説明

燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、燃料電池

【課題】容易かつ安価に製造することができ、しかも、十分な導電性および機械的特性を有する燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、そのような燃料電池用セパレータを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】体積抵抗率が10mΩ・cm以下である第1の成形材料からなるセパレータ本体12と、このセパレータ本体12の周縁部に設けられた、曲げ強度が50MPa以上である第2の成形材料からなる補強体部14とを有する燃料電池用セパレータ10およびその製造方法、並びに、そのような燃料電池用セパレータ10を具備する燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、そのような燃料電池用セパレータを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、イオン交換膜を1対の電極(燃料極および空気極)で挟んだ単位セルを、燃料(例えば、水素ガス、メタノール等)の流路、および、空気(酸素ガス)と生成する水の流路となる溝を両面に形成したセパレータを介して、多数積層したものが知られている。
【0003】
このような燃料電池におけるセパレータは、燃料である水素ガス、メタノール等や、空気を供給し、生成する水や炭酸ガス等を排出する通路としての機能とともに、単位セル間を電気的に接続する集電体としての機能を併せ有する。したがって、セパレータは、高い導電率、つまり、低い貫通(体積)抵抗率を有することが要求される。
【0004】
このため、従来、セパレータの材料としては、金属材料および炭素材料を中心に開発が進められてきた。例えば、金属材料としては、ステンレス等が、また、炭素材料としては、膨張黒鉛シートをプレス成形した成形体、炭素焼結体に樹脂を含浸させ硬化させた樹脂含浸物、熱硬化性樹脂を焼成したガラス状カーボン等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、金属材料は、耐食性の問題から、表面に貴金属や炭素により耐食性の被覆を施さなければならず、コスト高となるうえ、耐久性が低下するなどの問題を生じる。また、上記炭素材料は、高精度の切削機や高価な高圧成形機が必要であり、金属材料の場合と同様、コスト面で問題がある。
【0006】
これらの問題を解決するものとして、炭素粉末と熱硬化性樹脂を混合し成形した成形体をセパレータとして用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このようなセパレータ材料は、厚さ方向の電気抵抗値が高く、導電性を十分に確保することができないという問題があった。
【0007】
そこで、さらに、炭素粉末の配合量を増大させたり、導電助剤を添加するなどして、導電性を高める方法が提案されているが、これらの方法を用いると導電性はある程度改善されるものの、曲げ強度が低下したり、歪み量が小さくなるなど、機械的特性が低下し、燃料電池組立て時にセパレータが破損するおそれがあった。
【特許文献1】特開2000−311695
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の課題に対処してなされたもので、容易かつ安価に製造することができ、しかも、セパレータに要求される十分な導電性および機械的特性を有する燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、そのような燃料電池用セパレータを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る燃料電池用セパレータは、体積抵抗率が10mΩ・cm以下である第1の成形材料からなるセパレータ本体と、このセパレータ本体の周縁部に設けられた、曲げ強度が50MPa以上である第2の成形材料からなる補強体部とを有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、成形用金型の中央部に、体積抵抗率が10mΩ・cm以下である第1の成形材料を供給するとともに、前記成形用金型の周縁部に、曲げ強度が50MPa以上である第2の成形材料を供給し、成形することを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明の一態様に係る燃料電池は、前記燃料電池用セパレータを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る燃料電池用セパレータによれば、容易かつ安価に製造することができるとともに、セパレータに要求される優れた導電性および機械的特性を具備することができる。また、本発明の一態様に係る燃料電池用セパレータの製造方法によれば、そのような優れた特性を有する燃料電池用セパレータを容易に製造することができる。さらに、本発明の一態様に係る燃料電池によれば、そのような優れた特性を有する燃料電池用セパレータを具備することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の燃料電池用セパレータの一実施形態を示す斜視図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池用セパレータ10は、後述するような第1の成形材料からなるセパレータ本体12と、その周囲に一体に設けられた第2の成形材料からなる補強体部14とからなり、全体が平板状に形成され、その両主面には、ガスまたは液体の流路となる溝16a、16bが複数条平行に、かつ、一方の主面に設けられた溝16aと他方の主面に設けられた溝16bが互いに直交するように設けられている。この燃料電池用セパレータ10に厚さは、例えば0.5〜5.0mm程度である。
【0016】
セパレータ本体12を形成する第1の成形材料は、体積抵抗率が10mΩ・cm以下のものであり、好ましくは1〜8mΩ・cmのものである。体積抵抗率が10mΩ・cmを超えるものでは、燃料電池用セパレータに要求される導電性を確保することができない。
【0017】
また、補強体部14を形成する第2の成形材料は、曲げ強度が50MPa以上であるものであり、好ましくは80〜150MPaであるものである。曲げ強度が50MPa未満のものでは、機械的特性が不十分となり、燃料電池組立て時にセパレータの破損が生じやすくなる。
【0018】
このように構成される燃料電池用セパレータ10においては、周縁部を除いて体積抵抗率が10mΩ・cm以下という優れた導電性を有する成形材料で形成されており、かつ、周縁部が曲げ強度50MPa以上という優れた機械的特性を有する成形材料で形成されているので、燃料電池用セパレータに要求される高い導電性が確保されるとともに、燃料電池組立て時にセパレータが破損するおそれもない。なお、本発明の効果を得るためには、補強体部14は、セパレータ本体10の周囲にほぼ均一な幅を持って形成されていることが好ましく、燃料電池用セパレータ10全体に対するその割合は、使用する成形材料や燃料電池用セパレータ10の形状、大きさ等にもよるが、通常、5〜40体積%の範囲である。
【0019】
次に、上記燃料電池用セパレータ10を形成するために使用される第1および第2の成形材料について詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、第1の成形材料として、例えば炭素材料と熱硬化性樹脂とを含み、体積抵抗率が前述した範囲、すなわち、10mΩ・cm以下、好ましくは1〜8mΩ・cmとなるように調製されたものが使用される。
【0021】
また、第2の成形材料として、例えば熱硬化性樹脂を含み、曲げ強度が前述した範囲、すなわち、50MPa以上、好ましくは80〜150MPaとなるように調製されたものが使用される。
【0022】
上記熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、硬化助剤等を併用することができる。例えば、エポキシ樹脂は、硬化剤および硬化促進剤が使用される。熱硬化性樹脂としては、温水環境での安定性等の観点から、なかでもフェノール樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、特に、第1の成形材料では、フェノール樹脂が好ましい。
【0023】
フェノール樹脂としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。
【0024】
本発明において使用されるフェノール樹脂の市販品を具体的に例示すると、ノボラック型フェノール樹脂としては、群栄化学(株)製のPSM−4326(軟化温度118〜122℃)、同PSM−6856(軟化温度105〜115℃)、同PSF−2803(軟化温度110〜120℃)、同PSF−2808(軟化温度120〜130℃)、荒川化学(株)製のタマノル100S(軟化温度110〜130℃)、同タマノル200S(軟化温度125〜130℃)(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。また、レゾール型フェノール樹脂としては、荒川化学(株)製のタマノル520S(軟化温度115〜130℃)、同タマノル521(軟化温度100〜115℃)、同タマノル526(軟化温度115〜130℃)、同タマノル586(軟化温度118〜125℃)、同タマノル572S(軟化温度120〜130℃)(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。その他、三井化学(株)製のフェノール・p−キシリレングリコールジメチルエーテル重縮合物のミレックスXL、同ミレックスXLC、三井化学(株)製の変性フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物のミレックスRN、同ミレックスRS、同ミレクスVR(以上、いずれも商品名)等も使用される。
【0025】
本発明において使用されるフェノール樹脂は、安定性等の観点から、軟化温度が100℃以上であることが好ましい。また、燃料電池の長期信頼性を確保するため、イオン性不純物を含まないことが好ましい。したがって、硬化反応に硬化剤を必要とするノボラック型フェノール樹脂より、樹脂自身で硬化反応が完結するレゾール型フェノール樹脂の使用が好ましい。
【0026】
また、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
次に、炭素材料としては、人造や天然の黒鉛粉末が好ましく使用される。人造黒鉛には、石油系コークス由来のものと、石炭系コークス由来のものがあるが、いずれも使用可能である。また、天然黒鉛も、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等、いずれも使用可能である。さらに、膨張性黒鉛も好ましく使用される。
【0028】
本発明において使用される黒鉛粉末は、平均粒径が20μm以下であることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。平均粒径が20μmを超えると、分散性が低下し、硬化物の導電性、機械的特性等が不均一となる。
本発明において使用される黒鉛粉末の市販品を具体的に例示すると、鱗片状黒鉛粉末として、伊藤黒鉛工業(株)製のRP999(平均粒径3μm)、同RP99(平均粒径3μm)、同RP98(平均粒径10μm)、同RP97(平均粒径10μm)、同RP90(平均粒径10μm)、同SRP98(平均粒径5μm/10μm)等、土状黒鉛粉末として、同AC97(平均粒径7μm)、同HAC(平均粒径7μm)、同LAC(平均粒径7μm)、同AN95(平均粒径3μm/5μm)、同AN94(平均粒径5μm)、同APK(平均粒径5μm/8μm)、日本黒鉛(株)製のAUP(平均粒径0.7μm)(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。また、人造黒鉛粉末として、伊藤黒鉛工業(株)製のAGB(平均粒径10μm)、同AGBL(平均粒径4μm)等、熱分解黒鉛粉末として、同PCGS(平均粒径10μm)、同PCG(平均粒径10μm)(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。さらに、膨張性黒鉛として、伊藤黒鉛工業(株)製のEC1500(平均粒径8μm)、特殊黒鉛として、同SNP−BY(平均粒径10μm)(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。
【0029】
なお、炭素粉末の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子分布測定装置により測定されたメジアン径である。
【0030】
本発明においては、炭素材料として、炭素繊維、カーボンブラック粉末、筒状、球状等のフラーレン粉末等も使用することができるが、これらは、上記黒鉛粉末の併用成分として使用することが好ましい。この場合、黒鉛粉末以外の炭素材料は、黒鉛粉末100質量部に対して10質量部以下の範囲で使用することが好ましい。
【0031】
第1の成形材料には、炭素粉末および熱硬化性樹脂の他、必要に応じて、モノマー、可塑剤、硬化剤、硬化開始剤、硬化助剤、溶剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、難燃剤、親水性付与剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。また、第2の成形材料には、熱硬化性樹脂の他、必要に応じて、上述したような炭素粉末、無機充填剤、モノマー、可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、硬化開始剤、硬化助剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、消泡剤、レベリンング剤、カップリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、難燃剤、親水性付与剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。第2の成形材料には、強度向上の観点から、シリカ粉末等の無機充填剤を配合することが好ましい。
【0032】
本発明において、第1の成形材料における炭素材料の含有量は、70〜95質量%であることが好ましく、80〜90質量%であることがより好ましい。また、第2の成形材料における炭素粉末の含有量は、0〜65質量%であることが好ましく、0〜40質量%であることがより好ましい。第1の成形材料における炭素材料の含有量が、70質量%に満たないと導電性が不十分となり、逆に95質量%を超えると機械的強度が低下し、成形性も不良となる。また、第2の成形材料における炭素材料の含有量が65質量%を超えると、十分な機械的強度が得られず、燃料電池組立て時にセパレータが破損するおそれが生ずる。
【0033】
上記第1および第2の成形材料を調製は例えば次にように行われる。
【0034】
(第1の成形材料の調製)
まず、熱硬化性樹脂を、予め、アセトン、メタノール、エタノール、これらの混合溶媒等の溶媒に溶解しておく。次に、万能混合機等の減圧が可能で、かつ、溶媒の使用が可能な混合機に、炭素材料および必要に応じて配合される硬化剤、硬化促進剤等の各成分を投入した後、予め用意しておいた熱硬化性樹脂の溶液を添加し、十分に混合する。あるいは、熱硬化性樹脂の希薄溶液を化学反応容器に入れ、その溶液中に炭素材料および必要に応じて配合される硬化剤、硬化促進剤等の各成分を投入した後、攪拌し、次いで、濾別する。あるいは、高速攪拌機に炭素材料を投入し、高速攪拌することにより、流動相近時の状態にしておき、これに熱硬化性樹脂の溶液を噴霧する。この後、上記混合物を、例えば、減圧、加熱して溶媒を揮散除去することにより、第1の成形材料を得ることができる。
【0035】
なお、硬化触媒、硬化助剤、離型剤等は予め熱硬化性樹脂溶液に溶解または分散させておいてもよい。また、炭素材料は予めカップリング剤により表面処理しておいてもよい。カップリング剤は、炭素材料と熱硬化性樹脂の界面親和性を向上させるために配合されるもので、炭素材料100質量部に対し、0.1〜0.5質量部使用することが好ましい。
【0036】
(第2の成形材料の調製)
炭素材料を含む場合は、上述した第1の成形材料の場合と同様に調製される。炭素材料を含まないか、もしくは、少量(例えば、10重量%程度以下)含む場合は、配合成分をミキサー等によって十分に混合(ドライブレンド)した後、熱ロールやニーダ等により溶融混練し、次いで、冷却固化させた後、適当な大きさに粉砕するようにすればよい。
【0037】
図1に示す燃料電池用セパレータ10は、このように調製された第1および第2の成形材料を用いて、例えば次にように製造することができる。
【0038】
すなわち、所定形状のキャビティを有するセパレータ成形用金型の中央部に、第1の成形材料を供給するとともに、その周囲に、第2の成形材料を供給し、一体に成形することにより製造することができる。成形方法としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。多段プレス(積層プレス)は、小さな出力で多数の成形品を得ることができることから、本発明においては好ましく使用される。
【0039】
射出成形法、射出圧縮成形法を用いる場合、成形性を向上させる目的で、炭酸ガスを成形機のシリンダの途中から注入し、成形材料中に溶かし込んで超臨界状態で成形することができる。成形品の面精度を高める観点からは、射出圧縮方法を用いることが好ましい。射出圧縮方法としては、金型を開いた状態で射出して閉じる方法、金型を閉じながら射出する方法、閉じた金型の型締め力をゼロにし、射出後型締め力をかける方法等があるが、いずれも適用可能である。成形条件は、使用する成形材料の種類によって適宜定められ、例えば、グラファイト高充填樹脂複合材料では、通常、圧力50〜100MPa、温度160〜200℃、時間5〜20分の条件で行われる。成形後、例えば180〜220℃で30分〜5時間の後硬化を行うことにより、セパレータ特性をさらに向上させることができる。
【0040】
なお、少なくとも第1の成形材料は予めタブレット化(未硬化状態で予備成形)しておき、これをセパレータ成形用金型の中央部に定置した後、その周囲に第2の成形材料を供給し、成形することが好ましい。このような方法を用いることにより、第1の成形材料と第2の成形材料との界面の制御および密着が向上する。また、成形用金型内に予め第1および第2の成形材料の供給位置を区画するための脱着可能な仕切り板を装着しておくことが好ましい。仕切り板は、樹脂が硬化する前に除去する。これにより第1の成形材料からなるセパレータ本体12と第2の成形材料からなる補強体部14が一体化した燃料電池用セパレータ10が得られる。
【0041】
このような燃料電池用セパレータ10は、種々の形式の燃料電池のセパレータとして使用することができるが、なかでも、固体高分子形、直接メタノール形、アルカリ形、リン酸形等の発電時の作動温度が200℃以下である、いわゆる低温形燃料電池のセパレータとして使用することが好ましい。なお、図1に示した燃料電池用セパレータ10は、両面にガスまたは液体の流路となる溝16a、16bが設けられているが、片面にのみ設けられていてもよく、また、その形状等も特に限定されるものではない。
【0042】
ここで、上記燃料電池用セパレータ10を用いた本発明の燃料電池の一実施形態を記載する。
【0043】
すなわち、図2は、上記燃料電池用セパレータ10を用いた本発明の燃料電池の一実施形態の基本構造単位を示す斜視図である。本実施形態の燃料電池は、固体高分子形燃料電池であり、その基本構造単位は、図2に示すように、イオン交換膜20、燃料極30および空気極40からなる単位セルを、燃料電池用セパレータ10で挟んだ構造となっている。そして、図示は省略したが、燃料電池はこのような基本構造単位を複数積層し、さらに、この積層体の両端に集電板を設けて構成される。
【0044】
このような燃料電池においては、セパレータとして、高導電性のセパレータ本体12と高強度の補強体部14からなる燃料電池用セパレータ10が使用されているので、製造コストが安いうえに、高い信頼性を有することができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において、「部」は特に断らない限りそれぞれ「質量部」を意味する。また、成形材料の体積抵抗率は、JIS K7194に準じて測定し、曲げ強さは、JIS K7203に準じて測定した。
【0046】
[成形材料の調製]
(調製例1)
万能混合機に、アセトン500部、レゾール型フェノール樹脂(荒川化学社製 商品名 タマノル521)100部、および、平均粒径10μmの鱗片状黒鉛(伊藤黒鉛工業社製 商品名 RP97)400部を、この順に投入し、十分に混合した後、減圧乾燥によりアセトンを除去して、樹脂被覆黒鉛を得、さらに、得られた樹脂被覆黒鉛をヘンシェルミキサにより粉砕して成形材料(A)を得た。この成形材料(A)の体積抵抗率は8mΩ・cm、曲げ強さは50MPaであった。
【0047】
(調製例2)
レゾール型フェノール樹脂(タマノル521)および鱗片状黒鉛(RP97)の配合量をそれぞれ200部および300部に変更した以外は調製例1の場合と同様にして成形材料(B)を得た。この成形材料(B)の体積抵抗率は18mΩ・cm、曲げ強さは20MPaであった。
【0048】
(調製例3)
レゾール型フェノール樹脂(タマノル521)および鱗片状黒鉛(RP97)の配合量をそれぞれ20部および480部に変更した以外は調製例1の場合と同様にして成形材料(C)を得た。この成形材料(C)の体積抵抗率は4mΩ・cm、曲げ強さは40MPaであった。
【0049】
(調製例4)
平均粒径20μmのシリカ粉末(アドマテックス社製 商品名 アドマファイン)435部、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製 商品名 A−187)1.5部、エポキシ樹脂(住友化学社製 商品名 NC−3000P)37.5部、フェノール樹脂(三菱瓦斯化学社製 商品名 GLP−A)24部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン1部および離型剤としてカルナバワックス1部を常温で混合し、さらに60〜130℃の加熱ロールで混練した後、冷却、粉砕して成形材料(D)を得た。この成形材料(D)の体積抵抗率は1×1018mΩ・cm、曲げ強さは200MPaであった。
【0050】
[燃料電池用セパレータの製造]
(実施例1)
燃料電池用セパレータ成形金型の中央部にタブレット化した成形材料(A)を、仕切り板により仕切られたその周辺部にタブレット化した成形材料(D)をそれぞれ充填し(重量比(A)/(D)=1)、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。なお、仕切り板は、金型の密閉状態を保持したまま除去できるように構成されており、加熱開始1分後に金型より除去した。
【0051】
(実施例2)
燃料電池用セパレータ成形金型の中央部にタブレット化した成形材料(C)を、仕切り板により仕切られたその周辺部にタブレット化した成形材料(D)をそれぞれ充填し(重量比(C)/(D)=1)、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。なお、仕切り板は、実施例1の場合と同様であり、加熱開始1分後に金型より除去した。
【0052】
(実施例3)
燃料電池用セパレータ成形金型の中央部にタブレット化した成形材料(A)を、仕切り板により仕切られたその周辺部にタブレット化した成形材料(B)をそれぞれ充填し(重量比(A)/(B)=1)、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。なお、仕切り板は、実施例1の場合と同様であり、加熱開始1分後に金型より除去した。
【0053】
(比較例1)
燃料電池用セパレータ成形金型にタブレット化した成形材料(A)を充填し、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。
【0054】
(比較例2)
燃料電池用セパレータ成形金型にタブレット化した成形材料(B)を充填し、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。
【0055】
(比較例3)
燃料電池用セパレータ成形金型にタブレット化した成形材料(C)を充填し、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。
【0056】
(比較例4)
燃料電池用セパレータ成形金型の中央部にタブレット化した成形材料(B)を、仕切り板により仕切られたその周辺部にタブレット化した成形材料(D)をそれぞれ充填し(重量比(B)/(D)=1)、圧力100MPa、温度180℃で、時間10分の条件で成形した後、200℃で2時間の後硬化処理を行い、燃料電池用セパレータを製造した。なお、仕切り板は、実施例1の場合と同様であり、加熱開始1分後に金型より除去した。
【0057】
上記各実施例および各比較例で得られた燃料電池用セパレータについて、下記に示す方法で各種特性を測定し評価した。
[成形性]
燃料電池用セパレータ成形時の割れの発生を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
○:割れなし △:部分的な割れが発生 ×:割れが発生し、成形不可
[厚み精度]
燃料電池用セパレータの4隅および中央部で厚みを測定し、その最大値と最小値の差を厚み精度として評価した。
[体積抵抗率]
三菱化学社製の抵抗率測定装置ロレスタGPを用いて、燃料電池用セパレータ中央部の体積抵抗率を測定した。
[締付け破壊圧力]
燃料電池用セパレータ(50mm×50mm×1mm)の中央に直径5mmの穴を穿設し、これを2枚重ね合わせ、所定のねじ(M4(JIS B0123))を用いてトルクレンチにより締付けを行い、燃料電池用セパレータが破壊したときのトルク値を締付け破壊圧力として評価した。
【0058】
これらの評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、実施例に係る燃料電池用セパレータは、導電性および機械的強度のいずれについても良好な特性を有していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の燃料電池用セパレータの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の燃料電池の一例の 固体高分子型燃料電池の基本構造単位を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10…燃料電池用セパレータ、12…セパレータ本体、14…補強体部、20…イオン交換膜、30…燃料極、40…空気極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が10mΩ・cm以下である第1の成形材料からなるセパレータ本体と、このセパレータ本体の周縁部に設けられた、曲げ強度が50MPa以上である第2の成形材料からなる補強体部とを有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
第1および第2の成形材料が、熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂を含むことを特徴とする請求項2記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
第1の成形材料が、炭素材料を70〜95質量%含有し、第2の成形材料が、炭素材料を0〜65質量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
炭素材料が、黒鉛粉であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
第2の成形材料が、シリカ粉末を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
成形用金型の中央部に、体積抵抗率が10mΩ・cm以下である第1の成形材料を供給するとともに、前記成形用金型の周縁部に、曲げ強度が50MPa以上である第2の成形材料を供給し、成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の燃料電池用セパレータを具備することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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