説明

燃料電池システム

【課題】この発明は、少ない消費電力で、燃料電池セルに残留する水を低減することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池スタック10内部には、アノードガス流入孔14を有する燃料電池セル12が複数積層して備えられる。燃料電池スタック10の端側に位置する燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を開閉するために、水素供給内部マニホールド20内に、ピストン50が配置される。燃料電池システムの運転停止時に、ピストン50が、端側の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を閉じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに係り、特に、車両への搭載に適した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特開2004−311348号公報に開示されているように、燃料電池セルを発電時と逆の電位状態とすることにより、運転停止時に燃料電池セル内の水を低減する燃料電池システムが知られている。この技術によれば、燃料電池セルを外部からの電圧印加により逆電位状態として、燃料電池セル内の水を電気分解し、残留水を低減したうえで燃料電池システムを停止することとしている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−311348号公報
【特許文献2】特開2004−186137号公報
【特許文献3】特表2003−508877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電圧印加により燃料電池セル内部の水低減を行うと、消費電力が多くなる場合がある。これに対し、水素供給量の調整により逆電位状態を生じさせることとすれば、外部からの電圧印加を必要とせず、少ない消費電力で燃料電池セル内部の水の低減を行うことができ好ましい。
【0005】
この発明は、上述のような思想に基づいてなされたもので、少ない消費電力で燃料電池セルに残留する水を低減することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池システムであって、
水素が流入するアノードガス流入孔を有する燃料電池セルが複数積層されてなる燃料電池スタックと、
前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔へ流入する水素の量を変化させる水素量調節機構と、
前記水素量調節機構を制御して、前記複数積層された前記燃料電池セルのうち一部の該燃料電池セルに供給される水素の量を残部の該燃料電池セルに供給される水素の量よりも少なくする水素供給量低減手段と、
を有することを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記一部の前記燃料電池セルは、前記複数積層された前記燃料電池セルのうち保水量の多い該燃料電池セルを含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記保水量の多い前記燃料電池セルは、前記燃料電池スタックの端側に位置する該燃料電池セルを含むことを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記燃料電池スタックの端側は、前記燃料電池セルにおいてカソードが面する側を含むことを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明において、
前記水素供給量低減手段は、前記燃料電池スタックの運転停止時に、前記一部の前記燃料電池セルに供給される水素の量を少なくすることを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明において、
前記水素量調節機構は、前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔へ流入する水素量を制限する水素量制限機構を含むことを特徴とする。
【0012】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記燃料電池スタックは該燃料電池スタックの端側に備えられるスタックエンドプレートを有し、
前記アノードガス流入孔に連通し該アノードガス流入孔に水素を供給する水素供給マニホールドを有し、
前記水素量制限機構は、
前記水素供給マニホールド内に備えられる閉鎖部材と、
前記閉鎖部材に備えられる第一の磁石と、
前記スタックエンドプレートを介して前記第一の磁石に対向して備えられる第二の磁石と、
前記第一の磁石と前記第二の磁石の少なくとも一方の極性を制御して前記水素供給マニホールド内で前記閉鎖部材を摺動させて前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔を閉鎖する制御手段とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、第8の発明は、第6の発明において、
前記アノードガス流入孔に連通し該アノードガス流入孔に水素を供給する水素供給マニホールドを有し、
前記水素量制限機構は、前記水素供給マニホールド内に回転自在に備えられ、その回転角度に応じて前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔と前記水素供給マニホールドとの連通を制限するロータリーバルブを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、一部の燃料電池セルへの水素供給量を残部の燃料電池セルへの水素供給量よりも少なくすることにより、当該一部の燃料電池セル内部で水の電気分解を行うことができる。これにより、少ない消費電力で、当該燃料電池セル内の水を低減することができる。
【0015】
第2の発明によれば、少ない消費電力で、保水量の多い燃料電池セルの水の低減を行うことができる。これにより、燃料電池スタックに残留する水の低減を、効率よく行うことができる。
【0016】
第3の発明によれば、燃料電池スタックの端側に位置する燃料電池セルにおいて、確実に残留水の低減が行われる。端側に位置する燃料電池セルは、中央側に位置する燃料電池セルよりも放熱性が高く、温度が低くなる傾向にあり、その結果保水量が多くなり易い。第3の発明によれば、これらの燃料電池セルの残留水を確実に低減させることができる。
【0017】
第4の発明によれば、燃料電池スタックの端側にカソードが面する燃料電池セルで、確実に残留水の低減が行われる。カソードで温度低下が生ずる燃料電池セルは、アノードで温度低下が生ずる燃料電池セルに比して、保水量が多くなりやすい。このため、カソードが燃料電池スタックの端側に面している燃料電池セルでは、保水量がより多くなり易い。第4の発明によれば、このような燃料電池セルに対し、残留水の低減を確実に行うことができる。
【0018】
第5の発明によれば、燃料電池スタック内の残留水の低減を確実に行った上で、燃料電池スタックの運転を停止することができる。
【0019】
第6の発明によれば、一部の燃料電池セルに対し水素供給量の制限を行うことにより、当該燃料電池セル内部で水の電気分解を行うことができる。これにより、簡素な構成で、当該燃料電池セル内部の水の低減を行うことができる。
【0020】
第7の発明によれば、スタックエンドプレートを貫通する例えばシャフトなどの構造物を利用することなく、燃料電池セルのアノードガス流入孔を塞ぐことができる。その結果、燃料電池スタックの密閉性を高めることができる。
【0021】
第8の発明によれば、ロータリーバルブが、その回転角度に応じて、一部の燃料電池セルのアノードガス流入孔と水素供給マニホールドとの連通を制限する。このような構成によれば、当該アノードガス流入孔への水素流入量の制御が容易となり、当該燃料電池セルの水素供給量を容易に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステムの構成]
図1は、実施の形態1の燃料電池システムを説明するための図である。図1は、実施の形態1の燃料電池システムのアノード側の構成を示している。
【0023】
実施の形態1の燃料電池システムは、燃料電池スタック10を備えている。燃料電池スタック10の内部には、複数の燃料電池セル12が積層されて備えられている。積層された燃料電池セル12を挟み込むように、紙面左方側にスタックエンドプレート40が、紙面右方側にスタックエンドプレート42がそれぞれ取り付けられている。
【0024】
個々の燃料電池セル12は、その中央にMEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)を有し、紙面左方側にアノード、紙面右方側にカソードが位置する構造となっている。このため、スタックエンドプレート40には燃料電池セル12のアノードが接しており、当該燃料電池セル12のカソードには隣接する他の燃料電池セル12のアノードが面する。そして、アノードとカソードとが面するようにそれぞれの燃料電池セル12が紙面左右方向に積層され、最も紙面右方側に位置する燃料電池セル12のカソードが、スタックエンドプレート42に接することとなる。
【0025】
燃料電池スタック10内部において、燃料電池セル12の紙面上方側には、水素供給内部マニホールド20が設けられている。水素供給内部マニホールド20は、スタックエンドプレート40を貫通して、紙面左方側で管路24に連通する。管路24は、図示しない水素タンクに連通している。このような構成によれば、水素タンクに貯留されている水素が、管路24を通って、水素供給内部マニホールド20へと適宜供給される。
【0026】
水素供給内部マニホールド20には、それぞれの燃料電池セル12の端面が露出している。露出しているそれぞれの燃料電池セル12の端面には、アノードガス流入孔14(燃料電池セル12における水素の入口)がそれぞれ設けられている。アノードガス流入孔14は、燃料電池セル12内部のアノードに連通している。水素タンクから水素供給内部マニホールド20に至った水素は、アノードガス流入孔14を通って、燃料電池セル12内部のアノードへと流入する。その後、この水素は、燃料電池セル12内部で生ずる発電反応に寄与することとなる。
【0027】
水素供給内部マニホールド20の紙面右方側には、ピストン50が備えられている。ピストン50は、スタックエンドプレート42を貫通して配置されている。ピストン50の形状は、その表面が燃料電池セル12の端面形状に対応するように形成されている。複数の燃料電池セル12のうち、ピストン50がその上方に位置した燃料電池セル12では、その燃料電池セル12のアノードガス流入孔14が閉じられる。
【0028】
ピストン50は、燃料電池スタック10の外部においてピストン位置制御モータ62に接続されている。ピストン位置制御モータ62は、CPU64に接続されている。CPU64がピストン位置制御モータ62の駆動を制御することにより、ピストン50が水素供給内部マニホールド20内を摺動する。
【0029】
このような構成によれば、ピストン50の位置を制御することにより、スタックエンドプレート42付近の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14の開閉を制御することができる。このため、当該位置の燃料電池セル12への水素供給量を、調節することができる。
【0030】
燃料電池セル12の紙面下方側には、水素排出内部マニホールド22が設けられている。アノードガス流入孔14から流入した水素は燃料電池セル12面内(アノード)を流通する過程で消費され、消費されなかった水素を含むガスが、燃料電池セル12の紙面下方端に位置する図示しないガス流出孔(燃料電池セル12における水素の出口)から流出する。積層されたそれぞれの燃料電池セル12からそれぞれ流出したガスは、水素排出内部マニホールド22へと流れ込み、その後、管路26を介して図示しない水素排出系へと流れる。
【0031】
燃料電池スタック10内のそれぞれの燃料電池セル12には、図示しない電圧センサが設けられている。電圧センサは、CPU64に接続されている。発電中には、個々の燃料電池セル12の電圧値が当該電圧センサによって検知され、CPU64がこれらの電圧値を取得する。
【0032】
[実施の形態1のシステムの動作]
以下、図1を参照して、実施の形態1の燃料電池システムの停止時の動作について説明する。
【0033】
燃料電池スタック10の中央側に位置する燃料電池セル12は、他の燃料電池セル12と隣接しており、その放熱性が比較的低い。逆に、端側に位置する燃料電池セル12は、スタックエンドプレート40および42を介して熱が放出されやすく、比較的、放熱性が高くなる。このため、端側に位置する燃料電池セル12は、運転中の温度が低くなる傾向があり、これに起因して内部の保水量が多くなりやすい。
【0034】
また、燃料電池セルのカソード側の温度低下は、アノード側の温度低下よりも、保水量増加の要因となりやすい。前述のように、実施の形態1では、紙面右端に位置する燃料電池セル12のカソードが、スタックエンドプレート42に接している。このため、紙面右端の燃料電池セル12は特に保水量が多くなりやすい。
【0035】
実施の形態1では、システムの運転停止時に保水量の多くなり易い燃料電池セル12、すなわち、上述したスタックエンドプレート42近傍の燃料電池セル12に対して水の低減を行った後、燃料電池システムを停止することとする。具体的には、運転停止時に、先ず、ピストン50によって、スタックエンドプレート42近傍の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を閉じる。
【0036】
このようにして、燃料電池スタック10において水低減を行う一部の燃料電池セル12に対し、発電に必要な量の水素が供給されない状態とする。その結果、水素が欠乏状態となり、当該一部の燃料電池セル12では発電が行われなくなる。一方、残部の燃料電池セル12に対してはアノードガス流入孔14の閉鎖を行わず、通常運転と同じく水素供給を行い、発電を継続する。
【0037】
このような状態では、特表2003−508877号公報に開示されているように、
発電していない燃料電池セル12が逆電位状態となり、当該一部の燃料電池セル12のアノード触媒層において水の電気分解が生ずることとなる。その結果、水素量が低減された燃料電池セル12、すなわち、保水量の多い燃料電池セル12のアノードに滞留する水が減少する。
【0038】
アノードでの水の減少に伴い、当該燃料電池セル12のカソードに滞留する水が電解質膜を通ってアノードへと移動し、カソードの水が減少する。また、アノードに移動した水はアノード触媒層で電気分解されるため、アノードの水が引き続き減少する。このように、カソードからアノードへの水移動によりカソードの水が減少し、アノードでの水分解によりアノードの水が減少することにより、当該燃料電池セル12のアノードとカソードの双方の水が低減される。
【0039】
その後、水の低減が十分に行われたら、ピストン50によるアノードガス流入孔14の閉鎖を解除し、燃料電池システムの停止処理を続行する。
【0040】
以上の動作によれば、燃料電池システムの運転停止時に、燃料電池スタック10への電圧印加を行うことなく、少ない消費電力で水低減を行う燃料電池セル12を逆電位状態とすることができる。これにより、水が電気分解されることによって、当該燃料電池セル12内の水を低減することができる。
【0041】
[実施の形態1における具体的処理]
図2は、上記の動作を行うために、CPU64が実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンは、実施の形態1の燃料電池システムの運転停止時に実行されるものとする。実施の形態1では、通常運転時には、ピストン50がいずれのアノードガス流入孔14も閉じられない状態とされる。
【0042】
通常運転時には、燃料電池スタック10の発電に伴い、前述したように、スタックエンドプレート42に接する燃料電池セル12の保水量が多くなる。また、実施の形態1では、燃料電池セル12の発電電圧が、前述した電圧センサ(図示せず)によって検知されている。
【0043】
図2のルーチンが開始されると、先ず、燃料電池スタック10の運転停止の要求があったか否かが判別される(ステップ100)。運転停止の要求がないと判別された場合には、引き続き発電状態を維持する。
【0044】
運転停止の要求があったと判別された場合には、ピストン閉の処理がなされる(ステップ110)。具体的には、ピストン位置制御モータ62が制御され、ピストン50が紙面左方側へと移動される。その結果、スタックエンドプレート42近傍の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14が閉じられる。アノードガス流入孔14が閉じられた燃料電池セル12では、前述した水の電気分解が生じ、内部の水が低減される。
【0045】
水の電気分解が生じている間、当該燃料電池セル12は、通常の発電状態に対して逆の電位状態(例えば、通常運転時には0.5(V)〜1.0(V)程度で、水分解時には−0.8(V)〜−1.0(V)程度)となっている。このような電位状態の間、当該燃料電池セル12で水の電気分解が生じている。
【0046】
水分解によって燃料電池セル12内の水が減少すると、当該燃料電池セル12の電圧が更に低下する(逆電位側に大きくなる)。電圧が低くなりすぎると、燃料電池セル12のアノード側の構造で酸化反応が生じることとなる。これを避けるために、実施の形態1では、水低減を行う燃料電池セル12の電圧値を検知し、好適なタイミングで水の低減を終了することとする。
【0047】
具体的には、電気分解が生じている燃料電池セル12に対し、電圧状態の判定がなされる(ステップ120)。本ルーチンの処理では、水低減が行われている燃料電池セル12の電圧センサが検知する電圧値が、所定値(例えば、本実施形態では−1.0(V))を越えたか否かが判別される。
【0048】
ステップ120で電圧値が所定値を越えていないと判別された場合には、当該燃料電池セル12内部に低減されるべき水が残留していると判断され、引き続きピストン閉の状態とされる。これにより、水の低減が続行される。
【0049】
ステップ120で電圧値が所定値を越えていると判別された場合には、当該燃料電池セル12で、十分に水の低減が行われたと判断される。この場合には、ピストン開の処理がなされる(ステップ130)。これにより、当該燃料電池セル12内部における、水の電気分解が停止される。その後、燃料電池スタック10の停止シーケンス(ステップ140)が行われて今回のルーチンが終了し、燃料電池システムの運転停止処理が続行される。
【0050】
以上の処理によれば、燃料電池システムの運転停止の際に、燃料電池スタック109への電圧印加を伴わずに、水低減を行う燃料電池セル12が逆電位状態とされ、その内部に残留する水が電気分解される。そして、水の低減が行われる燃料電池セル12の電圧状態が観測され、その内部の水が十分に除去されたとの判断がなされたら、水低減が終了される。
【0051】
このような処理により、少ない消費電力で、水の低減を確実に行うことができる。また、保水量の多い燃料電池セル12に対して水の低減を行うこととしているため、燃料電池スタック10内の保水量の低減を、(例えば時間などの面から)効率よく行うことができる。
【0052】
なお、実施の形態1では、保水量の多いスタックエンドプレート42近傍の燃料電池セル12のみを対象に、水素供給量の低減を行った。しかし、本発明はこれに限られるものではない。本発明の思想に基づき、燃料電池スタック10において水の低減が必要な燃料電池セル12に対する水素供給量を相対的に少なくすることにより、当該燃料電池セル12内部の水を低減することができる。
【0053】
具体的には、例えば、ピストン50が任意の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を閉鎖しうる構成とし、水低減を行う燃料電池セル12を適宜選定して、当該燃料電池セル12への水素供給量を低減することとしてもよい。
【0054】
また、実施の形態1には、「水素供給量を制御して燃料電池セルを逆電位状態とし、当該燃料電池セルの水の低減を行う思想」に加え、「複数の燃料電池セルにおける保水量の多少(ばらつき)を考慮して水の低減を行う思想」が含まれている。この後者の思想についても、実施の形態1に限られるものではなく、例えば、燃料電池スタックの構造に応じて保水量の多くなり易い燃料電池セルを適宜選定して、水素供給量の低減を行うこととしてもよい。
【0055】
具体的には、燃料電池スタック10の端側では放熱性が高く、その位置の燃料電池セル12では保水量が多くなる傾向にあることを考慮し、燃料電池スタック10の右端と左端に位置する燃料電池セル12の両方に対して、水素供給量の低減を行うこととしてもよい。
【0056】
なお、実施の形態1では、水の低減を行う燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を閉鎖し、当該燃料電池セル12への水素供給を遮断することとしている。しかし、前述した水の低減を行う場合には、必ずしも、アノードガス流入孔14が完全に密閉されなくともよく、水低減を行う燃料電池セル12への水素供給量が他の燃料電池セル12への水素供給量よりも相対的に少なくなるようにされればよい。
【0057】
また、実施の形態1のステップ120における電圧の判定処理では、−1.0(V)の値を判定値とし、水低減が行われている燃料電池セル12の状態を判断している。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、逆電位状態における、燃料電池セル12の許容電圧値に応じて、判定値を定めることができる。
【0058】
また、実施の形態1では、燃料電池セル12の電圧が−0.8(V)程度の場合に、内部での水の電気分解が生じているものと判断している。この電圧値は、燃料電池セル12の抵抗値(例えば、MEAの抵抗値等)により変更されうるものである。
【0059】
通常、アノードの電位が0.7(V)程度の時にアノードにおける水の電気分解が生じていると判断することができるため、燃料電池セルの抵抗分を適宜考慮し、「燃料電池セルの抵抗×燃料電池スタック停止時の電流」に相当する電圧値を−0.7(V)から差し引いた値を、上記の判断に用いることができる。
【0060】
なお、より好ましくは、燃料電池セルの電圧に基づいた判断を行う際には、個々の燃料電池セル12にそれぞれ電圧センサを設けるのではなく、所定の枚数の燃料電池セル12をひとまとめとして(例えば10〜20枚程度にグループ化して)電圧センサを設け、グループ単位で電圧計測値を検知し、判断を行うこととしてもよい。
【0061】
また、実施の形態1の処理では、電圧値の判定に基づいて、水素供給量低減の制御を行っている。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、予め定めた所定の時間(例えば、5秒程度)が経過するまで、水分解が行われる状態(実施の形態1では、電圧値が−0.8〜−1.0(V)付近の状態)を保持することとしてもよい。
【0062】
この保持時間は、例えば、燃料電池セル12の最大保水量に相当する水量を電気分解しうる時間を最大値として、所定の値に定めることができる。最大保水量の値は、例えば、低温高負荷運転状態で、燃料電池セル12の抵抗が極小一定となった状態における燃料電池セル12の含水量に基づいて求めることができる。
【0063】
なお、上述した実施の形態1では、アノードガス流入孔14が、前記第1の発明の「アノードガス流入孔」に、燃料電池セル12が、前記第1の発明の「燃料電池セル」に、燃料電池スタック10が、前記第1の発明の「燃料電池スタック」にそれぞれ相当する。また、実施の形態1では、ピストン50およびピストン位置制御モータ62が、前記第1の発明の「水素量調節機構」に相当する。
【0064】
また、実施の形態1の処理では、ステップ110の処理が、前記第1の発明の「水素供給量低減手段」に相当する。また、上述した実施の形態1では、スタックエンドプレート42近傍に位置する燃料電池セル12が、前記第1の発明の「一部の燃料電池セル」に相当する。また、実施の形態1では、スタックエンドプレート42近傍に位置する燃料電池セル12が、前記第2の発明の「保水量の多い燃料電池セル」に相当する。
【0065】
また、上述した実施の形態1では、燃料電池スタック10の紙面右方側が、前記第4の発明の「前記燃料電池セルにおいてカソードが面する側」に相当する。また、上述した実施の形態1では、ピストン50が前記第6の発明の「水素量制限機構」にそれぞれ相当する。
【0066】
[実施の形態1の変形例]
(第1変形例)
実施の形態1では、ピストン50を、スタックエンドプレート42を貫通して設けた。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、次のような変形が可能である。図3(A)および(B)は、実施の形態1の第1変形例を説明する図であり、図1の燃料電池スタック10のピストン50近傍位置に対応している(一部簡略化して図示している)。第1変形例では、ピストン350に磁石300を、電磁石制御装置362に電磁石310をそれぞれ設け、磁力によりピストンの制御を行う。
【0067】
ピストン350は、スタックエンドプレート342に設けられた凹部346に収納可能とされる。電磁石制御装置362により電磁石310の極性を制御することで、磁石300と電磁石310との間に引力(図3(A)参照)および斥力(図3(B)参照)を生じさせ、ピストン350の移動を制御する。この構造によれば、スタックエンドプレートに貫通孔を設けないので、燃料電池スタックの密閉性を高めることができる。
【0068】
なお、上述した第1変形例では、スタックエンドプレート342が前記第7の発明の「スタックエンドプレート」に、水素供給内部マニホールド20が前記第7の発明の「水素供給マニホールド」に、ピストン350が前記第7の発明の「閉鎖部材」に、磁石300が前記第7の発明の「第一の磁石」に、電磁石310が前記第7の発明の「第二の磁石」に、磁石300と電磁石310と電磁石制御装置362を含む機構が前記第7の発明の「制御手段」に、それぞれ相当している。
【0069】
(第2変形例)
実施の形態1および第1変形例では、水素供給量の制御を、ピストンを用いて行っている。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。図4は、実施の形態1の第2変形例を説明するための図である。第2変形例では、実施の形態1のピストン50の替わりに、水素供給内部マニホールド20内に、ロータリーバルブ450を回転自在に設ける。
【0070】
ロータリーバルブ450は、円筒を切り欠いた形状を有し、回転角度に応じて、燃料電池スタック10の端側(すなわち、保水量の多くなり易い燃料電池セル12)のアノードガス流入孔14を開閉する。このような構成で、一部の燃料電池セル12への水素供給量制御を行ってもよい。
【0071】
なお、第2変形例では、第1変形例と同様の思想に基づき、ロータリーバルブ450に磁石400を設け、磁石400がスタックエンドプレート442の凹部446内に収納される構成としている。そして、外部のバルブ駆動モータ462に磁石410を設け、磁力により回転制御を行うこととしている。
【0072】
なお、上述した第2変形例では、水素供給内部マニホールド20が前記第8の発明の「水素供給マニホールド」に、ロータリーバルブ450が前記第8の発明の「ロータリーバルブ」に、それぞれ相当している。
【0073】
(第3変形例)
実施の形態1では、スタックエンドプレート42に接する燃料電池セル12を保水量が多くなり易い燃料電池セルと予め確定して、水の低減を行うこととしている。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。例えば、ピストン50が任意の燃料電池セル12のアノードガス流入孔14を閉鎖しうる構成とし、複数の燃料電池セル12の中から保水量の多い燃料電池セル12を検知しうる構成として、この検知された燃料電池セル12の水素供給量を低減することとしてもよい。
【0074】
具体的には、例えば、燃料電池スタックの冷却流路の構造等により、保水量の多くなり易い燃料電池セルを予め特定しておく。そして、燃料電池スタックの全体の導電抵抗を計測し、燃料電池セル内部の電解質膜の含水量と抵抗値の相関から、燃料電池スタック全体の平均含水量を推定する。このようにすることで、推定した平均含水量が過多となった際に、燃料電池セルの水の低減を行う時期と判断して、予め特定した保水量の多い燃料電池セルの水低減を行うこととしてもよい。
【0075】
また、保水量の異なる燃料電池セル間では、運転中、供給する空気量を増加させた際に、出力電圧(およびその時間変動)の上昇(変動)に差が生じる傾向がある。具体的には、保水量の多い燃料電池セルのほうが、供給空気量を増加させた際の電圧上昇が大きくなる傾向がある。これを利用して、例えば、通常運転中に所定時間空気供給量を増加させ、電圧上昇が相対的に高い燃料電池セルを保水量の多い燃料電池セルと推定するようにしてもよい。
【0076】
このような構成で、当該検知によって保水量が多いと判別された燃料電池セル12を水低減を行う燃料電池セル12と決定して、水素供給量の調節を行うこととしてもよい。
【0077】
なお、実施の形態1では、燃料電池システムの運転停止時に、水素供給量の低減による水分解の手法を用いている。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、燃料電池システムの運転中などにおいても、本発明の思想を用いて水低減を行うことができる。
【0078】
また、燃料電池セルの水素供給量の調整を行う際には、ピストンやロータリーバルブを用いる方法以外にも、例えば、スリット構造を有するプレートを用いてアノードガス流入孔の開閉を行う方法など、種々の技術を、本発明に適用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態1の燃料電池システムを説明するための図である。
【図2】実施の形態1の燃料電池システムで実行されるフローチャートである。
【図3】実施の形態1の変形例を説明するための図である。
【図4】実施の形態1の変形例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0080】
燃料電池スタック 10
燃料電池セル 12
アノードガス流入孔 14
水素供給内部マニホールド 20
スタックエンドプレート 40、42
ピストン 50
ピストン位置制御モータ 62
CPU 64

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素が流入するアノードガス流入孔を有する燃料電池セルが複数積層されてなる燃料電池スタックと、
前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔へ流入する水素の量を変化させる水素量調節機構と、
前記水素量調節機構を制御して、前記複数積層された前記燃料電池セルのうち一部の該燃料電池セルに供給される水素の量を残部の該燃料電池セルに供給される水素の量よりも少なくする水素供給量低減手段と、
を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記一部の前記燃料電池セルは、前記複数積層された前記燃料電池セルのうち保水量の多い該燃料電池セルを含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記保水量の多い前記燃料電池セルは、前記燃料電池スタックの端側に位置する該燃料電池セルを含むことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池スタックの端側は、前記燃料電池セルにおいてカソードが面する側を含むことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記水素供給量低減手段は、前記燃料電池スタックの運転停止時に、前記一部の前記燃料電池セルに供給される水素の量を少なくすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記水素量調節機構は、前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔へ流入する水素量を制限する水素量制限機構を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池スタックは該燃料電池スタックの端側に備えられるスタックエンドプレートを有し、
前記アノードガス流入孔に連通し該アノードガス流入孔に水素を供給する水素供給マニホールドを有し、
前記水素量制限機構は、
前記水素供給マニホールド内に備えられる閉鎖部材と、
前記閉鎖部材に備えられる第一の磁石と、
前記スタックエンドプレートを介して前記第一の磁石に対向して備えられる第二の磁石と、
前記第一の磁石と前記第二の磁石の少なくとも一方の極性を制御して前記水素供給マニホールド内で前記閉鎖部材を摺動させて前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔を閉鎖する制御手段とを含むことを特徴とする請求項6項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記アノードガス流入孔に連通し該アノードガス流入孔に水素を供給する水素供給マニホールドを有し、
前記水素量制限機構は、前記水素供給マニホールド内に回転自在に備えられ、その回転角度に応じて前記一部の前記燃料電池セルの前記アノードガス流入孔と前記水素供給マニホールドとの連通を制限するロータリーバルブを含むことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−34136(P2008−34136A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203723(P2006−203723)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】