説明

燃料電池システム

【課題】複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタックを備えた、燃料電池ユニットの再始動がより速く完了する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムを、複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタック11を備えた、当該燃料電池スタック11内の一部の燃料電池ユニットのみを動作させることがあるシステムであって、一部の燃料電池ユニットのみを動作させる場合、動作させている一部の燃料電池ユニットから排出される,水分を多く含むカソード排ガスが他の各燃料電池ユニットに供給されるシステムとして構成しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタックを備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックとその周辺機器(ガス供給用のポンプ等)とを含む燃料電池システムは、その動作原理上、単純に停止させると、システム内(燃料電池スタック内や配管内)に比較的に多量の水が残ってしまうものとなっている。そして、燃料電池システムの停止中にシステム内に残っている水が凍ってしまうと、システムの再始動が困難になる。このため、氷点下で再始動出来ることが望まれる燃料電池システム(燃料電池自動車用の燃料電池システム等)では、システムの停止時に、乾燥ガスを流すことによって燃料電池システム内(主として、燃料電池スタック内)の水分量を減少させることが行われている。
【0003】
また、燃料電池スタックは、その端部(エンドプレート側)から熱が逃げやすいものとなっている。このため、氷点下での始動性をより良くするために、燃料電池スタックとして、3つのサブスタックを有するもの(3つのサブスタックに分割されているもの)を採用すると共に、システム始動時に、中央のサブスタックが最初に発電動作を開始するようにした燃料電池システム(例えば、特許文献1参照。)が、提案されている。
【0004】
また、一部のセルが損傷しても発電を続けられるようにすることや、各セルをほぼ一定出力運転に維持して外部負荷の変動に対応できるようにすることを目的として、複数のサブスタック(ユニット)を有する燃料電池スタックを採用した燃料電池システム(例えば、特許文献2参照。)も、提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−24559号公報
【特許文献2】特開2005−293857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
システムの停止時に、燃料電池スタック内の水分量を或る量(氷点下での始動に適した量)まで減少させる燃料電池システムは、氷点下での再始動が可能なものとなる。ただし、そのような燃料電池システムでは、常温での再始動に時間がかかることにもなる。何故ならば、当該燃料電池システムでは、常に(常温での始動時にも)、本来の動作(通常の発電動作)に必要な量よりも少ない量の水分しか燃料電池スタック内に残っていないからである。
【0007】
また、燃料電池スタックを、複数のサブスタックを有するものとしておけば、動作させるサブスタック数の変更により出力を調整できるため、各セルをほぼ一定出力運転に維持して外部負荷の変動に対応することなどが可能となる。しかしながら、動作させるサブスタック数の変更によって出力が調整される構成を採用した燃料電池システムでは、或るサブスタックの動作が比較的に長時間停止した場合、当該サブスタック内が乾燥してしまうこと(当該サブスタックが、再始動に時間がかかる状態になってしまうこと)になる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、複数の燃料電池ユニット(サブスタック)を有する燃料電池スタックを備えた、燃料電池ユニットの再始動がより速く(より短時間で)完了する燃料電池システムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の燃料電池システムは、独立して動作可能な複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタック、前記燃料電池スタックにアノードガスとカソードガスとを供給するためのガス供給系であって、前記燃料電池スタックが有する前記複数の燃料電池ユニットのそれぞれにアノードガス及びカソードガスを供給する第1状態と、前記燃料電池スタックが有する一部の燃料電池ユニットのみにアノードガス及びカソードガスを供給し、当該一部の燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流す第2状態とを取り得るガス供給系、及び、前記燃料電池スタックに発生させるべき電力量に応じた状態を取るように、前記ガス供給系を制御する制御手段を備える。
【0010】
すなわち、本発明の第1の態様の燃料電池システムは、燃料電池スタック内の一部の(1つ以上の)燃料電池ユニットのみを動作させる(“一部の燃料電池ユニットのみにアノードガス及びカソードガスを供給する”)場合、動作させている一部の燃料電池ユニットから排出される,水分を多く含むカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内を流れる構成を有している。このため、この燃料電池システムでは、動作を停止させている燃料電池ユニット内が乾燥することがないことになる。そして、燃料電池ユニット内が乾燥していない方が再始動に要する時間は短いのであるから、この燃料電池システムは、幾つかの燃料電池ユニットの動作を単純に停止させる燃料電池システムよりも、動作を停止させている燃料電池ユニットの再始動がより速く(より短時間で)完了するシステムであることになる。
【0011】
また、本発明の第2の態様の燃料電池システムは、独立して動作可能な複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックが有する前記燃料電池ユニットの任意の組み合わせに対してアノードガスとカソードガスとを供給することが可能なガス供給系と、前記燃料電池スタックの動作を停止させるときに、前記複数の燃料電池ユニットの中の或る燃料電池ユニット内の水分量を氷点下での始動に適した規定水分量まで低減し、他の各燃料電池ユニット内の水分量を当該規定水分量を超える水分量まで低減する水分量低減手段と、前記燃料電池スタックが所望の電力を発生するように、前記ガス供給系を制御する制御手段であって、システムの始動時に、前記燃料電池スタックのその時点における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている前記燃料電池ユニットのみが動作するように、前記ガス供給系を制御する制御手段とを備える。
【0012】
すなわち、本発明の第2の態様の燃料電池システムは、システムの停止時(前記燃料電池スタックの動作を停止させるとき)に、燃料電池スタック内の複数の燃料電池ユニットの残水分量が、同じ水分量とならないように(氷点下での始動に適した規定水分量と、それを超える幾つかの水分量となるように)、制御される構成を有している。さらに、燃料電池システムは、システムの始動時に、燃料電池スタックのその時点(システムの始動時点)における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている前記燃料電池ユニットのみが動作する構成も有している。従って、この燃料電池システムの常温時での始動時には、水分量が比較的に多い(水分量が規定水分量まで低減されていない)燃料電池ユニットが最初に始動されることになる。そして、規定水分量のを超える量の水分が残っている燃料電池ユニットは、規定水分量の水分しか残っていない燃料電池ユニットよりも短時間で始動できるのであるから、この燃料電池システムは、全ての燃料電池ユニットが規定水分量まで低減される燃料電池システムよりも、常温でのシステム始動時における、燃料電池ユニットの再始動が短時間で完了するシステムであることになる。
【0013】
なお、本発明の第2の態様の燃料電池システムの制御手段は、燃料電池スタックの温度
を実測するものであっても、雰囲気温度等を測定し、その測定値を燃料電池スタックの温度として取り扱うものであっても、燃料電池スタックの温度を、温度以外の情報(例えば、システム停止後の経過時間)から推定する手段であっても良い。ただし、燃料電池スタックの温度を温度以外の情報から推定した場合、値が不正確になってしまう。このため、制御手段は、燃料電池スタックの温度を実測するものか、燃料電池スタック近傍のどこかの温度を測定し、その測定値から燃料電池スタックの温度を把握(推定)するものとしておくことが望ましい。
【0014】
また、本発明の第2の態様の燃料電池システムを実現する際には、水分量低減手段として、各燃料電池ユニット内の水分量を、互いに異なる水分量まで低減する手段を採用しておくことが好ましい。何故ならば、そのような水分量低減手段を採用しておけば、制御手段の選択肢が増えることになる結果として、システムの始動時に、水分量が多すぎる燃料電池ユニットが始動されることを防止できることになるからである。
【0015】
また、本発明の第2の態様の燃料電池システムを実現する際には、前記ガス供給系として、アノードガス及びカソードガスが供給されている各燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流すことが可能なものを採用し、制御手段として、システムの始動時に、前記燃料電池スタックのその時点における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている前記燃料電池ユニットのみが動作するように、かつ、当該燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内を流れるように、前記ガス供給系を制御する手段を採用しておくことが出来る。そして、このような構成を採用しておけば、或る燃料電池ユニットのみが動作しているシステムの始動時に、当該燃料電池ユニットからのカソード排ガスによって他の各燃料電池ユニットが温度上昇が促進されることになる。従って、他の各燃料電池ユニットの再始動をより速く行える燃料電池システムが実現できることになる。
【0016】
また、本発明の第2の態様の燃料電池システムを実現する際には、前記ガス供給系として、アノードガス及びカソードガスが供給されている各燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流すことが可能なものを採用し、制御手段として、燃料電池ユニットに発生させるべき電力量について所定の条件が満たされた場合には、一部の燃料電池ユニットのみにアノードガス及びカソードガスが供給され、当該一部の燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内に流れるように、前記ガス供給系を制御する手段を採用することも出来る。そして、このような構成を採用しておけば、上記した本発明の第1の態様の燃料電池システムと同様の効果も奏する燃料電池システムを実現できることになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタックを含む、燃料電池ユニットの再始動がより速く(より短時間で)完了する燃料電池システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システムは、燃料電池自動車に搭載するものとして開発されたシステムである。図1に示してあるように、燃料電池システムは、発電部10と制御ユニット30とを備えている。以下、本実施形態に係る燃料電池システムが搭載されている燃料電池自動車のことを、システム搭載車両と表記する。
【0020】
この燃料電池システムが備える発電部10は、燃料電池スタック11と,燃料電池スタック11の温度を測定するための温度センサ(図示せず)と,セレクタ28と,その他の
部分(以下、ガス供給系と表記する)とにより構成された、外部負荷に電力を供給するためのユニット(システム)である。なお、外部負荷とは、燃料電池システムから電力が供給される部分(本実施形態では、システム搭載車両に搭載されている、DC−DCコンバータ,インバータ,バッテリ,車両用モータ等からなる部分)のことである。
【0021】
燃料電池スタック11は、2つの出力端子(集電板)11M及び11M+1(M=1〜3)を備えた3つの燃料電池スタック(同数のセルを含むもの)を、一部の出力端子11Mを共通化した形で積層した構成を有するユニットである。以下、この燃料電池スタック11が有している各燃料電池スタックのことを、燃料電池ユニットと表記し、各燃料電池ユニットの2つの出力端子11M及び11M+1間の抵抗値のことを、端子間抵抗値と表記する。
【0022】
セレクタ28は、燃料電池スタック11の,任意の2つの出力端子11P,11Q(P,Q=1〜4;P≠Q)と外部負荷とを接続可能な回路である。このセレクタ28は、制御ユニット30(詳細は後述)により制御される回路となっている。
【0023】
ガス供給系(発電部10の、燃料電池スタック11,温度センサ,セレクタ28以外の部分)は、燃料電池スタック11内の各燃料電池ユニットにアノードガス(図では、“水素”)及びカソードガス(図では、“空気”)を供給するためのシステムである。
【0024】
図示してあるように、ガス供給系は、主アノードガス流路21、アノードガス流路22A〜22C、アノード排ガス流路23、主カソードガス流路24、カソードガス流路25A〜25C、第1カソード排ガス流路26及び第2カソード排ガス流路27を備えている。
【0025】
主アノードガス流路21は、ガス供給系内の水素タンク(図示せず)とシャットバルブ(図示せず)を介して接続されたガス流路である。各アノードガス流路22X(X=A〜C)は、主アノードガス流路21と各燃料電池ユニットXのアノードガス入口とを接続するガス流路である。各アノードガス流路22Xには、アノードガスの燃料電池ユニットXへの供給量を調整するためのバルブ12Xが設けられている。また、各アノードガス流路22Xの、アノードガス入口の近傍部分には、アノードガス圧を測定するための圧力センサ(図示せず)が取り付けられている。
【0026】
アノード排ガス流路23は、ガス供給系内の水素再利用機構(図示せず)と各燃料電池ユニットXのアノード排ガス出口とを接続するガス流路である。なお、水素再利用機構とは、アノード排ガス流路23からのアノード排ガス(図では、“排水素”)中の水素を、主アノードガス流路21内に導入する(アノードガスとして再利用する)ための機構(気液分離器、水素ポンプ等からなる機構)のことである。
【0027】
主カソードガス流路24は、ガス供給系内のエアーコンプレッサ(図示せず)と接続されたガス流路である。各カソードガス流路25X(X=A〜C)は、主カソードガス流路24と各燃料電池ユニットXのカソードガス入口とを接続するガス流路である。各カソードガス流路25Xには、三方バルブ13Xが設けられている。そして、各カソードガス流路25X上の三方バルブ13Xには、各三方バルブ13X側からのガス(詳細は後述)をシステム搭載車両の排気口から排出するための第2カソード排ガス流路27が接続されている。なお、本ガス供給系が備える三方バルブ13Xは、エアーコンプレッサと燃料電池ユニットXのカソードガス入口とを接続する状態(以下、供給用状態と表記する)、燃料電池ユニットXのカソードガス入口と排気口とを接続する状態(以下、排気用状態と表記する)等を取り得るものとなってる。
【0028】
第1カソード排ガス流路26は、燃料電池ユニットA〜Cのカソード排ガス出口から排
出されるカソード排ガスを排気口に導くためのガス流路(第2カソード排ガス流路27と図示されていない部分で接続されているガス流路)である。図示してあるように、この第1カソード排ガス流路26は、燃料電池ユニットA〜Cのカソード排ガス出口を相互に接続する形状の部分を有している。そして、第1カソード排ガス流路26の、当該部分よりも排気口側の箇所には、当該部分と排気口との接続をON/OFFするためのバルブ14が設けられている。
【0029】
要するに、本実施形態に係る燃料電池システム(発電部10)内のガス供給系は、バルブ12A〜12C及びバルブ14をオープンし、三方バルブ13A〜13Cの状態を供給用状態とすれば、燃料電池スタック11の状態を、図2に示してある状態(各燃料電池ユニットXにカソードガス及びアノードガスが供給される状態/各燃料電池ユニットXが機能(動作)する状態)とすることが可能なものとなっている。
【0030】
さらに、ガス供給系は、各バルブを制御することにより、燃料電池スタック11の状態を、図3に示してあるような状態や図4に示してあるような状態とすることが可能なものとなっている。すなわち、ガス供給系は、燃料電池スタック11の状態を、2つの燃料電池ユニットのみが機能しており、機能していない燃料電池ユニット内に、当該2つの燃料電池ユニットからのカソード排ガスが流されている状態(図3)とすることが可能なものとなっている。また、ガス供給系は、燃料電池スタック11の状態を、1つの燃料電池ユニットのみが機能しており、機能していない各燃料電池ユニット内に、当該1つの燃料電池ユニットからのカソード排ガスの半分が流されている状態(図4)とすることも可能なものなっている。
【0031】
図1に戻って、本実施形態に係る燃料電池システムの説明を続ける。
【0032】
制御ユニット30は、各種情報(アクセル開度、発電部10内のセンサの出力等)に基づき、発電部10及び外部負荷を制御するユニットである。この制御ユニット30は、燃料電池システムの制御を行うための一般的な制御ユニットと同様に、CPU,ROM,RAM,EEPROM等から構成されたものとなっている。このため、制御ユニット30の具体的なハードウェア構成の説明は省略するが、制御ユニット30内のEEPROMには、第1〜第3温度区分(詳細は後述)のそれぞれに関する始動ユニットID(燃料電池ユニットの識別情報;用途は後述)を記憶しておくための領域が確保されている。
【0033】
以下、制御ユニット30の動作(発電部10に対する制御内容)を説明する。なお、以下の説明では、既存の制御ユニットとは異なっている部分を中心に、制御ユニット30の動作を説明することにする。
【0034】
まず、制御ユニット30の通常時における動作を説明する。ここで、制御ユニット30の通常時における動作とは、図5に示した手順の始動用処理(詳細は後述)が完了しており、図6に示した手順の停止用処理(詳細は後述)を開始していない状態における制御ユニット30の動作のことである。
【0035】
また、以下の説明において、必要電力量とは、外部負荷に供給することが必要な電力量のことである。そして、第1〜第4電力量とは、燃料電池ユニットの性能に基づき、適切なタイミングで動作ユニット数の変更が行われることになるように予め定められている値(第1電力量>第2電力量>第3電力量>第4電力量)のことである。
【0036】
制御ユニット30は、燃料電池スタック11を図2の状態で動作させている状況下、必要電力量が第2電力量未満となった場合には、燃料電池スタック11の状態が図3の状態となるように、発電部10内の各種バルブを制御する。さらに、制御ユニット30は、出
力端子111及び113と外部負荷とが接続されるように、セレクタ28(図1参照)を制御する。
【0037】
制御ユニット30は、燃料電池スタック11を図3の状態で動作させている状況下、必要電力量が第1電力量以上となった場合には、燃料電池スタック11の状態が図2の状態となるように、発電部10内の各種バルブを制御する。さらに、制御ユニット30は、出力端子111及び114と外部負荷とが接続されるように、セレクタ28を制御する。
【0038】
また、制御ユニット30は、同状況下、必要電力量が第4電力量未満となった場合には、燃料電池スタック11の状態が図4の状態となるように、発電部10内の各種バルブを制御すると共に、出力端子112及び113と外部負荷とが接続されるようにセレクタ28を制御する。
【0039】
制御ユニット30は、燃料電池スタック11を図4の状態で動作させている状況下、必要電力量が第3電力量以上となった場合には、燃料電池スタック11の状態が図3の状態となるように、発電部10内の各種バルブを制御すると共に、出力端子111及び113と外部負荷とが接続されるように、セレクタ28を制御する。
【0040】
次に、システム停止時(燃料電池システムの動作を停止させる際)における制御ユニット30の動作を説明する。
【0041】
制御ユニット30は、システムの停止が指示される(イグニッションキーに対して所定の操作がなされる)と、図6に示した手順の停止用処理を実行するユニットとして構成されている。
【0042】
すなわち、システムの停止が指示されたため、停止用処理を開始した制御ユニット30は、まず、燃料電池ユニットA〜Cのそれぞれに対する掃気処理を開始する(ステップS201)。なお、燃料電池ユニットXに対する掃気処理とは、エアーコンプレッサからの空気が、燃料電池ユニットX内を通過した後、第1カソード排ガス流路26を通って排出口から排出されるように、かつ、アノードガスが燃料電池ユニットXに供給されないように、各種バルブ(三方バルブ25X等)の状態を制御する処理のことである。
【0043】
その後、制御ユニット30は、掃気処理を実行中のいずれかの燃料電池ユニット内の残水分量が、第1〜第3温度区分の中の,準備未完了の温度区分での始動に適した量となるのを待機(監視)する処理(ステップS202)を開始する。ここで、第1温度区分とは、第1温度(本実施形態では、0℃)以上の温度が属する温度区分のことであり、第2温度区分とは、第1温度未満、第1温度よりも低い第2温度(本実施形態では、−10℃)以上の温度が属する温度区分のことである。また、第3温度区分とは、第2温度未満、第2温度よりも低い第3温度(本実施形態では、−30℃)以上の温度が属する区分のことである。そして、準備未完了の温度区分とは、残水分量が、その温度区分での始動に適した量となっている燃料電池ユニットの用意がまだ完了していない温度区分(ステップS203の処理が行われていない温度区分)のことである。
【0044】
なお、ステップS202の処理は、各燃料電池ユニット内の残水分量自体の測定するのでなく、各燃料電池ユニットの端子間抵抗値を測定し、各測定値から各燃料電池ユニットの残水分量を推定する処理となっている。
【0045】
或る燃料電池ユニットの残水分量が、準備未完了の或る温度区分での始動に適した量となったと判断した制御ユニット30(ステップS202の処理を終えた制御ユニット30)は、ステップS203にて、当該燃料電池ユニットに対する掃気処理を終了させるため
の処理(当該燃料電池ユニットに関するカソードガス流路25Xが封止されるように、三方バルブ13Xを制御する処理)を行う。また、制御ユニット30は、ステップS203にて、自ユニット内のEEPROM上の対応温度区分(残水分量の調整が完了した温度区分と同じ温度区分)に関する始動ユニットIDを、当該燃料電池ユニットのユニットIDに変更する処理も行う。
【0046】
その後、制御ユニット30は、全燃料電池ユニットの残水分量調整が完了したか否かを判断(ステップS204)し、全燃料電池ユニットの残水分量調整が完了していなかった場合(ステップS204;NO)には、ステップS202以降の処理を再び開始する。
【0047】
制御ユニット30は、全燃料電池ユニットの残水分量調整が完了した(3つの燃料電池ユニットの残水分量を、第1〜第3温度区分での始動に適した量に制御できた)場合(ステップS204;YES)には、この停止用処理(図6の処理)を終了する。そして、制御ユニット30は、動作を停止する。
【0048】
次に、システム始動時(燃料電池システムの動作を開始させる際)における制御ユニット30の動作を説明する。
【0049】
制御ユニット30は、システムの始動が指示される(イグニッションキーに対して始動指示用の操作がなされる)と、図5に示した手順の始動用処理を開始する。
【0050】
すなわち、制御ユニット30は、まず、燃料電池スタック11の温度(燃料電池スタック11に取り付けられている温度センサの出力)を測定する(ステップS101)。次いで、制御ユニット30は、自ユニット内のEEPROMから、測定した温度(以下、始動時温度と表記する)が含まれる温度区分と対応付けられている始動ユニットIDを読み出す(ステップS102)。なお、流れ図への表記は省略してあるが、制御ユニット30は、燃料電池スタック11の温度が−30℃未満(つまり、始動ユニットIDが読み出せない温度)であった場合、このステップS102以降の処理を実行しないユニットとなっている。
【0051】
始動ユニットIDを読み出した制御ユニット30は、当該始動ユニットIDを有する燃料電池ユニットのみが動作し、その燃料電池ユニットのカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内を通った後、排出口から排出されるように、発電部10(エアーコンプレッサ、バルブ等)を制御する(ステップS103)。例えば、ステップS102の処理でEEPROMから読み出された始動ユニットIDが、燃料電池ユニットAのユニットIDであった場合、制御ユニット30は、このステップS103において、発電部10内の各種バルブを図7に示した状態に制御する処理等を行う。
【0052】
ステップS103の処理(図5)を終えた制御ユニット30は、始動時温度と規定時間との対応関係を示す始動時温度・規定時間情報(ROM上の情報)から、始動時温度に応じた規定時間を読み出して、読み出した規定時間が経過するのを待機する処理(ステップS104)を開始する。なお、このステップS103の処理で利用される始動時温度・規定時間情報は、より高い始動時温度に、より短い規定時間が対応づけられたものとなっている。
【0053】
規定時間が経過した場合(ステップS104;YES)、制御ユニット30は、全燃料電池ユニットが動作するように発電部10を制御した後、予め定められている一定時間が経過するのを待機する処理(ステップS105)を行う。そして、制御ユニット30は、この始動用処理を終了して、既に説明した通常時における動作を開始する
【0054】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る燃料電池システムは、燃料電池スタック11内の一部の(1つ或いは2つの)燃料電池ユニットのみを動作させる場合があるシステムではあるが、そのような場合、動作させている一部の燃料電池ユニットから排出される,水分を多く含むカソード排ガスが他の各燃料電池ユニットに供給されるシステム(図3,図4参照)となっている。
【0055】
従って、本実施形態に係る燃料電池システムでは、動作を停止させている燃料電池ユニット内が乾燥することがないことになる。そして、燃料電池ユニット内が乾燥していない方が再始動に要する時間は短いのであるから、本実施形態に係る燃料電池システムは、幾つかの燃料電池ユニットの動作を単純に停止させる燃料電池システムよりも、動作を停止させている燃料電池ユニットの再始動がより速く完了するシステムであることになる。
【0056】
また、本実施形態に係る燃料電池システムは、システムの停止時(図6参照)に、燃料電池スタック11内の各燃料電池ユニットの残水分量が、第1〜第3温度区分での再始動に適した水分量に制御されるシステムとなっている。さらに、燃料電池システムは、システムの始動時に、燃料電池スタック11のその時点における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている燃料電池ユニットを最初に始動する処理(図5参照)が行われるシステムとなっている。
【0057】
しかも、燃料電池システムは、最初に始動した燃料電池ユニットのカソード排ガスが、動作を停止している他の燃料電池ユニット内に流される構成も有している。そして、比較的に高温のカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内に流されれば、各燃料電池ユニットの温度上昇が促進されることになる。また、常温始動時等には、水分が不足している燃料電池ユニット(第3温度区分での始動に適した量に水分量が調整されている燃料電池ユニット)に水分が補給されることにもなる。
【0058】
従って、この燃料電池システムは、何度でシステムが再始動されても、各燃料電池ユニットの再始動が速く行えるシステムであることにもなる。
【0059】
《変形形態》
上記した実施形態に係る燃料電池システムは、各種の変形を行うことが出来る。たとえば、本実施形態に係る燃料電池システムは、ガス供給系の一部と制御ユニット30の一部(図6の停止用処理を行う部分)とからなる部分(本発明の水分量低減手段にほぼ相当)により、各燃料電池ユニット内の残水分量が制御されるシステムであったが、燃料電池システムを、この部分に相当するものをガス供給系とは別に備えたシステムに変形することが出来る。また、制御ユニット30を、燃料電池スタック11の温度(或いは各燃料電池ユニットの温度)等から、残水分量を目標量とするのに必要な掃気時間(空気を流す時間)を求め、求めた時間だけ掃気を行うユニット(端子間抵抗値をモニターしないユニット)に変形することも出来る。
【0060】
燃料電池システムを、通常時(始動用処理完了後)には、動作させる燃料電池ユニットの数を変更しないシステムに変形することも出来る。また、燃料電池システムを、各燃料電池ユニットを、予め定められている水分量まで低減するシステム(例えば、燃料電池ユニットA、B、Cの水分量を、それぞれ、第1温度区分用の水分量、第3温度区分用の水分量、第2温度区分用の水分量まで低減するシステム)に変形することが出来る。
【0061】
燃料電池システムを、システムの始動時には、動作させている燃料電池ユニットのカソード排ガスを他の燃料電池ユニット内に流さないシステムに変形することも出来る。ただし、動作させていない各燃料電池ユニットの温度上昇を促進することや、水分が不足している各燃料電池ユニットへ水分を補給できることが可能となる上記構成を採用しておくこ
とが望ましい。
【0062】
燃料電池システムを、システム始動時に、全ての燃料電池ユニットを動作させないシステム(1個の燃料電池ユニットの始動が完了したら、必要電力量に応じて動作させる燃料電池ユニットの数を変える状態に移行するシステム)に変形することも出来る。燃料電池システムを、2つ或いは4つ以上の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタック11が用いられたものや、燃料電池スタック11の温度を把握するための温度センサが別の場所に取り付けられたものに変形することも出来る。また、燃料電池システムを、燃料電池自動車用のものではないもの(例えば、家庭/工場用の電源システム)に変形しても良いことなどは、当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】全燃料電池ユニットを動作させる場合におけるガス供給系内の各種バルブの状態の説明図である。
【図3】2つの燃料電池ユニットを動作させる場合におけるガス供給系内の各種バルブの状態の説明図である。
【図4】1つの燃料電池ユニットを動作させる場合におけるガス供給系内の各種バルブの状態の説明図である。
【図5】実施形態に係る制御ユニットがシステムの始動時に実行する始動用処理の流れ図である。
【図6】実施形態に係る制御ユニットがシステムの停止時に実行する停止用処理の流れ図である。
【図7】始動用処理時にガス供給系内の各種バルブが取り得る状態の説明図である。
【符号の説明】
【0064】
10・・・発電部
11・・・燃料電池スタック
111〜114・・・出力端子
12A〜12C,14・・・バルブ
13A〜13C・・・三方バルブ
21・・・主アノードガス流路
22A〜22C・・・アノードガス流路
23・・・アノード排ガス流路
24・・・主カソードガス流路
25A〜25C・・・カソードガス流路
26・・・第1カソード排ガス流路
27・・・第2カソード排ガス流路
28・・・セレクタ
30・・・制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立して動作可能な複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタック、
前記燃料電池スタックにアノードガスとカソードガスとを供給するためのガス供給系であって、前記燃料電池スタックが有する前記複数の燃料電池ユニットのそれぞれにアノードガス及びカソードガスを供給する第1状態と、前記燃料電池スタックが有する一部の燃料電池ユニットのみにアノードガス及びカソードガスを供給し、当該一部の燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流す第2状態とを取り得るガス供給系、及び、
前記燃料電池スタックに発生させるべき電力量に応じた状態を取るように、前記ガス供給系を制御する制御手段
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
独立して動作可能な複数の燃料電池ユニットを有する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックが有する前記燃料電池ユニットの任意の組み合わせに対してアノードガスとカソードガスとを供給することが可能なガス供給系と、
前記燃料電池スタックの動作を停止させるときに、前記複数の燃料電池ユニットの中の或る燃料電池ユニット内の水分量を氷点下での始動に適した規定水分量まで低減し、他の各燃料電池ユニット内の水分量を当該規定水分量を超える水分量まで低減する水分量低減手段と、
前記燃料電池スタックが所望の電力を発生するように、前記ガス供給系を制御する制御手段であって、システムの始動時に、前記燃料電池スタックのその時点における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている前記燃料電池ユニットのみが動作するように、前記ガス供給系を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記水分量低減手段が、
各燃料電池ユニット内の水分量を、互いに異なる水分量まで低減する手段である
ことを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記ガス供給系が、
アノードガス及びカソードガスが供給されている各燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流すことが可能なものであり、
前記制御手段が、
システムの始動時に、前記燃料電池スタックのその時点における温度を把握し、その内部の水分量が、当該温度での始動に最も適した量となっている前記燃料電池ユニットのみが動作するように、かつ、当該燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内に流れるように、前記ガス供給系を制御する手段である
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記ガス供給系が、
アノードガス及びカソードガスが供給されている各燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスを他の各燃料電池ユニット内に流すことが可能なものであり、
前記制御手段が、
燃料電池ユニットに発生させるべき電力量について所定の条件が満たされた場合には、一部の燃料電池ユニットのみにアノードガス及びカソードガスが供給され、当該一部の燃料電池ユニットから排出されるカソード排ガスが他の各燃料電池ユニット内を流れるように、前記ガス供給系を制御する手段である
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−266534(P2009−266534A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113657(P2008−113657)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】