説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システムにおける所定空間内の酸素濃度を検出し酸素欠乏状態に陥ることを防止する。
【解決手段】複数のセルが直列に接続されたスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口と、酸化剤を導入する酸化剤入口と、未消費酸化剤および生成水を含む流体を放出する酸化剤出口と、を有する燃料電池と、前記燃料入口に前記液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、前記酸化剤入口に前記酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、前記燃料電池の出力電流を検出する電流検出部と、制御部と、を具備した燃料電池システムであって、燃料電池を発電させた後、前記制御部が前記電流検出部で検出された電流値と発電時間から酸素消費量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、具体的には、燃料電池システムにおける所定空間内の酸素濃度を検出する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、および携帯情報端末(PDA)などの携帯小型電子機器における電源として用いることが検討されている。燃料電池は燃料の補充によって連続発電が可能であることから、充電が必要な二次電池の代わりに燃料電池を用いることで、携帯小型電子機器の利便性をさらに向上できるものと期待されている。
【0003】
燃料電池には、使用される電解質の種類によって種々のタイプの燃料電池がある。なかでも固体高分子型燃料電池(PEFC)は、作動温度が低くかつ出力密度が高いことから、車載用電源および家庭用コージェネレーションシステム用電源などとして実用化されつつある。また、携帯小型電子機器用の電源としても有望視されている。
【0004】
PEFCのなかでも直接酸化型燃料電池(DOFC)は、常温で液体の燃料を使用し、この燃料を水素に改質することなく、直接的に酸化して電気エネルギーを取り出す。このため、直接酸化型燃料電池は、改質器を備える必要がなく小型化が容易である。また、直接酸化型燃料電池のなかでも、燃料としてメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、エネルギー効率および発電出力が他の直接酸化型燃料電池よりも優れていることから、携帯小型電子機器用の電源として最も有望視されている。
【0005】
DMFCなどの固体高分子型燃料電池は、一般に、複数の単位セルを積層したセルスタックを有する。各単位セルは、高分子電解質膜と、高分子電解質膜を間に挟むように配されたアノードおよびカソードとを含んでいる。アノードおよびカソードは、ともに触媒層および拡散層を含んでおり、アノードには燃料であるメタノールが供給され、カソードには酸化剤である空気が供給される。
【0006】
DMFCのアノードおよびカソードでの反応を下記反応式(1)および反応式(2)にそれぞれ示す。カソードに導入される酸素は、一般に、大気中から取り入れられる。
【0007】
アノード: CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- (1)
カソード: (3/2)O2+6H++6e-→3H2O (2)
また、燃料と酸素の反応を下記反応式(3)に示す。
【0008】
2CH3OH+3O2→2CO2+4H2O (3)
通常空気中には酸素が約21%含まれているが、DMFCにて発電を継続すると、発電量に応じて空間内の酸素が消費され、密閉空間または換気が不十分な環境においては酸素濃度が低下する。空気中の酸素濃度が18%以下となると人体は酸素欠乏状態となり危険である。
【0009】
そこで、このような酸素欠乏を防止する方法が検討されており、例えば、特許文献1では、自動車用の燃料電池システムにおいて酸素濃度センサにより外部空間の酸素濃度を検知し、所定酸素濃度以下となると換気や報知手段による酸欠状態に陥ることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−73309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1では、酸素濃度センサのみで空間の酸素濃度を検知しているため酸素濃度センサの性能劣化や故障の場合に酸欠状態に陥る可能性があり、安全性の確保が十分とは言い難い。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数のセルが直列に接続されたスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口と、酸化剤を導入する酸化剤入口と、未消費酸化剤および生成水を含む流体を放出する酸化剤出口と、を有する燃料電池と、燃料入口に液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、酸化剤入口に酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、燃料電池の出力電流を検出する電流検出部と、制御部と、を具備した燃料電池システムであって、燃料電池を発電させた後、制御部が電流検出部で検出された電流値と発電時間から酸素消費量を演算することを特徴とする。
【0013】
この構成により発電電流と発電時間から酸素消費量を算出し、所定空間内の酸素濃度検出が可能となり、予め定めた空間体積以上の空間で使用することで酸欠状態に陥ることを防止できる。
【0014】
また、複数のセルが直列に接続されたスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口と、酸化剤を導入する酸化剤入口と、未消費酸化剤および生成水を含む流体を放出する酸化剤出口と、を有する燃料電池と、燃料入口に液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、酸化剤入口に酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、燃料電池の燃料消費量を検出する燃料量検出部と、制御部と、を具備した燃料電池システムであって、 燃料電池を発電させた後、制御部が燃料量検出部で検出された燃料消費量から酸素消費量を演算することを特徴とする。
【0015】
この構成により燃料消費量から酸素消費量を算出し、所定空間内の酸素濃度検出が可能となり、予め定めた空間体積以上の空間で使用することで酸欠状態に陥ることを防止できる。
【0016】
さらに、前記酸素消費量が所定値以上になった場合に、発電を停止させることを特徴とする。
【0017】
また、前記酸素消費量に基づいて予め設定された空間における酸素濃度を算出し、前記酸素濃度が所定値以下に低下した場合に発電を停止させることを特徴とする。
【0018】
また、酸素濃度センサを備え、酸素濃度が所定値以下になった場合と酸素消費量が所定値以上になった場合とのいずれか早い時点で、発電を停止することを特徴とする。
【0019】
さらに、酸素濃度センサと警報手段とを備え、酸素濃度センサにより検出した酸素濃度が所定値以下になった場合と酸素消費量が所定値以上になった場合とのいずれか早い時点で、発電を停止するか、警告を報知するか、発電を停止し警告を報知することを特徴とする。
【0020】
これらの構成により酸素濃度あるいは酸素消費量のいずれかの検出により酸欠状態を防
止することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃料電池の発電電流を検出し、所定時間ごとに所定空間の酸素濃度を算出すること、あるいは燃料消費量を検出し所定空間の酸素濃度を算出することができるため、酸欠状態に陥ることを防止でき安全性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】燃料電池システムに使用される電流検出により酸素濃度を検出制御するフローチャートである。
【図3】燃料電池システムに使用される燃料消費量により酸素濃度を検出制御するフローチャートである。
【図4】燃料電池に含まれる単位セルの概略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池に液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、燃料電池に酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、燃料電池の電圧を検出する電圧検出部と燃料ポンプ部と前記ポンプ部の運転を制御する制御部とを具備する。
【0024】
燃料電池は、複数の単位セルが直列に接続されたセルスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口とを有している。燃料入口には、燃料ポンプ部により、液状燃料が供給される。また、燃料電池は、酸化剤を導入する酸化剤入口と、酸化剤を滞留させる酸化剤チャンバと、未消費酸化剤を放出する酸化剤出口とを有する。酸化剤出口からは、未消費酸化剤とともに、単位セル内で生成した水(生成水)を含む流体が放出される。放出された流体は、回収タンクに収容してもよい。放出された流体は、気液分離し、気体と液体とをそれぞれ別々に再利用してもよい。
【0025】
電流検出部は複数の単位セルが直列に接続されたセルスタック全体の電流を検出し発電状態での燃料電池の電流を監視する。発電後所定時間ごとに電流値を検出し時間毎の平均電流値を計算し、下記式(4)で化学量論的に酸素消費量[L/min]を算出する。
【0026】
酸素消費量=((((I×60)/F)/4)×(22.4×(T/273)))/η (4)
I:単位セル当たりの平均電流値[A]
F:ファラディー定数
カソード側の酸素消費に伴う電荷量:4
酸素の体積(理想気体):22.4[L/mol]
T:環境温度(絶対温度)[K]
η:燃料利用率
上記式(4)の燃料利用率はカソード側での酸素消費とは別に、アノード側からのメタノールクロスオーバー(MCO)による影響を考慮し、燃料利用率は下記式(5)で表される。
【0027】
η=i/(i+ix) (5)
i:発電により発生する電流値
ix:MCOによって消費された発電に寄与しない燃料量を電流値に換算した値
仮に、Tが25℃すなわち298K、ηが83%であるとき、例えば、平均電流が7.2Aの場合の単セル当たりの酸素消費量は0.033[L/min]となる。更に6セルスタックとし場合の酸素消費量は0.198[L/min]となる。
【0028】
所定空間VRが10mであると設定した場合に、酸素濃度18%に低下する発電時間は(10×1000×(0.21−0.18))/0.198=1515[min]となる。
【0029】
予め空間体積と判定する酸素濃度閾値を設定することにより、酸素濃度が所定値に低下したことを擬似的に検出することが可能である。例えば、空間体積を燃料電池システムの使用が想定される空間の最小値に設定し、酸素濃度閾値を一般的な危険濃度と言われる18%よりも多少高めの濃度に設定するなどすればよい。
【0030】
所定空間の具体的な設定方法は、液晶等のディスプレイ画面に直接空間体積を入力する方法や予め幾つかの空間体積を設定しておき使用者がスイッチの切替にて設定することも可能である。
【0031】
本発明の別の実施の形態は、燃料電池の燃料容量を検出する燃料容量検出部と、前記燃料容量検出部での燃料消費量から酸素消費量を演算する制御部とを具備した燃料電池システムであって、燃料電池を発電させた後、前記制御部にて燃料消費量から酸素消費量を演算し、所定空間の酸素濃度を算出する
燃料容量検出部は発電前と発電中の燃料容量を検出し燃料の消費量を上記反応式(3)から酸素消費量を計算する。反応式(3)からメタノールが2分子消費されたとき、酸素は3分子消費されることがわかる。
【0032】
例えば、所定空間VRにおいて酸素濃度18%に低下する燃料消費量は、
((((((VR×1000)/(22.4×(T/273)))×(0.21-0.18)×2/3)×M)/ρ)/1000)/η
となる。ここで、Mはメタノールの分子量[g/mol]、ρはメタノールの密度[g/cmg/cm]である。
【0033】
VRが10mと設定した場合、燃料利用率が83%、温度が25℃(298K)であるとき、燃料消費量は0.399[L]となる。すなわち、燃料消費量が0.399[L]を超える前に、燃料電池システムを停止させれば、酸素濃度が危険値に達することはなく、安全に停止することが可能である。
【0034】
なお、燃料消費量の検知方法については、燃料カートリッジに内容量を検知するセンサを搭載し、運転開始前との燃料容量の差をとって、燃料消費量を算出してもよく、あるいは、燃料ポンプの供給量を計測することによって燃料消費量を算出してもよい。
【0035】
以下、本発明の実施形態を、直接メタノール型燃料電池(DMFC)を例に、図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に記載の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図1は、本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【0037】
燃料電池システム1は、燃料電池2と、液状燃料(メタノール)を貯留する燃料タンク3と、燃料タンク3に貯留された液状燃料を燃料電池2に送る燃料ポンプ4と、燃料電池2の排出物を収容する回収タンク5とを有している。燃料電池2は、発電した電気を出力するための正極外部端子6および負極外部端子7を有している。
【0038】
燃料電池2は、燃料電池ケース2a内に、酸化剤(空気)を燃料電池2に導入する酸化剤ポンプ8と、複数の単位セルが直接に接続されたセルスタック13とを備えている。また、燃料電池2は、図示しない燃料入口、燃料出口14、酸化剤入口18、および酸化剤
出口16を有している。
【0039】
燃料ポンプ4により燃料タンク3から供給される液状燃料は、図示しない燃料入口から、燃料電池に導入される。セルスタック13での反応により生成した燃料排液は、燃料出口14から、燃料排出路または排出管19を通じて、回収タンク5に送られる。
【0040】
燃料電池2は、酸化剤入口18と、酸化剤ポンプ8との間に、酸化剤チャンバ17を有する。酸化剤入口18は、複数の単位セルの酸化剤流路入口と通じている。
【0041】
燃料電池2において、酸化剤ポンプ8により酸化剤チャンバ17に導入された酸化剤は、発電中は、酸化剤入口18を通じて、セルスタック13の各単位セルに供給される。そして、各単位セルでの反応により生成した水と、未消費酸化剤とを含む流体は、酸化剤出口16から排出され、酸化剤排出路または排出管19を通じて、回収タンク5に送られる。
【0042】
回収タンク5に収容された燃料電池からの排出物は、未反応の燃料および水を含むため、液状燃料として再利用される。未反応の燃料および水を含む排出物は、燃料タンク3からの燃料と合流させて、燃料ポンプ4に供給してもよい。
【0043】
回収タンク5は、一般に、未反応の燃料および水と、ガス(O2、水蒸気など)とを分離する気液分離機構を有する。
【0044】
酸化剤ポンプは、燃料電池ケース内に収容する必要はなく、燃料電池ケース外に設けてもよい。同様に、燃料ポンプ部は、燃料電池ケースの内部及び外部のいずれに設けてもよい。
【0045】
燃料電池システム1は、さらに、燃料電池2の電気出力を変換するDC/DCコンバータ9と、DC/DCコンバータ9から送られた電気を蓄電する蓄電部10と、DC/DCコンバータ9からの出力電圧、および蓄電部10の充放電を制御する制御部11とを有する。
【0046】
制御部11は、燃料ポンプ4および酸化剤ポンプ8を制御して、燃料電池2への燃料供給量および酸化剤供給量を制御する。
【0047】
例えば、燃料電池2の出力電流を検出する電流センサ、DC/DCコンバータ9の出力電圧を検出する電圧センサなどを設け、これらのセンサから送られた検出信号に基づいて、制御部11により燃料および酸化剤の供給量を制御してもよい。また、制御部11は、燃料電池2をオンからオフへ切り替えた際の信号に基づいて、燃料ポンプ4を停止することにより燃料電池2への燃料の供給を停止してもよい。
【0048】
制御部11は、必要により、演算部、メモリ部、判定部などを有していてもよい。このような制御部11は、具体的には、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、マイクロコンピュータ、MPU(Micro Processing Unit:マイクロプロセッサ)、主記憶装置および補助記憶装置などを含むことができる。
【0049】
セルスタック13は、電気的に直列に接続するようにして積層した2以上の単位セルを含む。図3は、図2のセルスタック13のうち、1つの単位セルの概略拡大断面図を示す。
【0050】
単位セル20は、直接メタノール型燃料電池の単位セルであり、高分子電解質膜22と
、高分子電解質膜22を間に挟むように配置されたアノード24およびカソード26を含んでいる。高分子電解質膜22は、水素イオン伝導性を有している。アノード24には、燃料であるメタノールが供給され、カソード26には、酸化剤である空気が供給される。
【0051】
アノード24、高分子電解質膜22およびカソード26の積層方向において、アノード24の上にはアノード側セパレータ36が積層され、アノード側セパレータ36のさらに上には端板56Aが配置されている。また、カソード26の上(図では下方向)にはカソード側セパレータ46が積層され、カソード側セパレータ46のさらに上(図では下方向)には端板56Bが配置されている。なお、単位セル20が2以上積層される場合には、端板56Aおよび56Bは単位セル毎に設けられず、セルスタックの積層方向の両端に1つずつ配置される。
【0052】
2つの端板56Aおよび56Bは、図示しないボルトおよびバネなどにより、各セパレータとMEAとを加圧するように互いに締結される。MEAと、アノード側セパレータ36およびカソード側セパレータ46との界面は接着性に乏しい。そのため、上記のようにして、各セパレータとMEAとを加圧することにより、MEAと各セパレータとの接着性を高めることができる。その結果、MEAと各セパレータとの間の接触抵抗を低減させることができる。
【0053】
アノード24は、アノード触媒層28およびアノード拡散層30を含む。アノード触媒層28は、高分子電解質膜22に接している。アノード拡散層30は、撥水処理が施されたアノード多孔質基材34、およびその表面に形成された、撥水性の高い材料からなるアノード撥水層32を含む。アノード撥水層32およびアノード多孔質基材34は、この順序で、アノード触媒層28の高分子電解質膜22と接している面とは反対側の面の上に積層されている。
【0054】
カソード26は、カソード触媒層38およびカソード拡散層40を含む。カソード触媒層38は、高分子電解質膜22のアノード触媒層28が接している面とは反対側の面に接している。カソード拡散層40は、撥水処理が施されたカソード多孔質基材44、およびその表面に形成された、撥水性の高い材料からなるカソード撥水層42を含む。カソード撥水層42およびカソード多孔質基材44は、この順序で、カソード触媒層38の高分子電解質膜22と接している面とは反対側の面の上に積層されている。
【0055】
高分子電解質膜22、アノード触媒層28およびカソード触媒層38からなる積層体は、燃料電池の発電を担っており、CCM(Catalyst Coated Membrane)と呼ばれている。また、MEAは、CCMと、アノード拡散層30およびカソード拡散層40とからなる積層体である。アノード拡散層30およびカソード拡散層40は、アノード24およびカソード26に供給される燃料および酸化剤の均一な分散を担うとともに、生成物である水204および二酸化炭素202の円滑な排出を担っている。
【0056】
アノード側セパレータ36は、アノード多孔質基材34との接触面に、アノード24に燃料を供給するための燃料流路48を有している。燃料流路48は、例えば、上記接触面に形成され、アノード多孔質基材34に向かって開口する凹部ないしは溝から構成される。
【0057】
カソード側セパレータ46は、カソード多孔質基材44との接触面に、カソード26に酸化剤(空気)を供給するための酸化剤流路50を有している。酸化剤流路50もまた、例えば、上記接触面に形成され、カソード多孔質基材44に向かって開口する凹部ないしは溝から構成される。
【0058】
燃料電池に供給される液状燃料としては、ジメチルエーテルなどを使用できるが、通常、メタノールを用いる。液状燃料は、通常、メタノールと水との混合物である。
【0059】
液状燃料のメタノール濃度は、例えば、1〜8mol/L、好ましくは2〜5mol/Lである。
【0060】
液状燃料の供給量は、例えば、0.0138〜0.556cm3/min・cm2、好ましくは0.0277〜0.278cm3/min・cm2である。燃料電池に供給される酸化剤としては、空気、圧縮空気の他、酸素、酸素を含む混合ガスなどが挙げられる。
【0061】
酸化剤の供給量は、酸素ガス換算で、例えば、11〜42cm3/min・cm2、好ましくは13〜28cm3/min・cm2である。
【0062】
以下、発電起動時の制御フローチャートについて説明する。図2は燃料電池システムに使用される電流検出により酸素消費量を検出制御するフローチャートである。
【0063】
発電開始(START)されると、所定時間毎にセルスタックにより発電された電流を検出する(S100)。次に所定時間毎に計測した電流値の1秒間の平均値を計算する(S101)。次に発電時間と平均電流値から発電量を計算する(S102)。次に発電量から消費酸素量を計算する(S103)。次に酸素消費量が所定値以上であるかを判断する(S104)。所定値以上であれば発電を停止し、所定値以下であればS101に進み発電を継続する。
【0064】
図3は燃料電池システムに使用される燃料消費量により酸素消費量を検出制御するフローチャートである。
【0065】
発電開始(START)されると、所定時間毎に燃料タンク内の燃料量を検出する(S105)。次に所定時間毎に燃料容量から燃料消費量計算する(S106)。次に燃料消費量から酸素消費量を計算する(S107)。次に酸素消費量が所定値以上であるかを判断する(S108)。所定値以上であれば発電を停止し、所定値以下であればS105に進み発電を継続する。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を何ら限定するものではない。
【0067】
(実施例1)
図4に示されるような燃料電池を作製した。
【0068】
(アノード触媒層の作製)
アノード触媒粒子と、これを担持する導電性の担体とを含むアノード触媒担持体を調製した。アノード触媒粒子としては、平均粒径5nmの白金−ルテニウム合金微粒子(Pt:Ruの原子比=1:1)を用いた。担体としては、平均一次粒子径30nmのカーボン粒子を用いた。白金−ルテニウム合金と、カーボン粒子との合計重量に占める白金−ルテニウム合金の割合は、80重量%とした。
【0069】
カソード触媒粒子と、これを担持する導電性の担体とを含むカソード触媒担持体を調製した。カソード触媒粒子としては、白金粒子(平均粒径:3nm)を用いた。担体としては、平均一次粒子径が30nmのカーボン粒子を用いた。白金とカーボン粒子との合計重
高分子電解質膜としては、厚さ50μmの強酸性イオン交換膜(「Nafion(登録
商標)112」、デュポン社製)を使用した。
【0070】
(CCMの作製)
(アノードの形成)
アノード触媒担持体の10gと、強酸性イオン交換樹脂を含有する分散液(商品名:ナフィオン分散液、「Nafion(登録商標)5重量%溶液」、米国デュポン社製)の70gとを、適量の水とともに攪拌機により攪拌して混合した。得られた混合物を脱気して、アノード触媒層形成用インクを得た。
【0071】
こうして得られたアノード触媒層形成用インクを、エアーブラシを使用したスプレー法により、高分子電解質膜の一方の表面に吹き付けるようにして塗布し、40mm×90mmの長方形のアノード触媒層を形成した。アノード触媒層の寸法は、マスキングにより調整した。アノード触媒層形成用インクの吹き付け時には、表面温度をヒータにより調整した金属板に、高分子電解質膜を、減圧により吸着させて固定した。アノード触媒層形成用インクは、塗布中に漸次乾燥させるようにした。アノード触媒層の厚みは61μmであった。単位面積あたりのPt−Ruの量は、3mg/cm2であった。
【0072】
(カソードの形成)
カソード触媒担持体の10gと、強酸性イオン交換樹脂を含有する分散液(商品名「Nafion(登録商標)5重量%溶液」)の100gとを、適量の水とともに攪拌機により攪拌して混合した。この後、得られた混合物を脱気して、カソード触媒層形成用インクを得た。
【0073】
得られたカソード触媒層形成用インクを、アノード触媒層の形成と同様の方法で、高分子電解質膜のアノード触媒層が形成された面とは反対側の面に塗布した。これにより、40mm×90mmの長方形のカソード触媒層を、高分子電解質膜に形成した。形成されたカソード触媒層に含まれる単位面積あたりのPtの量は、1mg/cm2であった。なお、アノード触媒層と、カソード触媒層とは、それぞれの中心(対角線の交点)が高分子電解質膜の厚さ方向に平行な1つの直線上に位置するように、配置した。
【0074】
以上のようにして、CCMを作製した。
【0075】
(MEAの作製)
(アノード多孔質基材の作製)
撥水処理が施されたカーボンペーパー(商品名「TGP−H−090」、厚さ約300μm、東レ(株)製)を、希釈されたPTFEのディスパージョン(商品名「D−1」、ダイキン工業(株)製)に1分間浸漬した。次いで、そのカーボンペーパーを、100℃に温度設定された熱風乾燥機中で乾燥させた。乾燥後のカーボンペーパーを、電気炉中において、270℃で2時間焼成した。このようにして、PTFEの含有量が10重量%であるアノード多孔質基材を得た。
【0076】
(カソード多孔質基材の作製)
撥水処理が施されたカーボンペーパーに代えて、カーボンクロス(商品名「AvCarb(商標)1071HCB」、バラードマテリアルプロダクツ社製)を使用したこと以外は、アノード多孔質基材と同様にして、PTFEの含有量が10重量%であるカソード多孔質基材を作成した。
【0077】
(アノード撥水層の作製)
アセチレンブラックの粉末と、PTFEのディスパージョン(商品名「D−1」、ダイキン工業(株)製)とを攪拌機により攪拌して混合することにより、全固形分に占めるP
TFEの含有量が10重量%であり、全固形分に占めるアセチレンブラックの含有量が90重量%である撥水層形成用インクを得た。得られた撥水層形成用インクを、エアーブラシを使用したスプレー法により、アノード多孔質基材の一方側の表面に吹き付けるようにして塗布した。その後、塗布されたインクを、100℃に温度設定された恒温槽内で乾燥させた。次いで、撥水層形成用インクを塗布したアノード多孔質基材を、電気炉により、270℃で2時間焼成した。こうして、アノード多孔質基材上にアノード撥水層を形成した。
【0078】
このようにして、アノード多孔質基材およびアノード撥水層を含むアノード拡散層を作製した。
【0079】
(カソード撥水層の作製)
カソード多孔質基材の一方の表面に、アノード撥水層と同様にして、カソード撥水層を形成した。
【0080】
このようにして、カソード多孔質基材およびカソード撥水層を含むカソード拡散層を作製した。
【0081】
アノード拡散層およびカソード拡散層は、いずれも、抜き型を使用して、40mm×90mmの長方形に成形した。
【0082】
次に、アノード拡散層のアノード撥水層と、CCMのアノード触媒層とが接するように、アノード拡散層とCCMとを積層した。また、カソード拡散層のカソード撥水層と、CCMのカソード触媒層とが接するように、カソード拡散層とCCMとを積層した。
【0083】
得られた積層体を、温度を125℃に設定した熱プレス装置により、5MPaの圧力で1分間加圧した。これにより、アノード触媒層とアノード拡散層とを接合するとともに、カソード触媒層とカソード拡散層とを接合した。
【0084】
以上のようにして、アノードと、高分子電解質膜と、カソードとからなる膜−電極接合体(MEA)を得た。
【0085】
(ガスケットの配置)
厚み0.25mmのエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のシートを、50mm×120mmの長方形に裁断した。さらに、このシートの中央部分を、42mm×92mmのサイズに開口するようにくり抜いた。このようにして、2枚のガスケットを得た。
【0086】
一方のガスケットの中央の開口部に、アノードをはめ込むように配置し、他方のガスケットの中央の開口部に、カソードをはめ込むように配置した。
【0087】
(セパレータの作製)
アノード側セパレータの素材として、厚み1.5mm、サイズ50mm×120mmの長方形の樹脂含浸黒鉛板を準備した。この黒鉛板の表面を切削して、メタノール水溶液をアノードに供給する燃料流路を形成した。セパレータの短辺側端部の一方には、燃料流路の入口を形成し、短辺側端部の他方には、燃料流路の出口を形成した。このようにして、アノード側セパレータを作製した。
【0088】
同様に、カソード側セパレータの素材として、厚み2mm、サイズ50mm×120mmの樹脂含浸黒鉛板を準備した。その表面を切削して、酸化剤としての空気をカソードに供給する空気流路を形成した。セパレータの短辺側端部の一方には、空気流路の入口を形
成し、短辺側端部の他方には、空気流路の出口を形成した。このようにして、カソード側セパレータを作製した。
【0089】
燃料流路および空気流路を構成する溝の断面サイズは、いずれも、幅1mm、深さ0.5mmとした。また、燃料流路および空気流路は、それぞれ、アノード拡散層およびカソード拡散層の各部に満遍なく燃料および空気を供給し得るサーペンタイン型とした。
【0090】
アノード側セパレータを、燃料流路がアノード拡散層と接するように、MEAと積層した。カソード側セパレータを、空気流路がカソード拡散層と接するように、MEAと積層した。
【0091】
そして、アノード側セパレータおよびカソード側セパレータに挟持されたMEAを10セル分積層し、その積層方向の両端に、厚さ1cmのステンレス鋼板からなる一対の端板を配置した。各端板と、各セパレータとの間には、表面に金メッキが施された厚さ2mmの銅板からなる集電板と、絶縁板とを配置した。集電板は、セパレータ側に配置し、絶縁板は端板側に配置した。
【0092】
その状態で、一対の端板を、ボルト、ナットおよびばねを用いて互いに締結し、MEAと各セパレータとを加圧した。
【0093】
以上のようにして、サイズが50mm×120mmであるDMFCの6セルのセルスタックを得た。
【0094】
(燃料電池システムの作製)
酸化剤供給部として、圧縮空気を供給する高圧空気ボンベを、流量を調節するための堀場製作所(株)製のマスフローコントローラを介在させて接続した。具体的には、各セルの酸化剤入口にそれぞれシリコンチューブを差し込み、分岐管によりシリコンチューブを合流させて一本の流路を形成し、この流路をマスフローコントローラと接続した。
【0095】
燃料ポンプ4としては、日本精密科学(株)製の精密ポンプ(パーソナルポンプNP−KX−100(製品名))を用いた。この燃料ポンプ4は、燃料電池ケース2a外に配設した。
【0096】
各単位セルのアノード側セパレータに設けた燃料流路の入口と、燃料ポンプ4とをシリコンチューブおよび分岐管により接続した。各単位セルの燃料流路の出口と、燃料電池2の燃料出口14とをシリコンチューブおよび分岐管により接続し、燃料出口14と、回収タンク5とをシリコンチューブにより接続した。
【0097】
各セルのカソード側セパレータに設けた空気流路の入口は、セルスタック13の一側面に並んで配置されている。当該側面を、酸化剤チャンバ17の一側面と対向させ、酸化剤チャンバ17の側面に、空気流路の入口と対応するように、複数の穴を設け、酸化剤チャンバ17と空気流路とを連通させた。各セルの空気流路の出口と、燃料電池2の酸化剤出口16とをシリコンチューブおよび分岐管により接続し、酸化剤出口16と、回収タンク5とをシリコンチューブにより接続した。
【0098】
アノードには、4mol/Lのメタノール水溶液201を、0.083cm3/min・cmの流量で供給した。カソードには、無加湿の空気203を、83.3cm3/min・cmの流量で供給した。燃料電池の出力電流は、DC/DCコンバータを介して電子負荷装置「PLZ164WA」(菊水電子工業(株)製)に接続し、200mA/cmの一定の電流密度となるように調節し、平均電流は7.2Aであった。
【0099】
燃料電池システムは密閉した1mの空間内に設置し、酸素濃度は酸素欠乏に陥る18%より少し高い19%で発電が停止するように設定して電流検出からの酸素消費量計測を用いて発電を開始した。なお、酸素濃度センサは故障したことを想定するため、検出制御を停止した状態とした。発電開から101分後に酸素濃度が19%まで低下したと判定し発電が停止した。
【0100】
発電停止後、酸素濃度センサにて空間内の酸素濃度を測定した結果、19.2%であり、酸素欠乏状態に陥る前に発電を停止した。
【0101】
また、同様に燃料電池システムは密閉した1mの空間内に設置し、19%で発電が停止するように設定して燃料消費量からの酸素消費量計測を用いて発電を開始した。なお、酸素濃度センサは故障したことを想定するため、検出制御を停止した状態とした。発電開から68分後に酸素濃度が19%まで低下したと判定し発電が停止した。
【0102】
発電停止後、酸素濃度センサにて空間内の酸素濃度を測定した結果、19.8%であり、酸素欠乏状態に陥る前に発電を停止した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の燃料電池システムは、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)などの携帯小型電子機器における電源として有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
2a 燃料電池ケース
3 燃料タンク
4 燃料ポンプ
5 回収タンク
6 正極外部端子
7 負極外部端子
8 酸化剤ポンプ
9 DC/DCコンバータ
10 蓄電部
11 制御部
13 セルスタック
14 燃料出口
15 酸化剤流路
16 酸化剤出口
17 酸化剤チャンバ
18 酸化剤入口
19 排出管
20 単位セル
22 高分子電解質膜
24 アノード
26 カソード
26A 酸化剤流路
36 アノード側セパレータ
46 カソード側セパレータ
48 燃料流路
50 酸化剤流路
51 燃料入口
110 電流検出部
111 燃料量検出部
112 酸素濃度センサ
113 警報手段
201 メタノール水溶液
202 二酸化炭素
203 空気
204 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが直列に接続されたスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口と、酸化剤を導入する酸化剤入口と、未消費酸化剤および生成水を含む流体を放出する酸化剤出口と、を有する燃料電池と、
前記燃料入口に前記液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、
前記酸化剤入口に前記酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、
前記燃料電池の出力電流を検出する電流検出部と、
制御部と、を具備した燃料電池システムであって、
燃料電池を発電させた後、前記制御部が前記電流検出部で検出された電流値と発電時間から酸素消費量を演算することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
複数のセルが直列に接続されたスタックと、液状燃料を導入する燃料入口と、燃料排液を放出する燃料出口と、酸化剤を導入する酸化剤入口と、未消費酸化剤および生成水を含む流体を放出する酸化剤出口と、を有する燃料電池と、
前記燃料入口に前記液状燃料を供給する燃料ポンプ部と、
前記酸化剤入口に前記酸化剤を供給する酸化剤ポンプ部と、
前記燃料電池の燃料消費量を検出する燃料量検出部と、
制御部と、を具備した燃料電池システムであって、
燃料電池を発電させた後、前記制御部が前記燃料量検出部で検出された燃料消費量から酸素消費量を演算することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記酸素消費量が所定値以上になった場合に、発電を停止させることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記酸素消費量に基づいて予め設定された空間における酸素濃度を算出し、前記酸素濃度が所定値以下に低下した場合に発電を停止させることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池システム。
【請求項5】
酸素濃度センサを備え、前記酸素濃度センサにより検出した酸素濃度が所定値以下になった場合と酸素消費量が所定値以上になった場合とのいずれか早い時点で、発電を停止することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
酸素濃度センサと警報手段とを備え、前記酸素濃度センサにより検出した酸素濃度が所定値以下になった場合と酸素消費量が所定値以上になった場合とのいずれか早い時点で、発電を停止するか、警告を報知するか、発電を停止し警告を報知することを特徴とする1また2に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−20868(P2013−20868A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154563(P2011−154563)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】