説明

燃料電池用ガス拡散層

【課題】本発明は、低コストで簡便に製造することができるガス拡散層を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層は、導電性炭素繊維及び樹脂を含む層が、3層以上からなるガス拡散層であって、
各層において導電性炭素繊維は一方向且つ平面方向に配向されており、
3層以上の各層に含まれる導電性炭素繊維は、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層、特に固体高分子形燃料電池用ガス拡散層、並びにそれを用いた燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜−電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する膜−電極接合体(MEA)は、ガス拡散層、触媒層、イオン伝導性固体高分子電解質膜、触媒層及びガス拡散層が順次積層された構造を有している。
【0003】
このうち、ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、良好なガス透過性及び拡散性を備えていることが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための導電性を有していることも必要である。更に、電極作製時又はスタックを組んだ際に加わる圧縮(圧力)に耐えうる強度も必要とされる。このため、ガス拡散層の材質としては、カーボンペーパー等の強度の高い導電性多孔質基材、炭素繊維を織物のように製織して作製したカーボンクロス等が使用されている。
【0004】
一般的に用いられているカーボンペーパーとしては、例えば、東レ(株)製のカーボンペーパーTGP−H−060、TGP−H−090等が挙げられる。カーボンペーパーは樹脂結合剤(エポキシ性樹脂、フェノール樹脂等)を含浸させた不織炭素繊維又は前駆物質重合体繊維のシートを、所望の膜厚となるだけシートを重ね合わせて加圧し、800〜2000℃程度の高温で熱処理し、シート全体を炭素化すること等により作製することができる。また、例えば、特許文献1〜3のように、炭素繊維を水中で分散させ、金網上に抄造し、その後樹脂を付着させて固化させるという方法、特許文献4のように、カーボンクロスを作製する際に炭素繊維を製織して作製する方法等も挙げられる。しかしながら、これらの方法では、大量生産し低コストな部材を作製する方法としては不適であり、実際高価な材料となっており、これが燃料電池全体のコストアップにつながり燃料電池普及の足かせの1つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−162838号公報
【特許文献2】特開平8−2979号公報
【特許文献3】特開2004−103403号公報
【特許文献4】特開2007−92273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の背景を考慮してなされたものであり、低コストで簡便に製造することができるガス拡散層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、ガス拡散層に所望の性能を付与すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、導電性炭素繊維の配向の仕方を制御する事で、上記課題を解決したガス拡散層を提供できることを見出した。また、このガス拡散層は、強度やガス透過性・ガス拡散性にも優れていることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層、並びにそれを用いた燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜−電極接合体及び燃料電池を包含する。
項1.導電性炭素繊維及び樹脂を含む層が、3層以上からなるガス拡散層であって、
各層において導電性炭素繊維は一方向且つ平面方向に配向されており、
3層以上の各層に含まれる導電性炭素繊維は、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されている、
固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
項2.導電性炭素繊維の平均繊維径が1〜50μmで平均アスペクト比が1〜1000である項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
項3.項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層上に触媒層が積層されてなる、固体高分子形燃料電池用ガス拡散電極。
項4.電解質膜の片面又は両面に触媒層が積層されてなる触媒層−電解質膜積層体の触媒層上に、項1又は2に記載のガス拡散層が積層されてなる、固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体。
項5.電解質膜の片面又は両面に、項3に記載のガス拡散電極が、電解質膜と触媒層とが接するように積層されてなる、固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体。
項6.項4又は5に記載の膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。
【0009】
1.ガス拡散層
本発明のガス拡散層は、導電性炭素繊維及び樹脂を含む層が、3層以上からなるガス拡散層であって、
各層において導電性炭素繊維は一方向且つ平面方向に配向されており、
3層以上の各層に含まれる導電性炭素繊維は、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されている。このガス拡散層は、例えば、導電性炭素繊維及び樹脂を含む層を3層以上フィルム基材上に積層し、その後、フィルム基材から剥離することによって得られる。
【0010】
本発明のガス拡散層を構成する各層において、導電性炭素繊維は、一方向且つ平面方向に配向されているが、完全に一方向且つ平面方向に配向されている必要はない。例えば、「一方向」とは、約半数以上の導電性炭素繊維の繊維軸が、本発明のガス拡散層を作製するためにガス拡散層形成用ペースト組成物を塗布する方向とほぼ同じ方向を向いていればよい。また、「平面方向」とは、約半数以上の導電性炭素繊維の繊維軸が、ほぼガス拡散層の平面に沿っていればよい。
【0011】
また、本発明において、各層に含まれる導電性炭素繊維は、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されているものである。ここで、「異なる方向」とは、ある層中の導電性炭素繊維の配向方向が、この層に接する層中のそれと異なると認識できる程度であればよく、例えば、これらのなす角度が、30度より大きければよい。
【0012】
本発明のガス拡散層を構成する層は、上述のように、含まれる導電性炭素繊維が、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されているものであるが、この層は、3層以上有することを必要とする。1層又は2層しか形成されない場合には、適切な細孔を形成する充分な効果が得られない。
【0013】
前記ガス拡散層は、導電性材料である導電性炭素繊維及び樹脂を含む。また、導電性材料である他の炭素材料(例えば導電性炭素粒子等)、その他の金属材料等を添加することもできる。また樹脂としては、ガス拡散層を構成する各層が、撥水性を持つことが好ましいので、フッ素系樹脂等の撥水性を持ったものが好ましいが、撥水性のない樹脂のみでガス拡散層を作製し、その後撥水材料で撥水処理を行うことも可能であるので、樹脂はフッ素系樹脂のみに捉われない。これらの材料を含むガス拡散層形成用ペースト組成物をフィルム上に塗布及び乾燥した後に剥離し、場合によっては焼成することにより、本発明のガス拡散層を作製する事ができる。
【0014】
導電性炭素繊維
導電性炭素繊維としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
ここで用いる導電性炭素繊維の炭素径としては、大きなものを用いれば空隙率が向上する。具体的には、この空隙率向上の効果と、作製しようとするガス拡散層の厚みとを考慮し、平均繊維径は1〜50μm程度、特に2〜20μm程度が好ましい。また、導電性炭素繊維の長さとしてはアスペクト比が大きいものを用いれば塗布方向に導電性炭素繊維が配向する傾向が強くなる。具体的には、平均アスペクト比は1〜1000程度、特に5〜100程度が好ましい。なお、導電性炭素繊維の繊維径、繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0016】
樹脂
本発明において、導電性炭素繊維を結着させる材料としては、樹脂を使用する。使用できる樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれでもよく、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。また、フッ素系樹脂を使用することもでき、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン−フッ化ビニリデン共重合体樹脂等も挙げられる。その他、酢酸ビニル樹脂、ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(PSB)、ブタジエン・アクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、スチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル−アクリル共重合体樹脂、ウレタン樹脂等も使用できる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。なかでも、撥水性を持つことから、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン−フッ化ビニリデン共重合体樹脂等のフッ素系樹脂が好ましい。また膜強度向上には、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂等が好ましい。
【0017】
導電性炭素粒子
導電性炭素粒子は、導電性を有する炭素材であれば特に限定されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上で用いることができる。これらの導電性炭素粒子を含有する多孔性導電シートを作製することによりシートの導電性等を向上させることができる。
【0018】
導電性炭素粒子の平均粒子径(算術平均粒子径)は限定的でなく、通常5nm〜50μm程度、好ましくは20nm〜5μm程度とすればよい。またカーボンブラックの凝集体を使用する場合は、10〜600nm、好ましくは50〜500nm、黒鉛や活性炭を使用する場合は、500nm〜40μm、好ましくは1μm〜35μm程度とすれば良い。この導電性炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0019】
撥水処理
上述のように、樹脂としては、撥水性を有するフッ素系樹脂が好ましいが、フッ素系樹脂を使用しない場合でも、ガス拡散層を作製した後に撥水処理を施せばよい。撥水処理としては、例えば、得られたガス拡散層をフッ素系樹脂等が分散した水分散体中に浸漬する方法等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、上述したもの等が挙げられる。なお、この際には、水中にフッ素系樹脂を分散させるために、公知又は市販の分散剤を用い、フッ素系樹脂及び水系分散剤を含む水系懸濁液として使用することが好ましい。
【0020】
水分散体中のフッ素系樹脂の含有量は限定的でないが、例えば、水100重量部に対して、1〜30重量部程度、好ましくは2〜20重量部程度とすればよい。
【0021】
含有量及び特性
本発明のガス拡散層中の各成分の配合割合は、例えば、導電性炭素繊維を20〜99重量%程度(好ましくは30〜95重量%程度)、樹脂を1〜80重量%程度(好ましくは5〜70重量%程度)とすればよい。また、導電性炭素粒子、金属材料等を含ませる場合には、導電性炭素粒子の含有量は、5〜80重量%程度(好ましくは10〜50重量%程度)とすればよい。
【0022】
本発明のガス拡散層は、その細孔分布が、細孔径0.05〜100μm程度、好ましくは0.5〜50μm程度において、ピークを有する。また、このピーク時の細孔径における細孔容積は、0.1〜5ml/cm程度、好ましくは0.5〜3ml/cm程度である。このような細孔容積を有することにより、本発明のガス拡散層は、優れたガス透過性及びガス拡散性を有する。
【0023】
本発明のガス拡散層は、例えば、公知又は市販のイオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に触媒層(カソード触媒層及びアノード触媒層)が積層された触媒層−電解質膜積層体(カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層)を用意し、次いで、この両面(カソード触媒層及びアノード触媒層)の少なくとも一つの面に、本発明のガス拡散層が当該触媒層に接触するように配置させることにより、用いられる。更に、本発明のガス拡散層の外側や内側に他の導電性多孔質層(MPL層)を積層させて用いる事も可能である。
【0024】
2.ガス拡散層の製造方法
本発明のガス拡散層は、ガス拡散層形成用ペースト組成物を、フィルム基材表面に塗布することで3層以上の層を形成し、次いで乾燥を行い、シートを剥離する工程を経ることにより得られる。
【0025】
ガス拡散層形成用ペースト組成物は、上述のガス拡散層に含まれる成分に加え、水、アルコール、エーテル、有機溶剤等の分散媒のほか、更に必要に応じて分散剤を添加することもできる。
【0026】
フィルム基材は特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパラバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン等)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。これらの中でも、上記ガス拡散層をフィルム基材から剥離させやすいことを考慮すると、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0027】
塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、公知又は市販のドクターブレード等のブレード、ワイヤーバー、スキージ等の器具やアプリケーター、ダイコート等で一方向に塗布すればよい。
【0028】
このように、上記のガス拡散層形成用ペースト組成物を一方向に塗布すると、塗布方向にそって導電性炭素繊維が配向しやすい傾向にある。
【0029】
これは、ガス拡散層形成用ペースト組成物を塗布した後に基材の表面を観察すると、例えば図1に示されるように、導電性炭素繊維が塗布方向に概ね配向している事で確認できる(図1の矢印は塗布方向である)。このことを利用し、ガス拡散層中の導電性炭素繊維の配向方向を制御することができる。
【0030】
具体的な形成方法としては、隣接する層の導電性炭素繊維の配向が交差するように制御するために、ガス拡散層形成用ペースト組成物をフィルム基材表面に塗布する際に、まずはガス拡散層形成用ペースト組成物を一方向に塗布した後に、ガス拡散層形成用ペースト組成物が乾燥する前又は乾燥後にガス拡散層形成用ペースト組成物を前記塗布した方向とは90度異なる方向(異なる方向の意味は上述と同じである)に塗布する事で、図2のように、導電性炭素繊維が90度異なる方向に並んだ2層からなる多孔性導電シートが得られる。この工程を何回も繰り返す事で導電性炭素繊維が隣り合う層とは90度異なる方向に向いた複数の層からなるガス拡散層が得られる(第1の方法)。
【0031】
また、ガス拡散層形成用ペースト組成物をフィルム基材表面に特定の一方向に塗布し、シートを作成すると、一方向に導電性炭素繊維が配向したシートが得られる。このシートを複数枚用意し、導電性炭素繊維の配向した向きを変えてシートを配置して、ヒートプレスし、各層にある樹脂成分同士が結着することでも図2のような導電性炭素繊維が配向されたシートを得ることができる。この要領で、シートを複数枚重ねてヒートプレスすることによって、各層の導電性炭素繊維が隣り合う層とは異なる方向を向いているガス拡散層を得ることができる(第2の方法)。具体例として隣り合う層間で塗布方向が垂直となるように、シートを4枚重ね合わせてヒートプレスした場合のガス拡散層の断面図を図3に示す。
【0032】
ヒートプレスの際の加圧レベルは、例えばヒートプレスするシートの面積が25cm程度であれば、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜15MPa程度、より好ましくは2〜10MPa程度がよい。また、この加圧の際に、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、ガス拡散層に用いる樹脂成分によって適宜変更する事が好ましいが、通常30〜200℃程度、好ましくは50〜150℃程度とすればよい。
【0033】
上記第1の方法と第2の方法のいずれにおいても、各層のガス拡散層形成用ペースト組成物の組成は同じであってもよいし異なっていても良い。
【0034】
ガス拡散層形成用ペースト組成物の塗布量は限定的でないが、例えば乾燥後にシートの総膜厚が、10〜1000μm程度、好ましくは30〜400μm程度となるようにすればよい。また各層の膜厚は、それぞれ同じ膜厚であっても、異なる膜厚であっても良く特に限定されないが、同じ膜厚とするのが簡便である。
【0035】
また、乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて50℃〜500℃程度、好ましくは90〜300℃程度とすればよい。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常5〜50分程度、好ましくは10〜30分程度である。
【0036】
このように、導電性炭素繊維の配向を制御することで、複数の層を積層しても空隙率を減少させる事なく狭い細孔分布幅を持つ構造となる。これにより、本発明のガス拡散層はガスの拡散性等に優れており、さらに、燃料電池で水が発生した際、水をガス拡散層から排出しやすくなる。
【0037】
3.ガス拡散電極
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散電極は、上記で説明した本発明のガス拡散層上に触媒層が形成されてなる。ただし、触媒層形成用ペースト組成物を、本発明のガス拡散層に直接形成すると、触媒層形成用ペースト組成物がガス拡散層の大きな細孔にしみ込んでしまい、ガス拡散層の細孔を埋めてしまったり、触媒が有効に利用されなかったりする可能性があるので、導電性多孔質層(MPL層)をガス拡散層に形成し、その後触媒層を形成する事が望ましい。この導電性多孔質層としては、公知の構成とすればよく、例えば、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成される。具体的には、特開2010−165470号公報等に記載されているものとすればよい。
【0038】
触媒層は、固体高分子形燃料電池用として一般的に使用されるものであれば特に制限はなく、一般的には、(1)触媒担持炭素粒子(触媒を担持させた炭素粒子)及び(2)水素イオン伝導性電解質を含むものが使用される。
【0039】
触媒担持炭素粒子は、炭素粒子に触媒が担持したものであり、公知又は市販のものを使用することができる。
【0040】
触媒担持炭素粒子を構成する炭素粒子は、特に制限されず、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0041】
炭素粒子に担持する触媒としては、燃料電池の燃料極又は空気極における電池反応を起こさせるものであれば特に限定されない。例えば、白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄、コバルト等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と白金との合金等が挙げられる。
【0042】
水素イオン伝導性電解質も限定的でなく、公知又は市販のものを使用できる。例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、特に炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、例えば、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)等が挙げられる。
【0043】
触媒担持炭素粒子と水素イオン伝導性電解質膜との含有割合は、前者1重量部に対して、後者を0.05〜5重量部程度、好ましくは0.2〜2重量部程度とすればよい。
【0044】
触媒層には、必要に応じて、炭素繊維、例えば気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の公知の添加剤を含有していてもよい。
【0045】
触媒層の厚みは限定的でなく、固体高分子形燃料電池の触媒層として一般的に採用されている範囲とすればよい。例えば、1〜200μm程度、好ましくは5〜50μm程度、より好ましくは5〜30μm程度とすればよい。
【0046】
このような触媒層を形成する方法としては、例えば、触媒層形成用ペースト組成物をガス拡散層上に塗布及び乾燥する方法等が挙げられる。
【0047】
触媒層形成用ペースト組成物としては、例えば、(1)触媒担持炭素粒子、(2)水素イオン伝導性電解質、及び(3)粘度調整用溶剤を混合して得られるものが挙げられる。
【0048】
触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性電解質は、上述したものを使用することができる。
【0049】
溶剤としては、例えば、各種アルコール、各種エーテル、各種ジアルキルスルホキシド、水又はこれらの混合物等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。
【0050】
触媒層形成用ペースト組成物中に含まれる上記(1)〜(3)成分の割合は、限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0051】
例えば、(1)の触媒担持炭素粒子1重量部に対して、(2)成分が0.05〜5重量部(好ましくは0.2〜2重量部)、(3)成分が1〜50重量部程度(好ましくは0.5〜25重量部)含まれているのがよく、残りが水等である。水の割合は、通常、触媒担持炭素粒子に対して、等重量〜50倍重量程度である。
【0052】
触媒層形成用ペースト組成物は、上記(1)〜(3)成分を混合することにより、製造される。(1)〜(3)成分の混合順序は、特に制限されない。例えば、(1)成分、(2)成分、及び(3)成分を順次又は同時に混合し、触媒担持炭素粒子を分散させることにより、触媒層形成用ペースト組成物を調製できる。
【0053】
塗布方法及び乾燥条件としては、特に制限はなく、上述のガス拡散層を作製する際と同様とすることができる。なお、使用する電解質膜の耐熱温度に応じて、乾燥温度を適宜変更する事が好ましい。
【0054】
また、触媒層を形成する方法としては、他にも、触媒層形成用ペースト組成物を転写基材上に形成した触媒層転写フィルムを用いて、ガス拡散層上に触媒層を転写する方法等も挙げられる。
【0055】
転写基材は特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパラバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン等)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。これらの中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0056】
転写基材の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常5〜200μm程度、好ましくは10〜100μm程度とするのがよい。
【0057】
また、転写基材には、離型層が積層されていてもよい。離型層としては、例えば、公知のワックスから構成されたもの、公知のフッ素系樹脂でコーティングされたプラスチックフィルムが挙げられる。
【0058】
転写の際の加圧レベルは、転写不良を避けるために、例えば転写する触媒層の面積が25cm程度であれば、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜15MPa程度、より好ましくは2〜10MPa程度がよい。また、この加圧の際に、転写不良を避けるために、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常30〜200℃程度、好ましくは50〜150℃程度とすればよい。なお、使用する電解質膜の耐熱温度に応じて、乾燥温度を適宜変更する事が好ましい。
【0059】
4.膜−電極接合体
<ガス拡散層を触媒層−電解質膜積層体に積層する場合>
本発明の第1の態様における固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体は、電解質膜の片面又は両面に触媒層が形成されてなる触媒層−電解質膜積層体の触媒層上に、本発明のガス拡散層が積層されてなる。なお、熱プレスすることにより、触媒層−電解質膜積層体とガス拡散層とを接合してもよいし、しなくてもよい。
【0060】
触媒層は、上記で説明したものとすることができる。
【0061】
電解質膜は、水素イオン伝導性のものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを使用できる。電解質膜の具体例としては、例えば、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)膜、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)膜、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)膜、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)膜等が挙げられる。
【0062】
電解質膜の膜厚は、通常5〜300μm程度、好ましくは10〜200μm程度、より好ましくは20〜100μm程度とすればよい。
【0063】
また、触媒層−電解質膜積層体を作製する際の方法や条件等は、ガス拡散層の代わりに電解質膜を使用すること以外は本発明のガス拡散電極の製造方法と同様とすることができる。
【0064】
熱プレスする際の加圧レベルは、例えば転写する触媒層の面積が25cm程度であれば、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜15MPa程度、より好ましくは2〜10MPa程度がよい。また、この加圧の際に、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常30〜200℃程度、好ましくは50〜150℃程度とすればよい。なお、使用する電解質膜の耐熱温度に応じて、乾燥温度を適宜変更する事が好ましい。
【0065】
<ガス拡散電極を電解質膜に積層する場合>
本発明の第2の態様における固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体は、電解質膜の片面又は両面に、本発明のガス拡散電極が、電解質膜と触媒層とが接するように積層されてなる。なお、熱プレスすることにより、電解質膜とガス拡散電極とを接合してもよいし、しなくてもよい。
【0066】
電解質膜及びガス拡散電極は、前述したものを使用することができる。
【0067】
熱プレスする際の加圧レベルは、例えば転写する触媒層の面積が25cm程度であれば、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは2〜10MPa程度、より好ましくは2〜10MPa程度がよい。また、この加圧の際に、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常30〜200℃程度、好ましくは50〜150℃程度とすればよい。なお、使用する電解質膜の耐熱温度に応じて、乾燥温度を適宜変更する事が好ましい。
【0068】
5.固体高分子形燃料電池
本発明の膜−電極接合体に公知又は市販のセパレータを設けることにより、本発明の固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、導電性炭素繊維の配向を制御する事によって、1方向のみに配向したガス拡散層と比べると、固体高分子形燃料電池を作製した際に優れた電池性能が得られる。また、本発明のガス拡散層は、従来から使用されているカーボンぺーパー、カーボンクロス等と比較し、低コストで簡便に製造できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ガス拡散層形成用ペースト組成物を、一方向に塗布した場合、導電性炭素繊維が塗布方向に概ね配向していることを示す写真である。
【図2】下表面(下層)と上表面(上層)とで導電性炭素繊維が異なる方向(例えば90度)に配向された膜の概念図である。
【図3】4層からなるガス拡散層を作製した場合の断面図である。
【図4】実施例1及び比較例1の細孔容積の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例1及び比較例1の電池性能試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
<材料>
実施例及び比較例においては、以下の材料を使用した。
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)樹脂:Solvay Solexis社製のSOLEF21216/1001
導電性炭素繊維:帝人(株)製のラヒーマ R−A301(平均繊維径:13μm、平均繊維長:200μm、平均アスペクト比:15.4)
【0073】
比較例1
まずはPVDF樹脂をMEK(メチルエチルケトン)に、PVDFの10wt%溶液となるように溶解させて、PVDF溶液を得た。
【0074】
多孔性導電シート形成用ペースト組成物として、導電性炭素繊維30重量部、PVDF10wt%溶液30重量部及びMEK15重量部を容器に入れて、ペイントシェイカーにて30分攪拌を行い、ガス拡散層形成用ペースト組成物を得た。
【0075】
上記のガス拡散層形成用ペースト組成物を、フィルム基材(テフロン(登録商標)シート)にアプリケーターにて塗布し、ガス拡散層形成用ペースト組成物の厚みが、乾燥後約300μmになるように、アプリケーターのメモリを調整しペースト塗工量を調整して塗布しその後100℃に設定したオーブンにて乾燥させた後、フィルム基材からガス拡散層をはがして、300μm厚のガス拡散層を得た。
【0076】
実施例1
上記のガス拡散層形成用ペースト組成物を、フィルム基材にて塗布し、ガス拡散層形成用ペースト組成物厚みが乾燥後約75μmになるように、アプリケーターのメモリを調整しペースト塗工量を調整して塗布した。その後、塗布したインキが乾燥しないうちに、フィルム基材を90度回転させて、ガス拡散層形成用ペースト組成物を塗布した厚みが前記塗布したインクと合わせて、乾燥後約150μmとなるようにアプリケーターで塗布した。これにより、基材側の75μmと表面側の75μmとでは導電性炭素繊維の配向が90度異なった膜が得られた。これを2回繰り返すことで、総厚300μmで導電性炭素繊維の配向が約75μmごとに90度異なった4層からなるガス拡散層が得られた。これを100℃に設定したオーブンにて乾燥させた後、フィルム基材からガス拡散層をはがして、300μm厚のガス拡散層を得た。
【0077】
<ガス拡散層の評価試験>
細孔容積
ガス拡散層の細孔容積は、水銀圧入式細孔分布測定装置(micromeritics Autopore IV mercury porosimeter:(株)島津製作所製)を利用して、ガス拡散層の細孔容積を測定した。結果を図4に示す。
【0078】
<燃料電池の製造>
触媒層−電解質膜積層体の製造
白金触媒担持炭素粒子4g(田中貴金属工業(株)製、「TEC10E50E」)、イオン伝導性高分子電解質溶液40g(Nafion5wt%溶液:「DE−520」デュポン社製)、蒸留水12g、n−ブタノール20g及びt−ブタノール20gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を得た。
【0079】
アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を、それぞれアプリケーターを用いて転写基材(材質:ポリエチレンテレフタラートフィルム)上に塗工し、95℃で30分程度乾燥させることにより触媒層を形成させて、アノード触媒層転写フィルム及びカソード触媒層転写フィルムを作製した。なお、触媒層の塗工量は、アノード触媒層、カソード触媒層共に白金担持量が0.5mg/cm程度となるようにした。
【0080】
上記で作製したアノード触媒層転写フィルム及びカソード触媒層転写フィルムを用いて、電解質膜各面に、熱プレスを行った後、転写基材のみを剥がすことにより、触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0081】
燃料電池の製造
上記で作製した触媒層−電解質膜積層体の両面に、実施例1の各ガス拡散層を積層させることにより、膜−電極接合体(MEA)を得、次いで、得られたMEAを燃料電池セルに組み込むことにより、固体高分子形燃料電池(実施例1のガス拡散層を用いて製造した固体高分子形燃料電池)を製造した。また、比較例1のガス拡散層を用いて製造した個体高分子形燃料電池も同様に製造した。
【0082】
<燃料電池の評価試験>
電池性能評価
上記のMEAを使用しての電池性能評価を、以下の条件により行った。
【0083】
セル温度:80℃
加湿温度:カソード65℃、アノード65℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
負荷電流を0〜1000mA/cmまで変動させた時のセル電圧値の測定を行った実施例1及び比較例1の結果を図5に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素繊維及び樹脂を含む層が、3層以上からなるガス拡散層であって、
各層において導電性炭素繊維は一方向且つ平面方向に配向されており、
3層以上の各層に含まれる導電性炭素繊維は、これらが接する層中の導電性炭素繊維とは異なる方向に配向されている、
固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
導電性炭素繊維の平均繊維径が1〜50μmで平均アスペクト比が1〜1000である請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層上に触媒層が積層されてなる、固体高分子形燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項4】
電解質膜の片面又は両面に触媒層が積層されてなる触媒層−電解質膜積層体の触媒層上に、請求項1又は2に記載のガス拡散層が積層されてなる、固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項5】
電解質膜の片面又は両面に、請求項3に記載のガス拡散電極が、電解質膜と触媒層とが接するように積層されてなる、固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−74280(P2012−74280A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218660(P2010−218660)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】