説明

燃料電池システム用炭化水素燃料組成物

【課題】改質触媒や燃料電池の電極の劣化による燃料電池システムの性能低下が少なく、燃料電池システムの性能を長時間安定して維持することができる燃料電池システムに適した炭化水素燃料組成物を提供する。
【解決手段】無機硫黄の含有量が0.001〜0.05質量ppmである燃料電池システム用炭化水素燃料組成物であり、硫黄分が0.001〜10質量ppm、15℃における密度が0.785〜0.800g/cm、95容量%留出温度が240〜265℃であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄分を極めて低い値にまで除去することが可能な燃料電池システム用炭化水素燃料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識が高まる中で、環境負荷の少ない水素を利用したエネルギーに注目が集まっている。水素を利用したエネルギー技術のひとつとして、地球温暖化の原因と言われる二酸化炭素の直接排出を伴うことなく電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池が注目されている。燃料電池の水素源としては天然ガス、アルコールや石油系炭化水素などの液体燃料等、様々な原料が研究されている。特にLPガス、ナフサ、ガソリン、灯油などに代表される炭化水素燃料組成物は広域かつ多量に廉価で流通していることから、この水素の原料としても有望視されている。例えば、灯油を改質することで水素を製造し、該水素を燃料電池に供給する燃料電池システムが開発されている。
【0003】
前記の炭化水素燃料組成物に含まれる硫黄分は、改質に供する触媒や燃料電池の電極などを被毒することなどにより燃料電池システムの性能を低下させる。そこで、炭化水素燃料組成物を原燃料に使用する燃料電池システムでは、炭化水素燃料組成物を改質器に供給する前に、脱硫器などにより炭化水素燃料組成物に含まれる硫黄分を低減することが通例である。例えば、燃料電池システムの改質器手前の脱硫器で脱硫した後の炭化水素燃料組成物中の硫黄分は、50質量ppb以下(0.05質量ppm)が望ましい(非特許文献1)。
【0004】
前記の脱硫器においては一般的にゼオライトを用いて脱硫されるが、このような脱硫処理では除去が困難な硫黄化合物が存在し、例えば、アルキルジベンゾチオフェンが脱硫性の難易度を支配する因子の一つとして開示されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、炭化水素燃料組成物中には、前記の脱硫器による脱硫処理では除去が極めて困難な無機硫黄が存在することがある。前記脱硫処理により、アルキルジベンゾチオフェンなどの有機硫黄化合物に由来する硫黄分を低下させても、無機硫黄は炭化水素燃料組成物中に残存し、炭化水素燃料中の硫黄分を、改質触媒や燃料電池の電極の劣化が抑制できる程度に十分に低減できない場合がある。
【0006】
炭化水素燃料組成物中の無機硫黄は、該炭化水素燃料組成物中に残存した硫化水素が、空気と接触することにより生成する。したがって、例えば、該炭化水素燃料組成物の製造過程で該炭化水素燃料中から硫化水素を十分に分離する工程を経ないで、あるいは、硫化水素が残存した該炭化水素燃料組成物から硫化水素を十分に分離する操作をすることをしないで、硫化水素が残存した該炭化水素燃料組成物を流通、貯蔵している間に無機硫黄が生成することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−294874号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「将来型燃料高度利用研究開発報告書」、財団法人石油産業活性化センター、2007年、p.277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、燃料電池システムの改質器手前の脱硫器で硫黄分を極めて低い値にまで脱硫することができ、改質触媒や燃料電池の電極の劣化による燃料電池システムの性能低下が少なく、燃料電池システムの性能を長時間安定して維持することができる燃料電池システムに適した炭化水素燃料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の性状を有する炭化水素燃料組成物が前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)無機硫黄の含有量が0.001〜0.05質量ppmであることを特徴とする燃料電池システム用炭化水素燃料組成物。
(2)硫黄分が0.001〜10質量ppm、15℃における密度が0.785〜0.800g/cm、および95容量%留出温度が240〜265℃である上記(1)項に記載の燃料電池システム用炭化水素燃料組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料電池システム用の炭化水素燃料組成物によれば、特には特定の硫黄成分の含有量を限定したことから、燃料電池システムの脱硫器で脱硫された後の炭化水素燃料組成物中に含まれる硫黄分を極めて低濃度にまで低減することができる。これによって、改質触媒や燃料電池の電極の硫黄による劣化を大幅に抑制でき、さらには、燃料電池システムの性能を長時間安定して維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の燃料電池用炭化水素燃料組成物は、石油系炭化水素油を含むものである。石油系炭化水素油としてはナフサ、ガソリン、灯油、軽油などが挙げられるが、本発明の燃料電池用炭化水素燃料組成物に石油系炭化水素油としては灯油またはその相当品を好ましく用いることができる。
【0014】
<無機硫黄>
本発明における無機硫黄は、例えば、S8型硫黄などの遊離硫黄を含む。ジベンゾチオフェン類として検出される範囲のうち、無機硫黄として同定されたピークとして検出・定量される。該無機硫黄は、沈殿せず液中に分散しており一般的にろ過による分離は困難である。一般的な脱硫器では除去が困難であり、硫黄分による改質触媒や燃料電池の電極の被毒を防ぐ観点から、本発明の炭化水素燃料組成物は、該無機硫黄の含有量が0.05質量ppm以下であり、好ましくは0.03質量ppm以下、より好ましくは0.01質量ppm以下である。一方、製造コストの観点から無機硫黄の含有量は0.001質量ppm以上であり、0.005質量ppm以上であることが好ましい。
なお、上記の無機硫黄、および後述のベンゾチオフェン類並びにジベンゾチオフェン類は、チオフェン類などの種々の硫黄化合物のタイプ分析として同時に測定され、当該硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。特に、GC−ICP−MSは、極めて高感度である上に、硫黄と同じ保持時間に炭素が検出されるか否かを比べることにより、有機硫黄化合物か無機硫黄化合物か判別することが可能である。
【0015】
<硫黄分>
本発明の炭化水素燃料組成物の硫黄分、すなわち該炭化水素燃料組成物に含まれる全ての硫黄の合計は、0.001〜10質量ppmが好ましく、0.001〜8質量ppmがより好ましい。脱硫剤の寿命及び硫黄分による改質触媒や燃料電池の電極の被毒を防ぐ観点から、硫黄分は低い方が好ましいが、精製コストの観点では硫黄分は低過ぎないことが好ましい。
なお、上記炭化水素燃料組成物中に含まれる硫黄化合物は、主に単体硫黄(無機硫黄)とベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類などの有機硫黄化合物であり、チオフェン類、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、二硫化炭素などが含まれる場合もある。特に無機硫黄およびジベンゾチオフェン類が燃料電池システムの脱硫器の触媒、燃料電池電極に悪影響を及ぼす。
【0016】
<軽質硫黄化合物>
本発明の炭化水素燃料組成物における軽質硫黄化合物に由来する硫黄分とは、チオフェンよりも軽質の硫黄化合物に由来する硫黄の含有量である。
【0017】
<チオフェン類及びベンゾチオフェン類>
本発明におけるチオフェン類及びベンゾチオフェン類に由来する硫黄分とは、チオフェンとアルキル基の側鎖を持つチオフェン類、及び、ベンゾチオフェンとアルキル基の側鎖を持つベンゾチオフェン類に由来する硫黄の合計含有量であり、本発明においては、便宜上、チオフェンと同じか、それよりも重質であり、4−メチルジベンゾチオフェンよりも軽質な硫黄化合物の合計含有量とする。
【0018】
<ジベンゾチオフェン類>
本発明におけるジベンゾチオフェン類に由来する硫黄分とは、アルキル基の側鎖を持つジベンゾチオフェン類に由来する硫黄の合計含有量と無機硫黄の含有量との合計であり、本発明においては、便宜上、4−メチルジベンゾチオフェンとそれよりも大きい分子量を有する硫黄化合物の硫黄の合計含有量とする。このようなジベンゾチオフェン類を含む炭化水素油の脱硫は、一般的な脱硫器では除去が困難である。そこで、脱硫剤寿命の長期化及び硫黄による改質触媒や燃料電池の電極の被毒を防ぐ観点から、本発明の炭化水素燃料組成物はジベンゾチオフェン類に由来する硫黄分は、0.05質量ppm以下が好ましく、0.03質量ppm以下がより好ましい。一方、製造コストの観点からジベンゾチオフェン類に由来する硫黄分は、0.005質量ppm以上が好ましく、0.01質量ppm以上がより好ましい。
【0019】
<密度>
本発明の炭化水素燃料組成物の15℃における密度は、0.785〜0.800g/cmであり、好ましくは0.792〜0.794g/cmである。密度が高いほど、燃料電池システムにおける発電の出力や効率の点で好ましいが、脱硫器の脱硫剤並びに改質に供する触媒の劣化防止の点では高過ぎない方が好ましい。
【0020】
<蒸留性状>
本発明の炭化水素燃料組成物の95容量%留出温度は、240〜265℃が好ましく、より好ましくは241〜253℃である。95容量%留出温度は、重量当りの発電量の点では高い方が望ましいが、改質触媒の劣化を抑える点では低い方が望ましい。
【0021】
また、本発明の炭化水素燃料組成物の95容量%留出温度以外の蒸留性状は、5%容量留出温度が160〜170℃が好ましく、164〜168℃がより好ましく、10容量留出温度が168〜175℃が好ましく、169〜173℃がより好ましく、30容量留出温度が180〜190℃が好ましく、184〜186℃がより好ましく、50容量%留出温度が195〜210℃が好ましく、198〜201℃がより好ましく、70容量%留出温度が210〜225℃が好ましく、213〜222℃がより好ましく、90容量%留出温度が230〜260℃が好ましく、233〜250℃がより好ましく、蒸留終点が250〜280℃が好ましく、252〜275℃がより好ましい。
【0022】
<ノルマルパラフィン分>
本発明の炭化水素燃料組成物のノルマルパラフィン分は、改質反応の効率、燃料電池システムの燃費並びにエネルギー効率の観点で10.0容量%以上が好ましく、16.0容量%以上がより好ましい。一方で、低温流動性の確保と取り扱い性の観点から、22容量%以下が好ましく、21容量%以下がより好ましい。
【0023】
<動粘度>
本発明の炭化水素燃料組成物の動粘度は特に制限されないが、配管や脱硫器など装置内の流動性や気化器での気化状態を良好にする観点から、30℃における動粘度は1.35〜1.45mm/sであることが好ましく、さらに好ましくは1.43〜1.45mm/sである。
【0024】
<煙点>
本発明の炭化水素燃料組成物の煙点は特に制限されないが、脱硫器の脱硫剤並びに改質に供する触媒の劣化防止の点で、日本工業規格(JIS)1号灯油の寒候用のものの規格である21mm以上であることが好ましく、23mm以上がより好ましい。
【0025】
<銅板腐食>
本発明の炭化水素燃料組成物の銅板腐食は特に制限されないが、燃料電池システムに使用される金属部材の腐食を防止する観点から、銅板腐食が1を越えないことが好ましい。本発明の炭化水素燃料組成物の銅板腐食は50℃で3hの試験で日本工業規格(JIS)1号灯油の規格である1以下であることが好ましく、1aであることがより好ましい。
【0026】
<臭素指数>
本発明の炭化水素燃料組成物の臭素指数は特に制限されないが、好ましくは10〜95mg/100gであり、さらに好ましくは10〜30mg/100gである。臭素指数は、燃料電池システムの原燃料タンク内などにおける炭化水素燃料組成物の貯蔵安定性に関与し、脱硫器の脱硫剤並びに改質に供する触媒の劣化防止の点で低い方が好ましいが、低過ぎると精製コストが急激に高くなることが予想されるため、好ましくは10〜95mg/100gであり、さらに好ましくは10〜30mg/100gである。
【0027】
<引火点>
本発明の炭化水素燃料組成物の引火点は特に制限されないが、操作性や安全上の取り扱い易さの点で日本工業規格(JIS)1号灯油の規格である40℃以上が好ましく、さらに好ましくは43.5℃以上である。
【0028】
<芳香族分>
本発明の炭化水素燃料組成物の芳香族分(含有量)は特に制限されないが、14.0〜20.0容量%が好ましく、より好ましくは15.0〜16.0容量%である。芳香族分が高いほど、燃料電池システムにおける発電の出力や効率の点で好ましいが、脱硫器の脱硫剤並びに改質に供する触媒の劣化防止の点では高過ぎない方が好ましいので、14.0〜20.0容量%が好ましく、より好ましくは15.0〜16.0容量%である。
【0029】
本発明の燃料電池システム用炭化水素燃料組成物は、例えば、一般的な石油精製装置を用い、精製した液分と発生したガス分とを分離する気液分離槽にて圧力1〜100kPaG、温度140〜200℃の条件下で気液分離して得た液分を、さらに、圧力0.1〜2.5MPaGのスチームまたは窒素のガスを流量10〜3000Nm/hにて液分に接触させることで、液分に溶解する軽質炭化水素、あるいは硫化水素やアンモニア等の不純物ガス成分を効率的に取り除く、すなわちストリッピングすることにより得られる。上記ストリッピングは、分離槽、棚段塔、充填塔、スプレー塔など公知の適切なプロセスを用いて行うことができるが、前記液分に溶解する硫化水素の濃度を分析してモニタリングして、前記液分に溶解する硫化水素の濃度が、硫黄として0.001〜0.05質量ppmの範囲を逸脱しないように前記プロセスの運転条件を適宜コントロールする。上記ストリッピングは、前記気液分離操作後にしてもよいし、前記気液分離操作と同時にする方法も好適に用いられる。
あるいは、貯蔵タンク等に貯蔵された前記炭化水素燃料組成物中に硫化水素が残存している場合は、前記と同様に窒素ガスなどを吹き込んでストリッピングし、液中に溶解した硫化水素ガスを十分に分離することでも、本発明の炭化水素燃料組成物を得ることができる。さらに、貯蔵タンク等の雰囲気を窒素ガス等で置換し、雰囲気中の酸素濃度を1容量%未満とすることにより、液中に溶解した硫化水素ガスが酸化されて無機硫黄に転化することを抑制する方法も好適に用いられる。
【0030】
本発明の燃料電池システム用炭化水素燃料組成物は、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等の石油精製装置から得た沸点が140〜280℃の範囲の留分を、それぞれ水素化脱硫処理した後に、前記の気液分離並びにストリッピングをすることで得ることができる。また、常圧蒸留装置等から得た沸点範囲140〜280℃の留分の2種以上を、上記と同様に水素化脱硫、気液分離、ストリッピングをして得ることもできる。このように前記の気液分離並びにストリッピングをして得たそれぞれの炭化水素燃料組成物は、そのまま燃料電池システム用炭化水素燃料組成物として用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。さらには、前記の沸点範囲が140〜280℃の留分の水素化脱硫後、ノルマルパラフィン分を抽出除去して得た残分である脱ノルマルパラフィン脱硫灯油、除去された脱硫ノルマルパラフィン分、及び減圧軽油留分を水素化分解した水素化分解灯油、並びにフィッシャートロプシュ合成で得られたGTL灯油等の基材を、それぞれ必要に応じて前記の気液分離並びにストリッピングをして得た留分を単独で、または2種以上の留分を組み合わせて燃料電池システム用炭化水素燃料組成物として用いることができる。
【0031】
前記の水素化脱硫処理は、水素化脱硫触媒として、アルミナなどの多孔質担体にNi、Co、Mo、Wなどの活性金属、特にはNiおよびMo又はCoおよびMoを担持した触媒が好ましく用いられる。反応温度(または、触媒層平均温度)を220〜350℃、好ましくは250〜330℃とする。反応温度が上記の範囲であれば、脱硫性能が高く、有意に分解反応が進行しないことから、経済的な運転を行うことができるとともに、前記の気液分離並びにストリッピングをして得た炭化水素燃料組成物の95%容量留出温度を所定の範囲(240〜265℃)にすることができる。また、反応圧力を2.0〜10.0MPa、好ましくは2.5〜8.0MPaとする。反応圧力が上記の範囲であれば、脱硫性能を向上でき、過剰に水素化が進むことがないため、前記の気液分離並びにストリッピングをして得た炭化水素燃料組成物の密度を所定の範囲(0.785〜0.800g/cm)にすることができる。また、液空間速度(LHSV)を0.9〜6.0h−1、好ましくは0.9〜5.4h−1とする。LHSVが上記の範囲であれば、十分な接触時間を確保できた上で十分な脱硫効率を維持できる。水素/オイル比30〜700Nm/kL、好ましくは50〜500Nm/kLとする。水素/オイル比が上記範囲であれば、十分な脱硫効率を維持しつつリサイクルガスの循環量を低減でき、経済的な運転を行うことができる。これらの条件の範囲内で水素化脱硫することで、前記の気液分離並びにストリッピングをして得た炭化水素燃料組成物の硫黄分を所定の範囲(0.001〜10質量ppm)にすることができる。これらの条件の範囲内であれば適宜選択して、上述した本発明の炭化水素燃料組成物が得られるようにする。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
<供試燃料の調製>
下記のようにして供試燃料(燃料電池用炭化水素燃料組成物)A1(実施例1)、B1(実施例2)、C1(比較例1)及びD1(比較例2)を調製した。
A1(実施例1):直留灯油留分(硫黄分0.19質量%、沸点範囲145〜268℃)をCo−Mo/アルミナ触媒存在下、水素分圧4.0MPaG、反応温度320℃、液空間速度(LHSV)4.4hr−1、水素/油比率90Nm/kLの条件により水素化精製した後、気液分離時の液分についてスチーム(スチーム供給ラインの圧力0.3MPaG、200Nm/h)にてストリッピングを行って、灯油留分である実施例1の供試燃料A1を得た。
B1(実施例2):直留灯油留分、接触分解油灯油留分、及び熱分解油灯油留分の混合油(硫黄分0.25質量%、沸点範囲139〜258℃)をCo−Mo/アルミナ触媒存在下、水素分圧2.9MPaG、反応温度305℃、液空間速度(LHSV)2.1hr−1、水素/油比率110Nm/kLの条件により水素化精製した後、気液分離時の液分についてスチーム(スチーム供給ラインの圧力1.5MPaG、240Nm/h)にてストリッピングを行って、灯油留分である実施例2の供試燃料B1を得た。
【0034】
C1(比較例1):上記A1の場合と同様にして直留灯油留分を水素化精製した。ただし、気液分離時にストリッピングを行わず、灯油留分である比較例1の供試燃料C1を得た。
D1(比較例2):直留灯油留分と接触分解油灯油留分の混合油(硫黄分0.17質量%、沸点範囲149〜275℃)をCo−Mo/アルミナ触媒存在下、水素分圧2.9MPaG、反応温度300℃、液空間速度(LHSV)2.0hr−1、水素/油比率115Nm/kLの条件により水素化精製した後、気液分離時の液分についてストリッピングを行わず、灯油留分である比較例2の供試燃料D1を得た。
供試燃料A1、B1、C1及びD1の物性を表1aに、組成を表1bに示す。
【0035】
【表1a】

【0036】
【表1b】

【0037】
供試燃料A1、B1、C1及びD1を評価するために、それぞれ次のようにして改質装置手前の脱硫器と同様の触媒を用いて脱硫処理を行い、脱硫の効果を比較検討した。
燃料電池システムの脱硫器の脱硫触媒として、東ソー社製H−USYゼオライトHSZ−330HUAを用いた。400℃で1時間乾燥処理したゼオライトを2.00gずつ秤り取り、前記の供試燃料A1、B1、C1及びD1(それぞれ16.00g)にそれぞれ液固比8で浸漬して撹拌した。浸漬したまま10℃で312時間保持して脱硫燃料A2、B2、C2及びD2を得た。得られた脱硫燃料A2、B2、C2及びD2の硫黄分を紫外蛍光法で、また硫黄化合物と無機硫黄をGC−ICP−MSでそれぞれ測定した。測定結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
<燃料の性状分析法>
表1、2の物性測定及び組成分析については、既に説明したものを除き、次の方法で行った。
(1)密度:JIS K2249「原油及び石油製品密度試験方法」に規定された方法
(2)蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験方法」に規定された方法
(3)動粘度:JIS K2283「動粘度試験方法」に規定された方法により、30℃で測定した。
(4)引火点:JIS K2265「原油及び石油製品引火点試験方法」に規定されたタグ密閉式引火点試験方法
(5)煙点:JIS K2537「煙点試験方法」に規定された方法
(6)硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」に規定された方法
(7)硫黄化合物および無機硫黄:GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(GC−ICP−MS;Agilent社製6890N型GCとコリジョンセルを搭載する7500CS型ICP−MSとをトランスファーラインでつないだシステム)で測定した。
【0040】
表1a、bと表2に示す結果から、0.05質量ppmを超える無機硫黄を含む供試燃料C1およびD1(比較例1および2)においては、燃料電池システムにおける改質装置手前の脱硫器による脱硫処理を行っても全硫黄分を0.05質量ppm以下まで十分に低減できないのに対して、無機硫黄が0.05質量ppm以下の供試燃料A1およびB1(実施例1および2)は、全硫黄分を0.05質量ppm以下まで低減することができた。したがって、本発明の燃料電池システム用炭化水素燃料組成物を用いることにより、改質触媒や燃料電池電極の被毒を大幅に抑制できることが期待され、燃料電池システムの長期間運転を行うことが出来、長寿命化を図ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の燃料電池システム用の炭化水素燃料組成物によれば、特には特定の硫黄成分の含有量を限定したことから、燃料電池システムの脱硫器で脱硫された後の炭化水素燃料組成物中に含まれる硫黄分を極めて低濃度にまで低減することができる。これによって、燃料電池システムに好適に使用することができ、改質触媒や燃料電池の電極の劣化を抑制し、さらには、燃料電池システムの性能を長時間安定して維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機硫黄の含有量が0.001〜0.05質量ppmであることを特徴とする燃料電池システム用炭化水素燃料組成物。
【請求項2】
硫黄分が0.001〜10質量ppm、15℃における密度が0.785〜0.800g/cm、95容量%留出温度が240〜265℃である請求項1記載の燃料電池システム用炭化水素燃料組成物。

【公開番号】特開2010−244842(P2010−244842A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92169(P2009−92169)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】