説明

燃料電池モジュールの製造方法

【課題】 電極部材とセパレータとがソリッドゴムにより一体化されている燃料電池モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】 燃料電池モジュールMの製造方法は、接着性を有するソリッドゴム4の架橋前組成物4a、4bを、予め所定の形状に成形する予備成形工程と、成形型5内に、電極部材2とセパレータ3とをセパレータ3が少なくとも一方の多孔質層21a、21bと接するように積層し、予備成形した架橋前組成物4a、4bを電極部材2の周縁部を被覆すると共にセパレータ3と接触するように配置する部材配置工程と、成形型5を加圧および加熱して、架橋前組成物4a、4bを電極部材2の多孔質層21a、21bに含浸させながら架橋させ、電極部材2とセパレータ3とをソリッドゴム4により一体化する一体化工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極部材とセパレータとが一体化された燃料電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの電気化学反応により電気を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。このため、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)等をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚さ方向両面に配置された一対の電極触媒層(燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層)と、からなる。一対の電極触媒層の表面には、さらにガス拡散層が配置されている。燃料極側には水素や炭化水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
セル積層体の周縁部には、ガスや水等の流路となるマニホールドが形成されている。各々の電極に供給されるガスが混合すると、発電効率が低下する等の問題が生じる。また、電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有する。このため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合や漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するために、MEAやマニホールドの周縁部にはシール部材が配置されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−188834号公報
【特許文献2】特開2007−149472号公報
【特許文献3】特開2007−66766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に開示されているように、MEAおよびガス拡散層等からなる電極部材の周縁部に液状ゴムを流し込んで射出成形し、電極部材とシール部材とを一体化させたガスケット構造体が知られている。
【0007】
しかしながら、これら従来のガスケット構造体には以下の三つの問題がある。第一に、シール部材の機械的強度が低い。従来のガスケット構造体では、シール部材としてシリコーンゴム等の液状ゴムを使用する。液状ゴムは低分子量のものが多い。このため、架橋後の引張り強さが小さい。また、伸びも小さいため、水分等による電解質膜の伸縮に追従しにくい。また、シリコーンゴムは接着性および耐酸性が充分ではないため、シール性や耐久性が問題となる。
【0008】
第二に、液状ゴムを使用した場合には、成形時に液状ゴムが多孔質層へ含浸し過ぎないよう、特別な処理が必要になる。すなわち、電極部材の周縁部に液状ゴムを流し込んで成形する場合、液状ゴムはガス拡散層等の多孔質層へ含浸する。この場合、液状ゴムの含浸量を制御することは難しい。このため、液状ゴムが含浸し過ぎた部位では、ガスの流れが阻害され、その分だけ発電性能が低下してしまう。液状ゴムの含浸量を調整するため、例えば上記特許文献1では、多孔質層の一部の気孔率を、予め目詰め等により小さくしている。また、上記特許文献2では、多孔質層の一部を圧縮して緻密化している。
【0009】
第三に、射出成形の際、液状ゴムの射出圧により電解質膜が変形するおそれがある。電解質膜は、薄い高分子膜である。このため、射出成形時に液状ゴムの流れに押されて電解質膜が偏るおそれがある。電解質膜が変形すると、所望の発電性能を得にくくなる。
【0010】
また、固体高分子型燃料電池は、上述したように、MEA、ガス拡散層等が積層された電極部材を、セパレータを介して多数積層して構成されている。各々の部材の位置決めに加え、所定位置に各々の部材を維持しながらの積層作業は難しい。このため、組み立て作業に非常に手間がかかり、生産性が悪い。例えば、上記特許文献1〜3に開示されたガスケット構造体によると、電極部材が一体化されているため、その分だけ積層しやすくなる。しかし、ガスケット構造体とセパレータとは別体であるため、位置決め等の困難性による上記問題は解消されていない。よって、さらなる組み立て作業の効率化が要求されている。また、各セルにおいて不具合が生じていないかどうか、点検が必要な場合もある。しかし、現状では、組み立てられた固体高分子型燃料電池を分解して点検、修理することは難しい。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電極部材とセパレータとがシール性の高いソリッドゴムにより一体化されている燃料電池モジュールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の第一の燃料電池モジュールの製造方法は、接着性を有するソリッドゴムの架橋前組成物を、予め所定の形状に成形する予備成形工程と、成形型内に、電解質膜と、該電解質膜の厚さ方向両面に配置されている一対の電極触媒層と、からなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の厚さ方向両面に配置されている一対の多孔質層と、を有する電極部材と、セパレータと、を該セパレータが少なくとも一方の該多孔質層と接するように積層し、予備成形した該架橋前組成物を該電極部材の周縁部を被覆すると共に該セパレータと接触するように配置する部材配置工程と、該成形型を加圧および加熱して、該架橋前組成物を該電極部材の該多孔質層に含浸させながら架橋させ、該電極部材と該セパレータとを該ソリッドゴムにより一体化する一体化工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の第一の製造方法では、液状ゴムではなくソリッドゴムを使用する。「ソリッドゴム」は、「液状ゴム」に対する表現であり、常温で固体であって混練可能なゴムを意味する。本発明の第一の製造方法によると、予備成形したソリッドゴムの架橋前組成物を、電極部材とセパレータと共に成形型内に配置して、一体成形することにより、燃料電池モジュールを簡単に製造することができる。また、ソリッドゴムは、接着性を有している。このため、別途接着剤を使用することなく、ソリッドゴムにより、電極部材とセパレータとを強固に接着することができる。
【0014】
部材配置工程では、予備成形した架橋前組成物を基準として、電極部材の位置決めを容易に行うことができる。また、成形型のキャビティに対する架橋前組成物の余剰分により、一体化後におけるソリッドゴムの含浸量を調整することができる。このため、過度の含浸を抑制するための特別な処置は必要ない。また、液状ゴムを使用しないため、液状ゴムの射出圧により電解質膜が変形するおそれもない。さらに、液状ゴムと比較して、架橋後のソリッドゴムの引張り強さ、伸びは大きい。このように、本発明の第一の製造方法によると、液状ゴムを使用することによる上記三つの問題は解消される。
【0015】
一体化工程において、電極部材の周縁部はソリッドゴムによりシールされる。ソリッドゴムは、接着性を有すると共に、多孔質層の端部に含浸している。このため、電極部材の周縁部におけるシール性は高い。また、ソリッドゴムの引張り強さ、伸びは大きい。このように、本発明の第一の製造方法によると、シール部位の耐久性が高い燃料電池モジュールを製造することができる。
【0016】
本発明の第一の製造方法により製造された燃料電池モジュールは、電極部材とセパレータとがソリッドゴムにより一体化されてなる。このため、主に燃料電池モジュールを積層させるだけで、燃料電池を容易に組み立てることができる。よって、燃料電池の生産性が向上する。また、必要に応じて、モジュールごとに取り出して点検、修理が可能である。また、モジュールに不具合が生じた場合には、そのモジュールだけを差し替えることも容易である。
【0017】
(2)また、本発明の第二の燃料電池モジュールの製造方法は、接着性を有するソリッドゴムの架橋前組成物を、予め所定の形状に成形する第一予備成形工程と、予備成形型内に、電解質膜と、該電解質膜の厚さ方向両面に配置されている一対の電極触媒層と、からなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の厚さ方向両面に配置されている一対の多孔質層と、を有する電極部材と、予備成形した該架橋前組成物と、を該電極部材の周縁部を該架橋前組成物で被覆するように配置して、該予備成形型を加圧しながら該架橋前組成物が架橋しない温度下に維持することにより、該電極部材の周縁部に該架橋前組成物が予備的に一体化した予備成形体を得る第二予備成形工程と、成形型内に、該予備成形体とセパレータとを、該セパレータが該電極部材の少なくとも一方の該多孔質層と該架橋前組成物とに接するように積層して配置して、該成形型を加圧および加熱して、該架橋前組成物を該電極部材の該多孔質層に含浸させながら架橋させ、該電極部材と該セパレータとを該ソリッドゴムにより一体化する一体化工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の第二の製造方法は、ソリッドゴムを使用する点において、上記本発明の第一の製造方法と同様の作用効果を奏する。すなわち、電極部材の周縁部に架橋前組成物を予備的に一体化した予備成形体と、セパレータと、を成形型内に積層配置して一体成形することにより、燃料電池モジュールを簡単に製造することができる。また、予備成形型、成形型の各々のキャビティに対する架橋前組成物の余剰分により、一体化後におけるソリッドゴムの含浸量を調整することができる。このため、過度の含浸を抑制するための特別な処置は必要ない。
【0019】
さらに、本発明の第二の製造方法によると、第二予備成形工程において、予め、電極部材の周縁部に架橋前組成物を予備的に一体化した予備成形体を製造しておく。このため、続く一体化工程において、複数の部材を積層した電極部材と、セパレータと、予備成形した架橋前組成物と、を個々に配置する場合と比較して、各部材の位置決めをより容易に行うことができる。
【0020】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記ソリッドゴムの架橋前組成物は、以下の(A)〜(D)を含む構成とするとよい。(A)エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる一種以上のゴム成分。(B)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤。(C)架橋助剤。(D)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、シランカップリング剤と、の少なくとも一方からなる接着成分。
【0021】
上記(A)〜(D)を含む架橋前組成物を架橋させたゴムは、気体透過性が小さい。このため、本構成によると、ソリッドゴムのシール性をより高くすることができる。また、本構成では、架橋剤として、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いる(上記(B))。ここで「半減期」とは、有機過酸化物の濃度が初期値の半分になるまでの時間である。よって、「半減期温度」は、有機過酸化物の分解温度を示す指標となる。上記「1時間半減期温度」は、半減期が1時間となる温度である。つまり、1時間半減期温度が低いほど、低温で分解しやすい。1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いることにより、架橋をより低温(具体的には130℃以下)で、かつ短時間で行うことができる。このため、成形時(架橋時)の加熱による電解質膜の劣化を抑制することができる。また、上記(B)の架橋剤は、不純物、汚れ等により硬化不良をおこしにくい。このため、作業時に周囲の環境の影響を受けにくく、取扱いが容易である。
【0022】
また、上記(D)の接着成分としてレゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物を含む場合には、メラミン系化合物がメチレン供与体となり、レゾルシノール系化合物がメチレン授与体となる。架橋時に、メチレン基の供与により、レゾルシノール系化合物と、ゴム成分および相手部材と、の間に化学結合が形成されて、ゴム成分と相手部材とが接着される。また、接着成分としてシランカップリング剤を含む場合には、シランカップリング剤を介して、ゴム成分と相手部材との間に化学結合が形成されて、両者が接着される。これら接着成分による接着力は高く、燃料電池の作動環境においても、接着力は低下しにくい。したがって、燃料電池を長期間作動させた場合でも、良好なシール性を確保することができる。つまり、燃料電池の作動信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一実施形態の燃料電池モジュールの製造方法により製造された燃料電池モジュールを備える固体高分子型燃料電池の斜視図である。
【図2】同燃料電池モジュールの斜視図である。
【図3】同燃料電池モジュールの分解斜視図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【図5】成形型の型開き状態における断面図である。
【図6】図5の点線円VIの拡大図である。
【図7】成形型の型締め状態における断面図である。
【図8】図7の点線円VIIIの拡大図である。
【図9】本発明の第二実施形態における予備成形型の型開き状態における断面図である。
【図10】予備成形体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の燃料電池モジュールの製造方法の実施形態について説明する。
【0025】
<第一実施形態>
[固体高分子型燃料電池の構成]
まず、本実施形態の燃料電池モジュールの製造方法により製造された燃料電池モジュール(以下、適宜「モジュール」と称す)を備える固体高分子型燃料電池の構成について説明する。図1に、固体高分子型燃料電池の斜視図を示す。図1に示すように、固体高分子型燃料電池9は、モジュールMが多数積層されて構成されている。モジュールMの積層方向両端にはエンドプレート93、94が配置されている。エンドプレート93、94は、ステンレス鋼製であって矩形板状を呈している。エンドプレート93には、四辺に沿って、空気(酸化剤ガス)を供給する空気供給孔90a、空気を排出する空気排出孔90b、水素(燃料ガス)を供給する水素供給孔91a、水素を排出する水素排出孔91b、冷却水を供給する冷却水供給孔92a、冷却水を排出する冷却水排出孔92b、が形成されている。各々の孔90a、90b、91a、91b、92a、92bに対応するよう、モジュールMにも、後述するように複数の連通孔が形成されている。これにより、固体高分子型燃料電池9のモジュールMの積層方向には、空気、水素、冷却水の流路が各々貫設されている。
【0026】
[燃料電池モジュールの構成]
次に、本実施形態の燃料電池モジュールの構成について説明する。図2に、モジュールMの斜視図を示す。図3に、モジュールMの分解斜視図を示す。図4に、図2のIV−IV断面図を示す。図2〜図4に示すように、モジュールMは、電極部材2と、セパレータ3と、接着性ゴム部材4と、を備えている。
【0027】
電極部材2は、MEA20と、アノード多孔質層21aと、カソード多孔質層21bと、を備えている。MEA20は、電解質膜22と、アノード触媒層23aと、カソード触媒層23bと、からなる。
【0028】
電解質膜22は、全フッ素系スルホン酸膜であり、矩形薄板状を呈している。アノード触媒層23aは、矩形薄板状を呈し、電解質膜22の上面を覆うように配置されている。アノード触媒層23aは、白金を担持したカーボン粒子を含む。カソード触媒層23bは、アノード触媒層23aと同様の構成を有し、電解質膜22の下面を覆うように配置されている。
【0029】
アノード多孔質層21aは、ガス拡散層24aとガス流路層25aとを備えている。ガス拡散層24aは、カーボンペーパー製であり、矩形薄板状を呈している。ガス拡散層24aは、MEA20のアノード触媒層23aの上面に配置されている。ガス拡散層24aの気孔率は、約60%である。ガス拡散層24aは、MEA20と、略相似形状を呈している。ガス拡散層24aはMEA20よりも小さい。つまり、ガス拡散層24aの面積は、MEA20の面積より小さい。このため、ガス拡散層24aの外縁は、MEA20の外縁よりも、内側に配置されている。ガス流路層25aは、焼結発泡金属製であり、矩形薄板状を呈している。ガス流路層25aは、ガス拡散層24aの上面に配置されている。ガス流路層25aの気孔率は、約70〜80%である。ガス流路層25aの面積はガス拡散層24aの面積より小さい。
【0030】
カソード多孔質層21bは、ガス拡散層24bとガス流路層25bとを備えている。ガス拡散層24bは、ガス拡散層24aと同様の構成を有し、MEA20のカソード触媒層23bの下面に配置されている。ガス拡散層24bの面積は、MEA20の面積と同じである。よって、ガス拡散層24bの外縁は、MEA20の外縁と面一に配置されている。ガス流路層25bは、ガス流路層25aと同様の構成を有し、ガス拡散層24bの下面に配置されている。ガス流路層25bの面積はガス拡散層24bの面積より小さい。
【0031】
セパレータ3は、矩形板状を呈し、電極部材2の下方に積層されて配置されている。セパレータ3は、上から順に、カソードプレート30と、中間プレート31と、アノードプレート32と、が積層されてなる。カソードプレート30は、ステンレス鋼製であり、ガス流路層25bの下面と接するよう配置されている。アノードプレート32は、モジュールMの下方に積層されているモジュール(図略)の上面と接している。セパレータ3を構成する各プレート30、31、32には、各々、複数の連通孔が形成されている。これにより、セパレータ3の内部には、空気、水素、冷却水の流路が形成されている。
【0032】
接着性ゴム部材4は、矩形枠状を呈し、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)をゴム成分とする接着性のソリッドゴムからなる。接着性ゴム部材4(ソリッドゴム)の抗張積は1500MPa・%である。ここで、「抗張積」は、引張り強さと破断伸びとの積[引張り強さ(MPa)×破断伸び(%)]である。抗張積が大きいほど、破断に要するエネルギーが大きい。本明細書では、引張り強さ、破断伸びとして、JIS K6251(2004)に準じて測定された値を採用する。引張り強さ、破断伸びの測定は、ダンベル状5号形試験片を使用して行うこととする。
【0033】
接着性ゴム部材4は、電極部材2の周縁部を被覆すると共に、セパレータ3のカソードプレート30と接着されている。接着性ゴム部材4の四辺に沿って、連通孔40a、40b、41a、41b、42a、42bが形成されている。連通孔40aは空気供給孔90aと、連通孔40bは空気排出孔90bと、連通孔41aは水素供給孔91aと、連通孔41bは水素排出孔91bと、連通孔42aは冷却水供給孔92aと、連通孔42bは冷却水排出孔92bと、それぞれ対応している。接着性ゴム部材4の上面には、各連通孔40a、40b、41a、41b、42a、42bを囲むように凸部43が形成されている。凸部43は、モジュールMを積層して固体高分子型燃料電池9を組み立てる際に、積層方向の締結力により押圧され変形する。これにより、各連通孔40a、40b、41a、41b、42a、42bの周囲にシールラインが形成され、空気、水素、冷却水の漏れが抑制される。
【0034】
[燃料電池モジュールの製造方法]
次に、本実施形態の燃料電池モジュールの製造方法について説明する。図5に、成形型の型開き状態における断面図を示す。図6に、図5の点線円VIの拡大図を示す。図5に示すように、成形型5は上型50と下型51とを備えている。上型50の下面には凹部500が、下型51の上面には凹部510が、各々形成されている。型締めされると、凹部500、510によりキャビティが区画される。
【0035】
まず、モジュールMの構成部材を準備する。第一に、成形後に接着性ゴム部材4となる第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bを準備する。第一架橋前ゴム部材4aは、接着性ゴム部材4をMEA20の上面ラインで上下に二分割した時の、上方部分の形状を呈する。また、第二架橋前ゴム部材4bは、接着性ゴム部材4をMEA20の上面ラインで上下に二分割した時の、下方部分の形状を呈する。EPDMをゴム成分とするソリッドゴムの架橋前組成物を予備成形して、第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bを作製する(予備成形工程)。
【0036】
第一架橋前ゴム部材4aの下面側には、圧縮部44aが配置されている。同様に、第二架橋前ゴム部材4bの上面側には、圧縮部44bが配置されている(図5中、点線で示す)。詳しくは、図6に拡大して示すように、第一架橋前ゴム部材4aの下面側には、厚さd1の圧縮部44aが配置されている。ここで、第一架橋前ゴム部材4aと第二架橋前ゴム部材4bとの総体積は、キャビティの容積よりも、圧縮部44a、44bの分だけ大きい。このため、後述するように、型締めの際、第一架橋前ゴム部材4aと第二架橋前ゴム部材4bとは、圧縮部44a、44bの分だけ、圧縮されながらキャビティ内に収容される。この状態で成形すると、成形時の加熱、加圧により溶融した第一架橋前ゴム部材4aが、圧縮分を解放するように、アノード多孔質層21a(ガス拡散層24a、ガス流路層25a)の端部に含浸する。同様に、成形時の加熱、加圧により溶融した第二架橋前ゴム部材4bが、圧縮分を解放するように、カソード多孔質層21b(ガス拡散層24b、ガス流路層25b)の端部に含浸する。
【0037】
第二に、セパレータ3を準備する。具体的には、カソードプレート30と、中間プレート31と、アノードプレート32と、を接着剤等により接合して、セパレータ3を作製する。
【0038】
第三に、電極部材2を準備する。電極部材2は、上から順に、ガス流路層25a、ガス拡散層24a、MEA20、ガス拡散層24b、およびガス流路層25bが積層されてなる。ここでは、MEA20の上面にガス拡散層24aを、MEA20の下面にガス拡散層24bを、各々ホットプレスにより接合して接合体を作製しておく。ここでは、作製した接合体を「MEGA」と称す。
【0039】
次に、各構成部材を成形型5内に配置する(部材配置工程)。まず、下型51の凹部510に、セパレータ3を配置する。続いて、第二架橋前ゴム部材4bをセパレータ3の上に積層する。また、ガス流路層25bを第二架橋前ゴム部材4bの中央枠内に配置する。さらに、MEGAをガス流路層25bの上に積層する。続いて、第一架橋前ゴム部材4aを第二架橋前ゴム部材4bの上に配置する。最後に、ガス流路層25aをMEGAの上に積層する。その後、上型50と下型51とを合わせて型締めする。
【0040】
図7に、成形型の型締め状態における断面図を示す。図8に、図7の点線円VIIIの拡大図を示す。図7に示すように、上型50と下型51とにより区画されたキャビティ内には、第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4b、電極部材2、セパレータ3、が配置されている。第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bにより、電極部材2の周縁部は被覆されている。また、第二架橋前ゴム部材4bは、セパレータ3と接触している。この状態で、成形型5を加熱すると、第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4bは、各々、電極部材2のアノード多孔質層21a(ガス拡散層24a、ガス流路層25a)、カソード多孔質層21b(ガス拡散層24b、ガス流路層25b)の端部に含浸しながら架橋する。詳しくは、図8に拡大して示すように、第一架橋前ゴム部材4aは、ガス流路層25aの端部に長さd2だけ含浸している。また、ガス拡散層24aの端部に長さd3だけ含浸している。同様に、第二架橋前ゴム部材4bは、ガス流路層25bの端部に長さd2だけ含浸している。また、ガス拡散層24bの端部に長さd3だけ含浸している。第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4bは、架橋により一体化して接着性ゴム部材4となる。これにより、電極部材2とセパレータ3とは、接着性ゴム部材4(ソリッドゴム)により一体化される(一体化工程)。
【0041】
[作用効果]
次に、本実施形態の燃料電池モジュールの製造方法の作用効果について説明する。本実施形態によると、モジュールMにおける接着性ゴム部材4は、EPDMをゴム成分とする接着性のソリッドゴムからなる。ソリッドゴムを使用するため、液状ゴムを使用して射出成形する場合と比較して、モジュールMを簡単に製造することができる。例えば、第一架橋前ゴム部材4aの圧縮部44aにより、アノード多孔質層21aの端部への含浸量を調整することができる。よって、含浸量を調整するための特別な処理は必要ない。また、液状ゴムの射出圧により電解質膜22が変形するおそれもない。また、第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4bを基準として、電極部材2の位置決めを容易に行うことができる。
【0042】
また、モジュールMを積層させて、固体高分子型燃料電池9を効率よく組み立てることができる。また、必要に応じて、モジュールMごとに取り出して点検、修理が可能である。また、接着性ゴム部材4の抗張積は大きい。加えて、耐酸性にも優れる。したがって、シール部位の耐久性は高い。また、接着剤を使用しなくても、接着性ゴム部材4と、電極部材2およびセパレータ3と、を強固に接着することができる。さらに、接着性ゴム部材4の接着性は、固体高分子型燃料電池9の作動環境においても低下しにくい。このため、作動時において、接着性ゴム部材4による良好なシール性が確保される。したがって、固体高分子型燃料電池9を長期間に亘り安定して作動させることができる。
【0043】
本実施形態によると、MEA20の面積はガス拡散層24aの面積より大きい。よって、仮に、ガス拡散層24aの端部において、接着性ゴム部材4が充分に含浸されていなくても、MEA20およびその周縁部を被覆する接着性ゴム部材4が障壁となり、ガス拡散層24bの端面へのガスのリークを阻止することができる。
【0044】
<第二実施形態>
本実施形態のモジュールと第一実施形態のモジュールとの相違点は、モジュールの製造過程において、電極部材の周縁部に架橋前組成物を予備的に一体化した予備成形体を、予め作製しておく点である。したがって、ここでは主として相違点について説明する。
【0045】
図9に、予備成形型の型開き状態における断面図を示す。図9において、電極部材は、各構成部材を積層した状態で示す。また、図5と対応する部位については、同じ符号で示す。図9に示すように、予備成形型6は上型60と下型61とを備えている。上型60の下面には凹部600が、下型61の上面には凹部610が、各々形成されている。型締めされると、凹部600、610によりキャビティが区画される。
【0046】
第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bは、上記第一実施形態と同様、EPDMをゴム成分とするソリッドゴムの架橋前組成物を予備成形して、作製されている(第一予備成形工程)。第一架橋前ゴム部材4aの下面側には、圧縮部44aが配置されている。同様に、第二架橋前ゴム部材4bの上面側には、圧縮部44bが配置されている(図9中、点線で示す)。第一架橋前ゴム部材4aと第二架橋前ゴム部材4bとの総体積は、キャビティの容積よりも、圧縮部44a、44bの分だけ大きい。このため、前述したように、型締めの際、第一架橋前ゴム部材4aと第二架橋前ゴム部材4bとは、圧縮部44a、44bの分だけ、圧縮されながらキャビティ内に収容される。
【0047】
電極部材2は、上から順に、ガス流路層25a、ガス拡散層24a、MEA20、ガス拡散層24b、およびガス流路層25bが積層されてなる。MEA20の上面にはガス拡散層24aが、MEA20の下面はガス拡散層24bが、各々ホットプレスにより接合されている(MEGA)。
【0048】
まず、下型61の凹部610に、第二架橋前ゴム部材4bを配置する。続いて、ガス流路層25bを第二架橋前ゴム部材4bの中央枠内に配置する。さらに、MEGA(ガス拡散層24a/MEA20/ガス拡散層24b)をガス流路層25bの上に積層する。続いて、第一架橋前ゴム部材4aを第二架橋前ゴム部材4bの上に配置する。最後に、ガス流路層25aをMEGAの上に積層する。その後、上型60と下型61とを合わせて型締めする。
【0049】
この状態で、予備成形型6を、第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bが架橋しない程度の温度に加熱する。これにより、第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4bは、各々、電極部材2のアノード多孔質層21a(ガス拡散層24a、ガス流路層25a)、カソード多孔質層21b(ガス拡散層24b、ガス流路層25b)の端部に一部含浸する。一方、加熱温度は架橋温度より低いため、第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bは架橋しない。こうして、電極部材2と、第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bと、が予備的に一体化し、予備成形体となる(第二予備成形工程)。
【0050】
図10に、得られた予備成形体の断面図を示す。図10に示すように、予備成形体45は、電極部材2と架橋前合体ゴム部材46とからなる。架橋前合体ゴム部材46は、第一架橋前ゴム部材4aおよび第二架橋前ゴム部材4bとの接合体である。架橋前合体ゴム部材46は、電極部材2の周縁部に一部含浸して(図略)、固定されている。
【0051】
次に、得られた予備成形体45を、セパレータ3と共に成形型5に配置する(前出図5に参照)。すなわち、下型51の凹部510に、セパレータ3を配置した後、予備成形体45をセパレータ3の上に積層する。そして、上型50と下型51とを合わせて型締めする。この状態で、成形型5を加熱すると、架橋前合体ゴム部材46は、電極部材2のアノード多孔質層21a(ガス拡散層24a、ガス流路層25a)、カソード多孔質層21b(ガス拡散層24b、ガス流路層25b)の端部にさらに含浸しながら架橋する。架橋前合体ゴム部材46は、架橋により接着性ゴム部材4となる。これにより、電極部材2とセパレータ3とは、接着性ゴム部材4(ソリッドゴム)により一体化される(一体化工程)。
【0052】
本実施形態の燃料電池モジュールの製造方法は、構成が共通する部分については、第一実施形態の燃料電池モジュールの製造方法と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の燃料電池モジュールの製造方法によると、予め、予備成形体45を作製しておくことにより、一体化工程における電極部材2の構成部材の位置決めを、より容易に行うことができる。したがって、より効率よく、燃料電池モジュールを製造することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、第一実施形態と同様に、第一架橋前ゴム部材4aを、接着性ゴム部材4をMEA20の上面ラインで上下に二分割した時の、上方部分の形状を呈するよう予備成形した。また、第二架橋前ゴム部材4bを、接着性ゴム部材4をMEA20の上面ラインで上下に二分割した時の、下方部分の形状を呈するよう予備成形した(図4参照)。このため、第一架橋前ゴム部材4a、第二架橋前ゴム部材4bは、共に、凸部43(架橋前、以下、本実施形態において同様)を有する。しかしながら、架橋前組成物の予備成形(第一予備成形工程)において、必ずしも凸部43を成形しておく必要はない。つまり、第一予備成形工程とは別の工程により、凸部43を成形してもよい。例えば、第二予備成形工程と一体化工程との間に、凸部成形工程を設けて、凸部43を成形してもよい。また、一体化工程において、凸部43を成形しながら架橋させてもよい。
【0054】
<その他>
以上、本発明の燃料電池モジュールの製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0055】
すなわち、燃料電池モジュールを構成する各部材の材質、形状、大きさ等は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、電解質膜は、全フッ素系スルホン酸膜の他、全フッ素系ホスホン酸膜、全フッ素系カルボン酸膜、あるいは炭化水素系の高分子膜を使用してもよい。上記実施形態では、一対の多孔質層を、各々、気孔率の異なるガス拡散層とガス流路層とから構成した。この場合、両層の気孔率、面積、厚さ等は、適宜決定すればよい。また、一対の多孔質層の構成は、同じであっても、異なっていてもよい。例えば、以下(1)、(2)のように、異なる構成の多孔質層を有する電極部材と、セパレータと、を積層して燃料電池モジュールを構成してもよい。
【0056】
(1)[ガス流路層/ガス拡散層/MEA/ガス流路層/セパレータ]
本構成の電極部材によると、MEAの厚さ方向一面に配置されている多孔質層は、MEAの厚さ方向一面に配置されるガス拡散層と、該ガス拡散層の厚さ方向一面に配置され該ガス拡散層よりも気孔率が大きいガス流路層と、からなり、MEAの厚さ方向他面に配置されている多孔質層は、MEAの厚さ方向他面に配置されるガス流路層からなる。
【0057】
(2)[ガス流路層/ガス拡散層/MEA/ガス拡散層/セパレータ]
本構成の電極部材によると、MEAの厚さ方向一面に配置されている多孔質層は、MEAの厚さ方向一面に配置されるガス拡散層と、該ガス拡散層の厚さ方向一面に配置され該ガス拡散層よりも気孔率が大きいガス流路層と、からなり、MEAの厚さ方向他面に配置されている多孔質層は、MEAの厚さ方向他面に配置されるガス拡散層からなる。
【0058】
また、上記実施形態では、一方のガス拡散層の面積を、MEAの面積よりも小さくした。しかし、一対のガス拡散層の両方の面積は、MEAの面積と同じであってもよい。反対に、両方の面積が、各々、MEAの面積よりも小さくてもよい。上記実施形態では、セパレータを三層構造とした。しかし、セパレータの構造はこれに限定されるものではない。
【0059】
上記実施形態では、燃料電池モジュールの製造において、接着性ゴム部材(ソリッドゴム)を二分割した形状の架橋前ゴム部材(予備成形された架橋前組成物)を使用した。しかし、架橋前ゴム部材は、必ずしも接着性ゴム部材の分割体でなくてもよい。また、分割体を使用する場合には、シール部位に要求される特性に応じて、架橋前ゴム部材の厚さや材質を調整するとよい。さらに、シール部位ごとに材質の違うゴムを使用してもよい。ゴムの種類に応じて、一体化工程における加熱温度等を調整すればよい。また、上記第二実施形態では、架橋前組成物が架橋しない程度の温度に加熱して、電極部材と架橋前組成物とを予備的に一体化させた(第二予備成形工程)。本工程の温度も、ゴムの種類に応じて、適宜調整すればよい。以下、ソリッドゴムについて、詳細に説明する。
【0060】
[ソリッドゴム]
本発明の燃料電池モジュールの製造方法では、接着性を有するソリッドゴムを使用する。ソリッドゴムの架橋前のムーニー粘度は、80℃で40M[40ML(1+4)80℃]以上であることが望ましい。ムーニー粘度としては、JIS K6300−1(2001)に準じて測定された値を採用する。具体的には、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等のゴム成分を含むソリッドゴムが挙げられる。また、ソリッドゴムのタイプAデュロメータ硬さは、50以上であることが望ましい。タイプAデュロメータ硬さとは、JIS K6253(2006)に規定されているタイプAデュロメータにより測定された硬さである。
【0061】
例えば、以下の(A)〜(D)を含むゴム組成物は、低温で架橋が可能であり、架橋物のシール性および接着信頼性が高いという点で好適である。(A)エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)から選ばれる一種以上のゴム成分。(B)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤。(C)架橋助剤。(D)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、シランカップリング剤と、の少なくとも一方からなる接着成分。
【0062】
架橋剤(B)は、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる。このような有機過酸化物としては、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。なかでも、130℃程度の温度で架橋しやすく、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の取扱性にも優れるという理由から、1時間半減期温度が100℃以上のパーオキシケタールおよびパーオキシエステルの少なくとも一種を採用することが望ましい。特に、1時間半減期温度が110℃以上のものが好適である。
【0063】
パーオキシケタールとしては、例えば、n−ブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。これらのうち、架橋剤の保管が容易であるという理由から、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテートが好適である。
【0064】
架橋反応を充分に進行させるため、架橋剤の配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して1重量部以上とすることが望ましい。また、調製したゴム組成物の保管安定性を考慮して、5重量部以下とすることが望ましい。
【0065】
次に、架橋助剤(C)は、上記架橋剤(B)の種類に応じて適宜選択すればよい。架橋助剤としては、例えば、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等が挙げられる。なかでも、架橋速度がより速くなるという理由から、マレイミド化合物を用いることが望ましい。この場合、架橋反応を充分に進行させるため、架橋助剤の配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して0.1重量部以上とすることが望ましい。一方、架橋助剤の配合量が多く架橋速度が速くなり過ぎると、接着力の低下を招くため、架橋助剤の配合量は、3重量部以下とすることが望ましい。
【0066】
次に、接着成分(D)は、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、シランカップリング剤と、の少なくとも一方からなる。すなわち、接着成分としては、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物だけでもよく、シランカップリング剤だけでもよい。レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、シランカップリング剤と、の両方を含む場合には、接着力がより向上する。
【0067】
レゾルシノール系化合物としては、例えば、レゾルシン、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド(RF)樹脂等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れるという点で、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂が好適である。変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、次の一般式(1)〜(3)で表されるものが挙げられる。特に、一般式(1)で表されるものが好適である。
【化1】

【化2】

【化3】

【0068】
所望の接着力を得るため、レゾルシノール系化合物の配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して、0.1重量部以上とすることが望ましい。0.5重量部以上とするとより好適である。また、過剰な配合はゴムの物性低下を招くため、レゾルシノール系化合物の配合量は10重量部以下とすることが望ましい。5重量部以下とするとより好適である。
【0069】
メラミン系化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。これらは、架橋の際の加熱下で分解し、ホルムアルデヒドを系に供給する。なかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れるという点で、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物が好適である。ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物としては、例えば、以下の一般式(4)で表されるものが好適である。特に、一般式(4)中、n=1の化合物が43〜44重量%、n=2の化合物が27〜30重量%、n=3の化合物が26〜30重量%の混合物が好適である。
【化4】

【0070】
上記レゾルシノール系化合物とメラミン系化合物との配合比は、重量比で、1:0.5〜1:2の範囲が望ましい。1:0.77〜1:1.5の範囲がより好適である。レゾルシノール系化合物に対するメラミン系化合物の配合比が0.5未満の場合、ゴムの引張り強さ、伸び等が若干低下する傾向がみられる。反対に、メラミン系化合物の配合比が2を超えると、接着力が飽和する。このため、それ以上の配合は、コストアップにつながる。
【0071】
シランカップリング剤は、官能基としてエポキシ基、アミノ基、ビニル基等を有する化合物群の中から、接着性等を考慮して適宜選択すればよい。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、エポキシ基を有する化合物群から選ばれる一種以上を用いると、接着力が向上すると共に、燃料電池の作動環境においても、接着力が低下しにくい。具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が好適である。
【0072】
所望の接着力を得るため、シランカップリング剤の配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して、0.5重量部以上とすることが望ましい。2重量部以上とするとより好適である。また、過剰な配合はゴムの物性低下を招き、加工性も低下するおそれがある。このため、シランカップリング剤の配合量は10重量部以下とすることが望ましい。6重量部以下とするとより好適である。
【0073】
ゴム組成物は、上記(A)〜(D)の他、通常ゴム用の添加剤として用いられる各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、補強剤としてカーボンブラックを含むことが望ましい。カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等から適宜選択すればよい。所望の耐久性を得るため、カーボンブラックの配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して30重量部以上とすることが望ましい。なお、混練のしやすさ、成形加工性等を考慮して、カーボンブラックの配合量は150重量部以下とすることが望ましい。
【0074】
また、他の添加剤としては、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、粘着付与剤、加工助剤等が挙げられる。軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン等の石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。軟化剤の配合量は、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して40重量部程度までとするとよい。また、可塑剤としては、ジオクチルフタレート(DOP)等の有機酸誘導体、リン酸トリクレジル等のリン酸誘導体が挙げられる。可塑剤の配合量は、軟化剤と同様、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して40重量部程度までとするとよい。また、老化防止剤としては、フェノール系、イミダゾール系、ワックス等が挙げられ、上記ゴム成分(A)の100重量部に対して0.5〜10重量部程度配合するとよい。
【0075】
ゴム組成物は、上記(A)〜(D)および必要に応じて各種添加剤を混合して調製することができる。例えば、架橋剤(B)、架橋助剤(C)、接着成分(D)以外の各材料を予備混合した後、80〜140℃で数分間混練する。混練物を冷却した後、架橋剤(B)、架橋助剤(C)、接着成分(D)を追加して、オープンロール等のロール類を用い、ロール温度40〜70℃で5〜30分間混練して調製することができる。なお、接着成分(D)は、予備混合の段階で配合しても構わない。
【符号の説明】
【0076】
2:電極部材 20:MEA 21a:アノード多孔質層 21b:カソード多孔質層
22:電解質膜 23a:アノード触媒層 23b:カソード触媒層
24a、24b:ガス拡散層 25a、25b:ガス流路層
3:セパレータ
30:カソードプレート 31:中間プレート 32:アノードプレート
4:接着性ゴム部材(ソリッドゴム)
4a:第一架橋前ゴム部材(ソリッドゴムの架橋前組成物)
4b:第二架橋前ゴム部材(ソリッドゴムの架橋前組成物)
40a、40b、41a、41b、42a、42b:連通孔 43:凸部
44a、44b:圧縮部 45:予備成形体 46:架橋前合体ゴム部材
5:成形型 50:上型 51:下型 500、510:凹部
6:予備成形型 60:上型 61:下型 600、610:凹部
9:固体高分子型燃料電池
90a:空気供給孔 90b:空気排出孔 91a:水素供給孔 91b:水素排出孔
92a:冷却水供給孔 92b:冷却水排出孔 93、94:エンドプレート
M:モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性を有するソリッドゴムの架橋前組成物を、予め所定の形状に成形する予備成形工程と、
成形型内に、電解質膜と、該電解質膜の厚さ方向両面に配置されている一対の電極触媒層と、からなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の厚さ方向両面に配置されている一対の多孔質層と、を有する電極部材と、セパレータと、を該セパレータが少なくとも一方の該多孔質層と接するように積層し、予備成形した該架橋前組成物を該電極部材の周縁部を被覆すると共に該セパレータと接触するように配置する部材配置工程と、
該成形型を加圧および加熱して、該架橋前組成物を該電極部材の該多孔質層に含浸させながら架橋させ、該電極部材と該セパレータとを該ソリッドゴムにより一体化する一体化工程と、
を有することを特徴とする燃料電池モジュールの製造方法。
【請求項2】
接着性を有するソリッドゴムの架橋前組成物を、予め所定の形状に成形する第一予備成形工程と、
予備成形型内に、電解質膜と、該電解質膜の厚さ方向両面に配置されている一対の電極触媒層と、からなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の厚さ方向両面に配置されている一対の多孔質層と、を有する電極部材と、予備成形した該架橋前組成物と、を該電極部材の周縁部を該架橋前組成物で被覆するように配置して、該予備成形型を加圧しながら該架橋前組成物が架橋しない温度下に維持することにより、該電極部材の周縁部に該架橋前組成物が予備的に一体化した予備成形体を得る第二予備成形工程と、
成形型内に、該予備成形体とセパレータとを、該セパレータが該電極部材の少なくとも一方の該多孔質層と該架橋前組成物とに接するように積層して配置して、該成形型を加圧および加熱して、該架橋前組成物を該電極部材の該多孔質層に含浸させながら架橋させ、該電極部材と該セパレータとを該ソリッドゴムにより一体化する一体化工程と、
を有することを特徴とする燃料電池モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記ソリッドゴムの架橋前組成物は、以下の(A)〜(D)を含む請求項1または請求項2に記載の燃料電池モジュールの製造方法。
(A)エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる一種以上のゴム成分。
(B)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤。
(C)架橋助剤。
(D)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、シランカップリング剤と、の少なくとも一方からなる接着成分。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−192460(P2010−192460A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103057(P2010−103057)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【分割の表示】特願2008−97876(P2008−97876)の分割
【原出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】