説明

燃料電池または燃料電池技術に基づいたリアクター用プロトン伝導性膜

プロトンを膜の片側からもう一方の側に通過させることができる薄いガラスプレートから成る、燃料電池技術に基づいた燃料電池またはリアクター用のプロトン伝導性膜(13)。そのような膜はDMFC電池で一般的な反応体による影響を受けず、およびプロトン/ヒドロキソニウム・イオン以外のイオンの通過をさせず、および導電性がない。ガラスは普通のソーダ石灰ガラスであり、および塩化銀によってドープされたものである。さらに、燃料電池またはリアクターの陽極反応および陰極反応の一つを行うために必須の触媒が、膜の片側のガラス表面に融合されることが可能であり、およびもう一方の反応を行うために必須の触媒が、膜のもう一方の側のガラス表面に融合されることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池または燃料電池技術に基づいたリアクター用プロトン伝導性膜に関する。
【0002】
本文によって意味されるプロトン伝導性膜とは、その片側でプロトン/ヒドロキソニウム・イオンを受容し、および、もう一方の側で適合する数のプロトンを開放する能力を有する膜を意味する。一つのプロトンが片側から膜に入ると、他の一つがもう一方の側から押し出される。膜はさらに、他方向へ電子を通過、およびH+/H3O+以外の望ましくないイオンの通過をさせない
【0003】
さらに本文によって理解されるDMFCは、液体エタノールによって駆動される燃料電池(直接メタノール燃料電池)であり、燃料セルは陽極および陽極反応のための触媒を有する陽極側、陰極および陰極反応のための触媒を有する陰極側と、また、陽極側と陰極側を互いに分ける中間膜から構成される。
【背景技術】
【0004】
直接メタノールによって作動される燃料電池は、例として、http://www.wpi.edu/Pubs/ETD/Available/etd-051205- 151955/unrestricted/A.Hacquard.pdf.にて刊行された、Alexandre Hacquardによる『直接メタノール型燃料電池(DMFC)性能の改良と理解(ワーチェスター工芸研究所の教授に提出された論文)』などに既知である。達成できる利点のうち言及されうるものは、燃料が液体で、それゆえ迅速な燃料供給が可能であること、コンパクト設計が可能な燃料電池、および低コストで生成が可能なメタノールの両点、および燃料電池は非常に異なる安定した、または携帯用/移動式用途のため設計されることが可能であるという点である。DMFC型の燃料電池はさらに、水および二酸化炭素のみを放出し、硫黄または窒素の酸化物は形成されない、環境に優しいものである。
【0005】
上記の発表では、開示された燃料電池の陽極と陰極はグラファイトから構成され、および両者とも、陽極には液体メタノール‐水混合物の供給のために、および陰極には純酸素または大気中の酸素の供給のために、それぞれの片方の面に通路装置またはその同等のものが備わる。陽極と陰極の間にはプロトン伝導性膜が、膜と陽極と陰極の間にはそれぞれ、ガス拡散層と呼ばれるものがある。さらに、陽極側のガス拡散層または膜はPtおよびRuの触媒を、および陰極側のものはPt単体の触媒を運ぶ。ガス拡散層は炭素布またはカーボン紙から成る。陽極側では、ガス拡散層は陽極触媒でメタノールの酸化の結合によって形成されたCO2を受容し、およびCO2バブルが形成される上端面まで拡散させることができる。陰極側では、供給された酸素ガスがガス拡散層を通過し、および水を形成するため、電子および膜を通過するプロトンと反応する。直接メタノールによって駆動される他の燃料電池用の膜と同様に、本文中の膜はPTFE型のスルホン酸ポリマー、NafionTMから成る。触媒はガス拡散層または膜に、有機溶剤のインク、細かい粉の触媒粒子とNafionTMの溶液の形状で塗布され、その後、溶液は蒸発されることが可能である。基本的に、膜への陽子の効果的な搬送にNafionTMのネットワークを有するということがいえる。従って、準備されたガス拡散層はさらに、電極として使用される。
【0006】
しかしながら、NafionTMは好ましいメタノール抵抗を有していないが、2M(約6%)メタノールへ暴露されると溶解が始まる。既知のDMFC型燃料電池はさらに、陽極でのメタノールの電気化学的酸化が遅いことにより出力密度が非常に低く、およびメタノールは酸化される陰極にPEM膜(ポリマー電解質膜)を通って移動することが可能である。これは結果として、燃料の損失だけでなく、陰極で使用される白金触媒が効率を下げる要因となる酸化炭素によって汚染されることも引き起こす。反応の複雑性によって、満足のいく生産性を達成するのが難しくなる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、DMFC電池の反応体による影響のない、およびプロトン/ヒドロキソニウム・イオン以外の他のイオンが透過できないプロトン伝導性膜を提供することである。
【0008】
序文で言及された膜では、この目的は、膜の片側からもう一方の側へプロトンを移動させることのできる薄いガラスプレートから成る膜によって達成される。実際、ガラスは水に不溶性であり、およびガラス膜は従ってDMFC電池内の反応体による影響を受けないので、およびプロトン/ヒドロキソニウム・イオン以外の他のイオンが透過することがない。
【0009】
ガラスは普通のソーダ石灰ガラスが好ましい。そのようなガラスは廉価であるが、しかし不溶性および目的の環境に対する耐腐食性の点において、要求を満たすものである。
【0010】
プロトンを伝導するガラスであるため、塩化銀をドープしたものが適切である。他のドープ剤も使用されることができるが、塩化銀がよく知られており、および廉価である。
【0011】
触媒は、燃料電池またはリアクターの中で陽極反応または陰極反応を行うために必須の触媒が、膜の片側にあるガラス表面に融合されることが適切である。好ましくは、陽極反応を行うために必須の触媒が膜の片側のガラス表面に融合され、および陰極反応を行うために必須の触媒が膜のもう一方の側のガラス表面に融合される。ゆえに触媒は、機械的損傷から保護され、同時に高い出力密度を与えるコンパクト設計が維持されることが可能である。
【0012】
以下に、本発明は好適な実施例および同封の図面の参照と共により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】液体メタノールが燃料セルの中で二酸化炭素と水を形成するために段階的に酸化される、DMFC型の燃料電池装置の原理フローチャートである。
【図2】電極、中間膜、および流入通路の好適な配置を示す、図1による燃料電池装置の断面図である。
【図3】それぞれの装置内に反応体が誘導されることのできる、いくつかの異なる流入パターンの平面図である。
【図4】それぞれの装置内に反応体が誘導されることのできる、いくつかの異なる流入パターンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の原理フローチャートに示されるDMFC型の燃料電池装置では、液体メタノールは燃料セルの中で段階的に酸化して二酸化炭素と水になる。図示された燃料電池装置は、三つに分かれたステップで段階的な酸化を行うためのフロー的に直列接続された三つの燃料セル1、2、および3から構成される。燃料セルはそれぞれ、陽極11、陰極12、およびそれらを互いに分ける膜13から構成される。陽極側では、第一ステップでメタノールが酸化してホルムアルデヒドになり、第二ステップでは得られたホルムアルデヒドが酸化してギ酸になり、および第三ステップでは得られたギ酸が酸化して二酸化炭素になる。陰極側では、水を形成するため1から3それぞれのステップで、新しく供給された過酸化水素が還元される。異なるステップへの酸化体の供給は、陽極および陰極側の反応がすべての分けられたステップで互いに化学量論的に均衡を保つよう、適切に調節される。従って、生産性の上昇のため反応はより確実に精製および調節される。
【0015】
三つのセル1、2、および3はまた、直列に電気接続される。二つの電子がステップ1の陽極11からステップ3の陰極12へ、球状で示される負荷15を経由して進む。二つの電子がステップ3の陽極11からステップ2の陰極12に進む。および、二つの電子がステップ2の陽極11からステップ1の陰極12に進む。すべての三つのセル1、2、および3内で、形成されたプロトン/ヒドロキソニウム・イオンは陽極11から膜13を通って陰極12へ進む。
【0016】
図2は、電極11、12、中間膜13および流入通路16の好適な配置を示した、図1による燃料電池装置の断面図である。陽極11、陰極12、および膜13は、パッケージまたはパイル(堆積)を形成するために互いに接着された薄いプレートまたはシートによって形成される。接着は接続ロッド(図示せず)などによって機械的に行われることが可能であるが、好ましくはシリコーンタイプなどの適合する接着剤(図示せず)の接着がプレート/シートを保持するために使用される。 膜13と陽極11の間、および膜13と陰極12の間には、基本的にプレートの側全体に最適化された液体を流入させるよう、表面構造16が配置される。図1に示される流入ラインは、プレートのパッケージ/パイルに形成されるフロー接続によって構成され、また図2に示される外部に位置するフロー接続によっても構成される。
【0017】
本発明により、膜13はプロトン/ヒドロキソニウム・イオンを膜13の一面からもう一方の面に通過させることのできる、薄いガラスプレートから成る。ガラスは、ソーダ石灰ガラスまたは緑色ガラスのような、廉価なグレードによって構成されることが有利である。語のようなガラスが薄く作られると、弾力性および負荷に対する特定の耐性が上昇される。ガラスのドープ剤として、いくつかの異なる金属が考えられるが、塩化銀の形状の銀が使用されることが廉価であるという理由で好ましい。ガラスの薄さと同様、ドープ剤は膜を通してプロトン/ヒドロキソニウム・イオンの通過を促進する。さらに、ガラスはメタノールなどの他のイオンや分子の通過を止め、および導電性はなく、つまり陰極12からの電子は膜13を通って陽極11に通過することができないことを意味する。従って、陽極11から陰極12へのメタノールが移動することはなく、これはメタノールの移動、および陰極12での一酸化炭素の形成がないことによる燃料ロスがないことを意味し、さもなければ選択的に使用される白金触媒の効率を減少させることが可能である。
【0018】
図2に示される好適な実施例では、陰極11、陽極12、および膜13は、厚さが1mm以下である。陽極11も陰極12も、一つの表面および、基本的にプレートの側全体に最適化された液体を流入させる前記表面構造16を有する。中間膜13が平面であるのと同様に、プレートは陽極11上にも陰極12上にも配置される。 図1に示される燃料電池装置の、セル1の陰極12の平面側は次に、セル2の陽極11の平面側に接触して接する。燃料セル1、2、3は、隣接するプレート上の表面構造12に面する平面側を逆もまた同様に有し、または、両側に表面構造16が備わる膜13に面する、平面側のある陽極11および陰極12を有する陽極11、膜13、そして陰極12を有しうることが、容易に理解される。
【0019】
陽極11も陰極12も、ステンレス鋼などの導電性および反応に耐性のある、厚さ0.6mm〜0.1mm、好ましくは0.3mmの素材の薄い金属シートから構成されることが適切である。陽極11および陰極12の表面構造と同様に、膜13のいずれの表面構造16も波形断面の通路16によって形成されることが可能である。通路16は2mm〜3mm幅の、および0.5mm〜0.05mmの深さを有することが適切である。膜13の表面構造16はいずれも例としてエッチングによって作られ、および陽極および陰極のプレート11、12の表面構造16は、耐衝撃性成形とも呼ばれる断熱成形によって作られる。そのような成形の一例は、米国特許番号6,821,471に開示される。
【0020】
図3および4は、基本的にプレートの側全体に最適化された液体を流入させる、いくつかの異なる表面構造または流入パターンを示す。図3では、表面構造全体が通路16の格子パターンを形成するチェックパターンで配置されたショルダーから構成されるように、平行の通路が側面に沿って繰り返し穿孔される。最後に図4は、平行に走る蛇行形状の通路16もまた使用されることが可能であることを示す。異なる可能な流入通路を含むすべての場合では、通路は入口から出口まで、同じ長さに作られなくてはならない。
【0021】
好ましくは、ガラスプレート13は一つの平面側および、燃料電池またはリアクターでの陽極反応または陰極反応を行うために必須の触媒が備わるのに適切な平面側を有し、触媒は膜の片側のガラス表面上に融合されることが適切である。ゆえにまた、ガラスプレート13のもう一方の側も平面で、および陰極反応を行うために必須の触媒が膜のもう一方の側のガラス表面に融合されることが好ましい。図2から明らかなように、二つの膜13がさらに、両側の触媒の層14が備わるよう図示される。一つの平面側および一つの表面構造のある側を有する同様の薄いプレート形の、電極11、12のある燃料セル1、2、3のコンパクトパイルの構造は促進され、それにより、高い出力密度が達成されることが可能である。
【0022】
触媒が適切にガラスの表面で結合されることにより、高い出力密度を与えるコンパクト設計が維持されると同時に、機械的損傷から保護される。結合はレーザーなど適切な不活性雰囲気で行われ、および触媒範囲を広げるため、触媒粒子は結合前にボールミルで粉砕するなど自然に非常に細かくされなければならない。
【0023】
もちろん、すべての場合の触媒は触媒作用を受ける反応に適合する。図1に示されるメタノール作動の燃料電池装置のために最適化される触媒は、例として、前記第一触媒が反応、
CH3OH ⇔ HCHO + 2 H+ + 2 e- (a)
のために、60〜94%のAg、5〜30%のTeかつ/またRu、および1〜10%のPt単体またはAuかつ/またTiO2の結合で、好ましくはおよそ90:9:1の比率で形成され、
反応、
HCHO + H2O ⇔ HCOOH + 2 H+ + 2 e- (b)
のために、SiO2 およびTiO2 のAgとの結合、反応
HCOOH ⇔ CO2 + 2 H+ + 2 e- (c).
のために、Ag 単体またはTiO2かつ/またTeとの結合から形成されるという結果になる。
前記第二触媒はその後、反応、
H2O2 + 2 H+ + 2 e- ⇔ 2 H2O (d)
のため、例として炭粉末(カーボンブラック)、アントラキノン、およびAgとフェノール樹脂によって形成される。
【0024】
上記のように、第二ステップのために最適化された触媒はSiO2、TiO2 およびAgによって構成されることが適切である。膜13がガラスから成る場合、SiO2はすでにガラスから構成されており、これはTiO2 およびAgのみが別々に適用される必要があることを意味する。
【0025】
アセトアルデヒドへのメタノールの酸化のため、E0 ≒ 0.9 V、をギ酸へのアセトアルデヒドの酸化のため、E0 ≒ 0.4 V、および二酸化炭素へのギ酸の酸化のため、E0 ≒ 0.2 V、およびこれらをまとめて低負荷で約1.5〜1.6Vを与える。変換が良好な場合は、真ん中のセル2から熱が引き出されることが可能である。
【0026】
アントラキノン(CAS番号84‐65‐1)は融点286℃を有し、および水およびアルコールに溶性で、ニトロベンゼンおよびアニリンには不溶性の結晶性粉末である。触媒は炭粉末(カーボンブラック)、アントラキノン、および銀とフェノール樹脂などの混合によって生成され、コーティングに形成された後、乾燥されることができる。コーティングはその後支持から外され、圧砕または細かく粉砕され、得られた粉末が適切な溶剤でスラリー化された後望ましい場所に塗布され、その後溶剤は蒸発されることができる。
【0027】
当然ながら触媒はまた、一つまたは両方の電極11、12によって運ばれることが可能である。また少なくとも一つの、アントラキノンと銀を含むような触媒は、図示されない中間の、炭素繊維フェルトなどの分離担体でアレンジされることが可能である。しかしそのようなアレンジは結合が鈍化するので、この変形は考えられうるが好ましいとはいえない。同様の触媒はさらに、二酸化炭素、水、および電気エネルギーからメタノールと二酸化炭素を生成するための逆反応を駆動するため、燃料電池型のリアクターで使用されることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1.セル
2.セル
3.セル
11.陽極
11.陽極
11.陽極
11.陽極
12.陰極
12.陰極
12.陰極
12.陰極
13.膜
14.層
15.負荷
16.表面構造、通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池技術に基づいた燃料電池またはリアクター用のプロトン伝導性膜であって、前記膜(13)が、プロトン/ヒドロキソニウム・イオンを前記膜の片側からもう一方の側に通過させることのできる薄いガラスプレートから構成され、および前記燃料電池または前記リアクターで陽極反応または陰極反応を行うために必須の触媒が、前記膜(13)の片側の前記ガラス表面で融合されることを特徴とする、膜。
【請求項2】
前記ガラスは普通のソーダ石灰ガラスであることを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記ガラスは塩化銀でドープされることを特徴とする、請求項1または2に記載の膜。
【請求項4】
陽極反応を行うために必須の触媒が、前記膜の片側の前記ガラス面に融合され、および前記陰極反応を行うために必須の触媒が、前記膜のもう一方の側の前記ガラス面に融合されることを特徴とする、請求項1に記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−540526(P2009−540526A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515354(P2009−515354)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/SE2007/050420
【国際公開番号】WO2007/145588
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(504344978)モルフィック テクノロジーズ アクティエボラグ (ピーユービーエル) (14)
【Fターム(参考)】