説明

燃料電池システム及びその運転停止方法

【課題】経済的な構成及び工程で、電極面内の酸素濃度分布を低減させることができ、電解質膜の劣化を可及的に抑制することを可能にする。
【解決手段】燃料電池システム10は、燃料電池12と、前記燃料電池12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、前記燃料電池12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16とを備える。酸化剤ガス供給装置14は、燃料電池12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給配管38と、前記燃料電池12から前記酸化剤ガスを排出するとともに、前記燃料電池12の運転が停止された後、大気圧に開放される酸化剤ガス排出配管44と、前記燃料電池12の運転が停止された後、前記酸化剤ガス供給配管38を大気に開放する大気開放手段43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池と、前記燃料電池のカソード側に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置とを備える燃料電池システム及びその運転停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極構造体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0003】
燃料電池は、通常、複数積層されて燃料電池スタックを構成するとともに、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれることにより、車載用燃料電池システムとして使用されている。
【0004】
この種の燃料電池では、発電時に水が生成されており、発電が停止されると、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路の下流側に生成水が滞留し易い。そして、燃料電池の停止時に、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路に空気による掃気が行われる場合、起動時に、特に前記酸化剤ガス流路の下流側で高電位によりカソード側電極の劣化が惹起されるという問題がある。
【0005】
具体的には、図10に示すように、固体高分子電解質膜1がカソード電極2及びアノード電極3に挟持された電解質膜・電極構造体4には、前記カソード電極2側に酸化剤ガス流路5が設けられる一方、前記アノード電極3側に燃料ガス流路6が設けられている。発電停止時には、酸化剤ガス流路5及び燃料ガス流路6に空気による掃気が行われている。
【0006】
そこで、酸化剤ガス流路5の上流側から下流側に酸化剤ガス(空気)が供給される一方、燃料ガス流路6の上流側から下流側に燃料ガス(水素ガス)が供給されると、反応A、反応B、反応C及び反応Dの順に電位挙動が発生する。
【0007】
すなわち、燃料ガス流路6の上流側では、燃料ガスが供給されることにより、H→2H+2eの反応Aが惹起され、この2Hは、電解質膜・電極構造体4を透過して酸化剤ガス流路5側に移動する。酸化剤ガス流路5では、酸化剤ガスが供給されており、1/2O+2H+2e→HOの反応Bが発生する。
【0008】
酸化剤ガス流路5の下流側では、残存している水分により、HO→1/2O+2H+2e及びHO+1/2C(電極触媒層中のC)→1/2CO+2H+2eの反応Cが惹起される。一方、燃料ガス流路6の下流側では、酸化剤ガス流路5の下流側から透過する2Hにより、1/2O+2H+2e→HOの反応Dが発生する。反応Cは、律速段階となっており、水分が多くなることによって全ての反応A〜反応Dが促進され、高電位が発生する。
【0009】
従って、カソード電極2から白金が溶出し、溶出した前記白金が固体高分子電解質膜1中で還元されて金属に戻り、白金バンドが形成される。このため、白金バンド上で固体高分子電解質膜1を透過して水素分子と酸素分子とが反応することにより、例えば、ヒドロキシラジカル(OHラジカル)が発生し、前記固体高分子電解質膜1を劣化させるという問題がある。
【0010】
OHラジカル反応は、触媒上での水素分子と酸素分子との反応により発生するものであり、上記の白金バンドの他、例えば、アノード側ガスライン系内から膜透過した水素分子が、カソード電極中で酸素分子と反応して発生するものがある。また、カソード側ガスライン系内から膜透過した酸素分子が、アノード電極中で水素分子と反応して発生するものがある。
【0011】
そこで、この種のOHラジカル反応を抑制するために、例えば、特許文献1に開示されているシステムが知られている。このシステムでは、図11に示すように、アノード触媒1aに隣接して流れるように水素燃料を導くためのアノード流路2aが、前記アノード触媒1aと流体連通し、燃料電池3aのカソード触媒4aに隣接して流れるように酸化剤を導くためのカソード流路5aが、前記カソード触媒4aに流体連通している。
【0012】
水素燃料は、アノード流路2aとカソード流路5aの間で移送されている。燃料電池3aの動作の間に水素を受け入れ、且つ、貯蔵し、前記燃料電池3aが運転停止されるときは、常に、水素を該燃料電池3aに放出させるために水素貯蔵器6aがアノード流路2aと流体連通して取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007−534108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の特許文献1では、燃料電池3aの運転が停止されるときに、アノード流路2a及びカソード流路5aに水素が供給されている。このため、水素が無駄に消費されてしまい、不経済であるとともに、前記運転停止時に供給された水素を希釈して大気に放出させる必要がある。このため、希釈構造が大型且つ複雑化するという問題がある。
【0015】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、経済的な構成及び工程で、電極面内の酸素濃度分布を低減させることができ、電解質膜の劣化を可及的に抑制することが可能な燃料電池システム及びその運転停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池と、前記燃料電池のカソード側に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置とを備える燃料電池システム及びその運転停止方法に関するものである。
【0017】
この運転停止方法は、酸化剤ガス供給装置を構成する酸化剤ガス供給配管から燃料電池に酸化剤ガスを供給する一方、前記燃料ガス供給装置を構成する燃料ガス供給配管から前記燃料電池に燃料ガスを供給して発電を行うとともに、前記燃料電池から前記酸化剤ガス供給装置を構成する酸化剤ガス排出配管に前記酸化剤ガスを排出する一方、前記燃料電池から前記燃料ガス供給装置を構成する燃料ガス排出配管に前記燃料ガスを排出する発電工程と、前記燃料電池の運転が停止された後、前記酸化剤ガス排出配管及び前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放する大気開放工程とを有している。
【0018】
また、この運転停止方法では、酸化剤ガス供給配管に配設される開閉弁を開放することにより、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放することが好ましい。
【0019】
さらに、この運転停止方法では、酸化剤ガス排出配管は、バイパス流路を介して酸化剤ガス供給配管に連通することにより、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放することが好ましい。
【0020】
さらにまた、この燃料電池システムでは、燃料ガス供給装置は、燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給配管と、前記燃料電池から前記燃料ガスを排出する燃料ガス排出配管とを備えている。
【0021】
そして、酸化剤ガス供給装置は、燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給配管と、前記燃料電池から前記酸化剤ガスを排出するとともに、前記燃料電池の運転が停止された後、大気圧に開放される酸化剤ガス排出配管と、前記燃料電池の運転が停止された後、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放する大気開放手段とを備えている。
【0022】
さらに、この燃料電池システムでは、大気開放手段は、酸化剤ガス供給配管に配設される開閉弁を備えることが好ましい。
【0023】
さらにまた、この燃料電池システムでは、大気開放手段は、酸化剤ガス排出配管と酸化剤ガス供給配管とを連通させるバイパス流路を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、燃料電池の運転が停止された後、酸化剤ガス排出配管及び酸化剤ガス供給配管が、大気に開放される。このため、燃料電池の入口側と出口側とに、電解質膜の膜劣化反応を分散させることが可能になる。しかも、含水量が多い下流側の劣化を抑制することができる。従って、簡単且つ経済的な構成及び工程で、電極面内の酸素濃度分布を低減させることができ、電解質膜の劣化を可及的に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図2】前記燃料電池システムによる第1の実施形態に係る運転停止方法を説明するフローチャートである。
【図3】前記運転停止方法を行った際、酸化剤ガス流路における酸素濃度及び膜劣化量の関係図である。
【図4】従来方法を行った際、前記酸化剤ガス流路における酸素濃度及び膜劣化量の関係図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図6】前記燃料電池システムによる第2の実施形態に係る運転停止方法を説明するフローチャートである。
【図7】前記運転停止方法を行った際、前記酸化剤ガス流路における酸素濃度及び膜劣化量の関係図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図9】前記燃料電池システムによる第3の実施形態に係る運転停止方法を説明するフローチャートである。
【図10】起動時の燃料電池内部の電位挙動の説明図である。
【図11】特許文献1に開示されているシステムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システム10は、例えば、車載用燃料電池システムを構成し、燃料電池電気自動車(図示せず)に搭載される。
【0027】
燃料電池システム10は、燃料電池12と、前記燃料電池12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、前記燃料電池12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、前記燃料電池12に冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置(図示せず)と、前記燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ18とを備える。
【0028】
燃料電池12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜20をカソード電極22とアノード電極24とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)26を備える。
【0029】
カソード電極22及びアノード電極24は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜20の両面に形成される。
【0030】
燃料電池12は、電解質膜・電極構造体26のカソード電極22に沿って酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう)を供給するための酸化剤ガス流路28と、前記電解質膜・電極構造体26のアノード電極24に沿って燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給するための燃料ガス流路30とを有する。
【0031】
酸化剤ガス流路28の入口側には、酸化剤ガス入口連通孔32aが連通するとともに、前記酸化剤ガス流路28の出口側には、酸化剤ガス出口連通孔32bが連通する。燃料ガス流路30の入口側には、燃料ガス入口連通孔34aが連通するとともに、前記燃料ガス流路30の出口側には、燃料ガス出口連通孔34bが連通する。
【0032】
なお、酸化剤ガス流路28及び燃料ガス流路30は、それぞれセパレータ(図示せず)により形成されるとともに、複数の燃料電池12が積層されて燃料電池スタックを構成している。
【0033】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ(又はスーパーチャージャ)36を備え、前記エアポンプ36は、酸化剤ガス供給配管38に配設される。酸化剤ガス供給配管38は、燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aに連通するとともに、前記酸化剤ガス入口連通孔32aの近傍で分岐配管40が分岐する。分岐配管40には、開閉弁42が配設されており、大気開放手段43が構成される。
【0034】
酸化剤ガス供給装置14は、燃料電池12の酸化剤ガス出口連通孔32bに連通する酸化剤ガス排出配管44を備える。この酸化剤ガス排出配管44には、保圧弁46が配設される。保圧弁46は、燃料電池12の運転停止時(ソーク時)に開弁されることにより、酸化剤ガス排出配管44を大気圧に開放する。
【0035】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留する水素タンク(Hタンク)48を備える。この水素タンク48は、燃料ガス供給配管50を介して燃料電池12の燃料ガス入口連通孔34aに連通する。燃料ガス供給配管50には、エゼクタ52が設けられる。
【0036】
燃料ガス供給装置16は、燃料電池12の燃料ガス出口連通孔34bに連通する燃料ガス排出配管54を備える。燃料ガス排出配管54には、パージ弁56が配設されるとともに、前記パージ弁56の上流側とエゼクタ52とには、循環配管58が接続される。
【0037】
エゼクタ52は、水素タンク48から供給される水素ガスを、燃料ガス供給配管50を通って燃料電池12に供給するとともに、燃料電池12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、循環配管58から吸引して、再度、前記燃料電池12に燃料ガスとして供給する。
【0038】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、第1の実施形態に係る運転停止方法との関連で、図2に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0039】
先ず、燃料電池システム10は、通常運転される(ステップS1)。通常運転時には、図1に示すように、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ36を介して、酸化剤ガス供給配管38に空気が送られる。この空気は、燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aから酸化剤ガス流路28に沿って移動することにより、カソード電極22に供給される。
【0040】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔32bから酸化剤ガス排出配管44に排出され、保圧弁46により供給圧力が保持された状態で、外部に排出される。
【0041】
一方、燃料ガス供給装置16では、水素タンク48から燃料ガス供給配管50に水素ガスが供給される。この水素ガスは、燃料ガス供給配管50を通って燃料電池12の燃料ガス入口連通孔34aに供給される。燃料電池12内に供給された水素ガスは、燃料ガス流路30に沿って移動することにより、アノード電極24に供給される。
【0042】
使用済み(未反応の水素ガスを含む)の水素ガス(以下、水素オフガスともいう)は、燃料ガス出口連通孔34bから燃料ガス排出配管54に排出される。この水素オフガスは、循環配管58を介してエゼクタ52に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池12に供給される。従って、カソード電極22に供給される空気中の酸素とアノード電極24に供給される水素ガスとが、電気化学的に反応して発電が行われる。
【0043】
一方、循環配管58を循環する水素オフガスには、不純物が蓄積し易い。このため、不純物を混在する水素オフガスは、パージ弁56が開放されることによって排出される。
【0044】
次いで、燃料電池12の運転が停止されると(ステップS2中、YES)、酸化剤ガス供給装置14による酸化剤ガスの供給が停止されるとともに、燃料ガス供給装置16による燃料ガスの供給が停止される。
【0045】
さらに、酸化剤ガス供給装置14に設けられている保圧弁46が開放されて保圧が停止される(ステップS3)。そして、ステップS4に進んで、大気開放手段43を構成する開閉弁42が開放される。従って、分岐配管40から外部空気が吸気され、酸化剤ガス供給配管38から燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aに前記外部空気が導入される。
【0046】
一方、酸化剤ガス排出配管44では、保圧弁46が開放されている。このため、酸化剤ガス排出配管44には、外部空気が導入され、この外部空気は、燃料電池12の酸化剤ガス出口連通孔32bから導入される。
【0047】
従って、燃料電池12の内部では、入口側及び出口側の酸素濃度が中央部の酸素濃度に比べて高くなり、酸化剤ガス流路28(Ca経路)では、図3に示す酸素濃度となる。さらに、この酸素濃度に追随して、酸素と水素との反応量、すなわち、膜劣化量が入口側と出口側とで略均等化する。
【0048】
これに対して、大気開放手段43を設けずに、運転停止時に酸化剤ガス出口連通孔32bのみから外気が導入される従来方式では、図4に示すように、酸化剤ガス流路28の出口側の酸素濃度及び膜劣化量が他の部位に比べて相当に大きな値となっている。このため、従来方式(出口のみ開放)では、固体高分子電解質膜20の膜劣化が著しくなる。
【0049】
この場合、第1の実施形態では、固体高分子電解質膜20の膜劣化の集中を阻止することができる。すなわち、図3及び図4から諒解されるように、燃料電池12全体としての水素と酸素との反応量は、従来方式と変化しないものの、酸素濃度の偏りが低減されるため、固体高分子電解質膜20の膜劣化反応を分散させることが可能になる。これにより、簡単且つ経済的な構成及び工程で、電極面内の酸素濃度分布を低減させることができ、固体高分子電解質膜20の劣化を可及的に抑制することが可能になるという効果が得られる。
【0050】
図2に示すように、開閉弁42が所定の時間だけ開放された後、燃料電池12のソーク(運転停止状態)に移行する(ステップS5)。これにより、燃料電池システム10の運転停止処理が終了する。
【0051】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システム70の概略構成説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池システム10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0052】
燃料電池システム70は、酸化剤ガス供給装置72を備える。酸化剤ガス供給装置72は、酸化剤ガス供給配管38と酸化剤ガス排出配管44とを連通させるバイパス流路74を備えるとともに、前記バイパス流路74には、開閉弁76が配設される。バイパス流路74及び開閉弁76により大気開放手段77が構成される。
【0053】
このように構成される燃料電池システム70の運転停止方法について、図6に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0054】
燃料電池システム70は、通常運転走行を行うとともに(ステップS101)、燃料電池12がアイドル状態か否かが判断される(ステップS102)。アイドル状態とは、例えば、イグニッションスイッチがオンされた状態で、車両走行用モータの電気的負荷が所定時間、所定値以下である状態をいう。例えば、走行用モータの回転数が、ゼロを含む所定の低速回転数である状態、燃料電池電気自動車の減速時に回生制御力を発生している状態、自動的に速度を一定に保持する走行を行っている状態等が該当する。
【0055】
アイドル状態であると判断されると(ステップS102中、YES)、ステップS103に進んで、アイドル停止制御が行われる。このアイドル停止制御は、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の所定量の酸化剤ガスを、カソード側に供給して発電するとともに、発電電流を外部負荷に電流を供給することによりディスチャージする。このため、燃料電池12では、水素と酸素との電気化学的な反応が遂行され、酸化剤ガス出口連通孔32bから酸化剤ガス排出配管44に排出される酸化剤オフガスは、酸素濃度が低く、窒素ガスで満たされたガスとなる。
【0056】
さらに、燃料電池12の停止が判断されて(ステップS104中、YES)、反応ガス供給停止及び保圧停止が行われた後(ステップS105)、ステップS106に進む。このステップS106では、開閉弁76が開放され、酸化剤ガス排出配管44に残存する酸素濃度の低いガスが、バイパス流路74から酸化剤ガス供給配管38を通って、燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aに供給される。
【0057】
この場合、第2の実施形態では、酸化剤ガス排出配管44には、低酸素濃度のガスが残存しており、この低酸素濃度のガスは、燃料電池12の酸化剤ガス出口連通孔32bと、バイパス流路74を介して酸化剤ガス入口連通孔32aとに供給されている。
【0058】
従って、酸化剤ガス流路28では、図7に示すように、入口側及び出口側の酸素濃度が通常の酸素濃度に比べて低減されるため、水素と酸素との反応量、すなわち、膜劣化量を全体として低減させることができる。
【0059】
しかも、酸化剤ガス出口連通孔32bのみを大気開放する従来例に比べて、固体高分子電解質膜20の劣化集中が良好に抑制される。これにより、固体高分子電解質膜20の劣化が可及的に抑制されるという効果が得られる。
【0060】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システム90の概略構成説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池システム10及び第2の実施形態に係る燃料電池システム70と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0061】
燃料電池システム90は、酸化剤ガス供給装置92を備えるとともに、この酸化剤ガス供給装置92は、大気開放手段43、77を併用する。
【0062】
このように構成される燃料電池システム90による運転停止方法は、図9に示すフローチャートに沿って、行われる。
【0063】
この第3の実施形態では、実質的に、上記の第2の実施形態と同様に、ステップS201〜ステップS206が行われた後、ステップS207に進む。このステップS207では、大気開放手段43を構成する開閉弁42が開放されることにより、燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aに外部空気が導入される。
【0064】
すなわち、第3の実施形態では、先ず、大気開放手段77を構成する開閉弁76が開放されることにより、酸化剤ガス排出配管44に残存された低酸素濃度の窒素ガスが、バイパス流路74から燃料電池12の酸化剤ガス入口連通孔32aに供給されている。次いで、開閉弁42の開放作用下に、酸化剤ガス入口連通孔32aに外部空気が導入されている。
【0065】
このため、燃料電池12では、入口及び出口の酸素濃度が低下されて電極面内の酸素濃度分布が低減された後、入口側及び出口側共に大気開放されている。これにより、第3の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
10、70、90…燃料電池システム 12…燃料電池
14…酸化剤ガス供給装置 16…燃料ガス供給装置
18…コントローラ 20…固体高分子電解質膜
22…カソード電極 24…アノード電極
26…電解質膜・電極構造体 28…酸化剤ガス流路
30…燃料ガス流路 32a…酸化剤ガス入口連通孔
32b…酸化剤ガス出口連通孔 34a…燃料ガス入口連通孔
34b…燃料ガス出口連通孔 36…エアポンプ
38…酸化剤ガス供給配管 40…分岐配管
42、76…開閉弁 43…大気開放手段
44…酸化剤ガス排出配管 46…保圧弁
48…水素タンク 50…燃料ガス供給配管
52…エゼクタ 54…燃料ガス排出配管
58…循環配管 72、92…酸化剤ガス供給装置
74…バイパス流路 77…大気開放手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池と、
前記燃料電池のカソード側に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備える燃料電池システムの運転停止方法であって、
前記酸化剤ガス供給装置を構成する酸化剤ガス供給配管から前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する一方、前記燃料ガス供給装置を構成する燃料ガス供給配管から前記燃料電池に前記燃料ガスを供給して発電を行うとともに、
前記燃料電池から前記酸化剤ガス供給装置を構成する酸化剤ガス排出配管に前記酸化剤ガスを排出する一方、前記燃料電池から前記燃料ガス供給装置を構成する燃料ガス排出配管に前記燃料ガスを排出する発電工程と、
前記燃料電池の運転が停止された後、前記酸化剤ガス排出配管及び前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放する大気開放工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転停止方法。
【請求項2】
請求項1記載の運転停止方法において、前記酸化剤ガス供給配管に配設される開閉弁を開放することにより、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放することを特徴とする燃料電池システムの運転停止方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の運転停止方法において、前記酸化剤ガス排出配管は、バイパス流路を介して前記酸化剤ガス供給配管に連通することにより、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放することを特徴とする燃料電池システムの運転停止方法。
【請求項4】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池と、
前記燃料電池のカソード側に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備える燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給装置は、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給配管と、
前記燃料電池から前記燃料ガスを排出する燃料ガス排出配管と、
を備え、
前記酸化剤ガス供給装置は、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給配管と、
前記燃料電池から前記酸化剤ガスを排出するとともに、前記燃料電池の運転が停止された後、大気圧に開放される酸化剤ガス排出配管と、
前記燃料電池の運転が停止された後、前記酸化剤ガス供給配管を大気に開放する大気開放手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池システムにおいて、前記大気開放手段は、前記酸化剤ガス供給配管に配設される開閉弁を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求項4又は5記載の燃料電池システムにおいて、前記大気開放手段は、前記酸化剤ガス排出配管と前記酸化剤ガス供給配管とを連通させるバイパス流路を備えることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−230807(P2012−230807A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97913(P2011−97913)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】