説明

燃料電池セパレータの製造方法、及びこの方法により製造された燃料電池セパレータを備える燃料電池

【課題】燃料電池セパレータからの金属イオンの脱離を抑制し、金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下と、電解質の分解とを抑制する燃料電池セパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】黒鉛粒子と樹脂成分とを含む原料成分を配合して成形用組成物を調製した後、この成形用組成物を燃料電池セパレータAに成形する工程において、成形用組成物を成形する前に、磁石を用いて成形用組成物から金属成分を除去する。成形用組成物から金属成分を除去することにより、燃料電池セパレータAの金属成分の含有量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池セパレータの製造方法、並びにこの製造方法により製造された燃料電池セパレータを備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に燃料電池は複数の単位セルを数十〜数百個直列に重ねて構成されるセルスタックから成り、これにより所定の電圧を得ている。
【0003】
単位セルの最も基本的な構造は、「セパレータ/燃料電極(アノード)/電解質/酸化剤電極(カソード)/セパレータ」という構成を有している。この単位セルにおいては、電解質を介して対向する一対の電極のうち燃料電極に燃料が、酸化剤電極に酸化剤が供給され、電気化学反応により燃料が酸化されることで、反応の化学エネルギーが直接電気化学エネルギーに変換される。
【0004】
このような燃料電池は、電解質の種類によりいくつかのタイプに分類されるが、近年、高出力が得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が注目されている。
【0005】
図1は固体高分子型燃料電池の一例を示す。左右両側面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されている2枚の燃料電池セパレータA,Aの間に、電解質4(固体高分子電解質膜)とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)とから構成される膜−電極複合体(MEA)5が介在することで、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルを数十個〜数百個並設して電池本体(セルスタック)が形成されている。この燃料電池セパレータAにおける隣り合う凸部1a同士の間には、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2が形成される。
【0006】
このようなセルスタックは、例えば家庭用定置型の場合は50〜100個の単位セルで構成され、自動車積載用の場合は400〜500個の単位セルで構成され、ノートパソコン搭載用の場合は10〜20個の単位セルで構成される。
【0007】
この固体高分子型燃料電池では、燃料電極に流体である水素ガスを、酸化剤電極に流体である酸素ガスを供給することにより、外部回路より電流を取り出すものであるが、この際、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。
燃料電極反応 : H→2H++2e-…(1)
酸化剤電極反応 : 2H++2e-+1/2O→HO…(2)
全体反応 : H+1/2O→H
即ち、燃料電極上で水素(H)はプロトン(H+)となり、このプロトンが固体高分子電解質膜中を酸化剤電極上まで移動し、酸化剤電極上で酸素(O)と反応して水(HO)を生ずる。従って、固体高分子型燃料電池の運転には、反応ガスの供給と排出、水の排出、電流の取り出しが必要となる。
【0008】
また、固体高分子型燃料電池の一種であるメタノール直接型燃料電池(DMFC)では、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液を供給しており、この場合、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。空気極では酸素還元反応(水素を燃料とする場合と同じ反応)が起こっている。
燃料極反応 : CHOH+HO→CO+6H++6e-…(1’)
空気極反応 : 3/2O+6H++6e-→3HO…(2’)
全体反応 : CHOH+3/2O→CO+2H
このような燃料電池を構成する部品のうち、燃料電池セパレータAは、図1(a),(b)に示すように、薄肉の板状体の片面又は両面に複数個のガス供給排出用溝2を有する特異な形状を有しており、燃料電池内を流れる燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水が混合しないように分離する働きを有すると共に、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達したり、燃料電池で生じた熱を外部へ放熱するという重要な役割を担っている。
【0009】
燃料電池セパレータAは、金属製のプレートや、黒鉛粒子と樹脂成分とを含有する成形用組成物などから形成される。
【0010】
このような燃料電池においては、燃料電池セパレータAから金属イオンが脱離すると、この金属イオンが電解質4へ拡散し、更にこの金属イオンが電解質4のイオン交換サイトにトラップされ、その結果、電解質4のプロトン伝導性が低下するおそれがある。また、燃料電池セパレータAはその製造過程において水洗される場合があり、そのような場合に燃料電池セパレータAに金属成分が含まれていると、燃料電池セパレータAの表面に金属酸化物(錆)が現れてしまう。そうすると、電解質4の劣化が著しくなる。
【0011】
また、一般に金属(M)がイオン化して金属イオン(M2+)が生成すると、この金属イオンが下記反応式に示すフェントン反応を引き起こして、ヒドロキシラジカルが生成し、このヒドロキシラジカルが電解質4を分解してしまうおそれもある。
【0012】
+ M2+ +H → M3+ + HO + HO・
黒鉛粒子と樹脂成分とを含有する成形用組成物から燃料電池セパレータAを形成する場合であっても、黒鉛粒子に金属が異物として混入し、この金属が前記問題を引き起こすことがある。黒鉛粒子として人造黒鉛が使用される場合はもちろんであるが、特に天然黒鉛が使用される場合には、この天然黒鉛中にCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属が異物として混入していることがある。
【0013】
特許文献1には、上記問題点に鑑み、黒鉛粒子から予め金属を除去した後、この黒鉛粒子と樹脂成分とを混合して成形用組成物を調製し、この成形用組成物から燃料電池セパレータを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−155936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献1に記載の方法であっても、燃料電池セパレータA中の金属の含有量を充分に低減することは難しく、燃料電池セパレータからの金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下と、電解質の分解とを、充分に抑制することはできなかった。
【0016】
本発明は、燃料電池セパレータからの金属イオンの脱離を抑制し、この金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下と、電解質の分解とを抑制することができる燃料電池セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、前記燃料電池セパレータの製造方法により製造された燃料電池セパレータを備える燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第一の発明に係る燃料電池セパレータの製造方法は、黒鉛粒子と樹脂成分とを含む原料成分を配合して成形用組成物を調製した後、この成形用組成物を成形する工程を含み、前記成形用組成物を成形する前に、この成形用組成物から金属成分を除去することを特徴とする。
【0019】
第一の発明においては、前記成形用組成物から金属成分を除去する方法が、磁石を用いた吸引除去であることが好ましい。
【0020】
第一の発明においては、前記成形用組成物から金属成分を除去する方法が、磁石を用いた吸引除去であることが好ましい。
【0021】
第一の発明においては、前記成形用組成物を調製する前に、予め前記原料成分のうち少なくとも黒鉛粒子から金属成分を除去することが好ましい。
【0022】
第一の発明においては、前記成形用組成物を調製する前に、予め全ての原料成分から金属成分を除去することが好ましい。
【0023】
第一の発明においては、前記原料成分から金属成分を除去する方法が、磁石を用いた吸引除去であることが好ましい。
【0024】
第二の発明に係る燃料電池セパレータの製造方法は、黒鉛粒子と樹脂成分とを含む原料成分を配合して成形用組成物を調製した後、この成形用組成物を成形する工程を含み、前記成形用組成物を調製する前に、予め全ての原料成分から金属成分を除去することを特徴とする。
【0025】
第一及び第二の発明においては、前記成形用組成物を成形して成形体を得た後、この成形体にウエットブラスト処理を、このウエットブラスト処理に用いられる砥粒を含むスラリーから金属成分を磁石で除去しながら施すことが好ましい。
【0026】
第一及び第二の発明においては、前記金属成分の除去により、燃料電池セパレータにおける金属成分の量を、この燃料電池セパレータを90℃の温水で1時間洗浄した後、90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した場合に、この燃料電池セパレータの表面に直径100μmより大きい金属酸化物が存在しなくなる程度とすることが好ましい。
【0027】
第三の発明に係る燃料電池は、第一及び第二の発明により製造された燃料電池セパレータを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、燃料電池セパレータからの金属イオンの脱離を抑制し、この金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下と、電解質の分解とを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示し、(a)は燃料電池の単位セルを、(b)は前記単位セルにおける燃料電池セパレータをそれぞれ示す概略の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の例を示し、ガスケットを使用して構成される燃料電池の単位セルの一例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の更に他の例を示し、燃料電池の一例を示す斜視図である。
【図4】(a)乃至(c)はそれぞれ本発明の実施の形態において使用される吸引除去装置の例を示す概略の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態において使用される、吸引除去装置を備えるウエットブラスト処理装置の例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、発明の実施の形態を説明する。
【0031】
燃料電池セパレータA(以下、セパレータAという)を製造するための成形用組成物は、樹脂成分及び黒鉛粒子を含有する。
【0032】
この成形用組成物は、第一アミン及び第二アミンを含有しないことが好ましい。すなわち、この成形用組成物が、置換基−NH及び−NHを有する化合物を含有しないことが好ましい。更に成形用組成物は第三アミンを含有しないことが好ましい。このように成形用組成物がアミンを含有しないと、成形用組成物から形成されるセパレータAが燃料電池中の白金触媒を被毒することがなく、燃料電池を長時間使用した場合の起電力の低下が抑制される。
【0033】
成形用組成物に含有される樹脂成分は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、たとえばポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0035】
熱硬化性樹脂を使用する場合、この熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
【0036】
熱硬化性樹脂全量に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみを含むのであれば特に好ましい。
【0037】
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特に融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形用組成物の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。また、エポキシ樹脂として溶融粘度が低粘度の樹脂を選択すれば、成形性用組成物の良好な成形性を維持しつつ、成形用組成物及びセパレータA中に黒鉛粒子を高充填することができる。尚、前記作用が発揮される範囲内でエポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
【0038】
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等を用いることが好ましい。このオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
【0039】
また特にエポキシ樹脂がオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のみからなるエポキシ樹脂成分を含み、或いはオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種からなるエポキシ樹脂成分を含むことが好ましい。オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を必須の成分とすると、成形用組成物が成形性に優れたものになると共に、セパレータAが耐熱性に優れたものとなる。また、製造コストの低減も可能になる。エポキシ樹脂成分中のオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータAの耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂やビフェニル型エポキシ樹脂やビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を併用することも好ましい。この場合、成形用組成物の溶融粘度を更に低減することができ、更に薄型のセパレータAを得る場合にはその靱性を向上することができる。
【0041】
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂を使用すると、成形用組成物の粘度を低減し、成形性の特に高い成形用組成物を得ることができる。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0042】
また、ビフェニル型エポキシ樹脂を使用すると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低く、成形用組成物の流動性を著しく向上することができて薄型成形性が特に向上する。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビフェニル型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を使用すると、セパレータAの強度及び靱性を向上することができ、更にセパレータAの吸湿性を低減することができる。このため、セパレータAの機械的特性、導電性、長期使用時の特性の安定性が優れたものとなる。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0044】
成形用組成物中の熱硬化性樹脂全量に対するエポキシ樹脂成分の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
【0045】
前記エポキシ樹脂成分は熱硬化性樹脂中のエポキシ樹脂の少なくとも一部として成形用組成物中に含有される。すなわち、このエポキシ樹脂成分以外の他の熱硬化性樹脂として、例えば前記エポキシ樹脂成分以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂を用いてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用しないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂を用いることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などを用いることも好ましく、例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。これを併用することでセパレータAの耐熱性を更に高めることができる。
【0046】
熱硬化性フェノール樹脂を用いる場合には、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂を用いることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等を挙げることができる。この場合は、成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生せず、ガス透過性の低下を抑制することができる。また、レゾール型フェノール樹脂を用いることも好ましく、例えば13C−NMR分析で、オルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%の構造を有するレゾール型フェノール樹脂を用いることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂は軟化点を容易に調整することができて、融点が70〜90℃のものを容易に得ることができる。これにより、材料の変化が少なく成形時の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。
【0047】
またエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の他の樹脂を併用してもよい。例えばポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂を用いることができる。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用しないことが望ましい。
【0048】
また、熱硬化性樹脂として、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂を用いることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などを用いることも好ましく、その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような他の樹脂を併用することでセパレータAの耐熱性を更に高めることができる。
【0049】
エポキシ樹脂を使用する場合、成形用組成物は硬化剤を必須成分とし、この硬化剤はフェノール系化合物を必須成分とする。このフェノール系化合物としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0050】
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。また、硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。
【0051】
また、成形用組成物の固形分中の熱硬化性樹脂と硬化剤の含有量は、その合計量が14〜24.1質量%の範囲であることが好ましい。
【0052】
また、フェノール系化合物以外の他の硬化剤を併用する場合、他の硬化剤は非アミン系の化合物であることが好ましく、この場合、セパレータAの電気伝導度を高い状態に維持することができると共に、燃料電池の触媒の被毒を抑制することができる。また硬化剤として酸無水物系の化合物も用いないようにすることも好ましい。酸無水物系の化合物を使用した場合は硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータAの電気伝導度の低下を引き起こしたり、セパレータAからの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
【0053】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、熱硬化性樹脂と硬化剤とを配合するにあたり、熱硬化性樹脂におけるエポキシ樹脂と硬化剤におけるフェノール系化合物とは、前記フェノール系化合物に対する前記エポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となるようにすることが好ましい。
【0054】
また、黒鉛粒子は、成形されるセパレータAの電気比抵抗を低減して、セパレータAの導電性を向上させるために使用される。黒鉛粒子の含有量は、成形用組成物全量に対して75〜90質量%の範囲であることが好ましい。このように黒鉛粒子の割合が75質量%以上となるとセパレータAに充分に優れた導電性が付与されるようになる。またこの割合を90質量%以下とすることで成形用組成物に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータAに充分に優れたガス透過性が付与されるようになる。
【0055】
黒鉛粒子としては、高い導電性を示すものであれば制限なく用いることができ、例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化したもの、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化したものの他、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等のような、適宜のものを用いることできる。このような黒鉛粒子は、一種のみを用いるほか、複数種を併用することもできる。
【0056】
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれでもよい。天然黒鉛粉は導電性が高いという利点を有し、また人造黒鉛粉は天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
【0057】
また、黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されたものであることが好ましく、この場合は、灰分やイオン性不純物が低いため、成形品であるセパレータAからの不純物の溶出を抑制することができる。
【0058】
ここで、黒鉛粒子における灰分は0.05質量%以下であることが好ましく、灰分が0.05質量%を超えると、セパレータAを用いて作製される燃料電池の特性低下が引き起こされるおそれがある。
【0059】
また、黒鉛粒子の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が10μm以上であることで成形用組成物の成形性が優れたものとなり、またこれが100μm以下となることでセパレータAの表面平滑性を向上することができる。成形性を特に向上するためには前記平均粒径が30μm以上であることが好ましく、またセパレータA1の表面平滑性を特に向上して後述するようにセパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が0.4〜1.6μmの範囲、特に1.0μm未満となるようにするためには前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。
【0060】
また、特に薄型のセパレータAを得る場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、成形用組成物中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に成形用組成物を薄型のシート状に成形する際の成形性が低下してしまう。
【0061】
また、黒鉛粒子のアスペクト比が10以下であることが好ましく、この場合、セパレータAに異方性が生じることを防止すると共に反りなどの変形が生じることも防ぐことができる。
【0062】
尚、セパレータAの異方性の低減に関しては、セパレータAにおける成形時の成形用組成物の流動方向と、この流動方向と直交する方向との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
【0063】
また、この黒鉛粒子としては、特に2種以上の粒度分布を有するもの、すなわち平均粒径の異なる2種以上の粒子群を混合したものを用いることも好ましい。この場合、特に平均粒径1〜50μmの範囲の黒鉛粒子と、平均粒径30〜100μmの黒鉛粒子とを混合することが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子を用いると、粒径の大きい粒子は表面積が小さいため、少量の樹脂量でも混練を可能とすることが期待され、更に粒径の小さい粒子によって、黒鉛粒子同士の接触性を高める一方、成形品の強度を高めることが期待され、これにより、セパレータAの密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上を図ることができる。平均粒径1〜50μmの粒子と平均粒径30〜100μmとの粒子の混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
【0064】
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
【0065】
また、成形用組成物中には、必要に応じて硬化触媒、ワックス(離型剤)、カップリング剤等の添加剤を含有させることができる。
【0066】
硬化触媒(硬化促進剤)としては、適宜のものを含有することができるが、組成物中に第一アミン及び第二アミンを含有させないようにするために、非アミン系の化合物を用いることが好ましい。例えば、アミン系のジアミノジフェニルメタンなどは残存物が燃料電池の触媒を被毒する恐れがあり、好ましくない。また、イミダゾール類は硬化後、塩素イオンを放出しやすくなるので不純物溶出の恐れがあり、あまり好ましくない。
【0067】
但し、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱した場合の重量減少が5%以下である、2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールを用いることは、成形用組成物の保存安定性を向上することができる点で好ましい。また、特に薄型のセパレータAを得る場合には、ワニス状に調製された成形用組成物からシート状のセパレータAを形成する際の揮発性、前記セパレータAの平滑性などが良好となる。この置換イミダゾールとして、特に2位の炭化水素基の炭素数が6〜17の置換イミダゾールを使用することが好ましく、その具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−ウンデシルイミダゾール及び2−ヘプタデシルイミダゾールが好適である。これらの化合物は一種単独で用いられ、或いは二種以上が併用される。このような置換イミダゾールの含有量は適宜調整され、それにより成形硬化時間を調整することができる。この置換イミダゾールの含有量は好ましくは成形用組成物中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
【0068】
また、硬化触媒として、好ましくはリン系化合物が用いられる。また、リン系化合物と前記置換イミダゾールとを併用してもよい。リン系化合物の一例としては、トリフェニルホスフィンを挙げることができる。このようなリン系化合物を含有させると、成形品であるセパレータAからの塩素イオンの溶出を抑制することができる。
【0069】
このような硬化触媒の含有量は適宜調整されるが、好ましくはエポキシ樹脂に対して0.5〜3質量部の範囲とする。
【0070】
カップリング剤としては、適宜のものが用いられるが、成形用組成物中に第一アミン及び第二アミンを含有させないようにするために、アミノシランを用いないことが好ましい。アミノシランを用いる場合には、燃料電池の触媒を被毒する恐れがあり好ましくない。また、カップリング剤としてはメルカプトシランも用いないことが好ましい。このメルカプトシランを用いた場合も、同様に燃料電池の触媒を被毒する恐れがある。
【0071】
使用されるカップリング剤の例としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤が挙げられる。例えばシリコン系のカップリング剤としては、エポキシシランが適している。
【0072】
エポキシシランカップリング剤を使用する場合の使用量は、成形用組成物の固形分中の含有量が0.5〜1.5質量%となる範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータAの表面にブリードすることを充分に抑制することができる。
【0073】
カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着させておいてもよい。その場合の添加量は適宜設定されるものであり、黒鉛粒子の比表面積と、カップリング剤の単位質量当たりの被覆面積とを考慮する必要があるが、好ましくは、カップリング剤の被覆面積の総量が、黒鉛粒子の表面積の総量に対して、0.5〜2倍の範囲となるようにする。この範囲において、カップリング剤がセパレータAの表面にブリードすることを充分に抑制して、金型表面の汚染を抑制することができる。
【0074】
また、ワックス(内部離型剤)としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、成形用組成物中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が用いられることが好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。このような内部離型剤は、成形用組成物の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、離型性向上作用が良好に発揮される。
【0075】
また、内部離型剤の含有量はセパレータAの形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどに応じて適宜設定されるが、成形用組成物全量に対して0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましく、この含有量が0.1質量%以上であることで金型成形時に十分な離型性を発揮し、またこの含有量が2.5質量%以下であることでワックスによってセパレータAの親水性が阻害されることが十分に抑制される。このワックスの含有量は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0076】
また、特に薄型のセパレータAを得る場合には、成形用組成物には溶媒を含有させることで、この成形用組成物を液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製してもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒を用いることが好ましい。また溶媒は一種のみを用いるほか、二種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、成形用組成物からシート状のセパレータAを作製する際の成形性を考慮して適宜設定されるが、好ましくは成形用組成物の粘度が1000〜5000cpsの範囲となるように使用量が設定される。尚、溶媒は必要に応じて使用すればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂を使用することなどによって成形用組成物を液状に調製できるならば、溶媒を使用しなくてもよい。
【0077】
また、セパレータA中のイオン性不純物の含有量が、成形用組成物全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下となるようにすることが好ましく、そのためには、成形用組成物は、この成形用組成物中のイオン性不純物の含有量が、成形用組成物全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下となるように調製されることが好ましい。この場合、セパレータAからのイオン性不純物の溶出を抑制することができ、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下を抑制することができる。
【0078】
セパレータA及び成形用組成物のイオン性不純物の含有量を上記のように低減するためには、成形用組成物を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分として、それぞれイオン性不純物の含有量が、各成分に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下である成分を用いることが好ましい。
【0079】
ここで、イオン性不純物の含有量は、対象物の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中に対象物を投入し、90℃で50時間処理したものである。また抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィにて評価されるものである。そして、導出される抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量を、対象物に対する質量比に換算して導出するものである。
【0080】
また、成形用組成物は、この組成物で形成されるセパレータAのTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
【0081】
ここで、TOCは、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中にセパレータAを投入し、90℃で50時間処理した後の水溶液を用いて測定した数値である。このようなTOCは、例えばJIS K0102に準拠して島津製全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定することができる。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生したCO2濃度を非分散型赤外線ガス分析法で測定して、サンプル中の炭素濃度を定量する。炭素濃度を測定することによって、間接的に含有している有機物質濃度を測定でき、サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)を測定し、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)を計測する。
【0082】
上記のTOCが100ppm以下とすることで、燃料電池としての特性低下を更に抑制することができる。
【0083】
TOCの値は、成形用組成物を構成する各成分として高純度のものを選択したり、更に樹脂の当量比を調整したり、成形時に後硬化処理をおこなったりすることで低減することができる。
【0084】
前記のような原料成分を配合して成形用組成物を調製し、この成形用組成物を成形することでセパレータAが得られる。このようにセパレータAを製造するにあたり、原料成分、成形用組成物、及びセパレータAのうち少なくともいずれかから、金属成分を除去する。特に、少なくとも成形用組成物から金属成分を除去することが好ましい。これにより、燃料電池セパレータの金属成分の含有量を低減することができる。
【0085】
成形用組成物の調製にあたっては、この成形用組成物に配合される成分(以下、原料成分という)から予め金属成分を除去することが好ましい。すなわち、黒鉛粒子、樹脂成分、並びに他の原料成分のうち少なくとも一種から、予め金属成分を除去することが好ましい。特に、少なくとも黒鉛粒子から、予め金属成分を除去することが好ましい。この場合、黒鉛粒子から金属成分を予め除去することで、燃料電池セパレータの金属成分の含有量を更に確実に低減することができる。また、樹脂成分にも、その製造過程などにおいて不純物として金属成分が含有されることがある。このため樹脂成分からも予め金属成分を除去することが好ましい。また、黒鉛粒子及び樹脂成分以外の原料成分にも、その製造過程などにおいて不純物として金属成分が含有されることがある。このため黒鉛粒子及び樹脂成分以外の原料成分からも予め金属成分を除去することが好ましい。
【0086】
特に全ての原料成分から予め金属成分を除去することが好ましい。この場合、全ての原料成分から予め金属成分を除去することで、燃料電池セパレータの金属成分の含有量を更に確実に低減することができる。
【0087】
原料成分から予め金属成分を除去する場合、原料成分中のFe、Co、及びNiの総含有量が好ましくは1質量ppm以下、更に好ましくは0.5質量ppm以下となるように、原料成分から金属成分を除去する。更に、原料成分中のCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnの総含有量が好ましくは1質量ppm以下、更に好ましくは0.5質量ppm以下となるように、原料成分から金属成分を除去する。
【0088】
また、原料成分からは、直径35μm以上の金属成分が除去され、更に直径35μm未満の金属成分までもが除去されることが好ましい。
【0089】
原料成分からの金属成分の除去方法の一例として、原料成分中の前記金属成分を磁石を用いて吸引除去する方法が挙げられる。この場合、原料成分から金属成分を充分に除去することができ、特に磁性体の含有量を低減することができる。磁石としては、永久磁石や電磁石等が使用できる。永久磁石の場合は、特に、ネオジウム系希土類磁石及びサマリウムコバルト系希土類磁石から選ばれる少なくとも一種を使用することが好ましい。この場合、前記金属成分を容易に除去できる。前記金属成分を確実に除去するためには、磁石の磁力(磁束密度)が10000ガウス以上であることが好ましく、20000ガウス以上であれば更に好ましく、操作性の観点からは30000ガウス以下であることが好ましい。但し、通常のネオジウム系希土類磁石の磁力(磁束密度)は12000ガウスまで、或いは大きくても14000ガウス程度までであるので、通常のネオジウム系希土類磁石を用いる場合の磁力(磁束密度)は12000ガウス以下、或いは14000ガウス以下となる。金属成分の除去効率の向上のためには前記範囲において、より大きい磁力を有する磁石を用いることが好ましい。
【0090】
原料成分から磁石を用いて金属成分を吸引除去するための装置(以下、吸引除去装置27という)の第一の例としては、図4(a)に示すような、対象物(ここでは原料成分)が通過する通路28の両側に磁石29を配置して構成される装置が挙げられる。前記磁石29は、永久磁石であっても、電磁石であってもよい。各磁石29は、対向面にそれぞれ異なる磁極が配置されるように設けられる。各磁石29は、通路28を介して対向する対向面が凹凸に形成されると共に、各対向面に現れる凸部と凹とがそれぞれ対称的に形成されていることが好ましく、この場合、磁石間に発生する磁場勾配が大きくなる。このような吸引除去装置27における磁石29間の通路28に対象物、或いは対象物を分散させたスラリーを通過させると、この対象物中の金属成分のうち、特に磁性体は、磁石29に吸引されて除去される。この通路28を通過した後の対象物は、適宜の回収容器に回収される。
【0091】
磁性体としては、Fe、Co、Niが挙げられ、また磁性を有する合金も挙げられる。例えば磁性を有するSUS430などのステンレスも除去される。また、SUS304やSUS316は常態では磁性を有さないが、応力がかけられると磁性を有するようになる。例えば、各種装置に使用されるSUS304製やSUS316製のネジなどの部品に、加工時やネジ締め時などに応力がかけられている場合には、その部品を構成するSUS304やSUS316が磁性を有するようになる。このような磁性を有するSUS304やSUS316も、対象物から除去される。
【0092】
また、この第一の例の吸引除去装置27において、磁石29間の通路28に、鉄、コバルト、ニッケル等の磁性体で形成された複数の棒状の吸着体が間隔をあけて配置されていてもよい。吸着体は例えばその長手方向が通路28における対象物の通過方向と直交するように、並列に設けられる。このような吸引除去装置27における磁石29間の通路28に対象物、或いは対象物を分散させたスラリーを通過させると(図中のイ矢印参照)、この対象物中の金属成分のうち、特に磁性体が、吸着体に吸着して除去される。この通路28を通過した後の対象物が回収される。
【0093】
吸引除去装置27の第二の例として、対象物が通過する通路28内に複数の棒状の磁石29を間隔をあけて配列して構成される吸引除去装置27が挙げられる。この棒状の磁石29は例えば格子状に配列するように設けられる。また複数の棒状の磁石29で構成される格子を、前記通路28における対象物の通過方向に沿って二つ又はそれ以上設けるようにしてもよい。また、前記通路28内に設けられた複数の棒状の磁石29が、前記通路28内で、この棒状の磁石29の長手方向に沿った、共通する一つの回転軸を中心に回転可能であってもよい。このような吸引除去装置27における通路28に対象物、或いは対象物を分散させたスラリーを通過させると(図中のイ矢印参照)、この対象物中の金属成分のうち、特に磁性体が、棒状の磁石29に吸着して除去される。この通路28を通過した後の対象物が回収される。
【0094】
吸引除去装置27の第三の例として、対象物を、磁石を備える円筒体30の周面上に落下させながら、前記磁石の吸引力を利用して前記対象物から金属成分を分別する装置が挙げられる。前記円筒体30は、水平方向の回転軸を中心に回転する。
【0095】
前記円筒体30における磁石は適宜の位置に設けられる。例えば円筒体30の内側に、この円筒体30の回転軸方向に長く、且つ円筒体30と同方向に軸回転する磁石を、円筒体30の上部寄り且つこの円筒体30の一方の側部寄り(円筒体30が右回転する場合は右寄り、左回転する場合は左寄り)の位置に設けられる。
【0096】
また前記円筒体30の内側に複数の磁石を、この円筒体30の周面に沿って配列するように設けてもよい。この場合、例えば磁極が円筒体30の径方向に並んだ複数の磁石を間隔をあけて配列する。この磁石は磁極の方向が交互に逆方向になるように配列する。この磁石の間に、磁極が円筒体30の周方向に並んだ複数の磁石を配列する。この磁石も磁極の方向が交互に逆方向に配列する。或いは、円筒形の周面上に複数の磁石を、前記と同様に配列してもよい。
【0097】
この第三の例の吸引除去装置27においては、回転する前記円筒体30の上に対象物を落下させると(図中のイ矢印参照)、この対象物は円筒体30の回転力によって付勢されながら落下する(図中のロ矢印参照)。一方、この対象物のうち金属成分(特に磁性体)を含む成分は、円筒体30の磁石に吸引されて、円筒体30に吸着し、或いは磁石からの吸引力により円筒体30からの落下軌道が変更される(図中のハ矢印参照)。このため、金属成分を含む成分は円筒体30に吸着して除去される。金属成分を含む成分が円筒体30から落下するとしても、金属成分を含まない成分の落下位置とは異なる位置に落下する。これにより対象物が、金属成分を含む成分と、金属成分を含まない成分とに選別される。
【0098】
また、複数の方式の吸引除去装置27を組み合わせたり、同一の方式の吸引除去装置27を多段階に設けたりしてもよい。
【0099】
上記のような吸引除去装置27においては、対象物が通過する経路に、磁石による磁界が強い部分と弱い部分とが生じることがあり、磁界が弱い部分を通過する対象物からは金属成分が除去されにくくなる場合がある。このような場合には、吸引除去装置27に、磁界が弱い部分に通じる経路を遮蔽する遮蔽物を設けることが好ましい。前記遮蔽物としては、例えば磁界が強い部分のみに通じるスリットを備えた部材が挙げられる。
【0100】
このようにして原料成分から金属成分を磁石を用いて吸引除去することにより、原料成分から金属成分、特に磁性体(Fe、Co、Ni等)を除去することができ、原料成分中のFe、Co、及びNiの含有量を特に低減することができる。
【0101】
また、黒鉛粒子から金属成分を除去する方法としては、黒鉛粒子を、pH2以下の強酸性溶液を用いて洗浄する方法が挙げられる。強酸性溶液としては、例えば濃度69質量%の濃硝酸と濃度36質量%の濃塩酸とを体積比で1:3の割合で混合して得られる王水、濃度15質量%以上の塩酸水、濃度15質量%以上の硫酸水、及び濃度15質量%以上の硝酸水から選ばれる少なくとも一種を使用することができる。この場合、黒鉛粒子から前記金属成分を容易に除去できる。前記塩酸水、硫酸水及び硝酸水の濃度は、操作性の観点から30質量%以下であることが好ましい。
【0102】
原料成分からの金属成分の除去方法は前記の方法に限定されない。前記以外の方法としては、例えば黒鉛粒子から金属成分を除去する場合には、この黒鉛粒子を電極として、電解液中で電気分解反応を行うことにより金属成分を電解液中に溶出させて除去する方法が挙げられる。その他適宜の方法が採用されてもよい。
【0103】
成形用組成物は、上記のような各成分を適宜の手法で混合し、必要に応じて混練・造粒等することで調製される。
【0104】
成形用組成物を調製した後、この成形用組成物から金属成分を除去することが好ましい。この場合、成形用組成物を調製する際に金属成分が混入したとしても、この金属成分を成形用組成物から除去することができる。この場合、成形用組成物から金属成分を充分に除去することができ、特に磁性体の含有量を低減することができる。
【0105】
成形用組成物から金属成分を除去する場合、成形用組成物中のFe、Co、及びNiの総含有量が好ましくは1質量ppm以下、更に好ましくは0.5質量ppm以下となるように、成形用組成物から金属成分を除去する。更に、成形用組成物中のCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnの総含有量が好ましくは1質量ppm以下、更に好ましくは0.5質量ppm以下となるように、成形用組成物から金属成分を除去する。
【0106】
また、成形用組成物からは、直径35μm以上の金属成分が除去され、更に直径35μm未満の金属成分までもが除去されることが好ましい。
【0107】
成形用組成物からの金属成分の除去方法としては、原料成分からの金属成分の除去方法と同様に、成形用組成物中の前記金属成分を磁石を用いて吸引除去する方法などが挙げられる。成形用組成物中の金属成分を磁石を用いて吸引除去する場合には、原料成分の場合と同様の吸引除去装置27を用いることができる。
【0108】
原料成分或いは成形用組成物から金属成分を、その含有量が所定の値以下となるまで除去するためには、原料成分或いは成形用組成物から前記例示したような方法で金属成分を除去した後、誘導結合プラズマ(nductively Coupled Plasma:ICP)分析によりこの原料成分或いは成形用組成物の金属成分の含有量を測定し、この測定結果が所定の値以下となるまで、原料成分或いは成形用組成物からの金属成分の除去を繰り返すことが好ましい。
【0109】
この成形用組成物を成形して、成形体1(セパレータA)を得ることができる。成形法としては、射出成形や圧縮成形など、適宜の手法を採用することができる。セパレータAには例えば図1に示すように、両面に複数個の凸部(リブ)1aを形成することで、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2を形成する。
【0110】
尚、セパレータAは、片面のみにガス供給排出用溝2を有するアノード側セパレータと、前記アノード側セパレータとは反対側の片面のみにガス供給排出用溝2を有するカソード側セパレータとで構成されてもよい。このアノード側セパレータとカソード側セパレータとを重ねることで、図1に示すような両面にガス供給排出用溝2を有するセパレータAが構成される。アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間には冷却水が流通する流路が形成されてもよい。この場合、アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間にはガスケットを介在させることが好ましい。
【0111】
また、ワニス状に調製された成形用組成物から薄型のセパレータAを得る場合には、まず成形用組成物をシート状に成形して、燃料電池セパレータ成形用シート(成形用シート)を得る。成形用組成物は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。この際には、複数種の膜厚調節手段を用いることができる。このような複数種の膜厚調節手段を用いるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータを用いることによって実現することができる。キャスティングのための膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくともいずれか、すなわちいずれか一方もしくは両方を用いることが好ましい。この成形用シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。また、この厚みは0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。このように成形用シートの厚みを0.5mm以下とすることで、セパレータ1の薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化を達成することができ、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒を使用する場合の成形用シート内部の溶媒の残存を効果的に抑制することができる。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータAの製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮するとこの厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
【0112】
この成形用シートを、キャスティングにともなう乾燥によって半硬化(Bステージ20)状態とし、これを圧縮・熱硬化成形するなどして、両面に複数個の凸部(リブ)1aを形成すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を形成し、セパレータAを得ることができる。このとき、セパレータAを波板状に形成して、その一面側の凸部1aの裏側に他面側のガス供給排出用溝2が形成されるようにすると、薄型でありながら両面に複数個の凸部(リブ)1aを有すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を有するセパレータAを得ることができる。
【0113】
この成形用シートの圧縮・熱硬化成形時には、まず成形用シートを必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)もしくは打ち抜き、これを金型内において圧縮成形機で熱硬化させる。この圧縮・熱硬化成形の条件は、成形用組成物の組成、導電性基材の種類、成形厚みなどにもよるが、加熱温度を120〜190℃の範囲、圧縮圧力を1〜40MPaの範囲で設定することが好ましい。
【0114】
セパレータAの作製にあたっては、一枚の成形用シートを成形してセパレータAを作製してもよく、また成形用シートを複数枚重ねて成形してセパレータAを作製してもよい。
【0115】
このように成形用シートを成形することで、薄型のセパレータA、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータAを製造することができる。このようにセパレータAの製造時に成形用シートを使用することで、薄型のセパレータAを製造する場合でも成形材料を薄く且つ均一に配置して成形することが容易となり、成形性や厚み精度が高くなる。
【0116】
尚、セパレータAの作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とを積層して成形してもよい。導電性基材を用いると、セパレータAの機械的強度を向上することができる。導電性基材を用いる場合には、導電性基材の両側にそれぞれ成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)を積層した状態で圧縮・熱硬化成形することができ、或いは成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)の両側にそれぞれ導電性基材を積層した状態で圧縮・熱硬化成形することができる。
【0117】
前記導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等を例示することができる。また、これらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。導電性基材の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
【0118】
この成形体1(セパレータA)には、ブラスト処理を施すなどして、表層のスキン層を除去すると共にこのセパレータAの表面粗さを調整することが好ましい。
【0119】
このセパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)は、0.4〜1.6μmの範囲であることが好ましい。この場合、セパレータAとガスケット12との接合部でのガスリークを抑制することもできる。このためウエットブラスト処理時にセパレータAにおけるガスケット12と接合する部位をマスクする必要がなくなり、セパレータAの生産効率が向上する。尚、前記算術平均高さRaを0.4μm未満にすることは困難であり、またこの値が1.6μmより大きいと前記ガスリークを充分に抑制することができなくなるおそれがある。このセパレータAの表面の算術平均高さRaは特に1.2μm以下であることが好ましい。更にこのセパレータAの表面の算術平均高さRaが1.0μm未満であると、前記ガスリークが特に抑制され、セパレータAの薄型化に伴ってセルスタック作製時の締結力を下げたとしても、前記ガスリークを充分に抑制することができるようになる。またセパレータAの表面の算術平均高さRaが0.6μm以上であることも好ましい。
【0120】
また、セパレータAの表面の接触抵抗は15mΩcm以下であることが好ましい。この場合、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達するというセパレータAの機能を高いレベルで維持することができる。
【0121】
前記ブラスト処理時には、成形体1(セパレータA)にウエットブラスト処理を施すと共に、この処理においてアルミナ粒子等の砥粒を含むスラリーから磁石で金属成分を除去することが好ましい。ブラスト処理に用いられる砥粒には不純物として金属成分が混入していることがあり、またブラスト処理時に砥粒を含むスラリーに金属成分が混入することがある。このような金属成分を含むスラリー用いてブラスト処理を施すと、セパレータAの表面に砥粒から金属成分が打ち込まれてしまう。しかし、前記のようにスラリーから磁石で金属成分を除去しながら、この砥粒を用いてウエットブラスト処理を施すと、ブラスト処理時にセパレータAに金属成分が付着することが抑制される。すなわち、ウエットブラスト処理によってスキン層の除去や表面粗さの調整などをおこないつつ、このウエットブラスト処理時に、スラリー中の砥粒に含まれる金属異物などの金属成分がセパレータAへ打ち込まれることを抑制することができる。
【0122】
図5に、当該ウエットブラスト処理に用いられる装置(ウエットブラスト処理装置)の概略構成を示す。このウエットブラスト処理装置は、処理対象である成形体1(セパレータA)が搬送されるステージ20を備える。このステージ20には、処理対象の上方及び下方に、処理対象に向けてスラリー26を噴射するノズル21が設けられている。このスラリー26は、アルミナ粒子等の砥粒を水等の分散媒に分散させることで得られる。ステージ20には、図示はしていないが、前記ノズル21の後段に、水を噴射する噴水ノズルと、温風を噴射する温風ノズルとが順次設けられる。前記ノズル21には、スラリー26を貯留する貯留容器23が、配管24を介して接続されている。配管24には、この配管24を介してスラリーを貯留容器23からノズル21へ圧送するポンプ25が設けられている。必要に応じ、ノズル21へ圧縮空気を供給するエアポンプも設けられる。ステージ20の下方には、処理対象に噴射された後のスラリー26を受けるパン22が設けられている。このパン22の上面は前記貯留容器23よりも上方位置へ向けて下り傾斜しているため、このパン22で受けられたスラリー26は貯留容器23へ返送される。
【0123】
このウエットブラスト処理装置の配管24に、既述のような磁石により金属成分を除去する吸引除去装置27を設ける。すなわち、例えば配管24の途中に既述のような第一、第二或いは第三の例のような吸引除去装置27を設けることで、スラリー26が配管24を流通する際に、このスラリー26から吸引除去装置27によって金属成分が除去されるようにする。
【0124】
このウエットブラスト処理装置を用いて成形体1(セパレータA)にウエットブラスト処理を施す場合、スラリー26が貯留容器23から配管24を通じてノズル21へ供給され、このノズル21からスラリー26が噴射される。尚、ノズル21へスラリー26と共に圧縮空気を供給すると、ノズル21からのスラリー26の噴射圧力が高くなる。ステージ20で搬送される成形体1(セパレータA)に、前記スラリー26がノズル21から噴射されることで、成形体1(セパレータA)にウエットブラスト処理が施される。このスラリー26はパン22を通じて貯留容器23へ返送されて、再利用される。
【0125】
ウエットブラスト処理後の成形体1(セパレータA)は更にステージ20内を移動し、この成形体1(セパレータA)に噴水ノズルからイオン交換水等の温水が噴射されることで洗浄されて砥粒が除去され、更に温風が噴射されることで加熱乾燥される。
【0126】
このウエットブラスト処理において、スラリー26が配管24を通過する際に、砥粒に付着している金属成分が、吸引除去装置27によって取り除かれる。これにより、砥粒から磁石で金属成分を除去しながら、この砥粒を用いてウエットブラスト処理を施すことができる。
【0127】
尚、ウエットブラスト処理装置においては、吸引除去装置27は前記のように配管24に設ける以外に、スラリー26の循環経路の適宜の位置に設けられてもよい。
【0128】
更に、黒鉛粒子からの金属成分の除去方法と同様に、成形体1(セパレータA)から金属成分を磁石を用いて吸引除去してもよい。この場合、例えば成形体1(セパレータA)を一対の磁石の間に配置することで、成形体1(セパレータA)から金属成分を吸引除去することができる。尚、磁石を用いた吸引除去以外の適宜の方法で成形体1(セパレータA)から金属成分を除去してもよい。但し、強酸性溶液を用いて洗浄する方法ではセパレータAを構成する樹脂が溶解してしまうおそれがあり、また超音波洗浄ではセパレータAから黒鉛粒子が脱離してしまうおそれがあるため、好ましくない。
【0129】
以上のようにして得られるセパレータAにおける、金属成分の付着の程度は、このセパレータAを90℃の温水で1時間洗浄した後、90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した後に、このセパレータAの表面を観察することで確認することができる。セパレータAに金属成分が付着していると、前記処理によりセパレータAの表面に金属酸化物(錆)が生成する。前記処理後のセパレータAの表面を目視で観察しても、前記金属酸化物(錆)の存在が確認できないことが好ましい。特に、前記処理後のセパレータAの表面に、直径100μmより大きい金属酸化物が存在しないことが好ましく、直径50μmより大きい金属酸化物が存在しなければ更に好ましい。また、直径30μmより大きい金属酸化物が存在しなければ特に好ましい。
【0130】
また、このセパレータAの表面に表出しているFe、Co、及びNiの総量が0.010μg/cm以下となっていることが好ましい。更に、このセパレータAの表面に表出しているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnの総量が0.01μg/cm以下となっていることが好ましい。
【0131】
以上のようにして製造されるセパレータAを用い、燃料電池を製造することができる。図1は固体高分子型燃料電池の一例を示す。2枚のセパレータA,Aの間に、固体高分子電解質膜などの電解質4とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)などからなる膜−電極複合体(MEA)5を介在させて、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルを数十個〜数百個並設して電池本体(セルスタック)を構成することができる。
【0132】
図2は、ガスケット12を使用して構成される太陽電池の単セルの構造の一例を示す。この単セルは、セパレータA,A、ガスケット12,12、膜−電極複合体5を重ねることで構成されている。セパレータAには、凸部1a及びガス供給排出用溝2が形成されている領域を取り囲む外周部分に、燃料用貫通孔13a,13aと酸化剤用貫通孔13b,13bとが形成されている。燃料用貫通孔13a,13aは二つ形成されており、各燃料用貫通孔13a,13aはセパレータAの燃料電極3aと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。酸化剤用貫通孔13b,13bも二つ形成されており、各酸化剤用貫通孔13b,13bはセパレータAの酸化剤電極3bと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。また、この外周部分には、冷却用貫通孔13cも形成されている。
【0133】
尚、本実施形態では、図2に示されるように、セパレータAにはストレートタイプのガス供給排出用溝2が形成されている。一般に、セパレータAにおけるガス供給排出用溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図2に示されるセパレータAにおいて、このセパレータAにサーペンタインタイプのガス供給排出用溝2を形成してもよい。
【0134】
セパレータAの外周部分に、シーリングのためのガスケット12が積層される。このガスケット12はその略中央部に膜−電極複合体5における燃料電極3aや酸化剤電極3bを収容するための開口15を有し、この開口15においてセパレータAのガス供給排出用溝2が露出する。この開口15の外周側には、前記セパレータの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔14a、酸化剤用貫通孔14b及び冷却用貫通孔14cがそれぞれ形成されている。
【0135】
また、膜−電極複合体5における電解質4の外周部分にも、前記セパレータの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔16a、酸化剤用貫通孔16b及び冷却用貫通孔16cがそれぞれ形成されている。
【0136】
この単セル構造では、セパレータA、ガスケット12、及び電解質4の各燃料用貫通孔13a.14a,16aが連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、各酸化剤用貫通孔13b,14b,16bが連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、各冷却用貫通孔13c,14c,16cが連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
【0137】
このような燃料電池の単セル構造において、燃料電極3aと酸化剤電極3b、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、燃料電極3a及び酸化剤電極3bは例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材に、触媒を担持させて構成される。燃料電極3aにおける触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、酸化剤電極3bにおける触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
【0138】
ガスケット12は、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
【0139】
セパレータAにガスケット12を積層するにあたっては、例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケット12をセパレータAに接着や融着するなどして接合することができる。セパレータAの表面上でガスケット12を形成するための材料を成形することによって、セパレータAにガスケット12を積層することもできる。例えば未加硫のゴム材料をスクリーン印刷等によりセパレータAの表面上の所定位置に塗布し、このゴム材料の塗膜を加硫することで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12を形成することができる。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータAに対してもガスケット12を容易に積層することができる。また、セパレータAを金型内にセットし、このセパレータAの表面上の所定位置に未加硫のゴム材料を射出すると共にこのゴム材料を加熱するなどして加硫することで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12を形成することもできる。このように金型成形によりガスケット12を形成するにあたっては、トランスファー成形のほか、コンプレッション成形、インジェクション成形等が採用され得る。
【0140】
図3は複数の単セルからなる燃料電池C(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池Cは、燃料用流路に連通する燃料の供給口17a及び排出口17bと、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口18a及び排出口18bと、冷却用流路に連通する冷却水の供給口19a及び排出口19bとを有する。
【0141】
このような燃料電池Cでは、セパレータAの製造時に原料成分、成形用組成物、或いはセパレータAから金属成分が除去されているため、セパレータAにおける金属成分の含有量が少ない。また、そのため、セパレータAを水洗するなどしてから燃料電池Cに組み込んでも、セパレータAの表面に金属酸化物(錆)が現れにくい。このため、燃料電池C内でのセパレータAからの金属イオンの脱離が抑制され、このような金属イオンの脱離による電解質4のプロトン伝導性の低下や電解質4の分解が抑制され、燃料電池Cの性能が長期に亘って維持される。
【0142】
以上のとおり、セパレータAにおける金属成分の含有量を充分に且つ確実に低減すると共にセパレータAの表面に金属酸化物(錆)が現れることを抑制することで、燃料電池C内でのセパレータCからの金属イオンの脱離を抑制することができる。この金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下と電解質の分解とを抑制することができる。このため燃料電池Cの性能を長期に亘って維持することができる。
【実施例】
【0143】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0144】
[実施例1〜15、比較例1〜2]
各実施例及び比較例につき、表1に示す原料成分を攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に表1に示す組成となるように入れて攪拌混合し、得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕した。
【0145】
得られた粉砕物を、金型温度185℃、成形圧力35.3MPa、成形時間2分の条件で圧縮成形した。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、セパレータAを取り出した。
【0146】
得られたセパレータAの形状は、200mm×250mm、厚み1.5mmであった。成形体1の一面には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を57本、他面には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を58本形成した。
【0147】
このセパレータAの表面に、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いてブラスト処理を施した後、イオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。ブラスト処理後、セパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を測定した結果を表1に示す。
【0148】
各実施例及び比較例においておこなった金属成分の除去方法及び除去の対象を、表1に示す。方法が示されていない対象には金属成分の除去をおこなっていない。尚、表1に示す原料成分のうち、他の原料成分とは、黒鉛粒子及び樹脂成分を除いた全ての原料成分のことをいう。
【0149】
また、表1に示す金属成分の除去方法は下記のとおりである。
【0150】
(方法1)
ジーエヌエス有限会社製の強磁場式磁性金属異物除去装置(商品名ストマグ)を用い、対象物が通過する通路を挟んで配された20000ガウスの磁力を持つ電磁石で、対象物(原料成分又は成形用材料)から金属成分を吸引して除去した。処理速度は1時間あたり10kgとした。
【0151】
(方法2)
株式会社セイホー製のマグネット・システム/自動クリーニング クリーンフロー マグネット(型式SECC320001)を用い、格子状に二段に配列された12000ガウスの磁力を持つ棒状のネオジウム系希土類磁石をで、対象物(原料成分又は成形用材料)から金属成分を吸引して除去した。処理速度は1時間あたり10kgとした。
【0152】
(方法3)
対象物(黒鉛粒子)を69質量%の濃硝酸と36質量%の濃塩酸とを体積比で1:3に混合した王水で洗浄した。
【0153】
(方法4)
対象物(黒鉛粒子)を15質量%の硝酸水で洗浄して金属成分を除去した。
【0154】
(方法5)
セパレータAのウエットブラスト処理において、ウエットブラスト処理装置におけるスラリーの配管24を挟んで、12000ガウスの磁力を持つネオジウム系希土類磁石を配置し、砥粒から金属成分を吸引して除去した。
【0155】
(方法6)
セパレータAのウエットブラスト処理において、ウエットブラスト処理装置におけるスラリーの配管24を挟んで、20000ガウスの磁力を持つ電磁石を配置し、スラリーから金属成分を吸引して除去した。
【0156】
[金属成分量評価]
最終的に得られたセパレータAを90℃の温水で1時間洗浄した後、90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した後に、このセパレータAの表面を目視で観察した。その結果、セパレータAの表面に金属酸化物(錆)が認められない場合を「良」、認められる場合を「不良」と評価した。
【0157】
また、この処理後のセパレータAを顕微鏡で観察した。各実施例及び比較例につき、それぞれ200枚のセパレータAの両面を観察した。その結果に基づき、200枚のセパレータAにおける、直径が50μmより大きく100μm以下の金属酸化物(錆)の総数、及び直径100μmより大きい金属酸化物(錆)の総数で、金属成分量を評価した。
【0158】
この結果を表1に示す。
【0159】
[燃料電池の起電圧変動評価]
アセチレンブラック粉末に、平均粒径が約3nmの白金粒子を担持した触媒粉末(田中貴金属製、Pt/C標準品)を用意した。なお、この触媒粉末中の白金粒子の含有量は25質量%であった。この触媒粉末をイソプロパノ−ルに分散させた後、この分散溶液と、パーフルオロカーボンスルホン酸の粉末をエタノールに分散させた分散溶液とを混合し、触媒ペーストを調製した。
【0160】
別に、平面視寸法14cm×14cm、厚み360μmのカ−ボン不織布(東レ製、TGP−H−120)を、フッ素樹脂を含む水性ディスパージョン(ダイキン工業製、ネオフロンND1)に含浸した後、これを乾燥し、400℃で30分間加熱して、拡散層となる撥水性のカーボンペーパーを作製した。
【0161】
続いて、このカーボンペーパーの片面上に、上述した触媒ペーストをスクリ−ン印刷法により塗布して触媒層を形成し、触媒層とカーボンペーパーとが積層された電極を一対作製した。触媒層の一部は、カーボンペーパーの中に埋まり込んでいた。なお、触媒層表面に表出した白金粒子及びパーフルオロカーボンスルホン酸の量は、それぞれ0.6mg/cm及び1.2mg/cmであった。
【0162】
高分子電解質膜としてパーフルオロカーボンスルホン酸膜(ジャパンコアテックス製、外寸15cm×15cm、厚み30μm)を別途用意し、この高分子電解質膜の両面上に上述した一対の電極を重ねた。一対の電極はカーボンペーパー(拡散層)が外面側に配置されるようにした。これらをホットプレスで接合し、膜−電極複合体5を得た。
【0163】
各実施例及び比較例で得られたセパレータA(前記金属成分量評価において金属酸化物の付着が認められたセパレータAがある場合にはこの金属酸化物が付着しているセパレータA)上の外周部分にエチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷により塗布した後、加熱加硫することでガスケット12を形成した。上記膜−電極複合体5の両側に前記セパレータAを重ね、財団法人日本自動車研究所標準単セル(電極面積25cm)からなる燃料電池Cを作製した。
【0164】
この燃料電池Cに、外部回路を接続した状態で、燃料ガスとして空気を2.0NL/minの流量で、酸化剤ガスとして水素を0.5NL/minの流量でそれぞれ供給することで、燃料電池Cを1000時間連続的に動作させた。この燃料電池Cの作動時の起電圧(V)の経時的な変動の様子を調査した。その結果を、変動後の起電圧の、初期値に対する百分率((E1/E0)×100(%))の値で表示した。前記E1は変動後の起電圧、E0は初期の起電圧である。
【0165】
【表1】

【0166】
表中の各成分の詳細は次の通りである
〈組成〉
・エポキシ樹脂A:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EOCN−1020−75」、エポキシ当量199、融点75℃)
・エポキシ樹脂B:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製「830CRP」、エポキシ当量171、25℃で液状)
・硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学社製「PSM6200」、OH当量105)
・硬化剤B:多官能フェノール樹脂(明和化成株式会社製「MEH−7500」、OH当量100)
・フェノール樹脂A:レゾール型フェノール樹脂(群栄化学社製「サンプルA」、融点75℃、13C−NMR分析によるオルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学社製「TPP」)
・天然黒鉛(中越黒鉛工業所社製「WR50A」、平均粒径50μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン4ppm、塩化物イオン2ppm)
・人造黒鉛(エスイーシー社製「SGP100」、平均粒径100μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン3ppm、塩化物イオン1ppm)
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
・ワックスA:天然カルナバワックス(大日化学社製「H1−100」、融点83℃)
・ワックスB:モンタン酸ビスアマイド(大日化学社製「J−900」、融点123℃)
【符号の説明】
【0167】
A 燃料電池セパレータ(セパレータ)
C 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と樹脂成分とを含む原料成分を配合して成形用組成物を調製した後、この成形用組成物を成形する工程を含み、
前記成形用組成物を成形する前に、この成形用組成物から金属成分を除去することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記成形用組成物から金属成分を除去する方法が、磁石を用いた吸引除去であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記成形用組成物を調製する前に、予め前記原料成分のうち少なくとも黒鉛粒子から金属成分を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記成形用組成物を調製する前に、予め全ての原料成分から金属成分を除去することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記原料成分から金属成分を除去する方法が、磁石を用いた吸引除去であることを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項6】
黒鉛粒子と樹脂成分とを含む原料成分を配合して成形用組成物を調製した後、この成形用組成物を成形する工程を含み、
前記成形用組成物を調製する前に、予め全ての原料成分から金属成分を除去することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記成形用組成物を成形して成形体を得た後、この成形体にウエットブラスト処理を、このウエットブラスト処理に用いられる砥粒を含むスラリーから金属成分を磁石で除去しながら施すことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記金属成分の除去により、燃料電池セパレータにおける金属成分の量を、この燃料電池セパレータを90℃の温水で1時間洗浄した後、90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した場合に、この燃料電池セパレータの表面に直径100μmより大きい金属酸化物が存在しなくなる程度とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法で製造された燃料電池セパレータを備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−154972(P2011−154972A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17197(P2010−17197)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】