説明

燃料電池用燃料カートリッジ、燃料電池およびカップラ

【課題】燃料電池に液体燃料を供給する燃料カートリッジにおいて、ノズル先端に残留した液体燃料が操作者に触れないようにして安全性や信頼性を高める。
【解決手段】燃料電池用燃料カートリッジ5は、燃料電池用の液体燃料を収容するカートリッジ本体8と、液体燃料を燃料電池本体に供給するノズル部9とを具備する。ノズル部9は、カートリッジ本体8に設けられ、燃料電池本体のソケット部6に挿入される挿入部14先端に凹部15を有するノズルヘッド12と、このノズルヘッド12内に配置されたバルブ機構(19、20、21、22)とを備えている。ノズル先端に残留した液体燃料は凹部15内に収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用燃料カートリッジとそれを用いた燃料電池、およびこれら燃料カートリッジと燃料電池との接続機構等に用いられるカップラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料のみを補給すれば連続して長時間発電することができるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
特に、エネルギー密度の高いメタノール燃料を用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯機器用の電源として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料タンク内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。これらのうち、パッシブ方式はDMFCの小型化に対して有利である。
【0004】
内部気化型等のパッシブ型DMFCにおいては、燃料タンク内の液体燃料を例えば燃料含浸層や燃料気化層等を介して気化させ、この液体燃料の気化成分を燃料極に供給している(例えば特許文献1〜2参照)。また、燃料タンクに対しては燃料カートリッジを用いて液体燃料を供給する。サテライトタイプ(外部注入式)の燃料カートリッジにおいては、それぞれバルブ機構を内蔵するノズルとソケットとで構成されたカップラを用いて、液体燃料の遮断並びに注入を行うことが試みられている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【特許文献2】特開2004-171844号公報
【特許文献3】特開2004-127824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サテライトタイプ(外部注入式)の燃料カートリッジからDMFCの燃料タンク内に液体燃料を供給(注入)するにあたっては、安全性等の観点から液体燃料の漏洩を防止することが重要となる。燃料カートリッジとDMFCの燃料タンクは、上述したようなバルブ機構を内蔵するカップラ(ノズルおよびソケット)で液体燃料を遮断することが可能とされている。また、燃料カートリッジと燃料タンクとの接続時に関しては、ノズルとソケットの接続部をシールする機構が適用されており、液体燃料の漏れを防止している。
【0006】
上述したように、燃料カートリッジや燃料タンクの各部に対して液体燃料の漏洩を防止する機構が適用されているものの、液体燃料を供給した後の燃料カートリッジを燃料タンクから抜いた際に、燃料カートリッジのノズル先端にメタノール燃料等が液体の状態で付着している場合がある。このようなノズル先端に付着した僅かな液体燃料であっても、安全性等を高める上で操作者に触れないようにすることが求められている。
【0007】
また、燃料カートリッジは操作者によって取り扱われるため、取り扱い時にノズル部先端に過剰な負荷を加えた場合、さらには誤って落下あるいは衝撃等が加えられた場合に、ノズル部先端に設けられたバルブ機構を損傷したり、ひいては液体燃料が漏洩するおそれがある。このようなことから、燃料カートリッジの取り扱い時におけるノズル先端部のバルブ機構の損傷を防止し、安全性のさらなる向上が求められている。
【0008】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、燃料カートリッジのノズル先端に残留(付着)した液体燃料が操作者に触れないようにすること、さらには燃料カートリッジのノズル先端部のバルブ機構の損傷を防止することによって、安全性や信頼性を高めた燃料電池用燃料カートリッジ、およびそのような燃料カートリッジを適用した燃料電池、さらに燃料カートリッジの接続機構等に用いられるカップラを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る燃料電池用燃料カートリッジは、燃料電池用の液体燃料を収容するカートリッジ本体と、前記液体燃料を燃料電池本体に供給するノズル部とを具備する燃料電池用燃料カートリッジにおいて、前記ノズル部は前記カートリッジ本体に設けられ、前記燃料電池本体のソケット部に挿入される挿入部先端に凹部を有するノズルヘッドと、前記ノズルヘッド内に配置されたバルブ機構とを備えることを特徴としている。
【0010】
本発明の他の態様に係る燃料電池は、上記した本発明の態様に係る燃料カートリッジと、前記燃料カートリッジのノズル部と着脱可能に接続されるソケット部を有する燃料タンクと、前記燃料タンクから前記液体燃料が供給されて発電動作する起電部とを備える燃料電池本体とを具備することを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに他の態様に係るカップラは、弁体とこれを閉方向に付勢する付勢手段とを備えるソケットと、弁体とこれを閉方向に付勢する付勢手段とを備えると共に、前記ソケットと着脱可能に嵌合連結され嵌合連結状態で両弁体を開放して連通可能なプラグとから構成されるカップラであって、前記プラグは前記ソケットに嵌合される嵌合部先端に凹部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様に係る燃料電池用燃料カートリッジは、燃料電池本体のソケット部に挿入されるノズル部の挿入部先端に凹部を設けているため、ノズル部の先端側に液体燃料が残留(付着)したとしても、この液体燃料は挿入部先端の凹部内に収容されることになる。従って、操作者が液体燃料に触れることはない。また、ノズル部の挿入部先端に凹部が設けられているため、ノズルヘッド内のバルブ機構の先端部は凹部内に配置されることになり、操作者が取り扱い時にノズル部先端に過剰な負荷を加えた場合、さらには誤って落下あるいは衝撃等を加えた場合においても、ノズル部先端のバルブ機構の損傷を防止することができ、バルブ機構の損傷による液体燃料の漏洩も防止することができる。このような燃料電池用燃料カートリッジおよびそれを用いた燃料電池によれば、安全性や信頼性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明の一実施形態による燃料電池の構成を示す図である。図1に示す燃料電池1は、起電部となる燃料電池セル2と燃料タンク3とから主として構成される燃料電池本体4と、燃料タンク3に液体燃料を供給するサテライトタイプ(外部注入式)の燃料カートリッジ5とを具備している。燃料タンク3の下面側には、液体燃料の供給口となるソケット部6を有する燃料供給部7が設けられている。ソケット部6は後に詳述するようにバルブ機構を内蔵しており、液体燃料が供給されるとき以外は閉状態とされている。
【0015】
一方、燃料カートリッジ5は、燃料電池用の液体燃料を収容するカートリッジ本体(容器)8を有している。カートリッジ本体8の先端には、その内部に収容された液体燃料を燃料電池本体4に供給する際の燃料注出口となるノズル部9が設けられている。ノズル部9は後に詳述するようにバルブ機構を内蔵しており、液体燃料を供給するとき以外は閉状態とされている。このような燃料カートリッジ5は、例えば燃料タンク3に液体燃料を注入するときのみ燃料電池本体4に接続されるものである。
【0016】
燃料カートリッジ5のカートリッジ本体8には、燃料電池本体4に応じた液体燃料、例えば直接メタノール型燃料電池(DMFC)であれば各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が収容されている。なお、カートリッジ本体8に収容する液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池本体4に応じた液体燃料が収容される。
【0017】
上述した燃料電池本体4の燃料タンク3に設けられたソケット部6と燃料カートリッジ5のカートリッジ本体8に設けられたノズル部9とは、一対の接続機構(カップラ)を構成するものである。ソケット部6とノズル部9とで構成されたカップラの具体的な構成について、図2および図3を参照して説明する。図2は燃料カートリッジ5のノズル部9と燃料電池本体4のソケット部6とを接続する前の状態、図3はノズル部9とソケット部6とを接続した後の状態を示している。なお、図2および図3は主としてノズル部9とソケット部6の構成を一部断面で示した図である。
【0018】
燃料電池本体4と燃料カートリッジ5とを接続するカップラにおいて、カートリッジ側接続機構としてのノズル部(オス側カップラ/プラグ)9は、先端側にノズル口11が開口されたノズルヘッド12を有している。ノズルヘッド12は、カートリッジ本体8の先端開口部に固着されるベース部13と、ソケット部6に挿入される挿入部14とを有している。円筒状の挿入部14は、その軸方向がノズル部9の挿入方向と平行となるように、ベース部13から突出して形成されている。
【0019】
ノズルヘッド12の挿入部14の先端には、図4ないし図7に示すように凹部15が設けられている。ノズル口11は凹部15内に開口している。すなわち、凹部15は挿入部14の先端面をへこませるように設けられており、この凹部15の底面にノズル口11が開口している。このように、ノズル口11を挿入部14の先端に設けた凹部15内に開口させることによって、ノズル口11の実質的な先端は凹部15の底面により構成されている。凹部15は後に詳述するように、ノズル部9の先端側に付着(残留)した液体燃料の収容部として機能し、これによって操作者が液体燃料に触れることが防止される。
【0020】
さらに、ノズル口11の実質的な先端は凹部15の底面に形成されているため、バルブ機構の先端は実質的に凹部15の底部に配置されることになる。従って、操作者が取り扱い時にノズル部先端に過剰な負荷を加えた場合、さらには誤って落下あるいは衝撃等を加えた場合においても、ノズル部先端のバルブ機構の損傷を防止することが可能となる。これによって、バルブ機構の損傷による液体燃料の漏洩も防止することができる。
【0021】
ノズルヘッド12の挿入部14の外周には、燃料カートリッジ5に過剰な回転力が加わった際に、ノズル部9とソケット部6との接続状態を解除する手段としてカム部16が設けられている。カム部16は挿入部14の先端から根元側に一段下がった位置に形成されており、挿入部14の円周方向に沿って傾斜するカム面16aを有している。すなわち、カム部16は挿入部14の円周方向に対して上方に突き出す傾斜面を円周方向両側に備えるカム面13により構成されている。カム部16は挿入部14の円周方向に対して複数個所(図4ないし図7では3箇所)に設けられている。
【0022】
上述したように、カム部16が挿入部14の外周面の先端から一段下がった位置に形成されているため、挿入部14は凹部15を有する先端部14aのみが突出した状態とされており、この挿入部14の先端突出部14aがソケット部6への実質的な挿入部分として機能する。この挿入部14の先端突出部14aは外周側角部が曲面状(R形状)とされている。これによって、燃料カートリッジ5に過剰な曲げ荷重等が加わった際に、ノズル部9がソケット部6から離脱しやすくしている。この点については後述する。さらに、挿入部14の外周面には、ノズル部9とソケット部6との接続保持手段としてのバネリテンション(後述)が係合する溝17が形成されている。
【0023】
ノズルヘッド12のベース部13の内側には、カップ状のバルブホルダ18が配置されている。バルブホルダ18はバルブ室を規定するものであり、その先端側外縁部がカートリッジ本体8とベース部13とで挟み込まれて固定されている。バルブホルダ18内には、バルブ19が配置されている。バルブ19はバルブヘッド19aとバルブステム19bとを備えている。バルブヘッド19aはバルブホルダ18で規定されたバルブ室内に配置されている。バルブステム19bは円筒状の挿入部14内に収容されている。
【0024】
上述したようなバルブヘッド19aとバルブステム19bとを有するバルブ19は、軸方向(ノズル部9の挿入方向)に進退可能とされている。バルブヘッド19aとベース部13の内側に形成されたバルブシート20との間には、Oリング21が配置されている。バルブ19には圧縮スプリング22等の弾性部材でバルブヘッド19aをバルブシート20に押し付ける力が加えられており、これらによってOリング21は押圧されている。
【0025】
圧縮スプリング22等の弾性部材は、ノズル部9内を通過する液体燃料に晒されるため、耐食性等に優れる材料で構成することが好ましく、例えば不動態化処理や金コーティング等を施した金属スプリング(バネ鋼からなるスプリング等)を使用することが望ましい。また、これら弾性部材やOリング21等には、嵌合時や使用時の密封性を確保することを目的として、後述する圧縮永久歪が1〜80の範囲、硬度(Type A)が40〜70の範囲であり、かつ燃料電池の性能試験における作動限界時間が10000時間以上のエラストマーにより構成された弾性部材も有効である。
【0026】
通常状態(燃料カートリッジ5が燃料電池本体4から切り離された状態)においては、Oリング21を介してバルブヘッド19aをバルブシート20に押し付けることによって、ノズル部9内の流路を閉状態としている。一方、後述するように燃料カートリッジ5を燃料電池本体4に接続すると、バルブステム19bが後退してバルブヘッド19aがバルブシート20から離れることによって、ノズル部9内の流路が開状態とされる。バルブホルダ18の底部には連通孔18aが設けられており、この液体燃料の通路となる連通孔18aを介してカートリッジ本体8内の液体燃料はノズル部9内に流出する。
【0027】
さらに、ノズルヘッド12の外側にはコンテナノズル23が配置されており、このコンテナノズル23をカートリッジ本体8に例えば螺着することによって、ノズルヘッド12やバルブ19等を有するノズル部9がカートリッジ本体8の先端部(開口を有する先端部)に固着されている。なお、図2および図3は複層構造のカートリッジ本体8を示しており、8aはメタノール燃料等の液体燃料と直接的に接する内容器、8bは内容器8aを保護する外容器(ハードケース)である。
【0028】
一方、燃料電池側接続機構としてのソケット部(メス側カップラ/ソケット)6は、円筒状のソケット本体31を有している。ソケット本体31は本体上部31a、本体中部31b、本体下部31cを有しており、これらは一体化されて燃料電池本体4の燃料供給部7(図2および図3では図示せず)内に埋め込まれている。ソケット本体31の本体中部31b上には、弾性体ホルダとしてゴムホルダ32が設置されている。ゴムホルダ32はジャバラ形状と材料特性(ゴム弾性)に基づいて軸方向に弾性が付与されている。ゴムホルダ32はノズルヘッド12の挿入部14との間にシールを形成するシール部材であり、その内側は液体燃料の通路とされている。
【0029】
具体的には図8に示すように、ゴムホルダ32の先端をノズルヘッド12の挿入部14先端に設けられた凹部15に嵌め合わせることによって、ゴムホルダ32とノズルヘッド12の挿入部14との間にシールが形成される。実際のシールはゴムホルダ32の先端面と凹部15の底面との間(面シール)、もしくは凹部15の底面を傾斜面とした場合にはこの傾斜面とゴムホルダ32の先端角部との間(ラインシール)に形成される。このように、ノズルヘッド12の挿入部14の先端に設けられた凹部15は、ソケット部6(具体的にはゴムホルダ32)との間のシール性の向上にも寄与する。
【0030】
さらに、バルブ機構の例えばバルブステム19bの先端は、実質的に凹部15底部に配置されることになるため、操作者が取り扱い時にノズル部先端に過剰な負荷を加えた場合、さらには誤って落下あるいは衝撃等を加えた場合においても、ノズル部先端のバルブ機構の損傷を防止することが可能となる。よって、バルブ機構の損傷による液体燃料が漏洩するおそれも防止することができる。
【0031】
ゴムホルダ32とノズルヘッド12の挿入部14との間は、例えば図9に示すように複数個所でシールすることが好ましい。すなわち、ソケット部6とノズル部9とによる接続機構は、これらの接続時に液体燃料の外部への漏洩を防止するシール部を複数備えていることが好ましい。これによって、液体燃料の外部への漏洩をより確実に防止することが可能となる。図9に示すゴムホルダ32は、凹部15の底面と接触する先端部と、挿入部14の先端と接触するリング部32aとによって、ノズルヘッド12の挿入部14との間に複数(2箇所)のシール部を形成している。
【0032】
上述したゴムホルダ(弾性部材)32は、ソケット部6内を通過する液体燃料に晒されるため、耐メタノール性等に優れる材料で構成することが好ましい。具体的には、圧縮永久歪が1〜80の範囲で、硬度(Type A)が40〜70の範囲であり、かつ燃料電池の性能試験における作動限界時間が10000時間以上のエラストマーにより構成することが好ましい。エラストマーの具体例としては、過酸化物架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、動的架橋オレフィン系熱可塑性エラストマー、結晶擬似架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。このような弾性部材は上述したようにバルブ機構のスプリング等に代えて使用することも可能である。
【0033】
ここで、エラストマーの圧縮永久歪を1〜80の範囲とし、特定の回復力を付与することで、燃料電池用カートリッジ、燃料電池、あるいはカップラの使用時における十分な密閉性を確保することができる。また、エラストマーの硬度(Type A)を40〜70の範囲とすることで、燃料電池用カートリッジ、燃料電池、あるいはカップラの製造時の嵌合時等における変形を防止することができ、十分な密閉性を確保することが可能となる。
【0034】
なお、圧縮永久歪はJIS K6262の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久ひずみ試験方法」に準拠し、エラストマーを25%歪、70℃で24時間処理後、歪み量を測定した際の値である。また、硬度(Type A)はJIS K6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法(デュロメータ タイプA)」に準拠する方法で測定した際の値である。
【0035】
燃料電池の性能試験は、「発電セル出力密度:37.5mW/cm2、Anode:(標準液)5vol%MeOH 0.1cc/min/cm2、Cathode:Air 32cc/min/cm2、温度:30℃」とし、セルはエイジングを行い、電流密度が100mA/cm2にて0.375Vの起電圧が確保できることを確認した後に、試験に使用する。MeOHは和光純薬製メタノール(特級)とMilli-Q(Ultrapure Organic Cartridge)を用いて、電気抵抗値が18MΩ・cmを超える値を示す精製した純水を使用して調製する。試験手順は以下の通りである。
【0036】
内容量50ccのカートリッジ中で、細かく刻んだエラストマー0.03gをメタノール(特級)25ccに浸漬して、テトラフルオロエチレン製パッキンを内包するキャップにより密閉して60℃で1週間保存後、Milli-Qを用いて5vol%となるように調製したメタノール水溶液を試験液とする。燃料として標準液を用いて0.375V以上の起電圧が確保できることを確認し、発生した起電圧を初期起電圧(V0)とする。続いて燃料を試験液に切り替えて試験を行うと、時間の経過と共に起電圧(V1)が低下していくが、起電圧低下度〔(V1−V0)/V0×100〕が3%となる試験時間を作動限界時間(T)とする。
【0037】
ソケット本体31の本体上部31aの上面には、ノズルヘッド12の挿入部14外周に設けたカム部16に対応するカムフォロア部33が形成されている。カムフォロア部33はカム部16の突起形状に対応した溝として形成されている。カムフォロア部33はソケット部6とノズル部9とが接続するまではカム部16と接触することがないように構成されている。カム部16とカムフォロア部33とは一対の形状をなすため、例えば液体燃料に応じて形状を規定することによって、液体燃料の誤注入等を防止することができる。
【0038】
すなわち、カム部16とカムフォロア部33の形状を、それぞれ特定の液体燃料に応じた形状とする。言い換えると、カム部16とカムフォロア部33の形状を液体燃料の種別や濃度等に応じて変えることによって、燃料電池本体4に対応した液体燃料を収容する燃料カートリッジ5のノズル部9を、燃料タンク3のソケット部6に接続した場合のみに、カム部16とカムフォロア部33とが噛み合うようにすることができる。これによって、燃料電池本体4に対応した液体燃料のみが供給されるようになるため、液体燃料の誤注入による動作不良や特性低下等を防止することが可能となる。
【0039】
さらに、ソケット本体31の本体上部31aには、図10および図11に示すように、ノズル部9とソケット部6との接続保持手段として機能するバネリテンション34が装着されている。バネリテンション34は、ソケット部6の軸方向内側に向けてバネ力(復元力)を有しており、このバネ力で挿入部14の外周面に設けられた溝17と係合する。これによって、ノズル部9とソケット部6との接続状態が保持される。バネリテンション34は複数個所で溝17と係合するように構成されている。なお、カム部16とカムフォロア部33とによる接続解除やバネリテンション34による接続保持については後述する。
【0040】
ソケット本体31内にはバルブ35が配置されている。バルブ35はバルブヘッド35aとバルブステム35bとを備えている。バルブヘッド35aは本体中部31bと本体下部31cとで規定されたバルブ室内に配置されている。バルブステム35bはゴムホルダ32内に収納されている。このようなバルブ35は軸方向(ノズル部9の挿入方向)に進退可能とされている。バルブヘッド35aと本体中部31bの下面側に形成されたバルブシート36との間には、Oリング37が配置されている。
【0041】
バルブ35には圧縮スプリング38等の弾性部材でバルブヘッド35aをバルブシート36に押し付ける力が常時加えられており、これによってOリング37は押圧されている。通常状態(燃料電池本体4から燃料カートリッジ5が切り離された状態)においては、Oリング37を介してバルブヘッド35aがバルブシート36に押し付けられており、これによりソケット部6内の流路が閉状態とされている。燃料電池本体4に燃料カートリッジ5を接続すると、バルブステム35bが後退してバルブヘッド35aがバルブシート36から離れることで、ソケット部6内の流路が開状態とされる。
【0042】
ソケット本体31の本体下部31cには、燃料供給部7内を介して燃料タンク3に接続された連通孔39が設けられている。このように、ソケット部6はソケット本体31内に設けられた流路が本体下部31cに設けられた連通孔39を介して燃料タンク3に接続されている。そして、バルブ19、35を開状態としてノズル部9およびソケット部6内の流路をそれぞれ開くことによって、燃料カートリッジ5に収容された液体燃料をノズル部9およびソケット部6を介して燃料タンク3内に注入することが可能とされている。
【0043】
燃料カートリッジ5に収容された液体燃料を燃料電池本体4の燃料タンク3に供給するにあたっては、燃料カートリッジ5のノズル部9をソケット部6に挿入して接続する。ノズル部9をソケット部6に挿入すると、まずノズルヘッド12の挿入部14先端に設けられた凹部15とゴムホルダ32の先端とが接触し、バルブが開状態となる前に液体燃料の流路周辺のシールが確立する。挿入部14とゴムホルダ32とのシールについては前述した通りであり、図8に示したように1箇所でシールしてもよいし、また図9に示したように複数個所(2箇所)でシールしてもよい。
【0044】
ノズルヘッド12の挿入部14とゴムホルダ32とが接触した状態からノズル部9をソケット部6に差し込むと、ノズル部9のバルブステム19bとソケット部6のバルブステム35bの先端同士が突き当たる。この状態からさらにノズル部9をソケット部6に差し込むと、ソケット部6のバルブ35が後退して流路を完全に開放した後、ノズル部9のバルブ19が後退して液体燃料流路が確立する。この液体燃料流路の確立と同時に、ソケット部6のバネリテンション34がノズルヘッド12の挿入部14の外周面に設けられた溝17と係合することによって、ノズル部9とソケット部6との接続状態が保持される。
【0045】
このように、ノズル部9とソケット部6とを接続すると共に、それらに内蔵されたバルブ機構をそれぞれ開状態として液体燃料流路を開くことによって、燃料カートリッジ5に収容された液体燃料を燃料電池本体4の燃料タンク3に供給する。液体燃料の供給終了後には燃料カートリッジ5を引き抜くことで、ノズル部9とソケット部6との接続を解除する。この際、ノズル部9とソケット部6のバルブ機構は、それぞれ接続状態が解除されることで閉状態に戻るため、燃料カートリッジ5や燃料タンク3から液体燃料が漏洩することはない。ただし、バルブステム19b、35bの表面等に付着した僅かな液体燃料がノズル部9の先端側に残留する場合がある。
【0046】
上述したようなノズル部9の先端側に残留(付着)した僅かな液体燃料であっても、安全性等を高める上で操作者に触れないようにすることが重要となる。このような点に対して、この実施形態ではノズルヘッド12の挿入部14先端に凹部15を設けており、ゴムホルダ32との接触面は凹部15内に存在しているため、たとえノズル部9の先端側に液体燃料が残留したとしても、この残留した液体燃料は凹部15内に収容されることになる。従って、操作者が液体燃料に触れることはないため、燃料カートリッジ5およびそれを用いた燃料電池1の安全性や信頼性を高めることが可能となる。
【0047】
ところで、燃料カートリッジ5およびそれを用いた燃料電池1の安全性や信頼性をより一層高めるためには、燃料タンク3に接続した燃料カートリッジ5に過剰な曲げ荷重や回転力等が加わった際に、ノズル部9がソケット部6から離脱しやすくする必要である。燃料カートリッジ5に過剰な回転力が加わった場合については、前述したようにカム部16とカムフォロア部33とに基づいて接続状態が解除される。すなわち、図12Aないし図12Dに示すように、カム部16のカム面16aとカムフォロア部(カムフォロア溝)33とが接触しながら回転することによって、中心軸方向の力がノズル部9とソケット部6とを引き離すように作用するため、これらの接続状態が解除される。
【0048】
燃料カートリッジ5に過剰な曲げ荷重が加わった場合、特にノズル部9が破損しやすい。すなわち、燃料カートリッジ5のノズル部9は、燃料電池本体4の小型化等に伴って小径化される傾向にある。小径化されたノズル部9は、燃料カートリッジ5に対して曲げ荷重(燃料カートリッジ5の挿入方向に対して角度をもった方向からの力)が加わった際に破損するおそれがある。具体的には、ノズルヘッド12のベース部13から突出した挿入部14が折れる可能性が高い。ノズル部9が破損する危険性は小径化するほど高まり、さらにノズル部9をスーパーエンジニアプラスチックや汎用エンジニアプラスチック等の曲げ荷重に対する靭性に劣る材料で構成した際に破損しやすくなる。
【0049】
例えば、ノズル部9のノズルヘッド12やバルブ19等はメタノール燃料等と直接接することから、その構成材料は耐メタノール性を有していることが好ましい。このような材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等の汎用エンジニアプラスチック、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)等のスーパーエンジニアプラスチックが挙げられる。これらは靭性に劣ることから、曲げ荷重が加わった際に破損するおそれがある。
【0050】
このような曲げ荷重に対しては、前述したように実質的な挿入部分として機能する挿入部14の先端突出部14aの外周側角部を曲面状(R形状)とすることが有効である。これによって、燃料カートリッジ5に過剰な曲げ荷重が加わった際に、図13や図14に示すようにノズル部9がソケット部6から離脱しやすくなる。なお、図13はカム部16が存在していない部分を支点とした曲げ荷重が加わった状態を示しており、図14はカム部16を支点とした曲げ荷重が加わった状態を示している。いずれの場合においても、挿入部14の先端突出部14aの外周を曲面とすることで、ノズル部9が離脱しやすくなる。
【0051】
ただし、ノズル部9の挿入部14の形状(例えば挿入長さ)や材質等によっては、ノズル部9が過剰な曲げ荷重で破損することが考えられる。このような点に対しては、燃料カートリッジ5に曲げ荷重が加わった際に、ノズル部9(具体的には挿入部14)を変形させてソケット部6から離脱させることが好ましい。すなわち、ノズルヘッド12の挿入部14(ベース部13が挿入部14と一体成形されている場合にはベース部13も含む)を、燃料カートリッジ5に曲げ荷重が加わった際にソケット部6から離脱するように弾性変形する樹脂で構成する。このように、ノズルヘッド12に変形しやすい軟質樹脂で形成された部品を適用することによって、ノズル部9の破損を抑制することができる。
【0052】
ノズルヘッド12の変形は弾性変形に限らず、その一部を塑性変形させてもよい。また、ソケット部6の一部を弾性変形もしくは塑性変形させることで、ノズル部9のソケット部6からの離脱を促すようにしてもよい。このように、燃料カートリッジ5に対する曲げ荷重に対してノズル部9やソケット部6の一部を弾性変形または塑性変形させることによって、燃料電池本体4に接続された燃料カートリッジ5に曲げ荷重が加わった際に、ノズル部9を破損させることなくソケット部6から離脱させることができる。これによって、特に燃料カートリッジ5のノズル部9が破損することによる不具合(液漏れ等)の発生を抑制することが可能となる。
【0053】
ノズル部9やソケット部6の弾性変形や塑性変形を実現する上で、それらの構成材料にはJIS K7171に基づく曲げ弾性率が1800MPa以下の樹脂を適用することが好ましい。このような樹脂はノズル部9やソケット部6の一部に適用することができる。曲げ弾性率が1800MPa以下の樹脂を使用することによって、ノズル部9の弾性変形や塑性変形をより確実に実現することができる。言い換えると、燃料電池本体4に接続された燃料カートリッジ5に曲げ荷重が加わった際に、ノズル部9やその内部のバルブ機構を破損させることなく、より再現性よくソケット部6から離脱させることが可能となる。
【0054】
上述したような条件を満足する樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、架橋高密度ポリエチレン(XLPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)、プロピレン共重合体(PPCO)等が挙げられる。さらに、ノズル部9の構成材料はメタノール燃料等と接触することから、耐メタノール性を有していることが好ましい。
【0055】
ノズル部9(具体的にはノズルヘッド12)の構成材料である樹脂の耐メタノール性に関しては、JIS K7114の「プラスチックの耐薬品性試験方法」に準拠する純メタノールの浸漬試験において、質量変化率が0.3%以下、長さ変化率が0.5%以下、厚さ変化率が0.5%以下を満足することが好ましい。各変化率の値が上記した値未満であると、燃料カートリッジ5にメタノール燃料等を収容して実用に供した際に、ノズル部9に溶解やストレスクラッキング等が生じるおそれがある。従って、燃料カートリッジ5の実用的な耐久性や信頼性が低下する。
【0056】
なお、樹脂の純メタノールの浸漬試験における質量変化率、長さ変化率および厚さ変化率は、以下のようにして測定するものとする。まず、試験片として30mm×30mm×厚さ2mmの板を用意する。このような試験片の試験前の質量(M1)、長さ(L1)、厚さ(T1)を測定する。次に、試験片を23±2℃の試験液(濃度99.8%の純メタノール)中に完全に浸漬し、上記温度を保持して7日間静置する。この後、試験片を試験液から取り出して水洗し、試験片の表面に付着した水分を拭い取った後に、試験後の質量(M2)、長さ(L2)、厚さ(T2)を測定する。長さ(L1,L2)は試験片の縦方向および横方向の長さの平均値とする。厚さ(T1,T2)は、試験片の中央部と各角部(エッジから5mm内側)の5箇所の厚さを測定し、それらの平均値とする。
【0057】
上記した試験片の試験前の質量(M1)、長さ(L1)、厚さ(T1)、および試験後の質量(M2)、長さ(L2)、厚さ(T2)から、質量変化率M、長さ変化率Lおよび厚さ変化率Tを下記の(1)式、(2)式、(3)式に基づいて算出する。
M={(M2−M1)/M1}×100(%) …(1)
L={(L2−L1)/L1}×100(%) …(2)
T={(T2−T1)/T1}×100(%) …(3)
【0058】
表1に低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)の曲げ弾性率と耐メタノール性(純メタノールの浸漬試験における質量変化率、長さ変化率および厚さ変化率)を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
ノズル部9のノズルヘッド12以外の構成部品やソケット部6の構成部品については、前述したスーパーエンジニアプラスチック(PEEK、PPS、LCP等)や汎用エンジニアプラスチック(PET、PBT、POM)等で形成することができる。また、カップラとしての強度や接続強度等を維持することができれば、ノズルヘッド12以外の部品についても軟質の樹脂を適用することができる。
【0061】
次に、燃料電池本体4の構造について説明する。燃料電池本体4は特に限定されるものではなく、例えばサテライトタイプの燃料カートリッジ5が必要時に接続されるパッシブ型やアクティブ型のDMFCを適用することができる。ここでは、燃料電池本体4に内部気化型のDMFCを適用した実施形態について、図15を参照して説明する。図15に示す内部気化型(パッシブ型)のDMFC4は、起電部を構成する燃料電池セル2と燃料タンク3に加えて、これらの間に介在された気体選択透過膜51を具備している。
【0062】
燃料電池セル2は、アノード触媒層52およびアノードガス拡散層53からなるアノード(燃料極)と、カソード触媒層54およびカソードガス拡散層55からなるカソード(酸化剤極/空気極)と、アノード触媒層52とカソード触媒層54とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜56とから構成される膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を有している。アノード触媒層52およびカソード触媒層54に含有される触媒としては、例えば、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。
【0063】
具体的には、アノード触媒層52にメタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を、カソード触媒層54に白金やPt−Ni等を用いることが好ましい。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。電解質膜56を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸等の無機物等が挙げられる。ただし、これらに限られるものではない。
【0064】
アノード触媒層52に積層されるアノードガス拡散層53は、アノード触媒層52に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層52の集電体も兼ねている。一方、カソード触媒層54に積層されるカソードガス拡散層55は、カソード触媒層54に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層54の集電体も兼ねている。アノードガス拡散層53にはアノード導電層57が積層され、カソードガス拡散層55にはカソード導電層58が積層されている。
【0065】
アノード導電層57およびカソード導電層58は、例えば金のような導電性金属材料からなるメッシュや多孔質膜、あるいは薄膜等で構成されている。なお、電解質膜56とアノード導電層57との間、および電解質膜56とカソード導電層58との間には、ゴム製のOリング59、60が介在されており、これらによって燃料電池セル(膜電極接合体)2からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0066】
燃料タンク3の内部には、液体燃料Fとしてメタノール燃料が充填されている。また、燃料タンク3は燃料電池セル2側が開口されており、この燃料タンク3の開口部と燃料電池セル2との間に気体選択透過膜51が設置されている。気体選択透過膜51は、液体燃料Fの気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離膜である。このような気体選択透過膜51の構成材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂が挙げられる。ここで、液体燃料Fの気化成分とは、液体燃料Fとしてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合気、純メタノールを使用した場合にはメタノールの気化成分を意味する。
【0067】
カソード導電層58上には保湿層61が積層されており、さらにその上には表面層62が積層されている。表面層62は酸化剤である空気の取入れ量を調整する機能を有し、その調整は表面層62に形成された空気導入口63の個数やサイズ等を変更することで行う。保湿層61はカソード触媒層54で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制する役割を果たすと共に、カソードガス拡散層55に酸化剤を均一に導入することで、カソード触媒層54への酸化剤の均一拡散を促進する機能も有している。保湿層61は例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としてはポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体等が挙げられる。
【0068】
そして、燃料タンク3上に気体選択透過膜51、燃料電池セル2、保湿層61、表面層62を順に積層し、さらにその上から例えばステンレス製のカバー64を被せて全体を保持することによって、この実施形態のパッシブ型DMFC(燃料電池本体)4が構成されている。カバー64には表面層62に形成された空気導入口63と対応する部分に開口が設けられている。また、燃料タンク3にはカバー64の爪64aを受けるテラス65が設けられており、このテラス65に爪64aをかしめることで燃料電池本体4全体をカバー64で一体的に保持している。なお、図9では図示を省略したが、図1に示したように燃料タンク3の下面側にはソケット部6を有する燃料供給部7が設けられている。
【0069】
上述したような構成を有するパッシブ型DMFC(燃料電池本体)4においては、燃料タンク3内の液体燃料F(例えばメタノール水溶液)が気化し、この気化成分が気体選択透過膜51を透過して燃料電池セル2に供給される。燃料電池セル2内において、液体燃料Fの気化成分はアノードガス拡散層53で拡散されてアノード触媒層52に供給される。アノード触媒層52に供給された気化成分は、下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応を生じさせる。
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
【0070】
なお、液体燃料Fとして純メタノールを使用した場合には、燃料タンク3から水蒸気が供給されないため、カソード触媒層54で生成した水や電解質膜56中の水をメタノールと反応させて(1)の内部改質反応を生起するか、あるいは上記した(1)式の内部改質反応によらず、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0071】
内部改質反応で生成されたプロトン(H+)は電解質膜56を伝導し、カソード触媒層54に到達する。表面層62の空気導入口63から取り入れられた空気(酸化剤)は、保湿層61、カソード導電層58、カソードガス拡散層55を拡散して、カソード触媒層54に供給される。カソード触媒層54に供給された空気は、次の(2)式に示す反応を生じさせる。この反応によって、水の生成を伴う発電反応が生じる。
(3/2)O2+6H++6e- → 3H2O …(2)
【0072】
上述した反応に基づく発電反応が進行するにしたがって、燃料タンク3内の液体燃料F(例えばメタノール水溶液や純メタノール)は消費される。燃料タンク3内の液体燃料Fが空になると発電反応が停止するため、その時点でもしくはそれ以前の時点で燃料タンク3内に燃料カートリッジ5から液体燃料を供給する。燃料カートリッジ5からの液体燃料の供給は、前述したように燃料カートリッジ5側のノズル部9を燃料電池本体4側のソケット部6に挿入して接続することにより実施される。
【0073】
なお、本発明は液体燃料を燃料カートリッジにより供給する燃料電池であれば、その方式や機構等に何等限定されるものではないが、特に小型化が進められているパッシブ型DMFCに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池の構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃料電池における燃料カートリッジ側のノズル部と燃料電池本体側のソケット部の構成(未接続状態)を一部断面で示す図である。
【図3】図2に示すノズル部とソケット部との接続状態を一部断面で示す図である。
【図4】図2に示すノズル部のノズルヘッドを拡大して示す斜視図である。
【図5】図4に示すノズルヘッドの上面図である。
【図6】図4に示すノズルヘッドの正面図である。
【図7】図4に示すノズルヘッドの断面図である。
【図8】図2に示すノズル部のノズルヘッドとソケット部のゴムホルダとによるシールの一例を示す断面図である。
【図9】ノズル部のノズルヘッドとソケット部のゴムホルダとによるシールの他の例を示す断面図である。
【図10】図2に示すソケット部のバネリテンションを拡大して示す斜視図である。
【図11】図10に示すバネリテンションをソケット部のソケット本体に装着した状態を示す正面図である。
【図12A】過剰な回転力によるノズル部とソケット部との接続状態の解除を説明するための図であって、カム部とカムフォロア部とが噛み合った状態を示す図である。
【図12B】過剰な回転力によるノズル部とソケット部との接続状態の解除を説明するための図であって、カム部がカムフォロア部に沿って回転しつつ上昇した状態を示す図である。
【図12C】過剰な回転力によるノズル部とソケット部との接続状態の解除を説明するための図であって、カム部がカムフォロア部に沿ってさらに回転しつつ上昇した状態を示す図である。
【図12D】過剰な回転力によるノズル部とソケット部との接続状態の解除を説明するための図であって、カム部とカムフォロア部との接続状態が解除された状態を示す図である。
【図13】曲げ荷重でノズル部がソケット部から離脱する状態の一例を示す断面図である。
【図14】曲げ荷重でノズル部がソケット部から離脱する状態の他の例を示す断面図である。
【図15】図1に示す燃料電池における燃料電池本体の一例として内部気化型DMFCの構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1…燃料電池、2…燃料電池セル、3…燃料タンク、4…燃料電池本体、5…燃料カートリッジ、6…ソケット部(メス側カップラ)、8…カートリッジ本体、9…ノズル部(オス側カップラ)、11…ノズル口、12…ノズルヘッド、14…挿入部、15…凹部、16…カム部、18…バルブホルダ、19,35…バルブ、19a,35a…バルブヘッド、19b,35b…バルブステム、20,36…バルブシート、21.37…Oリング、22,38…圧縮スプリング、31…ソケット本体、32…ゴムホルダ、33…カムフォロア部、34…バネリテンション。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の液体燃料を収容するカートリッジ本体と、前記液体燃料を燃料電池本体に供給するノズル部とを具備する燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記ノズル部は、前記カートリッジ本体に設けられ、前記燃料電池本体のソケット部に挿入される挿入部先端に凹部を有するノズルヘッドと、前記ノズルヘッド内に配置されたバルブ機構とを備えることを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記ノズル部は、前記燃料電池本体に接続された前記燃料カートリッジに曲げ荷重が加わった際に、前記ソケット部から離脱するように変形する樹脂部品を有することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記ノズル部は、その一部が前記曲げ荷重に対して弾性変形または塑性変形することで、前記ソケット部から離脱することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記バルブ機構は、バルブヘッドとバルブステムとを有するバルブと、前記バルブヘッドを前記ノズルヘッド内に設けられたバルブシートに押し付けて前記ノズル部内の前記液体燃料の流路を閉状態に保つ弾性部材とを備え、前記弾性部材は表面が不動態化処理された金属製スプリングを有することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記バルブ機構は、バルブヘッドとバルブステムとを有するバルブと、前記バルブヘッドを前記ノズルヘッド内に設けられたバルブシートに押し付けて前記ノズル部内の前記液体燃料の流路を閉状態に保つ弾性部材とを備え、前記弾性部材は表面に金コーティングが施された金属製スプリングを有することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池用燃料カートリッジにおいて、
前記ノズル部は、圧縮永久歪が1〜80の範囲で、硬度(Type A)が40〜70の範囲であり、かつ燃料電池の性能試験における作動限界時間が10000時間以上のエラストマーにより構成された弾性部材を具備することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の燃料電池用燃料カートリッジと、
前記燃料カートリッジのノズル部と着脱可能に接続されるソケット部を有する燃料タンクと、前記燃料タンクから前記液体燃料が供給されて発電動作する起電部とを備える燃料電池本体と
を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池において、
前記ノズル部と前記ソケット部との接続状態は、前記ノズル部にその円周方向に沿って傾斜するように設けられたカム部と、前記ソケット部に前記接続状態までは前記カム部と接触しないように設けられたカムフォロア部とによって、過剰な回転力で解除されることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項8記載の燃料電池において、
前記カム部およびカムフォロア部は前記液体燃料に応じた形状を有し、前記燃料電池本体に対応した前記液体燃料を収容した前記燃料カートリッジのノズル部を前記ソケット部に接続した場合のみに、前記カム部と前記カムフォロア部とが噛み合うように構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項8または請求項9記載の燃料電池において、
前記カム部は前記ノズルヘッドの挿入部の外周面に沿って設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記ノズル部と前記ソケット部との接続時に前記液体燃料の外部への漏洩を防止するシール部を複数備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
請求項7ないし請求項11のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記ソケット部は、圧縮永久歪が1〜80の範囲で、硬度(Type A)が40〜70の範囲であり、かつ燃料電池の性能試験における作動限界時間が10000時間以上のエラストマーにより構成された弾性部材を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項13】
弁体とこれを閉方向に付勢する付勢手段とを備えるソケットと、弁体とこれを閉方向に付勢する付勢手段とを備えると共に、前記ソケットと着脱可能に嵌合連結され嵌合連結状態で両弁体を開放して連通可能なプラグとから構成されるカップラであって、
前記プラグは前記ソケットに嵌合される嵌合部先端に凹部を有することを特徴とするカップラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−194054(P2007−194054A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10600(P2006−10600)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】