説明

燃料電池システム

【課題】発電停止状態の燃料電池のアノード側から水溜り部へ空気が流入するのを効果的に防止できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】ECUは、燃料電池の発電が停止されたときに、燃料電池と容器との間のアノード側下流路に設けられた中間弁18を閉止する。したがって、発電停止状態の燃料電池のカソード側から高分子電解質膜を通して空気がアノード側へ混入しても、当該空気がアノード側下流路を介して容器に流入するのが阻止され、発電停止状態の燃料電池のアノード側から容器へ空気が流入するのを効果的に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素と酸素の電気化学反応を利用して発電する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される燃料電池システムは、例えば高分子電解質膜型の燃料電池のように水素と酸素のガスの電気化学反応を利用して発電するが、その反応過程において、カソード側(酸素極側)に発生した生成水が高分子電解質膜を通してアノード側(水素極側)に逆拡散して混入する。
【0003】
そして、燃料電池のアノード側は、混入した生成水を放置しておくと、生成水が電極付近に滞留し、反応ガスが電極に供給されにくくなり、その結果、燃料電池の発電効率が低下し、さらには燃料電池の損傷を招来する。
【0004】
そのため、この種の燃料電池においては、アノード側の前記生成水をどのようにして排出するのかが重要な課題の1つになっている。そこで、この課題を解決するため、本願出願人は、特願2006−074825号の出願において、以下に図6を参照して説明する技術を提案している。
【0005】
図6は本願出願人が上記した出願で提案している燃料電池システムのブロック図である。図6において、4は燃料タンク、5はその主止弁、6、7、8は燃料タンク4から燃料電池(FC)1に至るアノード側上流路9に設けられたレギュレータ、燃料である水素の供給弁、圧力センサである。
【0006】
また、15は燃料電池1から常閉の排水弁16に至るアノード側下流路、170はアノード側下流路15に設けられた適当な大きさの矩形箱体或いは円筒体の容器である。なお、弁5、7、16およびレギュレータ6は白抜きが開いた状態を示し、黒塗りが閉じた状態を示す。
【0007】
そして、燃料タンク4の主止弁5を通った高圧の水素ガスは、レギュレータ6で減圧調整された後、供給弁7、圧力センサ8を通って燃料電池1のアノード側上流から下流に向かって通流し、その間に、水素と燃料電池1のカソード側に供給された酸素(空気)との高分子電解質膜を介した電気化学反応が生じて発電が行なわれる。
【0008】
このとき、この燃料電池システムでは、燃料電池1のアノード側の上流に供給弁7を設け、アノード側の下流に容器170、排水弁16を設け、アノード側の生成水の排出時、供給弁7と排水弁16とを閉じた状態にして燃料電池1の発電を行なった後、供給弁7を開放して生成水を排出している。
【0009】
また、生成水の排出タイミングを燃料電池1のアノード側の濡れ状態、換言すれば、燃料電池1のアノード側の生成水の滞留状態から決定し、燃料電池1のアノード側の設定した濡れ状態を検出したときに供給弁7と排水弁16を閉じた状態にして前記の燃料電池1の発電を行なうようにしている。
【0010】
このような構成とすれば、まず、通常の発電状態において、供給弁7は開かれ、燃料タンク4からレギュレータ6、供給弁7、圧力センサ8を介して燃料電池1のアノード側に燃料の水素ガスが供給される。そして、発電に伴って生じた生成水が燃料電池1のアノード側に滞留し、アノード側の濡れ状態が進行して発電能力が次第に低下していく。
【0011】
そこで、燃料電池1のアノード側の濡れ状態を、燃料電池1の電流の積算値、電圧、或いは発電時間等の状態値から推定或いは検出し、前記状態値が実験等で設定された所定値に達して生成水の排出が必要なタイミングになると、供給弁7を閉止し、供給弁7および排水弁16が閉じた状態で燃料電池1の発電を継続する。
【0012】
このとき、燃料電池1は燃料である水素ガスの供給を止めた状態で発電し、この発電によって燃料電池1内および該燃料電池1に連通した容器(水溜り部)170が減圧状態になる。
【0013】
そして、燃料電池1内が所定圧力に低下するか、燃料電池1の減圧開始からの電流量(積算値)が設定値に達するかすると、供給弁7を開き、減圧状態の燃料電池1内に水素ガスを噴入することで、燃料電池1からアノード側下流路15を介して容器170に至る水素ガス流により燃料電池1のアノード側の生成水を容器170に押し出して電池外部に確実に排出することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記した燃料電池システムでは燃料電池1の発電が停止され、供給弁7および排水弁16が閉止された後、カソード側の残留空気が高分子電解質膜を通してアノード側に逆拡散(クロスリーク)して混入し、該アノード側の水素濃度が低下するおそれがある。さらに、該アノード側と連通している容器170にもアノード側に混入した空気が
流入して、容器170内の水素濃度も低下する。
【0015】
このように燃料電池1のアノード側および容器170内の水素濃度が低下した状態で、燃料電池1の発電が開始されると、セル電圧が低下してしまうことから発電効率が低下したり、燃料電池1が損傷するおそれがあった。また、燃料電池1を起動するときには、供給弁7を開放し、燃料電池1のアノード側および容器170内の両方の水素濃度が所定の濃度以上となるまで水素を供給する方法があるが、燃料電池1のアノード側に配設された水素が通流する管路の容積よりも、容器170の容積の方が大きく構成されているため、容器170内で水素と空気が撹拌してしまい、アノード側の水素濃度を所定の設定濃度まで上昇させるのに大幅な時間を要し、起動に時間がかかるという問題があった。特に、水素濃度が低下した容器170の水素濃度を所定の設定濃度まで上昇させるのに時間がかかることとなる。
【0016】
本発明は、発電停止状態の燃料電池のアノード側から水溜り部へ空気が流入するのを効果的に防止できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成するために、本発明の燃料電池システムは、燃料電池のアノード側に水素を供給し、前記燃料電池のカソード側に空気を供給することで発電する燃料電池システムにおいて、前記アノード側の上流路に設けられた前記水素の供給弁と、前記アノード側の下流路に設けられた前記燃料電池のアノード側の生成水を排出する排水弁と、前記燃料電池と前記排水弁との間に設けられた前記燃料電池の前記生成水を溜める水溜り部と、前記燃料電池と前記水溜り部との間に設けられた中間弁と、前記供給弁、前記排水弁および前記中間弁を開閉制御する弁駆動手段とを備え、前記弁駆動手段は、前記燃料電池の発電が停止されたときに、前記中間弁を閉止することを特徴としている(請求項1)。
【0018】
また、前記燃料電池が発電停止状態から起動されたときに、前記弁駆動手段は、前記供給弁を開放し、前記水溜り部の水素濃度が設定濃度未満である場合には、前記中間弁の開放状態かつ前記排水弁の閉止状態を継続した後、前記中間弁を閉止かつ前記排水弁を弁開度を調整しながら開放する水素置換弁駆動処理を、前記水素濃度が前記設定濃度に達するまで実行することを特徴としている(請求項2)。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、弁駆動手段は、燃料電池の発電が停止されたときに、燃料電池と水溜り部との間のアノード側下流路に設けられた中間弁を閉止する。したがって、発電停止状態の燃料電池のカソード側からアノード側へ空気が混入しても、当該空気がアノード側下流路を介して水溜り部に流入するのが阻止され、発電停止状態の燃料電池のアノード側から水溜り部へ空気が流入するのを効果的に防止できる。
【0020】
また、発電停止状態の燃料電池のアノード側から水溜り部へ空気が流入するのが防止されているため、水溜り部の水素濃度は高濃度に維持され、燃料電池が再起動されたときに、供給弁を開放して水素を供給することで、燃料電池のアノード側および水溜り部の水素濃度を短時間で上昇させることができ、再起動にかかる時間を短縮できる。したがって、アノード側の水素濃度が発電に必要な濃度に達していないことに起因する発電効率の低下や、燃料電池の損傷を効果的に防止できる。
【0021】
請求項2の発明によれば、燃料電池が発電停止状態から起動されたときに、水溜り部の水素濃度が設定濃度未満である場合には、弁駆動手段は、先ず中間弁の開放状態かつ排水弁の閉止状態を継続することで、燃料電池のアノード側および水溜り部に水素が供給されて、該燃料電池のアノード側および水溜り部の水素濃度が上昇する。
【0022】
次に、中間弁を閉止することで燃料電池のアノード側には水素が供給され続けて該アノード側の水素濃度が上昇する一方、水溜り部へは水素が供給されず、該水溜り部内の水素と空気との混合気が、排水弁を弁開度を調整しながら開放することで水溜り部から少量ずつ排出される。
【0023】
上記した水素置換弁駆動処理が水溜り部の水素濃度が設定濃度に達するまで繰返し実行される間、燃料電池のアノード側には常に水素が供給されているため、水溜り部の水素濃度は徐々に上昇して設定濃度に達する一方で、水溜り部の水素濃度が設定濃度に達する前にアノード側の水素濃度は正常な発電に必要な濃度に達することとなり、水溜り部の水素濃度が設定濃度に達する前に燃料電池の発電を開始することができる。
【0024】
すなわち、水溜り部の水素濃度が設定濃度に達する前に、水溜り部の水素濃度を徐々に上昇させながら発電を行うことができるため、燃料電池が発電停止状態から起動されたときに、従来のように燃料電池のアノード側および水溜り部の両方が設定された水素濃度に達するまで待機する必要がなく、燃料電池が起動されてから発電が開始されるまでの時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
つぎに、本発明の一実施形態について、図1〜図5にしたがって詳述する。
【0026】
図1は燃料電池システムのブロック図、図2は図1の燃料電池システムの水素置換弁駆動処理の説明図、図3は図1の燃料電池システムの生成水排出処理の説明図、図4は図1の燃料電池システムの起動時弁駆動処理を示すフローチャート、図5は図4の起動時弁駆動処理の一例を示すタイミングチャートである。
【0027】
図1に示す燃料電池システムは、例えば軽自動車等の車両に搭載され、燃料電池システムが備える固体高分子型の燃料電池1(FC)は、前記した図6に示す燃料電池システムと同様に、アノード側に供給された水素と、カソード側に供給された空気中の酸素との高分子電解質膜を介した電気化学反応が生じて発電する。
【0028】
図1〜図3において、図6と同一符号は、同一若しくは相当するものを示し、4は燃料タンク、5はその主止弁、6、7、8は燃料タンク4から燃料電池(FC)1に至るアノード側上流路9に設けられたレギュレータ、燃料である水素の供給弁、圧力センサである。また、15は燃料電池1から常閉の排水弁16に至るアノード側下流路、17はアノード側下流路15に設けられた適当な大きさの矩形箱体或いは円筒体の容器(BT)、18は燃料電池1と容器17との間のアノード側下流ロ15に設けられた中間弁である。そして、燃料電池1のアノード側から排出された生成水は、アノード側下流路15を介して容器17に流入することで当該容器17に溜まるように構成されている。また、容器17は、適当な大きさの矩形箱体或いは円筒体であって、本発明の「水溜り部」を形成する。
【0029】
また、図1に示すように、ECU19(エレクトリックコントロールユニット)が、供給弁7、排水弁16および中間弁18を開閉制御するように構成されている。以上のように、ECU19が本発明の「弁駆動手段」として機能している。なお、図2および図3において、ECU19の図示は省略している。
【0030】
なお、図1〜図3においても、弁5、7、16、18およびレギュレータ6は白抜きが開いた状態を示し、黒塗りが閉じた状態を示す。また、図2の工程S2に示す燃料電池システムの排水弁16は、弁開度が調整されながら開放されていることを示している。
【0031】
また、この実施形態の燃料電池システムでは、イグニッションキーのターンオン等に連動して起動信号が入力されて、燃料電池1が発電停止状態から起動されたときにECU19は供給弁7を開放し、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsv未満である場合には、後で詳細に説明する水素置換弁駆動処理が容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達するまで実行される。
【0032】
なお、燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBの導出は、前回、燃料電池1の発電が停止されてからの経過時間と、該アノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBとの関係を予め実験的に求めておき、その関係をECU19に搭載されたメモリ(図示省略)に格納しておくことで、起動信号が入力されたときに、ECU19が該メモリを参照することで発電が停止されてから起動信号が入力されるまでの経過時間から燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBを導出できる。
【0033】
また、後述する水素置換弁駆動処理が実行された際の燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBの増加率を予め実験的に求めておき、その増加率を上記メモリに格納しておくことで、水素置換弁駆動処理が繰返し実行されるたびにECU19がメモリを参照して、水素置換弁駆動処理が実行されたときの燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBを導出できる。
【0034】
なお、水素濃度計を燃料電池1のアノード側および容器17に設けてもよいことは言うまでもない。
【0035】
また、この実施形態の燃料電池システムでは、ECU19は中間弁18を開放した状態で、図6の燃料電池システムと同様に、アノード側の生成水の排出時、容器17内に設けられた供給弁7と排水弁16とを閉じた状態にして燃料電池1の発電を行なった後、供給弁7を開放して生成水を排出する。そして、生成水の排出タイミングを燃料電池1のアノード側の濡れ状態、すなわち、燃料電池1のアノード側の生成水の滞留状態から決定し、燃料電池1のアノード側の設定した濡れ状態を検出したときに供給弁7と排水弁16を閉じた状態にして前記の燃料電池1の発電を行なっている。
【0036】
1.水素置換弁駆動処理
つぎに、図1の燃料電池システムの水素置換弁駆動処理を、図2を参照して説明する。
【0037】
まず、図2の工程S1において、燃料電池1が発電停止状態から起動されたときに、ECU19は供給弁7を開放し、さらに、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsv未満であれば、例えば予め設定した第1の時間T1、中間弁18の開放状態かつ排水弁16の閉止状態を継続することで、燃料電池1のアノード側および容器17に水素が供給されて、該燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBが上昇する。
【0038】
つぎに、図2の工程S2において、続く例えば予め設定された第2の時間T2、中間弁18を閉止することで燃料電池1のアノード側には水素が供給され続けて該アノード側の水素濃度ρFが上昇する一方、容器17へは水素が供給されず、容器17内の水素と空気の混合気が、排水弁16を弁開度を調整しながら開放することで水溜り部から少量ずつ排出される。
【0039】
上記した、工程S1およびS2による水素置換弁駆動処理が容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達するまで繰返し実行される間に、燃料電池1のアノード側には常に水素が供給されているため、容器17の水素濃度ρBは徐々に上昇して設定濃度ρBsvに達する一方、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達する前に該アノード側の水素濃度ρFは正常な発電に必要な濃度ρFsvに達することとなり、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達する前に燃料電池1の発電を開始することができる。
【0040】
なお、図2の工程S2において、燃料電池1のアノード側には水素が供給され続けているが、レギュレータ6を介して所定の圧力に減圧された水素が該アノード側に供給されているため、当該所定の圧力に応じた量の水素しか該アノード側に流入しない。したがって、1回の水素置換弁駆動処理により、燃料電池1のアノード側の水素濃度ρFは上記した所定の圧力に応じて該アノード側に流入した水素の量の分だけ上昇することとなる。
【0041】
また、第1の時間T1および第2の時間T2は、水素置換弁駆動処理において燃料電池1のアノード側および容器17内を水素に置換される際に、より効率よく置換される値を実験的に求めておき、その値に予め設定しておけばよい。
【0042】
なお、工程S1、工程S2は、予め設定した第1の時間T1および第2の時間T2を経過した後にそれぞれ次の工程に移るようにしているが、例えば、燃料電池1のアノード側若しくは容器17内に圧力計や濃度計を設けておき、アノード側若しくは容器17内の圧力や濃度が所定の値上昇した後に、次工程に移るようにしてもよい。
【0043】
このときの所定値は、上述した第1の時間T1および第2の時間T2の値を求めるときと同様に、燃料電池1のアノード側および容器17内を水素に置換される際に、より効率よく置換される値を求めておき、その値に設定しておけばよい。
【0044】
2.生成水排出処理(通常発電弁駆動処理)
つぎに、図1の燃料電池システムの生成水排出処理を、図3を参照して説明する。図3に示すように、本実施形態の燃料電池システムは後述する通常発電弁駆動処理が開始されると、ECU19により中間弁18が開放され、生成水排出処理が実行される。
【0045】
まず、図3の工程S10は通常の発電状態を示し、この通常の発電状態においては、供給弁7は開かれ、燃料タンク4に貯蔵された燃料の高圧の水素ガスは、レギュレータ6により減圧調整され、その後、供給弁7、圧力センサ8を介して燃料電池1のアノード側に供給される。また、図示省略されたコンプレッサで圧縮された圧縮空気が燃料電池1のカソード側に供給される。
【0046】
そして、発電に伴って生じた生成水が燃料電池1のアノード側に滞留し、アノード側の濡れ状態が進行して発電能力が次第に低下していく。なお、図3の燃料電池1、容器17等の黒く塗りつぶした部分が模式的に示した生成水である。
【0047】
そこで、燃料電池1のアノード側の濡れ状態を、燃料電池1の電流の積算値、電圧、或いは発電時間等の状態値から推定或いは検出し、前記状態値が実験等で設定された所定値に達して生成水の排出が必要なタイミングになると、図3の工程S20に移行し、供給弁7を閉止し、供給弁7および排水弁16が閉じた状態で燃料電池1の発電を継続する。
【0048】
このとき、燃料電池1は燃料である水素ガスの供給を止めた状態で発電し、この発電によってガスが消費されて、燃料電池1内および該燃料電池1に連通した容器(水溜り部)17が減圧状態になる。
【0049】
そして、燃料電池1内が所定圧力に低下するか、燃料電池1の減圧開始からの電流量(積算値)が設定値に達するかすると、図3の工程S30に移行して供給弁7を開き、減圧状態の燃料電池1内に水素ガスを噴入し、燃料電池1からアノード側上流路9を介して容器17に至る水素ガス流により燃料電池1のアノード側の生成水を容器17に押し出して電池外部に確実に排出する。
【0050】
このとき、容器17の生成水が燃料電池1に逆流しないようにするため、この実施形態においては、燃料電池1と容器17との配管を容器17の上部に接続し、排水弁16を容器17の下部に設けて、生成水を容器17に落とし込んで貯留する。なお、容器7の燃料電池1側の配管の接続位置と排水弁16の配設位置とに段差を設ける代わりに、例えば、燃料電池1と容器17との間の配管に逆止弁を設けるようにしてもよい。
【0051】
また、燃料電池1のアノード側に滞留した生成水を確実に排出するため、容器17を燃料電池1のアノード側の空間容積以上の大きさにして前記アノード側全体の燃料等を全て容器17に導入するように減圧すればよく、この減圧の調整は燃料電池1の発電電力を調整して制御することができる。なお、圧力変化ΔPと発電電流iとは、R、T、Vを気体乗数、温度、容積として、ΔP=(R・T/V)×((i/96485)×(セル数/2))の関係がある。
【0052】
なお、減圧状態の燃料電池1内に水素ガスを噴入し、燃料電池1からアノード側上流路9を介して容器17に至る水素ガス流により燃料電池1のアノード側の生成水を容器17に押し出す際に、噴入されたの水素の一部が容器17に流入し、容器17の水素濃度ρBは設定濃度ρBsv以上に維持される。
【0053】
そして、一定量の生成水が容器17に溜まるまでは、工程S30から工程S10に戻って通常の発電を行ない、生成水の排出が必要になると工程S20、S30に移行し、上記の処理をくり返す。
【0054】
さらに、容器17に一定量の生成水が溜まると、図2の工程S30からS40に移行し、排水弁16を開け容器17の貯留水を排出し、この排水の終了後、排水弁16を閉止して工程S10に戻る。なお、排水弁16は供給弁7等と同様の電磁弁或いはフロート式の弁等で形成される。
【0055】
3.燃料電池システムの動作の一例
つぎに、図1の燃料電池システムの動作の一例について図4および図5を参照して説明する。図4は図1の燃料電池システムの起動時弁駆動処理を示すフローチャートである。図5は図4の起動時弁駆動処理の一例を示すタイミングチャートである。
【0056】
まず、図4のステップ#100において、イグニッションキーのターンオン等に連動して起動信号が入力されて、燃料電池1が発電停止状態から起動される(図5の時刻t=t1)。そして、ECU19により供給弁7が開放されるとともに、容器17の水素濃度ρBが導出される(ステップ#101)。
【0057】
つぎに、ステップ#102において、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsv以上であるかどうかが判定される。ステップ#102においてYESと判定されると、ステップ#103に進み、中間弁18が開放されて通常発電弁駆動処理が開始され(ステップ#104)、起動時弁駆動処理を終了する(図5の時刻t=t5以降)。
【0058】
一方、図4のステップ#102においてNOと判定されると、ステップ#105において、上記した水素置換弁駆動処理が実行される。この水素置換弁駆動処理について図5を参照しつつより詳細に説明する。
【0059】
図5において、時刻t=t1において起動信号が入力されたときに、供給弁7が開放(ON)されて、容器17の水素濃度ρBが導出される。そして、導出した水素濃度ρBが設定濃度ρBsv未満であるため、第1の時間T1(時刻t=t1からt=t2の間)、中間弁18の開放状態かつ排水弁16の閉止状態が継続されて、燃料電池1および容器17に水素が供給されて、燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBが一定値まで上昇する。
【0060】
続く第2の時間T2(時刻t=t2からt=t3の間)、中間弁18を閉止かつ排水弁16を弁開度を調整しながら開放して、容器17内の水素と空気の混合気の排出が行われる。このとき、図5に示すように、排水弁16を3回に分けて開放(ON)することによる弁開度調整を行いながら該排水弁16を開放することで、水素濃度の高い状態(約4%以上)の混合気が、容器17から大気中に放出されるのが防止され、水素濃度が高い状態の混合気が大気中に放出されることによる種々の問題が防止される。
【0061】
なお、このとき、排水弁16を開放するたびに、排水弁16の開放時間を徐々に長くしているのは、第1の時間T1に水素が容器17に流入することにより容器17内の圧力が大気圧に比べて上昇しているためであり、最初に排水弁16を開放するときの開放時間を短くすることで、瞬時に水素濃度の高い状態の混合気が大量に大気中に放出されるのを防止できる。そして、この実施形態では、排水弁16が開放されて容器17から混合気が排出されるたびに、容器17内の圧力が低下するため、後に続く排水弁16の開放時間を徐々に長くしている(図5参照)。
【0062】
以上で、1回の水素置換弁駆動処理が終了し、再度、容器17の水素濃度ρBが導出される。そして、水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達するまでステップ#105における水素置換弁駆動処理が繰返し実行される。
【0063】
なお、この実施形態では、2回目の水素置換弁駆動処理の第1の時間T1経過直後(時刻t=t4)に、燃料電池1のアノード側の水素濃度ρFが発電に必要な設定濃度ρFsvに達したため、時刻t=t4において燃料電池1の発電が開始される。
【0064】
そして、この実施形態では、ステップ#105における水素置換弁駆動処理が4回繰返して実行されることで、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達したため、時刻t=t5において、中間弁18が開放されて、通常発電弁駆動処理が開始される。
【0065】
その後は、図3を参照して説明したように、燃料電池1の濡れ状態に応じて生成水排出処理(図5の点線で囲まれた部分参照)が実行される。そして、図5に示すように時刻t=t9において発電が停止されると供給弁7、排水弁16および中間弁18の全てが閉止されて燃料電池システムの動作が終了する。
【0066】
なお、図5の時刻t=t6からt=t7の間が図3における工程S20を示しており、時刻t=t7において、供給弁7が開放(ON)されて図3における工程S30が実行される。そして、時刻t=t8において、排水弁16が開放(ON)されて図3における工程40が実行される。
【0067】
以上のように、この実施形態の燃料電池システムの場合、ECU19は、燃料電池1の発電が停止されたときに、燃料電池1と容器17との間のアノード側下流路15に設けられた中間弁18を閉止する。したがって、発電停止状態の燃料電池1のカソード側から高分子電解質膜を通して空気がアノード側へ混入しても、当該空気がアノード側下流路15を介して容器17に流入するのが阻止され、発電停止状態の燃料電池1のアノード側から容器17へ空気が流入するのを効果的に防止できる。
【0068】
また、発電停止状態の燃料電池1のアノード側から容器17へ空気が流入するのが効果的に防止されているため、発電停止後、数時間の間は容器17の水素濃度ρBは高濃度に維持され、燃料電池1が再起動されたときに、供給弁7を開放して水素を供給することで、燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度ρF,ρBを短時間で設定濃度ρBsvとすることができ、燃料電池1の再起動にかかる時間を短縮できる。したがって、アノード側の水素濃度ρFが発電に必要な濃度に達していないことに起因する発電効率の低下や、燃料電池1の損傷を効果的に防止できる。
【0069】
ところで、発電停止状態が数日間におよぶ場合、各弁7,16,18から空気が徐々に透過して燃料電池1のアノード側および容器17の水素濃度が低下することがある。このような場合であっても、燃料電池1が発電停止状態から起動されたときに、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsv未満である場合には、ECU19は水素置換弁駆動処理を容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達するまで繰返し実行する。その間、燃料電池1のアノード側には常に水素が供給されているため、容器17の水素濃度ρBは徐々に上昇して設定濃度ρBsvに達する一方、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達する前に燃料電池1のアノード側の水素濃度ρFは正常な発電に必要な設定濃度ρFsvに達することとなり、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達する前に燃料電池1の発電を開始できる。
【0070】
すなわち、容器17の水素濃度ρBが設定濃度ρBsvに達する前に、容器17の水素濃度ρBを徐々に上昇させながら発電を行うことができるため、燃料電池1が数日間におよぶ発電停止状態から起動されたときに、従来のように燃料電池1のアノード側および容器17の両方が設定された水素濃度ρFsv,ρBsvに達するまで待機する必要がなく、燃料電池1が起動されてから発電が開始されるまでの時間を短縮することができる。
【0071】
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、水素置換弁駆動処理における排水弁16の弁開度の調整は、排水弁16の開閉を繰返すといった上記した方法に限られず、排水弁16の弁開度を連続的に上下させて調整するように構成してももちろんよい。
【0072】
また、燃料の水素は、改質器によりメタノールや天然ガスから水素を生成して燃料電池1に供給するように構成してもよい。また、燃料電池1のセル数等はどのようであってもよい。
【0073】
また、本発明の燃料電池システムは、例えば1kw〜10kwの家庭用電気製品の電源およびその非常用電源、あるいは車両用バッテリーとして利用することができる。なお、本発明の燃料電池システムを車両用バッテリーとして用いる場合、車両を構成する中空のサイドメンバの内部空間を本発明の「水溜り部」として利用することで、燃料電池システムを車両にコンパクトに搭載することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態たる燃料電池システムのブロック図である。
【図2】図1の燃料電池システムの水素置換弁駆動処理の説明図である。
【図3】図1の燃料電池システムの生成水排出処理の説明図である。
【図4】図1の燃料電池システムの起動時弁駆動処理を示すフローチャートである。
【図5】図4の起動時弁駆動処理の一例を示すタイミングチャートである。
【図6】従来の燃料電池システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0075】
1 燃料電池
7 供給弁
9 アノード側上流路
15 アノード側下流路
16 排水弁
17 容器(水溜り部)
18 中間弁
19 ECU(弁駆動手段)
ρB 水素濃度
ρBsv 設定濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のアノード側に水素を供給し、前記燃料電池のカソード側に空気を供給することで発電する燃料電池システムにおいて、
前記アノード側の上流路に設けられた前記水素の供給弁と、
前記アノード側の下流路に設けられた前記燃料電池のアノード側の生成水を排出する排水弁と、
前記燃料電池と前記排水弁との間に設けられた前記燃料電池の前記生成水を溜める水溜り部と、
前記燃料電池と前記水溜り部との間に設けられた中間弁と、
前記供給弁、前記排水弁および前記中間弁を開閉制御する弁駆動手段とを備え、
前記弁駆動手段は、
前記燃料電池の発電が停止されたときに、前記中間弁を閉止することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池が発電停止状態から起動されたときに、
前記弁駆動手段は、
前記供給弁を開放し、
前記水溜り部の水素濃度が設定濃度未満である場合には、
前記中間弁の開放状態かつ前記排水弁の閉止状態を継続した後、前記中間弁を閉止かつ前記排水弁を弁開度を調整しながら開放する水素置換弁駆動処理を、前記水素濃度が前記設定濃度に達するまで実行することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−243500(P2008−243500A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80635(P2007−80635)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】