説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】導電性、耐食性、機械的強度、薄型化等の各種要求特性を満たす燃料電池用セパレータを、容易かつ安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】金属基板21上にガス供給用凹状溝23、冷却用凹状溝24をそれぞれ形成してなり、溝23,24のが、(1)凸型母型から型取りされた凹版に導電性フィラーを含有した導電性樹脂インクを充填、硬化し、凸形状の導電性樹脂を作製する工程、(2)金属基板21上に導電性樹脂インクを塗布し導電性樹脂インク層を形成する工程、(3)導電性樹脂インク層上に凸形状の導電性樹脂を有する凹版を設置する工程、(4)導電性樹脂インク層を硬化する工程、(5)凸形状の導電性樹脂から凹版を剥離し、凸形状の導電性樹脂を導電性樹脂インク層上に転写する工程により形成される燃料電池用セパレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のセパレータの製造方法に関するものであり、特に金属基板を有する燃料電池用のセパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素などの燃料と空気などの酸化剤を電気化学的に反応させることにより燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出す発電方式であり、発電効率が高く、静粛性に優れ、大気汚染の原因となるNOx、SOx、また地球温暖化の原因となるCO の排出量が少ない等の利点から、新エネルギーとして期待されている。
その適用例は携帯電気機器の長時間電力供給、コジェネレーション用定置型発電温水供給機、燃料電池自動車など、用途も規模も多様である。
【0003】
燃料電池の種類は使用する電解質によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ型等に分類され、それぞれ運転温度が大きく異なり、それに伴い発電規模や利用分野も異なる。陽イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は比較的低温での動作が可能であり、また、電解質膜の薄膜化により内部抵抗を低減できるため高出力化、コンパクト化が可能である。
【0004】
燃料電池は電解質膜の一方の面にアノード(燃料極)、他方の面にカソード(酸化剤極)を設けた膜電極接合体(以下MEAと称す場合がある)の両側に、セパレータを配した単電池セルを単数あるいは複数積層した構造を有している。
【0005】
図4は前記電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
電解質膜1の両面に常法により触媒層2、3を接合・積層して膜電極結合体12が形成される。
【0006】
図5は、この膜電極結合体12を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの一実施態様の構成を示す分解断面図である。
図4および図5に示したように、従来の固体高分子型燃料電池(PEFC)の単セルは、固体高分子電解質膜1(パーフルオロカーボンスルホン酸膜)をそれぞれカーボンブラック粒子に触媒物質[主として白金(Pt)あるいは白金族金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir)]を担持した空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とで挟持し、この空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とをそれぞれ空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5で挟持して空気極6および燃料極7を構成した膜電極接合体12を備えている。
そして、空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5に面して反応ガス流通用の凹状溝(ガス流路)8を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ10により挟持して単セルが構成される。
そして、空気などの酸化剤を空気極6に供給し、水素を含む燃料ガスもしくは有機物燃料を燃料極7に供給して発電するようになっている。
【0007】
すなわち、燃料極7、空気極6のそれぞれに反応ガスが供給されると、各電極触媒層中の触媒粒子表面において、下記の式(1)、(2)の電気化学反応が生じ直流電力を発生する。
燃料極側:2H →4H +4e 式(1)
空気極側:O +4H +4e →2H O 式(2)
燃料極側では水素分子(H )の酸化反応が起こり、空気極側では酸素分子(O )の還元反応が起こることで、燃料極7側で生成されたH イオンは固体高分子電解質膜1中を空気極6側に向かって移動し、e (電子)は外部の負荷を通って空気極6側に移動する。
一方、空気極6側では酸化剤ガスに含まれる酸素と、燃料極7側から移動してきたH イオンおよびe とが反応して水が生成される。かくして、固体高分子形燃料電池は、水素と酸素から直流電流を発生し、水を生成することになる。
【0008】
前記のように燃料極7に対向するセパレータ10表面には、燃料を流通させるための凹状溝8が設けられている。
また、空気極6に対向するセパレータ10表面には、酸化剤ガスを流通させるための凹状溝8が設けられている。
【0009】
燃料としては、水素を主体とした改質ガス(又は水素ガス)や、メタノール水溶液などが用いられている。
【0010】
しかし、前記空気極側の還元反応(酸素分子(O )の4電子還元)は難しく、空気極側において副反応として下記の電気化学反応(酸素分子(O )の2電子還元)が生じて多くのH が発生する。そして不純物としてFe(II)などが存在するとその触媒作用でH が分解され、OH・(OHラジカル)とOH が生成する。
【0011】
空気極側:O +2H +2e →H
+Fe(II)→OH・+OH +Fe(III )
生成したOH・(OHラジカル)は酸化力が大きく、固体高分子電解質膜1を酸化し分解し劣化する。
【0012】
直接メタノール型燃料電池は、メタノール水溶液を直接MEAに供給する方式の燃料電池であり、ガス改質器が不要、かつ、体積基準のエネルギー密度が高いメタノール水溶液を利用できることから、装置の更なる小型化が可能であり、携帯電気機器(例えば携帯音楽プレーヤー、携帯電話、ノート型パソコン、携帯型テレビ等)のポータブル電源としての展開が期待されている。
【0013】
直接メタノール型燃料電池の発電方法としては、電解質膜1を介して、メタノールと(酸化剤ガスに含まれる)酸素を、燃料極側触媒層3および空気極側触媒層2に含まれる触媒粒子表面において、下記の式(3)〜(5)の電気化学反応を生じさせる方法を用いている。
燃料極側反応:CHOH+HO→CO +6H +6e 式(3)
空気極側反応:6H +(3/2)O +6e →3HO 式(4)
全反応: CHOH+(3/2)O →CO +2HO 式(5)
【0014】
燃料極7側では、供給されたメタノールおよびその水溶液が、燃料極側触媒層3での式(3)の反応により炭酸ガス、水素イオン、及び電子に解離する。
この際、蟻酸等の中間生成物も微量発生する。
【0015】
生成された水素イオンは電解質膜1中を燃料極7から空気極側6に移動し、空気極触媒層2において、空気中から供給された酸素ガスおよび電子と、式(4)に従って反応し、水が生成する。
【0016】
単位電池セルの電圧は、室温近傍において理論上約1.2Vであるが、燃料極7で電気化学反応せずに電解質膜1中を空気極側6に移動してしまうメタノールクロスオーバーや、水素イオンが電解質膜1を透過する際の抵抗により、実質的には0.85〜1.0Vとなる。
【0017】
実用上、連続運転条件下で電圧が0.3〜0.6V程度となるように電流密度が設定されるため、実際に電源として用いる場合には、所定の電圧が得られるように、複数の単位電池セル(前記単セル)を直列接続して使用する必要がある。
【0018】
電池構造としては、出力密度の増大と燃料電池全体のコンパクト化を目的として、MEA12をセパレータ10で挟持して成る単電池セルを複数積層(スタック)した構造が用いられている。
必要な電力により、スタック枚数は異なり、一般的に携帯電気機器のポータブル電源では数枚から10枚程度、コジェネレーション用定置型電気および温水供給機では60〜90枚程度、自動車用途では250〜400枚程度といわれている。
高出力化のためにはスタック枚数の増大は必然的であり、単セルの厚みやコストが燃料電池本体のサイズや価格に大きく影響することになる。
【0019】
燃料電池用セパレータは燃料電池の単位セルを形成する保持支持体であり、燃料(水素、メタノール等)や酸素を供給する供給経路となる。燃料極に対向するセパレータ表面には、燃料を流通させるための燃料ガス流路である凹状溝が設けられている。また、空気極に対向するセパレータ表面には、酸化剤ガスを流通させるための酸化剤ガス流路である凹状溝が設けられている。
【0020】
燃料電池用セパレータは、燃料や酸素の供給を制御する他、集電体としての役割も有している。このため、全体としての体積抵抗が小さく、MEAとの接触抵抗が低くなるよう、優れた導電性が必要である。また、還元性の水素ガス、空気等の酸化剤ガス、冷却水などの冷却媒体、その他反応副生成物(蟻酸、水蒸気等)に曝され、さらに通電による電気化学反応の作用も受けるため、これらに対する耐食性も重要な特性である。その他、水などの反応生成物の除去、燃料の外部漏出防止等の役割も大きい。
【0021】
燃料電池用セパレータの基材としては、非金属系と金属系に大別できる。非金属系セパレータとしては緻密カーボングラファイト等のカーボン系材料(特許文献1)、樹脂材料がある。カーボン系材料は耐食性に優れているが、機械的耐性に乏しいため薄型化が難しい。また、プレス加工が困難であり、切削加工により流路やマニホールドを成型することになる結果、加工コストが高くなり量産性に問題がある。
そこで樹脂材料を使用することでガス不透過性、加工性の問題はある程度解消されるが、導電性フィラーを混入しないと導電性を発現することが困難であり、また導電性フィラーを混入し過ぎると十分なガス不透過性を確保するのが困難となる。
【0022】
金属系セパレータの材料としてはステンレス鋼(SUS)、チタン、アルミニウム等が挙げられる(特許文献2)。これらの材料は強度、延性に優れていることから、流路やマニホールドを成型するためのプレス加工が容易であり、加工コストが安価で量産性に優れている。さらには板厚の薄い金属を用いることが可能であり、燃料電池スタックの質量や容積を低減できる効果もある。
【0023】
しかし、金属系セパレータは燃料電池の使用環境雰囲気において耐食性に問題がある。
セパレータ基材の電位が活性態域および過不動態域にあたると、金属の腐食が促進され、セパレータとMEAとの接触抵抗が増大する。またセパレータからの溶出金属イオンが電解質膜に捕捉されると、電解質膜のプロトン伝導能が低下する。
さらには溶出金属イオンが存在すると空気極において過酸化水素等のラジカル性化学種が発生し、このラジカル性化学種の作用により電解質膜の劣化も引き起こす。
セパレータ基材の電位が不動態域であった場合、腐食の進行は小さいが、不働態皮膜が成長する。通常不働態皮膜は水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物等で構成されている。これら化合物の殆どは電気伝導性に乏しいため、金属セパレータの不働態皮膜が成長するに従って、電気抵抗が増大し、電池性能が劣化する。
【0024】
金属系セパレータの改良策として、高い導電性および耐食性を持つ貴金属をめっき、スパッタ等によりコーティングする方法(特許文献3、4)が報告されている。
しかし、セパレータ表面全体に対して、ピンホールを生じない程度の膜厚のコーティングを施すには、かなりの金属量が必要であるため、コスト的な問題が懸念される。
【特許文献1】特開2001−6703号公報
【特許文献2】特開2002−190305号公報
【特許文献3】特開2001−297777号公報
【特許文献4】特開2003−338296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は前述した背景技術における問題点を考慮し、金属をセパレータの基板として用い、表面に導電性フィラーを混合した樹脂層を形成することで、導電性、耐食性、機械的強度、薄型化等の各種要求特性を満たす燃料電池用セパレータを、容易かつ安価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に記載の発明は、金属基板上の一方の面上に反応ガスを電極に供給するためのガス供給用凹状溝を形成し、他方の面上に冷却のための冷媒を供給するための冷却用凹状溝を形成してなる燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記ガス供給用凹状溝および冷却用凹状溝の少なくとも一方が、下記(1)〜(5)の工程を用いて形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法である。
(1)凸型母型から型取りされた凹版に導電性フィラーを含有した導電性樹脂インクを充填、硬化し、凸形状の導電性樹脂を作製する工程
(2)前記金属基板上に導電性樹脂インクを塗布し導電性樹脂インク層を形成する工程
(3)前記導電性樹脂インク層上に前記凸形状の導電性樹脂を有する凹版を設置する工程
(4)前記導電性樹脂インク層を硬化する工程
(5)前記凸形状の導電性樹脂から凹版を剥離し、前記凸形状の導電性樹脂を前記導電性樹脂インク層上に転写する工程
請求項2に記載の発明は、前記凹版が、シリコーン樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法である。
請求項3に記載の発明は、前記導電性フィラーが、カーボン繊維もしくは導電性粉体またはその混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法である。
請求項4に記載の発明は、前記ガス供給用凹状溝および冷却用凹状溝の深さが、50μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法である。
請求項5に記載の発明は、前記金属基板が、純鉄、鉄合金、純銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群から選択される材料を少なくとも1つ以上用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかにのいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、金属をセパレータの基板として用い、表面に導電性フィラーを混合した樹脂層を形成することで、導電性、耐食性、機械的強度、薄型化等の各種要求特性を満たす燃料電池用セパレータを、容易かつ安価に製造する方法を提供することができる。
【0028】
また本発明では、金属基板を用いるために高い機械的強度を有し、堅牢性を維持したまま、薄型化および軽量化した燃料電池用セパレータを提供することが可能であり、かつ、導電性樹脂部分を有しているため金属基板で懸念される酸化皮膜成長による導電性の低下を招くことなく、高い耐食性を確保したまま、導電性を有することが出来る。また、導電性耐食皮膜の形成方法としてウェットプロセスを用いることが出来るためドライプロセスを適用した場合のような高価な設備を必要とすることなく連続的に安価にセパレータの製造をすることが可能となる。
【0029】
さらに本発明では、凹版により形成された凸形状の導電性樹脂を転写する際、金属基板上に予め塗布されている導電性樹脂インクからなる導電性樹脂インク層を介して該凸形状の導電性樹脂を接着させることを特徴とする。これにより、凸型状の導電性樹脂の転写が容易となり、より簡便にセパレータの製造をすることが可能となる。また、転写前に凸型状の導電性樹脂を完全硬化させることもできるため、転写時における形状の寸法変化を防止し、所望の形状を、より正確に再現することが可能となる。また、金属基板の耐食性をさらに向上させることができ、かつ金属基板と導電性樹脂との密着力を向上させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の燃料電池用セパレータの要部断面を模式的に示す説明図である。
図1に示したように、本発明の燃料電池用セパレータは、金属基板21の一方の面上に反応ガスを供給するための凹状溝A23が、他方の面上に冷却のための冷媒を供給するための凹状溝B24が、導電性フィラーとして例えばカーボン粉末を含有して構成された導電性樹脂22によって形成されている。平滑な金属基板21上の両側に凹状溝23,24をそれぞれ形成するため、プレス加工にて形成された流路と比較すると、凹状溝A23の形状に依存することなく凹状溝B 24を形成することができ、それぞれの流路に対して最適な設計を施すことができる。また、例えば凹版にシリコーン樹脂を用い、導電性樹脂インクを凹版に充填し型取り、金属基板に転写する方法(以下シリコーン型取り法ともいう)を採用することによって、通常の印刷法などでは不可能である数百μm程度の高さの凸型形状の一括形成が可能となる。
【0031】
図2(a)〜(c)に本発明における凹版の製造方法を示す。凹状溝Aおよび凹状溝Bと同様の形状を有する凸型母型25上にシリコーン樹脂からなる溶液26を流し込み硬化後凸型母型25より剥離することにより、凸型母型と逆形状となる凹版27を形成する。
【0032】
凸型母型25の材質は金属やガラスなど硬く変形しづらく、例えばシリコーン樹脂からなる溶液26の溶媒に侵されないものが好ましい。また、凸型形状はフォトリソグラフィ法で樹脂を基板表面に所望の形に形成する方法や基板そのものを加工し溝を形成する方法が考えられるが、変形なく所望の凸型を得られる方法であればその限りではない。
【0033】
凸型母型25上にシリコーン樹脂からなる溶液26を流し込み方法としては、凸型母型25の端部にシリコーン樹脂を必要量配し、棒状のスキージで溝部分に押し込みながら凸型母型25の逆面を平滑に加工する方法やスクリーン印刷により充填する方法などが考えられる。凹版27の凹凸面裏面の平滑性が金属基板25上への導電性樹脂転写時の寸法精度に影響するので、凹版27の形成方法は凹版27の凹凸面裏面の平滑に形成できる方法である必要がある。
【0034】
凹版27はシリコーン樹脂により形成されることによりある程度の柔軟性を有することができ、凸型母型25より剥離する際に容易に剥離が可能となる。また、導電性樹脂の転写時に凹凸形状が変形しない程度の強度が必要となる。凹版27に充填されたシリコーン樹脂の硬化方法としては、熱硬化やUV硬化などが考えられるが、シリコーン樹脂の組成により異なるため、十分に硬化する条件を適宜選択すればよい。硬化に際しては硬化収縮など寸法変化によりシリコーン樹脂型が凸型母型形状を再現できなくなる可能性があるため、できるだけ硬化による寸法変化の少ない樹脂を選択することが好ましい。
【0035】
図3に本発明の凹状溝の転写工程を示す。
図3に示すように凹版27,28に導電性樹脂22のインクを充填し、金属基板21と凹版27,28の凹凸形状側を向かい合うように設置し、上下にロール部を有し一定圧力で挟み込みながら基材を送り出す機構を有するロールラミネート装置により金属基板21上に導電性樹脂22を転写する。金属基板21上には、予め導電性樹脂インクを塗布し導電性樹脂インク層29を形成し、凸型状の導電性樹脂を設置した際に硬化し、一体化させる。ロールラミネート装置に設置されるローラーの間隔(ギャップ)と押し付け圧力、金属基板21の厚さ、凹版27,28の厚さにより金属基板21上に形成される導電性樹脂22の厚さが異なる。また、前記条件により凸状部分のみに導電性樹脂を配してもよい。
【0036】
また、凹版27,28に充填した凸型状の導電性樹脂22を転写する場合、転写前に凸型状の導電性樹脂22が硬化した状態であることが好ましい。溶媒分を含む導電性樹脂インクを転写と同時に硬化させる場合、転写時に溶媒などの排出経路が確保できないため硬化に時間がかかり、最悪の場合未硬化となることや乾燥・硬化後に寸法変化が大きく変化することが想定される。
【0037】
セパレータ材料については、本発明の燃料電池用セパレータは表面全体が上述の樹脂層に覆われるため、耐食性を考慮する必要はない。従って加工性や堅牢性、薄型化への対応のしやすさ等の他に、物理的強度を有しており、さらには、汎用性で入手が容易であり、材料費も安価である金属基材ならば本発明において使用でき、特に限定するところでない。
本発明で用いる金属基板としては、例えば、純鉄、鉄合金、純銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群から選択される材料等が挙げられる。燃料電池スタックの軽量化のためには、比重の小さい金属材料であるアルミニウム系金属が好ましい。
【0038】
本発明に用いる導電性樹脂からなる導電性耐食皮膜は、燃料電池用の燃料(水素や改質ガス、メタノールなど)や酸化剤(酸素やその混合ガス)、強酸性雰囲気に十分な耐性を有する材料で、十分な導電性を有する必要がある。本発明では比較的簡便で、かつ短時間に膜形成を可能とする導電性フィラーを含有する導電性樹脂を採用した。
【0039】
本発明に用いる導電性樹脂を構成する樹脂成分としては、発電環境下で十分な耐食性を有する樹脂であり、ウェットコーティングが可能であれば特に制限はなく、具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、などから選ばれた1種ないし2種以上の混合物を用いることができる。より高い耐食性という観点からフッ素系樹脂であることが好ましい。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)が挙げられる。これらの樹脂の質量平均分子量などで表される分子量は、ウェットコーティングなど加工性に支障を来さない限り機械的強度を考慮すると大きい方が好ましく、1万〜1000万、さらに好ましくは2万〜500万である。
【0040】
本発明に用いる導電性フィラーとしては、耐食性、導電性、価格などを考慮すると繊維状導電性フィラーあるいは粉体状導電性フィラーが望ましい。繊維状導電性フィラーとしては、具体的には、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどから選ばれる1種あるいは2種以上の繊維状カーボンを挙げることができる。カーボン繊維としては、高い導電性を確保するために粉体抵抗が0.015Ω・cm以下、単繊維比抵抗が1mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0041】
本発明において繊維状導電性フィラーと粉体状導電性フィラーを併用すると導電性樹脂皮膜自体の導電性をさらに低減できる。粉体状導電性フィラーとしては、十分な導電性を有し、発電環境下で十分な耐食性を有するものであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、アセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック等のカーボン粉体、WC、TiCなどの金属炭化物、TiN、TaNなどの金属窒化物、TiSi,ZrMoSiなどの金属珪化物およびAg,Auなどの耐食性金属などから選ばれた1種ないし2種以上の混合物を挙げることができる。粉体状導電性フィラーとしては、高い導電性を確保するために粉体抵抗が0.015Ω・cm以下、単体の比抵抗が1mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0042】
金属基板に反応ガス経路としての貫通孔を形成する方法は、ウェットエッチング法などの化学的加工、あるいはプレス法、切削法などの機械加工、あるいは放電加工など金属基板を部分的に除去できる加工方法であれば適用することが可能である。生産性を考慮すると、一工程で大面積を加工することが出来るため、プレス法やウェットエッチング法を用いることが好ましい。
【0043】
貫通孔や凹状溝の大きさは、利用される燃料電池の形態で異なるが、必要となる電力を発電するに十分な量の燃料ガスや酸化剤ガスがMEAへ均一に安定的に供給されることが必要である。そのため、発電部位に網羅的に燃料ガスや酸化剤ガスを供給するためには、少なくともセパレータの一部に反応ガスの流路となる凹状溝を形成することが好ましく、また、面内への均一供給を考慮すると、蛇行状、直線状、碁盤目状、円柱状等のパターン流路や発電部位と接する面内に多数の貫通孔とこれら流路を組み合わせたものがより好ましい。
【0044】
導電性フィラーを含む導電性樹脂溶液中の固形分濃度は、耐食性、機械低強度や電気抵抗、薄型化などを考慮して適宜選択する必要がある。導電性樹脂により形成される凸部分の厚さ(=凹状溝の深さ)が厚すぎると導電性が低下しすぎる恐れがあり、薄すぎると流動抵抗が増加し反応ガスや冷却媒体の流路として機能しない恐れがあるので、耐食性や機械低強度や電気抵抗や薄型化を考慮すると50〜700μmであることが好ましい。また、凹状溝の底部に導電性樹脂インク層を形成する場合は薄すぎるとピンホールの発生や機械的強度や耐食性が低下する恐れがあるので、耐食性や機械低強度や電気抵抗や薄型化を考慮するとその厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0045】
導電性樹脂における樹脂成分と導電性フィラーの比率は、用いられる材質により異なるが、たとえば導電性フィラーにカーボン繊維であるカーボンナノファイバーを、カーボン粉体であるアセチレンブラックを混合し用いた場合、膜形成した際に樹脂成分中の導電性フィラーの体積比率が25vol%以上であることが好ましい。導電性フィラーの比率が25vol%未満では十分な導電性を得ることが難しい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明する。
<凸型母型の作製>
まず、金属基材として1mm厚のステンレス板(SUS304)を用い、切削加工により表面に所望の凹版溝を有する流路形状を形成した。Aは溝幅が1mm、深さ0.5mm、溝ピッチが2mmの直線状溝が形成され、またBは溝幅が2mm、深さ0.5mm、溝ピッチが3mmの直線状溝が形成された凸型母型AおよびBをそれぞれ形成することができた。
【0047】
<シリコーン凹版の作製>
液状シリコーンゴムTSE3402(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製)をA液とB液を混合し十分撹拌する。次いで、上記凸型母型AおよびBの表面にTSE3402をアプリケータにより充填し、常温で48時間放置し硬化させる。TSE3402が完全に硬化した状態で母型から剥離することによりシリコーンゴム凹版AおよびBを得た。得られたシリコーンゴム凹版AおよびBは凹凸表面の状は良好であり、また裏面は平滑で均質に形成することが出来、凹部底面から凸部頂点までの高さが0.5mm、凸部頂点から裏面までの厚さは1mmであった。
【0048】
<セパレータ作製>
導電性樹脂としてドータイトA−3(カーボンブラック10〜20wt%含む)とドータイトC−3(カーボンブラック20〜30wt%含む)(藤倉化成株式会社製、2液硬化型エポキシ系導電性樹脂)を1:1の割合で混合したドータイトA−3/C−3を用い、上記シリコーンゴム凹版AおよびBにアプリケータを用いて充填した後、オーブンにて150℃、30分加熱処理し導電性樹脂を硬化させた。また、貫通孔を所望の位置にプレス打ち抜き加工にて形成したアルミニウム板(JIS1050、厚さ1mm)を用意し、表面処理液(アデカ製C−74011wt%溶液)を用い、常温にて40秒浸漬後、純水にて洗浄を行い、水分を乾燥した後、ドータイトA−3/C−3をアプリケータにより厚さ10μmとして塗布した。これに、ドータイトA−3/C−3が充填されたシリコーンゴム凹版AおよびBをシリコーン充填面がアルミニウム板と接する向きに所定の位置に位置合わせをした状態で設置し、ロールラミネータ(常温、プレス圧0.3MPa)によりアルミニウム板上にシリコーンゴム凹版AおよびBを固定した。その際、ロールラミネータの上下ロールのギャップは3mmであった。最後に、前記サンプルをオーブンにて150℃、30分加熱処理しアルミニウム板上に塗布した導電性樹脂を硬化させた後、シリコーンゴム凹版AおよびBを剥離することにより、所望のセパレータ形状を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の燃料電池用セパレータは、金属基板上の一方の面上に反応ガスを電極に供給するための凹状溝Aを形成し、他方の面上に冷却のための冷媒を供給するための凹状溝Bを形成してなる燃料電池用セパレータにおいて、前記凹状溝AおよびBの少なくともひとつが導電性フィラーを含有した導電性樹脂により形成されることを特徴とするものであり、前記凹状溝AおよびBの少なくともひとつが、凸型母型から型取りされた凹版に導電性フィラーを含有した導電性樹脂インクを充填形成後、金属基板上に凸形状を転写することにより形成されることにより、容易に50μm程度から500μm程度の厚膜パターンによる流路形状をセパレータ両面に形成することができる。また、粉体状導電性フィラーを用いると導電性耐食皮膜自体の導電性を向上でき、金属基板を用いるために高い機械的強度を有し、堅牢性を維持したまま、薄型化および軽量化が可能となり、一方、導電性樹脂を介しているため金属基板を用いた時に懸念される酸化皮膜成長による導電性の低下を招くことなく、高い耐食性を確保したまま、高い導電性を維持できるという顕著な効果を得ることができた。また、セパレータ金属基材と凸形状の導電性樹脂間に、予め導電性樹脂インクを塗布し導電性樹脂インク層、硬化、一体化させることにより、より簡便にセパレータを作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の燃料電池用セパレータの要部断面を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明における凹版の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明における凹状溝の転写工程を説明するための断面図である。
【図4】電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
【図5】図4に示した膜電極結合体を装着した燃料電池の単セルの構成を示す分解断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 電解質膜
2 空気極側電極触媒層
3 燃料極側電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 凹状溝(ガス流路)
9 冷却水流路
21 金属基板
22 導電性樹脂
23 凹状溝A(反応ガス流路)
24 凹状溝B(冷却溶媒流路)
25 凸状母型
26 シリコーン樹脂からなる溶液
27 凹版A(反応ガス流路側)
28 凹版B(冷却溶媒流路側)
29 導電性樹脂インク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上の一方の面上に反応ガスを電極に供給するためのガス供給用凹状溝を形成し、他方の面上に冷却のための冷媒を供給するための冷却用凹状溝を形成してなる燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記ガス供給用凹状溝および冷却用凹状溝の少なくとも一方が、下記(1)〜(5)の工程を用いて形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
(1)凸型母型から型取りされた凹版に導電性フィラーを含有した導電性樹脂インクを充填、硬化し、凸形状の導電性樹脂を作製する工程
(2)前記金属基板上に導電性樹脂インクを塗布し導電性樹脂インク層を形成する工程
(3)前記導電性樹脂インク層上に前記凸形状の導電性樹脂を有する凹版を設置する工程
(4)前記導電性樹脂インク層を硬化する工程
(5)前記凸形状の導電性樹脂から凹版を剥離し、前記凸形状の導電性樹脂を前記導電性樹脂インク層上に転写する工程
【請求項2】
前記凹版が、シリコーン樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記導電性フィラーが、カーボン繊維もしくは導電性粉体またはその混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記ガス供給用凹状溝および冷却用凹状溝の深さが、50μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記金属基板が、純鉄、鉄合金、純銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群から選択される材料を少なくとも1つ以上用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかにのいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−224294(P2009−224294A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70647(P2008−70647)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】