト組成物には、上記導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、気孔形成剤及びフッ素系樹脂が含まれている。
【0071】
発泡層形成用ペースト組成物は、導電性繊維を含有しているのが好ましい。導電性繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性を一段と向上させることができる。なかでも、金属繊維を配合することにより、機械強度の向上、導電性の向上等が期待できる。また、金属繊維を配合することにより排水性の向上、保水性の向上等も期待できる。
【0072】
発泡層形成用ペースト組成物には、更に、以下に示す分散剤及び溶剤が含有されているのがよい。
【0073】
気孔形成剤:
本発明において、発泡層形成用ペースト組成物に配合される気孔形成剤としては、加熱により発泡する加熱発泡剤及び昇華性を有する昇華性材料が好適に使用できる。
【0074】
加熱発泡剤としては80℃以上、特に120〜250℃程度の分解温度を有する化合物が好ましい。発泡剤の発生ガス量は限定的ではなく、通常50〜500ml/g程度、好ましくは200〜300ml/g程度である。平均粒径も限定的ではなく、通常、1〜50μm程度、好ましくは2〜5μm程度である。加熱発泡剤としては、上記分解温度を有する公知の有機系発泡剤、無機系発泡剤等を広く使用できる。
【0075】
有機系発泡剤としては、具体的には、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド (OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド (HDCA)が使用できる。中でも、低温発泡性を有するアゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド (OBSH)を使用することが好ましい。
【0076】
この場合、発泡剤の発泡温度を低下させるために、発泡助剤として、尿素系助剤を使用することができる。
【0077】
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムを使用することができる。
【0078】
また、昇華性材料としては、例えば、ナフタレン、ショウノウ等が好適に使用できる。
【0079】
このような発泡剤を用いることで、発泡層の気孔率を大きくすることができる。
【0080】
分散剤:
分散剤としては、例えば、水系分散剤等が好ましい。
【0081】
水系分散剤は、フッ素系樹脂及び水とともに使用されるものであり、フッ素系樹脂を水中で分散させることができるものである限り限定されず、公知又は市販のものが使用できる。例えば、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等が挙げられる。
【0082】
溶剤:
本発明で用いる溶剤としては特に限定されず、公知または市販のものを広く使用することができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の炭素数1〜4程度の1価ないし3価のアルコール等が好適に挙げられる。これらの溶媒は1種単独または2種以上混合して使用できる。
【0083】
前記ペースト組成物中の各成分の配合割合は上記成分を含有する限り限定的ではなく、例えば、導電性炭素粒子100重量部に対して、フッ素系樹脂1〜500重量部(好ましくは10〜500重量部)程度、導電性炭素繊維0〜500重量部(好ましくは5〜350重量部)、金属繊維及び金属被覆合成繊維0〜100重量部(好ましくは3〜80重量部)、熱硬化性樹脂0.1〜100(好ましくは0.5〜50重量部)、気孔形成剤1〜500重量部(好ましくは20〜200重量部)、溶剤50〜5000重量部(好ましくは500〜2500重量部)程度とすればよい。なお、分散剤を使用する場合には、その配合量は、導電性炭素粒子100重量部に対して5〜300重量部(好ましくは7〜200重量部)程度とすればよい。
【0084】
カーボン層形成用ペースト組成物
本発明において、カーボン層を形成するためのペースト組成物には、上記導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂が含まれていることが好ましい。
【0085】
カーボン層形成用ペースト組成物は、導電性繊維を含有しているのが好ましい。導電性繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性を一段と向上させることができる。なかでも、金属繊維を配合することにより、機械強度の向上、導電性の向上等が期待できる。また、金属繊維を配合することにより排水性の向上、保水性の向上等も期待できる。
【0086】
カーボン層形成用ペースト組成物には、更に、上記で説明した分散剤及び溶剤が含有されているのがよい。
【0087】
前記ペースト組成物中の各成分の配合割合は上記成分を含有する限り限定的ではなく、例えば、導電性炭素粒子100重量部に対して、フッ素系樹脂1〜500重量部(好ましくは10〜500重量部)程度、導電性炭素繊維0〜500重量部(好ましくは5〜350重量部)、金属繊維及び金属被覆合成繊維0〜50重量部(好ましくは3〜30重量部)、溶剤50〜5000重量部(好ましくは500〜2500重量部)程度とすればよい。なお、分散剤を使用する場合には、その配合量は、導電性炭素粒子100重量部に対して5〜300重量部(好ましくは7〜200重量部)程度とすればよい。
【0088】
2.電極製造用転写シートの製造方法
<離型層の形成>
本発明の転写シートは、基材上に離型層が形成されているものである。
【0089】
基材に酸化珪素からなる離型層を形成する方法を例にとり、以下に説明する。
【0090】
基材に酸化珪素からなる離型層を形成する方法は特に限定されるものではなく、常法に従って行えばよい。例えば、物理気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)、ゾルゲル法、塗工による方法等が挙げられる。
【0091】
物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0092】
化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、レーザーCVD法等が挙げられる。
【0093】
本発明では、化学気相成長法、特にプラズマCVD法が好ましい。
【0094】
プラズマCVD法を行う場合の方法の条件の一例を以下に述べる。
【0095】
原料としては、酸化珪素の薄膜を製造できるものであれば限定的でないが、本発明では、特に有機珪素化合物等が好ましい。
【0096】
このような有機珪素化合物としては、例えば、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0097】
更に、必要に応じて、キャリアーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス等;供給ガスとして酸素等を混合してもよい。これら有機珪素化合物、キャリアーガス及び供給ガスを含有する混合ガスを使用する際、これらの混合ガス中での有機珪素化合物の含有量は1〜40%程度、酸素ガスの含有量は10〜70%程度、不活性ガスの含有量は10〜60%程度の範囲とすればよい。
【0098】
装置としては、巻き取り式プラズマCVD装置等を使用することができる。
【0099】
離型層形成時の真空チャンバー内の真空度は限定的ではないが、通常1×10−8〜1×10−1Torr、好ましくは1×10−7〜1×10−1Torr程度とすればよい。また、基材の搬送速度は、10〜500m/分、特に40〜350m/分とすればよい。
【0100】
<発泡層及びカーボン層の形成>
本発明の転写シートは、基材上に形成された離型層上に発泡層が形成されている。発泡層は、発泡層形成用ペースト組成物を、基材上の離型層表面に塗工し、次いで乾燥及び焼成を行う工程を経ることにより得られる。これにより発泡層に高い撥水性を発現させることができ、生成水による細孔の閉塞を防ぐことができる。
【0101】
基材、発泡層及び発泡層形成用ペースト組成物については、上述した通りである。
【0102】
発泡層を離型層上に形成させる際の塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えばナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0103】
発泡層を離型層上に形成させる際のペースト組成物の塗工量は、特に制限されないが、固形分換算で、通常5〜500g/m程度、好ましくは10〜300g/m程度とすればよい。
【0104】
発泡層を離型層上に形成させる際の乾燥温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、50〜150℃程度、好ましくは90〜130℃程度に加熱することにより行えばよい。
【0105】
発泡層を離型層上に形成させる際の乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定されるが、通常10〜30分程度とすればよい。
【0106】
さらに、本発明の転写シートは、基材上の離型層上に形成された発泡層上にカーボン層が形成されている。カーボン層は、カーボン層形成用ペースト組成物を発泡層表面に塗工し、次いで乾燥及び焼成を行う工程を経ることにより得られる。これによりカーボン層に高い撥水性を発現させることができ、生成水による細孔の閉塞を防ぐことができる。
【0107】
カーボン層及びカーボン層形成用ペースト組成物については、上述した通りである。
【0108】
カーボン層を発泡層上に形成させる際の塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えばナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0109】
カーボン層を発泡層上に形成させる際の塗工量は、特に制限されないが、固形分換算で、通常5〜100g/m程度、好ましくは10〜50g/m程度とすればよい。
【0110】
カーボン層を発泡層上に形成させる際の乾燥温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、50〜150℃程度、好ましくは90〜130℃程度に加熱することにより行えばよい。
【0111】
カーボン層を発泡層上に形成させる際の乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定されるが、通常10〜30分程度とすればよい。
【0112】
なお、本発明では、発泡層及びカーボン層を形成する際に、焼成を施すタイミングは特に限定がなく、例えば、
1.発泡層を塗布・乾燥した後に焼成発泡し、その後、カーボン層を塗布して焼成する
2.発泡層を塗布・乾燥した上にカーボン層を塗布・乾燥し、その後焼成する
のいずれの順序で行ってもよい。
【0113】
1.の方法を採用する際、発泡層を焼成発泡させる際の焼成温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、200〜400℃程度、好ましくは260〜350℃程度とすればよい。
【0114】
発泡層を離型層上に形成させる際の焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定されるが、通常10〜150分程度、好ましくは30〜120分程度とすればよい。
【0115】
また、カーボン層を塗布した後に焼成する際の温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、200〜400℃程度、好ましくは260〜350℃程度とすればよい。
【0116】
カーボン層を発泡層上に形成させる際の焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定されるが、通常10〜150分程度、好ましくは30〜120分程度とすればよい。
【0117】
上記で説明した電極製造用転写シートの製造方法は、特に気孔形成剤が昇華性材料である場合に好ましい方法である。
【0118】
一方、気孔形成剤が加熱発泡剤である場合には、2.の方法を採用するのが好ましい。
【0119】
2.の方法を採用する際には、一度に発泡層及びカーボン層に含まれるフッ素系樹脂を熱融着させ、発泡層及びカーボン層に優れた撥水性を付与すると共に、バインダー樹脂としての役割を発揮できるようになる。
【0120】
この際の焼成温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、200〜400℃程度、好ましくは260〜350℃程度とすればよい。
【0121】
焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定されるが、通常10〜150分程度、好ましくは30〜120分程度とすればよい。
【0122】
<触媒層の形成>
上記の方法で、基材上に離型層、発泡層及びカーボン層を形成した後、公知の触媒層形成用のペースト組成物を、カーボン層表面に塗工し、次いで乾燥工程を経ることにより、溶剤を除去し、触媒層を形成することができる。
【0123】
触媒層をカーボン層上に形成させる際の塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えばナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0124】
触媒層をカーボン層上に形成させる際の塗工量は、特に制限されないが、固形分換算で、通常2〜20g/m程度、好ましくは5〜17g/m程度とすればよい。
【0125】
触媒層をカーボン層上に形成させる際の乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて、30〜120℃程度、好ましくは50〜100℃程度に処理することにより行えばよい。
【0126】
触媒層をカーボン層上に形成させる際の乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定されるが、通常10〜30分程度とすればよい。
【0127】
なお、具体的には、1.の方法を採用する場合には、例えば、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層を形成する工程、
(3)カーボン層形成用ペースト組成物を発泡層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、発泡層上にカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
により本発明の電極製造用転写シートを製造でき、2.の方法を採用する場合には、例えば、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、更に該発泡層形成用ペースト組成物上にカーボン層形成用ペースト組成物を塗布する工程、
(3)塗布された発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層及びカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
により本発明の電極製造用転写シートを製造できる。
【0128】
3.膜−電極接合体
本発明の膜−電極接合体は、発泡層/カーボン層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/カーボン層/発泡層で構成される燃料電池用の膜−電極接合体であって、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有するものである。この本発明の膜−電極接合体は、固体高分子電解質膜の片面又は両面に、本発明の転写シートを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層、カーボン層及び発泡層を転写することにより得られるものである。
【0129】
本発明の膜−電極接合体は、公知又は市販されているカーボンペーパ、カーボンクロス、カーボンフェルト等から構成されてなるガス拡散基材を用いていない。
【0130】
<電解質膜>
電解質膜は、公知又は市販のものを使用することができるが、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することによっても製造することができる。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。
【0131】
また、炭化水素系電解質イオン伝導性高分子電解質として、アルドリッチ社のスルホン化(ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ランダム−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン)等も使用できる。
【0132】
液状物質を含浸させたイオン伝導性高分子電解質膜も使用することができる。この液状物質を含浸させたイオン伝導性高分子電解質膜としては、特に制限されるわけではなく、水素イオン伝導性のものであればよく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、多孔質高分子基材フィルムにリン酸を含浸させた膜を挙げることができる。このような液状物質を含浸させたイオン伝導性電解質膜の具体例としては、例えば、BASF社製の「Celtec P」等が挙げられる。
【0133】
水酸基イオンを伝導するものとして、炭化水素系及びフッ素樹脂系のいずれかの高分子電解質膜も用いることができる。本発明に用いるアニオン高分子電解質膜は高濃度のアルカリ水溶液を用いた場合は、耐高濃度アルカリ性のフッ素樹脂系高分子電解質膜を使用することが好ましく、低濃度もしくはアルカリ水溶液を用いない場合は、コスト面からも炭化水素系が好ましい。これらの選択はシステムにより適宜最適化される。
【0134】
本発明で使用できる炭化水素系のアニオン高分子電解質膜としては、旭化成(株)製のアシプレックス(登録商標)A−201、211、221等、トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1、AHA等、フッ素樹脂系のアニオン交換膜としては、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等がある。
【0135】
固体高分子電解質含有溶液中に含まれる固体高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、電解質膜の厚みは通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0136】
また、固体高分子電解質膜は、水の吸収・放出に伴い、寸法形状が変化し、膨張収縮することが知られており、燃料電池を運転する温度及び湿度により、0〜10%程度寸法が変化する。
【0137】
4.膜−電極接合体の製造方法
本発明の膜−電極接合体は、二枚の転写シートを用い、これら転写シートの触媒層を固体高分子電解質膜を挟んで触媒層面が対面するように配置し、ホットプレス等の熱プレス処理をすることにより、製造することができる。なお、この熱プレス処理には、各種のプレス機を用いることができる。
【0138】
転写する際には、転写フィルムの転写基材側から、公知のプレス機等を用いて加圧すればよい。その際の加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜10MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常80〜200℃程度、好ましくは135〜150℃程度とすればよい。
【0139】
また、プレス時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、通常10〜240秒程度、好ましくは30〜150秒程度とすればよい。
【0140】
転写後、基材を発泡層から剥離することで、本発明の膜−電極接合体を得ることができる。
【0141】
基材と発泡層との間に離型層を設けておくことにより、基材を発泡層から容易に剥離することができる。
【0142】
5.固体高分子形燃料電池
本発明の膜−電極接合体に公知又は市販のセパレータを設けることにより、本発明の膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0143】
本発明の転写シートを使用することにより、電解質膜上に触媒層と所望のガス拡散層とを容易に形成でき、本発明の課題とする所望の膜−電極接合体を製造することができる。
【0144】
本発明の膜−電極接合体は、発泡層及びカーボン層中の細孔の閉塞を軽減できるため、ガス透過性・拡散性を劣化させず、優れたガス透過性、拡散性及び排水性を長期間に亘って安定的に維持することができる。
【0145】
本発明の膜−電極接合体は、優れた剛性を有し、耐久性の点で格段に優れているので、本発明の膜−電極接合体を備えた燃料電池の電池性能を長期に亘って安定的に発現させることができる。
【0146】
本発明の転写シートによれば、基材上に均一かつ精度良く発泡層及びカーボン層を形成することができるため、膜厚制御に優れ、一度の転写工程で膜−電極接合体を生産できる。
【0147】
また、従来の方法で膜−電極接合体を製造する際に3回の焼成工程を必要としていたが、本発明では転写シートを製造する際の焼成工程1回だけで済み、焼成に要するエネルギーロスを大幅に削減できる。
【0148】
それ故、本発明の膜−電極接合体の生産性に優れた工業的に有利な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】図1は、本発明の電極製造用転写シートの一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の膜−電極接合体の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、実施例1、12、17及び比較例2のカーボン層の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0150】
以下に実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0151】
実施例及び比較例では、以下の材料を使用した。
【0152】
<材料>
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンxc72R:キャボット社製)、重量平均分子量1000〜3000
導電性炭素繊維:VGCF(登録商標)(標準品)(昭和電工(株)製)、平均繊維径150nm、平均繊維長10〜20μm、平均アスペクト比10〜500
金属繊維:ステンレススチールファイバー(X−SMF530AE−EP、JFEテクノリサーチ(株)製)、平均繊維径10〜15μm、平均繊維長50〜500μm、平均アスペクト比3.3〜50、アスペクト比30以下のものの割合は全体の80重量%、嵩密度0.95〜1.15g/cm
非ポリマー系フッ素材料:フッ化ピッチ(オグソール FP−S:大阪ガス(株)製)、重量平均分子量3000程度、平均粒子径1.2〜30μm程度
フッ素系樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW−410:固形分40重量%:ダイキン工業(株)製)
分散剤:ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110:花王(株)製)
熱硬化性樹脂:PR50781(登録商標)(住友ベークライト(株)製)
加熱発泡剤:セルマイク−C2(登録商標)(三協化成(株)製)、分解温度:204℃、発生ガス量:270ml/g、平均粒子径3〜5μm)
発泡助剤:セルトンNP(三協化成(株)製)
昇華性材料:ナフタレン(C10)(キシダ化学(株)製、分子量128)
白金触媒担持炭素粒子:(TEC10E50E:田中貴金属工業(株)製)
イオン伝導性高分子電解質膜溶液:Nafion5wt%溶液(DE−520CS:デュポン社製)
【0153】
実施例1
まず、離型層付きポリイミドフィルムを、以下のように作製した。
【0154】
離型層の形成は、基材としてポリイミドフィルム(カプトンHタイプ:東レ・デュポン(株)製、熱収縮率:300℃で0.1〜0.3%、膜厚:25μm)を用い、以下の条件で、プラズマCVD法にて、基材の一方面に酸化珪素を含む離型層(厚み:40nm)を形成した。
【0155】
成膜機器:巻き取り式プラズマCVD装置
成膜圧力:3.0×10−2mBar
導入ガス:ヘキサメチルジシロキサン:アルゴン:酸素=0.9:0.9:3.0(単位:slm)
印加電力:AC40kHz、8kW
搬送速度:40m/分
真空チャンバー内の真空度:1.5〜4.5×10−6Torr
蒸着チャンバー内の真空度:1.5〜3.75×10−6Torr
【0156】
得られた離型層積層基材表面の離型層は、SiOx(x=0.8〜1.2)からなり、油性ペンで文字を書くことができない(塗工性に悪影響を与えない)程度の撥水性を有していた。
【0157】
次に、導電性炭素粒子20重量部、導電性炭素繊維35重量部、PTFE100重量部、分散剤25重量部、加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部、熱硬化性樹脂6重量部及び水485重量部をプラネタリーミキサーにて60分攪拌し、発泡層形成用ペースト組成物を調製した。
【0158】
次に、発泡層形成用ペースト組成物を、上記で作製した厚み40nmの酸化珪素からなる離型層が形成された25μmのポリイミドフィルム上に発泡層が形成されるようにアプリケーターにより、ペースト組成物の塗工量が40g/mとなるように塗布し、95℃程度で15分乾燥させた。なお、乾燥により形成された発泡層の厚さは40μmであった。
【0159】
次に、導電性炭素粒子23重量部、導電性炭素繊維7重量部、PTFE70重量部、分散剤25重量部及び水485重量部をホモジナイザにて60分攪拌し、カーボン層形成用ペースト組成物を調製した。
【0160】
次に、カーボン層形成用ペースト組成物を、上記でポリイミドフィルムに形成した発泡層に、カーボン層が形成されるようにアプリケーターにより、ペースト組成物の塗布量が50g/mになるように塗布し、95℃程度で15分乾燥させた。なお、乾燥により形成されたカーボン層の厚さは50μm程度になるように調節した。
【0161】
上記発泡層とカーボン層とを形成後、300℃程度で2時間焼成した。この焼成で、加熱発泡剤による発泡が完了した。発泡完了後の発泡層の厚さは200μmであった。
【0162】
次に、白金触媒担持炭素粒子4g、イオン伝導性高分子電解質膜溶液40g、蒸留水12g、n−ブタノール50g及びt−ブタノール50gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード及びカソードの触媒層形成用ペースト組成物を得た。
【0163】
上記で作製したカーボン層上にアプリケーターを使用して触媒層形成用ペースト組成物を塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、実施例1の転写シートを製造した。この時のアノード及びカソード触媒層の厚さをマイクロメータ(ミツトヨ社製、デジマチック標準外側マイクロメータ)にて測定したところ、アノード触媒層の厚さ及びカソード触媒層の厚さは共に20μmであった。
【0164】
実施例2
発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を塗工する際、発泡層形成用ペースト組成物の塗工量を40g/mとし、カーボン層形成用ペースト組成物の塗工量を10g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の転写シートを作製した。このときの膜厚は、発泡層が200μm、カーボン層が10μmであった。
【0165】
実施例3
発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を塗工する際、発泡層形成用ペースト組成物の塗工量を10g/mとし、カーボン層形成用ペースト組成物の塗工量を50g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の転写シートを作製した。このときの膜厚は、発泡層が50μm、カーボン層が51μmであった。
【0166】
実施例4
発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を塗工する際、発泡層形成用ペースト組成物の塗工量を10g/mとし、カーボン層形成用ペースト組成物の塗工量を10g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の転写シートを作製した。このときの膜厚は、発泡層が51μm、カーボン層が10μmであった。
【0167】
実施例5
発泡層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例5の転写シート(発泡層には導電性炭素繊維を含まないが、カーボン層には導電性炭素繊維を含む。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0168】
実施例6
カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例6の転写シート(発泡層には導電性炭素繊維を含むがカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0169】
実施例7
発泡層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維及び、カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例7の転写シート(発泡層及びカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0170】
実施例8
発泡層形成用ペースト組成物に含まれる加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部の代わりに、昇華性材料4重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例8の転写シートを作成した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0171】
実施例9
発泡層形成用ペースト組成物に加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部の代わりに、昇華性材料4重量部を用い、さらに、発泡層形成用ペーストに含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例9の転写シート(発泡層には導電性炭素繊維を含まないが、カーボン層には導電性炭素繊維を含む。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0172】
実施例10
発泡層形成用ペースト組成物に加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部の代わりに、昇華性材料4重量部を用い、さらに、カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例10の転写シート(発泡層には導電性炭素繊維を含むがカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0173】
実施例11
発泡層形成用ペースト組成物に加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部の代わりに、昇華性材料4重量部を用い、さらに、発泡層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維及び、カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例1と同様にして実施例11の転写シート(発泡層及びカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0174】
実施例12
導電性炭素粒子20重量部、導電性炭素繊維35重量部、金属繊維10重量部、PTFE100重量部、分散剤25重量部、加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部、熱硬化性樹脂6重量部及び水485重量部をプラネタリーミキサーにて60分攪拌し、発泡層形成用ペースト組成物を調製した。
【0175】
次に、発泡層形成用ペースト組成物を、実施例1で作製した厚み40nmの酸化珪素からなる離型層が形成された25μmのポリイミドフィルム上に発泡層が形成されるようにアプリケーターにより、ペースト組成物の塗工量が40g/mとなるように塗布し、95℃程度で15分乾燥させた。なお、乾燥により形成された発泡層の厚さは40μmであった。
【0176】
次に、導電性炭素粒子23重量部、導電性炭素繊維7重量部、金属繊維3重量部、PTFE70重量部、分散剤25重量部及び水485重量部をホモジナイザにて60分攪拌し、カーボン層形成用ペースト組成物を調製した。
【0177】
次に、カーボン層形成用ペースト組成物を、上記でポリイミドフィルムに形成した発泡層に、カーボン層が形成されるようにアプリケーターにより、ペースト組成物の塗布量が50g/mになるように塗布し、95℃程度で15分乾燥させた。なお、乾燥により形成されたカーボン層の厚さは50μm程度になるように調節した。
【0178】
上記発泡層とカーボン層とを形成後、300℃程度で2時間焼成した。この焼成で、加熱発泡剤による発泡が完了した。発泡完了後の発泡層の厚さは200μmであった。
【0179】
次に、白金触媒担持炭素粒子4g、イオン伝導性高分子電解質膜溶液40g、蒸留水12g、n−ブタノール50g及びt−ブタノール50gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード及びカソードの触媒層形成用ペースト組成物を得た。
【0180】
上記で作製したカーボン層上にアプリケーターを使用して触媒層形成用ペースト組成物を塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、実施例1の転写シートを製造した。この時のアノード及びカソード触媒層の厚さをマイクロメータ(ミツトヨ社製、デジマチック標準外側マイクロメータ)にて測定したところ、アノード触媒層の厚さ及びカソード触媒層の厚さは共に20μmであった。
【0181】
実施例13
実施例12の発泡層形成用ペースト組成物に含まれる加熱発泡剤4重量部、発泡助剤1重量部の代わりに昇華性材料4重量部とする以外は実施例12と同様にして発泡層形成用ペースト組成物を調製した。ポリイミドフィルム(カプトンHタイプ:東レ・デュポン(株)製、熱収縮率:300℃で0.1〜0.3%、膜厚:25μm)上に、アプリケーターにより、発泡層形成用ペースト組成物の塗工量が20g/mとなるように塗布し、更に発泡層形成用ペースト組成物上に実施例12で調製したカーボン層形成用ペースト組成物を塗工量が50g/mとなるように塗布した。
【0182】
次に、発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物が塗布されたポリイミドフィルムを300℃程度で2時間焼成した。この焼成で、加熱発泡剤による発泡が完了し、実施例13の転写シートを作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0183】
実施例14
実施例12のカーボン層形成用ペースト組成物に含まれる金属繊維を添加しない以外は、実施例12と同様にして実施例14の転写シート(発泡層には金属繊維を含むがカーボン層には金属繊維を含まない。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0184】
実施例15
実施例12の発泡層形成用ペースト組成物に含まれる金属繊維を添加しない以外は、実施例12と同様にして実施例15の転写シート(発泡層には金属繊維を含まないが、カーボン層には金属繊維を含む。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0185】
実施例16
実施例12の発泡層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維及び、カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維及び金属繊維を添加しない以外は、実施例12と同様にして実施例16の転写シート(発泡層及びカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。発泡層には金属繊維を含む。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0186】
実施例17
実施例12の発泡層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維及び金属繊維、カーボン層形成用ペースト組成物に含まれる導電性炭素繊維を添加しない以外は、実施例12と同様にして実施例17の転写シート(発泡層及びカーボン層には導電性炭素繊維を含まない。カーボン層には金属繊維を含む。)を作製した。この時の膜厚は発泡層が200μm、カーボン層が50μmであった。
【0187】
比較例1
ガス拡散基材として市販品のカーボンペーパ(TGP−H−030、東レ社製、110μm)を用い、実施例1で作製した触媒層形成用ペースト組成物を、カーボンペーパ上に塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、比較例1の電極を形成した。
【0188】
比較例2
ガス拡散基材として市販品の撥水処理済カーボンペーパ(TGP−H−030、東レ社製、110μm)を用いた。予め、導電性炭素粒子20重量部及びPTFEディスパージョン((商品名L170J、旭硝子社製)35重量部をホモジナイザで60分攪拌してカーボン層形成用ペーストAを調製した。
【0189】
次いで該ペーストAをカーボンペーパ上に50g/mとなるように塗布し、95℃で15分間乾燥した。この時のカーボン層の膜厚は51μmであった。
【0190】
次いで、実施例1で作製した触媒層形成用ペースト組成物を、カーボン層上に塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、比較例2の電極を形成した。
【0191】
比較例3
ガス拡散基材として市販品の撥水処理済カーボンペーパ(TGP−H−030、東レ社製、110μm)を用いた。予め、導電性炭素粒子20重量部及びPTFEディスパージョン(商品名L170J、旭硝子社製)35重量部をホモジナイザで60分攪拌してカーボン層形成用ペーストAを調製した。
【0192】
次いで該ペーストAを第1のカーボン層としてカーボンペーパ上に50g/mとなるように塗布し、95℃で15分間乾燥した。この時のカーボン層の膜厚は51μmであった。
【0193】
次いで、粉砕することにより粒径を3μmにした導電性炭素粒子20重量部及びPTFEディスパージョン(商品名L170J、旭硝子社製)35重量部をホモジナイザで60分攪拌してカーボン層形成用ペーストBを調製した。
【0194】
次いで該ペーストBをカーボンペーパに形成した第1のカーボン層上に50g/mとなるように塗布し、95℃で15分間乾燥した。この時の第2のカーボン層の膜厚は50μmであった。
【0195】
次いで、実施例1で作製した触媒層形成用ペースト組成物を、第2のカーボン層上に塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、比較例3の電極を形成した。
【0196】
実施例1〜17の転写シートにおける導電性多孔質層(発泡層及びカーボン層)の膜厚(μm)及び比較例1〜3で作製した電極の膜厚(μm)を、マイクロメータ((株)ミツトヨ製、デジマチック標準外側マイクロメータ)により測定した。結果を表1及び2に示す。
【0197】
【表1】

【0198】
【表2】

【0199】
実施例18
<膜−電極接合体の作製>
実施例1〜17の転写シートをプロトン伝導性電解質膜(デュポン社製「NRS−212CS」)の両面に、それぞれ電解質膜と触媒層とが対向するように配置し、6MPa、150℃の条件で120秒ホットプレスすることで一体化を行った。基材(ポリイミドフィルム)を剥離層と共に剥がすことにより、実施例1〜17の膜−電極接合体を作製した。
【0200】
同様に比較例1〜3で作製した電極をプロトン伝導性電解質膜(デュポン社製「NRS−212CS」)の両面に、それぞれ電解質膜と触媒層が対向するように配置し、6MPa、150℃の条件で120秒ホットプレスすることで一体化を行ない、比較例1〜3の膜−電極接合体を作製した。
【0201】
<燃料電池の製造>
上記で作製した実施例1〜17及び比較例1〜3の膜−電極接合体を燃料電池セルに組み込むことにより、実施例1〜17及び比較例1〜3の固体高分子形燃料電池を製造した。
【0202】
<評価>
上記の膜−電極接合体を使用しての電池性能評価を、以下の条件により行った。
【0203】
セル温度:80℃
加湿温度:カソード65℃、アノード65℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
【0204】
負荷電流を1.25〜25Aまで変動させた時のセル電圧値の測定を行い、下記表3には、ガス拡散の影響がより顕著である1000mA/cmの結果を示した。
【0205】
また、実施例1、実施例12、実施例17及び比較例2のカーボン層の表面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用い、倍率300倍にて表面観察を行った。結果を図3に示す。
【0206】
【表3】

【0207】
比較例1の膜−電極接合体は、カーボン層が無いため、排水性及び保湿性に乏しく、電池性能が悪い結果となった。比較例2の膜−電極接合体は、カーボン層を形成することで比較例1の膜−電極接合体と比較して電池性能向上が見られるが、排水性が不十分な結果となった。比較例2は特に、表面写真から、カーボン層に多数のクラックが見られ、保水性も不十分であることが判った。比較例3の膜−電極接合体は、カーボン層が二層となりかつ、実施例1〜17の膜−電極接合体に比べ膜厚が厚いため、排水性はある程度解消されたものの、拡散性が落ちる結果となり電池性能は不十分であった。
【0208】
一方、比較例1〜3の膜−電極接合体に比べ実施例1〜17の膜−電極接合体では、総じて高い電池性能が得られた。また、実施例1、実施例12及び実施例17の表面写真を比較例2と比較した結果、カーボン層に導電性繊維を添加することで、クラックが劇的に改善されており、保水性が向上していることが示唆される。また、クラックが改善されていることから、カーボン層の強度が向上し、長時間の運転にも耐えることができると考えられる。
【0209】
以上から、発泡層を形成することで、拡散性に優れた薄層を形成することができ、ガス透過性及び拡散性が向上したため、生成水によるフラッディングを防止することができた。
【0210】
また、発泡層に熱硬化性樹脂を配合したことにより、薄くても剛性が高くなり、発泡層にカーボン層、触媒層を一体形成することで、よりハンドリングに優れた電極を提供することが可能となった。以上の結果から、電池性能向上には、塗工ムラの少ない発泡層及びカーボン層を転写基材と触媒層間に形成させた転写フィルムから製造した膜−電極接合体は、生産性に優れ、かつ排水性、保水性、ガス拡散性及び強度に優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層/カーボン層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/カーボン層/発泡層で構成される燃料電池用の膜−電極接合体であって、
前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、
膜−電極接合体。
【請求項2】
前記発泡層は導電性繊維を更に含有している、請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項3】
前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の膜−電極接合体。
【請求項4】
前記カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有している、請求項1〜3のいずれかに記載の膜−電極接合体。
【請求項5】
前記カーボン層は導電性繊維を更に含有している、請求項4に記載の膜−電極接合体。
【請求項6】
前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の膜−電極接合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法であって、
(A)基材上に、離型層、発泡層、カーボン層及び触媒層が順次形成され、前記基材は、300℃における熱収縮率が0.5%以下の高分子フィルムであり、前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、燃料電池の電極製造用転写シートの触媒層面を、イオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に触媒層が電解質膜を挟んで対面するように配置する工程、
(B)熱プレスにより、電極製造用転写シートとイオン伝導性固体高分子電解質膜とを接合する工程、
(C)電極製造用転写シートの基材を剥離する工程、
を備えた、膜−電極接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体を備えた燃料電池。
【請求項9】
基材上に、離型層、発泡層、カーボン層及び触媒層が順次形成された燃料電池の電極製造用転写シートであって、
前記基材は、300℃における熱収縮率が0.5%以下の高分子フィルムであり、
前記発泡層は、導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂及びフッ素系樹脂を含有している、
電極製造用転写シート。
【請求項10】
前記発泡層は導電性繊維を更に含有している、請求項9に記載の電極製造用転写シート。
【請求項11】
前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9又は10に記載の電極製造用転写シート。
【請求項12】
前記カーボン層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含有している、請求項9〜11のいずれかに記載の電極製造用転写シート。
【請求項13】
前記カーボン層は導電性繊維を更に含有している、請求項12に記載の電極製造用転写シート。
【請求項14】
前記導電性繊維は、導電性炭素繊維、金属繊維及び金属被覆合成繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項13に記載の電極製造用転写シート。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載の燃料電池用電極製造用転写シートの製造方法であって、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層を形成する工程、
(3)カーボン層形成用ペースト組成物を発泡層上に塗布し、乾燥し、焼成することにより、発泡層上にカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
を備えた、燃料電池の電極製造用転写シートの製造方法。
【請求項16】
請求項9〜14のいずれかに記載の燃料電池用電極製造用転写シートの製造方法であって、
(1)基材上に離型層を形成する工程、
(2)導電性炭素粒子、熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂、気孔形成剤及び溶剤を含有する発泡層形成用ペースト組成物を離型層上に塗布し、更に該発泡層形成用ペースト組成物上にカーボン層形成用ペースト組成物を塗布する工程、
(3)塗布された発泡層形成用ペースト組成物及びカーボン層形成用ペースト組成物を乾燥し、焼成することにより、離型層上に発泡層及びカーボン層を形成する工程、並びに
(4)触媒層形成用ペースト組成物をカーボン層上に塗布し、乾燥することにより、カーボン層上に触媒層を形成する工程
を備えた、燃料電池の電極製造用転写シートの製造方法。
【請求項17】
請求項9〜14のいずれかに記載の電極製造用転写シートを使用して得られる膜−電極接合体。
【請求項18】
請求項17に記載の膜−電極接合体を備えた燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−251290(P2010−251290A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226758(P2009−226758)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】