説明

燃料電池システムおよび車両

【課題】水素タンク内の高圧エネルギを利用することにより、高いエネルギ効率を得ることのできる燃料電池システムおよび車両を提供する。
【解決手段】水素タンク11から放出された高圧水素の膨張によりピストン13bを押圧するエキスパンダ13と、このエキスパンダ13の押圧によりピストン23bを押圧して、空気を圧縮するコンプレッサ23を有し、エキスパンダ13と、コンプレッサ23は、クランクシャフト51を介して互いに接続していることを特徴とする。また、クランクシャフト51には、ウォータポンプ34などの補機が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、燃料電池システムおよび車両の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の燃料電池システムのように、従来の燃料電池車などにおいて、燃料電池への燃料(水素)は、高圧状態で水素タンクに充填・貯蔵されている。この高圧水素が燃料電池へ供給される際、減圧弁などによって所定の圧力まで減圧された後、燃料電池へ供給されている。
一方、酸化剤ガス(空気)はエアポンプで圧縮・昇圧された後、燃料電池へ供給されるが、エアポンプは、直結された専用のモータに燃料電池で発電した電力を供給して、駆動している。
【0003】
また、特許文献2および特許文献3には、水素タンクに充填・貯蔵されている高圧水素の圧力エネルギを利用してタービンを回転させ、その回転エネルギを利用して、前記タービンと一軸で直結された遠心圧縮機を駆動して、空気を圧縮・昇圧する燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−195533号公報
【特許文献2】特開2006−147246号公報
【特許文献3】特開2010−170729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように、従来の燃料電池システムでは水素タンク(高圧燃料ガスタンク)内の高圧水素を、減圧弁で減圧した後、燃料電池へ供給しているため、水素タンク内の高圧エネルギを利用せずに廃棄しており、エネルギを最大限に使用していない。
さらに、前記したように、エアポンプの駆動に燃料電池で発電された電力の一部を使用しているため、効率的なエネルギの利用を実現していない。
【0006】
これに対し、特許文献2および特許文献3に記載の技術では、水素タンク内の高圧エネルギを空気の圧縮・昇圧に利用することで効率的な燃料電池システムを実現している。
【0007】
しかしながら、特許文献2および特許文献3に記載の技術ではタービンの駆動力を他の補機の駆動や、燃料電池システムの冷却システムなどに対して利用することは考慮されておらず、水素タンク内の高圧エネルギを十分に利用していない。
【0008】
そこで、本発明の課題は、高圧燃料ガスタンク内の高圧エネルギを利用することにより、高いエネルギ効率を得ることのできる燃料電池システムおよび車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明のうち請求項1に記載の発明は、高圧燃料ガスタンクと、前記高圧燃料ガスタンクから放出された燃料ガスを燃料電池に供給する燃料ガス供給流路と、酸化剤ガスを前記燃料電池に供給する酸化剤ガス供給流路と、を備える燃料電池システムであって、少なくとも2気筒以上のシリンダを、クランクシャフトを介して動力伝達する往復動容積型(レシプロ)膨張圧縮機をさらに備えており、前記シリンダは、燃料ガス用シリンダおよび酸化剤ガス用シリンダであり、燃料ガス供給流路は前記高圧燃料ガスタンクから放出された燃料ガスの膨張によりピストンを押圧する前記燃料ガス用シリンダを介して前記燃料電池に接続され、酸化剤ガス供給流路は前記燃料ガス用シリンダの押圧によりピストンを押圧して、前記酸化剤ガスを圧縮および昇圧する酸化剤ガス用シリンダを介して前記燃料電池に接続されていることを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る発明によれば、水素の減圧・膨張時に発生するエネルギで空気を圧縮・昇圧できるので、エアポンプなどを不要とすることができる。また、燃料ガスの膨張による温度低下、酸化剤ガスの圧縮・昇圧による温度上昇を、レシプロ型の往復動容積型膨張圧縮機のシリンダブロックなどの筐体を介して燃料ガス用シリンダ、酸化剤ガス用シリンダに伝達することにより、酸化剤ガスの圧縮・昇圧による温度上昇を利用した燃料ガスの暖気、燃料ガスの膨張による温度低下を利用した酸化剤ガスの冷却を相互作用で行うことが可能となる。
【0011】
また、請求項2に係る発明では、前記クランクシャフトを介して、伝達された動力は、空気圧縮以外の動力源に使用されることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、水素膨張仕事が空気圧縮仕事を上回り、余剰エネルギが発生する場合でも、余剰エネルギを回収し、他の補機駆動に有効利用することができる。
【0013】
そして、請求項3に係る発明では、少なくとも前記燃料ガス用シリンダを構成する筺体内には、冷却水用通路が設けられ、前記燃料電池システムを冷却するための冷媒が循環していることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、膨張した低温水素と、圧縮・昇圧された高温空気が筐体を通し熱交換するのに加えて、冷却水で温度制御されるため、それぞれの温度制御用熱交換器を不要とすることができる。
【0015】
また、請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムを搭載した車両である。
【0016】
請求項4に係る発明に寄れば、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムを搭載した車両を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高圧燃料ガスタンク内の高圧エネルギを利用することにより、高いエネルギ効率を得ることのできる燃料電池システムおよび車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る燃料電池システムの動作を示す図である(その1)。
【図3】本実施形態に係る燃料電池システムの動作を示す図である(その2)。
【図4】本実施形態に係る燃料電池システムの動作を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態に係る燃料電池システムは、燃料電池自動車などの車両に搭載されることを想定しているが、船舶や、自動二輪車、定置用発電装置などに搭載されてもよい。
【0020】
図1は、本実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示す図である。
燃料電池システム1は、燃料電池2、アノードガス供給系(アノード系)、カソードガス供給系(カソード系)、冷却水循環系(冷却系)および加湿系を有している。
(燃料電池)
燃料電池2は、例えば固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)からなり、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)を図示しない導電性のセパレータ(図示せず)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。
【0021】
MEAは、電解質膜(固体高分子膜)、これを挟持するアノードおよびカソードなどを備える。アノードおよびカソードは、例えば触媒がカーボンなどの触媒担体に担持された電極触媒層からなる。アノードに対向するセパレータには、水素(燃料ガス)が通流するアノード流路が形成され、カソードに対向するセパレータには、空気(酸化剤ガス)が通流するカソード流路が形成されている。
【0022】
このような燃料電池2では、アノードに水素が供給され、カソードに酸素を含む空気が供給されると、アノードおよびカソードに含まれる触媒上で電極反応が生じ、燃料電池2が発電可能な状態となる。
【0023】
また、燃料電池2は、図示しない外部負荷と電気的に接続され、外部負荷によって電流が取り出されると、燃料電池2が発電するようになっている。なお、外部負荷とは、走行用のモータや、バッテリ、キャパシタなどの蓄電装置などである。
【0024】
(アノード系)
アノード系は、高圧燃料ガスタンクである水素タンク11、高圧噴射装置12、燃料ガス用シリンダとしてのエキスパンダ13、排出水素タンク14、エゼクタ用コンプレッサ15、配管16a〜16fなどを有している。なお、図1においてアノード系の配管16a〜16fは太い実線で示されている。ここで、配管16a〜16cおよび高圧噴射装置12が燃料ガス供給流路となる。
【0025】
水素タンク11には、高圧で圧縮されている水素が貯蔵されており、配管16aを介して高圧噴射装置12に接続されている。なお、水素タンク11には図示しない電磁弁が内蔵されており、車両のイグニッションスイッチがONになると、この電磁弁も、開弁する。
水素タンク11と、高圧噴射装置12との間には二次遮断弁、フィルタなどが備えられているが、ここでは図示および説明を省略する。
ここで、本実施形態に係る燃料電池システム1には、水素タンク11と、高圧噴射装置12の間に減圧弁を備えておらず、水素タンク11内の高圧水素は、高圧状態を保ったまま高圧噴射装置12に供給される。
なお、配管16aにおいて、水素タンク11と、高圧噴射装置12との間には、リリーフ弁19が設置されている。
【0026】
高圧噴射装置12は水素を比較的高い圧力の状態で保持するものである。高圧噴射装置12内の高圧水素は、燃料供給通路(配管16b)を介してエキスパンダ13へ供給される。高圧噴射装置12には、ECU(Engine Control Unit)などによって制御される、図示しないバルブが内蔵されており、このバルブが開閉することによってエキスパンダ13への高圧水素供給を制御している。以下、高圧噴射装置12に内蔵されているバルブを高圧噴射装置内蔵バルブと称する。
【0027】
エキスパンダ13は、レシプロエンジンと同様に、シリンダ13a、ピストン13b、コンロッド13c、バルブ13dなどで構成されており、ガソリンエンジンなど、既存のレシプロエンジンを流用することも可能である。エキスパンダ13は、クランクシャフト51を介してコンプレッサ23と連動している。エキスパンダ13およびコンプレッサ23の動作は、後記して詳述する。
【0028】
バルブ13dは、エキスパンダ13の上部(上死点側)に設置されており、カムシャフトおよびカム17の動作に応じて開閉することで、シリンダ13a内の水素を配管16cを介して燃料電池2に導く。カムシャフトおよびカム17は、既存のレシプロエンジンに備えられているものを使用してもよい。なお、バルブ13dは、電磁弁などの開閉制御可能なバルブを用いてもよい。このようにすることで、コストダウンを図ることができる。
【0029】
排出水素タンク14は、燃料電池2から排出される未反応の水素を一時的に貯蔵し、エゼクタ用コンプレッサ15へ供給する。
エゼクタ用コンプレッサ15は、未反応の水素を配管16cに戻すことで、再び燃料電池2へ戻すものであり、エキスパンダ13と同様の構成を有している。なお、図1では、エキスパンダ13と比べて、エゼクタ用コンプレッサ15が小さく記述されているが、エキスパンダ13と同じ大きさでもよい。
エゼクタ用コンプレッサ15も、エキスパンダ13と同様にシリンダ15a、ピストン15b、コンロッド15c、吸入用バルブ15d、排出用バルブ15eなどを有している。ピストン15bは、コンロッド15c、クランクシャフト51を介して、エキスパンダ13と連動するように構成されている。
詳細な動作は後記するが、エゼクタ用コンプレッサ15は、シリンダ15a内へ排出水素タンク14から水素を吸入した後、エキスパンダ13の動作と連動することによって、水素を配管16cへ排出する。なお、エゼクタ用コンプレッサ15における水素の吸入・排出は、エゼクタ用コンプレッサ15の上部に備えられている吸入用バルブ15d、排出用バルブ15eによって行われるが、この吸入用バルブ15d、排出用バルブ15eはエキスパンダ13のカム17と連動してもよいし、エキスパンダ13のバルブ13dとは独立して動作してもよい。
【0030】
(カソード系)
カソード系は、インテーク21、フィルタ22、酸化剤ガス用シリンダとしてのコンプレッサ23、酸化剤ガス供給流路としての配管24a〜24cなどを有している。なお、図1においてカソード系の配管24a〜24cは細い実線で示されている。
インテーク21は、外気から酸素を含む空気を取り入れるものである。フィルタ22は、取り入れた空気に混入している異物を取り除くものである。
【0031】
コンプレッサ23は、エキスパンダ13と同様の構成を有しており、シリンダ23a、ピストン23b、コンロッド23c、吸入用バルブ23d、排気用バルブ23eなどを有しており、エキスパンダ13と同様に既存のレシプロエンジンを流用することが可能である。コンロッド23cがクランクシャフト51を介してエキスパンダ13に接続されることで、コンプレッサ23はエキスパンダ13と連動している。吸入用バルブ23dおよび排気用バルブ23eは、カムシャフトおよびカム25と連動している。
エキスパンダ13のピストン13bが押し下げられると、この力がコンロッド13c、クランクシャフト51およびコンロッド23cを介して、コンプレッサ23のピストン23bを押し上げ、シリンダ23a内の空気が圧縮される。圧縮された空気は排気用バルブ23eから燃料電池2へ送られ、空気中の酸素が燃料電池2において水素と反応した後、未反応の酸素を含む空気が換気装置61を介して外気へ排出される。なお、コンプレッサ23における動作についての詳細も後記して説明する。
本実施形態における図面では、煩雑になるのを避けるためコンプレッサ23の上下を逆に記載している。
【0032】
なお、エキスパンダ13およびコンプレッサ23を含む装置を往復動容積型膨張圧縮機と称することがある。
【0033】
(冷却系)
冷却系は、燃料電池システム1を冷却するものであり、サーモスタット弁31、イオン交換器32、ラジエータ33、ウォータポンプ34、配管35a〜35fなどを備えている。なお、図1において冷却系の配管35a〜35fは太い破線で示されている。
サーモスタット弁31は、例えば、内部のワックスの体積が温度で変化することにより流路の切り換えを行うものである。
イオン交換器32は、冷媒中の導電率の上昇を抑制するため、容器に充填されているイオン交換樹脂で冷媒中に存在するイオンを回収するものである。
ラジエータ33は、図示しないラジエータファンによって冷却系を循環する冷媒を放熱するものである。
【0034】
ウォータポンプ34は、冷媒を循環させるためのポンプである。なお、本実施形態に係る燃料電池システム1では、ウォータポンプ34がクランクシャフト51に接続されることで、エキスパンダ13で発生する運動エネルギを利用することができ、燃料電池システム1のエネルギ効率の向上を可能にしている。
【0035】
本実施形態における冷却系には、サーモスタット弁31→イオン交換器32→ウォータポンプ34の順に循環する経路と、サーモスタット弁31→コンプレッサ23の筐体内流路→エキスパンダ13の筐体内流路→ウォータポンプ34の順に循環する経路とを有している。後記して詳細を説明するが、コンプレッサ23・エキスパンダ13を経由して循環する冷媒はコンプレッサ23での空気の圧縮による温度の上昇や、エキスパンダ13での水素の膨張による温度の低下を利用して、冷媒の温度を制御することができる。
なお、本実施形態では、冷媒をエキスパンダ13と、コンプレッサ23の双方を循環させているが、これに限らず、エキスパンダ13のみを循環させてもよい。
【0036】
(加湿系)
加湿系は、燃料電池2へ供給される空気を加湿するものであり、気液分離装置41および加湿ポンプ42などを有している。図1において加湿系の配管は細い破線で示されている。
気液分離装置41は、例えば箱型形状のものであり、所定量の生成水(燃料電池2における反応で生成される水)が溜まると、生成水を外部へ排出する。なお、気液分離装置41から排出される水の一部は、加湿ポンプ42へ供給され、残りは換気装置61を介して外部へ排出される。
加湿ポンプ42は、気液分離装置41から供給される生成水をコンプレッサ23へ供給するポンプであり、コンプレッサ23へ供給された生成水は、後記するインジェクタによってコンプレッサ23内(シリンダ内)へ噴霧され、コンプレッサ23における空気の圧縮で生じる熱を利用して気化させ、燃料電池2へ供給される空気を加湿する。
なお、本実施形態では、加湿ポンプ42はモータによって作動しているものとしているが、クランクシャフト51のエネルギを利用して作動してもよい。また、図1記載の実施例では、アノード排出ガスのみから生成水を分離・回収する形態としているが、カソード排出ガスのみから生成水を分離・回収する形態や、アノード・カソードの各排出ガスから共に生成水を分離・回収する形態でもよい。
【0037】
(その他)
なお、クランクシャフト51には、前記したウォータポンプ34の他に、車輪に接続されているクラッチ52も接続されており、エキスパンダ13およびコンプレッサ23で生じる運動エネルギを車輪の駆動にも利用することで、燃料電池システム1のエネルギ効率のさらなる向上を図ることができる。特に、ウォータポンプ34や、車輪はクランクシャフト51に直結した状態であり、エキスパンダ13およびコンプレッサ23で生じる運動エネルギを直接利用することができる。なお、他の補機をクランクシャフト51に直結させてもよい。
特許文献2や特許文献3で開示されているタービンでは、余剰エネルギを、補機の駆動に利用することが困難であるが、本実施形態のようにレシプロエンジンを利用した形態では、余剰エネルギをクランクシャフト軸端から取り出すことができるため、補機や車輪の駆動などを行うことが可能となる。
【0038】
(アノード系・カソード系における動作の詳細な説明)
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態に係るアノード系・カソード系における動作を詳細に説明する。空気の圧縮による温度の上昇や、水素の膨張による温度の低下については後記する冷却系の詳細な説明において記載する。なお、図2〜図4において、図1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。また、図2〜図4において、エキスパンダ13およびコンプレッサ23のそれぞれを1つに略記している。
【0039】
ここで、高圧噴射装置12からの配管16bはエキスパンダ13の吸気口13eに接続し、エキスパンダ13の排気口13fにはバルブ13dが設けられた配管16cが接続されている。
また、配管16fはエゼクタ用コンプレッサ15の排気用バルブ15eが設けられた排気口15fに接続し、エゼクタ用コンプレッサ15の吸気口15gには吸気用バルブ15dが設けられた配管16fが接続されている。
フィルタ22(図1)からの、吸気用バルブ23dが設けられた配管24bはコンプレッサ23の吸気口23gに接続し、コンプレッサ23の排気用バルブ23eが設けられた排気口23hには配管24cが接続されている。
【0040】
エキスパンダ13のバルブ13dが閉じている状態で、ECUからの指示で図示しない高圧噴射装置内蔵バルブが開くことにより、吸気口13eを介して高圧噴射装置11から供給された高圧水素は膨張することにより、エキスパンダ13のシリンダ13a内でピストン13bを押し下げ、その力がコンロッド13c、クランクシャフト51およびコンロッド23cを介してコンプレッサ23に駆動力が伝達される。これにより、コンプレッサ23のピストン23bが上昇してコンプレッサ23のシリンダ23a内の空気を圧縮する。このとき、図示しないECUの指示により加湿ポンプ42に接続されているインジェクタ23fから生成水が噴霧され、噴霧された生成水は空気が圧縮された際の熱によって気化し、シリンダ23a内の空気を加湿する。なお、インジェクタ23fは、一般的なガソリンエンジンなどで用いられているインジェクタを利用してもよい。また、生成水の噴霧のタイミングは、空気が圧縮されたタイミングに限らず、その他のタイミングで噴霧されてもよい。
【0041】
このとき、エゼクタ用コンプレッサ15のピストン15bも同様に押し上げられ、図示しないECUの指示により排出用バルブ15eが開いて、排気口15fを介してシリンダ15a内の水素(燃料電池2で反応しなかった水素)が配管16fへ排出され、燃料電池2へ送られる。
【0042】
なお、前記したように、このとき生じた回転力はクランクシャフト51を介して、ウォータポンプ34などの補機や、車輪の駆動などに利用することができる。つまり、空気圧縮以外の動力源として使用することができる。
【0043】
次に、図3に示すように、図示しないECUの指示によりコンプレッサ23の排気用バルブ23eが開き、圧縮された空気が配管23hを介して配管24cへ排出され、燃料電池2へ供給される。
【0044】
そして、ECUの指示で図示しない高圧噴射装置内蔵バルブが閉じると、エキスパンダ13への水素の流入が停止し、図4に示すように、図2における動作の慣性でコンプレッサ23のピストン23bが押し下げられ、エキスパンダ13のシリンダ13bは押し上げられる。
このとき、図示しないECUの指示によりコンプレッサ23の吸気バルブ23dが開いて、配管24bを通って外気から供給される空気が、吸入口23gを介してシリンダ23a内に流入すると同時に、エキスパンダ13のバルブ13dが開き、排気口13fを介してエキスパンダ13内の水素が配管16cへ排出され、燃料電池2へ供給される。
このときの慣性力は、エキスパンダ13・コンプレッサ23の外部に備えられている図示しないフライホイールによって生じさせてもよいし、エキスパンダ13を多気筒化し、高圧水素供給の位相をずらすことなどによって、他のエキスパンダ13のエネルギを利用するようにしてもよい。
【0045】
このとき、エキスパンダ13およびコンプレッサ23の各気筒における圧縮・膨張行程の位相を120°ずつずらすと良好な動作を得ることができる。つまり、コンプレッサ23側について120°ずつ、エキスパンダ13側について120°ずつずらすと、連続的な動作を得ることができる。
【0046】
このとき、エゼクタ用コンプレッサ15のピストン15bも押し下げられ、図示しないECUの指示により吸入用バルブ15dが開いて、燃料電池2において反応しなかった水素が排出水素タンク14から配管16eを通って、吸入口15gを介してシリンダ15a内に流入する。
【0047】
そして、行程は図2の行程にもどり、以下図2〜図4の行程が繰り返される。
なお、本実施形態では、エゼクタ用コンプレッサ15の動作において、エキスパンダ13が水素を排出するときに、水素をシリンダ15a内に流入させ、エキスパンダ13が水素をシリンダ13aに吸入するときに、水素を排出するようにしたが、これに限らない。しかしながら、エキスパンダ13から排出された水素と、エゼクタ用コンプレッサ15から排出された水素とが配管16c(図1)内で干渉しないようなタイミングで動作することが望ましい。
【0048】
(冷却系における動作の詳細な説明)
次に、再び図2を参照して、本実施形態に係る冷却系の動作について詳細に説明する。
図2におけるコンプレッサ23での空気の圧縮により、空気の温度が上昇する。コンプレッサ23には、前記したように配管35e内を冷媒が流れているが、圧縮による温度上昇にともない、この冷媒の温度も上昇する。
一方、前記したようにエキスパンダ13内にも配管35e内を通じて冷媒が流れているが、この冷媒はコンプレッサ23内を通過した冷媒であり、温度が高い状態となっている。エキスパンダ13内における水素の温度は膨張によって低下するが、温度の高くなっている冷媒によって温度が高くなる。これにより、水素を暖めることができる。暖められた水素は、さらに膨張するので、コンプレッサ23へ伝達する動力を増加させることができ、燃料電池システム1全体のエネルギ効率をさらに向上させることができる。
逆に、冷媒は、水素に温度を与えることによって温度が低下し、その状態で燃料電池2へ送られることにより、燃料電池2の冷却を行うことになる。
【0049】
このように、膨張した水素と圧縮された空気との間で熱交換することにより、本実施形態における燃料電池システム1は、アノード系およびカソード系それぞれにおける温度制御用熱交換器が不要となり、また、ラジエータ33を小さくすることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、ラジエータ33を、燃料電池2とコンプレッサ23との間に配置しているが、これに限らず、例えばウォータポンプ34の排出側と、燃料電池2との間に配置してもよい。このようにすることで、エキスパンダ13で冷却された冷却水を、ラジエータ33でさらに冷却することができ、効率的な冷却が可能となる。
【0051】
また、本実施形態では、クランクシャフト51がウォータポンプ34や、クラッチ52を介して車輪に接続されているが、これに限らず、オルタネータ、潤滑油循環ポンプ、燃料昇圧ポンプ、カム駆動用チェーンなどの補機や、駆動用のモータなどに接続されていてもよい。
【0052】
さらに、エキスパンダ13、コンプレッサ23に設置されている各バルブ13d,23d,23eの開閉タイミングを図示しない制御装置によって制御してもよい。このようにすることで、水素や、酸素の供給圧力を変化させたり、燃料電池2が停止した後の酸素拡散を制限することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、エキスパンダ13に高圧水素が供給されると、コンプレッサ23の空気が圧縮される構成となっているが、エキスパンダ13に高圧水素が供給されると、コンプレッサ23のピストン23bが下がり、空気が導入されるようにクランクシャフト51の形状を調節してもよい。つまり、エキスパンダ13への高圧水素の供給と、コンプレッサ23への空気の導入が同期するようにクランクシャフト51の形状を調節してもよい。
【0054】
本実施形態に係る燃料電池システム1によれば、高圧水素を膨張させるエネルギで空気を圧縮するため、水素タンク11における圧力エネルギを空気の圧縮に利用することによって、燃料電池システム1のエネルギ効率を向上させることができる。
また、燃料ガスである水素の膨張による温度低下、酸化剤ガスである空気の圧縮による温度上昇を、コンロッド13c、23c、クランクシャフト51(つまり、往復動容積型エンジンの筐体)を介してエキスパンダ13、コンプレッサ23に伝えることができ、空気の圧縮による温度上昇を利用した水素の暖気、水素の膨張による温度低下を利用した空気の冷却を行うことが可能となる。これは、膨張・圧縮の概念がない特許文献1および特許文献2に記載のタービンから導出することのできない効果である。
【0055】
また、エキスパンダ13・コンプレッサ23と接続しているクランクシャフト51に、車輪や、ウォータポンプ34などの補機を接続することにより、水素タンク11における圧力エネルギを、車輪や、補機などの駆動に利用することができ、燃料電池システム1のエネルギ効率をさらに向上させることができる。つまり、水素タンク11における圧力エネルギから生じる動力を、空気圧縮以外の動力源とすることができる。
冷却系の冷媒をエキスパンダ13の筐体内流路に通過させることにより、水素が膨張したときの温度低下を燃料電池システム1の冷却に利用することができ、ラジエータ33などの温度制御用熱交換器を小型化もしくは不要とすることができる。
このように、専用モータをもつエアポンプを不要とすることで、エアポンプを駆動・制御する装置も不要となり、更に、ラジエータ33を小型化もしくは不要とすることで、コストダウン、車体の軽量化・小型化が可能となる。
また、既存のレシプロエンジンを利用することで、不要となったレシプロエンジンのリサイクルが可能となり、さらなるコストダウンを図ることもできる。
さらに、既存のレシプロエンジンは、アルミニウム鋳物であるが、アルミニウムは軽量で、加工が容易である上、水素脆化にも強いため、車両の軽量化や、コストダウンをさらに図ることができる。
【0056】
また、エキスパンダ13およびコンプレッサ23における水素・空気の流入をバルブ13d,23d、23eで制御することにより、燃料電池2が停止したとき、このバルブ13d,23d、23eを閉じることで水素・空気の供給を停止することができる。従って、燃料電池2の停止時における水素・空気の供給停止のための制御が不要となる。
【符号の説明】
【0057】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
11 水素タンク(高圧燃料ガスタンク)
12 高圧噴射装置(燃料ガス供給流路)
13 エキスパンダ(往復動容積型膨張圧縮機、燃料ガス用シリンダ)
13a エキスパンダのシリンダ
13b エキスパンダのピストン
13c エキスパンダのコンロッド
13d エキスパンダのバルブ
14 排出水素タンク
15 エゼクタ用コンプレッサ
15a エゼクタ用コンプレッサのシリンダ
15b エゼクタ用コンプレッサのピストン
15c エゼクタ用コンプレッサのコンロッド
15d エゼクタ用コンプレッサの排出用バルブ
15e エゼクタ用コンプレッサの吸入用バルブ
16a〜16f アノード系の配管(燃料ガス供給流路を含む)
17,25 カム
19 リリーフ弁
21 インテーク
22 フィルタ
23 コンプレッサ(往復動容積型膨張圧縮機、酸化剤ガス用シリンダ)
23a コンプレッサのシリンダ
23b コンプレッサのピストン
23c コンプレッサのコンロッド
23d コンプレッサの吸入用バルブ
23e コンプレッサの排出用バルブ
23f インジェクタ
24a〜24c カソード系の配管(酸化剤ガス供給流路)
31 サーモスタット弁
32 イオン交換器
33 ラジエータ
34 ウォータポンプ
35a〜35b 冷却系の配管
41 気液分離装置
42 加湿ポンプ
51 クランクシャフト
52 クラッチ
61 換気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧燃料ガスタンクと、前記高圧燃料ガスタンクから放出された燃料ガスを燃料電池に供給する燃料ガス供給流路と、酸化剤ガスを前記燃料電池に供給する酸化剤ガス供給流路と、
を備える燃料電池システムであって、
少なくとも2気筒以上のシリンダを、クランクシャフトを介して動力伝達する往復動容積型膨張圧縮機をさらに備えており、
前記シリンダは、燃料ガス用シリンダおよび酸化剤ガス用シリンダであり、
燃料ガス供給流路は前記高圧燃料ガスタンクから放出された燃料ガスの膨張によりピストンを押圧する前記燃料ガス用シリンダを介して前記燃料電池に接続され、
酸化剤ガス供給流路は前記燃料ガス用シリンダの押圧によりピストンを押圧して、前記酸化剤ガスを圧縮および昇圧する酸化剤ガス用シリンダを介して前記燃料電池に接続されている
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記クランクシャフトを介して、伝達された動力は、空気圧縮以外の動力源に使用される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
少なくとも前記燃料ガス用シリンダを構成する筐体内に設置された冷却水通路には、前記燃料電池システムを冷却するための冷媒が循環している
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムを搭載した車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−109150(P2012−109150A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257980(P2010−257980)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】