説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の乾燥状態を容易に判定できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池10の酸素極側の排気配管18には、気液分離器24が設けられる。気液分離器24には、気液分離器24に溜まった水の水位を検出する水位センサ26が設けられる。ECU30は、水位センサ26が検出した気液分離器24の水位に基づいて、燃料電池10が所定の乾燥状態よりも乾燥しているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の乾燥状態を判定する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との化学反応を利用して発電する燃料電池は、自動車の駆動源などの様々な用途に用いられる。例えば、車両搭載用の燃料電池として一般的に用いられる固体高分子型燃料電池では、発電反応を促進するため、水素及び酸素を加湿して燃料電池に供給することが多い。また、燃料電池の発電反応では水が生成されるため、通常、運転中の燃料電池内は湿潤状態にある。このような燃料電池を低温環境下で用いる場合、燃料電池の運転停止後に長時間放置すると、燃料電池内の水分が凍結してしまうことがある。燃料電池内の水分が凍結すると、電解質の伝導率の低下や、反応ガス経路の閉塞が生じ、燃料電池の始動の妨げとなる。
【0003】
したがって、低温環境下では、燃料電池の運転停止時に、燃料電池内の水分を除去する乾燥処理が行われることが多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、乾燥空気及び乾燥水素を燃料電池に供給する水分除去運転を行う技術が開示されている。特許文献1に開示される技術では、燃料電池に乾燥空気及び乾燥水素を供給して発電させることで燃料電池の温度を上昇させ、燃料電池内の残留水分を蒸発させて燃料電池外に排出させる。また、特許文献1に開示される燃料電池システムは、燃料電池を冷却するために冷却水を循環させる冷却システムを備える。特許文献1に開示される燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分除去運転中、循環する冷却水の温度に基づいて冷却システムが制御され、それによって燃料電池の温度が水分除去に適した温度範囲内になるように制御される。また、特許文献1には、燃料電池の乾燥状態を判定するための技術として、燃料電池のインピーダンス又は燃料電池に設けた湿度センサの検出結果を用いる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、燃料電池の運転停止時に、燃料電池のアノード極とカソード極との少なくとも一方を掃気ガスにより掃気し、検出した燃料電池の重量に基づいて、燃料電池の乾燥状態を判定する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−246053号公報
【特許文献2】特開2006−19184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、燃料電池の水分除去運転中に燃料電池で発電を行う必要があるため、燃料ガスを消費してしまう。また、特許文献1に開示される技術では、燃料電池の水分除去運転中に冷却水を循環させるための電力が必要である。さらに、特許文献1に開示される技術では、水分除去運転中に冷却水が循環することで燃料電池の温度が低下し、燃料電池内の残留水分の蒸発が妨げられることもある。
【0008】
また、特許文献2に開示される技術では、燃料電池の重量を検出することで燃料電池の乾燥状態を判定するが、燃料電池全体の重量と比較して、燃料電池から除去される水分の重量は非常に小さいため、精度良く乾燥状態を判定するのは困難である。
【0009】
本発明の1つの目的は、燃料電池の乾燥状態を容易に判定できる燃料電池システムを提供することである。
【0010】
また、本発明の他の1つの目的は、容易かつ適切に燃料電池の乾燥処理を行うことのできる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池から排出される気体の通る排気配管に設けられた気液分離器と、前記気液分離器に溜まった水の水位を検出する水位検出手段と、前記水位検出手段が検出した前記気液分離器の水位に基づいて、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥しているか否かを判定する乾燥判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記乾燥判定手段は、前記水位検出手段が検出した前記気液分離器の水位に基づいて、所定時間における前記気液分離器の水位変化を求め、この求めた水位変化が予め設定された閾値よりも小さい場合に、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥していると判定することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、前記燃料電池に乾燥気体を供給する乾燥手段と、前記乾燥判定手段において、前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥していると判定された場合に、前記乾燥手段を停止させる乾燥制御手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0014】
前記乾燥制御手段は、前記乾燥判定手段による、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥しているとの判定結果を取得した時点から所定時間経過後に、前記乾燥手段を停止させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、燃料電池の乾燥状態を容易に判定できる燃料電池システムを提供することができる。
【0016】
また、本発明によると、容易かつ適切に燃料電池の乾燥処理を行うことのできる燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の1つの実施形態の燃料電池システムの構成を示す図である。図1に示す燃料電池システムは、車両に搭載され、自動車の駆動源として用いられる。
【0019】
図1に示す燃料電池システムは、燃料電池10、エアコンプレッサ12、水素供給系14、気液分離器24、及びECU(Electronic Control Unit)30を備える。
【0020】
燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であり、水素極及び酸素極で電解質膜を挟んだ構造を有するセルが複数積層された燃料電池スタックである。
【0021】
エアコンプレッサ12は、給気配管16を介して燃料電池10と接続され、燃料電池10の空気極に空気を供給する。燃料電池10の空気極から排出された気体は、排気配管18a、気液分離器24、及び排気配管18bを通って車外に排出される。燃料電池10の運転時には、エアコンプレッサ12から燃料電池10に供給される空気を加湿器(図示しない)によって加湿してもよい。燃料電池10の乾燥処理時には、エアコンプレッサ12は、加湿されない乾燥空気を燃料電池10に供給する。
【0022】
水素供給系14は、給気配管20を介して燃料電池10と接続され、燃料電池10の水素極に水素を供給する。燃料電池10の水素極から排出される気体は、排気配管22を通って水素供給系14に戻される。水素供給系14は、燃料電池10の運転時には燃料電池10に水素を供給し、燃料電池10の乾燥処理時には、水素供給を行わない。
【0023】
気液分離器24は、燃料電池10の酸素極側の排気配管18a及び18bに接続して設けられる。気液分離器24は、排気配管18aを介して燃料電池10の酸素極からの排出気体を取り込み、取り込んだ気体から水分を分離する。気液分離器24は、水分を分離したあとの気体を排気配管18bに放出する。気液分離器24において分離された水分は、気液分離器24の貯水部に溜められる。気液分離器24は、溜まった水を排出するための排水口(図示しない)を備え、この排水口には、排水口を開閉する排水バルブ28が取り付けられる。
【0024】
気液分離器24において気体から水分を分離するには、例えば、気液分離器24内の気体の通路に気液分離膜(図示しない)を設け、気体を排気配管18bに放出し、水分を貯水部に溜めるようにすることができる。また、例えば、気液分離器24の外側に冷媒が通る冷媒配管(図示しない)を取り付け、気液分離器24を冷却させることで、気液分離器24が取り込んだ気体中の水分を分離することもできる。ここで例示した以外の方法で気体から水分を分離する気液分離器を用いても良い。
【0025】
気液分離器24には、気液分離器24に溜まった水の水位を検出する水位センサ26が取り付けられる。
【0026】
ECU30は、車両に搭載され、各センサの情報を基にエンジンなどの動作を制御する制御部である。例えば、ECU30は、ユーザがイグニッションをONにしたときのイグニッションON信号を受けて、エアコンプレッサ12及び水素供給系14に制御信号を送信し、燃料電池10への酸素及び水素の供給を行わせる。また例えば、ECU30は、水位センサ26が検出した気液分離器24の水位に応じて、気液分離器24に設けられた排水バルブ28を制御して気液分離器24に溜まった水を排出させることもできる。
【0027】
ECU30は、マイクロコンピュータなどを用いて実現できる。本実施形態では特に、ECU30は、水位センサ26が検出した気液分離器24の水位を取得して燃料電池10の乾燥状態を判定したり、判定した燃料電池10の乾燥状態に基づいてエアコンプレッサ12を停止させたりする後述の処理を行う。ECU30の記憶装置に後述の処理の流れを記述したプログラム、及び処理に必要な数値などを記憶させておき、ECU30のマイクロプロセッサに、そのプログラムを記憶装置から読み出しさせて実行させることができる。
【0028】
図2は、ECU30で行われる処理の一例を示すフローチャートである。図2を参照し、本実施形態の燃料電池10の乾燥処理について説明する。燃料電池10の乾燥処理は、例えば、ユーザがイグニッションをOFFにしたときのイグニッションOFF信号をECU30が検知した場合に開始される。ECU30は、イグニッションOFF信号を受けて、まず、エアコンプレッサ12及び水素供給系14に制御信号を送信して、燃料電池10への酸素及び水素の供給を停止させ、燃料電池10の運転を停止させる。燃料電池10の運転を停止させた後、ECU30は、燃料電池10の乾燥処理を開始する。ECU30は、燃料電池10の運転停止後、ユーザからの指示の有無や外気温などに応じて乾燥処理を開始するか否かを判断してもよい。例えば、ECU30は、外気温が0℃以下であれば、乾燥処理を開始し、燃料電池内の残留水分の凍結の恐れがない程度に外気温が高い場合には乾燥処理を行わない、という判断をしてもよい。
【0029】
燃料電池10の乾燥処理が開始されると、ECU30は、気液分離器24の排水バルブ28及びエアコンプレッサ12に制御信号を送る。ECU30からのこの制御信号を受けて、気液分離器24の排水バルブ28は閉じられる。エアコンプレッサ12は、ECU30からのこの制御信号を受けて、燃料電池10に乾燥空気を送り、燃料電池10の掃気を行う。
【0030】
燃料電池10の乾燥処理を開始する際、ECU30は、エアコンプレッサ12に制御信号を送る前に、水位センサ26から気液分離器24の水位を取得し、気液分離器24に溜まった水の量を調べることにしても良い。この場合、気液分離器24に一定量以上の水が溜まっていれば、ECU30は、気液分離器24の排水バルブ28を開く制御を行い、気液分離器24から水を排出させ、その後、ECU30は、排水バルブ28に制御信号を送り、排水バルブ28を閉じる。排水バルブ28を閉じた後、ECU30は、エアコンプレッサ12に燃料電池10の掃気を行わせる制御信号を送る。
【0031】
燃料電池10の乾燥処理が開始されると、ステップS1に進む。
【0032】
ステップS1では、ECU30は、気液分離器24に取り付けられた水位センサ26の検出水位を基に、気液分離器24の水位変化Δxを検出する。ECU30は、まず、水位センサ26から、気液分離器24の水位x1を取得する。次に、ECU30は、予め設定された所定時間(例えば10秒)経過後に再び気液分離器24の水位x2を水位センサ26から取得する。ECU30は、取得した水位x1及びx2を基に、気液分離器24の水位変化Δx=x2−x1を求める。
【0033】
次に、ステップS2で、ECU30は、ステップS1で求めた気液分離器24の水位変化Δxが、予め設定された閾値θ以下であるか否かを判定する。ステップS2で、水位変化Δxが閾値θ以下であると判定されると、燃料電池10は十分に乾燥した状態であると判定されてステップS3に進む。ステップS2で、水位変化Δxが閾値θよりも大きいと判定されると、燃料電池10は十分に乾燥した状態ではないと判定されてステップS1に戻る。
【0034】
ステップS2で用いられる閾値θは、気液分離器24の形状及び容量などを考慮して設定される。また、例えば、乾燥処理開始時などの燃料電池10の温度及び湿度の少なくとも一方に基づいて、閾値θを決定しても良い。例えば、乾燥処理開始時に、ECU30が燃料電池10の温度と外気温との差を求め、その温度差に応じて閾値θを決定するようにしても良い。また、乾燥処理開始時までの燃料電池10の運転時間や、乾燥処理開始時までの自動車の走行距離などに基づいて閾値θを決定するようにすることもできる。
【0035】
ステップS3では、ECU30は、エアコンプレッサ12に制御信号を送信し、燃料電池10の掃気を停止させる。掃気が停止されると燃料電池10の乾燥処理は終了する。
【0036】
図3は、ECU30で行われる処理の他の一例を示すフローチャートである。図3では、図2と同様の処理には同様の符号を付す。図3に示すフローチャートでは、ステップS1及びステップS2で、図2に示すフローチャートのステップS1及びステップS2と同様の処理を行った後、ステップS10に進む。ステップS10では、所定時間が経過したか否かの判定を行い、所定時間が経過していればステップS3に進み、所定時間が経過していなければ再びステップS10の判定に戻る。ステップS3の掃気停止処理は、図2のステップS3の処理と同様である。
【0037】
図3に示す処理では、気液分離器24の水位変化Δxが閾値θ以下であると判定された後、所定時間経過してから、エアコンプレッサ12による燃料電池10の掃気を停止する。この、ステップS10での「所定時間」は、例えばステップS1での水位変化Δxの検出における検出誤差に応じて決定される。また、例えば、乾燥処理開始時又はステップS2終了時の燃料電池10の温度及び湿度の少なくとも一方に応じて、ステップS10での所定時間を決定することもできる。乾燥処理開始時までの燃料電池10の運転時間や自動車の走行距離などに基づいてステップS10での所定時間を決定しても良い。こうすることで、より確実に燃料電池10を乾燥させることができる。
【0038】
以上、図1から図3を参照して説明した実施形態では、空気極側の排気配管18に設けられた気液分離器24の水位に基づいて燃料電池10の乾燥状態を判定する。他の実施形態では、水素極側の排気配管22に水位センサを備えた気液分離器を設け、その気液分離器の水位に基づいて燃料電池10の乾燥状態を判定することもできる。
【0039】
また、図1から図3を参照して説明した実施形態では、気液分離器24の排水バルブ28を閉じた状態で燃料電池10の乾燥処理を行う。しかし、例えば、気液分離器24の排水口からの排水速度が、乾燥処理中に気液分離器24に水が溜まる速度と比較して小さく、乾燥判定のための気液分離器24の水位変化の検出精度に影響を与えない場合などは、排水バルブ28を開いた状態で乾燥処理を行っても良い。また、必要な水位変化の検出精度を維持できる範囲で、排水バルブ28の開度を制御して、乾燥処理中の気液分離器24の排水口からの排水速度を制御するようにしても良い。このようにすると、乾燥処理中に気液分離器24に、その容量以上の水が溜まってしまう可能性を低減できる。
【0040】
燃料電池の排気配管に設置する気液分離器の形状は、気液分離器内に溜まる水の増加が気液分離器の水位変化に反映されやすいように設計することができる。例えば、図1から図3を参照して説明した実施形態のように、車両に搭載される燃料電池システムにおいては、燃料電池の乾燥処理の開始から1分〜2分の間に約数百mlの水分が燃料電池より排出される。したがって、例えば、気液分離器に取り付けられる水位センサの検出精度を考慮した上で、1分〜2分間に約数百ml水が増加する場合に適切に水位変化を検出できるように、気液分離器の形状及び容量などを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の1つの実施形態の燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の1つの実施形態の燃料電池システムのECUで行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の1つの実施形態の燃料電池システムのECUで行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
10 燃料電池、12 エアコンプレッサ、14 水素供給系、16,20 給気配管、18a,18b,22 排気配管、24 気液分離器、26 水位センサ、28 排水バルブ、30 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池から排出される気体の通る排気配管に設けられた気液分離器と、
前記気液分離器に溜まった水の水位を検出する水位検出手段と、
前記水位検出手段が検出した前記気液分離器の水位に基づいて、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥しているか否かを判定する乾燥判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記乾燥判定手段は、前記水位検出手段が検出した前記気液分離器の水位に基づいて、所定時間における前記気液分離器の水位変化を求め、この求めた水位変化が予め設定された閾値よりも小さい場合に、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥していると判定することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池に乾燥気体を供給する乾燥手段と、
前記乾燥判定手段において、前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥していると判定された場合に、前記乾燥手段を停止させる乾燥制御手段と、
をさらに備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記乾燥制御手段は、前記乾燥判定手段による、前記燃料電池が所定の乾燥状態よりも乾燥しているとの判定結果を取得した時点から所定時間経過後に、前記乾燥手段を停止させることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−77853(P2008−77853A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252428(P2006−252428)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】