説明

燃料電池用ガス拡散媒体としてのアクリル繊維結合炭素繊維紙

【課題】プロトン交換膜型燃料電池のような燃料電池用の新規で改良されたガス拡散媒体を提供する。
【解決手段】ガス拡散媒体は、従来のフェノール樹脂の代わりに、炭化可能なアクリルパルプ繊維を結合剤材料として含み、アクリル繊維は製紙工程中に炭素繊維分散物と混合される。次いでマットを硬化し、炭化して、ガス拡散媒体を製造する。
【効果】慣用的なガス拡散媒体製造プロセスに通常付随する、フェノール樹脂含浸工程を省略できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して燃料電池システムに関し、より詳しくは、プロトン交換膜(proton exchange membrane, PEM)型燃料電池システム用の新規で改良されたガス拡散媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は多くの用途において電力源として用いられている。例えば、燃料電池は、内燃機関と置き換えるために電気自動車の電力設備に用いることが提案されている。プロトン交換膜(PEM)型燃料電池ならびに他の型の燃料電池において、燃料電池のアノード側に水素が供給され、カソード側に酸化剤として酸素が供給される。典型的なPEM型燃料電池とその膜電極アセンブリ(membrane electrode assembly, MEA)は、共に譲渡された米国特許番号5,272,017号明細書及び米国特許番号5,316,871号明細書に記載されており、それらの記載全てを本明細書に援用する。
【0003】
PEM型燃料電池は膜電極アセンブリ(MEA)を含み、この膜電極アセンブリは、薄くてプロトン伝導性で非導電性である固体ポリマー電解質膜を含む。この固体ポリマー電解質膜は、一方の面にアノード触媒を有し他方の面にカソード触媒を有する。PEM型燃料電池には通常双極板が用いられ、この双極板の両側の上には、電極(即ち、アノード及びカソード)触媒層表面の一面に反応体分配用のチャネルが付与されている。ガス拡散媒体(gas diffusion media)(ガスディフューザー(gas diffuser)、ガス拡散材(gas-diffusion backing)としても知られる)は、触媒被覆プロトン交換膜の各々の面と双極板との間に提供される。反応体用チャネルの間の領域はランドからなり、ランドはリブ(rib)としても知られる。従って、このタイプのデザインにおいては、電極エリアのおよそ半分がリブに近く、およそ半分がランドに近い。ガス拡散媒体の役割は、電圧のロスを最小にしつつ、流動場(flow field)のチャネル−リブ構造から電極の活性領域へとアノード及びカソードガスを移動させることである。電流の全てはランドを通過するが、効果的な拡散媒体は近接する触媒層での均一な電流分配を促進する。
【0004】
PEM及び他の関連するタイプの燃料電池システムに関する技術の例は、共に譲渡されたWitherspoon等の米国特許番号3,985,578号明細書;Li等の米国特許番号5,624,769号明細書;Neutzlerの米国特許番号5,776,624号明細書;Swathirajan等の米国特許番号6,277,513号明細書;Wood, III等の米国特許番号6,350,539号明細書;Fronk等の米国特許番号6,372,376号明細書;Mathias等の米国特許番号6,376,111号明細書;Vyas等の米国特許番号6,521,381号明細書;Sompalli等の米国特許番号6,524,736号明細書;Fly等の米国特許番号6,566,004号明細書;Fly等の米国特許番号6,663,994号明細書;Brady等の米国特許番号6,793,544号明細書;Rapaport等の米国特許番号6,794,068号明細書;Blunk等の米国特許番号6,811,918号明細書;Mathias等の米国特許番号6,824,909号明細書;Mathias等の米国特許出願公開番号2004/0009384号明細書;Darling等の米国特許出願公開番号2004/0096709号明細書;Mathias等の米国特許出願公開番号2004/0137311号明細書;O'Hara等の米国特許出願公開番号2005/0026012号明細書;O'Hara等の米国特許出願公開番号2005/0026018号明細書;O'Hara等の米国特許出願公開番号2005/0026523号明細書;Mathias等の米国特許出願公開番号2005/0042500号明細書;Angelopoulos等の米国特許出願公開番号2005/0084742号明細書;Abd Elhamid等の米国特許出願公開番号2005/0100774号明細書;及びMathias等の米国特許出願公開番号2005/0112449号明細書中に見出すことができ、これらの記載全てを本明細書に援用する。
【0005】
ガス拡散媒体は流動場チャネルから触媒層への反応体ガスの経路を提供し、生じた水を触媒層エリアから流動場チャネルへと取り除く通路を提供し、触媒層から双極板への導電性を提供し、MEAから冷却用チャネルが配置されている双極板への効率的な熱除去を提供し、そしてアノードガスチャネルとカソードガスチャネルとの間の反応体圧力が大きく異なる場合におけるMEAの機械的サポートを提供する。上記の機能は、拡散媒体に導電性要求と熱伝導性要求を付与し、これにはバルク特性と、双極板及び触媒層との界面伝導性との両方が含まれる。双極板のチャネル−リブ構造により、ガス拡散媒体は、チャネルからランドに近接する触媒エリアへと、ガスを横方向に移動させ、その場所で電気化学的反応を生じさせる。ガス拡散媒体は、ランドに近接する触媒層からチャネルへと、水を横方向に除去することも促進する。ガス拡散媒体は、チャネルに近接する触媒層と双極板との間の横方向の導電性も提供する。ガス拡散媒体は、導電性及び熱伝導性について、触媒層との良好な接触を維持する。ガス拡散媒体はチャネルを圧縮して流れの停滞を招いたり、チャネル内の大きな圧力落差を招いたりすることはない。
【0006】
プロトン交換膜(PEM)型燃料電池における最新技術の拡散媒体は、炭素繊維マットからなり、これはしばしば炭素繊維紙と呼ばれる。これらの炭素繊維紙には、ポリアクリロニトリル、セルロース、及び他のポリマー材料から作られた繊維前駆体が典型的には用いられる。その製法は、マットを形成すること、樹脂結合剤を添加すること、その材料で樹脂を硬化させること(加圧下で行うこともあり、成形と呼ばれる)、及び、不活性雰囲気下又は減圧下で材料を徐々に加熱して非炭素質材料を除去することからなる。この物質の製造の最終工程は、1600℃か又はそれを超える温度、場合により2800℃もの温度での、高温加熱処理工程である。この工程は不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)中で、又は真空環境下で行われ、非炭素質材料を除去することが目的である。この工程において温度が約2000℃又はそれを越えると、炭素はグラファイトに転化される。この工程は、炭素繊維紙の正方形シートのスタックを用いて連続的に行ってもよいし、バッチ式の炉で行ってもよい。正方形シートは通常1平方メートルである。炭素をグラファイトに転化すると優れた導電性が得られ、これは、PEM型燃料電池にとって理想的であると通常理解されている。炭素繊維紙はリン酸型燃料電池(phosphoric acid fuel cell, PAFC)用のガス拡散電極としても用いられる。この用途では、高温のリン酸電解質に耐えるために十分な腐食耐性を得るために、この物質をグラファイト化しなければならない。
【0007】
概して、典型的な炭素繊維紙系ガス拡散媒体の製造工程には、通常、(1)炭素繊維紙の製造工程;(2)樹脂及び充填材を用いる含浸工程;(3)場合により加圧を行う、樹脂硬化工程;及び(4)炭化/グラファイト化工程が含まれる。炭素繊維紙製造工程及び含浸工程は、典型的には連続しており、一方、成形工程、炭化工程、及びグラファイト化工程は、バッチ式でも連続式でもよい。例えば、具体的なプロセスの一例は次の工程を含む:(1)ポリアクリロニトリル(PAN)繊維の準備工程;(2)繊維の炭化及び切削工程;(3)5〜15%の結合剤の添加を含む、製紙工程;(4)フェノール樹脂を用いる樹脂含浸工程;(5)成形工程;及び、炭化/グラファイト化工程。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
構造体を結合するために用いられ、典型的にはフェノール樹脂である樹脂は、溶液での個別の含浸工程中に慣用的には適用され、溶媒が高速炉中で除去される。しかし、これら個別の製造工程及び加工工程は時間がかかり、コストもかかる。
【0009】
したがって、PEM型燃料電池システムのための新規で改良されたガス拡散媒体が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の概要
本発明の一般的な教示に従って、PEM型燃料電池システム用の新規で改良されたガス拡散媒体が提供される。
【0011】
本発明の一態様に従って、燃料電池用のガス拡散層が提供され、それには:(1)複数の炭素繊維を含んでなるマット;(2)炭素繊維マット中に組込まれた複数のアクリルパルプ繊維、が含まれ、アクリルパルプ繊維は炭素繊維マット中に組込まれた後に硬化され、炭化される。
【0012】
本発明の一側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する。
【0013】
本発明の一側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65%の量で存在する。
【0014】
本発明の一側面に従って、炭化前のマットに添加される炭素繊維は、硬化及び炭化工程後のガス拡散層の全質量に基づいて、約40〜約70質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭化されたアクリル繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて、約30〜約60質量%で存在する。
【0015】
本発明の一側面に従って、ガス拡散層はグラファイト化される(例えば、90%を越える炭素)。本発明の別の側面に従って、ガス拡散媒体はプロトン交換膜型燃料電池に組込まれる。
【0016】
本発明の第一の代替態様に従って、燃料電池に用いられるガス拡散層が提供され、それには:(1)複数の炭素繊維を含んでなるマット;及び(2)その炭素繊維マットに組込まれた複数のアクリルパルプ繊維、が含まれ、このアクリルパルプ繊維は、炭素繊維マットに組込まれた後に硬化され炭化され、この炭素繊維は、硬化及び炭化される前にガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在し、このアクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化される前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する。
【0017】
本発明の一側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する。
本発明の一側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する。
【0018】
本発明の一側面に従って、炭化される前のマットに添加される炭素繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約40〜約70質量%で存在する。本発明の別の側面に従って、炭化されたアクリル繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する。
【0019】
本発明の一側面に従って、ガス拡散層はグラファイト化される(例えば、90%を越える炭素)。本発明の別の側面に従って、ガス拡散媒体はプロトン交換膜型燃料電池に組込まれる。
【0020】
本発明の第二の代替態様に従って、燃料電池用のガス拡散層を形成する方法には、(1)複数の炭素繊維を準備すること;(2)複数のアクリルパルプ繊維を準備すること;(3)アクリルパルプ繊維と炭素繊維を組み合わせてマットを形成すること;及び(4)アクリル繊維を硬化させて炭化させることが含まれる。
【0021】
本発明の一側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する。
【0022】
本発明の一側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する。
【0023】
本発明の一側面に従って、炭化される前のマットに添加される炭素繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて、約40〜約70質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭化されたアクリル繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する。
【0024】
本発明の一側面に従って、ガス拡散層はグラファイト化される(例えば、90%を越える炭素)。本発明の別の側面に従って、ガス拡散媒体は、プロトン交換膜型燃料電池に組込まれる。
【0025】
本発明の適用の更なる領域は、以下の詳細な説明により明らかとなるだろう。詳細な説明及び特定の例は、本発明の好ましい態様を示してはいるが、例示の目的のみを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図しないことを理解すべきである。
【0026】
態様の詳細な説明
次の好ましい態様の記載は例示の性質のみを有し、本発明とその適用又は用途を限定することを意図しない。
【0027】
本発明の一般的な教示に従うと、製紙工程中に、従来の含浸工程におけるフェノール樹脂結合剤に代わって、炭化可能なアクリルパルプが結合剤材料として作用し、炭素繊維分散物と混合される。これはフェノール樹脂含浸工程(溶媒除去工程及び焼却工程を含む)の更なるコストを解消する。慎重に後硬化及び炭化工程を行って、新規なガス拡散層が製造される。
【0028】
このアプローチが実行可能であることは、今のところ、製造と燃料電池性能の両面から示されている。本発明のフィブリル化アクリルパルプは一般的に、製紙産業において“粒子キャッチャー”として用いられており、多くの供給源から商業的に容易に入手可能である。本発明の一側面に従って、本発明のアクリルパルプは、Sterling Fibers(Pace, Florida)から商業的に容易に入手可能であるもののような、極微細なアクリル繊維の束である(例えば、図1を参照)。これらのパルプを水に添加すると、「花が開き(bloom)」、かくして極微細(例えば直径100〜200nm)な繊維のネットワークが作られる。
【0029】
本発明のガス拡散媒体は、次の一般的なプロセスにしたがって製造される。
まず、紙の形成の前に、約7ミクロンの繊維直径を有する炭素繊維(例えば、SGL Carbon Group (Wiesbaden, Germany) SIGRAFIL CR C30)を、例えば約5〜約7mm、又は製紙プロセスにとって十分な任意の長さのような所定の長さに切り刻む。
【0030】
水に分散されている所定の長さに切り刻まれた炭素繊維と、カナディアン・スタンダード・フリーネス(Canadian Standard Freeness, CSF)240,6mm X 1.2dに叩解された高張力(high tension, HT)アクリル繊維パルプ(例えば、Acordis BV, Arnhem, The Netherlands)とを用いて、約1〜約5質量%ほどの少なさの繊維の分散物で製紙プロセスを行う。アクリル繊維が結合剤として機能することを意図しているが、追加の結合剤のような他の材料、例えば分散物の材料固形分に対して5〜15質量%のポリビニルアルコール(PVA)、もこの分散物に添加してよいことを理解すべきである。加えて、均一な分散物を形成するために、TRITON X-100のような少量のノニオン界面活性剤を分散物に添加してもよい。本発明の一側面に従って、アクリル繊維は炭化可能であり、少なくとも30質量%のアクリル繊維が炭化工程後に残る。
【0031】
次いで、分散物を真空乾燥機を備えた多孔性ドラム又はワイヤースクリーン上に落とし、水を除去する。次いで、ウェブ(網状物)を炉内で又は加熱されたドラム上で乾燥させる。次いで、ウェブをロール状に丸める。典型的には、ウェブは、約100〜約130gm/m2の面積質量を有する。
【0032】
次いで、炭素繊維を約150〜約300psiの加圧下に置き、最初は例えば120〜175℃の低温で1〜2分間アクリル繊維を溶融させ、次いで250℃までのより高い温度で約1〜2分間アクリル繊維を硬化させることにより、炭素繊維紙を加圧成形し、完全に硬化させる。炭素繊維紙はかくして、所望の厚さ及び密度へと成形される。
【0033】
最後に、この成形紙を炭化温度まで加熱することにより、成形紙を炭化するための加熱処理工程が行われる。典型的には、この温度は1300℃〜2400℃の範囲になるだろう。アクリル繊維は炭化可能であるから、少なくとも30質量%のアクリル繊維が炭化工程後に残る。
【0034】
本発明の一側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭素繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する。
【0035】
本発明の一側面に従って、アクリルパルプ繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、アクリル繊維は、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する。
【0036】
本発明の一側面に従って、炭化前のマットに添加される炭素繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約40〜約70質量%の範囲で存在する。本発明の別の側面に従って、炭化されたアクリル繊維は、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する。
【0037】
本発明の一側面に従って、ガス拡散媒体はプロトン交換膜型燃料電池へと組込まれる。
図2及び3は、本発明の一般的な教示に従って調製されたガス拡散媒体のSEM画像を示す。低倍率SEM画像(即ち、図2)は、炭化されたアクリル繊維でGDLの表面が覆われていることを示しており、一方、高倍率SEM画像(即ち、図3)は、炭化されフィブリル化されたアクリル構造を示す。カナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF)240,6mm X 1.2dに叩解された高張力(HT)アクリル繊維(例えば、Acordis BV, Aenhem, The Netherlands)を65質量%と、炭素繊維(例えば、SGL Carbon Group (Wiesbaden, Germany) SIGRAFIL CR C30)を35質量%とで、試料を調製した。非限定的な例として、本発明のアクリル繊維には約100〜約450の範囲のCSFを有する繊維が含まれる。
【0038】
本発明の一般的な教示に従って製造されたガス拡散媒体を組込んだ燃料電池の電位対電流密度特性を測定するために、3つの試料について50cm2試験を行った。図4及び5に示す。両ケースにおいて、本発明の拡散媒体を燃料電池のカソード側に用いた。燃料電池のカソード側は、拡散媒体の水制御性要求が最も厳しい。7質量%のポリテトラフルオロエチレンで処理した慣用的な拡散媒体(TORAY TGPH-060)をアノード拡散媒体として用いた。市販の触媒被覆膜(25ミクロン膜、W.L. Gore, Elkton, MarylandからのGore 5510)を、アノード上に0.4mg Pt/cm2、カソード上に0.4mg Pt/cm2用いた。図4において、試験は270kPaの絶対圧力下で、温度60℃、アノード及びカソード両者の露点60℃で行われ、ガス出口において相対湿度(RH)が約300%であった。図5において、試験は50kPaの圧力下で、温度80℃、アノード及びカソード両者の露点70℃で行われ、ガス出口において相対湿度(RH)が約110%であった。両ケースにおいて、水素流速及び空気流速を、燃料電池の電流密度に基づく化学量論的要求の2倍に維持した。
【0039】
図4及び5が明確に示すように、本発明の一般的な教示に従って製造されたガス拡散媒体を有する燃料電池試料の電位対電流密度特徴は、非常に満足のいくものであり、入手可能な最も良好な拡散媒体に匹敵する。また、示されるように、慣用的に用いられる微孔層(microporous layer)(例えば、MPL、疎水性ポリマーにより結合された炭素粉末)を基板上へ付与しなくても、優れた燃料電池性能を達成した。本発明の作用の特定の理論に縛られることはないが、炭化されたアクリルパルプ繊維は、最終炭素繊維紙の孔構造に影響を及ぼし、かくしてMPLのように機能すると考えられる。そのように、本発明の一般的な教示に従って調製されたガス拡散媒体を用いて、最新技術のガス拡散媒体に匹敵する燃料電池性能が達成される。
【0040】
本発明の説明は例示の性質のみを有し、かくして、本発明の趣旨から逸脱しない変形は本発明の範囲内であることが意図される。そのような変形は、本発明の精神及び範囲から逸脱したものとみなされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、先行技術に従った、フィブリル化アクリルパルプ繊維の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の一般的な教示に従った、ガス拡散媒体の低倍率(50倍)顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本発明の一般的な教示に従った、ガス拡散媒体の高倍率(2500倍)顕微鏡写真である。
【図4】図4は、本発明の一般的な教示に従って製造されたガス拡散媒体を含む一連の燃料電池試料の湿潤操作条件下での電位対電流密度のグラフである。
【図5】図5は、図4と同じ一連の燃料電池試料の乾燥操作条件下での電位対電流密度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維を含んでなるマット;及び
該炭素繊維マットに組込まれた複数のアクリルパルプ繊維
を含んでなり、
該アクリルパルプ繊維は、炭素繊維マットに組込まれた後に硬化され、炭化される、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
炭素繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
炭素繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項4】
アクリルパルプ繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項5】
アクリルパルプ繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項6】
炭化前のマットに添加される炭素繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約40〜約70質量%の範囲で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項7】
炭化されたアクリル繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項8】
ガス拡散層が、プロトン交換膜型燃料電池に組込まれる、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項9】
複数の炭素繊維を含んでなるマット;及び
該炭素繊維マットに組込まれる複数のアクリルパルプ繊維
を含んでなり、
該アクリルパルプ繊維は、炭素繊維マットに組込まれた後に硬化され、炭化され、
該炭素繊維は、硬化され炭化される前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在し、
該アクリルパルプ繊維は、硬化され炭化される前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項10】
炭素繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する、請求項9に記載のガス拡散層。
【請求項11】
アクリルパルプ繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する、請求項9に記載のガス拡散層。
【請求項12】
炭化前のマットに添加される炭素繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約40〜約70質量%の範囲で存在する、請求項9に記載のガス拡散層。
【請求項13】
炭化されたアクリル繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する、請求項9に記載のガス拡散層。
【請求項14】
ガス拡散層が、プロトン交換膜型燃料電池に組込まれる、請求項9に記載のガス拡散層。
【請求項15】
複数の炭素繊維を準備すること;
複数のアクリルパルプ繊維を準備すること;
該アクリルパルプ繊維と該炭素繊維とを組み合わせて、マットを形成すること;及び
該アクリル繊維を硬化し、炭化すること
を含んでなる、燃料電池用ガス拡散層の形成方法。
【請求項16】
ガス拡散層をグラファイト化することをさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
炭素繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約25〜約50質量%の範囲で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
炭素繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約35質量%の量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
アクリルパルプ繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約50〜約75質量%の範囲で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
アクリルパルプ繊維が、硬化及び炭化の前に、ガス拡散層の全質量に基づいて約65質量%の量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
炭化前のマットに添加される炭素繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約40〜約70質量%の範囲で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
炭化されたアクリル繊維が、硬化及び炭化工程後に、ガス拡散層の全質量に基づいて約30〜約60質量%の範囲で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
ガス拡散層が、プロトン交換膜型燃料電池に組込まれる、請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−273466(P2007−273466A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−71896(P2007−71896)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(505212049)ジーエム・グローバル・テクノロジー・オペレーションズ・インコーポレーテッド (221)
【出願人】(507086343)
【Fターム(参考)】