説明

燃料電池用電極、燃料電池用電極の製造方法及び燃料電池

【課題】高温の作動条件下において、初期時から安定的に特性を維持することが可能な、燃料電池用電極、燃料電池用電極の製造方法及び燃料電池を提供すること。
【解決手段】本発明に係る燃料電池用電極は、水溶性遊離酸を含む高分子電解質膜がカソード電極及びアノード電極により挟持された膜電極接合体を備え、アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、カソード電極に酸化剤ガスが供給され、運転温度が100℃以上である燃料電池に用いられる燃料電池用電極であり、導電性担体と当該導電性担体に担持された触媒粒子とからなる電極触媒を含む電極触媒層を有し、電極触媒層は、酸による真空熱処理が予め実施され、導電性担体に酸が含浸した酸含浸電極触媒と、酸による真空熱処理が実施されていない酸未含浸電極触媒と、が均一に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極、燃料電池用電極の製造方法及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池用電解質膜として、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜を用いた燃料電池が利用されている。また、この電解質膜の場合、疎水性の主鎖と親水性の側鎖が相分離し、いわゆるイオンクラスター構造を形成する。プロトン輸送形態としては、この電解質膜構造中に多くの水分子が取り込まれ、スルホン酸基の解離を促進すると同時に水分子の高い運動性を利用することにより、高いプロトン伝導性を発現させることがわかっている。
【0003】
しかしながら、上述のような燃料電池は、水に依存するプロトン伝導がゆえに運転作動温度が70℃〜80℃に制限されることに加え、加湿器といった補助装置が必要となり、水分管理システム等が複雑になってしまう。また、燃料電池システムの観点からは、上記作動温度が大きな制約となり、水素ガスを製造する際に発生する副生成物の一酸化炭素による触媒の被毒などの問題が生じることに加え、一酸化炭素除去装置も必要不可欠となり、燃料電池システム全体として非常に高価になってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に鑑み、次世代のクリーンエネルギーとして注目されている燃料電池においては、100℃以上の高温における運転を可能とするために、無加湿または低加湿下でプロトンが伝導可能な電解質膜の開発が活発に行われている。このように、水に依存しない高温下でプロトン伝導が可能な電解質膜が提供されれば、燃料電池システムの簡略化が図られることから、家庭用コジェネレーション用途または自動車用用途として普及することが期待できる。このような燃料電池の一つとして、例えば、リン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell:PAFC)があり、従来より様々な開発がなされている(例えば、以下の特許文献1及び2を参照。)。
【0005】
近年、100℃以上で駆動する固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)に関する様々な提案がなされている。一般に、100℃以上での発電においては触媒活性が向上することから、一酸化炭素による被毒の程度が軽減される可能性が示唆され、ひいては燃料電池寿命が向上するとされている。しかしながら、150℃程度といった中温域における運転においては水分子が安定に存在できないことから、例えば、以下の特許文献3のような、リン酸を含浸したポリベンズイミダゾールを中心とした、水媒体に依存しない電解質系を用いた燃料電池が提案されている。このような燃料電池では、150℃程度といった中温域でも発電が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−144324号公報
【特許文献2】特開2001−52718号公報
【特許文献3】米国特許第5525436号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、リン酸を含浸したポリベンズイミダゾール系電解質を用いた燃料電池は、リン酸をプロトン伝導体として用いているため、発電特性を向上させる上では、電解質内及び電極触媒層内の双方においてリン酸がプロトン伝導の役割をはたす必要がある。そのため、電極触媒層でのリン酸の分散度合いやリン酸の存在量が発電性能を左右してしまうという問題があった。
【0008】
また、リン酸を含浸した電解質膜を用いた燃料電池においては、長時間発電すると、電解質膜中からリン酸が浸出して外部へ流出してしまい、長時間にわたって十分な発電性能を発揮することが困難となるという問題があった。更に、このようなリン酸流出過程において電解質膜中から浸出したリン酸が電極触媒層中のガス拡散のための空隙を塞いでしまい、電極反応が十分に行われないという問題が生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高温の作動条件下において、初期時から安定的に特性を維持することが可能な、燃料電池用電極、燃料電池用電極の製造方法及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、水溶性遊離酸を含む高分子電解質膜がカソード電極及びアノード電極により挟持された膜電極接合体を備え、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、前記カソード電極に酸化剤ガスが供給され、運転温度が100℃以上である燃料電池に用いられる燃料電池用電極であって、導電性担体と当該導電性担体に担持された触媒粒子とからなる電極触媒を含む電極触媒層を有し、前記電極触媒層は、酸による真空熱処理が予め実施され、前記導電性担体に酸が含浸した酸含浸電極触媒と、前記酸による真空熱処理が実施されていない酸未含浸電極触媒と、が均一に分散している燃料電池用電極が提供される。
【0011】
かかる構成によれば、酸含浸電極触媒の導電性担体の細孔内部にプロトンパスであるリン酸が効果的に含浸されているため、触媒反応面積の増大により燃料電池の発電特性の向上と、初期発電活性化のエージング(コンディショニング)時間の短縮を図ることができる。また、酸含浸電極触媒及び酸未含浸電極触媒が均一に分散している電極触媒層を有するため、経時的に高分子電解質膜中から浸出した酸をトラップすることが可能となり、かつ、電極触媒層におけるガス拡散のための空隙を維持することができる。その結果、燃料電池の発電特性の低下を軽減するとともに、耐久性を向上させることができる。
【0012】
前記電極触媒層は、当該電極触媒層形成時、前記含浸電極触媒の含有量が5〜95質量%であり、前記酸未含浸電極触媒の含有量が5〜95質量%であることが好ましい。電極触媒層が、かかる比率からなる酸含浸電極触媒と酸未含浸電極触媒とから構成されることで、高分子電解質膜から浸出した水溶性遊離酸を適切に吸着することが可能となる。その結果、ガス拡散経路の空隙が塞がれるという現象を抑制でき、かつ、電極触媒層の耐久性を向上させることが可能となる。
【0013】
前記電極触媒の導電性担体は、導電性を有する炭素材料であり、前記導電性担体に担持される触媒粒子は、白金、又は、白金を含み少なくとも1種以上の卑金属を有する合金であることが好ましい。かかる導電性担体及び触媒粒子を利用することで、本発明に係る燃料電池用電極の特性を向上させることが可能となり、ひいては、本発明に係る燃料電池用電極を有する燃料電池の発電特性を向上させることができる。
【0014】
前記酸は、オルトリン酸、縮合リン酸、アルキルリン酸及びホスホン酸からなる群より選択される少なくとも1種以上の酸であることが好ましい。かかる酸を利用することで、本発明に係る燃料電池用電極の特性を向上させることが可能となり、ひいては、本発明に係る燃料電池用電極を有する燃料電池の発電特性を向上させることができる。
【0015】
前記導電性担体のBET比表面積は、50〜1500m/gであることが好ましい。かかる導電性担体を利用することで、電極触媒の反応面積を効率的に増加させることが可能となり、本発明に係る燃料電池用電極を有する燃料電池の発電特性を向上させることができる。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、水溶性遊離酸を含む高分子電解質膜がカソード電極及びアノード電極により挟持された膜/電極接合体を備え、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、前記カソード電極に酸化剤ガスが供給され、運転温度が100℃以上である燃料電池に用いられる燃料電池用電極の製造方法であって、導電性担体と当該導電性担体に担持された触媒粒子とからなる電極触媒に対して酸による真空熱処理を行って前記導電性担体に酸を含浸させ、酸の含浸した前記電極触媒を洗浄及び乾燥して酸含浸電極触媒とするステップと、前記酸含浸電極触媒5〜95質量%と、前記酸の含浸していない前記電極触媒である酸未含浸電極触媒5〜95質量%とを混合して、電極支持基材上に塗布するステップと、を含む燃料電池用電極の製造方法が提供される。
【0017】
かかる構成によれば、酸含浸電極触媒の導電性担体の細孔内部にプロトンパスであるリン酸が効果的に含浸されているため、触媒反応面積の増大により燃料電池の発電特性の向上と、初期発電活性化のエージング(コンディショニング)時間の短縮を図ることができる。また、酸含浸電極触媒及び酸未含浸電極触媒が均一に分散している電極触媒層を有するため、経時的に高分子電解質膜中から浸出した酸をトラップすることが可能となり、かつ、電極触媒層におけるガス拡散のための空隙を維持することができる。その結果、燃料電池の発電特性の低下を軽減するとともに、耐久性を向上させることができる。
【0018】
前記酸による真空熱処理は、100℃〜150℃で行われることが好ましい。かかる温度範囲で酸による真空熱処理を行うことで、酸を変性させることなく、導電性担体の細孔の内部に効率よく酸を含浸させることが可能となる。
【0019】
前記酸は、濃度85質量%以下のリン酸水溶液であることが好ましい。かかる濃度の溶液を利用することで、溶液は、処理に適した粘度を呈するようになり、効率よく酸の含浸処理を実施することが可能となる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、上記燃料電池用電極を用いた膜電極接合体を備える燃料電池が提供される。
【0021】
かかる構成によれば、酸含浸電極触媒の導電性担体の細孔内部にプロトンパスであるリン酸が効果的に含浸されているため、触媒反応面積の増大により燃料電池の発電特性の向上と、初期発電活性化のエージング(コンディショニング)時間の短縮を図ることができる。また、酸含浸電極触媒及び酸未含浸電極触媒が均一に分散している電極触媒層を有するため、経時的に高分子電解質膜中から浸出した酸をトラップすることが可能となり、かつ、電極触媒層におけるガス拡散のための空隙を維持することができる。その結果、燃料電池の発電特性の低下を軽減するとともに、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、電極触媒層を形成する上において、触媒粒子に予め酸を吸着させて酸を均一に配する処理を行った触媒を用いることにより、初期時から安定的に特性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電極の構造について示した説明図である。
【図2】同実施形態に係る膜電極接合体の構造について示した説明図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例に係る単セルの発電特性を示したグラフ図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例に係る単セルの発電特性の経時変化を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
(第1の実施形態)
<燃料電池用電極の構造について>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電極の構造について、簡単に説明する。図1は、本実施形態に係る燃料電池用電極の構造について示した説明図である。
【0026】
本実施形態に係る燃料電池用電極1は、図1に例示したように、高分子電解質膜10と、電極触媒層20と、を備える。
【0027】
[高分子電解質膜10について]
まず、本実施形態に係る高分子電解質膜10について説明する。
高分子電解質膜10は、後述する電極触媒層20を担持するものであり、高分子電解質を用いて形成される。本実施形態に係る高分子電解質としては、特に限定はされないが、この高分子電解質にドープされる酸との極性溶媒への相溶性や成膜の際の加工性、耐熱性等を考慮すると、主骨格が芳香族系エンジニアリングプラスチックであることが好ましい。このような芳香族エンジニアリングプラスチックとしては、芳香族性を有するエンジニアリングプラスチックであれば特に限定はされないが、例えば、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリイミド等を挙げることができる。
【0028】
このような高分子電解質を用いた高分子電解質膜10には、水溶性遊離酸がドープされている。本実施形態に係る水溶性遊離酸としては特に限定はされず、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、硫酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホニルアミドスルホン酸など様々な酸を挙げることができる。本実施形態に係る水溶性遊離酸は、上述の酸の中でも、熱安定性の観点から、特に、酸性無機リン化合物又は酸性有機リン化合物であることが好ましい。
【0029】
上記酸性無機リン化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、縮合リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等を挙げることができる。また上記酸性有機リン化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸に代表されるアリルホスホン酸、メチルホスホン酸やエチルホスホン酸等に代表されるアルキルホスホン酸、メチルリン酸エステル、エチルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル等に代表される酸性リン酸エステル等を挙げることができる。
【0030】
また、水溶性遊離酸として、遊離酸とルイス塩基との混合物、又は、遊離酸と有機塩との混合物を用いても良い。
【0031】
遊離酸と混合して使用可能なルイス塩基としては、例えば、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾールのようなアゾール系化合物、ピリジン、ピリダジン、ピリミジ、ピラジン、トリアジン等の含窒素複素六員環化合物、キノリン、キノキサリン、インドール、フェナジン等の含窒素縮合多環複素環化合物、プリン、ウラシル、チミン、シトシン、アデニン、グアニン等の核酸塩基等を挙げることができる。
【0032】
また、遊離酸と混合して使用可能な有機塩としては、例えば、有機化合物カチオン及びオキソ酸アニオンからなる中性塩を挙げることができる。有機化合物カチオンとしては、通常、ヘテロ環式化合物のカチオン類、特には1〜5個のヘテロ原子を含む3〜6員環のヘテロ環式化合物のカチオン類、殊にはヘテロ原子として1〜5個の窒素原子を含む3〜6員環化合物のカチオン類等を挙げることができ、中でもイミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン等が好ましい。また、鎖状の第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン等も用いることができる。
【0033】
以上のような高分子電解質と水溶性遊離酸とを含む高分子電解質膜10は、公知の方法により製造することが可能である。高分子電解質膜の製造方法を簡単に説明すると、以下の通りである。まず、公知の溶媒を用いて上記高分子電解質溶液を調整し、調整した溶液を公知のコーティング方法を用いて基材上にキャスティング製膜し、乾燥させる。その後、製膜された高分子電解質膜を水溶性遊離酸を含む溶液に浸漬し水溶性遊離酸によって膨潤した水溶性遊離酸ドープ膜を得ることで、本実施形態に係る高分子電解質膜10を製造することができる。
【0034】
また、上記方法以外にも、例えば、以下のような方法で高分子電解質膜を製造することも可能である。すなわち、公知の溶媒を用いて上記高分子電解質及び水溶性遊離酸を含む溶液を調整し、調整した溶液を公知のコーティング方法を用いて基材上にキャスティングする。その後、基材上にキャスティングされた高分子電解質膜を乾燥させることで、本実施形態に係る高分子電解質膜10を製造することができる。
【0035】
なお、水溶性遊離酸の高分子電解質へのドープ量は、高分子電解質膜に求められる性能に応じて、適宜設定すればよい。
【0036】
[電極触媒層20について]
次に、本実施形態に係る電極触媒層20について、詳細に説明する。
本実施形態に係る電極触媒層20は、図1に示したように、高分子電解質膜10に担持された層である。この電極触媒層20中では、後述するような酸による前処理の実施された酸含浸電極触媒と、前処理が行われていない酸未含浸電極触媒とが、均一に分散している。本実施形態に係る電極触媒層20に含まれる酸含浸電極触媒(以下、ドープ触媒とも称する。)と、酸未含浸電極触媒(以下、未ドープ触媒とも称する。)との相違点は、後述するような酸による前処理がなされたか否かである。
【0037】
本実施形態に係る電極触媒は、導電性担体と、この導電性担体に担持された触媒粒子とからなる。このような電極触媒が、本実施形態に係る未ドープ触媒10である。また、未ドープ触媒10に対して、以下で説明するような酸による前処理を行うことで、ドープ触媒20となる。
【0038】
すなわち、未ドープ触媒10は、図1の右下方に示したように、導電性担体11と、この導電性担体11に担持された電極触媒13とからなり、ドープ触媒20は、図1の左下方に示したように、前処理により酸が含浸された導電性担体15と、前処理の実施された導電性担体15に担持された触媒粒子13とからなる。
【0039】
本実施形態に係る導電性担体は、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、導電性を有する炭素材料を主体とする多孔質体を用いることが好ましい。このような炭素材料の例として、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭および黒鉛等を挙げることができる。
【0040】
ここで、上記導電性担体の比表面積は、本実施形態に係る高分子電解質膜10の特性にあわせて適宜選択すればよい。例えば、高分子電解質膜10に含まれる水溶性遊離酸の含有量が相対的に低いものである(以下、低ドープ状態とも称する。)場合には、導電性担体の比表面積は小さくてもよい。また、高分子電解質膜10に含まれる水溶性遊離酸の含有量が相対的に高いものである(以下、高ドープ状態とも称する。)場合には、経時的に高ドープ状態の高分子電解質膜中から浸出した酸をトラップするためにも導電性担体の比表面積は大きいことが好ましい。また、導電性担体である炭素の酸化耐性の観点からは、高温下で運転する固体高分子形燃料電池における触媒の担体として、一般的なカーボンブラック類を用いるよりは、黒鉛化させたカーボンブラック類を用いることが好ましい。
【0041】
かかる比表面積の一つにBET比表面積があるが、本実施形態に係る導電性担体のBET比表面積は、例えば、50〜1500m/gであることが好ましい。かかるBET比表面積は、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を低温で吸着させて、その吸着量から測定する吸着法、または、湿潤熱法、透過法及び拡散速度法等の公知の方法を利用して測定可能である。
【0042】
また、上記導電性担体に担持される触媒粒子は、特に限定されるわけではないが、例えば、白金、又は、白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金を用いることが好ましい。白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金の例としては、白金とコバルトとを含むPt−Co合金、白金とルテニウムとを含むPt−Ru合金、白金と鉄とを含むPt−Fe合金等を挙げることができる。
【0043】
なお、白金又は白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金以外にも、金、鉛、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ガリウム、バナジウム、タングステン、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、又は、これらの合金等を挙げることができる。
【0044】
ここで、本実施形態に係る導電性担体に担持されている触媒粒子の担持量は、本実施形態に係る燃料電池用電極に求められる性能に応じて適宜決定されればよく、触媒粒子の導電性担体への担持方法も、公知の方法を適宜利用すればよい。
【0045】
本実施形態では、上述のような導電性担体及び触媒粒子からなる電極触媒を用いて酸を用いた前処理(より詳細には、酸を用いた真空熱処理)を実施し、未ドープ触媒10の導電性担体に、酸を含浸させる。これにより、前処理を実施した未ドープ触媒は、ドープ触媒となる。
【0046】
真空熱処理に用いられる酸としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、硫酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホニルアミドスルホン酸など様々な酸を挙げることができる。本実施形態に係る真空熱処理では、これらの酸の1つが用いられてもよく、2つ以上の酸が組み合わせて用いられてもよい。真空熱処理に用いられる酸は、上述の酸の中でも、熱安定性等の観点から、特に、酸性無機リン化合物又は酸性有機リン化合物であることが好ましい。
【0047】
上記酸性無機リン化合物としては、例えば、リン酸(オルトリン酸)、ポリリン酸、縮合リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等を挙げることができる。また上記酸性有機リン化合物としては、例えば、メチルリン酸やエチルリン酸等に代表されるアルキルリン酸、ビニルスルホン酸に代表されるアリルホスホン酸、メチルホスホン酸やエチルホスホン酸等に代表されるアルキルホスホン酸、メチルリン酸エステル、エチルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル等に代表される酸性リン酸エステル等を挙げることができる。これらのリン化合物の中でも、特に、オルトリン酸、縮合リン酸、アルキルリン酸、ホスホン酸からなる群より選択される1つ以上の酸である。
【0048】
酸を用いた真空熱処理は、まず、上述の酸を含む溶液(例えば、水溶液)中に上記電極触媒(未ドープ触媒10)を分散させ、攪拌後、真空装置内で所定時間保持する。これにより、導電性担体の細孔内に存在する空気が抜け、そのかわりに細孔内に酸が含浸する。その後、酸の含浸した電極触媒に対して、例えば100〜150℃の範囲で熱処理を行う。熱処理後の電極触媒を水洗濾過した後に乾燥させて、本実施形態に係るドープ触媒20を製造することができる。100℃以上の温度で熱処理を行うことにより、細孔内に浸透したリン酸溶液中の水分子が抜け、抜けたあとに酸が入り込むことが可能となる。これにより、上述のような酸が導電性担体の細孔内部に高密度で含浸されることとなる。
【0049】
なお、熱処理温度が100℃未満である場合には、酸を含む溶液中の水分子を除くことが困難となるため、好ましくない。また、熱処理温度が150℃超過である場合には、含浸させる酸(例えばリン酸等)の性質が変性し始めるため、好ましくない。
【0050】
また、真空熱処理に用いられる酸溶液(例えばリン酸水溶液)の濃度は、85質量%以下であることが好ましい。かかる濃度の溶液とすることで、酸溶液は、真空熱処理に適した比較的低粘度の溶液となり、効率よく酸を含浸させることが可能となる。
【0051】
ここで、未ドープ触媒10に含浸させる酸の量(すなわちドープ量)は、本実施形態に係る燃料電池用電極に求められる性能が示せるように、適宜決定すればよい。また、真空前処理に用いる酸溶液の濃度、溶液量、触媒種(導電性担体の比表面積)、熱処理温度、処理時間等を適宜調整することにより、ドープ量を制御することができる。なお、ドープ量は、各種の分析方法を用いて測定可能であるが、例えば、誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry:ICP−AES)を用いて定量することができる。
【0052】
本実施形態では、このようにして製造したドープ触媒20と、酸による真空熱処理を実施していない未ドープ触媒10とを組み合わせて利用し、電極触媒層20を製造する。この際、ドープ触媒20と未ドープ触媒10との比率が、ドープ触媒5〜95質量%、未ドープ触媒5〜95質量%となるようにそれぞれの触媒を混合して、各触媒が均一分散するように電極触媒層20を形成する。より好ましくは、ドープ触媒20と未ドープ触媒10との比率は、ドープ触媒80〜95質量%:未ドープ触媒5〜20質量%である。
【0053】
ドープ触媒及び未ドープ触媒の初期混合比率が上述の範囲となるように電極触媒層20を形成することで、電極触媒層20内のプロトンパス(プロトン伝導経路)である酸分布を均一化することができ、ひいては、かかる電極を用いた燃料電池の特性を向上させることが可能となる。また、電極触媒層20内における酸の分布が安置化するため、初期運転コンディショニング(エージング)時間の短縮化を図ることが可能となる。さらに、高分子電解質膜10から浸出した酸(水溶性遊離酸)を導電性担体の細孔内に含浸できる余地を持つ未ドープ触媒が電極触媒層20内に存在するために、電極の耐久性を向上させることが可能となるだけでなく、高分子電解質膜10から浸出した酸をトラップし、ガス拡散空隙を確保することが可能となる。その結果、かかる電極触媒層20を備える燃料電池用電極では、燃料電池の特性及び耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0054】
ドープ触媒20の含有量が5質量%未満である場合(すなわち、未ドープ触媒の含有量が95質量%超過である場合)及びドープ触媒20の含有量が95質量%超過である場合(すなわち、未ドープ触媒の含有量が5質量%未満である場合)には、上述のような効果を得ることができないため、好ましくない。また、ドープ触媒20の含有量が80〜95質量%であり、かつ、未ドープ触媒10の含有量が5〜20質量%である場合には、上述のような燃料電池の特性及び耐久性を、より一層向上させることが可能となる。
【0055】
本実施形態では、上述のような比率で混合された電極触媒を、バインダにより固形成形することで、高分子電解質膜10上に電極触媒層20を形成する。電極触媒層20の形成に用いられるバインダとしては、例えば、耐熱性に優れたフッ素樹脂を用いることが可能である。バインダとしてフッ素樹脂を用いる場合には、融点が400℃以下のフッ素樹脂が好ましく、そのようなフッ素樹脂として、ポリ四フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン等の疎水性及び耐熱性に優れた樹脂を用いることができる。疎水性バインダを添加することにより、発電反応に伴って生成した水によって触媒層が過剰に濡れるのを防止することができ、燃料極及び酸素極内部における燃料ガス及び酸素の拡散阻害を防止することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る電極触媒層20には、更に導電剤が添加されていてもよい。導電剤としては、電気伝導性物質であればどのようなものでも利用可能であり、各種金属や炭素材料等を挙げることができる。かかる炭素材料の例としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭及び黒鉛等を挙げることができ、これら炭素材料及び各種金属を単独又は混合して使用することができる。
【0057】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係る電極触媒層20について説明した。
なお、図1は、電極触媒層20の一部を取り出して模式的に図示したものであり、電極触媒層20全体としては、未ドープ触媒10とドープ触媒20とが均一に分散している点に注意されたい。
【0058】
<電極触媒層の製造方法>
続いて、本実施形態に係る電極触媒層の製造方法について、順を追って説明する。
【0059】
本実施形態に係る電極触媒層の製造方法は、大きく分けて、以下の4つの工程からなる。
【0060】
(1)未ドープ触媒の製造工程
(2)酸による真空熱処理工程(ドープ触媒の製造工程)
(3)製膜工程
(4)乾燥工程
【0061】
[未ドープ触媒の製造工程について]
まず、(1)未ドープ触媒の製造工程について説明する。
本工程は、上述した導電性担体と触媒粒子とを用い、導電性担体に触媒粒子を担持させて未ドープ触媒を製造する工程である。本実施形態に係る触媒粒子を導電性担体に担持させる方法は公知の方法を利用可能であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0062】
[酸による真空熱処理工程について]
次に、(2)酸による真空熱処理工程について説明する。
本工程は、(1)に示した工程により製造された未ドープ触媒を利用し、未ドープ触媒の導電性担体に上述の酸(例えば、リン酸等)を含浸させて、ドープ触媒を製造する工程である。なお、以下では、触媒担体の細孔内にリン酸を含浸させる場合を例にとって説明を行うものとする。
【0063】
まず、(1)に示した工程により製造された未ドープ触媒を所定量だけ秤量し、濃度85質量%以下のリン酸水溶液中に分散させて、メカニカルスターラーやマグネチックスターラーなどを用いて撹拌する。もちろん、攪拌に用いる器具は、メカニカルスターラーやマグネチックスターラーには限定されず、未ドープ触媒をリン酸水溶液中で十分に混合して溶解できるものであれば他の器具を用いてもよい。また、攪拌により気泡が発生することもあるので、真空脱泡や遠心脱泡などにより、攪拌中の溶液を脱泡することが好ましい。
【0064】
上述のような撹拌処理後、得られた溶液を真空装置内に設置して、所定時間(例えば、1時間程度)保持し、導電性担体の細孔内にリン酸を含浸させ、その後、リン酸が含浸された電極触媒を、100〜150℃の範囲内で熱処理を行う。これにより導電性担体の細孔内に存在する水分子が抜け、リン酸が細孔内に高密度で含浸されることとなる。続いて、リン酸が含浸された電極触媒を水洗ろ過したのちに乾燥させて、リン酸の含浸された電極触媒(すなわち、ドープ触媒)を得る。
【0065】
[製膜工程について]
続いて、(3)製膜工程について説明する。
まず、(2)に示した工程により製造されたドープ触媒と、(1)に示した工程により製造された未ドープ触媒とを、所定の質量比となるように混合する。すなわち、ドープ触媒5〜95質量%及び未ドープ触媒5〜95質量%の質量比(より好ましくは、ドープ触媒80〜95質量%及び未ドープ触媒5〜20質量%の質量比)となるように、上述の2種類の電極触媒を混合する。
【0066】
次に、得られた電極触媒の混合物を、溶液状態のバインダ中に分散させて撹拌し、ペースト化した電極触媒を製造する。なお、バインダを溶解するために用いる溶媒は、電極触媒及びバインダ組成物の相溶性を考慮して決定することが好ましい。
【0067】
続いて、ペースト化した電極触媒を、公知のコーティング方法を用いて電極支持基材上にキャスティングすることにより電極触媒層を製膜する。コーティング方法としては、例えば、ダイコータ、コンマコータ(登録商標)、ドクターブレード、アプリケーションロールなどを使用して基材にキャスティングする方法が挙げられる。
【0068】
[乾燥工程について]
次に、(4)乾燥工程について説明する。
乾燥工程は、(3)に示した製膜工程により形成された電極触媒層を、溶媒沸点以上(好ましくは150℃以下)で少なくとも20分以上乾燥させる工程である。この乾燥工程は、電極触媒層中に含まれる水分や溶媒の除去を目的としている。上述の温度範囲で所定時間乾燥させることで、電極触媒層中に含まれる水分や溶媒が揮発し、電極触媒層を十分に乾燥させることが可能となる。かかる乾燥工程を経ることで、本実施形態に係る電極触媒層を得ることができる。
【0069】
なお、上記乾燥工程に先立ち、電極触媒層の表面を形成させるとともに、電極触媒層中に含まれる溶媒の粗除去を目的とした予備乾燥工程を実施してもよい。
【0070】
<膜電極接合体及び燃料電池について>
本実施形態に係る燃料電池は、複数の単セルが一対のホルダに狭持されている。単セルは、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と、膜電極接合体の厚み方向両側に配置されたバイポーラプレート(セパレータ)とからなり、作動温度100℃〜200℃、湿度が無加湿又は相対湿度50%以下の条件で作動するものである。バイポーラプレートは、導電性を有する金属またはカーボン等で形成されており、膜電極接合体にそれぞれ接合することで、集電体として機能するとともに、膜電極接合体の電極触媒層に対して、酸素及び燃料を供給する。
【0071】
まず、図2を参照しながら、本実施形態に係る膜電極接合体について説明する。図2は、本実施形態に係る膜電極接合体の構造を示した説明図である。
【0072】
本実施形態に係る膜電極接合体100は、図2に示したように、高分子電解質膜3と、高分子電解質膜3の厚み方向両側に配置された電極触媒層5,5’と、電極触媒層5,5’にそれぞれ積層された第1の気体拡散層30,30’と、第1の気体拡散層30,30’にそれぞれ積層された第2の気体拡散層40,40’とから構成されている。電極触媒層5,5’と、第1の気体拡散層30,30’と、第2の気体拡散層40,40’とによって一対の電極が構成されている。
【0073】
ここで、高分子電解質膜3及び電極触媒層5,5’については、先に説明した通りであるため、重複した説明は省略する。
【0074】
第1の気体拡散層30,30’及び第2の気体拡散層40,40’は、それぞれカーボンシート等から形成されており、バイポーラプレートを介して供給された酸素ガス及び燃料ガスを、電極触媒層5,5’の全面に拡散させる。
【0075】
この膜電極接合体100を含む燃料電池は、100℃〜200℃の温度で作動し、一方の電極触媒層側にバイポーラプレートを介して燃料ガスとして例えば水素ガスが供給され、他方の電極触媒層側にはバイポーラプレートを介して酸化剤として例えば酸素ガスが供給される。そして、一方の電極触媒層において水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンが高分子電解質膜3を伝導して他方の電極触媒層に到達し、他方の電極触媒層においてプロトンと酸素が電気化学的に反応して水を生成するとともに、電気エネルギーを発生させる。
【0076】
なお、燃料として供給される水素は、炭化水素もしくはアルコールの改質により発生された水素でもよく、また、酸化剤として供給される酸素は、空気に含まれる状態で供給されても良い。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る電極触媒は、触媒担体(導電性担体)の細孔内部にプロトンパスであるリン酸を効果的に含浸することができる。そのため、かかる電極触媒を用いた電極においては、触媒反応面積の増大により酸ドープ型燃料電池の発電特性の向上効果を得ることができる。更に、本発明の実施形態に係る電極を用いた酸ドープ型燃料電池においては、初期発電活性化のエージング(コンディショニング)時間が大幅に短縮されるという効果がある。
【0078】
また、本発明の実施形態に係る燃料電池用電極には、ドープ触媒及び未ドープ触媒が均一に分散している電極触媒層を有するため、経時的に高分子電解質膜中から浸出した酸をトラップすることが可能となり、かつ、電極触媒層におけるガス拡散のための空隙を維持することができるため、発電特性の低下を軽減させ耐久性が向上される。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記例によって限定されるものではない。
【0080】
<未ドープ触媒について>
BET比表面積が60m/gであるカーボン(バルカンXC−72を黒鉛化処理したもの)を導電性担体として利用し、白金コバルト合金を触媒粒子として利用した電極触媒を、未ドープ触媒として利用した。なお、かかる触媒の白金含有量は、導電性担体であるカーボンに対して、50質量%である。
【0081】
<ドープ触媒の製造例>
次に、得られた未ドープ触媒を利用して、リン酸がドープされたドープ触媒の製造を行った。まず、未ドープ触媒5gを秤量し、これを85質量%のリン酸溶液100g中に分散させ、攪拌後、真空装置内で1時間保持し、導電性担体の細孔内に、リン酸を含浸させた。その後、150℃で熱処理を行った。その後、リン酸が導電性担体に含浸された電極触媒を水洗濾過した後に乾燥させて、本実施例に係るリン酸含浸触媒(すなわち、ドープ触媒)を得た。
【0082】
得られたドープ触媒に含浸されたリン酸量を特定するために、誘導結合プラズマ発光分光法を用いて、含浸されたリン酸の定量分析を行った。分析装置として、エスアイアイナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置 SPS−1700HVRを利用し、測定を行った。
【0083】
測定の結果、上記製造例に係るドープ触媒に含浸されたリン酸量は、導電性担体に対して、0.73質量%であった。
【0084】
<実施例1>
上記製造例で製造したドープ触媒及び未ドープ触媒を利用して、燃料電池用電極を製造した。ここで、80質量%のドープ触媒と20質量%の未ドープ触媒とを混合し、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を利用して、電極ペーストを得た。その後、かかる電極ペーストを利用して、電極触媒層を形成した。また、高分子電解質膜として、リン酸がドープされたポリベンゾイミダゾール膜を使用した。高分子電解質膜にドープされたリン酸の量は、高分子電解質膜に対して、350質量%であった。なお、ポリベンゾイミダゾールの構造式は、以下の化学式1の通りである。
【0085】
【化1】

・・・(化学式1)
【0086】
また、気体拡散層として、微細カーボン層を有するカーボンペーパー(SGLカーボン社製:GDL34BC)を利用して、膜電極接合体を製造した。
【0087】
<比較例1>
上記実施例1の燃料電池用電極と比較するために、未ドープ触媒のみからなる電極を製造した。なお、かかる電極は、ドープ触媒を利用しない以外は、実施例1と同様にして製造を行った。
【0088】
<比較例2>
ドープ触媒100質量%を利用して電極触媒層を形成した以外は、実施例1と同様にして製造を行った。
【0089】
<燃料電池の発電特性の試験方法>
本発明と従来技術を比較すべく、テフロン(登録商標)のガスケットと製造した簡易的な膜電極接合体をガス流路が形成されているカーボンセパレータで挟み込んだ上、集電板とエンドプレートを両極外側に配して、ボルトで締め付けてテストセルとした。このテストセルを窒素パージしながら、150℃に昇温し、アノードには燃料ガスとして純水素を、及び、カソードには酸化剤として空気を、利用率がそれぞれUf=80%、Uox=50%となるよう、ボンベから流量をコントロールするマスフローを介して直接(加湿器を通さず無加湿の条件にて)セルへ導入した。発電の分極特性および連続発電特性の測定には、電子負荷装置(計測技術研究所社製ELZ−303)を用い、連続発電特性は、0.3A/cmの定電流運転を行い、このときの発電特性の経時変化を調べた。
【0090】
図3は、実施例1及び比較例1での膜電極接合体を利用した単セルの発電特性を示した電流−電圧特性グラフ図であり、図4は、実施例1、比較例1及び比較例2での膜電極接合体を利用した単セルの連続発電特性の経時変化を示したグラフ図である。
【0091】
図3から明らかなように、実施例1での電極を用いたMEAは、比較例1での未処理電極を用いたMEAに比べ優れた発電特性を示している。これは、触媒に予めリン酸処理工程を施すことにより、触媒層内の酸分布の均一化による効果的なプロトンパスの形成による特性向上が得られたためであると推測される。
【0092】
図4から明らかなように、実施例1で作製した燃料電池用電極を用いたMEAは、比較例1で作製した未処理電極を用いたMEAに比べ、電圧値が高い値となっており、かつ、初期の立ち上がり(コンディショニング)時間が、約250時間(比較例1)から約50時間(実施例1)へと短縮された。これは、実施例1で作製したMEAは、比較例1で作製したMEAに比べて発電特性が向上し、かつ初期の立ち上がり(コンディショニング)時間が約1/5に短縮されたことを示している。
【0093】
また、実施例1で作製したMEAは、リン酸処理工程を施したドープ触媒100質量%を利用した電極(比較例2)でのMEAと比較すると、発電特性の初期時の立ち上がりでは若干劣るものの、経時変化では、発電特性をより長い時間保持していることが確認された。
【0094】
このように、触媒に予めリン酸処理工程を施すことにより、触媒層内の酸分布の均一化による効果的なプロトンパスの形成による特性向上が得られ、また、初期時より触媒層内に最適な酸量コントロールされているため、コンディショニング時間の短縮化が可能となり、特性の差異を顕在化させることができた。
【0095】
また、長期的には高分子電解質膜中にドープされた酸が触媒層へ浸出し、後にはMEA外部へ排出されていく課題があるが、その場合であっても、図4から明らかなように、実施例1に係る燃料電池用電極は、未ドープ触媒の導電性担体が酸を含浸できる許容値を持っているため、MEA内に酸を留め、外部への酸の流出を防ぎ、かつガス拡散のための空隙を損なわない複合的な機能を併せ持つことが可能となり、このようなMEA構造より、耐久性の向上を図ることが可能となったと推察される。
【0096】
以上のように、リン酸含浸処理工程で得られた触媒を用いた燃料電池用電極においては、電極触媒層内のリン酸の分布が均一化し、かつ触媒の活性面積増に寄与(担体カーボン細孔への酸均一分布)し、特性の向上および発電初期において速やかに平衡電圧に達することが可能となった。また、リン酸含浸処理工程で得られた触媒と、未処理触媒を混合して作製した電極を用いることにより、長期的には、膜から浸出したリン酸を未処理触媒の担体カーボン内にトラップする機能も発現し、耐久性を向上させることが可能となった。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0098】
例えば、上記実施形態では、ドープ触媒と未ドープ触媒とが電極触媒層中で均一に分散している場合について説明したが、ドープ触媒と未ドープ触媒とが電極触媒層中で不均一に分散している場合についても、均一に分散している場合に比べて性能は劣るものの、本発明の実施形態に係る効果をある程度奏することが可能である。また、電極触媒層が、高分子電解質膜側に位置する未ドープ触媒からなる第1の触媒層と、第1の触媒層上に積層されたドープ触媒からなる第2の触媒層との積層構造を有していても良い。
【符号の説明】
【0099】
1 燃料電池用電極
3 高分子電解質膜
5 電極触媒層
10 酸未含浸電極触媒(未ドープ触媒)
11 導電性担体
13 触媒粒子
15 酸が含浸した導電性担体
20 酸含浸電極触媒(ドープ触媒)
30 第1の気体拡散層
40 第2の気体拡散層
100 膜電極接合体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性遊離酸を含む高分子電解質膜がカソード電極及びアノード電極により挟持された膜電極接合体を備え、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、前記カソード電極に酸化剤ガスが供給され、運転温度が100℃以上である燃料電池に用いられる燃料電池用電極であって、
導電性担体と当該導電性担体に担持された触媒粒子とからなる電極触媒を含む電極触媒層を有し、
前記電極触媒層は、酸による真空熱処理が予め実施され、前記導電性担体に酸が含浸した酸含浸電極触媒と、前記酸による真空熱処理が実施されていない酸未含浸電極触媒と、が均一に分散していることを特徴とする、燃料電池用電極。
【請求項2】
前記電極触媒層は、当該電極触媒層形成時、前記酸含浸電極触媒の含有量が5〜95質量%であり、前記酸未含浸電極触媒の含有量が5〜95質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記電極触媒の導電性担体は、導電性を有する炭素材料であり、
前記導電性担体に担持される触媒粒子は、白金、又は、白金を含み少なくとも1種以上の卑金属を有する合金である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
前記酸は、オルトリン酸、縮合リン酸、アルキルリン酸及びホスホン酸からなる群より選択される少なくとも1種以上の酸であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
前記導電性担体のBET比表面積は、50〜1500m/gであることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
水溶性遊離酸を含む高分子電解質膜がカソード電極及びアノード電極により挟持された膜/電極接合体を備え、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、前記カソード電極に酸化剤ガスが供給され、運転温度が100℃以上である燃料電池に用いられる燃料電池用電極の製造方法であって、
導電性担体と当該導電性担体に担持された触媒粒子とからなる電極触媒に対して酸による真空熱処理を行って前記導電性担体に酸を含浸させ、酸の含浸した前記電極触媒を洗浄及び乾燥して酸含浸電極触媒とするステップと、
前記酸含浸電極触媒5〜95質量%と、前記酸の含浸していない前記電極触媒である酸未含浸電極触媒5〜95質量%とを混合して、電極支持基材上に塗布するステップと、
を含む、燃料電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記酸による真空熱処理は、100℃〜150℃で行われることを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記酸は、濃度85質量%以下のリン酸水溶液であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れか1項に記載の燃料電池用電極を用いた膜電極接合体を備えることを特徴とする、燃料電池。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−238485(P2011−238485A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109408(P2010−109408)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】