説明

燃料電池システムの運転方法

【課題】性能低下を抑制しながら低加湿条件における運転を継続できる燃料電池システムの運転方法を提供する。
【解決手段】燃料ガスが供給されるアノード3aと酸素含有ガスが供給されるカソード3bとアノード3a及びカソード3bの間に設けられる電解質3cとを有する固体高分子形燃料電池セル3を備える燃料電池システムSの運転方法であって、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を検証する加湿状態検証工程と、加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む加湿状態調節工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスが供給されるアノードと酸素含有ガスが供給されるカソードと前記アノード及び前記カソードの間に設けられる電解質を有する固体高分子形燃料電池セルを備える燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池はセルを構成する電解質(固体高分子膜)及び電極部(アノード及びカソード)が湿潤することによって発電が可能となるため、固体高分子形燃料電池セルに供給するガスに水蒸気を混合するなど、電解質及び電極部を加湿して運転している。また、長期耐久性が求められる定置用途では、劣化抑制の観点から電池温度と固体高分子形燃料電池セルに供給するガスの露点とがほぼ同一の飽和加湿条件での運転が一般的である。
【0003】
これに対して、燃料電池システム内の加湿機能(例えば、アノード及びカソードに供給されるガスに水蒸気を含ませるバブラー装置など)を簡略化又は削除することによって、システムのコスト低減を図ることも行われている。例えば、非特許文献1に記載のように、飽和加湿条件ではない低加湿条件でも電池の劣化が抑制されるような開発が進められている。
このような低加湿条件においては、発電による生成水を如何に電池の湿潤に効率よく利用できるかが発電性能を引き出す上で重要である。そのため、非特許文献2に記載のように、電池の構成部材の最適化が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Eiji Endoh, ECS Transactions, 16(2), 1229 (2008)
【非特許文献2】西川, 中村, 松山, 柏, 第15回燃料電池シンポジウム講演予稿集, 123 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低加湿条件(例えば、アノード及びカソードに供給されるガスの少なくとも一方の露点が固体高分子形燃料電池セルの温度よりも10℃以上低い条件)で、生成水を効率よく利用して電池内部の湿潤を保ちながら燃料電池を運転させているとき、運転する条件や環境の変化により電池内部の湿潤状態が変わる可能性があり得る。湿潤が足りなくなれば電池の劣化は促進され、逆に湿潤が過度であれば結露が生じて水づまりによる性能低下が起こり得る。例えば、固体高分子形燃料電池セルに存在する水が必要量よりも少なくなると(即ち、水不足状態になると)、電解質における水素イオンの伝導性が悪くなる(即ち、抵抗が大きくなる)。或いは、固体高分子形燃料電池セルに存在する水が必要量以上に増えると(即ち、水過多状態になると)、アノード及びカソードを構成するガス拡散層の細孔内が水で塞がれてガスの拡散が阻害される。その結果、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧が低下したり、固体高分子形燃料電池セルが劣化したりするなどの問題が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、性能低下を抑制しながら低加湿条件における運転を継続できる燃料電池システムの運転方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る燃料電池システムの運転方法の特徴構成は、燃料ガスが供給されるアノードと酸素含有ガスが供給されるカソードと前記アノード及び前記カソードの間に設けられる電解質とを有する固体高分子形燃料電池セルを備える燃料電池システムの運転方法であって、
通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を検証する加湿状態検証工程と、
前記加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む加湿状態調節工程と、を有する点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、通常運転時において固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が変化するとしても加湿状態検証工程において加湿状態が検証され、更に、加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの何れにも調節可能である。つまり、加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程によって、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が適宜調節されるため、固体高分子形燃料電池セルの性能が継続的に維持される。特に、固体高分子形燃料電池セルに対して水分を供給するための特別な加湿機能(例えば、アノード及びカソードに供給されるガスに水蒸気を含ませるバブラー装置など)が簡略化され、又は備わっておらず、主に固体高分子形燃料電池セルでの発電時に生成される水で固体高分子形燃料電池セルの加湿が行われるような、低加湿条件で運転される燃料電池システムであっても、加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程によって、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を適切に調節できる。
従って、性能低下を抑制しながら低加湿条件における運転を継続できる燃料電池システムの運転方法を提供できる。
【0009】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の別の特徴構成は、前記加湿状態検証工程は、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げて又は下げて、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する工程である点にある。
【0010】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態及び水不足状態の何れであっても、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は、加湿状態が適正であるときの出力電圧よりも低下する。従って、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態から適正状態に向かって変化すると、及び、水不足状態から適正状態に向かって変化すると、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は上昇する。また、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態から更に水過多状態に向かって変化すると、及び、水不足状態から更に水不足状態に向かって変化すると、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は更に低下する。
また、固体高分子形燃料電池セルの温度を上げると、生成水の蒸発量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態は加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと移行する。逆に、固体高分子形燃料電池セルの温度を下げると、生成水の蒸発量がより少なくなるため、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態は加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと移行する。
【0011】
本特徴構成によれば、固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セルの温度を上げて固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する。又は、固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セルの温度を下げて固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する。つまり、加湿状態検証工程を実行することで、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を強制的に加湿減少方向又は加湿増大方向へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態に基づいて、強制的に変化させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態がどのような状態であったのかについての情報を得ることができる。
【0012】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の更に別の特徴構成は、
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を下げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を前記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることを行う工程である点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に上げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果(即ち、より乾燥させたときに加湿状態が適正状態に近づいたという結果)、及び、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果(即ち、より湿潤させたときに加湿状態が更に適正状態から離れたという結果)は、強制的に乾燥又は湿潤させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態であったことを示している。
【0014】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態であることを示している場合、上記加湿状態調節工程において、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)に移行させればよい。本特徴構成では、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げることで生成水の蒸発量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。また或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を上記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることで、発電反応が抑制されるのに伴って、新たに生成される水の量を少なくして且つ発電反応に用いられなかった燃料ガス及び酸素含有ガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。その結果、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態をより適正状態に近づけて運転させることができる。
【0015】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の更に別の特徴構成は、
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を下げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、前記通常運転時において前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う工程である点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に上げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果(即ち、より乾燥させたときに加湿状態が更に適正状態から離れたという結果)、及び、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果(即ち、より湿潤させたときに加湿状態が適正状態に近づいたという結果)は、強制的に乾燥又は湿潤させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水不足状態であったことを示している。
【0017】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水不足状態であることを示している場合、上記加湿状態調節工程において、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)に移行させればよい。本特徴構成では、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げることで生成水の蒸発量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向へと移行させる。或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向へと移行させる。その結果、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態をより適正状態に近づけて運転させることができる。
【0018】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の更に別の特徴構成は、
前記加湿状態検証工程は、
前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加又は減少させて、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する工程である点にある。
【0019】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態及び水不足状態の何れであっても、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は、加湿状態が適正であるときの出力電圧よりも低下する。従って、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態から適正状態に向かって変化すると、及び、水不足状態から適正状態に向かって変化すると、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は上昇する。また、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態から更に水過多状態に向かって変化すると、及び、水不足状態から更に水不足状態に向かって変化すると、固体高分子形燃料電池セルの出力電圧は更に低下する。
また、固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させると、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態は加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと移行する。逆に、固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させると、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量がより少なくなるため、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態は加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと移行する。
【0020】
本特徴構成によれば、固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させて固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する。又は、固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させて固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する。つまり、加湿状態検証工程を実行することで、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を強制的に加湿減少方向又は加湿増大方向へと変化させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態に基づいて、強制的に変化させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態がどのような状態であったのかについての情報を得ることができる。
【0021】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の更に別の特徴構成は、
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、前記通常運転時において前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、前記固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を前記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることを行う工程である点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を強制的に増加させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果(即ち、より乾燥させたときに加湿状態が適正状態に近づいたという結果)、及び、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を強制的に減少させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果(即ち、より湿潤させたときに加湿状態が更に適正状態から離れたという結果)は、強制的に乾燥又は湿潤させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態であったことを示している。
【0023】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水過多状態であることを示している場合、上記加湿状態調節工程において、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)に移行させればよい。本特徴構成では、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げることで生成水の蒸発量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。また或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を上記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることで、発電反応が抑制されるのに伴って、新たに生成される水の量を少なくして且つ発電反応に用いられなかった燃料ガス及び酸素含有ガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿減少方向へと移行させる。その結果、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態をより適正状態に近づけて運転させることができる。
【0024】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法の更に別の特徴構成は、
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きければ、及び、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きければ、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、前記通常運転時において前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う工程である点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を強制的に増加させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果(即ち、より乾燥させたときに加湿状態が更に適正状態から離れたという結果)、及び、上記加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セルへ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を強制的に減少させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果(即ち、より湿潤させたときに加湿状態が適正状態に近づいたという結果)は、強制的に乾燥又は湿潤させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水不足状態であったことを示している。
【0026】
固体高分子形燃料電池セルの加湿状態が水不足状態であることを示している場合、上記加湿状態調節工程において、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)に移行させればよい。本特徴構成では、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルの温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げることで生成水の蒸発量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向へと移行させる。或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セルの外部に持ち出される生成水の量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向へと移行させる。その結果、固体高分子形燃料電池セルの加湿状態をより適正状態に近づけて運転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を示すグラフである。
【図3】固体高分子形燃料電池セルの温度を強制的に上げたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を示すグラフである。
【図4】固体高分子形燃料電池セルへ供給されるガス流量を増加させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を示すグラフである。
【図5】固体高分子形燃料電池セルへ供給されるガス流量を減少させたときの固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下に図面を参照して第1実施形態の燃料電池システムの運転方法について説明する。
図1は、燃料電池システムの構成を説明する図である。燃料電池システムSは、燃料ガスが供給されるアノード3aと、酸素含有ガスが供給されるカソード3bと、アノード3a及びカソード3bの間に設けられる電解質(固体高分子膜)3cとを有する固体高分子形燃料電池セル3を備える。通常、複数個のセルが直列接続されてセルスタックを構成する。
【0029】
本実施形態において、アノード3aに供給される燃料ガスは燃料ガス供給部1で生成される。燃料ガス供給部1は、炭化水素(例えばメタン等)やアルコールなどの原燃料を水蒸気改質して水素を主成分とする燃料ガスを生成する装置である。尚、図1には示していないが、原燃料に対して、水蒸気改質において必要となる水蒸気が添加される。燃料ガス供給部1からアノード3aに供給される燃料ガスの流量は、燃料ガス供給部1に供給される原燃料の流量に応じて変化する。つまり、アノード3aに供給する燃料ガスの流量は、燃料ガス供給部1に供給する原燃料の流量によって調節できる。本実施形態では、制御部12が、燃料ガス供給部1に供給する原燃料の流量を、ポンプなどの流量調節手段(図示せず)の動作を制御して調節する。
【0030】
本実施形態において、カソード3bに供給される酸素含有ガスは、空気である。酸素含有ガス供給部2は、空気をカソード3bに送りこむことができるポンプなどである。本実施形態では、制御部12が、カソード3bに供給する酸素含有ガス(空気)の流量を、酸素含有ガス供給部2の動作を制御して調節する。
【0031】
固体高分子形燃料電池セル3では、通常運転時において、アノード3aに供給される水素(燃料ガス)が水素イオンとなって電解質3cを介してカソード3bに移動し、酸素含有ガス(空気)中の酸素と反応して水を生成する。このとき、アノード3aとカソード3bとを接続する電気回路中の負荷(図1では電力変換部8)に電流が流れる。電解質3cにおける水素イオンの伝導性は、電解質3cに水が存在している方が高くなる。本実施形態の燃料電池システムSには、固体高分子形燃料電池セル3を加湿する(上記の水蒸気改質のための加湿を除く)ための特別の仕組みは設けられていない。具体的には、本実施形態の燃料電池システムSには、アノード3a及びカソード3bに供給されるガスに水蒸気を含ませる特別な装置(例えば、バブラー装置)などは設けられていない。
【0032】
なお、本実施形態に係る燃料電池システムSでは、水蒸気改質後の燃料ガス(水素)の露点は30〜40℃程度となる。上記のとおり、燃料ガス(水素)はその後特に加湿されることなく固体高分子形燃料電池セル3に供給される。一方、通常運転時には、固体高分子形燃料電池セル3の温度は70〜80℃程度に維持される。そのため、本実施形態に係る燃料電池システムSは、低加湿条件で通常運転が行われている。本実施形態において、低加湿条件とは、アノード3a及びカソード3bに供給されるガスの少なくとも一方の露点が固体高分子形燃料電池セル3の温度よりも10℃以上低い条件である。このような低加湿条件下では、通常運転時(発電時)においてカソード3bで生成される水(生成水)が、固体高分子形燃料電池セル3を加湿するための主要な水となる。
【0033】
固体高分子形燃料電池セル3の直流出力は電力変換部8において適当な電力に変換された上で負荷部11に供給される。固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は電圧計9によって計測され、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流は電流計10によって計測される。電力変換部8は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定値に保とうとする電流保持機能を有する。
【0034】
〔固体高分子形燃料電池セルの温度調節〕
制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の温度を調節できる。本実施形態では、燃料電池システムSは、固体高分子形燃料電池セル3を冷却可能な冷却手段Cを備える。
【0035】
冷却手段Cは、冷却水としての湯水が貯められた貯湯部6と、固体高分子形燃料電池セル3で発生される熱と湯水(冷却水)との熱交換が行われる熱交換部4と、貯湯部6に貯湯されている低温の湯水(冷却水)が熱交換部4を流通して再び貯湯部6に戻るように循環する冷却水循環路13と、冷却水循環路13における湯水の流量を調節するポンプ7とを備える。冷却水循環路13における湯水の流量が多くなると、固体高分子形燃料電池セル3の冷却が促進されて固体高分子形燃料電池セル3の温度が低下する。逆に、冷却水循環路13における湯水の流量が少なくなると、固体高分子形燃料電池セル3の冷却が抑制されて固体高分子形燃料電池セル3の温度が上昇する。制御部12は、ポンプ7の動作を制御して、冷却水循環路13における湯水の流量を調節できる。つまり、制御部12は、ポンプ7の動作を制御して、固体高分子形燃料電池セル3の温度を調節できる。
【0036】
〔固体高分子形燃料電池セルの加湿状態〕
上述のように、燃料電池システムSでは、固体高分子形燃料電池セル3での発電による生成水で固体高分子形燃料電池セル3自身の加湿を行う。そのためには、生成水が固体高分子形燃料電池セル3で有効に利用される必要がある。つまり、生成水が固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出されないようにすることが好ましい。固体高分子形燃料電池セル3の内部では、カソード3bで生成された生成水が、カソード3bの近傍のみに留まるのではなく、電解質3c及びアノード3aにまで浸透する。そして、通常運転時において、生成水は、アノード3aにおいて燃料ガスと常時接触し、カソード3bにおいて空気と常時接触する。その結果、アノード3aから排出されるガスによって、アノード3aの近傍に存在している生成水が固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出され、カソード3bから排出されるガスによって、カソード3bの近傍に存在している生成水が固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される。
【0037】
制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態をより加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと移行させることができる。例えば、制御部12は、上記冷却手段Cの動作を制御して通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げることで生成水の蒸発量をより多くして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿減少方向へと移行させることができる。或いは、制御部12は、上記燃料ガス供給部1及び上記酸素含有ガス供給部2の少なくとも何れか一方の動作を制御して通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を増加させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿減少方向へと移行させることができる。また或いは、制御部12は、上記電力変換部8の動作を制御して通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の電流負荷をより低くすることで、発電反応が抑制されるのに伴って、新たに生成される水の量を少なくして且つ発電反応に用いられなかった燃料ガス及び酸素含有ガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量をより多くして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿減少方向へと移行させることができる。
【0038】
或いは、制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態をより加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと移行させることができる。例えば、制御部12は、上記冷却手段Cの動作を制御して通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を下げることで生成水の蒸発量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向へと移行させることができる。或いは、制御部12は、上記燃料ガス供給部1及び上記酸素含有ガス供給部2の少なくとも何れか一方の動作を制御して通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を減少させることで、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量をより少なくして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向へと移行させることができる。
【0039】
〔加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程〕
第1実施形態の燃料電池システムSの運転方法では、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を検証する加湿状態検証工程と、その加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む加湿状態調節工程とが行われる。制御部12は、加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程を、例えば1週間や1ヶ月などの所定期間に1回などの頻度で実行する。このように、一定期間毎にこれらの処理を実行するのは、燃料電池システムSの特性(湿潤特性)の変化が経時的に発生するためである。
【0040】
加湿状態検証工程は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を検証する工程である。固体高分子形燃料電池セル3に存在する水が増えて水過多状態になると、アノード3a及びカソード3bを構成するガス拡散層の細孔内が水で塞がれてガスの拡散が阻害される。その結果、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が低下するという問題が発生する。或いは、固体高分子形燃料電池セル3に存在する水が少なくなって水不足状態になると、電解質3cにおける水素イオンの伝導性が悪くなる(即ち、抵抗が大きくなる)。その結果、同様に、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が低下するという問題が発生する。この加湿状態検証工程は、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が、適正状態にあるのか、又は、水過多状態にあるのか、又は、水不足状態にあるのか、を検証可能な指標を得る工程である。
【0041】
本実施形態において、加湿状態検証工程は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げて又は下げて、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視する工程である。具体的には、制御部12は、燃料電池システムSの通常運転時において電力変換部8の電流保持機能を働かせて固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま、冷却手段Cの動作状態を調節して固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げる又は下げる。それと共に、制御部12は、電圧計9の検出結果を参照して、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視する。
【0042】
図2及び図3には、加湿状態検証工程として、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げて又は強制的に下げて固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視したときの結果を示す。図から分かるように、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は固体高分子形燃料電池セル3の状態(水過多状態、適正状態、水不足状態など)に応じて変化し、固体高分子形燃料電池セル3の温度の変化に対して時間的に大幅に遅れることなく固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧も変化する。
【0043】
図2は、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を示すグラフである。固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げたということは、生成水の蒸発量がより少なくなるようにして、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと強制的に変化させたことを意味する。通常、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水過多状態及び水不足状態の何れであっても、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は、加湿状態が適正であるときの出力電圧よりも低下する。従って、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水不足状態から加湿増大方向(より湿潤させて適正状態に向かう方向)に変化すると、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は上昇する。また、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水過多状態から加湿増大方向(より湿潤させて更に水過多状態に向かう方向)に変化すると、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は更に低下する。
【0044】
図2に示す状態Aは、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいことから、強制的に温度を下げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は水不足状態であったと判定できる。
図2に示す状態Bは、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいことから、強制的に温度を下げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は水過多状態であったと判定できる。
尚、図2には示さないが、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合い及び低下度合いが小さいとき、強制的に温度を下げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は、上記水不足状態及び上記水過多状態の何れでもなく、適正状態であったと判定できる。
【0045】
図3は、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を示すグラフである。固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げたということは、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと強制的に変化させたことを意味する。従って、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水過多状態から加湿減少方向(より乾燥させて適正状態に向かう方向)に変化すると、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は上昇する。また、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水不足状態から加湿減少方向(より乾燥させて更に水不足状態に向かう方向)に変化すると、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は更に低下する。
【0046】
図3に示す状態Cは、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げたことで固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が上昇度合いが大きいことから、強制的に温度を上げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は水過多状態であったと判定できる。
図3に示す状態Dは、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げたことで固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が低下度合いが大きいことから、強制的に温度を上げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は水不足状態であったと判定できる。
尚、図3には示さないが、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合い及び低下度合いが小さいとき、強制的に温度を上げる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は、上記水不足状態及び上記水過多状態の何れでもなく、適正状態であったと判定できる。
【0047】
以上のように、制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げて又は強制的に下げて固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視する加湿状態検証制御を行う。
【0048】
次に、加湿状態調節工程について説明する。
加湿状態調節工程は、上記加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を調節する工程であり、加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む。
【0049】
上記加湿状態検証工程の検証結果が、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水不足状態であることを示している場合、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向(より湿潤させる方向)に移行させればよい。
加湿状態調節工程において、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、通常運転時において固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行えばよい。例えば、固体高分子形燃料電池セル3の温度を下げると生成水の蒸発量がより少なくなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿増大方向へと移行する。また、固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を減少させると、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量がより少なくなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿増大方向へと移行する。
【0050】
具体的には、制御部12は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を下げたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、通常運転時において固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う。制御部12は、このような調節を行うに際して、予め記憶しているステップ量だけ調節対象の物理量(温度量、ガス流量)が変化するように、冷却手段C、燃料ガス供給部1、酸素含有ガス供給部2、電力変換部8などの動作状態を調節する。
【0051】
例えば、制御部12は、上記電力変換部8の動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま、上記冷却手段Cの動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の温度を5℃(温度変化速度は0.5℃/分)下げたときに、電圧計9で計測される固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が第1設定電圧(例えば、10mV)以上上昇した場合、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいと判定する。或いは、制御部12は、上記電力変換部8の動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま、上記冷却手段Cの動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の温度を5℃(温度変化速度は0.5℃/分)上げたときに、電圧計9で計測される固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が第2設定電圧(例えば、10mV)以上低下した場合、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいと判定する。上記第1設定電圧及び上記第2設定電圧は固体高分子形燃料電池セル3の特性に応じて適宜設定される。制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の温度を温度センサ(図示せず)によって知ることができる。
尚、制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが上記第1設定電圧未満の場合、及び、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが上記第2設定電圧未満の場合、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は適正状態であったと判定する。
【0052】
上記加湿状態検証工程の検証結果が、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が水過多状態であることを示している場合、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿減少方向(より乾燥させる方向)に移行させればよい。
加湿状態調節工程において、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を上記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、通常運転時において固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を上記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の電流負荷を上記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすること、を行えばよい。例えば、固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げると生成水の蒸発量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿減少方向へと移行する。また、固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を増加させると、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿減少方向へと移行する。また或いは、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の電流負荷を低くすると、発電反応が抑制されるのに伴って、新たに生成される水の量を少なくして且つ発電反応に用いられなかった燃料ガス及び酸素含有ガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿減少方向へと移行する。
【0053】
具体的には、制御部12は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を下げたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の電流負荷を加湿状態検証工程の実行前よりも低くすることを行う。制御部12は、このような調節を行うに際して、予め記憶しているステップ量だけ調節対象の物理量(温度量、ガス流量、電流負荷量)が変化するように、冷却手段C、燃料ガス供給部1、酸素含有ガス供給部2、電力変換部8などの動作状態を調節する。
【0054】
例えば、制御部12は、上記電力変換部8の動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま、上記冷却手段Cの動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の温度を5℃(温度変化速度は0.5℃/分)上げたときに、電圧計9で計測される固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が第3設定電圧(例えば、10mV)以上上昇した場合、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいと判定する。或いは、制御部12は、上記電力変換部8の動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま、上記冷却手段Cの動作を制御して固体高分子形燃料電池セル3の温度を5℃(温度変化速度は0.5℃/分)下げたときに、電圧計9で計測される固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が第4設定電圧(例えば、10mV)以上低下した場合、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいと判定する。上記第3設定電圧及び上記第4設定電圧は固体高分子形燃料電池セル3の特性に応じて適宜設定される。
尚、制御部12は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが上記第3設定電圧未満の場合、及び、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが上記第4設定電圧未満の場合、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は適正状態であったと判定する。
【0055】
加えて、制御部12は、上述したような加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程を実行した後、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が最適状態になるまで、同様の加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程を繰り返してもよい。加湿状態検証工程及び加湿状態調節工程を繰り返し行うことで、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態をより最適な状態に近づけることができる。
【0056】
以上のように、制御部12は、上記加湿状態検証制御の検証結果に基づいて、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む加湿状態調節制御を行う。従って、加湿状態検証制御及び加湿状態調節制御によって、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態が適宜調節されるため、固体高分子形燃料電池セル3の性能が継続的に維持される。特に、固体高分子形燃料電池セル3に対して水分を供給するための特別な加湿機能(例えば、アノード3a及びカソード3bに供給されるガスに水蒸気を含ませるバブラー装置など)を備えておらず、固体高分子形燃料電池セル3での発電時に生成される水で固体高分子形燃料電池セル3の加湿が行われるような、低加湿条件で運転される燃料電池システムSであっても、加湿状態検証制御及び加湿状態調節制御によって、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態を適切に調節できる。
【0057】
<第2実施形態>
第2実施形態の燃料電池システムの運転方法は、加湿状態検証工程で行われる制御内容が上記第1実施形態の加湿状態検証工程と異なっている。以下に、第2実施形態の燃料電池システムの運転方法について説明するが、第1実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0058】
固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させると、ガス利用率の低下に伴って、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は一旦上昇する。その後、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量がより多くなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿減少方向(より乾燥させる方向)へと移行する。つまり、本実施形態において「固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させること」は、ガス利用率の低下に伴う出力電圧の上昇を除いて考えると、第1実施形態で説明した「固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げること」と同様の作用をもたらす。
【0059】
図4は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときの、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を示すグラフである。この場合における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は、第1実施形態において図3に示したものに類似する変化を示す。燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させると、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態によらずにその出力電圧は一旦上昇する(ここでは、これを「初期上昇」と称する。)。その後、燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態に応じて、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は異なる態様で変化する。この点に関しては第1実施形態と同様であるので、図4において、第1実施形態における図3で使用した「状態C」及び「状態D」を用いて表示することで、ここでは詳細な説明は省略する。
【0060】
逆に、固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させると、ガス利用率の上昇に伴って、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は一旦低下する。その後、それらのガスによって固体高分子形燃料電池セル3の外部に持ち出される生成水の量がより少なくなるため、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態は加湿増大方向(より湿潤させる方向)へと移行する。つまり、本実施形態において「固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させること」は、ガス利用率の上昇に伴う出力電圧の低下を除いて考えると、第1実施形態で説明した「固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を下げること」と同様の作用をもたらす。
【0061】
図5は、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときの、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を示すグラフである。この場合における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は、第1実施形態において図2に示したものに類似する変化を示す。燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させると、固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態によらずにその出力電圧は一旦低下する(ここでは、これを「初期低下」と称する。)。その後、燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させる前の固体高分子形燃料電池セル3の加湿状態に応じて、固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧は異なる態様で変化する。この点に関しては第1実施形態と同様であるので、図5において、第1実施形態における図2で使用した「状態A」及び「状態B」を用いて表示することで、ここでは詳細な説明は省略する。
【0062】
本実施形態の加湿状態調節工程において、制御部12は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の電流負荷を加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることを行う。
【0063】
或いは、本実施形態の加湿状態調節工程において、制御部12は、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の低下度合いが大きければ、及び、加湿状態検証工程において固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の上昇度合いが大きければ、通常運転時における固体高分子形燃料電池セル3の温度を加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、通常運転時において固体高分子形燃料電池セル3に供給する燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う。
【0064】
なお、これらの場合において、固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を変化させたときの固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化度合いを判定するに際しては、ガス流量の変化方向に応じて上記初期上昇後における出力電圧又は上記初期低下後における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧を基準とすることができる。或いは、例えば上記初期上昇及び上記初期低下による出力電圧の変化量が、その後の固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化量よりも十分に小さい場合等には、燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を変化させる前における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧を基準とすることも可能である。
【0065】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、加湿状態検証工程において、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3の温度を上げた場合の固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視する例、又は、温度を下げた場合の固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視する例について説明したが、温度を上げ下げしたときの両方の場合における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視してもよい。同様に、加湿状態検証工程において、固体高分子形燃料電池セル3の出力電流を一定に保持したまま固体高分子形燃料電池セル3へ供給される燃料ガス及び酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加及び減少させたときの両方の場合における固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧の変化状態を監視してもよい。
【0066】
例えば、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に上げた場合の固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が図3に例示した状態Dのような変化を示し、且つ、固体高分子形燃料電池セル3の温度を強制的に下げた場合の固体高分子形燃料電池セル3の出力電圧が図2に例示した状態Aのような変化を示したとき、強制的に温度を変化させる前の固体高分子形燃料電池セルの加湿状態は水不足状態であったと判定できる。
【0067】
<2>
上記実施形態では、冷却水を用いて固体高分子形燃料電池セル3の温度を調節可能な水冷式の冷却手段Cを例示したが、他の構成の冷却手段を用いてもよい。また、固体高分子形燃料電池セル3の温度を調節するため、冷却手段Cとは異なる他の構成の温度調節手段を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、低加湿条件において運転されるような燃料電池システムに利用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 燃料ガス供給部
2 酸素含有ガス供給部
3 固体高分子形燃料電池セル
3a アノード
3b カソード
3c 電解質
4 熱交換部
8 電力変換部
12 制御部
13 冷却水循環路
C 冷却手段
S 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスが供給されるアノードと酸素含有ガスが供給されるカソードと前記アノード及び前記カソードの間に設けられる電解質とを有する固体高分子形燃料電池セルを備える燃料電池システムの運転方法であって、
通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を検証する加湿状態検証工程と、
前記加湿状態検証工程の検証結果に基づいて、通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの加湿状態を加湿増大方向に調節すること及び加湿減少方向に調節することの両方を含む加湿状態調節工程と、を有する燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
前記加湿状態検証工程は、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げて又は下げて、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する工程である請求項1記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項3】
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を下げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を前記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることを行う工程である請求項2記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項4】
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を上げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルの温度を下げたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、前記通常運転時において前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う工程である請求項2又は3記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項5】
前記加湿状態検証工程は、
前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加又は減少させて、前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の変化状態を監視する工程である請求項1記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項6】
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きいという検証結果が得られれば、又は、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きいという検証結果が得られれば、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも上げること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも増加させること、又は、前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの電流負荷を前記加湿状態検証工程の実行前の電流負荷よりも低くすることを行う工程である請求項5記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項7】
前記加湿状態調節工程は、
前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を増加させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の低下度合いが大きければ、及び、前記加湿状態検証工程において前記固体高分子形燃料電池セルの出力電流を一定に保持したまま前記固体高分子形燃料電池セルへ供給される前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも一方の流量を減少させたときに前記固体高分子形燃料電池セルの出力電圧の上昇度合いが大きければ、
前記通常運転時における前記固体高分子形燃料電池セルの温度を前記加湿状態検証工程の実行前の温度よりも下げること、又は、前記通常運転時において前記固体高分子形燃料電池セルに供給する前記燃料ガス及び前記酸素含有ガスの少なくとも何れか一方の流量を前記加湿状態検証工程の実行前の流量よりも減少させることを行う工程である請求項5又は6記載の燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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