説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池スタックの両端の燃料電池のうちアノードが外側に位置する燃料電池における、燃料電池システムの立ち下げ時の極間温度差を抑制する。
【解決手段】燃料電池システムは、複数の平型燃料電池を積層した平型燃料電池スタックと、平型燃料電池スタックの両端に位置する平型燃料電池のうち、アノード側の面が平型燃料電池スタックの端部となるアノード側端部燃料電池に隣接配置された円筒型燃料電池と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックにおける端に位置する燃料電池の温度制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池システムでは、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を1対のセパレータで挟持した燃料電池(以下、「単セル」とも呼ぶ)を複数積層して構成された燃料電池スタックが用いられている。この燃料電池スタックの両端に位置する単セル(以下、「端部セル」と呼ぶ)では、端部セルの外側に配置されたターミナルプレート,絶縁プレート及びエンドプレートにおける放熱により、アノード及びカソードのうち、より外側に配置された極側において温度が低下し易い。それゆえ、より高温で湿度が高い内側の極から、より低温で湿度が低い外側の極へと水蒸気が移動するため、外側の極において水分が過多となりフラッディングが発生するという問題があった。特に、アノードが外側に位置する端部セルではアノードにおいて水分が過多となるが、一般に水分を持ち去る(除去する)ガス流量がカソード側に比べて少ないため、フラッディングの発生が顕著となる。
【0003】
そこで、アノードが外側に位置する端部セルを、ヒーターを用いて外側から加熱することにより、端部セルにおけるアノードとカソードとの温度差を抑制する燃料電池システムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−108610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アノードが外側に位置する端部セルをヒーターを用いて外側から加熱する技術の1つとしては、燃料電池システムの運転により生じた電力をヒーターに供給する。この場合、燃料電池システム立ち下げ時にはヒーターを駆動できないため、極間の温度差が大きくなりアノードにおいて水分が過多となるおそれがあった。この場合、次回始動時にフラッディングが発生し、端部セルに水素ガスが十分に供給されず、電圧低下やMEAの劣化が起こり得る。
【0006】
本発明は、燃料電池スタックの両端の燃料電池のうちアノードが外側に位置する燃料電池における、燃料電池システムの立ち下げ時の極間温度差を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]燃料電池システムであって、複数の平型燃料電池を積層した平型燃料電池スタックと、前記平型燃料電池スタックの両端に位置する平型燃料電池のうち、アノード側の面が前記平型燃料電池スタックの端部となるアノード側端部燃料電池に隣接配置された円筒型燃料電池と、を備える、燃料電池システム。
【0009】
適用例1の燃料電池システムは、平型燃料電池スタックの両端に位置する平型燃料電池のうち、アノード側の面が平型燃料電池スタックの端部となるアノード側端部燃料電池に円筒型燃料電池が隣接配置されているので、円筒型燃料電池が断熱材として働くことにより、燃料電池システムの立ち下げ時においてアノード側端部燃料電池のアノード側の温度低下を抑制することができ、極間温度差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図。
【図2】第2の実施例の燃料電池システム100を適用した車両の概略構成を示す説明図。
【図3】第2の実施例の車両500において実行される総マイナス極側加熱処理の手順を示すフローチャート。
【図4】第3の実施例の総マイナス極側加熱処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1の実施例:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。この燃料電池システム100は、平型燃料電池スタック10と、円筒型燃料電池スタック部40と、配管収容部20と、マイナス極側ターミナルプレート50と、燃料ガス供給配管61と、酸化剤ガス供給配管62と、燃料ガス排出配管63と、酸化剤ガス排出配管64とを備えている。なお、図1では、燃料電池システム100における総マイナス極側(燃料電池全体としてのマイナス極側)の構成を主として表わしている。燃料電池システム100は、例えば、駆動用モータを備えた電気車両(図示省略)に搭載して用いることができる。また、例えば、据え置き型の燃料電池システムとして用いることができる。
【0012】
平型燃料電池スタック10は、平面視略矩形の外観形状を有する複数の平型燃料電池11が積層された構成を有している。平型燃料電池11は、燃料ガスとして水素ガスを用い、酸化剤ガスとして空気を用いる固体高分子型燃料電池であり、電解質膜,触媒層及びガス拡散層を有するMEGA(Membrane-Electrode&Gas. Diffusion Layer Assembly)16を、一対のセパレータ17で挟持した構成を有している。電解質膜は、スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜であり、例えば、デュポン社のナフィオン(登録商標)や、旭化成株式会社のアシプレックス(登録商標)等を用いることができる。また、電解質膜として、炭化水素系スルホン酸基膜を用いることもできる。触媒層としては、例えば、触媒担持粒子(例えば白金担持カーボン)と高分子電解質と撥水材とを混合したスラリーを電解質膜に塗布して形成することができる。ガス拡散層は、多孔質の部材(例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスやガラス状カーボン)を用いて構成することができる。セパレータ17は、ガス不透過の伝導性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板によって構成することができる。
【0013】
平型燃料電池11は、燃料ガス供給マニホールド12aと、酸化剤ガス供給マニホールド13aと、燃料ガス排出マニホールド14aと、酸化剤ガス排出マニホールド15aとを備えている。複数の平型燃料電池11が積層されて各マニホールドが重なることによって、平型燃料電池スタック10の内部には、燃料ガス供給流路12と、酸化剤ガス供給流路13と、燃料ガス排出流路14と、酸化剤ガス排出流路15とが形成されている。なお、平型燃料電池スタック10の内部には図示しない冷却媒体流路が形成されており、平型燃料電池スタック10の内部は、冷却水や冷却液(LLC)が流れることにより冷却される。
【0014】
以下では、平型燃料電池スタック10を構成する燃料電池11のうち最も総マイナス極側に位置する燃料電池を、説明の便宜上、「マイナス極側端部セル11a」と呼ぶ。なお、マイナス極側端部セル11aは他の燃料電池11と同様の構成を有している。マイナス極側端部セル11aでは、アノード側の面(マイナス極側端部セル11aを構成する一対のセパレータ17のうち、平型燃料電池11と接していないセパレータにおける外側面)は、平型燃料電池スタック10の端部を形成している。すなわち、マイナス極側端部セル11aは、他の平型燃料電池11とは異なり、アノード側の面に隣接して配管収容部20が配置されている。
【0015】
円筒型燃料電池スタック部40は、複数の円筒型燃料電池30と、ガス供給室41と、ガス排出室42とを備えている。図1の例では、説明の便宜上、ガス供給室41及びガス排出室42を透過して示している。また、ガス供給室41とガス排出室42との間において側面部分には図示しない壁が配置されており、ガス供給室41とガス排出室42との間は、空間AR1が形成されている。
【0016】
複数の円筒型燃料電池30は、空間AR1において、互いに所定の間隔をへだててマトリクス状に配置されている。各円筒型燃料電池30の下部端面はガス供給室41の内部と接し、上部端面はガス排出室42の内部と接している。円筒型燃料電池30は、一点鎖線で示す中心軸CXに沿って中央にアノード32を有し、また、アノード32の周りにMEA31を、MEA31の周りにカソード33を、それぞれ有している。アノード32及びカソード33は、いずれもガス透過性を有し、円筒型燃料電池スタック部40に供給される反応ガス(水素ガス及び空気)をMEA31に供給可能に構成されている。
【0017】
ここで、アノード32は、MEA31及びカソード33が断熱材として働くことにより、燃料電池システム100の立ち下げ時に、マイナス極側ターミナルプレート50や図示しない絶縁プレート及びエンドプレートからの放熱に関わらず温度低下が抑制される。
【0018】
ガス供給室41は、2つの燃料ガス供給孔21,51を備えている。燃料ガス供給孔21は、配管収容部20内に設けられた燃料ガス供給配管(後述)と接続されている。燃料ガス供給孔51は、マイナス極側ターミナルプレート50を厚み方向に貫通する燃料ガス供給孔(図示省略)と接続されており、このマイナス極側ターミナルプレート50の燃料ガス供給孔を介して供給される水素ガスを、各円筒型燃料電池30の下部端面からアノード32に供給する。
【0019】
ガス排出室42は、酸化剤ガス排出流路44と、2つの燃料ガス排出孔27,53と、2つの酸化剤ガス排出孔25,54とを備えている。酸化剤ガス排出流路44は、ガス排出室42の内部において、配管収容部20側からマイナス極側ターミナルプレート50側に亘って配置されている。燃料ガス排出孔27は、配管収容部20内に設けられた燃料ガス排出配管(後述)と、ガス排出室42とを連通させる。燃料ガス排出孔53は、マイナス極側ターミナルプレート50を厚み方向に貫通する燃料ガス排出孔(図示省略)と接続されており、この燃料ガス排出孔を介してガス排出室42内の燃料ガスを排出する。酸化剤ガス排出孔54は、マイナス極側ターミナルプレート50を厚み方向に貫通する酸化剤ガス排出孔(図示省略)と接続されており、酸化剤ガス排出流路44を介して排出される酸化剤ガス(空気)をマイナス極側ターミナルプレート50の酸化剤ガス排出孔に排出する。
【0020】
配管収容部20は、平型燃料電池11と同じ平面形状を有し、内部に図示しない4つの配管を備えている。具体的には、配管収容部20は、ガス供給室41の燃料ガス供給孔21と燃料ガス供給流路12とを接続する配管(以下、「燃料ガス供給配管」と呼ぶ)と、燃料ガス排出流路14とガス排出室42の酸化剤ガス排出孔25とを接続する配管(以下、「燃料ガス排出配管」と呼ぶ)と、酸化剤ガス排出流路15とガス排出室42の燃料ガス排出孔27とを接続する配管(以下、「酸化剤ガス排出配管」と呼ぶ)とを備えている。また、配管収容部20は、空間AR1と接続する酸化剤ガス供給孔23と、この酸化剤ガス供給孔23と酸化剤ガス供給流路13とを接続する図示しない配管(以下、「酸化剤ガス供給配管」と呼ぶ)とを備えている。
【0021】
マイナス極側ターミナルプレート50は、円筒型燃料電池スタック部40の外側(配管収容部20とは反対側)に配置され、平型燃料電池スタック10及び円筒型燃料電池スタック部40からなる燃料電池全体としてのマイナス極を形成する。本実施例では、平型燃料電池スタック10において各平型燃料電池11は直列に接続されている。また、各円筒型燃料電池30は直列に接続されている。これら平型燃料電池スタック10と各円筒型燃料電池30とは直列に接続され、マイナス極側ターミナルプレート50は、このような直列接続におけるマイナス端に相当する円筒型燃料電池30と電気的に接続されている。マイナス極側ターミナルプレート50は、空間AR1に対応する位置に、厚み方向に貫通する酸化剤ガス供給孔52を備えている。なお、マイナス極側ターミナルプレート50の外側には、各配管61〜64を貫通する絶縁プレート及びエンドプレートが配置されているが、図1では省略している。
【0022】
燃料ガス供給配管61は、マイナス極側ターミナルプレート50の燃料ガス供給孔(図示省略)と、水素ガスタンク(図示省略)とを接続し、水素ガスタンクに貯蔵されている水素ガスを、燃料ガス供給孔51を介してガス供給室41に供給する。ガス供給室41に供給された水素ガスの一部は各円筒型燃料電池30のアノード32に供給され、残りの水素ガスは燃料ガス供給孔21及び配管収容部20内の燃料ガス供給配管(図示省略)を介して燃料ガス供給流路12に供給される。
【0023】
酸化剤ガス供給配管62は、マイナス極側ターミナルプレート50の酸化剤ガス供給孔52と、エアコンプレッサー(図示省略)とを接続し、圧縮空気を酸化剤ガス供給孔52を介して円筒型燃料電池スタック部40の空間AR1に供給する。空間AR1に供給された空気の一部は各円筒型燃料電池30のカソード33に供給され、残りの空気は酸化剤ガス供給孔23を介して酸化剤ガス供給流路13に供給される。
【0024】
燃料ガス排出配管63は、マイナス極側ターミナルプレート50の燃料ガス排出孔(図示省略)と接続され、ガス排出室42内の水素ガスを、燃料ガス排出孔53及びマイナス極側ターミナルプレート50の燃料ガス排出孔(図示省略)を介して排出する。したがって、平型燃料電池スタック10において電気化学反応に用いられなかった水素ガスは、燃料ガス排出流路14及び配管収容部20の燃料ガス排出配管(図示省略)を通ってガス排出室42に排出され、さらに、燃料ガス排出配管63を介して排出される。また、各円筒型燃料電池30において電気化学反応に用いられなかった水素ガスは、ガス排出室42に排出され、さらに、燃料ガス排出配管63を介して排出される。
【0025】
酸化剤ガス排出配管64は、マイナス極側ターミナルプレート50の酸化剤ガス排出孔(図示省略)と接続され、酸化剤ガス排出流路44を介して排出される酸化剤ガスを、酸化剤ガス排出孔54及びマイナス極側ターミナルプレート50の酸化剤ガス排出孔(図示省略)を介して排出する。したがって、平型燃料電池スタック10において電気化学反応に用いられなかった空気は、酸化剤ガス排出流路15,配管収容部20の酸化剤ガス排出配管(図示省略)及び酸化剤ガス排出流路44を通って、酸化剤ガス排出配管64を介して排出される。
【0026】
なお、総プラス極側(燃料電池全体としてのプラス極側)の構成については、配管収容部20及び円筒型燃料電池スタック部40を備えていない点を除き、総マイナス極側の構成と同じである。すなわち、燃料電池システム100は、平型燃料電池スタック10の総プラス側の端部セル(図示省略)の外側に図示しないプラス側ターミナルプレートを備え、さらに、プラス側ターミナルプレートの外側に図示しない絶縁プレート及びエンドプレートを備えている。
【0027】
このような構成を有する燃料電池システム100では、マイナス極側端部セル11aの外側(平型燃料電池スタック10の積層方向の外側)に、円筒型燃料電池スタック部40及び配管収容部20が隣接して配置されている。したがって、これら配管収容部20及び円筒型燃料電池スタック部40が断熱材として働くことにより、燃料電池システム100の立ち下げ時におけるアノード側の温度低下が抑制される。なお、マイナス極側端部セル11aは、請求項におけるアノード側端部燃料電池に相当する。
【0028】
以上説明したように、燃料電池システム100では、円筒型燃料電池スタック部40及び配管収容部20が、マイナス極側端部セル11aのアノード側の面に隣接配置されているため、これら円筒型燃料電池スタック部40及び配管収容部20が断熱材として機能する。したがって、燃料電池システム100の立ち下げ時に、総マイナス極側のマイナス極側ターミナルプレート50,絶縁プレート(図示省略)及びエンドプレート(図示省略)からの放熱に関わらず、マイナス極側端部セル11aのアノード側の温度低下を抑制することができる。それゆえ、マイナス極側端部セル11aにおけるアノード及びカソードの極間温度差を抑制できるので、アノードへの水の移動を抑制でき、次回始動時にフラッディングが発生することを抑制できる。
【0029】
B.第2の実施例:
図2は、第2の実施例の燃料電池システム100を適用した車両の概略構成を示す説明図である。第2の実施例の燃料電池システム100は、燃料電池システム100の立ち下げ時に総マイナス極側加熱処理を実行することによりマイナス極側端部セル11aのアノード側を積極的に加熱する点において、燃料電池システム100(図1)と異なり、他の構成は第1の実施例と同じである。第2の実施例では、燃料電池システム100は、電気車両に搭載されている。
【0030】
車両500は、電力供給部520と、負荷部540と、ナビゲーション装置60とを備えている。電力供給部520は、負荷部540に対して動力源としての電力を供給する。負荷部540は、供給された電力を、車両500を駆動するための機械的動力に変換する。
【0031】
電力供給部520は、燃料電池システム100と、2次電池522と、DC−DCコンバータ523と、制御ユニット70とを備えている。燃料電池システム100は第1の実施例の燃料電池システム100(図1)と同じである。2次電池522は、燃料電池システム100において生じた電力や負荷部540において回生された電力を蓄電する。また、2次電池522は、負荷部540やエアコン等の補機(図示省略)に電力を供給する。DC−DCコンバータ23は、2次電池522の出力電圧を調整する。
【0032】
制御ユニット70は、CPU70aと、メモリ70cとを備えている。メモリ70cには電力供給制御用プログラムが記憶されており、CPU70aは、この電力供給制御用プログラムを実行することにより、電力供給制御部70bとして機能する。電力供給制御部70bは、燃料電池システム100及び駆動回路546を制御することにより、負荷部540への電力供給を制御する。電力供給制御部70bは、燃料電池システム100と、ナビゲーション装置60と、駆動回路546とに、それぞれ電気的に接続されている。
【0033】
負荷部540は、駆動回路546と、モータ541と、ギヤ機構542と、車輪544とを備えている。駆動回路546は、モータ541を駆動するための回路である。モータ541で発生した動力は、ギヤ機構542を介して車輪544に伝達される。駆動回路546は、電力供給部520から供給された直流電力を三相交流電力に変換してモータ541に供給する。
【0034】
ナビゲーション装置60は、現在地から目的地までの経路を画像及び音声により案内する。ナビゲーション装置60は、図示しないGPSアンテナにより受信する人工衛星からの電波に基づき、ハードディスク等の記憶装置に格納された電子地図データを参照して、表示パネル(図示省略)上への経路表示や音声案内を実行する。また、ナビゲーション装置60は、設定された目的地付近(例えば、目的地を中心とした半径1kmの範囲内)に到達した場合に、その旨を制御ユニット70に通知する。
【0035】
図3は、第2の実施例の車両500において実行される総マイナス極側加熱処理の手順を示すフローチャートである。運転者がナビゲーション装置60において目的地を設定し、車両500を始動すると、電力供給制御部70bにより総マイナス極側加熱処理が実行される。なお、車両500の始動と共に燃料電池システム100が起動し、平型燃料電池スタック10及び円筒型燃料電池スタック部40は発電を開始する。
【0036】
総マイナス極側加熱処置が開始されると、電力供給制御部70bは、ナビゲーション装置60から目的地付近に到達した旨の通知を受信するまで待機している(ステップS105)。電力供給制御部70bは、目的地付近に到達した旨の通知を受信すると、平型燃料電池スタック10を停止させ、円筒型燃料電池スタック部40及び2次電池522から負荷部540に電力を供給する(ステップS110)。平型燃料電池スタック10の停止は、例えば、配管収容部20内の配管を閉塞し、平型燃料電池スタック10への反応ガスの供給を停止することにより実現できる。また、例えば、平型燃料電池スタック10と円筒型燃料電池スタック部40との直列接続部分にリレーを設け、このリレーをオフすることにより平型燃料電池スタック10を切り離して、円筒型燃料電池スタック部40からのみ電力を得ることにより実現することができる。なお、円筒型燃料電池スタック部40によって十分な発電量が得られる場合には、2次電池522も併せて停止させることもできる。
【0037】
平型燃料電池スタック10の停止により各平型燃料電池11は温度が低下する。しかしながら、円筒型燃料電池スタック部40は駆動したままであるので、円筒型燃料電池スタック部40の発電に伴う熱が、配管収容部20を介してマイナス極側端部セル11aに伝わり、マイナス極側端部セル11aのアノード側は加熱される。したがって、マイナス極側端部セル11aのアノード側の温度低下は抑制される。
【0038】
ステップS110の後、電力供給制御部70bは、車両500のイグニッションがオフになるまで待機しており(ステップS115)、イグニッションがオフとなった場合に、総マイナス極側加熱処理は終了する。
【0039】
以上説明した第2の実施例の燃料電池システム100は、第1の実施例の燃料電池システム100と同様な効果を有する。加えて、目的地付近に到達した場合に、円筒型燃料電池スタック部40を駆動したまま平型燃料電池スタック10を停止させるので、マイナス極側端部セル11aを円筒型燃料電池スタック部40の発電による熱を用いて加熱することができ、マイナス極側端部セル11aのアノード側の温度低下を抑制できる。
【0040】
C.第3の実施例:
図4は、第3の実施例の総マイナス極側加熱処理の手順を示すフローチャートである。第3の実施例の燃料電池システム100は、総マイナス極側加熱処理において、ステップS110に代えてステップS110aを実行する点と、ステップS115の後にステップS120を実行する点において、第2の実施例の燃料電池システム100と異なり、他の構成は第2の実施例の燃料電池システム100と同じである。なお、図4では、フローチャートの右隣りに2次電池522の充電電力量(SOC:State Of Charge)を模式的に表わしている。
【0041】
図4の例では、ステップS105において目的地付近に到達したと判定した(ステップS105:YES)際に、2次電池522のSOCは80%である。電力供給制御部70bは、目的地付近に到達したと判定すると、平型燃料電池スタック10及び円筒型燃料電池スタック部40を停止させ、2次電池522からのみ負荷部540に電力を供給する(ステップS110a)。図4に示すように、ステップS110aの実行により2次電池522のSOCは低下する。
【0042】
その後、電力供給制御部70bは、車両500のイグニッションがオフになったと判定すると(ステップS115:YES)、円筒型燃料電池スタック部40を所定期間(例えば10分間)だけ駆動させ(ステップS120)、総マイナス極側加熱処理は終了する。円筒型燃料電池スタック部40の駆動により、円筒型燃料電池スタック部40の発電に伴う熱が配管収容部20を介してマイナス極側端部セル11aに伝わるため、マイナス極側端部セル11aのアノード側の温度低下は抑制される。また、図4に示すように、ステップS120における円筒型燃料電池スタック部40の発電により、2次電池522のSOCは上昇する。
【0043】
以上説明した第3の実施襟の燃料電池システム100は、第2の実施例の燃料電池システム100と同様な効果を有する。加えて、目的地付近に到達した場合に、2次電池522からのみ電力を供給することによって2次電池522のSOCを低下させるので、ステップS120における円筒型燃料電池スタック部40の駆動により得られた電力を、余すことなく2次電池522に蓄えることができる。
【0044】
D.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
D1.変形例1:
各実施例では、配管収容部20は、図1に示すように円筒型燃料電池スタック部40と対向する壁を有し、空間AR1が平型燃料電池スタック10と直接接しない(隣接しない)構成であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、配管収容部20がガス供給室41及びガス排出室42とそれぞれ対向する部分にのみ壁を備え、空間AR1が平型燃料電池スタック10と直接接する(隣接する)構成とすることもできる。このような構成により、円筒型燃料電池スタック部40の発電に伴う熱を、より効率的にマイナス極側端部セル11aに伝えることができる。また、例えば、配管収容部20を省略し、平型燃料電池スタック10を円筒型燃料電池スタック部40に直接当接させる(隣接させる)構成とすることもできる。この構成では、平型燃料電池スタック10における燃料ガス供給流路12を、燃料ガス供給孔21と積層方向に対向する位置に配置することが好ましい。同様に、燃料ガス排出流路14を燃料ガス排出孔27と積層方向に対向する位置に、酸化剤ガス排出流路15を酸化剤ガス排出孔25と積層方向に対向する位置に、それぞれ配置することが好ましい。すなわち、一般には、円筒型燃料電池がアノード側端部燃料電池に隣接配置された構成を、本発明の燃料電池システムに採用することができる。
【0046】
D2.変形例2:
各実施例では、円筒型燃料電池30は、互いに所定の間隔をへだててマトリクス状に配置されていたが、これに代えて、千鳥配置や円心状配置など任意の形状となるように配置することもできる。また、円筒型燃料電池30の数は24本であったが、これに代えて、任意の本数とすることができる。
【0047】
D3.変形例3:
各実施例では、総マイナス極側に円筒型燃料電池スタック部40を配置していたが、本発明はこれに限定されるものではない。各実施例では、マイナス極側端部セル11aにおいてアノードがカソードよりも積層方向において外側に位置していたため、円筒型燃料電池スタック部40を総マイナス極側に配置して、マイナス極側端部セル11aにおけるアノード側の温度低下を抑制していた。しかしながら、各平型燃料電池11におけるアノードとカソードとの配置位置が逆となっており、平型燃料電池スタック10における最も総プラス極側に位置する燃料電池(以下、「プラス極側端部セル」と呼ぶ)において、アノードがカソードよりも積層方向において外側に位置する構成では、円筒型燃料電池スタック部40を総プラス極側に配置することができる。このようにすることで、プラス極側端部セルにおいて燃料電池システムの立ち下げ時のアノード側の温度低下を抑制でき、アノード及びカソードの極間温度差を抑制できる。すなわち、一般には、平型燃料電池スタックの両端に位置する平型燃料電池のうち、アノード側の面が平型燃料電池スタックの端部となるアノード側端部燃料電池に円筒型燃料電池が隣接配置された構成を、本発明の燃料電池システムに採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10…平型燃料電池スタック、11…平型燃料電池、11a…マイナス極側端部セル、12…燃料ガス供給流路、12a…燃料ガス供給マニホールド、13…酸化剤ガス供給流路、13a…酸化剤ガス供給マニホールド、14…燃料ガス排出流路、14a…燃料ガス排出マニホールド、15…酸化剤ガス排出流路、15a…酸化剤ガス排出マニホールド、16…MEGA、17…セパレータ、20…配管収容部、21…燃料ガス供給孔、23…酸化剤ガス供給孔、25…酸化剤ガス排出孔、27…燃料ガス排出孔、30…円筒型燃料電池、31…MEA、32…アノード、33…カソード、40…円筒型燃料電池スタック部、41…ガス供給室、42…ガス排出室、44…酸化剤ガス排出流路、50…マイナス極側ターミナルプレート、51…燃料ガス供給孔、52…酸化剤ガス供給孔、53…燃料ガス排出孔、54…酸化剤ガス排出孔、60…ナビゲーション装置、61…燃料ガス供給配管、62…酸化剤ガス供給配管、63…燃料ガス排出配管、64…酸化剤ガス排出配管、70…制御ユニット、70a…CPU、70b…電力供給制御部、70c…メモリ、100…燃料電池システム、500…車両、520…電力供給部、540…負荷部、541…モータ、542…ギヤ機構、544…車輪、546…駆動回路、CX…中心軸、AR1…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
複数の平型燃料電池を積層した平型燃料電池スタックと、
前記平型燃料電池スタックの両端に位置する平型燃料電池のうち、アノード側の面が前記平型燃料電池スタックの端部となるアノード側端部燃料電池に隣接配置された円筒型燃料電池と、
を備える、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−9158(P2011−9158A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153793(P2009−153793)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】