燃料電池用のセパレータおよびその製造方法
【課題】 強度、耐食性に優れ、接続抵抗が小さい燃料電池用のセパレータとその製造方法を提供する。
【解決手段】 燃料電池用のセパレータを、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材2と、この金属基材2を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層5と、金属基材2と樹脂層5との間に介在する金属微粒子4とを備えたものとし、樹脂層5で被覆されている金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面2aを有しており、金属粒子4は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、樹脂層5は導電材料を含有したものとする。
【解決手段】 燃料電池用のセパレータを、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材2と、この金属基材2を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層5と、金属基材2と樹脂層5との間に介在する金属微粒子4とを備えたものとし、樹脂層5で被覆されている金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面2aを有しており、金属粒子4は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、樹脂層5は導電材料を含有したものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のセパレータに関し、特に固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個接続した燃料電池の各単位セルに使用するセパレータと、このようなセパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、簡単には、外部より燃料(還元剤)と酸素または空気(酸化剤)を連続的に供給し、電気化学的に反応させて電気エネルギーを取り出す装置で、その作動温度、使用燃料の種類、用途などで分類される。また、最近では、主に使用される電解質の種類によって、固体酸化物型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池、固体高分子電解質型燃料電池、アルカリ水溶液型燃料電池の5種類に大きく分類させるのがー般的である。
これらの燃料電池は、メタン等から生成された水素ガスを燃料とするものであるが、最近では、燃料としてメタノール水溶液をダイレクトに用いるダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCとも言う)も知られている。
このような燃料電池のなかで、固体高分子膜を2種類の触媒で挟み込み、更に、これらの部材をガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)とセパレータで挟んだ構成の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとも言う)が注目されている。
このPEFCにおいては、固体高分子電解質膜の一方の面に空気極(酸素極)を、他方の面に燃料極(水素極)を配置した単位セルを、所望の起電力を得るために、複数個積層したスタック構造、あるいは、平面状に複数個を直列に接続した構造がとられている。例えば、上記のスタック構造の場合、単位セル間に配設されるセパレータは、そのー方の面に、隣接するー方の単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部が形成され、他方の面に、隣接する他方の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部が形成されている。
【0003】
このようなセパレータとしては、コスト、強度の点から、金属製のセパレータが好ましいが、耐食性に問題があった。このため、導電性の電着塗膜を形成して耐食性を付与した金属セパレータが開発されている。しかし、酸化被膜を生じ易いアルミニウムのような金属基材を使用し、この金属基材上に電着塗膜を直接形成した金属セパレータでは、電着塗膜にムラ、カケ、ピンホール等の欠陥が生じ易く均一な電着塗膜の形成が困難であり、燃料電池内部の酸性条件下での発電状態における耐食性に問題があった。
このため、アルミニウムのような耐食性の低い金属基材に、耐食下地層として、Zn置換めっき層、中間層(Cuめっき層、Niめっき層)、Auめっき層とを積層して形成し、この耐食下地層上にポリイミド樹脂層を形成したセパレータが開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−113080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多層構造の耐食下地層の形成は、工程数が多く作製時間が長くなり、製造コストの増大を来すという問題があった。また、アルミニウム基材と多層構造の耐食下地層との熱膨張係数の相違により、セパレータとして使用中に耐食下地層にクラックが生じ易く、耐食性が安定して発現されないという問題もあった。さらに、耐食下地層が多層のめっき膜であるため、高温での長時間の使用に伴い、各めっき層界面での合金化が進行し、カーケンダルボイドが発生して劣化の要因となるという問題があった。
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、強度、耐食性に優れ、接続抵抗が小さい燃料電池用のセパレータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明のセパレータは、金属基材と、該金属基材を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基材と前記樹脂層との間に介在する金属粒子とを備え、前記金属基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記樹脂層で被覆されている前記金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面を有しており、前記金属粒子は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、前記樹脂層は導電材料を含有するような構成とした。
【0007】
本発明の他の態様として、前記金属基材が少なくとも一方の面に溝部を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属基材が複数の貫通孔を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記導電材料がカーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属基材および前記金属粒子と前記樹脂層との間に下地めっき層を有するような構成とした。
【0008】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材に粗面化処理を施す工程と、電着性を有する樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着にて樹脂膜を前記金属基材の粗面上に形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層とする工程を有し、前記粗面化処理では、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属または金属塩を含有する処理液を接触させ、平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成するような構成とした。
【0009】
本発明の他の態様として、前記処理液は、pHが酸性領域にあるような構成とし、また、前記処理液は、塩酸を0.1〜5.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記処理液は、pHがアルカリ性領域にあるような構成とし、また、前記処理液は、キレート剤を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、粗面化処理を施す前に、前記金属基材に対して酸化被膜の除去処理を施すような構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセパレータは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材の表面が平均粗さRa1.5〜10μmの範囲の粗面であり、この粗面に所定の金属粒子を介在させて導電性の樹脂層が配されているので、金属基材と樹脂層とが強固に密着されるとともに、表裏導通における電気抵抗が低く、優れた耐食性を具備するものである。
【0011】
本発明のセパレータの製造方法では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材上に導電性の樹脂層を電着により形成する前に、所定の金属または金属塩を含有する処理液を用いて金属基材に粗面化処理を施して平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成し、これと同時に粗面に金属粒子を析出させるので、この金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着により樹脂層が形成され、かつ、金属基材の粗面が樹脂層に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材と樹脂層とが強固に密着され、表裏導通における電気抵抗が低く良好な導電性を有し、優れた耐食性を具備するセパレータの製造が可能であるとともに、従来のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材を用いたセパレータの製造方法に比べて工程が簡略化され、製造コストの低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】図1に示される燃料電池用のセパレータの部分拡大断面図である。
【図3】本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す部分断面図である。
【図4】図3に示される燃料電池用のセパレータの部分拡大断面図である。
【図5】本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す図2相当の部分拡大断面図である。
【図6】本発明のセパレータの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図7】本発明のセパレータの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
【図8】本発明のセパレータを使用した高分子電解質型燃料電池の一例を説明するための部分構成図である。
【図9】図8に示される高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【図10】図8に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を示す斜視図である。
【図11】図8に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を図10とは異なった方向から示す斜視図である。
【図12】本発明のセパレータを使用した高分子電解質型燃料電池の他の例を説明するための平面図である。
【図13】図12に示される高分子電解質型燃料電池のA−A線での縦断面図である。
【図14】図12に示される高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[セパレータ]
図1は、本発明の燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す部分断面図であり、図2は、図1に示される燃料電池用のセパレータの円で囲まれた部位の拡大断面図である。図1および図2において、本発明のセパレータ1は、金属基材2と、この金属基材2の両面に形成された溝部3と、これらの溝部3の内壁面を含む金属基材2の表面に位置する粗面2aと、金属基材2の粗面2aを被覆するように電着により形成された樹脂層5とを備えている。また、金属基材2の粗面2aと樹脂層5との間には金属粒子4が介在しており、樹脂層5は導電材料を含有するものである。
金属基材2が有する溝部3は、セパレータ1が燃料電池に組み込まれたときに、一方が、隣接する単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部となり、他方が、隣接する別の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部となるものである。また、溝部3の一方が燃料ガス供給用溝部、酸化剤ガス供給用溝部のいずれかとなり、他方が冷却水用溝となるものであってもよい。さらに、金属基材2の一方の面のみに溝部3を備えるものであってもよい。このような溝部3の形状は、特に制限はなく、蛇行した連続形状、櫛形状等であってよく、また、深さ、幅、断面形状も特に制限はない。また、金属基材2の表裏で、溝部3の形状が異なるものであってもよい。
【0014】
図3は、本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す部分断面図であり、図4は、図3に示される燃料電池用のセパレータの円で囲まれた部位の拡大断面図である。図3および図4において、本発明のセパレータ11は、金属基材12と、この金属基材12に形成された複数の貫通孔13と、これらの貫通孔13の内壁面を含む金属基材12の表面に位置する粗面12aと、金属基材12の粗面12aを被覆するように電着により形成された樹脂層15とを備えている。また、金属基材12の粗面12aと樹脂層15との間には金属粒子14が介在しており、樹脂層15は導電材料を含有している。
金属基材12が有する貫通孔13は、セパレータ11が燃料電池に組み込まれたときに、燃料ガス、あるいは、酸化剤ガスを単位セルに供給するための流路となるものである。このような貫通孔13の大きさ、個数、配設密度には特に制限はない。
本発明のセパレータ1,11を構成する金属基材2,12の材質は、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金である。アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウムの2000系、5000系、6000系、7000系等が挙げられる。
【0015】
金属基材2,12の粗面2a,12aは、その平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である。粗面2a,12aの平均粗さRaが1.5μm未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性が不十分となることがあり、また、平均粗さRaが10μmを超えると、樹脂層5,15にピンホールが生じるおそれがあり好ましくない。
尚、粗面2a,12aの平均粗さRaは、菱化システム社製 VertScan 2.0により測定する。
【0016】
金属基材2,12(粗面2a,12a)と樹脂層5,15との間に介在する金属粒子4,14は、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子である。このような金属粒子4,14は、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用をなすものであり、平均粒径が5〜500nm、好ましくは10〜100nmの範囲であり、存在密度は2千万〜25千万個/mm2、好ましくは4千万〜10千万個/mm2の範囲である。金属粒子4,14の平均粒径が5nm未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用が不十分となることがあり、平均粒径が500nmを超えると、金属基材2,12と樹脂層5,15との密着性が悪くなり好ましくない。また、金属粒子4,14の存在密度が2千万個/mm2未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用が不十分となることがあり、25千万個/mm2を超えると、金属基材2,12と樹脂層5,15との密着性が悪くなり好ましくない。
尚、金属粒子4,14の平均粒径は、日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300により測定し、存在密度は、日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300で撮影した画像データから算出する。
【0017】
セパレータ1,11を構成する樹脂層5,15は、導電性を有するとともに、金属基材2,12に耐食性を付与するためのものである。この樹脂層5,15は、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により成膜し、その後、硬化させて形成することができる。
アニオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、マレイン化油樹脂、ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のアニオン性合成高分子樹脂とメラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。一方、カチオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のカチオン性合成高分子樹脂とポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。
また、上記の電着性を有する合成高分子樹脂に粘着性を付与するために、ロジン系、テルペン系、石油樹脂等の粘着性付与樹脂を必要に応じて添加してもよい。
【0018】
このような電着性の合成高分子樹脂は、アルカリ性または酸性物質により中和して水に可溶化された状態、あるいは水分散状態で電着に供される。すなわち、アニオン性合成高分子樹脂は、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類、アンモニア、苛性カリ等の無機アルカリで中和する。また、カチオン性合成高分子樹脂は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等の酸で中和する。そして、中和された水可溶の高分子樹脂は、水分散型または溶解型として水に希釈された状態で使用される。
電着により形成された樹脂層5,15の厚みは、2〜100μm、好ましくは5〜30μmの範囲とすることができる。樹脂層5,15の厚みが2μm未満であると、ピンホール等の発生により、良好な耐食性が確保できないことがあり、100μmを超えると、乾燥固化後のヒビ割れ等の発生や、生産性の低下、コスト高といった問題が発生し好ましくない。
【0019】
樹脂層5,15に含有される導電材料としては、例えば、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等のカーボン素材、耐食性金属等が挙げられるが、耐酸性かつ導電性が所望のものが得られれば、これらの導電材料に限定されない。特に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等の微細繊維状炭素材料は、樹脂層5,15に導電性を付与するために好適である。樹脂層5,15における導電材料の含有量は、樹脂層5,15に要求される導電性に応じて適宜設定することができ、例えば、10〜90重量%の範囲で設定することができる。
上述の本発明のセパレータの実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、図5に示すように、金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有するものであってもよい。この場合、下地めっき層6としては、ニッケル、スズ、亜鉛、銅、銀、コバルト等のいずれか1種、または2種以上のめっき層とすることができる。2種以上の場合には、多層の下地めっき層6を形成してもよく、また、下地めっき層6を合金めっき層としてもよい。本発明では、このように金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有する場合であっても、粗面2aの平均粗さRaは、1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲とする。また、上述のセパレータ11においても、金属基材12および金属粒子14と樹脂層15との間に下地めっき層を有してもよい。
【0020】
[セパレータの製造方法]
次に、本発明の燃料電池用のセパレータの製造方法について説明する。
図6は、図1および図2に示されるセパレータ1を例として本発明の製造方法を説明するための工程図である。本発明では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板材2′の両面にフォトリソグラフィーにより所望のパターンでレジスト8,8を形成し、このレジスト8,8をマスクとして両面から金属板材2′をエッチングして溝部3,3を形成する(図6(A))。その後、レジスト8,8を剥離して金属基材2を得る(図6(B))。
次に、この金属基材2の両面に粗面化処理を施して、平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である粗面2aを形成する(図6(C))。粗面2aの平均粗さRaが1.5μm未満であると、後の電着工程において形成する樹脂層5と粗面2aとの密着性が不十分となることがあり、また、平均粗さRaが10μmを超えると、後の電着工程において粗面2aへの追従性が悪くなり、形成される樹脂層5にピンホールが発生しやすくなり好ましくない。この粗面化処理は、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属、または、これらの塩酸塩、硫酸塩等の金属塩を含有する処理液を金属基材2に接触させることにより行うことができる。処理液と金属基材2との接触は、例えば、浸漬法、スプレー法、塗布法等のいずれかの方法により行うことができる。
【0021】
上記の処理液としては、例えば、pHが酸性領域にある処理液を使用することができる。このような処理液は、例えば、塩酸を0.1〜5.0モル/L、好ましくは0.5〜3.0モル/Lの範囲で含有し、上記の金属または金属塩を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有するものであってよい。塩酸濃度が0.1モル/L未満であると、金属基材2の粗面化が不十分なものとなり、5.0モル/Lを超えると、含有する金属または金属塩を粒子として粗面2aの表面に析出させることが困難となり好ましくない。また、金属または金属塩の濃度が0.01モル/L未満であると、粒子として粗面2aの表面に析出する金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲に到達できないことがある。また、金属または金属塩の濃度が1.0モル/Lを超えると、粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲から外れるおそれがあり好ましくない。
【0022】
また、上記の処理液として、例えば、pHがアルカリ性領域、好ましくはpHが8.5以上である処理液を使用することができる。このような処理液は、例えば、キレート剤を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有し、上記の金属または金属塩を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有するものであってよい。キレート剤としては、グリシン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸等を挙げることができる。キレート剤濃度は、処理液中の金属または金属塩の濃度に依存するものであり、0.01モル/L未満であると、含有する金属または金属塩が金属粒子ではなく水酸化物として析出することがある。一方、キレート剤濃度を1.0モル/Lを超える濃度としても、キレート剤の効果が発揮されない。また、金属または金属塩の濃度が0.01モル/L未満であると、粒子として粗面2aの表面に析出する金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲に到達できないことがある。また、金属または金属塩の濃度が1.0モル/Lを超えると、粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲から外れるおそれがあり好ましくない。
金属基材2の粗面化処理における処理液の温度は、例えば、30〜80℃、好ましくは40〜60℃の範囲とすることができ、また、金属基材2と処理液との接触時間は、例えば、0.5〜10分間の範囲とすることができる。処理液の温度が30℃未満であると、粗面化処理の速度が遅く、生産性が低下し、80℃を超えると、金属基材2の溶解が進むことがあり好ましくない。また、接触時間が0.5分未満であると、金属基材2の粗面化が不十分なものとなったり、含有する金属または金属塩を金属粒子として粗面2aの表面に析出させることが困難となり、10分を超えると、金属粒子が異常に析出し、金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲から外れることがあり好ましくない。
【0023】
次に、金属基材2の粗面2a上に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により電着膜を形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層5を形成する(図6(D))。これにより、本発明のセパレータ1が得られる。
電着液を調製するための各種アニオン性、カチオン性の合成高分子樹脂、導電材料は、上述の各材料を使用することができる。また、熱硬化処理は、使用する合成高分子樹脂に応じて条件を適宜設定することができ、例えば、180〜240℃の範囲で加熱温度を設定することができる。
このような電着による樹脂層5の形成では、上記の粗面化処理により粗面2aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着が行われ、かつ、金属基材2の粗面2aが樹脂層5に対してアンカーとして作用する。これにより金属基材2と樹脂層5とが強固に密着したものであり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。
【0024】
図7は、図3および図4に示されるセパレータ11を例として本発明のセパレータの製造方法を説明するための工程図である。本発明では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板材12′の両面に、フォトリソグラフィーにより複数の開口部を有するレジスト18,18を形成し、このレジスト18,18をマスクとして両面から金属板材12′をエッチングして複数の貫通孔13を穿設する(図7(A))。レジスト18,18の複数の開口部は、それぞれ金属板材12′を介して対向するように位置している。その後、レジスト18,18を剥離して金属基材12を得る(図7(B))。
貫通孔13の形成は、上述のエッチングによる方法の他に、サンドブラスト法、レーザー加工法、ドリル加工法等により行うことも可能である。
次に、貫通孔13の内壁面を含む金属基材12に粗面化処理を施して、平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である粗面12aを形成する(図7(C))。この粗面化処理は、上述の製造方法の実施形態と同様とすることができる。
【0025】
次に、金属基材12の粗面12a上に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により電着膜を形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層15を形成する(図7(D))。これにより、本発明のセパレータ11が得られる。
電着液を調製するための各種アニオン性、カチオン性の合成高分子樹脂、導電材料は、上述の各材料を使用することができる。また、熱硬化処理は、使用する合成高分子樹脂に応じて条件を適宜設定することができ、例えば、180〜240℃の範囲で加熱温度を設定することができる。
このような電着による樹脂層15の形成では、上記の粗面化処理により粗面12aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着が行われ、かつ、金属基材12の粗面12aが樹脂層15に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材12と樹脂層15とが強固に密着したものであり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。
【0026】
このような本発明のセパレータの製造方法では、金属基材2,12と樹脂層5,15とが強固に密着され、優れた耐食性と導電性を具備するセパレータの製造が可能であるとともに、アルミニウム基材に多層構造の耐食下地層を形成する従来のセパレータの製造方法に比べて工程が簡略化され、製造コストの低減が可能である。
上述の本発明のセパレータの製造方法の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、図5に示したように、金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有するセパレータを製造する場合、金属基材2の粗面2a上に、ニッケル、スズ、亜鉛、銅、銀、コバルト等のいずれか1種、または2種以上のめっき層を形成して下地めっき層6とする。2種以上の場合には、多層の下地めっき層6を形成してもよく、また、下地めっき層6を合金めっき層としてもよい。この下地めっき層6の形成では、上記の粗面化処理により粗面2aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなしてめっきが行われるので、金属基材2と下地めっき層6とが強固に密着したものとなる。そして、下地めっき層6が形成された粗面2aが樹脂層5に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材2と下地めっき層6と樹脂層5とが強固に密着したものとなり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。尚、本発明では、このように下地めっき層6を形成する場合、下地めっき層6が形成された粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲となるようにする。
【0027】
[本発明のセパレータを用いた燃料電池の例]
ここで、本発明のセパレータを用いた高分子電解質型燃料電池の一例を、図8〜図11を参照して説明する。図8は高分子電解質型燃料電池の構造を説明するための部分構成図であり、図9は高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。また、図10および図11は、それぞれ高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を異なった方向から示す斜視図である。
図8〜図11において、高分子電解質型燃料電池21は、膜電極複合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)31とセパレータ41とからなる単位セルが複数個積層されたスタック構造を有している。
MEA31は、図9に示されるように、高分子電解質膜32の一方の面に配設された触媒層33とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)34とからなる燃料極(水素極)35と、高分子電解質膜32の他方の面に配設された触媒層36とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)37とからなる空気極(酸素極)38を備えている。
【0028】
セパレータ41は、一方の面に燃料ガス供給用溝部43aを備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部44aを備えたセパレータ41Aと、一方の面に燃料ガス供給用溝部43aを備え、他方の面に冷却水用溝部44bを備えたセパレータ41Bと、一方の面に冷却水用溝部43bを備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部44aを備えたセパレータ41Cとからなっている。このようなセパレータ41A,41B,41Cは、本発明のセパレータであり、その両面に、図1および図2に示されるように樹脂層が形成されているが、図示例では、省略している。
【0029】
各セパレータ41A,41B,41Cと上記の高分子電解質膜32の所定位置には、2個の燃料ガス供給孔45a,45b、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46b、2個の冷却水供給孔47a,47bが貫通孔として形成されている。そして、セパレータ41Aの酸化剤ガス供給用溝部44aが形成されている面に、MEA31の空気極(酸素極)38が当接し、セパレータ41Bの燃料ガス供給用溝部43aが形成されている面に、MEA31の燃料極(水素極)35が当接するように、また、セパレータ41Bの冷却水用溝部44bが形成された面とセパレータ41Cの冷却水用溝部43bが形成された面とが当接するように、各セパレータ41A,41B,41Cと単位セルであるMEA31が積層され、この繰り返しで高分子電解質型燃料電池21が構成されている。このように積層された状態で、上記の2個の燃料ガス供給孔45a,45bはそれぞれ積層方向に貫通する燃料ガスの供給路を形成し、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46bはそれぞれ積層方法に貫通する酸化剤ガスの供給路を形成し、2個の冷却水供給孔47a,47bはそれぞれ積層方向に貫通する冷却水の供給路を形成している。
【0030】
また、本発明のセパレータを用いた高分子電解質型燃料電池の他の例を、図12〜図14を参照して説明する。図12は、高分子電解質型燃料電池の構造を説明するための平面図であり、図13は、図12に示される高分子電解質型燃料電池のA−A線での縦断面図である。また、図14は高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【0031】
図12および図13に示されるように、高分子電解質型燃料電池51は、膜電極複合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)61とセパレータ71A,71Bとからなる単位セル52を平面状に複数個配列し、これらを電気的に直列に接続し、単位セルの個数分(図9では4個分)の電圧を取り出す高分子電解質型燃料電池である。また、各単位セル52の周りには、これと略同じ厚さの絶縁部55を設け、全体を平面状にしている。すなわち、平板状の絶縁部55のくり抜き部に単位セル52を嵌め込んだ状態とすることにより、単位セル52と絶縁部55とを平面状に設けているものである。
この高分子電解質型燃料電池51は、絶縁部55のうち、隣接する単位セル間に位置する絶縁部55に、貫通してその表裏の接続を行うための表裏接続部57cを設けている。そして、この表裏接続部57cを、接続配線57aを介して、隣接する一方の単位セルのセパレータ71A(例えば、燃料極側セパレータ)に接続し、また、接続配線57bを介して、隣接する他方の単位セルのセパレータ71B(例えば、空気極側セパレータ)に接続している。これにより、隣接する単位セル間が電気的に直列に接続されている。そして、直列に接続された一方の端部に位置する単位セル52のセパレータ71Aと、他方の端部に位置する単位セル52のセパレータ71Bには、配線75,76が接続されている。
尚、図示例では単位セルの個数を4個としているが、単位セルの個数には制限はない。
【0032】
絶縁部55は、接続部57(接続配線57a,57bおよび表裏接続部57c)で接続される以外は、隣接する単位セル間を互いに絶縁するものである。このような絶縁部55の材質は、処理性、耐久性の面で優れたものであれば特に限定はされず、例えば、ガラスエポキシ、ポリイミド樹脂等が使用される。また、絶縁部55は、絶縁性材料のみからなるものでも、導電性材料を一部含むものでもよい。
接続部57の表裏接続部57cとしては、スルホール接続部、あるいは、充填ビア接続部、バンプ接続部のいずれかを、隣接する単位セル間に位置する絶縁部55中に設けたものとすることができる。これらの表裏接続部57cは、従来の配線基板技術の応用として形成できる。
また、MEA61は、図14に示されるように、高分子電解質膜62の一方の面に配設された触媒層63とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)64とからなる燃料極(水素極)65と、高分子電解質膜62の他方の面に配設された触媒層66とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)67とからなる空気極(酸素極)68を備えている。
セパレータ71A,71Bは、図3および図4に示されるような本発明のセパレータであり、複数の貫通孔を備えた金属基材に導電性の樹脂層を有するものである。
【実施例】
【0033】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
金属板材として、80mm×80mm、厚み0.8mmのアルミニウム合金(A5052P)を準備し、表面の脱脂処理を行った。
次に、このアルミニウム合金の両面に、ドライフィルムレジスト(ニチゴー・モートン(株)製)をラミネートして35μm厚の感光性レジスト層を形成し、その後、溝部形成用のフォトマスクを介して露光(5kW水銀灯により15秒間照射)、現像(30℃の2%炭酸水素ナトリウム水溶液をスプレー)してレジストを形成した。
次いで、上記のレジストを介してアルミニウム合金の両面から45℃に加熱した塩化第二鉄水溶液をスプレーして、所定の深さまでハーフエッチングを行った。その後、50℃の5%炭酸水素ナトリウム水溶液でレジストを剥離し、洗浄処理を施した。これにより、幅が1mm、深さが0.3mmのほぼ半円形状の断面を有し、振れ幅50mm、ピッチ2mmで蛇行した長さ1300mmの溝部を両面に備えた金属基材を得た。
【0034】
次に、上記の金属基材に対して、硝酸水溶液を用いて酸化被膜除去処理を行った。次いで、純水に塩酸を1.2モル/L、硫酸銅5水塩を0.04モル/Lの濃度で溶解した処理液Aに金属基材を浸漬(50℃、1分間)して粗面化処理を施し、引き上げた後、水洗、乾燥した。このような粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを菱化システム社製 VertScan 2.0を用いて測定し、結果を下記の表1に示した。尚、粗面化処理を施す前の金属基材の平均粗さRaを上記と同様に測定したところ、0.3μmであった。
また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300を用いて測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300で撮影した画像データから算出した結果、約6千万個/mm2であった。
次いで、エポキシ電着液に、導電材料としてカーボンブラック(Cabot(株)製 Vulcan XC−72)を樹脂固形分に対して75重量%添加し分散させて、電着液とした。この電着液を25℃に保って撹拌し、この中に上記の金属基材を浸漬し、極間40mm、電圧50Vで1分間電着を行い、引き上げた金属基材を純水洗浄した。その後、ドライヤーで熱風乾燥(150℃、3分間)し、さらに、窒素雰囲気中で180℃、1時間の熱硬化処理を施した。これにより厚み15μmの樹脂層が形成され、セパレータが得られた。
【0035】
尚、使用したエポキシ電着液は下記のようにして調製した。
まず、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(エポキシ当量910)1000重量部を撹拌下に70℃に保ちながら、エチレングリコールモノエチルエーテル463重量部に溶解させ、さらに、ジエチルアミン80.3重量部を加えて100℃で2時間反応させてアミンエポキシ付加物(A)を調製した。
また、コロネートL(日本ポリウレタン(株)製 ジイソシアネート:NCO13%の不揮発分75重量%)875重量部にジブチル錫ラウレート0.05重量部を加え50℃に加熱し、これに2−エチルヘキサノール390重量部を添加し、その後、120℃で90分間反応させた。得られた反応生成物をエチレングリコールモノエチルエーテル130重量部で希釈した成分(B)を得た。
次に、上記のアミンエポキシ付加物(A)1000重量部と成分(B)400重量部からなる混合物を、氷酢酸30重量部で中和した後、脱イオン水570重量部を用いて希釈し、不揮発分50重量%の樹脂Aを調製した。この樹脂A200.2重量部(樹脂成分86.3容量)、脱イオン水583.3重量部、およびジブチル錫ラウレート2.4重量部を配合してエポキシ電着液を調製した。
【0036】
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を下記の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
(電気抵抗の測定方法)
セパレータをガス拡散層(東レ(株)製 TGP−H−060 190μm厚)
で両側から挟み込み、さらに、これらを銅に金めっきを施した厚さ5mmの電極
で挟み込んで圧着(圧力:20kgf/cm2)し、電極間の抵抗を測定する。
【0037】
また、上記のセパレータについて、下記の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
(耐食性試験の条件)
1モルの硫酸水溶液(70℃)に100時間浸漬した後、引き上げ、水酸化アルミ
ニウムの発生を観察する。
評価基準:
○…水酸化アルミニウムの発生が見られず、耐食性が良好である
×…水酸化アルミニウムの発生があり、耐食性は不十分である
【0038】
さらに、上記のセパレータについて、下記の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
(密着性試験の条件)
エポキシ系接着剤の付いたスタッドピンをセパレータに垂直に取り付けて、Quad
Group社製のロミュラスを使って、引っ張り密着強度測定を行い、スタッドピン
が引き剥がされた部位のセパレータを観察した。
評価基準:
○…樹脂層内部での凝集破壊が起こり、樹脂層と金属基材との密着は維持
されており、密着性は良好である
×…樹脂層と金属基材との界面で剥離が生じ、金属基材が露出しており、
密着性は不十分である
【0039】
[実施例2]
電着による樹脂層の形成前に、金属基材の粗面上に下記の条件で下地めっき層(厚み3μm)を形成した他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
(下地めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
下地めっき層を形成後の金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0040】
[実施例3]
粗面化処理に使用する処理液として、純水に塩酸を2モル/L、硫酸スズを0.15モル/Lの濃度で溶解した処理液Bを使用した他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在するスズ粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約15nmであり、スズ粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約4千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0041】
[実施例4]
電着による樹脂層の形成前に、金属基材の粗面上に下記の条件で下地めっき層(厚み3μm)を形成した他は、実施例3と同様にして、セパレータを作製した。
(下地めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
下地めっき層を形成後の金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0042】
[実施例5]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を0.5分間として、粗面化処理の条件を弱めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約2千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0043】
[実施例6]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を10分間として、粗面化処理の条件を強めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約24千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0044】
[実施例7]
粗面化処理に使用する処理液として、純水に硫酸銅を0.1モル/L、硫酸ニッケルを0.4モル/Lの濃度で溶解し、これにグリシンを0.15モル/L添加し、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した処理液Cを使用し、粗面化処理における浸漬を70℃、10分間とした他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子、ニッケル粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、銅粒子が約11nmであり、ニッケル粒子が約18nmであった。さらに、銅粒子およびニッケル粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、銅粒子が約5千万個/mm2であり、ニッケル粒子が約8千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様にして、溝部を両面に備えた金属基材を作製し、硝酸水溶液を用いて前処理を施し、水洗した。
次に、上記の金属基材に対して、下記の条件で亜鉛置換処理を施して亜鉛合金層(厚み0.05μm)を、溝部を含めた金属基材上に形成した。
(亜鉛置換処理の条件)
・使用浴 : ジンケート浴(メルテックス(株)製 アルモンEN)
・液温 : 30℃
・処理時間 : 20秒
【0046】
次いで、亜鉛合金層上に、下記の電気めっき条件で銅めっき層(厚み1μm)、ニッケルめっき層(厚み5μm)、金めっき層(厚み0.05μm)を順次積層して、亜鉛/銅/ニッケル/金の4層構造からなる耐食下地層を、溝部を含めた金属基材上に形成した。
(銅電気めっき条件)
・使用浴 : シアン化銅浴
・pH : 10.5
・電流密度 : 2A/dm2
・液温 : 40℃
(ニッケル電気めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
(金電気めっき条件)
・使用浴 : アルカリ性高純度金めっき浴
・pH : 12
・電流密度 : 0.4A/dm2
・液温 : 60℃
【0047】
次いで、実施例1と同様にして、耐食下地層上に厚み15μmの樹脂層を形成し、セパレータを得た。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0048】
[比較例2]
金属基材に対する粗面化処理を行わない他は、実施例1と同様に金属基材上に樹脂層を形成して、セパレータを作製した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0049】
[比較例3]
金属基材に対する粗面化処理を行わない他は、実施例2と同様に金属基材上に下地めっき層、樹脂層を形成して、セパレータを作製した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0050】
[比較例4]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を0.3分間として、粗面化処理の条件を弱めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約200万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0051】
[比較例5]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を20分間として、粗面化処理の条件を強めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約30千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、実施例1〜7のセパレータは、表裏導通の電気抵抗が低く良好な導電性を有し、また、優れた耐食性を有し、さらに、樹脂層の密着性が良好であることが確認された。
これに対して、比較例1〜5のセパレータは、導電性、耐食性、密着性の少なくとも1つが実施例1〜7のセパレータに比べて劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個接続した燃料電池の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,11…セパレータ
2,12…金属基材
2a,12a…粗面
3…溝部
4,14…金属粒子
5,15…樹脂層
13…貫通孔
21,51…高分子電解質型燃料電池
31,61…膜電極複合体(MEA)
41A,41B,41C,71A,71B…セパレータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のセパレータに関し、特に固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個接続した燃料電池の各単位セルに使用するセパレータと、このようなセパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、簡単には、外部より燃料(還元剤)と酸素または空気(酸化剤)を連続的に供給し、電気化学的に反応させて電気エネルギーを取り出す装置で、その作動温度、使用燃料の種類、用途などで分類される。また、最近では、主に使用される電解質の種類によって、固体酸化物型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池、固体高分子電解質型燃料電池、アルカリ水溶液型燃料電池の5種類に大きく分類させるのがー般的である。
これらの燃料電池は、メタン等から生成された水素ガスを燃料とするものであるが、最近では、燃料としてメタノール水溶液をダイレクトに用いるダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCとも言う)も知られている。
このような燃料電池のなかで、固体高分子膜を2種類の触媒で挟み込み、更に、これらの部材をガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)とセパレータで挟んだ構成の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとも言う)が注目されている。
このPEFCにおいては、固体高分子電解質膜の一方の面に空気極(酸素極)を、他方の面に燃料極(水素極)を配置した単位セルを、所望の起電力を得るために、複数個積層したスタック構造、あるいは、平面状に複数個を直列に接続した構造がとられている。例えば、上記のスタック構造の場合、単位セル間に配設されるセパレータは、そのー方の面に、隣接するー方の単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部が形成され、他方の面に、隣接する他方の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部が形成されている。
【0003】
このようなセパレータとしては、コスト、強度の点から、金属製のセパレータが好ましいが、耐食性に問題があった。このため、導電性の電着塗膜を形成して耐食性を付与した金属セパレータが開発されている。しかし、酸化被膜を生じ易いアルミニウムのような金属基材を使用し、この金属基材上に電着塗膜を直接形成した金属セパレータでは、電着塗膜にムラ、カケ、ピンホール等の欠陥が生じ易く均一な電着塗膜の形成が困難であり、燃料電池内部の酸性条件下での発電状態における耐食性に問題があった。
このため、アルミニウムのような耐食性の低い金属基材に、耐食下地層として、Zn置換めっき層、中間層(Cuめっき層、Niめっき層)、Auめっき層とを積層して形成し、この耐食下地層上にポリイミド樹脂層を形成したセパレータが開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−113080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多層構造の耐食下地層の形成は、工程数が多く作製時間が長くなり、製造コストの増大を来すという問題があった。また、アルミニウム基材と多層構造の耐食下地層との熱膨張係数の相違により、セパレータとして使用中に耐食下地層にクラックが生じ易く、耐食性が安定して発現されないという問題もあった。さらに、耐食下地層が多層のめっき膜であるため、高温での長時間の使用に伴い、各めっき層界面での合金化が進行し、カーケンダルボイドが発生して劣化の要因となるという問題があった。
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、強度、耐食性に優れ、接続抵抗が小さい燃料電池用のセパレータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明のセパレータは、金属基材と、該金属基材を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基材と前記樹脂層との間に介在する金属粒子とを備え、前記金属基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記樹脂層で被覆されている前記金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面を有しており、前記金属粒子は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、前記樹脂層は導電材料を含有するような構成とした。
【0007】
本発明の他の態様として、前記金属基材が少なくとも一方の面に溝部を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属基材が複数の貫通孔を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記導電材料がカーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属基材および前記金属粒子と前記樹脂層との間に下地めっき層を有するような構成とした。
【0008】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材に粗面化処理を施す工程と、電着性を有する樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着にて樹脂膜を前記金属基材の粗面上に形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層とする工程を有し、前記粗面化処理では、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属または金属塩を含有する処理液を接触させ、平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成するような構成とした。
【0009】
本発明の他の態様として、前記処理液は、pHが酸性領域にあるような構成とし、また、前記処理液は、塩酸を0.1〜5.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記処理液は、pHがアルカリ性領域にあるような構成とし、また、前記処理液は、キレート剤を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、粗面化処理を施す前に、前記金属基材に対して酸化被膜の除去処理を施すような構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセパレータは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材の表面が平均粗さRa1.5〜10μmの範囲の粗面であり、この粗面に所定の金属粒子を介在させて導電性の樹脂層が配されているので、金属基材と樹脂層とが強固に密着されるとともに、表裏導通における電気抵抗が低く、優れた耐食性を具備するものである。
【0011】
本発明のセパレータの製造方法では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材上に導電性の樹脂層を電着により形成する前に、所定の金属または金属塩を含有する処理液を用いて金属基材に粗面化処理を施して平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成し、これと同時に粗面に金属粒子を析出させるので、この金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着により樹脂層が形成され、かつ、金属基材の粗面が樹脂層に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材と樹脂層とが強固に密着され、表裏導通における電気抵抗が低く良好な導電性を有し、優れた耐食性を具備するセパレータの製造が可能であるとともに、従来のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材を用いたセパレータの製造方法に比べて工程が簡略化され、製造コストの低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】図1に示される燃料電池用のセパレータの部分拡大断面図である。
【図3】本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す部分断面図である。
【図4】図3に示される燃料電池用のセパレータの部分拡大断面図である。
【図5】本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す図2相当の部分拡大断面図である。
【図6】本発明のセパレータの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図7】本発明のセパレータの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
【図8】本発明のセパレータを使用した高分子電解質型燃料電池の一例を説明するための部分構成図である。
【図9】図8に示される高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【図10】図8に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を示す斜視図である。
【図11】図8に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を図10とは異なった方向から示す斜視図である。
【図12】本発明のセパレータを使用した高分子電解質型燃料電池の他の例を説明するための平面図である。
【図13】図12に示される高分子電解質型燃料電池のA−A線での縦断面図である。
【図14】図12に示される高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[セパレータ]
図1は、本発明の燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す部分断面図であり、図2は、図1に示される燃料電池用のセパレータの円で囲まれた部位の拡大断面図である。図1および図2において、本発明のセパレータ1は、金属基材2と、この金属基材2の両面に形成された溝部3と、これらの溝部3の内壁面を含む金属基材2の表面に位置する粗面2aと、金属基材2の粗面2aを被覆するように電着により形成された樹脂層5とを備えている。また、金属基材2の粗面2aと樹脂層5との間には金属粒子4が介在しており、樹脂層5は導電材料を含有するものである。
金属基材2が有する溝部3は、セパレータ1が燃料電池に組み込まれたときに、一方が、隣接する単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部となり、他方が、隣接する別の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部となるものである。また、溝部3の一方が燃料ガス供給用溝部、酸化剤ガス供給用溝部のいずれかとなり、他方が冷却水用溝となるものであってもよい。さらに、金属基材2の一方の面のみに溝部3を備えるものであってもよい。このような溝部3の形状は、特に制限はなく、蛇行した連続形状、櫛形状等であってよく、また、深さ、幅、断面形状も特に制限はない。また、金属基材2の表裏で、溝部3の形状が異なるものであってもよい。
【0014】
図3は、本発明の燃料電池用のセパレータの他の実施形態を示す部分断面図であり、図4は、図3に示される燃料電池用のセパレータの円で囲まれた部位の拡大断面図である。図3および図4において、本発明のセパレータ11は、金属基材12と、この金属基材12に形成された複数の貫通孔13と、これらの貫通孔13の内壁面を含む金属基材12の表面に位置する粗面12aと、金属基材12の粗面12aを被覆するように電着により形成された樹脂層15とを備えている。また、金属基材12の粗面12aと樹脂層15との間には金属粒子14が介在しており、樹脂層15は導電材料を含有している。
金属基材12が有する貫通孔13は、セパレータ11が燃料電池に組み込まれたときに、燃料ガス、あるいは、酸化剤ガスを単位セルに供給するための流路となるものである。このような貫通孔13の大きさ、個数、配設密度には特に制限はない。
本発明のセパレータ1,11を構成する金属基材2,12の材質は、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金である。アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウムの2000系、5000系、6000系、7000系等が挙げられる。
【0015】
金属基材2,12の粗面2a,12aは、その平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である。粗面2a,12aの平均粗さRaが1.5μm未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性が不十分となることがあり、また、平均粗さRaが10μmを超えると、樹脂層5,15にピンホールが生じるおそれがあり好ましくない。
尚、粗面2a,12aの平均粗さRaは、菱化システム社製 VertScan 2.0により測定する。
【0016】
金属基材2,12(粗面2a,12a)と樹脂層5,15との間に介在する金属粒子4,14は、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子である。このような金属粒子4,14は、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用をなすものであり、平均粒径が5〜500nm、好ましくは10〜100nmの範囲であり、存在密度は2千万〜25千万個/mm2、好ましくは4千万〜10千万個/mm2の範囲である。金属粒子4,14の平均粒径が5nm未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用が不十分となることがあり、平均粒径が500nmを超えると、金属基材2,12と樹脂層5,15との密着性が悪くなり好ましくない。また、金属粒子4,14の存在密度が2千万個/mm2未満であると、粗面2a,12aと樹脂層5,15との密着性を向上させる作用が不十分となることがあり、25千万個/mm2を超えると、金属基材2,12と樹脂層5,15との密着性が悪くなり好ましくない。
尚、金属粒子4,14の平均粒径は、日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300により測定し、存在密度は、日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300で撮影した画像データから算出する。
【0017】
セパレータ1,11を構成する樹脂層5,15は、導電性を有するとともに、金属基材2,12に耐食性を付与するためのものである。この樹脂層5,15は、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により成膜し、その後、硬化させて形成することができる。
アニオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、マレイン化油樹脂、ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のアニオン性合成高分子樹脂とメラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。一方、カチオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のカチオン性合成高分子樹脂とポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。
また、上記の電着性を有する合成高分子樹脂に粘着性を付与するために、ロジン系、テルペン系、石油樹脂等の粘着性付与樹脂を必要に応じて添加してもよい。
【0018】
このような電着性の合成高分子樹脂は、アルカリ性または酸性物質により中和して水に可溶化された状態、あるいは水分散状態で電着に供される。すなわち、アニオン性合成高分子樹脂は、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類、アンモニア、苛性カリ等の無機アルカリで中和する。また、カチオン性合成高分子樹脂は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等の酸で中和する。そして、中和された水可溶の高分子樹脂は、水分散型または溶解型として水に希釈された状態で使用される。
電着により形成された樹脂層5,15の厚みは、2〜100μm、好ましくは5〜30μmの範囲とすることができる。樹脂層5,15の厚みが2μm未満であると、ピンホール等の発生により、良好な耐食性が確保できないことがあり、100μmを超えると、乾燥固化後のヒビ割れ等の発生や、生産性の低下、コスト高といった問題が発生し好ましくない。
【0019】
樹脂層5,15に含有される導電材料としては、例えば、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等のカーボン素材、耐食性金属等が挙げられるが、耐酸性かつ導電性が所望のものが得られれば、これらの導電材料に限定されない。特に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等の微細繊維状炭素材料は、樹脂層5,15に導電性を付与するために好適である。樹脂層5,15における導電材料の含有量は、樹脂層5,15に要求される導電性に応じて適宜設定することができ、例えば、10〜90重量%の範囲で設定することができる。
上述の本発明のセパレータの実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、図5に示すように、金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有するものであってもよい。この場合、下地めっき層6としては、ニッケル、スズ、亜鉛、銅、銀、コバルト等のいずれか1種、または2種以上のめっき層とすることができる。2種以上の場合には、多層の下地めっき層6を形成してもよく、また、下地めっき層6を合金めっき層としてもよい。本発明では、このように金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有する場合であっても、粗面2aの平均粗さRaは、1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲とする。また、上述のセパレータ11においても、金属基材12および金属粒子14と樹脂層15との間に下地めっき層を有してもよい。
【0020】
[セパレータの製造方法]
次に、本発明の燃料電池用のセパレータの製造方法について説明する。
図6は、図1および図2に示されるセパレータ1を例として本発明の製造方法を説明するための工程図である。本発明では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板材2′の両面にフォトリソグラフィーにより所望のパターンでレジスト8,8を形成し、このレジスト8,8をマスクとして両面から金属板材2′をエッチングして溝部3,3を形成する(図6(A))。その後、レジスト8,8を剥離して金属基材2を得る(図6(B))。
次に、この金属基材2の両面に粗面化処理を施して、平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である粗面2aを形成する(図6(C))。粗面2aの平均粗さRaが1.5μm未満であると、後の電着工程において形成する樹脂層5と粗面2aとの密着性が不十分となることがあり、また、平均粗さRaが10μmを超えると、後の電着工程において粗面2aへの追従性が悪くなり、形成される樹脂層5にピンホールが発生しやすくなり好ましくない。この粗面化処理は、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属、または、これらの塩酸塩、硫酸塩等の金属塩を含有する処理液を金属基材2に接触させることにより行うことができる。処理液と金属基材2との接触は、例えば、浸漬法、スプレー法、塗布法等のいずれかの方法により行うことができる。
【0021】
上記の処理液としては、例えば、pHが酸性領域にある処理液を使用することができる。このような処理液は、例えば、塩酸を0.1〜5.0モル/L、好ましくは0.5〜3.0モル/Lの範囲で含有し、上記の金属または金属塩を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有するものであってよい。塩酸濃度が0.1モル/L未満であると、金属基材2の粗面化が不十分なものとなり、5.0モル/Lを超えると、含有する金属または金属塩を粒子として粗面2aの表面に析出させることが困難となり好ましくない。また、金属または金属塩の濃度が0.01モル/L未満であると、粒子として粗面2aの表面に析出する金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲に到達できないことがある。また、金属または金属塩の濃度が1.0モル/Lを超えると、粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲から外れるおそれがあり好ましくない。
【0022】
また、上記の処理液として、例えば、pHがアルカリ性領域、好ましくはpHが8.5以上である処理液を使用することができる。このような処理液は、例えば、キレート剤を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有し、上記の金属または金属塩を0.01〜1.0モル/L、好ましくは0.1〜0.5モル/Lの範囲で含有するものであってよい。キレート剤としては、グリシン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸等を挙げることができる。キレート剤濃度は、処理液中の金属または金属塩の濃度に依存するものであり、0.01モル/L未満であると、含有する金属または金属塩が金属粒子ではなく水酸化物として析出することがある。一方、キレート剤濃度を1.0モル/Lを超える濃度としても、キレート剤の効果が発揮されない。また、金属または金属塩の濃度が0.01モル/L未満であると、粒子として粗面2aの表面に析出する金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲に到達できないことがある。また、金属または金属塩の濃度が1.0モル/Lを超えると、粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲から外れるおそれがあり好ましくない。
金属基材2の粗面化処理における処理液の温度は、例えば、30〜80℃、好ましくは40〜60℃の範囲とすることができ、また、金属基材2と処理液との接触時間は、例えば、0.5〜10分間の範囲とすることができる。処理液の温度が30℃未満であると、粗面化処理の速度が遅く、生産性が低下し、80℃を超えると、金属基材2の溶解が進むことがあり好ましくない。また、接触時間が0.5分未満であると、金属基材2の粗面化が不十分なものとなったり、含有する金属または金属塩を金属粒子として粗面2aの表面に析出させることが困難となり、10分を超えると、金属粒子が異常に析出し、金属粒子の平均粒径、存在密度が、上記の本発明のセパレータにおける規定範囲から外れることがあり好ましくない。
【0023】
次に、金属基材2の粗面2a上に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により電着膜を形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層5を形成する(図6(D))。これにより、本発明のセパレータ1が得られる。
電着液を調製するための各種アニオン性、カチオン性の合成高分子樹脂、導電材料は、上述の各材料を使用することができる。また、熱硬化処理は、使用する合成高分子樹脂に応じて条件を適宜設定することができ、例えば、180〜240℃の範囲で加熱温度を設定することができる。
このような電着による樹脂層5の形成では、上記の粗面化処理により粗面2aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着が行われ、かつ、金属基材2の粗面2aが樹脂層5に対してアンカーとして作用する。これにより金属基材2と樹脂層5とが強固に密着したものであり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。
【0024】
図7は、図3および図4に示されるセパレータ11を例として本発明のセパレータの製造方法を説明するための工程図である。本発明では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板材12′の両面に、フォトリソグラフィーにより複数の開口部を有するレジスト18,18を形成し、このレジスト18,18をマスクとして両面から金属板材12′をエッチングして複数の貫通孔13を穿設する(図7(A))。レジスト18,18の複数の開口部は、それぞれ金属板材12′を介して対向するように位置している。その後、レジスト18,18を剥離して金属基材12を得る(図7(B))。
貫通孔13の形成は、上述のエッチングによる方法の他に、サンドブラスト法、レーザー加工法、ドリル加工法等により行うことも可能である。
次に、貫通孔13の内壁面を含む金属基材12に粗面化処理を施して、平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲である粗面12aを形成する(図7(C))。この粗面化処理は、上述の製造方法の実施形態と同様とすることができる。
【0025】
次に、金属基材12の粗面12a上に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により電着膜を形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層15を形成する(図7(D))。これにより、本発明のセパレータ11が得られる。
電着液を調製するための各種アニオン性、カチオン性の合成高分子樹脂、導電材料は、上述の各材料を使用することができる。また、熱硬化処理は、使用する合成高分子樹脂に応じて条件を適宜設定することができ、例えば、180〜240℃の範囲で加熱温度を設定することができる。
このような電着による樹脂層15の形成では、上記の粗面化処理により粗面12aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなして電着が行われ、かつ、金属基材12の粗面12aが樹脂層15に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材12と樹脂層15とが強固に密着したものであり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。
【0026】
このような本発明のセパレータの製造方法では、金属基材2,12と樹脂層5,15とが強固に密着され、優れた耐食性と導電性を具備するセパレータの製造が可能であるとともに、アルミニウム基材に多層構造の耐食下地層を形成する従来のセパレータの製造方法に比べて工程が簡略化され、製造コストの低減が可能である。
上述の本発明のセパレータの製造方法の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、図5に示したように、金属基材2および金属粒子4と樹脂層5との間に下地めっき層6を有するセパレータを製造する場合、金属基材2の粗面2a上に、ニッケル、スズ、亜鉛、銅、銀、コバルト等のいずれか1種、または2種以上のめっき層を形成して下地めっき層6とする。2種以上の場合には、多層の下地めっき層6を形成してもよく、また、下地めっき層6を合金めっき層としてもよい。この下地めっき層6の形成では、上記の粗面化処理により粗面2aに析出した金属粒子が反応開始剤の作用をなしてめっきが行われるので、金属基材2と下地めっき層6とが強固に密着したものとなる。そして、下地めっき層6が形成された粗面2aが樹脂層5に対してアンカーとして作用し、これにより金属基材2と下地めっき層6と樹脂層5とが強固に密着したものとなり、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。尚、本発明では、このように下地めっき層6を形成する場合、下地めっき層6が形成された粗面2aの平均粗さRaが1.5〜10μm、好ましくは2〜5μmの範囲となるようにする。
【0027】
[本発明のセパレータを用いた燃料電池の例]
ここで、本発明のセパレータを用いた高分子電解質型燃料電池の一例を、図8〜図11を参照して説明する。図8は高分子電解質型燃料電池の構造を説明するための部分構成図であり、図9は高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。また、図10および図11は、それぞれ高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を異なった方向から示す斜視図である。
図8〜図11において、高分子電解質型燃料電池21は、膜電極複合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)31とセパレータ41とからなる単位セルが複数個積層されたスタック構造を有している。
MEA31は、図9に示されるように、高分子電解質膜32の一方の面に配設された触媒層33とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)34とからなる燃料極(水素極)35と、高分子電解質膜32の他方の面に配設された触媒層36とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)37とからなる空気極(酸素極)38を備えている。
【0028】
セパレータ41は、一方の面に燃料ガス供給用溝部43aを備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部44aを備えたセパレータ41Aと、一方の面に燃料ガス供給用溝部43aを備え、他方の面に冷却水用溝部44bを備えたセパレータ41Bと、一方の面に冷却水用溝部43bを備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部44aを備えたセパレータ41Cとからなっている。このようなセパレータ41A,41B,41Cは、本発明のセパレータであり、その両面に、図1および図2に示されるように樹脂層が形成されているが、図示例では、省略している。
【0029】
各セパレータ41A,41B,41Cと上記の高分子電解質膜32の所定位置には、2個の燃料ガス供給孔45a,45b、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46b、2個の冷却水供給孔47a,47bが貫通孔として形成されている。そして、セパレータ41Aの酸化剤ガス供給用溝部44aが形成されている面に、MEA31の空気極(酸素極)38が当接し、セパレータ41Bの燃料ガス供給用溝部43aが形成されている面に、MEA31の燃料極(水素極)35が当接するように、また、セパレータ41Bの冷却水用溝部44bが形成された面とセパレータ41Cの冷却水用溝部43bが形成された面とが当接するように、各セパレータ41A,41B,41Cと単位セルであるMEA31が積層され、この繰り返しで高分子電解質型燃料電池21が構成されている。このように積層された状態で、上記の2個の燃料ガス供給孔45a,45bはそれぞれ積層方向に貫通する燃料ガスの供給路を形成し、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46bはそれぞれ積層方法に貫通する酸化剤ガスの供給路を形成し、2個の冷却水供給孔47a,47bはそれぞれ積層方向に貫通する冷却水の供給路を形成している。
【0030】
また、本発明のセパレータを用いた高分子電解質型燃料電池の他の例を、図12〜図14を参照して説明する。図12は、高分子電解質型燃料電池の構造を説明するための平面図であり、図13は、図12に示される高分子電解質型燃料電池のA−A線での縦断面図である。また、図14は高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【0031】
図12および図13に示されるように、高分子電解質型燃料電池51は、膜電極複合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)61とセパレータ71A,71Bとからなる単位セル52を平面状に複数個配列し、これらを電気的に直列に接続し、単位セルの個数分(図9では4個分)の電圧を取り出す高分子電解質型燃料電池である。また、各単位セル52の周りには、これと略同じ厚さの絶縁部55を設け、全体を平面状にしている。すなわち、平板状の絶縁部55のくり抜き部に単位セル52を嵌め込んだ状態とすることにより、単位セル52と絶縁部55とを平面状に設けているものである。
この高分子電解質型燃料電池51は、絶縁部55のうち、隣接する単位セル間に位置する絶縁部55に、貫通してその表裏の接続を行うための表裏接続部57cを設けている。そして、この表裏接続部57cを、接続配線57aを介して、隣接する一方の単位セルのセパレータ71A(例えば、燃料極側セパレータ)に接続し、また、接続配線57bを介して、隣接する他方の単位セルのセパレータ71B(例えば、空気極側セパレータ)に接続している。これにより、隣接する単位セル間が電気的に直列に接続されている。そして、直列に接続された一方の端部に位置する単位セル52のセパレータ71Aと、他方の端部に位置する単位セル52のセパレータ71Bには、配線75,76が接続されている。
尚、図示例では単位セルの個数を4個としているが、単位セルの個数には制限はない。
【0032】
絶縁部55は、接続部57(接続配線57a,57bおよび表裏接続部57c)で接続される以外は、隣接する単位セル間を互いに絶縁するものである。このような絶縁部55の材質は、処理性、耐久性の面で優れたものであれば特に限定はされず、例えば、ガラスエポキシ、ポリイミド樹脂等が使用される。また、絶縁部55は、絶縁性材料のみからなるものでも、導電性材料を一部含むものでもよい。
接続部57の表裏接続部57cとしては、スルホール接続部、あるいは、充填ビア接続部、バンプ接続部のいずれかを、隣接する単位セル間に位置する絶縁部55中に設けたものとすることができる。これらの表裏接続部57cは、従来の配線基板技術の応用として形成できる。
また、MEA61は、図14に示されるように、高分子電解質膜62の一方の面に配設された触媒層63とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)64とからなる燃料極(水素極)65と、高分子電解質膜62の他方の面に配設された触媒層66とガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)67とからなる空気極(酸素極)68を備えている。
セパレータ71A,71Bは、図3および図4に示されるような本発明のセパレータであり、複数の貫通孔を備えた金属基材に導電性の樹脂層を有するものである。
【実施例】
【0033】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
金属板材として、80mm×80mm、厚み0.8mmのアルミニウム合金(A5052P)を準備し、表面の脱脂処理を行った。
次に、このアルミニウム合金の両面に、ドライフィルムレジスト(ニチゴー・モートン(株)製)をラミネートして35μm厚の感光性レジスト層を形成し、その後、溝部形成用のフォトマスクを介して露光(5kW水銀灯により15秒間照射)、現像(30℃の2%炭酸水素ナトリウム水溶液をスプレー)してレジストを形成した。
次いで、上記のレジストを介してアルミニウム合金の両面から45℃に加熱した塩化第二鉄水溶液をスプレーして、所定の深さまでハーフエッチングを行った。その後、50℃の5%炭酸水素ナトリウム水溶液でレジストを剥離し、洗浄処理を施した。これにより、幅が1mm、深さが0.3mmのほぼ半円形状の断面を有し、振れ幅50mm、ピッチ2mmで蛇行した長さ1300mmの溝部を両面に備えた金属基材を得た。
【0034】
次に、上記の金属基材に対して、硝酸水溶液を用いて酸化被膜除去処理を行った。次いで、純水に塩酸を1.2モル/L、硫酸銅5水塩を0.04モル/Lの濃度で溶解した処理液Aに金属基材を浸漬(50℃、1分間)して粗面化処理を施し、引き上げた後、水洗、乾燥した。このような粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを菱化システム社製 VertScan 2.0を用いて測定し、結果を下記の表1に示した。尚、粗面化処理を施す前の金属基材の平均粗さRaを上記と同様に測定したところ、0.3μmであった。
また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300を用いて測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を日立ハイテク社製 透過電子顕微鏡HF−3300で撮影した画像データから算出した結果、約6千万個/mm2であった。
次いで、エポキシ電着液に、導電材料としてカーボンブラック(Cabot(株)製 Vulcan XC−72)を樹脂固形分に対して75重量%添加し分散させて、電着液とした。この電着液を25℃に保って撹拌し、この中に上記の金属基材を浸漬し、極間40mm、電圧50Vで1分間電着を行い、引き上げた金属基材を純水洗浄した。その後、ドライヤーで熱風乾燥(150℃、3分間)し、さらに、窒素雰囲気中で180℃、1時間の熱硬化処理を施した。これにより厚み15μmの樹脂層が形成され、セパレータが得られた。
【0035】
尚、使用したエポキシ電着液は下記のようにして調製した。
まず、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(エポキシ当量910)1000重量部を撹拌下に70℃に保ちながら、エチレングリコールモノエチルエーテル463重量部に溶解させ、さらに、ジエチルアミン80.3重量部を加えて100℃で2時間反応させてアミンエポキシ付加物(A)を調製した。
また、コロネートL(日本ポリウレタン(株)製 ジイソシアネート:NCO13%の不揮発分75重量%)875重量部にジブチル錫ラウレート0.05重量部を加え50℃に加熱し、これに2−エチルヘキサノール390重量部を添加し、その後、120℃で90分間反応させた。得られた反応生成物をエチレングリコールモノエチルエーテル130重量部で希釈した成分(B)を得た。
次に、上記のアミンエポキシ付加物(A)1000重量部と成分(B)400重量部からなる混合物を、氷酢酸30重量部で中和した後、脱イオン水570重量部を用いて希釈し、不揮発分50重量%の樹脂Aを調製した。この樹脂A200.2重量部(樹脂成分86.3容量)、脱イオン水583.3重量部、およびジブチル錫ラウレート2.4重量部を配合してエポキシ電着液を調製した。
【0036】
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を下記の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
(電気抵抗の測定方法)
セパレータをガス拡散層(東レ(株)製 TGP−H−060 190μm厚)
で両側から挟み込み、さらに、これらを銅に金めっきを施した厚さ5mmの電極
で挟み込んで圧着(圧力:20kgf/cm2)し、電極間の抵抗を測定する。
【0037】
また、上記のセパレータについて、下記の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
(耐食性試験の条件)
1モルの硫酸水溶液(70℃)に100時間浸漬した後、引き上げ、水酸化アルミ
ニウムの発生を観察する。
評価基準:
○…水酸化アルミニウムの発生が見られず、耐食性が良好である
×…水酸化アルミニウムの発生があり、耐食性は不十分である
【0038】
さらに、上記のセパレータについて、下記の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
(密着性試験の条件)
エポキシ系接着剤の付いたスタッドピンをセパレータに垂直に取り付けて、Quad
Group社製のロミュラスを使って、引っ張り密着強度測定を行い、スタッドピン
が引き剥がされた部位のセパレータを観察した。
評価基準:
○…樹脂層内部での凝集破壊が起こり、樹脂層と金属基材との密着は維持
されており、密着性は良好である
×…樹脂層と金属基材との界面で剥離が生じ、金属基材が露出しており、
密着性は不十分である
【0039】
[実施例2]
電着による樹脂層の形成前に、金属基材の粗面上に下記の条件で下地めっき層(厚み3μm)を形成した他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
(下地めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
下地めっき層を形成後の金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0040】
[実施例3]
粗面化処理に使用する処理液として、純水に塩酸を2モル/L、硫酸スズを0.15モル/Lの濃度で溶解した処理液Bを使用した他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在するスズ粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約15nmであり、スズ粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約4千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0041】
[実施例4]
電着による樹脂層の形成前に、金属基材の粗面上に下記の条件で下地めっき層(厚み3μm)を形成した他は、実施例3と同様にして、セパレータを作製した。
(下地めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
下地めっき層を形成後の金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0042】
[実施例5]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を0.5分間として、粗面化処理の条件を弱めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約2千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0043】
[実施例6]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を10分間として、粗面化処理の条件を強めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約24千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0044】
[実施例7]
粗面化処理に使用する処理液として、純水に硫酸銅を0.1モル/L、硫酸ニッケルを0.4モル/Lの濃度で溶解し、これにグリシンを0.15モル/L添加し、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した処理液Cを使用し、粗面化処理における浸漬を70℃、10分間とした他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子、ニッケル粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、銅粒子が約11nmであり、ニッケル粒子が約18nmであった。さらに、銅粒子およびニッケル粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、銅粒子が約5千万個/mm2であり、ニッケル粒子が約8千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様にして、溝部を両面に備えた金属基材を作製し、硝酸水溶液を用いて前処理を施し、水洗した。
次に、上記の金属基材に対して、下記の条件で亜鉛置換処理を施して亜鉛合金層(厚み0.05μm)を、溝部を含めた金属基材上に形成した。
(亜鉛置換処理の条件)
・使用浴 : ジンケート浴(メルテックス(株)製 アルモンEN)
・液温 : 30℃
・処理時間 : 20秒
【0046】
次いで、亜鉛合金層上に、下記の電気めっき条件で銅めっき層(厚み1μm)、ニッケルめっき層(厚み5μm)、金めっき層(厚み0.05μm)を順次積層して、亜鉛/銅/ニッケル/金の4層構造からなる耐食下地層を、溝部を含めた金属基材上に形成した。
(銅電気めっき条件)
・使用浴 : シアン化銅浴
・pH : 10.5
・電流密度 : 2A/dm2
・液温 : 40℃
(ニッケル電気めっき条件)
・使用浴 : 塩化ニッケルめっき浴
・pH : 1.3
・電流密度 : 6A/dm2
・液温 : 23℃
(金電気めっき条件)
・使用浴 : アルカリ性高純度金めっき浴
・pH : 12
・電流密度 : 0.4A/dm2
・液温 : 60℃
【0047】
次いで、実施例1と同様にして、耐食下地層上に厚み15μmの樹脂層を形成し、セパレータを得た。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0048】
[比較例2]
金属基材に対する粗面化処理を行わない他は、実施例1と同様に金属基材上に樹脂層を形成して、セパレータを作製した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0049】
[比較例3]
金属基材に対する粗面化処理を行わない他は、実施例2と同様に金属基材上に下地めっき層、樹脂層を形成して、セパレータを作製した。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0050】
[比較例4]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を0.3分間として、粗面化処理の条件を弱めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約200万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0051】
[比較例5]
50℃の処理液Aに金属基材を浸漬する時間を20分間として、粗面化処理の条件を強めた他は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
粗面化処理を行った金属基材の粗面の平均粗さRaを実施例1と同様に測定し、結果を下記の表1に示した。また、粗面に存在する銅粒子の平均粒径を実施例1と同様に測定した結果、約12nmであり、銅粒子の存在密度を実施例1と同様に測定した結果、約30千万個/mm2であった。
作製した上記のセパレータについて、表裏導通の電気抵抗を実施例1と同様の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
また、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で耐食性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
さらに、上記のセパレータについて、実施例1と同様の条件で樹脂層の密着性試験を行い、評価結果を下記の表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、実施例1〜7のセパレータは、表裏導通の電気抵抗が低く良好な導電性を有し、また、優れた耐食性を有し、さらに、樹脂層の密着性が良好であることが確認された。
これに対して、比較例1〜5のセパレータは、導電性、耐食性、密着性の少なくとも1つが実施例1〜7のセパレータに比べて劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個接続した燃料電池の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,11…セパレータ
2,12…金属基材
2a,12a…粗面
3…溝部
4,14…金属粒子
5,15…樹脂層
13…貫通孔
21,51…高分子電解質型燃料電池
31,61…膜電極複合体(MEA)
41A,41B,41C,71A,71B…セパレータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、該金属基材を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基材と前記樹脂層との間に介在する金属粒子とを備え、前記金属基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記樹脂層で被覆されている前記金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面を有しており、前記金属粒子は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、前記樹脂層は導電材料を含有することを特徴とする燃料電池用のセパレータ。
【請求項2】
前記金属基材は、少なくとも一方の面に溝部を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項3】
前記金属基材は、複数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項4】
前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項5】
前記金属基材および前記金属粒子と前記樹脂層との間に下地めっき層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項6】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材に粗面化処理を施す工程と、電着性を有する樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着にて樹脂膜を前記金属基材の粗面上に形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層とする工程を有し、前記粗面化処理では、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属または金属塩を含有する処理液を接触させ、平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記処理液は、pHが酸性領域にあることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記処理液は、塩酸を0.1〜5.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記処理液は、pHがアルカリ性領域にあることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
前記処理液は、キレート剤を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有することを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項11】
粗面化処理を施す前に、前記金属基材に対して酸化被膜の除去処理を施すことを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項1】
金属基材と、該金属基材を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基材と前記樹脂層との間に介在する金属粒子とを備え、前記金属基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記樹脂層で被覆されている前記金属基材面は平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲にある粗面を有しており、前記金属粒子は亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属粒子であり、前記樹脂層は導電材料を含有することを特徴とする燃料電池用のセパレータ。
【請求項2】
前記金属基材は、少なくとも一方の面に溝部を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項3】
前記金属基材は、複数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項4】
前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項5】
前記金属基材および前記金属粒子と前記樹脂層との間に下地めっき層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の燃料電池用のセパレータ。
【請求項6】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材に粗面化処理を施す工程と、電着性を有する樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着にて樹脂膜を前記金属基材の粗面上に形成し、その後、熱硬化処理を施して樹脂層とする工程を有し、前記粗面化処理では、亜鉛、スズ、鉄、ニッケルおよび銅のいずれか1種、または2種以上の金属または金属塩を含有する処理液を接触させ、平均粗さRaが1.5〜10μmの範囲内の粗面を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記処理液は、pHが酸性領域にあることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記処理液は、塩酸を0.1〜5.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記処理液は、pHがアルカリ性領域にあることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
前記処理液は、キレート剤を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有し、前記金属または前記金属塩を0.01〜1.0モル/Lの範囲で含有することを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項11】
粗面化処理を施す前に、前記金属基材に対して酸化被膜の除去処理を施すことを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−79614(P2012−79614A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225416(P2010−225416)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]