説明

燃料電池システム、および燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法

【課題】燃料電池の膜湿潤状態をリアルタイムに判定する。
【解決手段】大気圧と、エアポンプ2の吸気温度と、加湿器4の入口空気温度に基づいて加湿器入口空気湿度を求めるとともに、燃料電池スタック1のカソード出口空気温度と燃料電池スタック1の冷媒出口における冷媒温度に基づいてカソード出口空気湿度を求め、加湿器入口空気湿度とカソード出口空気湿度に基づいてマップを参照して燃料電池スタック1のカソードの仮の湿度を求め、荷重センサ35により燃料電池スタック1における単位燃料電池の積層方向に加わる荷重を検出し、検出された荷重と該荷重の基準値との比較値に基づいて補正係数を求め、前記カソードの仮の湿度に前記補正係数を乗じることでカソードの湿度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システム、および燃料電池システムにおける燃料電池の膜湿潤状態判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜型の燃料電池を備えた燃料電池システムでは、燃料電池内部の加湿状態が燃料電池の発電性能に大きく影響を与えるため、燃料電池内部の湿度管理が大変に重要である。
【0003】
従来の前記湿度の判定方法としては、例えば、燃料電池のセル電圧が低下した時に、酸化剤ガスの流量を増大させた後、平均セル電圧と最低セル電圧の電圧差を検出し、該電圧差が判定値以下の場合は加湿不足であると判定し、前記判定値よりも大きい場合は過加湿であると判定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の湿度判定方法として、セル電圧が正常範囲を下回るセルを検出し、その異常セルの燃料電池スタックにおける積層位置に基づいて燃料電池スタックの加湿状態を判定する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−194177号公報
【特許文献2】特開2002−184438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の湿度判定方法はいずれも、燃料電池内部の湿度状態が標準か湿度不足か過加湿かといった定性的な判定しかできない。
しかしながら、燃料電池システムを常に最適な作動状態に保つためには、燃料電池内部の湿度を定量的且つリアルタイムに把握することが求められており、従来の湿度判定方法ではこの要求に応えることができなかった。
【0007】
そこで、この発明は、燃料電池の膜湿潤状態を定量的且つリアルタイムに把握することができる燃料電池システム、および燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池(例えば、後述する実施例における単セル61)を複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック1)と、
前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段(例えば、後述する実施例における大気圧センサ30、吸気温度センサ31、)と、
前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段(例えば、後述する実施例における加湿器入口温度センサ32、カソード出口温度センサ33、冷媒出口温度センサ34)と、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値と前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて前記カソードの湿度を演算するカソード湿度演算手段(例えば、後述する実施例における電子制御装置50)と、
を備え、
前記カソード湿度演算手段は、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を演算する判定値演算部(例えば、後述する実施例におけるステップS01,S02)と、
前記2つの判定値から前記カソードの仮の湿度を求める仮カソード湿度演算部(例えば、後述する実施例におけるステップS03)と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算部と、
前記仮カソード湿度演算部により求められた仮カソード湿度に前記補正係数演算部により求められた補正係数を乗じることで前記カソードの湿度を求めるカソード湿度補正部(例えば、後述する実施例におけるステップS06,S07,S08)と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムである。
【0009】
請求項2に係る発明は、固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池(例えば、後述する実施例における単セル61)を複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック1)と、
前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段(例えば、後述する実施例における大気圧センサ30、吸気温度センサ31、)と、
前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段(例えば、後述する実施例における加湿器入口温度センサ32、カソード出口温度センサ33、冷媒出口温度センサ34)と、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値と前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて前記アノードの湿度を演算するアノード湿度演算手段(例えば、後述する実施例における電子制御装置50)と、
を備え、
前記アノード湿度演算手段は、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を演算する判定値演算部(例えば、後述する実施例におけるステップS101,S102)と、
前記2つの判定値から前記アノードの仮の湿度を求める仮アノード湿度演算部(例えば、後述する実施例におけるステップS103)と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算部と、
前記仮アノード湿度演算部により求められた仮アノード湿度に前記補正係数演算部により求められた補正係数を乗じることで前記アノードの湿度を求めるアノード湿度補正部(例えば、後述する実施例におけるステップS106,S107,S108)と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムである。
【0010】
請求項3に係る発明は、固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池(例えば、後述する実施例における単セル61)を複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック1)と、前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段(例えば、後述する実施例における大気圧センサ30、吸気温度センサ31、)と、前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段(例えば、後述する実施例における加湿器入口温度センサ32、カソード出口温度センサ33、冷媒出口温度センサ34)と、を備える燃料電池システムにおける前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定する方法において、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を求める判定値演算工程(例えば、後述する実施例におけるステップS01,S02)と、
予め作成されたマップを用いて前記2つの判定値に基づいて前記カソードの仮の湿度を求める仮カソード湿度演算工程(例えば、後述する実施例におけるステップS03)と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算工程と、
前記カソードの仮の湿度に前記補正係数を乗じることで前記カソードの湿度を求めるカソード湿度補正工程(例えば、後述する実施例におけるステップS06,S07,S08)と、
を順に用いて前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定することを特徴とする燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法である。
【0011】
請求項4に係る発明は、固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池(例えば、後述する実施例における単セル61)を複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック1)と、前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段(例えば、後述する実施例における大気圧センサ30、吸気温度センサ31、)と、前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段(例えば、後述する実施例における加湿器入口温度センサ32、カソード出口温度センサ33、冷媒出口温度センサ34)と、を備える燃料電池システムにおける前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定する方法において、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を求める判定値演算工程(例えば、後述する実施例におけるステップS101,S102)と、
予め作成されたマップを用いて前記2つの判定値に基づいて前記アノードの仮の湿度を求める仮アノード湿度演算工程(例えば、後述する実施例におけるステップS103)と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算工程と、
前記アノードの仮の湿度に前記補正係数を乗じることで前記アノードの湿度を求めるアノード湿度補正工程(例えば、後述する実施例におけるステップS106,S107,S108)と、
を順に用いて前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定することを特徴とする燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池スタックのカソードの湿度を真値に極めて近い値でリアルタイムに推定することができる。
請求項2に係る発明によれば、燃料電池スタックのアノードの湿度を真値に極めて近い値でリアルタイムに推定することができる。
請求項3に係る発明によれば、燃料電池スタックの固体高分子電解質膜の湿潤状態を、カソードの湿度の推定値に基づいて極めて正確に把握することができる。
請求項4に係る発明によれば、燃料電池スタックの固体高分子電解質膜の湿潤状態を、アノードの湿度の推定値に基づいて極めて正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの実施例における概略構成図である。
【図2】実施例におけるカソードの湿度判定処理を示すフローチャートである。
【図3】実施例において用いられる加湿器入口空気湿度マップである。
【図4】実施例において用いられるカソード出口空気湿度マップである。
【図5】実施例において用いられるカソード湿度マップである。
【図6】実施例において用いられるEP荷重をパラメータとする補正係数マップである。
【図7】実施例における燃料電池スタックの外観斜視図である。
【図8】燃料電池スタック内の単セルの積層状態を模式的に示した図である。
【図9】前記単セルが膨潤したときの積層状態を模式的に示した図である。
【図10】実施例において用いられるスタックたわみ量をパラメータとする補正係数マップである。
【図11】燃料電池スタックが歪む様子を模式的に示した図である。
【図12】実施例において用いられるスタック歪み量をパラメータとする補正係数マップである。
【図13】実施例において用いられる希釈ボックス重量をパラメータとする補正係数マップである。
【図14】実施例におけるアノードの湿度判定処理を示すフローチャートである。
【図15】実施例において用いられるアノード湿度マップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明に係る燃料電池システム、および燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法の実施例を図1から図15の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例は、燃料電池自動車に搭載される燃料電池システムに適用した態様である。
【0015】
図1は燃料電池システムの概略構成図である。燃料電池スタック1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜をアノードとカソードとで両側から挟み込んで構成された単位燃料電池(以下、単セルという)を複数積層して構成されており、燃料ガスとして水素ガスが供給される水素極と、酸化剤ガスとして酸素を含む空気が供給される空気極と、冷却液が供給される冷却通路とを備えている。そして、アノードで触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソードまで移動して、カソードで酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。また、この発電に伴う発熱により燃料電池スタック1が上限温度を越えないように、前記冷却通路を流れる冷却液で熱を奪い冷却するようになっている。
【0016】
外気はエアポンプ(コンプレッサ)2によって加圧され、供給空気通路3、加湿器4を通って燃料電池スタック1の空気極に供給され、この空気中の酸素が酸化剤として発電に供された後、燃料電池スタック1から空気オフガスとして排出され、空気オフガス通路5、前記加湿器4を通って希釈ボックス(希釈器)6に排出される。なお、以下の説明では、燃料電池スタック1から排出される空気オフガスと区別するため、燃料電池スタック1に供給される空気を供給空気と称す。
【0017】
加湿器4は、例えば中空糸膜等の水透過膜を備えて構成されており、燃料電池スタック1から排出された空気オフガスを、反応ガスとして燃料電池スタック1に供給される供給空気に対する加湿ガスとして利用している。加湿器4において、水透過膜を介して供給空気と空気オフガスが接触し、空気オフガスに含まれる水分が水透過膜の膜孔を透過して供給空気に移動することにより、供給空気が加湿される。このように加湿された空気が燃料電池スタック1に供給されることにより、燃料電池スタック1の固体高分子電解質膜のイオン導電性が所定の状態に確保される。
【0018】
エアポンプ2は、燃料電池スタック1に要求されている出力に応じた質量の空気が空気極に供給されるように回転数制御される。
一方、水素タンク7から放出された水素ガスは、水素供給通路8,水素遮断弁9、圧力制御弁10、エゼクタ11を通って燃料電池スタック1の水素極に供給される。この水素ガスは発電に供された後、未反応の水素ガスは燃料電池スタック1から水素オフガスとして排出され、水素オフガス回収路12を通ってエゼクタ11に吸引され、水素タンク7から供給される水素ガスと合流し再び燃料電池スタック1に供給されるようになっている。なお、水素オフガス回収路12には、水素オフガスに含まれる水分を除去するキャッチタンク13が設けられており、エゼクタ11には水分を除去された水素オフガスが供給される。
【0019】
なお、圧力制御弁10は、例えば空気式の比例圧力制御弁からなり、エアポンプ2から供給される供給空気の圧力を信号圧として空気信号導入路19を介して入力され、圧力制御弁10の出口側の水素ガス圧力が前記信号圧に応じた所定圧力範囲となるように水素ガスの圧力を減圧制御する。このように供給空気の圧力を基準圧として、圧力制御弁10で燃料電池スタック1に供給される水素ガスの圧力を制御することによって、エゼクタ11を通過する水素ガスの流量が制御されるとともに、燃料電池スタック1内の固体高分子電解質膜を介した空気圧と水素ガス圧との差圧が所定の範囲に収まるように制御される。
【0020】
水素オフガス回収路12はキャッチタンク13の下流において、パージ弁14を備えた水素オフガスパージ通路15が分岐し、希釈ボックス6に接続されている。パージ弁14は通常は閉じていて、燃料電池スタック1の運転状態に応じて開弁制御され、水素オフガス回収路12を流れる水素オフガスを希釈ボックス6へ排出する。
また、キャッチタンク13もドレンバルブ16を備えたドレン通路17を介して希釈ボックス6に接続されており、ドレンバルブ16は燃料電池スタック1の運転状態に応じて設定される所定時間毎に開弁制御され、キャッチタンク13に溜まった水を希釈ボックス6に排水する。
希釈ボックス6に排出された水素オフガスは、希釈ボックス6に排出された空気オフガスによって希釈され、キャッチタンク13から排出された水とともに、排気通路18を介して外気に放出される。希釈ボックス6の出口には、外気に放出されるガスの水素濃度を検出するための水素センサ40が設けられている。
【0021】
また、燃料電池スタック1を冷却するための冷却液は、ウォーターポンプ20によって昇圧されて燃料電池スタック1に供給され、燃料電池スタック1内の冷却通路を通る際に燃料電池スタック1から熱を奪って燃料電池スタック1を冷却し、これにより熱せられた冷却液はラジエタ(放熱器)21に送られ、ラジエタ21において外部に放熱することにより冷却液は冷却され、再びウォーターポンプ20に戻るようになっている。この冷却液の循環回路22に、ラジエタ21を迂回するバイパス通路23が接続されており、循環回路22とバイパス通路23との連結部に設けられたサーモスタットバルブ24によって、冷却液をバイパス通路23を通さずラジエタ21を経由して循環させるか、ラジエタ21を通さずバイパス通路23を経由して循環させるかが決定される。つまり、冷却液が所定温度よりも低いときには、冷却液を冷却する必要がないので、ラジエタ21を通さずバイパス通路23を経由し燃料電池スタック1との間で冷却液を循環させ、冷却液が所定温度よりも高いときには、冷却液を冷却する必要があるので、バイパス通路23を通さずラジエタ21を経由し燃料電池スタック1との間で冷却液を循環させる。なお、図中、符号25はリザーブタンクであり、ラジエタ21およびウォータポンプ20に接続されている。
【0022】
また、この燃料電池システムには、燃料電池スタック1内のカソードまたはアノードの湿度を推定するために必要な物理量を検出するための各種センサが設置されている。すなわち、燃料電池システムは、大気圧Pを検出する大気圧センサ30と、エアポンプ2に吸引される空気の温度(以下、エアポンプ吸気温度という)T1を検出する吸気温度センサ31と、加湿器4に供給される空気の温度(以下、加湿器入口空気温度という)T2を検出する加湿器入口温度センサ32と、燃料電池スタック1から排出され加湿器4に供給される前の空気オフガスの温度(以下、カソード出口空気温度という)T3を検出するカソード出口温度センサ33と、燃料電池スタック1から排出された直後の冷却液の温度(以下、冷媒出口温度という)T4を検出する冷媒出口温度センサ34と、を備え、これらセンサ30〜34の出力信号が電子制御装置(ECU)50に入力される。
【0023】
なお、この実施例において、大気圧センサ30と吸気温度センサ31は環境条件測定手段を構成し、加湿器入口温度センサ32とカソード出口温度センサ33と冷媒出口温度センサ34は燃料電池スタック温度条件測定手段を構成し、電子制御装置50はカソード湿度演算手段およびアノード湿度演算手段を構成する。
【0024】
次に、この燃料電池システムにおいて燃料電池スタック1内のカソードの湿度を推定する方法を説明する。
本出願の発明者は、このように構成された燃料電池システムに対して行った多くの実験を通して、大気圧Pと、エアポンプ吸気温度T1と、加湿器入口空気温度T2と、加湿器4に供給される空気の湿度(以下、加湿器入口空気湿度という)Aとの間には相関があること、カソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度T4と、燃料電池スタック1のカソードから排出された空気の湿度(以下、カソード出口空気湿度という)Bとの間には相関があること、さらに、加湿器入口空気湿度Aと、カソード出口空気湿度Bと、燃料電池スタック1内のカソードにおける湿度(以下、カソード湿度という)Hcおよびアノードにおける湿度(以下、アノード湿度という)Haとの間には相関があることを、経験的な知見として得た。
【0025】
なお、加湿器入口空気湿度Aと、カソード出口空気湿度Bと、燃料電池スタック1内のアノード湿度Haとの間に相関があるのは、この燃料電池システムでは、前述したように、カソード側の供給空気の圧力を基準圧として圧力制御弁10を制御することによって、燃料電池スタック1に供給される水素ガスの圧力を制御し、エゼクタ11を通過する水素ガスの流量を制御していることによる。
【0026】
そこで、この発明では、実際に燃料電池車両用に組み立てられた標準モデルとしての前記燃料電池システムに対して、予め、燃料電池スタック1の周りの環境条件や燃料電池スタック1の運転条件を種々変化させて、前記相関関係のある各物理量のデータを多数採取し、これに基づいて図3〜図5、および図15に示すようなマップを予め作成し、電子制御装置50の記憶手段に記憶しておく。なお、この事前のデータ採取のときには、前記標準モデルの燃料電池システムに、加湿器入口空気湿度A、カソード出口空気湿度B、カソード湿度Hc、アノード湿度Haを検出するためのセンサを設置して行う。
【0027】
図3に示される加湿器入口空気湿度マップは、大気圧Pと、エアポンプ吸気温度T1と、加湿器入口空気温度T2と、加湿器入口空気湿度Aのデータに基づいて作成されたマップであり、大気圧Pの大きさ(大気圧値)毎に、エアポンプ吸気温度T1と加湿器入口空気温度T2から加湿器入口空気湿度Aを検索することができるように構成されている。つまり、図3に示すマップは、大気圧がある値のときの加湿器入口空気湿度マップであり、このようなマップが大気圧値毎に多数作成されているのである。
【0028】
図4に示されるカソード出口空気湿度マップは、カソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度T4と、カソード出口空気湿度Bのデータに基づいて作成されたマップであり、カソード出口空気温度T3と冷媒出口温度T4からカソード出口空気湿度Bを検索することができるように構成されている。
【0029】
図5に示されるカソード湿度マップは、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bとカソード湿度Hcのデータに基づいて作成されたマップであり、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bからカソード湿度Hcを検索することができるように構成されている。
【0030】
図15に示されるアノード湿度マップは、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bとアノード湿度Haのデータに基づいて作成されたマップであり、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bからアノード湿度Haを検索することができるように構成されている。
【0031】
図3の加湿器入口空気湿度マップと図4のカソード出口空気湿度マップと図5のカソード湿度マップを用いることにより、大気圧Pと、エアポンプ吸気温度T1と、加湿器入口空気温度T2と、カソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度T4とに基づいて、燃料電池スタック1内のカソード湿度Hcを予測することができる。
【0032】
また、図3の加湿器入口空気湿度マップと図4のカソード出口空気湿度マップと図15のアノード湿度マップを用いることにより、大気圧Pと、エアポンプ吸気温度T1と、加湿器入口空気温度T2と、カソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度T4とに基づいて、燃料電池スタック1内のアノード湿度Haを予測することができる。
【0033】
ただし、このようにして予測されるカソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haは、標準モデルの燃料電池システムに当てはめた場合の予測値であり、実際に現在運転している燃料電池システムにおける燃料電池スタック1内部の水分状況が反映されているとは言い難い。
【0034】
そこで、この発明では、前記マップに基づいて予測されるカソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haを仮のカソード湿度あるいは仮のアノード湿度として、この仮のカソード湿度あるいは仮のアノード湿度に対して、現在運転中の燃料電池システムにおける燃料電池スタック1内部の水分状況に応じた補正を行うことで、より真値に近いカソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haをリアルタイムに推定することができるようにした。
【0035】
次に、仮のカソード湿度あるいは仮のアノード湿度に対する補正方法を説明する。
図7は、実施例の燃料電池システムに使用される燃料電池スタック1の外観斜視図であり、燃料電池スタック1の箱形のフレーム60の内部には、図8の模式図に示すように、多数の単セル61が水平方向に積層されて収容されるとともに、積層方向の両側にエンドプレート62,63が収容されている。単セル61およびエンドプレート62,63は、熱膨張や単セル61の膨潤に対応することができるように、単セル61の積層方向に移動可能に支持されており、エンドプレート62,63はフレーム60の内壁との間に配置されたバネ部材(図示略)によって単セル61の積層方向内側に付勢されている。
【0036】
このように構成された燃料電池スタック1においては、燃料電池スタック1のカソードあるいはアノードにおける湿度が高いときには、単セル61が膨潤するため、エンドプレート62,63に作用する積層方向の荷重(以下、EP荷重と称す)が増大し、一方、カソードあるいはアノードにおける湿度が低いときには、単セル61は殆ど膨潤しないため、EP荷重が低減する。
【0037】
そこで、このEP荷重をパラメータとして補正係数Y1を設定し、この補正係数Y1を用いて仮のカソード湿度Hcあるいは仮のアノード湿度Haを補正することとした。そして、これを実現するために、図1に示すように、燃料電池スタック1に、EP荷重を検出するための荷重センサ35を設置し、荷重センサ35の出力信号を電子制御装置50に出力するようにした。
図6は、EP荷重をパラメータとする補正係数マップの一例であり、初期締結荷重との荷重差に応じて補正係数Y1が設定されており、この補正係数マップを予め電子制御装置50の記憶手段に記憶しておく。
【0038】
次に、EP荷重に基づいて補正を行う場合のカソードの湿度判定処理を図2のフローチャートに従って説明する。このカソード湿度判定処理は電子制御装置50によって一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS01において、吸気温度センサ31により検出された現在のエアポンプ吸気温度T1と、大気圧センサ30により検出された現在の大気圧Pと、加湿器入口温度センサ32により検出された現在の加湿器入口空気温度T2に基づき、図3の加湿器入口空気湿度マップを参照して、加湿器入口空気湿度Aを検索する。
【0039】
次に、ステップS02に進み、カソード出口温度センサ33により検出された現在のカソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度センサ34により検出された現在の冷媒出口温度T4に基づき、図4のカソード出口空気湿度マップを参照して、カソード出口空気湿度Bを検索する。
【0040】
次に、ステップS03に進み、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bに基づき、図5のカソード湿度マップを参照して、カソード湿度Hc(仮のカソード湿度)を検索する。
次に、ステップS04に進み、ステップS03の処理により得られたカソード湿度Hcが60%未満か否かを判定する。
ステップS04における判定結果が「NO」(60%以上)である場合には、ステップS05に進み、ステップS03の処理により得られたカソード湿度Hcが80%を越えているか否かを判定する。
【0041】
ステップS05における判定結果が「NO」(80%以下)である場合には、ステップS06に進み、カソード湿度Hcが60%〜80%であるので、カソードは乾燥状態でもなく湿潤状態でもない標準状態であると判定し、ステップS03で得られたカソード湿度Hcに補正係数Y1を乗じて、補正後のカソード湿度Hcを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1は、荷重センサ35で検出した現在のEP荷重と初期締結荷重との荷重差に基づいて、図6のEP荷重をパラメータとする補正係数マップを参照して検索し、決定する。
【0042】
ステップS04における判定結果が「YES」(60%未満)である場合には、ステップS07に進み、カソードは乾燥状態であると判定し、ステップS03で得られたカソード湿度Hcに補正係数Y1を乗じて、補正後のカソード湿度Hcを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1は、荷重センサ35で検出した現在のEP荷重と初期締結荷重との荷重差に基づいて、図6のEP荷重をパラメータとする補正係数マップを参照して検索し、決定する。
【0043】
ステップS05における判定結果が「YES」(80%を越えている)である場合には、ステップS08に進み、カソードは湿潤状態であると判定し、ステップS03で得られたカソード湿度Hcに補正係数Y1を乗じて、補正後のカソード湿度Hcを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1は、荷重センサ35で検出した現在のEP荷重と初期締結荷重との荷重差に基づいて、図6のEP荷重をパラメータとする補正係数マップを参照して検索し、決定する。
ここで、EP荷重をパラメータとする補正係数マップは、標準状態、乾燥状態、湿潤状態とも同じマップとしてもよいし、標準状態、乾燥状態、湿潤状態で互いに異なる専用のマップとしてもよい。
【0044】
次に、別のパラメータを用いたカソード湿度の補正方法を説明する。
前述したように、この燃料電池システムの燃料電池スタック1においては、燃料電池スタック1のカソードあるいはアノードにおける湿度が高いときには単セル61が膨潤し、カソードあるいはアノードにおける湿度が低いときには単セル61は殆ど膨潤しない。
【0045】
ここで、単セル61が膨潤する場合、水分は重力の作用によって下方に集まるため、単セル61の下側が大きく膨潤し、単セル61の上側は下側ほどには膨潤しない状態となる。その結果、単セル61の積層体は、図9に示すように扇状となり、下方にたわんだ形態となる。なお、図9では実際よりも誇張して示している。
【0046】
そこで、この単セル61の積層体の積層方向に直交する方向のたわみ量(以下、スタックたわみ量という)をパラメータとして補正係数Y2を設定し、この補正係数Y2を用いて、カソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haを補正することとした。そして、これを実現するために、図1に示すように、スタックたわみ量を検出する変位センサ36を設置し、変位センサ36の出力信号を電子制御装置50に出力するようにした。
【0047】
ここで、この実施例の燃料電池スタック1の場合には、図7に示すように、フレーム60の側面64に、単セル61の積層方向に細長い開口64aが設けられており、この開口64aから、各単セル61のセル電圧測定端子61aが突出しているので、例えば積層方向の中央付近に位置するセル電圧端子61aに対して予め基準位置を決めておき、この基準位置からの変位を変位センサ36で検出し、これをスタックたわみ量とすることができる。なお、各セル電圧測定端子61aはフレーム60の上部に設置された制御部65に電気的に接続される。
【0048】
図10は、スタックたわみ量をパラメータとする補正係数マップの一例であり、たわみ量測定の対象となるセル電圧測定端子61aの基準位置からのたわみ量に応じて補正係数Y2が設定されており、この補正係数マップを予め電子制御装置50の記憶手段に記憶しておく。
【0049】
このスタックたわみ量に基づいてカソード湿度を補正する場合のカソードの湿度判定処理は、前述したEP荷重に基づいてカソード湿度を補正する場合と、基本的に同じであり、異なるところは、図2のフローチャートにおけるステップS06,S07,S08において、EP荷重をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y1を用いる代わりに、図10に示されるスタックたわみ量をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y2を用いることだけであるので、説明は省略する。
【0050】
次に、さらに別のパラメータを用いたカソード湿度の補正方法を説明する。
前述したように、この燃料電池システムの燃料電池スタック1においては、燃料電池スタック1のカソードあるいはアノードにおける湿度の湿度に応じてエンドプレート62,63に作用する積層方向の荷重、すなわちEP荷重が変化する。このEP加重は燃料電池スタック1のフレーム60に作用するため、図11において矢印で示すように、燃料電池スタック1によるフレーム60の歪みとしても現れる。
そこで、このフレーム60の歪み量(以下、スタック歪み量という)をパラメータとして補正係数Y3を設定し、この補正係数Y3を用いて、カソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haを補正することとした。そして、これを実現するために、図1に示すように、スタック歪み量を検出する歪みセンサ37を設置し、歪みセンサ37の出力信号を電子制御装置50に出力するようにした。
具体的には、図7および図11に示すように、歪みセンサ37を、フレーム60の側面64の下部に、燃料電池スタック1の積層方向に略並行となるように添付する。これにより、特にEP荷重による積層方向の変位が大きく現れる燃料電池スタック1の下方側面で歪みを明確に検出することができる。
【0051】
図12は、スタック歪み量をパラメータとする補正係数マップの一例であり、歪み量に応じて補正係数Y3が設定されており、この補正係数マップを予め電子制御装置50の記憶手段に記憶しておく。
【0052】
このスタック歪み量に基づいてカソード湿度を補正する場合のカソードの湿度判定処理は、前述したEP荷重に基づいてカソード湿度を補正する場合と、基本的に同じであり、異なるところは、図2のフローチャートにおけるステップS06,S07,S08において、EP荷重をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y1を用いる代わりに、図12に示されるスタック歪み量をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y3を用いることだけであるので、説明は省略する。
【0053】
次に、さらに別のパラメータを用いたカソード湿度の補正方法を説明する。
燃料電池スタック1のカソードから排出される空気オフガス中の水分量と燃料電池スタック1のカソード湿度とは極めて関連性があり、カソード湿度が高いほど空気オフガス中の水分量が多くなる。また、燃料電池スタック1のアノードから排出される水素オフガス中の水分量と燃料電池スタック1のアノード湿度とは極めて関連性があり、アノード湿度が高いほど水素オフガス中の水分量が多くなる。これら空気オフガスおよび水素オフガスは希釈ボックス6に排出される。したがって、カソード湿度が高いときには、水分を多く含む空気オフガスが希釈ボックス6に流入し、アノード湿度が高いときには、水分を多く含む水素オフガスが希釈ボックス6に流入するため、希釈ボックス6の重量が大きくなる。
そこで、希釈ボックス6の重量をパラメータとして補正係数Y4を設定し、この補正係数Y4を用いて、カソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haを補正することとした。そして、これを実現するために、図1に示すように、希釈ボックス6の重量を検出する重量センサ38を設置し、重量センサ38の出力信号を電子制御装置50に出力するようにした。
【0054】
なお、キャッチタンク13には、水素オフガスの凝縮水が貯められており、燃料電池スタック1の運転状態に応じて定期的にドレンバルブ16が開いて、キャッチタンク13から排水された水が希釈ボックス6に導入されるため、ドレンバルブ16の開弁から所定時間の間は希釈ボックス6の重量が一時的に大きくなる。この間に希釈ボックス6の重量を測定してカソード湿度Hcあるいはアノード湿度Haを補正しては、却って誤差が大きくなるので、この時間帯を外して希釈ボックス6の重量測定を行い、補正を行うようにする。
【0055】
図13は、希釈ボックス重量をパラメータとする補正係数マップの一例であり、重量センサ38で検出される重量と希釈ボックス6の基準重量との重量差に応じて補正係数Y4が設定されており、この補正係数マップを予め電子制御装置50の記憶手段に記憶しておく。
【0056】
この希釈ボックス重量差に基づいてカソード湿度を補正する場合のカソードの湿度判定処理は、前述したEP荷重に基づいてカソード湿度を補正する場合と、基本的に同じであり、異なるところは、図2のフローチャートにおけるステップS06,S07,S08において、EP荷重をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y1を用いる代わりに、図13に示される希釈ボックス重量をパラメータとする補正係数マップに基づいて決定された補正係数Y4を用いることだけであるので、説明は省略する。
【0057】
このように、図5のカソード湿度マップを検索することによって求めた仮のカソード湿度Hcに対して、補正係数Y1または補正係数Y2または補正係数Y3または補正係数Y4を乗じて補正を行うと、真値に近いカソード湿度Hcをリアルタイムに推定することができる。また、このカソード湿度Hcの推定値に基づいて、燃料電池スタックの固体高分子電解質膜の湿潤状態を、極めて正確に把握することができる。
【0058】
その結果、このカソード湿度Hcに基づき燃料電池スタック1の運転を制御することで、カソードの湿度管理を適正に実行することが可能となる。例えば、カソード湿度が乾燥状態の領域にあるときには、燃料電池スタック1からの取り出し電流を抑制することで、単セル面内での湿度不足に伴う電力集中を未然に防いだり、カソード湿度を上げる方向に進ませることができ、カソード湿度の適正化を図ることができる。
また、燃料電池システムを長時間停止していた場合にも、起動した瞬間からカソード湿度を把握することができるので、そのときのカソード湿度に応じた燃料電池スタックの起動制御が可能となり、発電し易い環境へ移行することができる。
【0059】
次に、アノードの湿度判定処理を図14のフローチャートに従って説明する。このアノード湿度判定処理は電子制御装置50によって一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS101において、吸気温度センサ31により検出された現在のエアポンプ吸気温度T1と、大気圧センサ30により検出された現在の大気圧Pと、加湿器入口温度センサ32により検出された現在の加湿器入口空気温度T2に基づき、図3の加湿器入口空気湿度マップを参照して、加湿器入口空気湿度Aを検索する。
【0060】
次に、ステップS102に進み、カソード出口温度センサ33により検出された現在のカソード出口空気温度T3と、冷媒出口温度センサ34により検出された現在の冷媒出口温度T4に基づき、図4のカソード出口空気湿度マップを参照して、カソード出口空気湿度Bを検索する。
【0061】
次に、ステップS103に進み、加湿器入口空気湿度Aとカソード出口空気湿度Bに基づき、図15のアノード湿度マップを参照して、アノード湿度Ha(仮のアノード湿度)を検索する。
次に、ステップS104に進み、ステップS103の処理により得られたアノード湿度Haが40%未満か否かを判定する。
ステップS104における判定結果が「NO」(40%以上)である場合には、ステップS105に進み、ステップS103の処理により得られたアノード湿度Haが60%を越えているか否かを判定する。
【0062】
ステップS105における判定結果が「NO」(60%以下)である場合には、ステップS106に進み、アノード湿度Haが40%〜60%であるので、アノードは乾燥状態でもなく湿潤状態でもない標準状態であると判定し、ステップS103で得られたアノード湿度Haに、EP荷重の補正係数Y1、またはスタックたわみ量の補正係数Y2、またはスタック歪み量の補正係数Y3、または希釈ボックス重量の補正係数Y4を乗じて、補正後のアノード湿度Haを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1,Y2,Y3,Y4の決定方法は前述したカソード湿度判定処理の場合と同じであるので説明を省略する。
【0063】
ステップS104における判定結果が「YES」(40%未満)である場合には、ステップS107に進み、アノードは乾燥状態であると判定し、ステップS103で得られたアノード湿度Haに補正係数Y1またはY2またはY3またはY4を乗じて、補正後のアノード湿度Haを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1,Y2,Y3,Y4の決定方法は前述したカソード湿度判定処理の場合と同じであるので説明を省略する。
【0064】
ステップS105における判定結果が「YES」(60%を越えている)である場合には、ステップS108に進み、アノードは湿潤状態であると判定し、ステップS103で得られたアノード湿度Haに補正係数Y1またはY2またはY3またはY4を乗じて、補正後のアノード湿度Haを算出し、本ルーチンの実行を一旦終了する。なお、補正係数Y1,Y2,Y3,Y4の決定方法は前述したカソード湿度判定処理の場合と同じであるので説明を省略する。
【0065】
ここで、EP荷重をパラメータとする補正係数マップ、スタックたわみ量をパラメータとする補正係数マップ、スタック歪み量をパラメータとする補正係数マップ、希釈ボックス重量をパラメータとする補正係数マップは、標準状態、乾燥状態、湿潤状態とも同じマップとしてもよいし、標準状態、乾燥状態、湿潤状態で互いに異なる専用のマップとしてもよい。
【0066】
このように、図15のアノード湿度マップを検索することによって求めた仮のアノード湿度Haに対して、補正係数Y1または補正係数Y2または補正係数Y3または補正係数Y4を乗じて補正を行うと、真値に近いアノード湿度Haをリアルタイムに推定することができる。また、このアノード湿度Haの推定値に基づいて、燃料電池スタックの固体高分子電解質膜の湿潤状態を、極めて正確に把握することができる。
【0067】
その結果、このアノード湿度Haに基づき燃料電池スタック1の運転を制御することで、アノードの湿度管理を適正に実行することが可能となる。例えば、アノード湿度が乾燥状態の領域にあるときには、燃料電池スタック1からの取り出し電流を抑制することで、単セル面内での湿度不足に伴う電力集中を未然に防いだり、アノード湿度を上げる方向に進ませることができ、アノード湿度の適正化を図ることができる。
また、燃料電池システムを長時間停止していた場合にも、起動した瞬間からアノード湿度を把握することができるので、そのときのアノード湿度に応じた燃料電池スタックの起動制御が可能となり、発電し易い環境へ移行することができる。
【0068】
なお、カソードの湿度判定処理とアノードの湿度判定処理のいずれか一方を実行することにより、燃料電池スタック1の膜湿潤状態を判定することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 燃料電池スタック
6 希釈ボックス(希釈器)
30 大気圧センサ(環境条件測定手段)
31 吸気温度センサ(環境条件測定手段)
32 加湿器入口温度センサ(燃料電池スタック温度条件測定手段)
33 カソード出口温度センサ(燃料電池スタック温度条件測定手段)
34 冷媒出口温度センサ(燃料電池スタック温度条件測定手段)
50 電子制御装置(カソード湿度演算手段、アノード湿度演算手段)
61 単セル(単位燃料電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池を複数積層して構成された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段と、
前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段と、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値と前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて前記カソードの湿度を演算するカソード湿度演算手段と、
を備え、
前記カソード湿度演算手段は、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を演算する判定値演算部と、
前記2つの判定値から前記カソードの仮の湿度を求める仮カソード湿度演算部と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算部と、
前記仮カソード湿度演算部により求められた仮カソード湿度に前記補正係数演算部により求められた補正係数を乗じることで前記カソードの湿度を求めるカソード湿度補正部と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池を複数積層して構成された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段と、
前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段と、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値と前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて前記アノードの湿度を演算するアノード湿度演算手段と、
を備え、
前記アノード湿度演算手段は、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を演算する判定値演算部と、
前記2つの判定値から前記アノードの仮の湿度を求める仮アノード湿度演算部と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算部と、
前記仮アノード湿度演算部により求められた仮アノード湿度に前記補正係数演算部により求められた補正係数を乗じることで前記アノードの湿度を求めるアノード湿度補正部と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池を複数積層して構成された燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段と、前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段と、を備える燃料電池システムにおける前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定する方法において、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を求める判定値演算工程と、
予め作成されたマップを用いて前記2つの判定値に基づいて前記カソードの仮の湿度を求める仮カソード湿度演算工程と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算工程と、
前記カソードの仮の湿度に前記補正係数を乗じることで前記カソードの湿度を求めるカソード湿度補正工程と、
を順に用いて前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定することを特徴とする燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法。
【請求項4】
固体高分子電解質膜を挟むアノードとカソードとを備え反応ガスを供給されることにより発電を行う単位燃料電池を複数積層して構成された燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの環境条件を測定する環境条件測定手段と、前記燃料電池スタックの温度条件を測定する燃料電池スタック温度条件測定手段と、を備える燃料電池システムにおける前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定する方法において、
前記環境条件測定手段により測定された環境条件値および前記燃料電池スタック温度条件測定手段により測定された燃料電池スタックの温度条件値に基づいて2つの判定値を求める判定値演算工程と、
予め作成されたマップを用いて前記2つの判定値に基づいて前記アノードの仮の湿度を求める仮アノード湿度演算工程と、
前記燃料電池スタックにおける単位燃料電池の積層方向に加わる荷重と、前記単位燃料電池の積層方向に直交する方向のたわみ量と、前記燃料電池スタックによる歪み量と、燃料電池スタックから排出される反応ガスを希釈する希釈器の重量のうちのいずれか1つとその基準値との比較値に基づいて補正係数を求める補正係数演算工程と、
前記アノードの仮の湿度に前記補正係数を乗じることで前記アノードの湿度を求めるアノード湿度補正工程と、
を順に用いて前記固体高分子電解質膜の湿潤状態を判定することを特徴とする燃料電池システムの膜湿潤状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−216417(P2011−216417A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85397(P2010−85397)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】