説明

燃料電池用反応層

【課題】触媒金属粒子の使用量(重量)の増大を引き起こすことなく、燃料電池に高い出力と高い耐久性を確保する。
【解決手段】燃料電池1において固体電解質膜2と拡散層26との間に介在される空気極側の反応層21であって、固体電解質膜2に接する第1の層22と拡散層26に接する第2の層24とを備え、第1の層22の第1の担体は第2の層24の第2の担体と異なる材料であり、第1の担体の耐久性が第2の担体の耐久性より高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用反応層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は固体電解質膜の両面へ反応層及び拡散層を順次積層して構成される。かかる燃料電池の反応層には白金等の貴金属からなる触媒金属粒子が分散担持される。
昨今、燃料電池には高い出力と高い耐久性が要求されている。
かかる要求に対応するため、特許文献1には反応層を多層構造として電解質膜に接する第1の層を所定の膜厚にするとともに、第1の層に担持される触媒を高耐久性としている。触媒の耐久性を高めるため大きな粒径の触媒金属粒子を採用している。
なお、本願発明に関係する特許文献を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272052号公報
【特許文献2】特開昭9−245802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大径な触媒金属粒子は確かに高い耐久性を備えるものであるが、大径の触媒金属粒子を用いると、単位重量当たりの表面積が小さくなるので、所定の触媒活性を得るためには、小径な触媒金属粒子を担持した場合に比べて、使用量(重量)が増大する。さらに、触媒金属粒子は高価な材料なため、このことは反応層、ひいては燃料電池の製造コストを上昇させる。
そこでこの発明は、触媒金属粒子の使用量(重量)の増大を引き起こすことなく、燃料電池に高い出力と高い耐久性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、燃料電池を長時間運転すると、反応層から触媒金属粒子が遊離して固体電解質膜へ移動することが知られている。これは、反応層において固体電解質膜に近い側に生成水がたまりやすいため、この部分でプロトン導電性が高くなり、その結果、この部分の反応層が腐食作用を受けるためと考えられる。反応層において腐食作用を受けるのは触媒金属粒子に限られず、担体も腐食作用を受ける。
本発明者はこの担体に注目し、本願発明に想到した。即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
燃料電池において固体電解質膜と拡散層との間に介在される空気極側の反応層であって、
前記固体電解質膜に接する第1の層と前記拡散層に接する第2の層とを備え、前記第1の層の第1の担体は前記第2の層の第2の担体と異なる材料であり、かつ前記第1の担体の耐久性が前記第2の担体の耐久性より高い、ことを特徴とする燃料電池用反応層。
【0006】
このように規定される第1の局面の発明によれば、反応層において固体電解質膜に近い部分(第1の層)を耐久性の高い担体(第1の担体)で形成したので、プロトンリッチの環境におかれても腐食され難くなる。従って、触媒金属粒子の担持が安定する。これにより、触媒金属粒子自体の耐久性を特に向上させなくても(触媒粒子を大径化することなく)、反応層の特性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明の一実施の形態を示す燃料電池の断面図である。
【図2】図2は細孔の径Dと吸水性若しくは排水性(圧力P)との関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
かかる第1の担体としてダイヤモンドライクカーボンやグラッシーカーボンを採用することができる(第2の局面)。かかる材料は担体として汎用されるカーボンブラック粒子に比べて化学的かつ物理的な安定性が高い。
反応層において拡散層側に位置する第2の層の担体(第2の担体)は特に限定されるものではないが、高加湿環境下での排水性や材料の原価等の見地から、汎用されるカーボンブラック粒子を用いることが好ましい。第2の担体は第1の担体に比べて排水性を高く(保湿性を低く)することが好ましい。
【0009】
更には、第1の層と第2の層との間に中間層を介在させることが好ましい。この中間層はカーボンブラック粒子(好ましくは第2の担体と同一若しくは同種のカーボンブラック粒子)を電解質で被覆したものとし、触媒金属粒子を存在させない。
第1の層と第2の層との間にかかる中間層を存在させることにより、第1の層と第2の層とが物理的に隔てられ、拡散距離が増すため低加湿環境においては第1の層の生成水が第2の層へ拡散し難く、拡散層を流通するガスによる持ち去りを抑制できる。また、高加湿環境においては第1の層の水が中間層へ拡散するためフラッディングの発生をより確実に防止できる。
【0010】
この中間層は高撥水性とすることが好ましい。高い撥水性を奏する中間層は第1の層の水と第2の層の水との分離を促進する。その結果、電解質膜と第1の層の湿潤状態が維持され、低加湿環境における高性能を発揮する。
他方、高加湿環境においては、第1の層で過剰に生成された生成水が圧力を有し、この圧力により生成水が中間層を容易に通過する。通過後は中間層の撥水性によりその逆流が防止される。よって第1の層におけるフラッディングの発生をより確実に防止できる。
撥水性を高める方策として、(1)電解質の親水基を基材と結合させその疎水基を表出させること及び/又は(2)細孔径を小さくすること、が挙げられる。
【0011】
(1)電解質相の親水基を基材と結合させその疎水基を表出させること
電解質相の表面が疎水性になることにより中間層の撥水性が向上する。
電解質相の表面を疎水性にするには次の方策がある。
(1−1) 第1の層及び第2の層の担体に比べて中間層の基材(カーボンブラック粒子)の比表面積を大きくする。
基材としてのカーボンブラック粒子の表面には親水基が存在し、この親水基が電解質の親水基と電子親和力で結合する。その結果、基材を覆う電解質の表面側には疎水基が表出する。このとき、基材の比表面積が大きいと、電解質においてより多くの親水基が基材に結合し、表出する疎水基の割合が多くなる。よって、基材と電解質との混練体からなる中間層の撥水性が向上する。
(1−2) 第1の層及び第2の層に比べて中間層の電解質比率(電解質/(基材+電解質)を小さくする。
電解質比率を小さくすることにより、電解質の多くの親水基が基材に結合し表出する疎水基の割合が多くなる。
(1−3) 第1の層及び第2の層の電解質に比べて中間層の電解質のEW(スルホン酸基1モル当たりの乾燥重量)が大きくする。
EWが大きくなると電解質のスルホン酸基(親水基)の密度が小さくなる。大きなEWの電解質(スルホン酸基密度の小さな電解質)を用いることにより電解質相の表面には疎水基が多く存在することとなる。
【0012】
(2)基材における細孔の径Dと吸水性若しくは排水性(圧力P)との関係を図2及び式1に示す。

P=−4σcosθ/D 式1

式1より接触角θが90°以上(排水性)の場合は細孔径Dが小さいほど排水圧力Pが大きくなる(勿論接触角θが90°未満は論外である。細孔が吸水して閉塞されると酸素の供給障害となる)。よって、第1及び第2の層の基材に比べて中間層の基材の細孔径を小さくすることが好ましい。
【0013】
また、中間層は第1及び第2の層に比べてその膜厚が薄く形成されている。
撥水性を有する中間層を薄くするのは高加湿環境下においてこの中間層が生成水の移動の過剰な抵抗とならないようにするためである。
【0014】
更には、中間層を更に三層構造として、その中心となる層の撥水性を高めてもよい。これにより、中間層による第1の層と第2の層との間の水遮断効果が向上し、特に低加湿環境下において第1の層が第2の層へ拡散することを効率的に防止できる。
【0015】
この発明の実施形態の燃料電池1を図1に示す。
この燃料電池1は固体電解質膜2を水素極10と空気極20とで挟んだ構成である。
固体電解質膜2にはプロトン導電性の高分子材料、例えばナフィオン(デュポン社商標名、以下同じ)等のフッ素系ポリマーを用いることができる。
【0016】
水素極10は反応層11と拡散層16を備え、固体電解質膜2へ反応層11、拡散層16の順に積層される。反応層11はカーボンブラック粒子等の導電性の担体に白金等の触媒金属粒子を担持し、電解質でコーティングしたものである。拡散層16はカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性がありかつガス拡散性能を有する材料から形成される。
空気極20も反応層21及び拡散層26を備え、固体電解質膜2へ反応層21、拡散層26の順に積層される。拡散層26の基本構造は、水素極10のそれと同じである。
【0017】
この発明では、空気極20の反応層21を、図1に示すように、固体電解質膜2側から、第1の層22、中間層23及び第2の層24を順に積層する構成とした。
第1の層22と第2の層24にはともに担体に触媒金属粒子が担持されている。中間層23には何ら触媒金属粒子が担持されていない。
第1の層22及び第2の層24に担持される触媒金属粒子には白金、白金−コバルト合金等の汎用的なものを採用することができる。第1の層22に担持される金属触媒粒子と第2の層24に担持される金属触媒粒子とは同じものでも、異なるものでもよい。
【0018】
第1の層22の担体(第1の担体)としてダイヤモンドライクカーボンを用いる。ダイヤモンドライクカーボンは炭素の非晶体であり、この発明で担体として用いるダイヤモンドライクカーボンは導電性を有する微粒子である。このダイヤモンドライクカーボンに触媒金属粒子が担持される。
ダイヤモンドライクカーボンの代わりにグラッシーカーボンの微粒子を用いることもできる。
第1の層24の担体(第2の担体)には一般的なカーボンブラック粒子を採用することができるが、酸化スズ、チタン酸化物等を使用することも可能である。
【0019】
中間層23は触媒を持たないものの、第1の層22及び第2の層24の触媒の活性を確保するため、導電性、プロトン移動性及び酸素の拡散性が要求される。そのため、中間層23は導電性かつ多孔質の微粒子からなる基材と電解質とを混練りした構成をとる。かかる基材として既述した触媒金属粒子の担体を用いることができる。水を円滑に移動させる見地から、中間層の基材の材料を第1の層若しくは第2の層の担体の材料と同一若しくは同種とすることが好ましい。
電解質はプロトンの移動を許容するものであれば任意に選択可能である。
【0020】
第1の層22は第2の層24に比べて保湿性が高く設定されている。
各層の保湿性の制御は、基材、電解質及び触媒の各特性を制御することにより行える。
例えば、カーボンブラック粒子からなる基材の空隙率を高くすることにより保湿性が小さくなる。同様に、担体の撥水性を高めることにより保湿性が小さくなる。
電解質の配合割合を多くすることにより保湿性は高くなる。なお、電解質のEW(スルホン酸基1モル当たりの乾燥重量)を高くすることにより保湿性が低下する。
また、触媒金属の担持密度を高くする事によって、生成水の発生密度が高まり、乾燥を防止することもできる。
更には親水性の触媒を採用することにより保湿性を高く維持できる。親水性の触媒としてPtCo触媒を挙げることができる。また、PtCo触媒を含めて汎用的な触媒を酸処理することにより、その親水性を向上可能である。
上記を考慮して、即ち、基材、電解質、触媒担持密度及び触媒の少なくとも1つの特性を変えることにより、第1の層22の保湿性を第2の層24の保湿性より高くすることができる。
【0021】
以下、この発明の実施例について説明する。
実施例の反応層21は次の様にして形成される。
先ずは、反応層21を構成する各層22,23,24のペーストを準備する。
第1の層22のペーストは、担体としてダイヤモンドライクカーボンの微粒子にPtを触媒金属として50w%担持させる。電解質にはナフィオンの5w%溶液を用い、カーボン担体と電解質との重量比は1:1とした。
中間層23のペーストは、基材としてカーボンブラック粒子を用い、これをナフィオンの5%溶液に分散させる。基材と電解質との重量比は1:1とした。
第2の層24のペーストはカーボンブラック粒子にPt触媒を40w%担持させる。なお、電解質にはナフィオンの5w%溶液を用い、カーボン担体と電解質との重量比は1:1とした。
【0022】
上記において、第1の層22と第2の層24とを比べると、第1の層22の触媒担持率が第2の層24の触媒担持率より大きい。これにより、第1の層22が第2の層24より高い保湿性を有する。
中間層23の担体は第1及び第2の層22,24の担体に比べてその細孔の平均開口径が小さい。この点から中間層23は第1及び第2の層22,24に比べて高い撥水性を備える。更には、この中間層23は第1及び第2の層22、24に比べて比表面積が大きく、他方、担体と電解質との配合比が第1及び第2の層22,24並びに中間層23において同一に維持されているので、この点からも中間層23は第1及び第2の層22,24に比べて高い撥水性を備える。
【0023】
第2の層24のペーストから順に拡散層26の表面へ積層し、かつ乾燥して図1に示す反応層21を構成する。
水素極10側においても同様にして拡散層16の表面へ反応層11を積層する。
水素極10と空気極20の各反応層11、21を電解質膜2へ貼り合わせて、図1の燃料電池1を構成する。
【0024】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1 燃料電池
2 固体電解質膜
10 水素極
11 反応層
16 拡散層
20 空気極
21 反応層
22 第1の層
23 中間層
24 第2の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池において固体電解質膜と拡散層との間に介在される空気極側の反応層であって、
前記固体電解質膜に接する第1の層と前記拡散層に接する第2の層とを備え、前記第1の層の第1の担体は前記第2の層の第2の担体と異なる材料であり、前記第1の担体の耐久性が前記第2の担体の耐久性より高い、ことを特徴とする燃料電池用反応層。
【請求項2】
前記第1の担体はダイヤモンドライクカーボン及び/又はグラッシーカーボンであり、前記第2の担体はカーボンブラック粒子である、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用反応層。
【請求項3】
前記第1の層と前記第2の層との間に中間層が介在され、該中間層には触媒金属粒子が存在しない、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用反応層。
【請求項4】
固体電解質膜と空気極側の拡散層との間に請求項1〜3のいずれかに記載の反応層を介在してなる燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−216326(P2011−216326A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83384(P2010−83384)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】