説明

燃料電池セパレータ及びその製造方法

【課題】抄紙シートを用いた予備成形体のプレス成形により、導電性と成形加工性とに優れる燃料電池セパレータを、曲げ強度、導電性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるようにする
【解決手段】板状に形成された予備成形体14を、成形型15を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータにおいて、予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる抄紙シートにPP樹脂16を含浸させて形成される混合層17が介装されて成るプリプレグpを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータ、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータとは、MEA(膜・電極接合体)を適切に燃料電池セル(燃料電池セパレータの間にMEAを挟み込んだ単位体)内に保持するとともに前記電気化学反応に必要な燃料(水素)及び空気(酸素)を供給する役割、さらには燃料電池として機能するための電気化学反応により得られた電子を損失なく集電する役割等を担っている。これらの役割を担うために燃料電池セパレータには、1.機械的強度、2.可撓性、3.導電性、4.成形加工性、5.ガス不透過性という特性が要求される。
【0003】
従来、この種の燃料電池セパレータの材料としては、耐食性に優れたものとする点から黒鉛を主原料とするものが一般的であり、開発の初期段階では、焼結カーボンを切削することによって燃料電池セパレータを製作していた。しかしながら、コスト的な問題から近年ではフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と黒鉛とのコンパウンドを成形材料として作成し、そのコンパウンドを圧縮成形することによって燃料電池セパレータとする手段が採られていた。成形材料のコンパウンドは、通常、粉末の状態で供給されるので、一旦樹脂の反応しない低温で予備成形体を作成する一次成形を行ってから、二次成形であるプレス成形型に送られるようになる。このように、一次成形によって一旦予備成形体を作ってから二次成形を行うことで、前記成形加工性に優れる燃料電池セパレータやその製造方法としては特許文献1において開示されたものが知られている。
【0004】
一方、燃料電池セパレータの主原料である黒鉛として膨張黒鉛を用いるものがあり、例えば特許文献2において開示されたものが知られている。膨張黒鉛を用いた燃料電池セパレータでは、膨張黒鉛が本来有する耐熱性、耐食性、電気特性(導電性)、熱伝導特性等を有効に利用して所定の電池性能を発揮させることができる手段として望ましいものである。つまり、前記導電性に優れるものとすることができる。そして、数百枚〜千枚といった多量のセパレータを用いる自動車用等として求められる軽量でコンパクトな燃料電池とするには、セパレータ単体での厚さを、必要な機能を損なうことなく極力薄くすることが必要になる。
【0005】
しかしながら、膨張黒鉛を主原料とする従来の燃料電池セパレータでは、薄くすると割れ易くなるとともに、ガスを透過し易くなるので、前述の機械的強度、ガス不透過性の各点で難点がある。また、カーボン材料(黒鉛)は脆性材料であって、やはり薄くすると割れ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−216756号公報
【特許文献2】特開2000−231926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、板状に形成された予備成形体14を、成形型15を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータにおいて、
前記予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる抄紙シートに合成樹脂16を含浸させて形成される混合層17が介装されて成るプリプレグpを有して構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記混合層17が、前記第1シート14Aの一対の間に前記合成樹脂16が介装された状態で加熱及び厚さ方向への加圧により前記合成樹脂16が各前記抄紙シート14A,14Aに含浸することで形成されるものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記合成樹脂16の全部又はほぼ全部が各前記抄紙シート14A,14Aに含浸されて前記混合層17が構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記混合層17の厚みの前記プリプレグpの厚みに対する割合が10〜40%に設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、予備成形体が、抄紙シートに合成樹脂を含浸させて形成される混合層が抄造による第1シートの一対の間に介装されるプリプレグを有するので、機械的、電気的特性に優れ、薄肉で、かつ、固有抵抗等の特性のばらつきが少なく、大量生産が容易で製造コストも有利となる。従って、熱可塑性樹脂が配合されることによる一般的な作用、効果に加えて、抄造された抄紙シートの隙間に合成樹脂が入り込んで隙間を埋めるようになり、ガス不透過性が明確に向上する。そして、可撓性も良好になり、成型加工性にも優れるようになる。
【0013】
その結果、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、導電性を良好なものとしながらガス不透過性を改善することができ、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となる燃料電池用セパレータを提供することができる。そして、添加される樹脂が熱可塑性のものであるから、容易に再利用が可能であって、優れたリサイクル性を有する利点もある。
【0014】
請求項2の発明によれば、混合層を形成するための抄紙シートを、混合層の両側に配置される第1シート(抄紙)を兼用させる手段である。即ち、一対の第1シートと混合層とを一体化すべくプレスにより、その一体化に加えて混合層自体の生成が同時に行われることによって予備成形体が一挙に形成されるという生産効率に優れる合理的なものである。従って、請求項1の発明による燃料電池セパレータを効率良く廉価に構成できる利点が得られる。
【0015】
請求項3の発明によれば、一対の第1シート間には混合層のみ又はほぼ混合層のみが介装される状態の燃料電池セパレータに構成されているから、次のような効果がある。即ち、非導電性である合成樹脂(合成樹脂層)が残ると電気特性の低下を招く影響が出るが、全て又はほぼ全てが混合層であることにより、導電性の低下が無い又はほぼ無いもとなってより良好な電気特性を得ることができる。
【0016】
請求項4の発明は、混合層の厚みのプリプレグの厚みに対する割合が10〜40%に設定するものであり、それによってガス透過性、導電性、曲げ強度の各項目が改善されて目標値(実施形態の項にて説明する)を満たすことができる優れた燃料電池セパレータとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】固体高分子電解質型燃料電池のスタック構造を示す分解斜視図
【図2】固体高分子電解質型燃料電池のセパレータを示す正面図
【図3】単セルの構成を示す要部の拡大断面図
【図4】別構造によるセルの構成を示す要部の拡大断面図
【図5】概略のセパレータ製造方法を示し、(a)は抄造工程を示す作用図、(b)は一体化工程以後の工程を示すブロック図
【図6】実施例1〜4、比較例1,2、従来例の各セパレータの特性表を示す図表
【図7】予備成形体の断面構造を示し、(a)は実施例 、(b)は比較例
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明による燃料電池セパレータ及び燃料電池セパレータの製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0019】
最初に、本発明のセパレータを備えた固体高分子電解質型燃料電池の構成及び動作について、図1〜図3を参照して簡単に説明する。固体高分子電解質型燃料電池Eは、例えばフッ素系樹脂より形成されたイオン交換膜である電解質膜1と、炭素繊維糸で織成したカーボンクロスやカーボンペーパー或いはカーボンフェルトにより形成され、上記電解質膜1を両側から挟みサンドイッチ構造をなすガス拡散電極となるアノード2及びカソード3と、そのサンドイッチ構造をさらに両側から挟むセパレータ4,4とから構成される単セル5の複数組を積層し、その両端に図示省略した集電板を配置したスタック構造に構成されている。電解質膜1、アノード2、カソード3でMEAが構成される。
【0020】
両セパレータ4は、図2に示すように、その周辺部に、水素を含有する燃料ガス孔6,7と酸素を含有する酸化ガス孔8,9と冷却水孔10とが形成されており、前記単セル5の複数組を積層した時、各セパレータ4の各孔6,7、8,9、10がそれぞれ燃料電池E内部をその長手方向に貫通して燃料ガス供給マニホールド、燃料ガス排出マニホールド、酸化ガス供給マニホールド、酸化ガス排出マニホールド、冷却水路を形成するようになされている。各セパレータ4は、基本の断面形状が角波型となるように表裏に凸条(リブ)11が形成されており、アノード2と各凸条11とが当接することによる燃料ガス流路12、及びカソード3と各凸条11とが当接することによる酸化ガス流路13が形成されている。また、電解質膜1の存在側を内とした場合において、各セパレータ4,4における外向き凸条11の裏側(内側)部分が隣合わされることにより、独立した冷却水通路10に形成することができる。
【0021】
前記構成の固体高分子電解質型燃料電池Eにおいては、外部に設けられた燃料ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された水素を含有する燃料ガスが上記燃料ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の燃料ガス流路12に供給されて各単セル5のアノード2側において電気化学反応を呈し、その反応後の燃料ガスは各単セル5の燃料ガス流路12から燃料ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。同時に、外部に設けられた酸化ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された酸素を含有する酸化ガス(空気)が上記酸化ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の酸化ガス流路13に供給されて各単セル5のカソード3側において電気化学反応を呈し、その反応後の酸化ガスは各単セル5の酸化ガス流路13から上記酸化ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。
【0022】
前述の電気化学反応に伴い、燃料電池E全体としての電気化学反応が進行して、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することで、所定の電池性能が発揮される。なお、この燃料電池Eは、電解質膜1の性質から約80〜100℃の温度範囲で運転されるために発熱を伴う。そこで、燃料電池Eの運転中は、外部に設けられた冷却水供給装置から燃料電池Eに対して冷却水を供給し、これを前記冷却水路に循環させることによって、燃料電池E内部の温度上昇を抑制している。
【0023】
尚、セルの構造としては、図4に示す構造のものでも良い。即ち、図4のセルは、各セパレータ4を、その表面が縦横に点状のリブ(所定形状のリブ)11の多数が均等間隔毎に並べられて成るものとして、それらリブ11とアノード2の表面との間に縦横の燃料ガス流路12が形成されるとともに、リブ11とカソード3の表面との間に縦横の酸化ガス流路13が形成される構造のものに構成してある。
【0024】
次に、セパレータ4についてその作り方(製造方法)の例も交えて説明する。セパレータ4は、図3,図5(a),(b)に示すように、板状に形成された予備成形体14を、成形型15を用いてプレス成形することによって作成されるものである。予備成形体14は、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる抄紙シートに合成樹脂16を含浸させて形成される混合層17(図1,2も参照)が介装されて成るプリプレグpを有して構成されている。
【0025】
セパレータ4の製造方法は、図5に示すように、セパレータの大きさに近似した板状の予備成形体14を作成する一次成形工程S1と、その予備成形体14を成形金型20で加圧して最終形状のセパレータ4を形成する二次成形工程S2とから成る。ここで、セパレータ4の目標とする特性は、厚さ0.15mm以下において、固有抵抗が5mΩ・cm以下、ガス透過性(ガス透過係数)が2×10−9mol・m/m・s・MPa以下、曲げ強度(曲げ強さ)が35MPa以上である。
【0026】
一次成形工程S1は、図5に示すように、抄造工程aと一体化工程bとを有している。まず、抄造工程aは、図5(a)に示すように、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって抄紙シートである第1シート14Aを作成する工程であり、主原料である膨張黒鉛(導電材)と繊維質充填材と(その他配合材もある)を所定の配合比率で有する原料を用いて抄造し、それによって予備成形体14用の第1シート14Aを形成する。抄造の本来の意味は「紙の原料をすいて紙を作ること」であるが、ここで言う抄造は『抄紙シート用の上記材料をすいて抄紙シートを作ること』である。
【0027】
一体化工程bは、図5(b)に示すように、抄造工程aによって作成された一対の第1シート14A,14Aの間にPP樹脂による第2シート(合成樹脂シート)16を介装して積層体sとする積層工程cと、その積層体sを所定時間に亘って加熱及び加圧して予備成形体14を作成するプレス工程dとを有している。プレス工程dにおいては、温度、圧力、時間等の緒元が適宜の範囲に設定された状態で積層体sをプレスする。
【0028】
これにより、第2シート16が、即ちPP樹脂が各第1シート14A,14Aにそれらの第2シート側から含浸されて行き、結果として図5(b)や図7(a)に示すように、第1シート(抄紙シート)14A、混合層17、第2シート(PP樹脂シート)16、混合層17、第1シート(抄紙シート)14Aとを有して成るプリプレグpとしての予備成形体14が作成される。ここでは、第2シート16とその両側に形成される混合層17,17とで中間層14Bが形成されている。そして、混合層17の厚みのプリプレグpの厚みに対する割合は10〜30%に設定されている。
【0029】
つまり、予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる抄紙シートにPP樹脂を含浸させて形成される混合層17が介装されて成るプリプレグpを有して構成されている。そして、混合層17が、第1シート14Aの一対の間にPP樹脂16が介装された状態で加熱及び厚さ方向への加圧によりPP樹脂16が各抄紙シート14Aに含浸することで形成されているのである。
【0030】
PP樹脂(PP樹脂フィルム層)16からその両側の第1シート14A,14AにPP樹脂が流れ込み、予備成形体14としての断面を見た場合、抄紙14A+混合層(抄紙+PP樹脂)16+抄紙14Aという構造を有している〔図7(a)参照〕。そして、PP樹脂(合成樹脂)には導電性を有する材料が含有されていることが望ましい。導電性材料としては、黒鉛(天然黒鉛、膨張黒鉛、人造黒鉛)その他がある。
【0031】
二次成形工程S2は、図5に示すように、一次成形工程S1で作成され、かつ、適宜の長さに切断された3層構造の予備成形体14を、例えば、上金型15aと下金型15bから成り、かつ、熱せられた状態の成形金型15を用いてのプレスによって加圧することにより、所定の最終形状を呈するセパレータ4を作成する工程である。つまり、第1シート14Aの一対の間に混合層17を有する中間層14Bが介装されて成る積層体s(プリプレグp)を成形型15で加熱加圧することにより、表面に所定の凹凸が施される熱プレス工程jを有している。次に、作り方やその実施例等について説明する。
【0032】
〔実施例1〕
まず、実施例1のセパレータ4を得るべく一次成形工程S1における抄造工程aに関しては、次のようである。炭素繊維5%、アクリル繊維15%、PET繊維5%を配合して成る繊維質充填材を、家庭用ミキサーを用いて離解し、所定のパルプ濃度(例:1%)に調整する。調整後のパルプスラリーに、例えば40μmの膨張黒鉛を75%添加し、さらに水を追加して固形分濃度0.1%に再調整してから、若干のその他の配合材[硫酸バンド、歩留り向上材〔ハイモロックNR11−LH(商品名)〕]を添加して抄紙用原料として抄造(図5参照)し、シート状体の第1シート14Aを得る。
【0033】
上記の作り方により、坪量100g/mの第1シート14Aを作成(この段階で、標準角型シートマシンを用いての加工により25cm角シート形状にすること可能)し、その第1シート14Aの2枚の間に、厚み10μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。その積層体sを160〜230℃の金型を用いて圧力50〜500kgf/cmで圧着を行ってプリプレグpを作成する。次に、作成したプリプレグpを樹脂溶融温度に設定した金型を用いて加熱溶融させた後、加圧冷却を行ってから金型より取り出す、というものである。
【0034】
〔実施例2〕
実施例2のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、その同じ作り方で作成された坪量100g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み25μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。それ以後の作り方も実施例1の場合と同じである。
【0035】
〔実施例3〕
実施例3のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、その同じ作り方で作成された坪量105g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み40μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。それ以後の作り方も実施例1の場合と同じである。
【0036】
〔実施例4〕
実施例4のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、その同じ作り方で作成された坪量100g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み50μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。それ以後の作り方も実施例1の場合と同じである。
【0037】
〔比較例1〕
比較例1のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、その同じ作り方で作成された坪量105g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み5μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。それ以後の作り方も実施例1の場合と同じである。
【0038】
〔比較例2〕
比較例2のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、その同じ作り方で作成された坪量105g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み55μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。それ以後の作り方も実施例1の場合と同じである。
【0039】
〔従来例〕
従来例のセパレータ4は、第1シート14Aの作り方は実施例1のものと同じであり、坪量105g/mの第1シート14Aの2枚の間に、厚み25μmに加工されたPP樹脂フィルム(シート)16を挟み込んで積層体sとする。二次成形工程S2においては、前記積層体sを用いての一次成形工程S1で成る予備成形体14を、樹脂が溶ける温度範囲にて加熱加圧成形してセパレータ4を得る。
【0040】
実施例1〜4、比較例1,2、及び従来例による7種のセパレータ4についての材料データ及び曲げ強度、電気特性(固有抵抗)、ガス透過性等の各測定値を図6の特性表に示す。実施例1〜4のセパレータ4は、「固有抵抗が5mΩ・cm以下、ガス透過係数が2×10−9mol・m/m・s・MPa以下、曲げ強度が35MPa以上」という目標値をいずれもクリアしている。尚、図6における「厚み割合」とは混合層17の厚みのプリプレグpの厚みに対する割合のことである。比較例1のセパレータは、曲げ強度とガス透過性とがNGであり、比較例2のセパレータは固有抵抗がNGである。従来例のセパレータも固有抵抗がNGである。混合層17のプリプレグの厚みに対する割合が10〜40%以外である比較例1,2のセパレータはやはり目標値を満足できない。厚み割合は許容範囲内である従来例のセパレータでも、成形条件が異なることから目標値を満足できていない。
【0041】
図7(a)に実施例1〜4によるセパレータ4における予備成形体14の断面写真を、そして、図7(b)に従来例によるセパレータ4における予備成形体14の断面写真を夫々示す。実施例のものでは、PP樹脂の大部分が各抄紙シートに含浸されて、元のPP樹脂フィルムの状態である第2シート16の部分が極めて薄い層でしか存在していないことが理解できる。つまり、中間層14Bの殆どが混合層17で形成されている。これに対して 従来例のものでは、中間層14Bにおける元のPP樹脂シートである第2シート16の部分が厚く残っており、各樹脂シート14Aへの含浸、即ち混合層17が薄い(少ない)ことが見て取れる。
【0042】
本発明による燃料電池セパレータ4においては、導電性(固有抵抗)、機械的強度(曲げ強度)については抄紙シート(第1シート14A)による優れた性能が発揮されており、ガス透過性については、厚み方向で中央部のPP樹脂フィルム16がシールド性を付与するものと考えられる。抄紙シート、PP樹脂フィルムの構造、即ちプリプレグpを有することにより、予備成形体14の表面にはPP樹脂が存在していないため、導電性が良好となる。PP等の熱可塑性樹脂フィルムに導電性材料である黒鉛粉末などを添加すれば、層間の導電性が向上してより一層の効果が得られる。また、第1シート14AとPP樹脂シート16とは共にシート材料であるから量産化が可能(量産化に好適)であり、低コストなセパレータとして提供することができる。
【0043】
抄紙を主原料とし、抄紙と合成樹脂との積層体構造(プリプレグp)を有することで、従来において問題であったガス不透過性、導電性、機械的強度の3項目に優れるものとなり、自動車などに適した軽量でコンパクトな燃料電池セパレータを実現できている。
【0044】
〔別実施例〕
上記の実施形態では、一対の第1シート14A,14Aと合成樹脂シート16とのプレスによる一体化工程dによって樹脂含浸も同時に行われて混合層17(中間層14B)が形成されるという手段であるが、予め抄紙シートの厚さ方向の両端部又は全部にPP等の合成樹脂が含浸されて成る混合層17を有する中間層14B、又は混合層17のみによる中間層14Bによる中間シートを予め作成しておき、その中間シートを一対の第1シート14A,14A間に介装させた積層体sをプレスしてプリプレグp(予備成形体14)とする構造の燃料電池セパレータ4でも良い。中間層14Bは、混合層17とPP樹脂(合成樹脂)16とで成る場合も混合層17のみで成る場合もある。
【0045】
合成樹脂としては、PPの他、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)、PET、PPS、LCP、PAなどの熱可塑性樹脂や、Ph、EPなどの熱硬化性樹脂を用いても良い。また、第1シート14Aの3層と混合層17の2層とを交互に積層しての5層構造の積層体sを加熱加圧して成るもの、即ちプリプレグpに混合層17と第1シート14Aとが追加積層される構造のセパレータでも良い。また、7層以上の構造による燃料電池セパレータも可能である。
【符号の説明】
【0046】
14 予備成形体
14A 第1シート
15 成形型
16 合成樹脂
17 混合層
S2 二次成形工程
p プリプレグ
s 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータであって、
前記予備成形体が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シートの一対の間に、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる抄紙シートに合成樹脂を含浸させて形成される混合層が介装されて成るプリプレグを有して構成されている燃料電池セパレータ。
【請求項2】
前記混合層が、前記第1シートの一対の間に前記合成樹脂が介装された状態で加熱及び厚さ方向への加圧により前記合成樹脂が各前記抄紙シートに含浸することで形成されるものである請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項3】
前記混合層には、前記合成樹脂の全部又はほぼ全部が各前記抄紙シートに含浸されて前記混合層が構成されている請求項2に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項4】
前記混合層の厚みの前記プリプレグの厚みに対する割合が10〜40%に設定されている請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−222329(P2011−222329A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90883(P2010−90883)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】