説明

燃料電池用触媒電極層の評価方法

【課題】本発明は、触媒電極層中におけるカーボン量を正確に測定することが可能な燃料電池用触媒電極層の評価方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明は、触媒を担持したカーボンと、電解質材料とを有する燃料電池用触媒電極層を、熱重量測定を行うことにより評価する燃料電池用触媒電極層の評価方法であって、前記燃料電池用触媒電極層の試料を還元性ガス雰囲気下で加熱して、前記試料中の前記電解質材料を熱分解させた後、前記試料の質量を求め、続いて、前記試料を酸化性ガス雰囲気下で加熱して、前記試料中の前記カーボンを燃焼させた後、前記試料の質量を求めることにより、前記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量を求めることを特徴とする燃料電池用触媒電極層の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる触媒電極層について、精度良く評価することが可能な燃料電池用触媒電極層の評価方法、およびそれを用いた検査工程を有する燃料電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池(以下、単に燃料電池と称する場合がある。)の最小発電単位である単位セルは、一般に高分子電解質膜の両側に触媒電極層が接合されている膜電極複合体を有し、この膜電極複合体の両側には拡散層が配されている。さらに、その外側にはガス流路を備えたセパレータが配されており、拡散層を介して膜電極複合体の触媒電極層へと供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスを通流させるとともに、発電により得られた電流を外部に伝える働きをしている。
【0003】
このような燃料電池に用いられる触媒電極層は、プロトン伝導性を有する電解質材料と、触媒が担持された導電性材料とを混合することにより形成されるのが一般的である。しかしながら、このように形成された触媒電極層は、面内で触媒量およびカーボン量のばらつきが発生する場合があり、これらの管理を行うことが高品質な燃料電池を提供する上で、必要不可欠となる。
【0004】
このような触媒電極層中におけるカーボン量を測定する方法として、例えば特許文献1には、磁性粉とカーボンブラックと有機物とを含有する磁性層を不活性ガス雰囲気下で有機物を熱分解し、次いで、酸素ガス雰囲気下でカーボンブラックの燃焼を行い、その各々の重量測定結果から磁性層中のカーボンブラック量を求める分析方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、このような方法を用いて触媒電極層の熱重量分析を行った場合、不活性ガス雰囲気下であっても触媒近傍に吸着された酸素原子を含む物質により、カーボンが燃焼してしまい、触媒電極層中におけるカーボン量の測定精度が低くなるといった問題を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開平11−281556号公報
【特許文献2】特開平7−92070号公報
【特許文献3】特開2005−77365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、触媒電極層中におけるカーボン量を正確に測定することが可能な燃料電池用触媒電極層の評価方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、触媒を担持したカーボンと、電解質材料とを有する燃料電池用触媒電極層を、熱重量測定を行うことにより評価する燃料電池用触媒電極層の評価方法であって、上記燃料電池用触媒電極層の試料を還元性ガス雰囲気下で加熱して、上記試料中の上記電解質材料を熱分解させた後、上記試料の質量を求め、続いて、上記試料を酸化性ガス雰囲気下で加熱して、上記試料中の上記カーボンを燃焼させた後、上記試料の質量を求めることにより、上記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量を求めることを特徴とする燃料電池用触媒電極層の評価方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、電解質材料の熱分解を還元性ガス雰囲気下で行うことにより、同時に、触媒に吸着された酸素等の酸素原子を含有する物質を除去することができるため、電解質材料の熱分解時にカーボンが燃焼してしまうことを抑制することができる。したがって、触媒電極層中のカーボン量を正確に測定することが可能となり、例えば触媒電極層におけるカーボンや触媒の面内ばらつき等の評価を精度良く行うことができる。
【0010】
また、上記発明においては、上記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量から、上記燃料電池用触媒電極層単位面積当たりのカーボン量および/または触媒量を求めることが好ましい。これにより、触媒電極層中におけるカーボン量および/または触媒量の面内ばらつきの評価を行うことができるからである。
【0011】
また、本発明は、固体電解質膜と、上記固体電解質膜の両側に接合された触媒電極層とを少なくとも備えた燃料電池の製造方法であって、上記燃料電池用触媒電極層の評価方法を用いて、上記触媒電極層の検査を行う検査工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法を提供する。本発明によれば、上記検査工程を有することにより、触媒電極層中において、カーボン量や触媒量の面内ばらつきが規定の範囲外となる不具合品が少ないものとすることができ、品質の一定した燃料電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電解質材料の熱分解を還元性ガス雰囲気下で行うことにより、同時に、触媒に吸着された酸素等の酸素原子を含有する物質を除去することができるため、電解質材料の熱分解時にカーボンが燃焼してしまうことを抑制することができ、触媒電極層中のカーボン量を正確に測定することが可能となるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、燃料電池用触媒電極層(以下、単に触媒電極層とする場合がある。)の評価方法、およびそれを用いた検査工程を有する燃料電池の製造方法に関するものである。以下、これらについて詳細に説明する。
【0014】
A.燃料電池用触媒電極層の評価方法
まず、本発明の燃料電池用触媒電極層の評価方法について説明する。
本発明の燃料電池用触媒電極層の評価方法は、触媒を担持したカーボンと、電解質材料とを有する燃料電池用触媒電極層を、熱重量測定を行うことにより評価する燃料電池用触媒電極層の評価方法であって、上記燃料電池用触媒電極層の試料を還元性ガス雰囲気下で加熱して、上記試料中の上記電解質材料を熱分解させた後、上記試料の質量を求め、続いて、上記試料を酸化性ガス雰囲気下で加熱して、上記試料中の上記カーボンを燃焼させた後、上記試料の質量を求めることにより、上記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量を求めることを特徴とするものである。
【0015】
一般に、触媒電極層中のカーボン量および触媒量を求める方法としては、熱重量(TG)測定が知られている。具体的には、触媒電極層の試料を不活性ガス雰囲気下で加熱して試料中の電解質材料を熱分解させた後、試料の質量を測定し、続いて酸化性ガス雰囲気下で加熱して試料中のカーボンを燃焼させた後、試料の質量を測定することにより、試料中のカーボン量および触媒量を求める方法である。しかしながら、電解質材料の熱分解を不活性ガス雰囲気下で行うと、電解質材料が分解されるだけでなく、一部のカーボンは燃焼してしまうといった現象が起きていた。これは、触媒近傍に吸着された酸素等の酸素原子を含む物質の存在が原因と考えられ、この吸着物質の存在により、本来カーボンの燃焼が起こるはずのない不活性ガス雰囲気下であっても、カーボンの燃焼が起こってしまうものと考えられる。したがって、試料中のカーボン量は、実際に試料中に含有されるカーボンの質量よりも少ない値となり、測定値に誤差が生じるといった問題を有していた。
【0016】
そこで、本発明においては、電解質材料を熱分解する際、不活性ガス雰囲気下ではなく還元性ガス雰囲気下とすることにより、電解質材料の熱分解とともに、触媒に吸着された酸素等の酸素原子を含有する物質を除去することが可能となる。これにより、カーボンの燃焼に移る前に、カーボンが燃焼してしまうことを抑制することができるため、触媒電極層中のカーボン量の測定精度を向上させることが可能となるのである。
以下、本発明の燃料電池用触媒電極層の評価方法について、各項目ごとに分けて詳しく説明する。
【0017】
1.触媒電極層
まず、本発明の触媒電極層の評価方法の対象となる触媒電極層について説明する。本発明における触媒電極層は、電解質材料および触媒を担持したカーボンを含有し、熱重量測定に用いる試料を採取することが可能な状態のものであれば特に限定されるものではなく、例えば固体電解質膜と接合されたもの、すなわち膜電極複合体または燃料電池とされたものであってもよく、膜状で単独に存在するものであってもよい。
【0018】
本発明に用いられる触媒電極層の試料の採取方法としては、特に限定されるものではないが、例えば固体電解質膜が触媒電極層に挟持されてなる膜電極複合体から触媒電極層の試料を採取する場合、触媒電極層と固体電解質膜との界面を越えて、固体電解質膜まで切削して触媒電極層を完全に剥がし採る方法とすることが好ましい。このような方法を用いることにより、触媒電極層に含有される触媒およびカーボンを残らず完全に採取することが可能であるからである。なお、本発明においては、カーボン量および触媒量を測定する上で、電解質材料の量は影響しないため、このような固体電解質膜を含む試料を用いた場合であっても測定上問題とならない。
【0019】
また、本発明における触媒電極層の試料としては、熱重量測定に用いることが可能なものであれば、その形状等は特に限定されるものではないが、通常粉状とされる。
【0020】
また、上記試料中に含有される電解質材料としては、還元性ガス雰囲気下、高温で、全てガス化し得る電解質材料であれば特に限定されるものではなく、具体的には、パーフルオロスルホン酸系ポリマーのようなフッ素系の樹脂やプロトン伝導基を有するポリイミドなどの炭化水素系の樹脂が好ましく、特にパーフルオロスルホン酸系ポリマーが好ましく、中でもNafion(商品名、デュポン株式会社製)が好ましい。
【0021】
また、上記試料中に含有される触媒担持カーボンは、特に限定されるものではなく、燃料電池に一般的に用いられている触媒を担持したカーボンを使用することができ、具体的には、触媒として白金や白金合金が用いられ、カーボンとしてカーボンブラック等のカーボン粉末が用いられる。
【0022】
2.電解質材料の熱分解
次に、本発明における電解質材料の熱分解について説明する。本発明における電解質材料の熱分解は、上記燃料電池用触媒電極層の試料を還元性ガス雰囲気下で加熱することにより行われる。
【0023】
本発明に用いられる還元性ガスとしては、触媒に吸着された酸素等の酸素原子を含む吸着物質を除去することが可能であり、かつ触媒に吸着することのないものであれば特に限定されるものではなく、例えば水素ガス等が挙げられる。また、本発明においては、このような還元性ガスを不活性ガスに添加した混合ガスを用いることもできる。混合ガスとして、具体的には、水素−窒素混合ガスや水素−ヘリウム混合ガス等を使用することができる。なお、このような不活性ガスに還元性ガスを添加した混合ガスを用いる場合、混合ガス中の還元性ガスの濃度は、通常0.1%以上、100%未満程度、中でも1%〜5%の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明における電解質材料を熱分解させる際の加熱温度としては、電解質材料が完全にガス化し得る温度であれば特に限定されるものではなく、100℃〜1000℃の範囲内、中でも300℃〜700℃の範囲内であることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明における電解質材料を熱分解させる際の昇温速度としては、0.1℃/min〜50℃/minの範囲内、中でも5℃/min〜20℃/minの範囲内であることが好ましい。
【0026】
3.カーボンの燃焼
次に、本発明におけるカーボンの燃焼について説明する。本発明におけるカーボンの燃焼は、電解質材料の熱分解後の試料を酸化性ガス雰囲気下で加熱することにより行われる。
【0027】
本発明におけるカーボンの燃焼に用いられる酸化性ガスとしては、通常、酸素が用いられるが、本発明においては、不活性ガスに酸素を添加した混合ガスを用いることが好ましい。このような混合ガスとして、具体的には、酸素−窒素混合ガスや酸素−ヘリウム混合ガス等を使用することができる。なお、このような不活性ガスに酸素を添加した混合ガスを用いる場合、混合ガス中の酸素の濃度は、通常0.1%以上、100%未満程度、中でも10%以上、100%未満とすることが好ましい。
【0028】
また、本発明におけるカーボンを燃焼させる際の加熱温度としては、カーボンが完全に燃焼し得る温度であれば特に限定されるものではなく、100℃〜1000℃の範囲内、
中でも300℃〜900℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が上記範囲に満たないと、カーボンが完全に燃焼されない場合があるからである。
【0029】
さらに、本発明におけるカーボンを燃焼させる際の昇温速度としては、0.1℃/min〜50℃/minの範囲内、中でも5℃/min〜20℃/minの範囲内であることが好ましい。
【0030】
4、触媒電極層の評価方法
次に、本発明の触媒電極層の評価方法について説明する。本発明の触媒電極層の評価方法は、上記触媒電極層に対して熱重量測定を行い、上記電解質材料の熱分解後に求めた試料の質量およびカーボンの燃焼後に求めた試料の質量から、触媒電極層中のカーボン量および触媒量を求めることによって行われる方法である。
【0031】
図1は、本発明における熱重量測定を、示差熱天秤(TG−DTA)を用いて行った際の質量減少曲線を示す図である。図1に示すように、測定開始時の試料の質量[W]は、還元性ガス雰囲気下で加熱されることにより、電解質材料が熱分解して質量[W]に減少し、続いて酸化性ガス雰囲気下で加熱されることによりカーボンが燃焼して質量[W]に減少する。すなわち、[W]から[W]に減少した質量は、カーボン量に対応し、[W]は触媒量に対応する。
【0032】
また、本発明においては、上記触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量から、上記触媒電極層単位面積当たりのカーボン量および/または触媒量を求めることが好ましい。これにより、触媒電極層中におけるカーボン量および/または触媒量の面内ばらつきによる評価を行うことができるからである。
【0033】
なお、触媒電極層単位面積当たりのカーボン量および触媒量は、上述した方法により求められるカーボン量および触媒量から、熱重量測定に用いた試料中におけるカーボン含有率X%および触媒含有率Y%を求め、これを用いて算出される。具体的には、例えば面積Aの大きさの触媒電極層を含む試料の質量をWとした場合、触媒電極層単位面積当たりのカーボン量は、[W]×[X%]/[A]で求められ、触媒電極層単位面積当たりの触媒量は[W]×[Y%]/[A]で求められる。
【0034】
B.燃料電池の製造方法
次に、本発明の燃料電池の製造方法について説明する。本発明の燃料電池の製造方法は、固体電解質膜と、上記固体電解質膜の両側に接合された触媒電極層とを少なくとも備えた燃料電池の製造方法であって、上記燃料電池用触媒電極層の評価方法を用いて、上記触媒電極層の検査を行う検査工程を有することを特徴とするものである。
【0035】
ここで、本発明の燃料電池の製造方法により製造される燃料電池について、図面を用いて具体的に説明する。図2は、一般的な燃料電池の最小単位である単位セルの構造の一例を示す概略断面図である。上記単位セルは、図2に示すように、固体電解質膜1の両側に触媒電極層2が接合されている膜電極複合体3を有し、この膜電極複合体3の両側にはガス拡散層4が配され、さらに、その外側にはセパレータ5が配されている。本発明の燃料電池の製造方法は、上記「A.燃料電池用触媒電極層の評価方法」で説明した評価方法を用いて、図2における触媒電極層2を検査する検査工程を有することを特徴とするものである。
【0036】
本発明においては、上記検査工程を有することにより、触媒電極層の場所によるカーボン量および/または触媒量のばらつきを規定の範囲に管理することが可能となるため、カーボン量や触媒量のばらつきが多い不具合品の発生率を低下させることができる。したがって、触媒電極層中におけるカーボンおよび/または触媒の分散性が良好で、品質の安定した燃料電池を製造することができるのである。
以下、本発明の燃料電池の製造方法における検査工程について、詳しく説明する。
【0037】
(検査工程)
まず、本発明における検査工程について説明する。本発明における検査工程は、上述した燃料電池用触媒電極層の評価方法を用いて、燃料電池の触媒電極層を検査する工程である。なお、本発明における検査工程は、燃料電池の製造ラインにおいて抜き取りで行われ、その抜き取りの間隔は、触媒電極層中のカーボン量および触媒量のばらつきが規定の範囲内に制御でき、触媒電極層の品質が確保できる間隔であれば、特に限定されるものではない。
【0038】
本発明における検査工程は、触媒電極層が形成された後であれば、いつ行われてもよいが、例えば後述する膜電極複合体形成工程において、固体電解質膜上に触媒電極層が成膜された直後、または触媒電極層を別途フィルム上に成膜した直後であることが好ましい。特に、1度フィルム上に触媒電極層を成膜した後、固体電解質膜に熱転写するプロセスの場合、固体電解質膜に熱転写する前に検査することが好ましい。上記検査に供する試料の採取を容易なものとすることが可能であるからである。
【0039】
なお、本発明に用いられる燃料電池用触媒電極層の評価方法については、上述した「A.燃料電池用触媒電極層の評価方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0040】
(その他の工程)
本発明の燃料電池の製造方法は、上記検査工程以外に他の工程を有していてもよく、例えば固体電解質膜の両側に触媒電極層を形成し、膜電極複合体とする膜電極複合体形成工程、上記膜電極複合体の両側にガス拡散層を形成するガス拡散層形成工程、上記ガス拡散層の外側にセパレータを形成するセパレータ形成工程を有する製造方法とすることができる。
【0041】
上記膜電極複合体形成工程は、例えば固体電解質膜の両側に、別途フィルム上に成膜した触媒電極層を熱圧着等の方法により接合する方法や、上記固体電解質膜の両側に、触媒電極層の材料を含有する触媒電極層形成用塗工液をスプレー法により塗布し、乾燥させる方法等を用いることができる。なお、上述したように、上記検査工程は、前者の方法を用いる場合、フィルム上に触媒電極層を成膜した直後、また後者の方法を用いる場合、触媒電極層形成用塗工液を乾燥させた直後に行われることが好ましい。
【0042】
また、上記膜電極複合体形成工程において用いられる固体電解質膜の材料としては、燃料電池の固体電解質膜として一般的に用いられるものと同様とすることができ、具体的には、パーフルオロスルホン酸系ポリマーのようなフッ素系の樹脂やプロトン伝導基を有するポリイミドなどの炭化水素系の樹脂が好ましく、特にパーフルオロスルホン酸系ポリマーが好ましく、中でもNafion(商品名、デュポン株式会社製)が好ましい。なお、上記検査工程が膜電極複合体形成工程後に行われる場合、すなわち上記検査工程において用いる触媒電極層の試料として固体電解質膜を含むものを用いる場合には、固体電解質膜の材料として、不活性ガス中で熱分解させることが可能なものを用いることとする。
また、上記触媒電極層の材料としては、上述した「A.燃料電池用触媒電極層の評価方法」で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0043】
また、上記ガス拡散層形成工程およびセパレータ形成工程は、燃料電池の製造に一般的に用いられている方法を用いることができるので、ここでの説明は省略する。また、本発明に用いられるガス拡散層およびセパレータとしては、燃料電池に一般的に用いられているものを用いることができる。具体的には、ガス拡散層としては、カーボン繊維から成るカーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔体が好適に用いられ、セパレータとしては、カーボンタイプのもの、金属タイプのもの等を用いることができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0045】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0046】
[実施例1]
電解質材料であるNafion(商品名、デュポン株式会社製)および白金系触媒とカーボンとを1:1の比率で含有する白金担持カーボンから構成される触媒電極層にNafionからなる固体電解質膜が挟持された膜電極複合体を準備した。この膜電極複合体から、恒温恒湿の環境下で、Acmの大きさに切り出し、質量を測定した(質量I)。その後、切り出した膜電極複合体から触媒電極層を残らず刃物により切削し、切削粉とした。なお、この切削粉は、一部固体電解質膜を含むものであった。触媒電極層を切削した後に残った固体電解質膜の質量を測定し(質量II)、質量Iと質量IIとの差から、切削粉の質量Wを求めたところ、9.32mgであった。
上記切削粉から、測定用の試料として7.0mgを測り取り、TG−DTA320(セイコーインスツルメンタル製)を用いて、以下に示すとおり熱重量測定を行った。
【0047】
(電解質材料の熱分解)
水素−窒素混合ガス(水素濃度4%)雰囲気下、昇温速度10℃/minで、600℃まで加熱し、質量変化がなくなるまで600℃を保持した。質量変化がなくなった時点で、200℃程度温度を下げて400℃とし、酸素−窒素混合ガス(酸素濃度4%)に切り替えた。なお、この時点での試料の質量Wは、3.787mgであった。
【0048】
(カーボンの燃焼)
そのまま、酸素−窒素混合ガス(酸素濃度4%)の雰囲気下で、昇温速度10℃/minで、1000℃まで加熱し、カーボンを完全に燃焼させた。なお、この時点での試料の質量Wは、1.869mgであった。
【0049】
(結果)
上記熱重量測定の結果から、測定に用いた試料中のカーボン量(W−W)および触媒量(W)を求めたところ、カーボン量1.918mg、触媒量1.869mgとなった。この結果は、触媒電極層形成時に用いたカーボン量および触媒量の比と近似した値であり、カーボン量をほぼ正確に測定することができた。
また、この結果から、測定に用いた試料中のカーボン含有率(X%)および触媒含有率(Y%)を求めたところ、カーボン含有率27.4質量%、触媒含有率26.7質量%(カーボン含有率:触媒含有率は、ほぼ同比率)であり、この結果から、以下に示す(式1)および(式2)を用いて触媒電極層単位面積当たりのカーボン量および触媒量を求めた。なお、切り出した膜電極複合体から採取した切削粉の質量をW(=質量I−質量II)、切り出した膜電極複合体(触媒電極層)の面積をA(=Acm)とした。
(式1):触媒電極層単位面積当たりのカーボン量=[W]×[X%]/[A]
(式2):触媒電極層単位面積当たりの触媒量=[W]×[Y%]/[A]
その結果、触媒電極層単位面積当たりのカーボン量(2.6/A)g/cm、触媒電極層単位面積当たりの触媒量(2.5/A)g/cmであった。
【0050】
[実施例2]
(白金担持カーボンの熱重量測定)
白金担持カーボンを、水素−窒素混合ガス(水素濃度4%)雰囲気下、昇温速度10℃/minで、600℃まで加熱し、質量変化がなくなるまで600℃を保持した。その結果を図3に示す。
【0051】
[比較例1]
(白金担持カーボンの熱重量測定)
水素−窒素混合ガス(水素濃度4%)雰囲気下とする代わりに、窒素ガス雰囲気下としたこと以外は、実施例2と同様にして熱重量測定を行った。結果を図4に示す。
【0052】
[結果]
図4の結果から、窒素雰囲気下であっても、水分の蒸発による質量減少に加えて、大きな質量減少が見られた(比較例1)。一方、図3の結果からは、水分の蒸発によるものと思われる質量減少しか見られなかった(実施例2)。したがって、窒素ガス雰囲気下とする代わりに還元性ガス雰囲気下とすることにより、触媒に吸着した酸素が除去されたものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】示差熱天秤による熱重量測定を行った際の質量減少曲線を示す図である。
【図2】一般的な燃料電池の最小単位である単位セルの構造の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明における実施例の結果を示すグラフである。
【図4】本発明における比較例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1…固体電解質膜
2…触媒電極層
3…膜電極複合体
4…ガス拡散層
5…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持したカーボンと、電解質材料とを有する燃料電池用触媒電極層を、熱重量測定を行うことにより評価する燃料電池用触媒電極層の評価方法であって、
前記燃料電池用触媒電極層の試料を還元性ガス雰囲気下で加熱して、前記試料中の前記電解質材料を熱分解させた後、前記試料の質量を求め、
続いて、前記試料を酸化性ガス雰囲気下で加熱して、前記試料中の前記カーボンを燃焼させた後、前記試料の質量を求めることにより、
前記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量を求めることを特徴とする燃料電池用触媒電極層の評価方法。
【請求項2】
前記燃料電池用触媒電極層中のカーボン量および/または触媒量から、前記燃料電池用触媒電極層単位面積当たりのカーボン量および/または触媒量を求めることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒電極層の評価方法。
【請求項3】
固体電解質膜と、前記固体電解質膜の両側に接合された触媒電極層とを少なくとも備えた燃料電池の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載の燃料電池用触媒電極層の評価方法を用いて、前記触媒電極層の検査を行う検査工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−34164(P2008−34164A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204325(P2006−204325)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】