説明

燃料電池固体電解質

【課題】高いプロトン伝導性を示す燃料電池固体電解質を提供する。
【解決手段】窒素を含有するリン酸化合物からなる燃料電池固体電解質である。
リン酸化合物は、縮合リン酸またはその塩、もしくはイミドリン酸またはその塩、とすることができる。イミドリン酸またはその塩が100〜400℃で加熱されていることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるプロトン伝導性をもつ固体高分子電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境・エネルギー問題などから発電効率が高い燃料電池に対する関心が高まっている。また燃料電池は排熱等を有効に利用するコージェネレーション(熱電併給)システムとすることによって、総合効率の高い一次エネルギー利用効率を得ることができるため、CO発生量の抑制など環境にやさしいシステムとして非常に注目されている。燃料電池は、これに用いる電解質の種類により、例えばアルカリ性水溶液型、固体高分子電解質型、リン酸型等の低温動作型の燃料電池と、溶融炭酸型、固体酸化物電解質型等の高温動作燃料電池とに大別される。これらの燃料電池のうち、電解質として水素イオン(プロトン)伝導性を有する高分子膜を用いた固体高分子電解質型の燃料電池が開発されている。このものによれば、コンパクトな構造で高出力密度が得られ、かつ簡単なシステムで運転できることや、リン酸溶液を電解質に用いるリン酸形燃料電池(PAFC)で問題となっている電解質成分の飛散がなく、長時間安定して運転する際に優位となることから、車両用や宇宙用や家庭用等の電源として注目されている。
【0003】
プロトン伝導型燃料電池では、燃料極側から供給される水素ガスと、酸化剤側から供給される酸素ガスとによって、燃料極:H→2H+2e、酸化剤極:1/2O+2H+2e→HOという電気化学的な反応を生じる。上記反応式において、電子は燃料極から外部回路を通して酸化剤極へ移動し、プロトンは電解質中を移動する。酸水素燃料電池などの固体高分子電解質型燃料電池では、例えば室温で伝導度が10−5S・cm−1以上を示すような高プロトン伝導性を持つ電解質膜が固体電解質として有望視されている。
実用的安定性を有するプロトン伝導性電解質としては、ナフィオン(Nafion,デュポン社の登録商標。)に代表される高分子型の膜、即ち、パーフルオロカーボンスルホン酸膜が開発され、固体高分子電解質型燃料電池を始めとし、他の電気化学素子への応用が提案されている。
【0004】
しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、膜内にプロトンが伝導するための水が不可欠であり、これが100℃以上の高温において保持できなくなるために伝導度が大きく低下する問題点がある。
【0005】
100℃以上の高温でもイオン伝導する高プロトン伝導性固体電解質膜を作製する方法には、通常のガラスの製法である溶融−急冷法を用いて作製する方法が考えられる。しかしこの方法では、高温で溶融するために、原料中の水分または水素イオンの大半が蒸発して失われるため、分子状の水および水素イオンが極めて少なく、高プロトン伝導性膜を得ることができない。
【0006】
そこで、例えば特公平8−119612号公報のように、いわゆるゾルーゲル法を用いて、低温合成によりリン酸ジルコニウム系などの高プロトン伝導性ガラスを得る方法が研究されている。また、特開2003−192380号公報では従来の溶融法に較べて製造時の温度をはるかに低くすることにより、ガラス体中に多量の水と水素イオンを残存させる方法が報告されている。しかしながら、このようにして作製された高プロトン伝導性固体電解質は一般的に化学的安定性が弱く、長期の使用に信頼性を欠くという問題点があった。
【特許文献1】特公平8−119612号公報
【特許文献2】特開2003−192380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のものに比べ高いプロトン伝導性を示すと共に、パーフルオロカーボンスルホン酸の膜よりも耐熱性および化学的安定性に優れている燃料電池固体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、燃料電池における固体電解質について鋭意研究を重ねた結果、窒素を含有するリン酸化合物を主要成分とする固体電解質を用いれば、耐熱性、化学的安定性に優れ、高いプロトン伝導性を示すことを見出し、本発明をなすに至った。即ち、本発明に従えば以下の発明が提供される。
(1)窒素を含有するリン酸化合物を主要成分とする燃料電池固体電解質。
(2)リン酸化合物は、縮合リン酸またはその塩、もしくは、イミドポリリン酸またはその塩を主要成分とする(1)に記載の燃料電池固体電解質。
(3)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が90〜500℃で加熱されて形成されている(1)または(2)に記載の燃料電池固体電解質。
(4)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が環状構造であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
(5)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩がテトラシクロイミド四リン酸であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
(6)窒素を含有するリン酸化合物は、少なくとも1つのアミノ基(−NH)、イミノ基(=NH,−NH−)またはトリアジン環を有する(1)〜(5)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
(7)窒素を含有するリン酸化合物は、アンモニアを有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
(8)窒素を含有するリン酸化合物は、メラミンを有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
(9)室温で10−4〜10−5S・cm−1、200℃で10−3〜10−5S・cm−1のプロトン伝導性を示す(1)〜(8)のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、室温で10−4〜10−5S・cm−1程度、200℃で10−3〜10−5S・cm−1程度の高いプロトン伝導性を示すと共に、パーフルオロカーボンスルホン酸の膜よりも耐熱性および化学的安定性に優れている燃料電池固体電解質を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する窒素を含有するリン酸化合物は、縮合リン酸またはイミドポリリン酸が好ましい。縮合リン酸はPO基を基本構造単位とし、このPO基が二次元あるいは三次元的に連なった化合物群である。縮合リン酸としては、鎖状構造をもつポリリン酸、環状または長鎖状構造をもつシクロリン酸等を用いることができる。例えば、ピロリン酸、トリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸、オクタリン酸、デカリン酸、シクロトリリン酸、シクロテトラリン酸、シクロヘキサリン酸、シクロオクタリン酸、シクロデカリン酸、ポリリン酸、メタリン酸等が挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。中でも、高いプロトン伝導度が得られるピロリン酸、ポリリン酸が好適である。
【0011】
また、縮合リン酸中に含まれているP−O−P結合の架橋酸素を、イミノ基で置換したイミドポリリン酸も好適に使用することができる。
【0012】
イミドポリリン酸を用いる場合、加熱処理を行うことによって、加熱処理しない場合に比較して、更に高いプロトン伝導性を得ることができる。このときの加熱温度は、90℃〜500℃が好ましい。より好ましくは100℃〜400℃である。よって加熱温度の上限としては、500℃、450℃、400℃が例示される。更に350℃、300℃、300℃が例示される。この上限と組み合わせ得る下限としては、120℃、150℃、200℃が例示される。また、加熱の際に、縮合剤として尿素を加えても良い。加える尿素の量は特に制限はないが、好ましくはイミドシクロ四リン酸塩に対して質量比で、1〜50%、より好ましくは5〜40%、さらに好ましくは10〜30%である。
【0013】
イミドポリリン酸は大きく分類すると、鎖状構造を有する化合物と、環状構造を有する化合物とに分けられる。鎖状構造を有する化合物としては、例えばイミド二リン酸、ジイミド三リン酸、イミドポリリン酸等が挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。また、環状構造を有する化合物としては、シクロイミドシクロ三リン酸、イミドシクロ四リン酸等が挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。中でも、高いプロトン伝導度が得られる環状構造を有する化合物が好ましく、イミドシクロ四リン酸が好適である。
窒素を含有するリン酸化合物は、少なくとも1つのアミノ基、イミノ基またはトリアジン環を有するものを用いることが好ましい。この場合、高いプロトン伝導性を得るのに有利となる。
【0014】
アミノ基を有する化合物としては、例えばアンモニア、尿素、エチレン尿素、ブチル尿素、ジシアンジアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、リジン、アルギニン、ポリアミド樹脂等が挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。イミノ基を有する化合物としては、ジアナミド、グアニジン等がそれぞれ挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。また、トリアジン環を有する化合物としては、メラミン、シアヌル酸、メラミンシアヌレート、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、アクリログアナミン等が挙げられ、これらの少なくとも1種が用いられる。中でも、アンモニアおよびメラミンは、高いプロトン伝導度を得るため、好適である。
【0015】
このような窒素を含有するリン酸化合物を主要成分として作製された固体電解質は、化学的に安定であり、室温において高いプロトン伝導性を示す。または100℃以上(100〜200℃)において高いプロトン伝導性を示す。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
<製造例1>ピロリン酸メラミンの製造
ピロリン酸メラミンの合成は、特開2004−155764号公報に基づく。
(1工程)メラミンとリン酸水素2アンモニウムとを混合モル比が1対1になるように、それぞれ秤り取った。メラミンはNH基を有する化合物である。それらを乳鉢にて粒子径が出来るだけ均一になるように粉砕および混合し、固体原料組成物を得た。
(2工程)この固体原料組成物を舟形磁性皿(容器)に入れて、管状型電気炉(加熱炉)にセットした。炉内温度が200℃に達した後、この温度を保持しながら、大気雰囲気にてこの固体原料組成物を60分間(所定時間)焼成し、焼成物を得た。焼成完了後、当該焼成物を電気炉から取り出し、デシケータ内で十分に冷却し、ピロリン酸メラミン(窒素を有するリン酸化合物)の焼成物(白色)を得た。この焼成物は、低強度の塊状物であったため、自動乳鉢で1時間解砕及び粉砕を行った。なお、焼成中は、乾燥空気を連続的に電気炉内に流入させ、発生したアンモニア等の気体を硫酸水溶液(50質量%)に導入して接触させて除去した。
【0018】
<製造例2>ポリリン酸メラミンの製造
ポリリン酸メラミンの製造は、特開2004−10649号公報による。
(1工程)メラミン、リン酸二アンモニウム及び尿素を、混合モル比が1:1:1になるようにそれぞれ秤り取った。それらを乳鉢にて粒径が出来るだけ均一になるように粉砕・混合し、固体原料組成物を得た。
(2工程)この固体原料組成物を舟形磁性皿(容器)に入れて、管状型電気炉(加熱炉)にセットし、大気雰囲気にて炉内温度(200℃)において、第一工程として60分仮焼を行ない、仮焼物を得た。当該仮焼物をデシケータ内で一旦冷却、再度粉砕した後、再び電気炉内にセットし、第二工程として所定の加熱温度(300℃)において、大気雰囲気にてさらに60分焼成を行った。これによりポリリン酸メラミンを主体とする焼成物を得た。なお、焼成工程中、乾燥空気を連続的に電気炉内に流し、加熱された原料組成物から発生するアンモニア等の気体を同伴せしめ、硫酸水溶液(50質量%)に接触させて除去した。
(3工程)さらに得られた焼成物の1部に対して、4部の水を添加して、よく混合して混合物を形成した。混合物を濾過することにより、洗浄工程を行った。この湿ケーキを所定の乾燥温度(105℃)で充分乾燥して、ポリリン酸メラミンを得た(窒素を有するリン酸化合物)。
【0019】
<製造例3>テトライミドシクロ四リン酸、テトライミドシクロ四リン酸アンモニウムの製造
(1工程)塩化アンモニウム65gと五塩化リン200gをフラスコに入れ、溶媒として1,1,2,2−テトラクロロエタン500cmを加え、加熱撹拌した。撹拌スピードは約300rpmで、反応液が高い位置にこない程度にした。反応温度は130℃として、温度が135℃を越えると副生成物の比率が増え、後の取り扱いがむずかしくなるので135℃を越えないようにした。100℃を越える頃から、テトラクロロエタンの蒸気と共に塩化水素ガスが発生するので、テトラクロロエタンは水冷還流管により凝縮した。塩化水素ガスはアスピレーターで引き、水に溶かして排出した。その後、所定温度(130℃)で反応を継続し、全工程を約20時間で終了した。得られた反応物から塩化アンモニウムをロ別した。その後、ロ液をクライゼンフラスコに入れ、所定の減圧下(667〜1333Paの減圧下)で加熱した。これにより加熱温度(30〜35℃)において、テトラクロロエタンを留出した。テトラクロロエタンを十分留出させた後、残留物が冷えて固まらないうちに素早く、この濃縮液100〜120cmが固まらないうちにフラスコに移した。更に、約500cmの石油エーテルを加え、15分程還流を行った。30℃以下に冷却した後しばらく静置し、上澄み液を別の容器に取り分け、再びフラスコに石油エーテルを500cm注ぎ、同様の操作を行った。これを3〜5回繰り返した後、下層の粘稠状の液体を氷で冷やし、固体結晶を析出させた。ここで更にもう一度石油エーテルを入れて還流した。フラスコの中にこれまでの抽出液を入れ、加熱蒸留した。温度が60℃を越えたところで蒸留を止め、暖かいうちに茶褐色をした粘性のある溶液約60cmをとり出した。この溶液を冷凍室で一晩放置し、充分に結晶を析出させた後、結晶をロ別した。結晶は、石油エーテルにて2〜3回洗浄した。この結晶は、二塩化窒化リンの三量体、四量体等の混合物であり、収量は約50gであった。
(2工程)上記した(1工程)で得られた二塩化窒化リンの三量体、四量体等の混合物を減圧蒸留を行い、各重合度の二塩化窒化リンを分留した。圧力約7〜12mmHg、温度約80℃で単量体が留出しはじめた。100℃まで蒸留を続け、単量体のみを分離した。その後、160〜170℃まで温度を上げ四量体を分離した。
(3工程)ジオキサン200cmに二塩化窒化リン四量体15gを溶解した。別に、純水40cmに酢酸ナトリウム三水和物120gを溶解し、45〜50℃の恒温槽中に浸しておいた。両液が同温度になった後、攪拌しながら混合した。しばらくすると、白色沈殿が生成するが、反応は3時間行った。その後、すぐに沈殿をロ別し、その後、試料を70容量%エタノール水溶液及び90容量%エタノール水溶液で洗浄した。生成物はいろいろな結晶水量をとるので、これを一定にするために、さらに水40cmに試料1gを溶解し、その中に塩化ナトリウム2gを添加し、15〜20分攪拌して再び白色沈殿を生成させ、これをロ過して試料を形成した。この試料を70容量%エタノール水溶液及び90容量%エタノール水溶液で洗浄した後、最後に、アセトンで洗浄した。これによりテトライミドシクロ四リン酸ナトリウムを得た。
(4工程)純水50cmに(3工程)で得たテトライミドシクロ四リン酸ナトリウム0.5gを溶解した。更に、塩酸によりpH1.0以下に低下させた。得られた沈殿物をロ別した後、エタノール水溶液(70容量%)で洗浄した。さらにアセトンで洗浄することにより、テトライミドシクロ四リン酸(窒素を含むリン酸化合物)を得た。
(5工程)次に、テトライミドシクロ四リン酸を、再び50cm の純水にアンモニア水を加えながら溶解し、水溶液を形成した。この水溶液をpH10.0以上に調整した。この溶液にエタノールを加え、得られた沈殿物をロ別し、テトライミドシクロ四リン酸アンモニウム(窒素を含むリン酸化合物)を得た。
(6工程)上記した5工程で得たで得たテトライミドシクロ四リン酸アンモニウムを1gとって、0.1gの尿素と混合した後、大気中において所定温度(10
〜250℃のうちの各温度)で所定時間(1時間)加熱処理した。これによりテトライミドシクロ四リン酸アンモニウムの加熱物を得た。
【0020】
また、上記した4工程で得たテトライミドシクロ四リン酸を100〜250℃の各温度で加熱した(第5工程と異なり、アンモニア水を混合せず)。この場合、大気中加熱を行った試料、窒素中の加熱を行った試料、真空中の加熱を行った試料を作成した。大気中加熱を行った試料の試験結果データを図5に示す。窒素中の加熱を行った試料の試験結果データを図8に示す。真空中の加熱を行った試料の試験結果データを図9に示す。
【0021】
(試験例1)
試験例1によれば、試料として、上記した製造例1で製造したピロリン酸メラミンを用いて下記操作を行って、試料を製造した。
(1A工程)上記した製造例1で製造したピロリン酸メラミン0.2gを乳鉢で均一に粉砕した。
(2A工程)KBr錠剤成型器(本分光製)、手動ポンプ(理研機器株式会社製)を用いて、(1A工程)の試料を30秒間プレスし、直径13mm、厚さ1mmの錠剤状の試料を作成した。なお、試料の直径と厚さはマイクロメーターで確認した。
(3A工程)(2A工程)において作製した試料について、JEE−400 VACUUM EVAPORATOR (JEOL製)を使用し、片面当たり直径0.5mm、長さ10mmの金線を試料の両面に蒸着した。このとき、試料の側面はセロハンテープなどでマスキングした。
(4A工程)電極として10×20mmの白金板でこの試料を挟んだ。それをさらにセラミックの板で挟むことで絶縁し、クリップで試料を固定した。
(5A工程)白金板をインピーダンスメーター3532−80(HIOKI製)に繋いだ。そして室温、100℃、150℃、200℃の温度でそれぞれ試料の抵抗特性を測定した。
(6A工程)測定した試料の抵抗値を次の式の代入し、試料の厚み方向の電気伝導度σを算出した。電気伝導度σは、試料の厚み方向のプロトン伝導性に対応する。ここで、Lは試料の厚みを示し、Sは試料の片面の表面積を示し、Rは抵抗を示す。
【0022】
σ=(L/S)×(1/R)
測定結果を図1に示す。図1の横軸は温度のパラメータ(10/T、絶対温度、摂氏温度)を示す。横軸の数値2.5は、1000K/2.5=400K(127℃)を意味する。図1の縦軸は電気伝導度σ[S・cm−1](Conductivity)を示す。1.00E−03は1×10−3に相当する。図1に示すように、ピロリン酸メラミンの電気伝導度としては、室温〜200℃までの温度領域において、10−4・cm−1〜10−3S・cm−1の範囲内であり、良好であった。具体的には、室温では10−4S・cm−1であり、200℃では10−3S・cm−1に近づいている。このように試験例1は、高いプロトン伝導性をもつ膜として十分な値であった。
【0023】
(試験例2)
試験例2によれば、試料として、製造例2で製造したポリリン酸メラミンを用いた以外は、試験例1と同様の操作を行った。試料の電気伝導度を測定した結果を図2に示す。ポリリン酸メラミンの電気伝導度としては、図2に示すように、室温〜200℃までの温度領域において、10−5S・cm−1〜10−4S・cm−1の範囲内であり、良好であった。具体的には、室温における電気伝導度は10−4S・cm−1、200℃では10−5S・cm−1を越え、10−4S・cm−1付近に近づいている。このように試験例2は、高いプロトン伝導性をもつ膜として十分な値であった。
【0024】
(試験例3)
試験例3によれば、試料として、製造例3で製造したテトライミドシクロ四リン酸アンモニウムの加熱物を用いた以外は、試験例1と同様の操作を行い、電気伝導度を測定した。試料の電気伝導度を測定した結果を図3に示す。この物質の電気伝導度としては、図3に示すように、室温〜200℃までの温度領域において、10−5S・cm−1〜10−3S・cm−1の範囲内であり、良好であった。具体的には、室温では10−5S・cm−1程度、100℃では10−4S・cm−1程度であり、200℃では10−3S・cm−1を越えて高くなっている。このように試験例3は、高いプロトン伝導性をもつ膜として十分な値であった。殊に、100〜200℃の範囲内では、プロトン伝導性は高かった。
【0025】
(比較例1)
高分子膜として、一般的に使用されている高分子型のナフィオン117(Nafion,デュポン社の登録商標)をインピーダンスメーター3532−80(HIOKI製)に繋ぎ、室温、100℃、150℃、200℃の温度で抵抗特性をそれぞれ測定し、電気伝導度を算出した。室温における電気伝導度は10−2S・cm−1であった。しかし、試料の温度が100℃では電気伝導度が急激に低下した。150℃以上では電気伝導度は測定不可能であった。このように高分子型のナフィオンは100℃を越えると、耐熱性および化学的安定性に欠ける。
【0026】
(試験例4)
試験例4によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸アンモニウムを用いた。そして試料を、単セルの燃料電池の電解質膜として燃料極と酸化剤極との間に組み込み、燃料電池の発電特性を測定した。発電運転に当たり、燃料極に 加湿水素ガス(体積比で3%水、97%水素ガス)を導入し、酸化剤極に乾燥空気を導入した。上記したテトライミドシクロ四リン酸アンモニウムからなる試料を用い、25℃においてIV特性を測定した。測定結果を図4に示す。図4の横軸は電流密度(I/S[mA・cm−2])を示し、縦軸は電圧E[V]および出力密度(P/S[mW・cm−2])を示す。図4に示すように、電圧Eは電流密度が増加するにつれて低下する。出力密度(P/S)の最大値は0.14mW・cm−2である。
【0027】
(試験例5)
試験例5によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸を用いた。テトライミドシクロ四リン酸は上記した製造例3において製造されている。そしてテトライミドシクロ四リン酸は大気中において250℃で1時間加熱処理されている。試験例4の場合と同様に、試料を、単セルの燃料電池の電解質膜として組み込み、同様な発電条件で、燃料電池の発電特性を測定した。測定結果を図5に示す。図5の横軸は電流密度(Current Density)を示し、縦軸は電圧(Voltage)および出力密度(Power Density)を示す。図5に示すように、電流密度が増加するにつれて電圧は低下する。出力密度(Power density)の最大値については、約0.4mW・cm−2であった。このように試験例5の出力密度は、試験例4の出力密度に比較してかなり改善されている。
【0028】
(試験例6)
試験例6によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸を用いた。この場合には、テトライミドシクロ四リン酸は上記した製造例3において製造されている。そしてテトライミドシクロ四リン酸は200℃で1時間加熱処理されている。
【0029】
上記したように加熱処理したテトライミドシクロ四リン酸からなる試料を用い、前述同様に、電気伝導度を測定した。測定結果を図6に示す。この場合、図6に示すように、室温(符号1)→200℃(符号2)→100℃(符号3)→150℃(符号4)→200℃(符号5)→150℃(符号6)→100℃(符号7)→100℃(符号8)として示すように、試料の温度を変更した。図6に示すように、このように試料の温度を変更したとしても、電気伝導度の再現性は高いものであった。この試験によれば、電気伝導度については、試験温度が常温であれば10−5S・cm−1〜10−4S・cm−1での範囲内である。しかし試験温度が100℃であれば10−4S・cm−1付近に上昇する。更に試験温度が150℃であれば10−4S・cm−1〜10−3S・cm−1付近に上昇する。更に試験温度が200℃であれば、10−3S・cm−1付近に近づいたり、この値よりも高くなる。このようにテトライミドシクロ四リン酸は、高いプロトン伝導性を示す。
【0030】
(試験例7)
試験例7によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸を用いた。この場合には、テトライミドシクロ四リン酸は上記した製造例3において製造されている。そしてテトライミドシクロ四リン酸は350℃で1時間加熱処理されている。上記したように加熱処理したテトライミドシクロ四リン酸からなる試料を用い、前述同様に、電気伝導度を測定した。測定結果を図7に示す。この場合、図7に示すように、150℃(符号1)→100℃(符号2)→75℃(符号3)→100℃(符号4)→120℃(符号5)→140℃(符号6)→150℃(符号7)として示すように、試料の温度を変更した。図7に示すように、このように試料の温度を変更したとしても、電気伝導度の再現性は高いものであった。この試験によれば、電気伝導度については、試験温度が75℃であれば10−5S・cm−1〜10−4S・cm−1の範囲内である。しかし試験温度が100℃であれば10−4S・cm−1よりも高くなり、試験温度が150℃であれば10−3S・cm−1〜10−2S・cm−1の範囲内になり、かなり高くなる。
【0031】
(試験例8)
試験例8によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸を用いた。この場合には、上記した製造例3において製造されている。更に、還元炉を用い、窒素雰囲気中において250℃でテトライミドシクロ四リン酸を加熱処理した。この場合、0.5時間加熱処理した試料、1時間加熱処理した試料、2時間加熱処理した試料、3時間加熱処理した試料、4時間加熱処理した試料、5時間加熱処理した試料について、前述同様に電気伝導度をそれぞれ測定した。この場合、試料の温度を373K(100℃)、393K(120℃)、423K(150℃)とした。
【0032】
測定結果を図8に示す。図8に示すように、試料の測定温度が高い程、高い電気伝導度が得られる。250℃での加熱処理の時間が3時間(×印)、4時間(●印)、2時間(◇印)、5時間(△印)の試料について、電気伝導度は特に良好であった。特に、試料の温度が150℃のときには、電気伝導度は10−3S・cm−1〜10−4S・cm−1と高くなり、高いプロトン伝導性が得られる。
【0033】
加熱処理の時間が0.5時間(○印)、1時間(□印)についても、試料の測定温度が100℃未満と低いときには電気伝導度は低めであるが、試料の測定温度が100℃を越えて高くなり150℃に近づくにつれて、電気伝導度は10−3S・cm−1、10−4S・cm−1に近づき、高いプロトン伝導性が得られる。
【0034】
(試験例9)
試験例9によれば、試料としてテトライミドシクロ四リン酸を用いた。この場合には、上記した製造例3において1工程から4工程まで実施されている。更に、還元炉を用い、真空雰囲気中(5mmHg以下)において250℃で1時間加熱処理した。試料について前述同様に電気伝導度を測定した。測定結果を図9に示す。図9に示すように、試料の測定温度が373K(100℃)付近から454K付近(181℃)に高くなる程、高い電気伝導度が得られる。
(適用例)
図10に示す燃料電池は、燃料が供給される燃料極102と、酸化剤が供給される酸化剤極104と、燃料極102および酸化剤極104に挟持された固体電解質100とを備えている。燃料配流部材202から燃料極102に燃料(水素)が供給される。酸化剤配流部材204から酸化剤極104に酸化剤(酸素)が供給される。固体電解質100は上記した試験例に係る固体電解質で形成されている。
【0035】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。上記した記載から次の技術的思想が得られる。
(付記項1)窒素を含有するリン酸化合物を主要成分とするプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項2)リン酸化合物は、縮合リン酸またはその塩、もしくはイミドポリリン酸またはその塩を主要成分とする請求項1に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項3)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が90〜500℃で加熱されて形成されている各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項4)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が環状構造であることを特徴とする各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項5)リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩がテトラシクロイミド四リン酸であることを特徴とする各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項6)窒素を含有するリン酸化合物は、少なくとも1つのアミノ基、イミノ基またはトリアジン環を有する各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項7)窒素を含有するリン酸化合物は、アンモニアを有することを特徴とする各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項8)窒素を含有するリン酸化合物は、メラミンを有することを特徴とする各付記項のいずれかに記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質。
(付記項9)イミドポリリン酸またはその塩を90〜500℃で加熱処理することを特徴とする各付記項に記載のプロトン伝導性をもつ固体電解質の製造方法。
(付記項10)燃料が供給される燃料極と、酸化剤が供給される酸化剤極と、燃料極および酸化剤極に挟持された固体電解質とを備えており、固体電解質は各請求項に記載の固体電解質で形成されていることを特徴とする燃料電池。
【0036】
本発明に係る固体電解質は燃料電池用の固体電解質に限らず、場合によっては、水素検知器、水素ガスセンサー、水素濃淡電池、水素分離膜、エレクトロクロミック表示素子用の固体電解質に利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は燃料電池のプロトン伝導膜に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ピロリン酸メラミンの各温度における電気伝導度を示すグラフである。
【図2】ポリリン酸メラミンの各温度における電気伝導度を示すグラフである。
【図3】テトライミドシクロ四リン酸アンモニウムの加熱物の各温度における電気伝導度を示すグラフである。
【図4】テトライミドシクロ四リン酸アンモニウムの発電特性を示すグラフである。
【図5】テトライミドシクロ四リン酸の発電特性を示すグラフである。
【図6】テトライミドシクロ四リン酸の電気伝導度を示すグラフである。
【図7】テトライミドシクロ四リン酸の電気伝導度を示すグラフである。
【図8】テトライミドシクロ四リン酸の電気伝導度を示すグラフである。
【図9】テトライミドシクロ四リン酸の電気伝導度を示すグラフである。
【図10】燃料電池の構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含有するリン酸化合物を主要成分とするプロトン伝導性をもつ燃料電池固体電解質。
【請求項2】
リン酸化合物は、縮合リン酸またはその塩、もしくは、イミドポリリン酸またはその塩を主要成分とする請求項1に記載の燃料電池固体電解質。
【請求項3】
リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が90〜500℃で加熱されて形成されている請求項1または2に記載の燃料電池固体電解質。
【請求項4】
リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩が環状構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【請求項5】
リン酸化合物は、イミドポリリン酸またはその塩がテトラシクロイミド四リン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【請求項6】
窒素を含有するリン酸化合物は、少なくとも1つのアミノ基、イミノ基またはトリアジン環を有する請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【請求項7】
窒素を含有するリン酸化合物は、アンモニアを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【請求項8】
窒素を含有するリン酸化合物は、メラミンを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。
【請求項9】
室温で10−4〜10−5S・cm−1、200℃で10−3〜10−5S・cm−1の電気伝導度を示す請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池固体電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−181805(P2008−181805A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15418(P2007−15418)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(301012162)下関三井化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】