説明

燃料電池用ガス拡散層及びその製造方法、膜電極接合体、並びに燃料電池

【課題】燃料電池の発電性能の向上と低コスト化の両方を実現できる燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【解決手段】アセチレンブラックやグラファイトなどの導電性粒子と、PTFEなどの高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で燃料電池用ガス拡散層を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスとして、純水素、メタノールなどの液体燃料、あるいは、化石燃料などからの改質水素などの還元剤を用い、酸化剤ガスとして、空気(酸素)などを用いる燃料電池に関し、特に、当該燃料電池に用いる膜電極接合体が備えるガス拡散層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、例えば高分子電解質形燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを、白金などの触媒層を有するガス拡散層で電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
図7は、従来の高分子電解質形燃料電池の基本構成を示す模式図である。高分子電解質形燃料電池の単電池(セルともいう)100は、膜電極接合体110(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)と、MEA110の両面に配置された一対の板状の導電性のセパレータ120とを有している。
【0004】
MEA110は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜(イオン交換樹脂膜)111と、当該高分子電解質膜111の両面に形成された一対の電極層112とを備えている。一対の電極層112は、高分子電解質膜111の両面に形成され、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層113と、当該触媒層113上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層114(GDLともいう)とを有している。ガス拡散層114は、炭素繊維からなる基材115と、カーボンと撥水材からなるコーティング層(撥水カーボン層)116とで構成されている。
【0005】
前記一対のセパレータ120には、ガス拡散層114と当接する主面に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路溝121と、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路溝122とが設けられている。また、前記一対のセパレータ120には、冷却水などが通る冷却水流路溝123が設けられている。当該各ガス流路溝121,122を通じて前記一対の電極層112にそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0006】
前記のように構成されるセル100は、図7に示すように1つ以上積層され、互いに隣接するセル100を電気的に直列に接続されて使用されるのが一般的である。なお、このとき、互いに積層されたセル100は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材130により所定の締結圧にて加圧締結される。従って、MEA110とセパレータ120とは所定の圧力で面接触することになる。また、電気化学反応に必要なガスが外部に漏れるのを防ぐために、セパレータ120,120の間には、触媒層113とガス拡散層114の側面を覆うようにシール材(ガスケット)117が配置されている。
【0007】
前記のように構成される高分子電解質形燃料電池において、ガス拡散層114は、種々の構造のものが知られている。例えば、特許文献1には、炭素繊維からなる基材(例えば、ペーパー、織布、不織布)の表面に、カーボン材料と撥水材からなるコーティング層(撥水カーボン層、C層)を設けた、前記従来のガス拡散層114と同様のガス拡散層が開示されている。また、特許文献2及び3には、炭素繊維を基材として用いないガス拡散層が開示されている。特許文献2のガス拡散層は、網状シートを撥水材料で処理した後、当該網状シートの空隙部にカーボンと撥水材からなるペーストを充填して構成されている。特許文献3のガス拡散層は、グラファイトとカーボンブラックと未焼成PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)と焼成PTFEとを混合して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−197202号公報
【特許文献2】特開2002−170572号公報
【特許文献3】特開2003−187809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、燃料電池の高効率化の為に、発電を従来よりも高温化して、熱回収温度を高くする検討が行われている。また、システム内の機器を削減する為に、燃料電池の電極層に供給する加湿量を従来よりも減らす(低加湿運転)検討が行われている。
【0010】
このような高温・低加湿運転の場合、前記特許文献1の構成では、炭素繊維の基材の多孔度が通常80%以上と高くなる為に、ガス拡散によって電極層の内部が乾燥し、高分子電解質膜のプロトン伝導抵抗が増加して、電圧が低下するという課題がある。また、炭素繊維の基材が高価格であるため、電極層の低コスト化が困難である。
【0011】
また、前記特許文献2の実施例の構成では、強度を確保するために網状シートを構造体として使用しているため、材料コストが増加し且つ製造プロセスが複雑化するといった課題がある。また、前記特許文献2の実施例の構成では、網状シートとして金属メッシュを使用しているため、金属メッシュの金属粉が電極層に付着し、それにより高分子電解質膜が劣化して、燃料電池の耐久性が低下する恐れがある。さらに、前記特許文献2の実施例の構成では、カーボン材料とPTFEとの配合比率が7:3、あるいは6:4と、PTFEの配合比率が比較的高い。PTFEは絶縁体であるため、PTFEの配合比率が高くなると、十分な電気伝導性が得られず、発電性能が低下する恐れがある。また、網状シートにセラミックス又はエンジニアリングプラスチックなどの絶縁体を用いた場合にも、十分な電気伝導性を得られず、発電性能が低下する恐れがある。
【0012】
また、前記特許文献3の構成では、基材として炭素繊維も網状シートも使用しないので、電極層の低コスト化を図ることができる。しかしながら、前記特許文献3の構成において、ガス拡散層として使用可能な強度を確保するためには、バインダーとして作用するPTFEの配合量を多量(例えば30重量%以上)にしなければならないという課題がある。このため、十分な電気伝導性が得られず、発電性能が低下する恐れがある。
【0013】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、燃料電池の発電性能の向上と低コスト化の両方を実現できる燃料電池用ガス拡散層及びその製造方法、当該ガス拡散層を備える膜電極接合体、並びに燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、前記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とする多孔質部材で燃料電池用ガス拡散層を構成することで、低加湿運転下でも高い発電性能を得ることができることを見出し、本発明を想到した。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、燃料電池に用いるガス拡散層であって、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0016】
ここで、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材とすることなく、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を製造する場合、例えば、後述するように界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれてもよいことも意味する。
【0017】
本発明の第2態様によれば、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、前記高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が添加された多孔質部材で構成されている、第1態様に記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0018】
本発明の第3態様によれば、前記多孔質部材は、前記炭素繊維を2.0重量%以上7.5重量%以下含む、第2態様に記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0019】
本発明の第4態様によれば、前記多孔質部材は、前記高分子樹脂を10重量%以上17重量%以下含む、第2又は3態様に記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0020】
本発明の第5態様によれば、前記炭素繊維は、気相成長法炭素繊維、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーのうちのいずれか1つである、第2〜4態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0021】
本発明の第6態様によれば、前記多孔質部材の多孔度は42%以上60%以下である、第1〜5態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0022】
本発明の第7態様によれば、前記導電性粒子は、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料で構成されている、第1〜6態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0023】
本発明の第8態様によれば、平均粒子径が小さいカーボン材料と、平均粒径が大きいカーボン材料との配合比率が、1:0.7〜1:2である、第7態様に記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0024】
本発明の第9態様によれば、前記多孔質部材の厚さは、150μm以上600μm以下である、第1〜8態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0025】
本発明の第10態様によれば、前記多孔質部材の厚さは、300μm以上600μm以下である、第9態様に記載の燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【0026】
本発明の第11態様によれば、第1〜10態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を備える膜電極接合体を提供する。
【0027】
本発明の第12態様によれば、第1〜10態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を備える燃料電池を提供する。
【0028】
本発明の第13態様によれば、燃料電池に用いるガス拡散層の製造方法であって、
導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練する混練工程と、
前記混錬して得た混練物を圧延してシート状に成形する圧延工程と、
前記シート状に成形した混錬物を焼成して前記混錬物中から前記界面活性剤と分散溶媒とを除去する焼成工程と、
前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整する再圧延工程と、を備える、
燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0029】
本発明の第14態様によれば、前記混練工程は、導電性粒子と高分子樹脂と炭素繊維と界面活性剤と分散溶媒とを混練する工程である、第13態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0030】
本発明の第15態様によれば、前記再圧延して厚さを調整した混錬物における前記炭素繊維の配合比率が2.0重量%以上7.5重量%以下となるようにする、第14態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0031】
本発明の第16態様によれば、前記再圧延して厚さを調整した混練物における前記高分子樹脂の配合比率が10重量%以上17重量%以下となるようにする、第14又は15態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の第17態様によれば、前記炭素繊維として、気相成長法炭素繊維、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーのうちのいずれか1つを用いる、第14〜16態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0033】
本発明の第18態様によれば、前記再圧延して厚さを調整した混錬物における多孔度が42%以上60%以下である、第13〜17態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0034】
本発明の第19態様によれば、前記導電性粒子として、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料を用いる、第13〜18態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0035】
本発明の第20態様によれば、平均粒子径が小さいカーボン材料と、平均粒径が大きいカーボン材料との配合比率が、1:0.7〜1:2である、第19態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の第21態様によれば、前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整するとき、当該混錬物の厚さを150μm以上600μm以下とする、第13〜20態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0037】
本発明の第22態様によれば、前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整するとき、当該混錬物の厚さを300μm以上600μm以下とする、請求項21に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0038】
本発明の第23態様によれば、第13〜22態様のいずれか1つに記載の製造方法で製造された燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の第1態様にかかる燃料電池用ガス拡散層によれば、炭素繊維の基材を使用せず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材でガス拡散層が構成されているので、燃料電池の低コスト化を図ることができる。また、多孔度又は厚さを調整することで、発電性能の向上を図ることが可能となり、低加湿運転下でも高い電圧を得ることが可能となる。
【0040】
本発明の第2態様にかかる燃料電池用ガス拡散層によれば、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、前記高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が添加された多孔質部材で構成され、炭素繊維を基材として使用しないので、燃料電池の低コスト化を図ることができる。また、炭素繊維を添加することで、ガス拡散層としての強度を強化することができるので、バインダーとして作用する高分子樹脂の配合量を少なくすることが可能となる。これにより、絶縁体である高分子樹脂の配合比率を低くすることができるので、発電性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図2】アセチレンブラックの平均粒子径を測定した結果を示すグラフである。
【図3】グラファイトの平均粒子径を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成の変形例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】従来の燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0043】
《第1実施形態》
図1を用いて、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成について説明する。図1は、本第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を示す断面図である。本第1実施形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質形燃料電池である。なお、本発明は高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0044】
本第1実施形態にかかる燃料電池は、図1に示すように、膜電極接合体10(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)と、MEA10の両面に配置された一対の板状の導電性のセパレータ20,20とを有するセル(単電池)1を備えている。なお、本第1実施形態にかかる燃料電池は、このセル1を複数個積層して構成されてもよい。この場合、互いに積層されたセル1は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材(図示せず)により所定の締結圧にて加圧締結されることが好ましい。
【0045】
MEA10は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜11と、当該高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層12とを備えている。一対の電極層12の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層12,12は、高分子電解質膜11の両面に形成され、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層13と、当該触媒層13上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層14とを有している。
【0046】
また、一対のセパレータ20,20のうちの一方には、ガス拡散層14(アノード電極側)と当接する主面に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路溝21が設けられている。燃料ガス流路溝21は、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。一対のセパレータ20,20のうちの他方には、ガス拡散層14(カソード電極側)と当接する主面に、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路溝22が設けられている。酸化剤ガス流路溝22は、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。なお、一対のセパレータ20,20には、冷却水などが通る冷却水流路溝(図示せず)が設けられてもよい。当該各ガス流路溝21,22を通じて一対の電極層12,12にそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0047】
また、電気化学反応に必要なガスが外部に漏れるのを防ぐために、セパレータ20と高分子電解質膜11との間に、触媒層13とガス拡散層14の側面を覆うようにシール材(ガスケット)15が配置されている。
【0048】
次に、本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層14の構成について詳細に説明する。
【0049】
ガス拡散層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状で且つゴム状の多孔質部材で構成されている。
【0050】
前記導電性粒子の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭などのカーボン材料が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられる。なお、それらの中でもカーボンブラックの主成分としてアセチレンブラックが用いられることが、不純物含有量が少なく、電気伝導性が高いという観点から好ましい。また、グラファイトの材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、これらの中でもグラファイトの主成分として人造黒鉛が用いられることが、不純物量が少ないという観点から好ましい。
【0051】
また、前記導電性粒子は、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料を混合して構成されることが好ましい。これにより、ガス拡散層全体の多孔度を低くすることが可能になる。充填構造を作製しやすい導電性粒子としてはグラファイトが挙げられる。従って、導電性粒子は、アセチレンブラックとグラファイトとを混合して構成されることが好ましい。
【0052】
なお、アセチレンブラックの平均粒子径D50(相対粒子量が50%の時の粒子径:メディアン径ともいう)を、レーザ回折式粒度測定装置マイクロトラックHRAを使用して測定したところ、図2に示すようにD50=5μmであった。また、アセチレンブラックと同様にして、グラファイトの粒子径D50を測定したところ、図3に示すようにD50=16μmであった。これらの平均粒子径の測定は、10wt%の界面活性剤を含有した蒸留水にアセチレンブラック又はグラファイトの粒子を分散させ、粒度分布が安定した時点で行った。
【0053】
なお、前記導電性粒子を3種類以上のカーボン材料を混合して構成すると、分散、混練、圧延条件などの最適化が困難である。このため、前記導電性粒子は、2種類のカーボン材料を混合して構成することが好ましい。
【0054】
また、カーボン材料の原料形態としては、例えば、粉末状、繊維状、粒状などが挙げられる。それらの中でも粉末状がカーボン材料の原料形態として採用されることが、分散性、取り扱い性の観点から好ましい。
【0055】
前記高分子樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でも前記高分子樹脂としてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などがあげられる。それらの中でもPTFEの原料形態としてディスパージョンが採用されることが、作業性の観点から好ましい。
【0056】
前記高分子樹脂は、前記導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有する。また、前記高分子樹脂は、撥水性を有するため、燃料電池の内部にて水を系内に閉じ込める機能(保水性)も有する。
【0057】
また、ガス拡散層14には、導電性粒子及び高分子樹脂以外に、ガス拡散層14の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール及びエタノールなどのアルコール類、エチレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン系が挙げられる。製造時に使用する分散溶媒の量及び界面活性剤の量は、導電性粒子の種類、高分子樹脂の種類、それらの配合比率などに応じて適宜設定すればよい。なお、一般的には、分散溶媒の量及び界面活性剤の量が多いほど、導電性粒子と高分子樹脂とが均一に分散しやすい傾向がある一方で、流動性が高くなり、ガス拡散層のシート化が難しくなる傾向がある。なお、ガス拡散層14には、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が含まれていてもよい。
【0058】
次に、図4を参照しつつ、本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層14の製造方法について説明する。
【0059】
まず、ステップS1では、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する(混練工程)。より具体的には、導電性粒子としてのカーボン材料と界面活性剤と分散溶媒とを攪拌・混錬機に投入し、それらを混錬してカーボン材料を粉砕及び造粒する。この後、それらの混錬物の中に高分子樹脂材料を添加してさらに分散させる。なお、カーボン材料と高分子樹脂材料とを別々に混錬機に投入せず、全ての材料を同時に混練機に投入しても良い。
【0060】
ステップS2では、混錬して得た混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状に成形する(圧延工程)。
ステップS3では、シート状に成形した混錬物を焼成して、前記混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する(焼成工程)。
ステップS4では、界面活性剤と分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整する(再圧延工程)。
これにより、本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層14を製造することができる。
【0061】
本第1実施形態にかかるガス拡散層によれば、炭素繊維の基材を使用せず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材でガス拡散層が構成されているので、燃料電池の低コスト化を図ることができる。また、多孔度又は厚さを調整することで、発電性能の向上を図ることが可能となり、低加湿運転下でも高い電圧を得ることが可能となる。
【0062】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、ロールプレス機を使用してシート状のガス拡散層14を連続的に形成(ロール・トゥ・ロール)するようにしてもよい。この場合、ロールプレス機のロール径、ロール幅、及び面精度は、適宜設定可能であるが、ロール径が大きいほど、ガス拡散層14にかかる圧力を均一に分散させることができる。また、面精度が高いほど、ガス拡散層14の厚さバラツキを低減することが可能である。このため、ロール径が大きく、面精度が高いロールプレス機を使用することが好ましい。
【0063】
また、前記では、圧延後に前記混錬物を加熱するようにしたが、圧延と同時に前記混錬物を加熱するようにしてもよい。
【0064】
なお、混練時間、混練機が備える羽の形状、混錬機の容量、各材料の投入量、分散溶媒の配合量、界面活性剤の配合量などによって、各材料(特に高分子樹脂材料)に加わる応力(せん断力)が変化し、その後のシート成形の容易性及び強度に影響がある。一般にせん断力が高いほど、高分子樹脂が高繊維化して導電性粒子同士の結着性を増し、ガス拡散層14の強度が向上する。しかしながら、せん断力が高過ぎると、混練物が硬い団子状になって、混錬後のシート成形の際に過大な圧力を加える必要性が生じるなど、ガス拡散層の製造が難しくなる。
【0065】
焼成温度及び焼成時間は、界面活性剤と分散溶媒とが蒸発又は分解する温度及び時間とすることが好ましい。なお、焼成温度が高過ぎる場合には、高分子樹脂が融解し、ガス拡散層14としての強度が低下して、シート形状が崩れる恐れがある。このため、焼成温度は、高分子樹脂の融点(例えばPTFEの場合、330℃〜350℃)以下であることが好ましい。また、界面活性剤の蒸発又は分解温度は、例えば、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)等の分析結果により測定可能であり、一般的には260℃以上である。従って、焼成温度は、260℃以上であることが好ましい。焼成時間に関しては、焼成炉の仕様(体積、風量、風速など)と焼成枚数などに応じて適宜設定すればよい。
また、界面活性剤の材料は、カーボン材料及び分散溶媒の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0066】
また、前記では、混練機で混錬した前記混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状にしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、前記混錬物を押し出し機に投入し、押出機のダイヘッドから連続的にシート成形して製造することもできる。また、押し出し機のスクリュー形状を工夫して、スクリューに混練機能を持たせることにより、混練機を使わずに前記混錬物を得ることができる。すなわち、前記各カーボン材料の攪拌、混練、シート成形を一台の機械で一体的に行うことができる。
【0067】
また、前記では、セパレータ20と高分子電解質膜11との間に、触媒層13とガス拡散層14の側面を覆うようにシール材(ガスケット)15を配置したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図5に示すように、一対のセパレータ20,20の間に、高分子電解質膜11と触媒層13とガス拡散層14の側面を覆うようにシール材15Aを配置してもよい。これにより、高分子電解質膜11の劣化を抑制し、MEA10のハンドリング性、量産時の作業性を向上させることができる。なお、このとき、シール材料15Aの一部がガス拡散層14に含浸しているほうが、発電耐久性及び強度の観点から好ましい。
【0068】
シール材料15,15Aとしては、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、シール材料15,15Aとして、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0069】
また、前記では、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22を、一対のセパレータ20,20に設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22をガス拡散層14,14に設けてもよい。この場合、例えば、前記再圧延工程において、ガス拡散層14,14に、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22となる複数の溝を略平行に形成するようにすればよい。また、例えば、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22のうちの一方をガス拡散層14に設けてもよい。例えば、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22のうちの他方をセパレータ20に設けてもよい。例えば、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝22をガス拡散層14,14に設けてもよい。
【0070】
(配合比率について)
次に、表1を用いて、平均粒子径の大きな導電性粒子と平均粒子径の小さな導電性粒子との好ましい配合比率について説明する。
【0071】
【表1】

【0072】
表1は、ガス拡散層の厚さを400μmで固定し、平均粒子径の大きな導電性粒子の一例としてのグラファイトと平均粒子径の小さな導電性粒子の一例としてのアセチレンブラックとの配合比率を変化させたときの、ガス拡散層の多孔度、燃料電池の抵抗値及び電圧値を示す表である。ここでは、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率が異なる燃料電池のサンプル1〜7を以下で説明するように製造して、各サンプル1〜7のガス拡散層の多孔度、抵抗値及び電圧値を測定した。
【0073】
以下、各サンプル1〜7に共通する燃料電池の製造方法について説明する。
まず、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製デンカブラック:登録商標)とグラファイト(和光純薬工業株式会社製)を合計150g、界面活性剤(トライトンX:登録商標)7.5g、水170gをミキサーに投入する。その後、ミキサーの回転数を100rpmとして60分間、前記各材料を混錬する。60分経過後、前記混錬して得た混錬物に高分子樹脂としてPTFEディスパージョン70g(旭硝子株式会社製AD911)を混合して、さらに5分間攪拌する。
【0074】
このようにして得られた混練物をミキサーの中から40g取り出し、延伸ロール機(ギャップ600μmに設定)にて圧延してシート状にする。この後、シート状にした前記混錬物をプログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0075】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機(ギャップ400μm)にて圧延して厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行ったのち、6cm角に裁断する。このようにして、厚さ400μmのゴム状のガス拡散層を製造する。
【0076】
前記ガス拡散層の製造と同時的に又はそれに続いて、高分子電解質膜(Dupont社製Nafion112:登録商標)の両面に、触媒層として、白金坦持カーボン(田中貴金属社製TEC10E50E)とイオン交換樹脂(旭硝子株式会社製Flemion:登録商標)の混合物を塗布する。その後、当該混合物を乾燥して膜・触媒層接合体を得る。なお、このとき、高分子電解質膜の大きさは15cm角とし、触媒層の大きさは5.8cm角とする。また、白金の使用量は、アノード電極側0.35mg/cmとし、カソード電極側0.6mg/cmとする。
【0077】
次いで、前記膜・触媒層接合体の両面に前記製造したガス拡散層を配置して、ホットプレス接合(80℃、10kgf/cm)し、MEAを製造する。
次いで、製造したMEAを一対のセパレータ(東海カーボン製)で挟み込み、この状態で位置ずれしないように締結圧力が10kgf/cmとなるまで加圧する。
【0078】
以上のようにして、燃料電池の単電池(セル)を製造する。
サンプル1〜7は、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率を異ならせるだけで製造することができる。
【0079】
次に、ガス拡散層の多孔度の測定方法(算出方法)について説明する。
まず、ガス拡散層を構成する各材料の真密度と組成比率から、製造したガス拡散層の見かけ真密度を算出する。
次いで、製造したガス拡散層の重量、厚さ、縦横寸法を測定して、製造したガス拡散層の密度を算出する。
次いで、多孔度=(ガス拡散層の密度)/(見かけ真密度)×100の式に、前記算出したガス拡散層の密度及び見かけ真密度を代入し、多孔度を算出する。
以上のようにして、製造したガス拡散層の多孔度を測定することができる。
【0080】
なお、製造したガス拡散層の細孔径分布を、水銀ポロシメータを用いて測定したところ、累積細孔量から算出できる多孔度と、前記のようにして算出した多孔度とが一致していることを確認している。
【0081】
表1を参照してサンプル2〜7を比較すると、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率が1:2から1:0になる程(すなわち、グラファイトの占有率が低くなる程)、多孔度が高くなることが分かる。また、前記配合比率が1:0である(すなわち、アセチレンブラックのみである)サンプル7では、多孔度は70%であった。なお、延伸ロール機のギャップを調整するなどしたが、アセチレンブラック単体では多孔度を70%未満にすることができなかった。
【0082】
一方、前記配合比率が1:2から1:2.3になると(すなわち、グラファイトの量がアセチレンブラックの量の2倍よりも多くなると)、多孔度は65%と大幅に高くなった。なお、多孔度が42%未満のガス拡散層の製造を試みたが、前記配合比率、混錬条件、焼成条件、圧延条件などを変えても製造できなかった。これは、前記配合比率が1:2のとき最密充填構造が形成される一方、グラファイトの量がアセチレンブラックの量の2倍よりも多くなると最密充填構造が形成されないためと考えられる。
【0083】
次に、表1に示したサンプル1〜7の抵抗値及び電圧値の測定方法について説明する。
【0084】
まず、各サンプルにそれぞれ電子負荷機(菊水電気製PLZ−4W)を接続する。
次いで、アノード電極に燃料ガスとして純水素を流し、カソード電極に酸化剤ガスとして空気を流す。このとき、利用率は、それぞれ70%、40%とする。また、ガス加湿露点は、アノード電極65℃、カソード電極35℃に設定する。また、セル温度は、90℃に設定する。
次いで、電流密度0.2A/cm時の電圧値と抵抗値とを測定する。なお、発電中の抵抗値の測定には、交流4端子法式抵抗計(鶴賀電機製MODEL3566)を使用する。
【0085】
なお、測定した抵抗値には、高分子電解質膜の湿潤状態を示すプロトン伝導抵抗(膜抵抗)と、ガス拡散層を含む各部材の内部抵抗(電気伝導抵抗)と、各部材間の接触抵抗(電気伝導抵抗)とが含まれている。
【0086】
表1を参照してサンプル1〜7を比較すると、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率が1:2から1:0になる程、言い換えれば、多孔度が大きくなる程、抵抗値は高くなり、電圧値は低くなることが分かる。また、前記配合比率が1:0.7であるサンプル5と、前記配合比率が1:0.5であるサンプル6とを比較すると、抵抗値及び電圧値が急激に変化していることが分かる。すなわち、多孔度が60%よりも大きくなると、抵抗値が急激に高くなり、電圧値が急激に低くなることが分かる。一方、前記配合比率が1:2であるサンプル2と前記配合比率が1:2.3であるサンプル1とを比較すると、サンプル1の方が、抵抗値が大幅に高く、電圧値が大幅に低くなっていることが分かる。すなわち、多孔度が60%よりも大きくなると、抵抗値が急激に高くなり、電圧値が急激に低くなることが分かる。
【0087】
これは、多孔度が60%よりも大きい場合には、ガス拡散層が疎な構造であるため、燃料電池内のガスと水の移動が容易となって系外に水又は水蒸気が排出されやすくなり、保水性が低下するためであると考えられる。保水性が低下した場合には、抵抗成分(特に膜抵抗)が増加し、これにより電圧は低下することとなる。
【0088】
なお、多孔度が42%未満であるガス拡散層はここでは製造していないが、多孔度が低いとガス拡散性能が低下するため、十分な電気化学反応が起こらず、電圧値は低下すると考えられる。
【0089】
従って、以上の試験結果及び考察から、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率は、1:0.7〜1:2であることが好ましいと考えられる。また、表1の各サンプルの電圧値を考慮すると、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率は、1:1.5〜1:2であることがさらに好ましいと考えられる。また、多孔度は42%以上60%以下であることが好ましいと考えられる。また、表1の各サンプルの電圧値を考慮すると、多孔度は42%以上50%以下であることがさらに好ましいと考えられる。
【0090】
(厚さについて)
次に、表2を用いて、ガス拡散層の好ましい厚さについて説明する。
【0091】
【表2】

【0092】
表2は、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率を1:2で固定し、ガス拡散層の厚さを変化させたときの、燃料電池の抵抗値及び電圧値を示す表である。なお、多孔度は、前記配合比率により決まるため一律45%となる。ここでは、ガス拡散層の厚さが異なる燃料電池のサンプル8〜16を以下で説明するように製造して、各サンプルの抵抗値及び電圧値を測定した。なお、抵抗値及び電圧値の測定方法は、表1にて説明したサンプル1〜7の抵抗値及び電圧値の測定方法と同様である。
【0093】
以下、各サンプルに共通する燃料電池の製造方法について説明する。なお、表1にて説明したサンプル1〜7の製造方法と同様の部分については、重複する説明を省略しながら説明する。
【0094】
まず、アセチレンブラック50gとグラファイト100g、界面活性剤7.5g、水170gをミキサーに投入する。その後、ミキサーの回転数を100rpmとして60分間、前記各材料を混錬する。60分経過後、前記混錬して得た混錬物に高分子樹脂としてPTFEディスパージョン35gを混合して、さらに5分間攪拌する。
【0095】
このようにして得られた混練物をミキサーの中から取り出し、延伸ロール機のギャップを調整して圧延し、シート状にする。この後、シート状にした前記混錬物をプログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0096】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機のギャップを調整して圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断して、ゴム状のガス拡散層を製造する。
【0097】
前記ガス拡散層の製造と同時的に又はそれに続いて、高分子電解質膜の両面に、触媒層として、白金坦持カーボンとイオン交換樹脂の混合物を塗布する。その後、当該混合物を乾燥して膜・触媒層接合体を得る。
【0098】
次いで、前記膜・触媒層接合体の両面に前記製造したガス拡散層を配置して、ホットプレス接合し、MEAを製造する。この後、製造したMEAを一対のセパレータで挟み込み、この状態で位置ずれしないように締結圧力が10kgf/cmとなるまで加圧する。
【0099】
以上のようにして、燃料電池の単電池(セル)を製造する。
サンプル8〜16は、圧延時に延伸ロール機のギャップを変更することで製造することができる。
【0100】
表2を参照して、厚さが300μmであるサンプル10と厚さが250μmであるサンプル9の抵抗値及び電圧値を比較すると、サンプル9の方が、抵抗値が大幅に高く、電圧値が大幅に低くなっていることが分かる。これは、厚さが薄くなることでガス拡散層のガス透過性が向上したために、低加湿運転下での保水性(保湿性)が低下して高分子電解質膜が乾燥し、膜抵抗が増加したためと考えられる。
【0101】
また、表2を参照して、厚さが600μmであるサンプル14と厚さが650μmであるサンプル15の抵抗値及び電圧値を比較すると、サンプル15のほうが、抵抗値が大幅に高く、電圧値が大幅に低くなっていることが分かる。これは、厚さが厚くなることでガス拡散層の内部抵抗(電気伝導抵抗)が増加したためと考えられる。また、厚さが厚くなることでガス拡散層のガス透過性が低下し、燃料ガス及び酸化剤ガスが触媒層に到達しにくくなったために十分な電気化学反応が起こらなかったためと考えられる。
【0102】
従って、以上の試験結果及び考察から、ガス拡散層の厚みは、300μm以上600μm以下であることが好ましいと考えられる。また、表2の各サンプルの電圧値を考慮すると、ガス拡散層の厚みは350μm以上500μm以下であることがさらに好ましいと考えられる。
【0103】
なお、前記サンプル2の製造方法とは異なる2つの製造方法により、サンプル2のガス拡散層と同じ配合比率、厚さ、多孔度を有するガス拡散層を製造し、当該ガス拡散層を備える燃料電池の抵抗値及び電圧値を測定したところ、サンプル2と同じ抵抗値及び電圧値であることを確認している。
【0104】
一方の製造方法は、具体的には次のような方法である。
まず、前記ミキサーで混練して得た混練物を、延伸ロール機に代えて押出成形機(2軸フルフライトスクリューの長さ50cm、Tダイの幅7cm、ギャップ600μm)を用い、厚さ600μm、幅7cmのシート状に成形する。この後、シート状にした前記混錬物を、プログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0105】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、延伸ロール機のギャップを400μmに調整して再圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断する。このようにして、サンプル2と同様の厚さ400μm、多孔度42%のゴム状のガス拡散層を得た。
【0106】
また、他方の製造方法は、具体的には次のような方法である。
まず、サンプル2と同じ組成の材料を、ミキサーに代えて押出成形機(2軸フルフライトスクリューの長さ100cm、Tダイの幅7cm、ギャップ600μm)を用いて、混練し、押し出しし、且つシート状に成形する。この後、シート状にした混錬物を、プログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0107】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、延伸ロール機のギャップを400μmに調整して再圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断する。このようにして、サンプル2と同様の厚さ400μm、多孔度42%のゴム状のガス拡散層を得た。
【0108】
《第2実施形態》
本発明の第2実施形態にかかる燃料電池について説明する。本第2実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、ガス拡散層14に、基材としては成立しない重量の炭素繊維を添加している点である。それ以外の点については、前記第1実施形態と同様であるので、重複する説明しは省略し、主に相違点について述べる。
【0109】
本第2実施形態にかかるガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、基材としては成立しない重量(例えば導電性粒子及び高分子樹脂よりも少ない重量)の炭素繊維が添加されたシート状で且つゴム状の多孔質部材で構成されている。
【0110】
前記炭素繊維の材料としては、例えば、気相成長法炭素繊維(以下、VGCFという)、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーなどが挙げられる。前記炭素繊維としてVGCFを使用する場合、例えば、繊維径0.15μm、繊維長15μmのものを使用すればよい。また、前記炭素繊維としてミルドファイバー、カットファイバー、又はチョップファイバーを使用する場合、例えば、繊維径5〜20μm、繊維長20μm〜100μmであるものを使用すればよい。
【0111】
前記ミルドファイバー、カットファイバー、又はチョップファイバーの原料は、PAN系、ピッチ系、レイヨン系のいずれでもよい。また、前記ファイバーは、原糸(長繊維フィラメント又は短繊維ステーブル)を切断、裁断することにより作製された短繊維の束を分散させて使用することが好ましい。
【0112】
また、本第2実施形態にかかるガス拡散層には、導電性粒子と高分子樹脂と炭素繊維以外に、ガス拡散層の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。
【0113】
次に、図6を参照しつつ、本発明の第2実施形態にかかるガス拡散層の製造方法について説明する。
【0114】
まず、ステップS11では、導電性粒子と高分子樹脂と炭素繊維と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。より具体的には、導電性粒子と炭素繊維と界面活性剤と分散溶媒とを攪拌・混錬機に投入し、それらを混錬して粉砕及び造粒する。この後、それらの混錬物の中に高分子樹脂材料を添加してさらに分散させる。なお、高分子樹脂材料を他の材料と別に混錬機に投入せずに、高分子樹脂材料を含む全ての材料を同時に混練機に投入しても良い。
【0115】
ステップS12では、混錬して得た混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状に成形する。
ステップS13では、シート状に成形した混錬物を焼成して、前記混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。
ステップS14では、界面活性剤と分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整する。
これにより、本発明の第2実施形態にかかるガス拡散層を製造することができる。
【0116】
本第2実施形態にかかるガス拡散層によれば、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、前記高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が添加された多孔質部材で構成され、炭素繊維を基材として使用しないので、燃料電池の低コスト化を図ることができる。また、炭素繊維を添加することで、ガス拡散層としての強度を強化することができるので、バインダーとして作用する高分子樹脂の配合量を少なくすることが可能となる。これにより、絶縁体である高分子樹脂の配合比率を低くすることができるので、発電性能の向上を図ることができる。
【0117】
(炭素繊維の配合比率について)
次に、表3を用いて、炭素繊維の好ましい配合比率について説明する。
【0118】
【表3】

【0119】
表3は、ガス拡散層の厚さを400μm、高分子樹脂の一例としてのPTFEの配合比率を10%に固定し、炭素繊維の一例としてのVGCFの配合比率を変化させたときの、内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷(マイクロショート)の有無を示す表である。ここでは、VGCFの配合比率が異なるガス拡散層のサンプル17〜23を以下で説明するように製造して、各サンプル17〜23のガス拡散層の内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を調べた。なお、炭素繊維は、高分子電解質膜よりも通常硬い材料で構成されるので、炭素繊維の配合比率によっては、高分子電解質膜を突き刺し、高分子電解質膜に損傷を与える恐れがある。高分子電解質膜の損傷は、燃料電池としての耐久性の低下に繋がる恐れがある。このため、表3では、高分子電解質膜の損傷の有無について記載している。
【0120】
以下、各サンプル17〜23に共通するガス拡散層の製造方法について説明する。
まず、平均粒子径が小さい導電性粒子の一例としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製デンカブラック:登録商標)と、平均粒子径が大きい導電性粒子の一例としてのグラファイト(和光純薬工業株式会社製)と、VGCF(昭和電工製、繊維径0.15μm、繊維長15μm)と、界面活性剤(トライトンX:登録商標)4gと、分散溶媒の一例としての水200gとをミキサーに投入する。このとき、アセチレンブラックとグラファイトとVGCFの合計量は133gとし、アセチレンブラックとグラファイトの配合比率は1:1.6となるようにする。
【0121】
前記各材料をミキサー内に投入後、ミキサーの回転数を100rpmとして60分間、前記各材料を混錬する。60分経過後、前記混錬して得た混錬物に高分子樹脂としてPTFEディスパージョン25g(旭硝子株式会社製AD911、固形分比60%)を混合して、さらに5分間攪拌する。
【0122】
このようにして得られた混練物をミキサーの中から20g取り出し、延伸ロール機(ギャップ600μmに設定)にて圧延してシート状にする。この後、シート状にした前記混錬物をプログラム制御式の焼成炉にて300℃で2時間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0123】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機(ギャップ400μm)にて圧延して厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行ったのち、6cm角に裁断する。このようにして、厚さ400μmのゴム状のガス拡散層を製造する。
【0124】
サンプル17〜23は、VGCFの配合比率を異ならせるだけで製造することができる。
なお、例えば、サンプル18では、アセチレンブラック50g、グラファイト80g、VGCF3gとしている。この場合、VGCFの配合比率(重量換算)とPTFEの配合比率(重量換算)は、次のようにして求めることができる。
【0125】
VGCFの配合比率:VGCF3g÷(アセチレンブラック50g+グラファイト80g+VGCF3g+PTFE25g×60%)×100=約2.0%
PTFEの配合比率:PTFE25g×60%÷(アセチレンブラック50g+グラファイト80g+VGCF3g+PTFE25g×60%)×100=約10.0%
【0126】
次に、表3に示したサンプル17〜23のガス拡散層の内部抵抗(電気伝導性)の測定方法について説明する。
【0127】
まず、各サンプルを直径4cmになるように型抜きする。
次いで、各サンプルにそれぞれ、圧縮試験機(島津製作所製、EZ−graph)を用いて圧力(面圧)が1.5kg/cmになるように圧縮荷重をかける。
この状態で、交流4端子法式抵抗計(鶴賀電機製、MODEL3566)を用いて内部抵抗値を測定する。
【0128】
次に、表3に示したサンプル17〜23のガス拡散層が取り付けられた高分子電解質膜の損傷の有無の判定方法について説明する。
【0129】
まず、高分子電解質膜の損傷の有無の判定のため、各サンプル毎に、擬似燃料電池セル(触媒層無し)を製造する。具体的には、VGCFの配合比率が同じである1組のサンプルを高分子電解質膜(Dupont社製Nafion112:登録商標)の両面に配置してホットプレス接合(80℃、10kgf/cm)し、MEAを製造する。この後、製造したMEAを一対のセパレータ(東海カーボン製)で挟み込み、この状態で位置ずれしないように締結圧力が10kgf/cmとなるまで加圧する。このようにして擬似燃料電池セルを製造する。
【0130】
次いで、前記のようにした擬似燃料電池セルに電気化学測定システム(北斗電工社製、HZ−3000)を接続する。
次いで、前記擬似燃料電池セルに0.4Vの負荷をかけ、その時の電流値を測定する。
ここで、高分子電解質膜に損傷があった場合、マイクロショートにより300mA以上の高電流が測定されると考えられる。
このため、測定された電流値が300mA以上であった場合、損傷「有り」と判定し、測定された電流値が300mA未満であった場合、損傷「無し」と判定する。
【0131】
次に、前記のようにして測定又は判定された試験結果についての考察を述べる。
表3を参照してサンプル17〜23の内部抵抗値を比較すると、VGCFの配合比率が低くなる程、内部抵抗値が増加することが分かる。また、VGCFの配合比率が2.0重量%であるサンプル18と、VGCFの配合比率が1.5重量%であるサンプル17とを比較すると、内部抵抗値が大幅に変化していることが分かる。すなわち、VGCFの配合比率が2.0重量%より低い場合には、内部抵抗値が急激に高くなることが分かる。このため、VGCFの配合比率は2.0重量%以上であることが好ましいと考えられる。
【0132】
表3を参照して高分子電解質膜の損傷の有無を検討すると、VGCFの配合比率が7.5重量%以下であるサンプル17〜21を用いた擬似燃料電池セルでは高分子電解質膜に損傷が無かった。これに対して、VGCFの配合比率が7.5重量%より大きいサンプル22,23を用いた擬似燃料電池セルでは高分子電解質膜に損傷が有った。
【0133】
従って、以上の試験結果及び考察から、VGCFの配合比率は2.0重量%以上7.5重量%以下であることが好ましいと考えられる。
【0134】
なお、VGCFに代えてチョップファイバー(クレハ株式会社製M−201F、繊維径12.5μm、繊維長150μm)を用いた以外はサンプル18と同じの製造方法でガス拡散層を製造し、当該ガス拡散層の内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を調べたところ、サンプル18と同じ結果を得た。すなわち、内部抵抗値は50mΩ・cmであり、高分子電解質膜の損傷は無かった。また、VGCFに代えて、ミルドファイバー(クレハ株式会社製M−2007S、繊維径14.5μm、繊維長90μm)、カットファイバー(東レ株式会社製T008−3、繊維径7μm)、又はミルドファイバー(東レ株式会社製MLD−30、繊維径7μm、繊維長30μm)を用いた場合においても、同様に、サンプル18と同じ結果を得た。
【0135】
(高分子樹脂の配合比率について)
次に、表4を用いて、高分子樹脂の好ましい配合比率について説明する。
【0136】
【表4】

【0137】
表4は、ガス拡散層の厚さを400μm、炭素繊維の一例としてのVGCFの配合比率を2.0重量%に固定し、高分子樹脂の一例としてのPTFEの配合比率を変化させたときの、内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を示す表である。PTFEディスパージョンの混合量を異ならせた点以外は、表3にて説明したサンプル18と同様の製造方法でサンプル24〜29のガス拡散層を製造している。また、内部抵抗値の測定方法及び高分子電解質膜の損傷の有無の判定方法は、表3にて説明したサンプル17〜23の内部抵抗値の測定方法及び高分子電解質膜の損傷の有無の判定方法と同様である。
【0138】
次に、前記のようにして測定又は判定された試験結果についての考察を述べる。
表4を参照してサンプル24〜29の内部抵抗値を比較すると、PTFEの配合比率が高くなる程、内部抵抗値が増加することが分かる。また、PTFEの配合比率が17重量%であるサンプル27と、PTFEの配合比率が20重量%であるサンプル28とを比較すると、内部抵抗値が大幅に変化していることが分かる。すなわち、PTFEの配合比率が17重量%より高い場合には、内部抵抗値が急激に高くなることが分かる。
【0139】
なお、PTFEの配合比率が10重量%未満であるシート状のガス拡散層の製造を試みたが、VGCFの配合比率、混練時間、混練速度、圧延条件などの様々な条件を変えても、製造することができなかった。これは、PTFEの配合比率が低くなることで、PTFEのバインダーとしての機能が弱くなり、導電性材料同士の結着性が低下したためと考えられる。
【0140】
従って、以上の試験結果及び考察から、PTFEの配合比率は10重量%以上17重量%以下であることが好ましいと考えられる。
【0141】
一方、高分子電解質膜の損傷の有無については、サンプル24〜29とも高分子電解質膜の損傷は無かった。これにより、高分子電解質膜の損傷の有無はPTFEの配合比率に影響されないことが分かる。
【0142】
(厚さについて)
次に、表5を用いて、炭素繊維を添加したときのガス拡散層の好ましい厚さについて説明する。
【0143】
【表5】

【0144】
表5は、炭素繊維の一例としてのVGCFの配合比率を2.0重量%、高分子樹脂の一例としてのPTFEの配合比率を10重量%に固定し、ガス拡散層の厚さを変化させたときの、内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を示す表である。ここでは、厚さが異なるガス拡散層のサンプル30〜35を以下で説明するように製造して、各サンプルの内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を調べた。なお、内部抵抗値の測定方法及び高分子電解質膜の損傷の有無の判定方法は、表3にて説明したサンプル17〜23の内部抵抗値の測定方法及び高分子電解質膜の損傷の有無の判定方法と同様である。
【0145】
以下、各サンプルに共通するガス拡散層の製造方法について説明する。なお、表3にて説明したサンプル17〜23の製造方法と同様の部分については、重複する説明を省略しながら説明する。
【0146】
まず、アセチレンブラック50gと、グラファイト80gと、VGCF3gと、界面活性剤4gと、水200gとをミキサーに投入する。前記各材料をミキサー内に投入後、ミキサーの回転数を100rpmとして60分間、前記各材料を混錬する。60分経過後、前記混錬して得た混錬物にPTFEディスパージョン25gを混合して、さらに5分間攪拌する。
【0147】
このようにして得られた混練物をミキサーの中から取り出し、延伸ロール機のギャップを調整して圧延し、シート状にする。この後、シート状にした前記混錬物をプログラム制御式の焼成炉にて300℃で2時間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0148】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機のギャップを調整して圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断する。
【0149】
以上のようにして、ゴム状のガス拡散層を製造する。
サンプル30〜35は、圧延時に延伸ロール機のギャップを変更することで製造することができる。
【0150】
次に、前記のようにして測定又は判定された試験結果についての考察を述べる。
表5を参照してサンプル30〜35の内部抵抗値を比較すると、ガス拡散層の厚みが厚くなる程、内部抵抗値が増加することが分かる。また、厚さが600μmであるサンプル33と厚さが650μmであるサンプル34の内部抵抗値を比較すると、サンプル34の方が、内部抵抗値が大幅に高くなっていることが分かる。なお、厚さが150μm未満であるシート状のガス拡散層の製造を試みたが、強度が不足し、安定的に内部抵抗を測定することができなかった。また、仮に製造できたとしても、厚さが薄くなることでガス拡散層のガス透過性が向上するために、低加湿運転下での保水性(保湿性)が低下して高分子電解質膜が乾燥し、内部抵抗は増加すると推測される。
【0151】
従って、以上の試験結果及び考察から、ガス拡散層の厚さは150μm以上600μm以下であることが好ましいと考えられる。
【0152】
一方、高分子電解質膜の損傷の有無については、サンプル30〜35とも高分子電解質膜の損傷は無かった。これにより、高分子電解質膜の損傷の有無はガス拡散層の厚さに影響されないことが分かる。
【0153】
なお、前記サンプル18の製造方法とは異なる2つの製造方法により、サンプル18のガス拡散層と同様のVGCFの配合比率(2.0重量%)、PTFEの配合比率(10重量%)、及び厚さ(400μm)を有するガス拡散層を製造し、内部抵抗値及び高分子電解質膜の損傷の有無を調べたところ、サンプル18と同じ結果を得た。すなわち、内部抵抗値は50mΩ・cmであり、高分子電解質膜の損傷は無かった。
【0154】
一方の製造方法は、具体的には次のような方法である。
まず、前記ミキサーで混練して得た混練物を、延伸ロール機に代えて押出成形機(2軸フルフライトスクリューの長さ50cm、Tダイの幅7cm、ギャップ600μm)を用い、厚さ600μm、幅7cmのシート状に成形する。この後、シート状にした前記混錬物を、プログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0155】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、延伸ロール機のギャップを400μmに調整して再圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断する。このようにして、サンプル18と同様のVGCFの配合比率、PTFEの配合比率、厚さを有するガス拡散層を得た。
【0156】
また、他方の製造方法は具体的には次のような方法である。
まず、サンプル18と同じ組成の材料を、ミキサーに代えて押出成形機(2軸フルフライトスクリューの長さ100cm、Tダイの幅7cm、ギャップ600μm)を用いて、混練し、押し出しし、且つシート状に成形する。この後、シート状にした混錬物を、プログラム制御式の焼成炉にて300℃で30分間焼成し、前記混錬物中の界面活性剤と水を除去する。
【0157】
界面活性剤と水を除去した前記混錬物を焼成炉から取り出し、延伸ロール機のギャップを400μmに調整して再圧延し、厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行う。この後、再圧延した前記混錬物を6cm角に裁断する。このようにして、サンプル18と同様のVGCFの配合比率、PTFEの配合比率、厚さを有するガス拡散層を得た。
【0158】
なお、炭素繊維を全く使用することなくPTFEの配合量の低減を試みたところ、PTFEの配合比率が20重量%の場合、前記各サンプルと同様の製造方法によってシート状のガス拡散層を製造することができた。しかしながら、当該ガス拡散層の内部抵抗値は、PTFEの配合比率が20重量%であるサンプル28の内部抵抗値(78mΩ・cm)よりも高くなった。これにより、炭素繊維を使用することが内部抵抗値の増加の抑制に効果があることが分かる。
【0159】
また、炭素繊維を全く使用することなくPTFEの配合比率の低減を試みたが、シート状のガス拡散層としての強度を十分に確保することができなかった。すなわち、炭素繊維を使用した場合にはPTFEの配合比率を20重量%未満にすることが可能であるが、炭素繊維を使用しない場合にはPTFEの配合比率を20重量%未満にすることができなかった。このことから、炭素繊維を使用することが、シート状のガス拡散層としての強度の強化に効果があることが分かる。なお、炭素繊維を使用してシート状に成形した混練物の強度を強化することで、混練物を圧延してシート状に成形する圧延成形を用いてガス拡散層を製造することが容易になる。
【0160】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明にかかる燃料電池用ガス拡散層は、燃料電池の発電性能の向上と低コスト化の両方を実現することができるので、燃料電池全般に有用である。
【0162】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0163】
1,1A 燃料電池
10 膜電極接合体
11 高分子電解質膜
12 電極層
13 触媒層
14 ガス拡散層
15,15A シール材
20 セパレータ
21 燃料ガス流路溝
22 酸化剤ガス流路溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いるガス拡散層であって、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、前記高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が添加された多孔質部材で構成されている、請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記多孔質部材は、前記炭素繊維を2.0重量%以上7.5重量%以下含む、請求項2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記多孔質部材は、前記高分子樹脂を10重量%以上17重量%以下含む、請求項2又は3に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記炭素繊維は、気相成長法炭素繊維、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーのうちのいずれか1つである、請求項2〜4のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
前記多孔質部材の多孔度は42%以上60%以下である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記導電性粒子は、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料で構成されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項8】
平均粒子径が小さいカーボン材料と、平均粒径が大きいカーボン材料との配合比率が、1:0.7〜1:2である、請求項7に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項9】
前記多孔質部材の厚さは、150μm以上600μm以下である、請求項1〜8のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項10】
前記多孔質部材の厚さは、300μm以上600μm以下である、請求項9に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を備える膜電極接合体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層を備える燃料電池。
【請求項13】
燃料電池に用いるガス拡散層の製造方法であって、
導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練する混練工程と、
前記混錬して得た混練物を圧延してシート状に成形する圧延工程と、
前記シート状に成形した混錬物を焼成して前記混錬物中から前記界面活性剤と分散溶媒とを除去する焼成工程と、
前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整する再圧延工程と、を備える、
燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項14】
前記混練工程は、導電性粒子と高分子樹脂と炭素繊維と界面活性剤と分散溶媒とを混練する工程である、請求項13に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項15】
前記再圧延して厚さを調整した混錬物における前記炭素繊維の配合比率が2.0重量%以上7.5重量%以下となるようにする、請求項14に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項16】
前記再圧延して厚さを調整した混練物における前記高分子樹脂の配合比率が10重量%以上17重量%以下となるようにする、請求項14又は15に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項17】
前記炭素繊維として、気相成長法炭素繊維、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーのうちのいずれか1つを用いる、請求項14〜16のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項18】
前記再圧延して厚さを調整した混錬物における多孔度が42%以上60%以下である、請求項13〜17のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項19】
前記導電性粒子として、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料を用いる、請求項13〜18のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項20】
平均粒子径が小さいカーボン材料と、平均粒径が大きいカーボン材料との配合比率が、1:0.7〜1:2である、請求項19に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項21】
前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整するとき、当該混錬物の厚さを150μm以上600μm以下とする、請求項13〜20のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項22】
前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整するとき、当該混錬物の厚さを300μm以上600μm以下とする、請求項21に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項23】
請求項13〜22のいずれか1つに記載の製造方法で製造された燃料電池用ガス拡散層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−210737(P2011−210737A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156244(P2011−156244)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2010−535679(P2010−535679)の分割
【原出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に関わる特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業/要素技術開発/定置用燃料電池システムの低コスト化・高性能化のための電池スタック主要部材に関する基盤研究開発(電池スタック主要部材の高信頼化・高ロバスト化に関する研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】