説明

燃料電池用電極触媒の製造方法

【解決手段】本発明は、触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、有機化合物とを混合する混合工程と、混合工程で形成された混合物を不活性ガス雰囲気下において熱処理して前記有機化合物を炭化させる熱処理工程とを含む、燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。本発明によれば、触媒活性低下の原因となる触媒金属微粒子の粒子径増大が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性に優れた燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素および酸素を電気化学的に反応させて電力を得るため、発電に伴って生じる生成物は原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどないクリーンな発電システムとして注目されている。燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)のように分類される。
【0003】
固体高分子型燃料電池には、通常、カーボン粒子等の導電性粒子と、該導電性粒子に担持された白金、白金合金等の触媒活性を有する金属の微粒子とからなる電極触媒が用いられる。
【0004】
触媒金属成分が二種類以上の金属元素を含む合金である場合、導電性担体粒子に導入された複数の金属を、不活性ガス雰囲気下において500〜1000℃の高温で加熱処理をして合金を形成する工程(合金化)が行われる(特許文献1)。
【0005】
また、触媒金属成分が白金等の1種類の元素からなる金属である場合でも、金属微粒子を安定化させることや、導電性担体粒子への接着性を向上させることを目的として、金属の微粒子を担持している導電性担体粒子を、不活性ガス雰囲気下において500〜1000℃の高温で加熱処理することがある。例えば特許文献2には、導電性担体であるカーボンブラック表面に存在するカルボキシル基等の官能基を除去して、金属粒子とカーボンブラックとの界面を安定化させることを目的として、700℃以上の不活性ガス雰囲気中または500℃以上の還元ガス雰囲気中において、触媒金属担持前または後のカーボンブラックの熱処理を行うことが記載されている。
【0006】
しかしながら、導電性担体粒子に触媒金属の微粒子を担持させた後に500〜1000℃の高温で加熱処理する場合には、担持されている金属粒子が導電性担体粒子表面を移動して凝集(シンタリング)し、金属粒子の粒子径が増大するという問題がある。例えば特許文献2には、白金粒子の凝集を抑制するためには、白金担持後のカーボンブラックは還元ガス雰囲気下で熱処理を行うことが望ましいと記載されている。シンタリングが発生して触媒金属粒子が大きくなると、触媒金属の反応表面積が減少し、十分な触媒活性が得られなくなり、電池性能が低下するという問題がある。
【0007】
担持された触媒金属微粒子の粒子径の増大の問題を解消することを目的として、これまでにも種々の技術が開発されている。
【0008】
特許文献2には、導電性炭素材料に、酸性条件下で白金より酸化されにくい金属粒子を担持させ、この金属粒子の外表面を白金により覆うことにより、燃料電池の運転時における白金微粒子の成長を抑制する技術が記載されている。
【0009】
特許文献3では、合金化の際の熱処理によって合金の粒子径が増大するという問題を解決するために、所定のキレート安定化度数を有するキレート剤との錯化合物を使用して卑金属成分を導入することが記載されている。
【0010】
特許文献4では、白金または白金合金のコロイド粒子と、カーボン担体とを混合することによりカーボン担体に白金または白金合金粒子を担持させる際の白金または白金合金粒子の凝集を抑制するために、プロトン伝導性官能基を有する有機化合物を凝集抑制剤として使用することが記載されている。当該有機化合物は除去されることなく触媒中に残存される。
【0011】
特許文献5では、白金コロイドとカーボン担体とを混合することによりカーボン担体に白金粒子を担持させる方法において、白金粒子の凝集を抑制することを目的として、前記混合を陽イオン交換性高分子の存在下で行うことが記載されている。当該陽イオン交換性高分子は除去されることなく触媒中に残存される。
【0012】
特許文献6では、固体骨格部と細孔とを有する多孔体(カーボン多孔体等)と、該固体骨格部に担持された無機物質ナノ粒子(触媒金属微粒子等)とを含むナノ粒子含有複合多孔体が記載されている。特許文献6において、ナノ粒子は、球殻状タンパク質やデンドリマーなどの有機凝集体により被覆された複合粒子体として担持されることができ、更に有機凝集体は分解除去されてもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−335328号公報
【特許文献2】特開2002−289208号公報
【特許文献3】特開2001−68120号公報
【特許文献4】特開2001−93531号公報
【特許文献5】特開2003−100306号公報
【特許文献6】WO2004/110930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
燃料電池用電極触媒の導電性担体粒子上での触媒金属微粒子の粒子径の成長を抑制する従来の方法はいずれも満足できるものではなかった。例えば、特許文献2では使用する触媒金属自体の組成が制限されるという問題がある。特許文献3では金属を導入するためのキレート剤として所定のものを使用する必要がある。特許文献4〜6に記載されている技術は、特殊な凝集抑制剤を必要とする。また特許文献4及び5の技術では、凝集抑制剤を残存させることが必要であるため、金属担持後に高温処理により合金化を行う場合には適用できないという問題があった。
【0015】
そこで本発明は、特定の触媒金属の組成や担持方法には限定されない、触媒金属微粒子が担持されている導電性粒子の加熱処理の際の、触媒金属微粒子の粒子径増大を抑制することを可能にする汎用的な技術を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。本発明は以下の発明を包含する。
(1) 触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、有機化合物とを混合する混合工程と、
混合工程で形成された混合物を不活性ガス雰囲気下において熱処理して前記有機化合物を炭化させる熱処理工程とを含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
(2) 前記熱処理工程が450℃〜850℃の温度において行われる、(1)の方法。
(3) 前記有機化合物が2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポルフィリン化合物、ベンゾニトリル、ペリレン、およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種である、(1)または(2)の方法。
(4) 前記有機化合物が2-メチル-2,4-ペンタンジオールであり、
前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子の重量に対して0.3〜2.0 wt%の2-メチル-2,4-ペンタンジオールとを混合する工程である、(3)の方法。
(5) 前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子の重量に対して0.3〜1.5 wt%の2-メチル-2,4-ペンタンジオールとを混合する工程である、(4)の方法。
(6) 前記有機化合物が、前記熱処理工程において前記触媒金属と合金化されて触媒活性を有する合金を生じる少なくとも1種の他の金属を含む有機化合物である、(1)または(2)の方法。
(7) 前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、溶媒中に溶解された前記有機化合物とを混合し、混合後に溶媒を除去する工程を含む、(1)〜(6)のいずれかの方法。
(8) (1)〜(7)のいずれかの方法で製造された燃料電池用電極触媒。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、有機化合物を添加した、カーボン粒子に白金を担持させた電極触媒に対する熱処理温度と、熱処理後の白金粒子径との関係を示す。
【図2】図2は、有機化合物を添加した、カーボン粒子に白金を担持させた電極触媒に対する熱処理温度と、熱処理後の白金粒子径との関係を示す。
【図3】図3は、有機化合物を添加した、カーボン粒子に白金を担持させた電極触媒に対する熱処理温度と、熱処理後の電極触媒の触媒活性との関係を示す。
【図4】図4は、白金が担持されているカーボン粒子を含む電極触媒への2-メチル-2,4-ペンタンジオール (MPD)の添加量と、熱処理後の白金粒子径との関係を示す。
【図5】図5は、白金が担持されているカーボン粒子を含む電極触媒への2-メチル-2,4-ペンタンジオール (MPD)の添加量と、熱処理後の電極触媒の触媒活性との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.導電性粒子
担体となる導電性粒子としては、触媒金属微粒子を担持できるとともに、それ自体が導電性を具備するものであれば特に限定されず、燃料電池用電極触媒に慣用されている様々な材料を使用することができる。例えばカーボンブラックのような、導電性を具備し、かつ比表面積が大きい担体材料が好ましい。導電性粒子の比表面積は200〜2,000 m2/gであることが好ましい。比表面積はN2吸着(通称BET法)によって測定することができる。好適な導電性粒子としては、Ketjen EC(商標:Ketjen Black International社)、Ketjen 600JD(商標:Ketjen Black International社)、Black Pearls(商標:Cabot社)等のカーボン担体粒子が挙げられるがこれらには限定されない。
【0019】
導電性粒子には、触媒金属の微粒子が担持される。ここで「微粒子」とは例えば平均粒径が1.0〜10.0 nmの金属粒子を指す。なお、金属微粒子の粒径は、当業界で周知のXRD測定により算出される。例えば白金微粒子の粒子径は、電極触媒のXRDを測定し、約40°に検出されるPt (111)に相当するピークの半値幅から算出することができる。
【0020】
導電性粒子に担持される触媒金属としては、白金、及び白金合金が挙げられる。白金合金としては、白金と、コバルト、ニッケル、鉄、銅、マンガン、バナジウムなどの少なくとも1種の遷移金属との合金や、白金と、パラジウム、ロジウム、イリジウム、金、ルテニウムなどの少なくとも1種の貴金属との合金や、白金と前記遷移金属と前記貴金属との合金が挙げられる。なお、本発明において「金属」とは単一の元素からなる単体金属だけでなく、2種以上の元素からなる合金をも包含する概念である。
【0021】
本発明の一実施形態では、導電性粒子に予め担持されている触媒金属の微粒子と、混合される有機化合物に含まれる少なくとも1種の他の金属とが、熱処理工程において合金化することにより、触媒活性を有する合金を形成する。この実施形態では、導電性粒子に予め担持されている金属は白金等の、それ自体が触媒活性を有する金属であり、有機化合物に含まれる少なくとも1種の他の金属(以下「合金化用金属」と呼ぶ)は、前記遷移金属および前記貴金属の群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0022】
混合工程の出発物質である、触媒金属微粒子が担持されている導電性粒子は、どのような方法で調製されたものであってもよい。調製方法としては公知の金属担持方法を採用することができる。担持方法の一例としては、金属の塩または錯体を溶媒に溶解して溶液とし、該溶液を導電性粒子に含浸させた後、還元剤を用いて還元反応を行うことにより、導電性粒子上に金属の微粒子を析出させ担持させる方法が挙げられる。担持方法の他の例としては、金属の塩または錯体を溶媒に溶解した溶液中において還元剤を用いて還元反応を行い、金属微粒子のコロイド分散液を調製し、得られたコロイド分散液に導電性粒子を分散させるか、導電性粒子にコロイド分散液を添加することにより金属微粒子を導電性粒子に担持させるか、或いは前記溶液中に予め導電性粒子を分散させた状態で還元反応を行って金属微粒子の形成と担持とを同時に行う方法が挙げられる。
【0023】
合金触媒の微粒子を担持する導電性粒子も、混合工程の出発物質として使用することができる。そのような導電性粒子は、二種類以上の金属を担持させ、還元及び合金化を経て形成された合金触媒の微粒子を担持させることによって調製される。
【0024】
金属微粒子担持後に、真空乾燥等の任意の方法で導電性粒子を乾燥させ、本発明の方法に使用することができる。
【0025】
金属の担持量は、特に限定されない。例えば金属に白金が含まれる場合、白金の担持量は、全金属と導電性粒子との合計重量の10〜50 wt%とすることができる。金属に遷移金属が含まれる場合、遷移金属の担持量は、全金属と導電性粒子との合計重量の1〜20wt%とすることができる。
【0026】
2. 混合工程
本発明では、触媒金属の微粒子が担持された導電性粒子と、有機化合物とを混合させ、得られた混合物を不活性ガス雰囲気下において熱処理して有機化合物を炭化させることを特徴とする。
【0027】
本発明において触媒金属の微粒子の成長が抑制される効果は、金属微粒子の間に存在する有機化合物が炭化して生じる炭化物が、金属微粒子の移動を制限することによりもたらされていると考えられる。したがって本発明に使用する有機化合物は、熱処理温度(例えば450℃以上)において分解し炭化する有機化合物であれば特に限定されない。
【0028】
特に好ましい有機化合物としては、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポルフィリン化合物、ベンゾニトリル、ペリレン、およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。ポルフィリン化合物としては、5,10,15,20-テトラキス-(p-メトキシフェニル)ポルフィリン(H2TMPP)、及びTMPPにコバルトが配位したCoTMPPが挙げられる。
【0029】
有機化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、触媒金属の微粒子が担持された導電性粒子の重量に対して0.1〜10 wt%の範囲である。
【0030】
有機化合物が2-メチル-2,4-ペンタンジオールである場合には、前記触媒金属の微粒子が担持された導電性粒子の重量に対して0.3〜2.0 wt%の場合に、金属微粒子の粒子径の成長抑制効果が高く、なかでも0.3〜1.5 wt%の場合には最終的に得られる電極触媒の触媒活性が高くなるため好ましい。
【0031】
金属微粒子が担持された導電性粒子と、有機化合物との混合の方法は特に限定されないが、前記導電性粒子と、溶媒中に溶解された有機化合物とを混合し、混合後に溶媒を除去することにより混合することが好ましい。この実施形態において、前記導電性粒子は、有機化合物で含浸される。このとき使用する溶媒としては、有機化合物を溶解することのできる溶媒であれば特に限定されず、例えばエタノール、テトラヒドロフラン(THF)等が使用できる。
【0032】
混合工程は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下において行うことが好ましい。上記のように、金属微粒子担持導電性粒子と有機化合物の溶液とを混合し、混合後に溶媒を除去する場合には、溶媒の除去は、ロータリーエバポレーター等を用いて不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態では、有機化合物は、熱処理工程において前記触媒金属と合金化されて触媒活性を有する合金を生じる少なくとも1種の合金化用金属を含む有機化合物である。この実施形態では、上記1.において既に述べた合金化用金属の錯化合物等を有機化合物として使用することができる。具体的には、合金化用金属のポルフィリン錯体、フタロシアニン錯体等が挙げられる。合金化用金属を含む有機化合物の添加量は、前記触媒金属の微粒子が担持された導電性粒子の重量に対して、0.1〜10 wt%の範囲とすることができる。
【0034】
3.熱処理工程
熱処理工程は、混合工程で得られた金属微粒子担持導電性粒子と有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下において熱処理して前記有機化合物を炭化させる工程である。また熱処理工程では、熱処理の本来の目的である合金化、金属微粒子の安定化、金属微粒子と導電性粒子との接着が進行する。
【0035】
熱処理工程は、450℃〜850 ℃の温度において行われることが好ましい。また熱処理時間としては30〜120分間が好ましい。
【0036】
熱処理は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガスの雰囲気下において行われる。
【実施例】
【0037】
製造例1.1: MPDによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのMPDによるPt/C触媒の含浸
2-メチル-2,4-ペンタンジオール (MPD)の乾燥・脱気済エタノールストック溶液を、以下のように調製した。分析グレードのエタノールをモレキュラーシーブ上で乾燥させ、アルゴンをパージすることによって脱気した。500 mgの分析グレードのMPDを500 mlのメスフラスコに入れた。その後、乾燥・脱気済エタノールでメスフラスコを標線まで満たした。調製されたストック溶液を、グローブボックス内に移動させた。
【0038】
この段落において説明する触媒の含浸は、反応混合物の自然発火を避けるために、グローブボックス内の不活性アルゴン雰囲気下で実施した。45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、250 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。80 ml量の分析グレードの乾燥・脱気済エタノールを、ケルダールフラスコ内の触媒粉末に加えた。その後、20 ml量の先に調製したMPD/エタノールストック溶液を加えた。触媒懸濁液を含むフラスコを密栓して、グローブボックスから取り出した。
【0039】
調製された触媒のMPD/エタノール懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0040】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
適切なロータリーエバポレーターを、蒸発及びアルゴンによるパージを繰り返すことによって不活性化した。不活性化後、撹拌した触媒懸濁液を含むケルダールフラスコを、アルゴン逆流下のロータリーエバポレーターに接続した。エタノール溶媒を、200 mbar、50℃の温度で除去した。溶媒を完全に除去した後、氷浴を用いてフラスコを室温未満まで冷却し、外気をロータリーエバポレーターにゆっくりと流入させることで外気に接触させて常圧にした。
【0041】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
MPD添加Pt/C触媒の乾燥済試料を、水平に配列した分割ヒンジ型(split-hinge)石英ガラス管炉内に入れた。同一グレードのN2と比較して高いガス置換能力及び優れた不活性により、アルゴン5.0を用いた。熱処理前に、炉を7.5 ml/分の流量のアルゴンガスで1時間、室温でパージして、全ての痕跡量の酸素を触媒試料から除去した。続く熱処理の全工程の間、ガス流量を7.5 l/分の一定値に保持した。第一工程において、300 K/時の熱勾配を、炉温度が450℃に達するまで適用した。この温度を、60分間一定に保持した。その後、最終熱分解温度に達するまで、温度を300 K/時の加熱温度で更に上昇させた。最終温度は、500〜850℃の範囲だった。触媒試料をこの温度で30分間保持した。最後に、アルゴンガス気流を保持しながら、炉を90分間で室温まで冷却した。室温に達してから、試料を空気に接触させた。処理中に適用された熱勾配を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
製造例1.2: H2TMPPによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのH2TMPPによるPt/C触媒の含浸
45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、250 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。98 wt%純度の127 mgの5,10,15,20-テトラキス-(p-メトキシフェニル)ポルフィリン (H2TMPP)を、ビーカー中で100 mlの分析グレードの乾燥・脱気済THFに溶解させ、該溶液をケルダールフラスコ内の触媒粉末に移した。調製された触媒のH2TMPP/THF懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0044】
(ii)ロータリーエバポレーターによる乾燥
適切なロータリーエバポレーターを、蒸発及びアルゴンによるパージを繰り返すことによって不活性化した。不活性化後、撹拌した触媒懸濁液を含むケルダールフラスコを、アルゴン逆流下のロータリーエバポレーターに接続した。THF溶媒を、350 mbar、50℃の温度で除去した。乾固後、粉末を含むフラスコを60℃においてアルゴン5.0でパージして、THF残留物をより完全に除去し、不活性雰囲気で該材料を覆った。最後に、前記材料を冷却して、室温に達してから空気と接触させた。
【0045】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
H2TMPPを添加したPt/C触媒の乾燥済粉末を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理した。
【0046】
製造例1.3: PVPによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのPVPによるPt/C触媒の含浸
この段落において説明する触媒の含浸は、反応混合物の自然発火を避けるために、グローブボックス内の不活性アルゴン雰囲気下で実施した。45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、250 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。125 mgのポリビニルピロリドン K-30 (PVP)を、ビーカー中で100 mlの分析グレードの乾燥・脱気済エタノールに溶解させ、該溶液をケルダールフラスコ内の触媒粉末に移した。触媒懸濁液を含むフラスコを密栓して、グローブボックスから取り出した。
【0047】
調製された触媒のPVP/エタノール懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0048】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
Pt/C触媒のPVP/エタノール懸濁液を、製造例1.1(ii)と同様の方法及び条件で乾燥させた。
【0049】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
PVPを添加したPt/C触媒の乾燥済粉末(上記(ii)で得られたもの)を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理した。
【0050】
製造例1.4:CoTMPPによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのCoTMPPによるPt/C触媒の含浸
45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、1000 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。98 wt%純度の137.1 mgの5,10,15,20-テトラキス-(4-メトキシフェニル)-21H,23H-ポルフィリン コバルト(II) (CoTMPP)を、ビーカー中で400 mlの分析グレードの乾燥・脱気済THFに溶解させ、該溶液をケルダールフラスコ内の触媒粉末に移した。調製された触媒のCoTMPP/THF懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0051】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
Pt/C触媒のCoTMPP/THF懸濁液を、製造例1.2(ii)と同様の方法及び条件で乾燥させた。
【0052】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
CoTMPPを添加したPt/C触媒の乾燥済粉末(上記(ii)で得られたもの)を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理した。
【0053】
製造例1.5:ベンゾニトリルによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのベンゾニトリルによるPt/C触媒の含浸
この段落において説明する触媒の含浸は、反応混合物の自然発火を避けるために、グローブボックス内の不活性アルゴン雰囲気下で実施した。45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、250 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。124.3 mgの分析グレードのベンゾニトリルを、ビーカー中で100 mlの分析グレードの乾燥・脱気済エタノールに溶解させ、該溶液をケルダールフラスコ内の触媒粉末に移した。触媒懸濁液を含むフラスコを密栓して、グローブボックスから取り出した。
【0054】
調製された触媒のベンゾニトリル/エタノール懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0055】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
Pt/C触媒のベンゾニトリル/エタノール懸濁液を、製造例1.1(ii)と同様の方法及び条件で乾燥させた。
【0056】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
ベンゾニトリルを添加したPt/C触媒の乾燥済粉末(上記(ii)で得られたもの)を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理した。
【0057】
製造例1.6:ペリレンによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのペリレンによるPt/C触媒の含浸
この段落において説明する触媒の含浸は、反応混合物の自然発火を避けるために、グローブボックス内の不活性アルゴン雰囲気下で実施した。45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、500 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。124.3 mgの分析グレードのペリレンを、ビーカー中で250 mlの分析グレードの乾燥・脱気済エタノールに溶解させ、該溶液をケルダールフラスコ内の触媒粉末に移した。触媒懸濁液を含むフラスコを密栓して、グローブボックスから取り出した。
【0058】
調製された触媒のペリレン/エタノール懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0059】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
Pt/C触媒のペリレン/エタノール懸濁液を、製造例1.1(ii)と同様の方法及び条件で乾燥させた。
【0060】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
ペリレンを添加したPt/C触媒の乾燥済粉末(上記(ii)で得られたもの)を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理した。
【0061】
製造例1.7(コントロール): Pt/C触媒の熱処理
45 wt%のPtが担持されているPt/C触媒を、製造例1.1(iii)と同様の方法及び条件で熱処理して、Pt/C触媒のコントロール試料を調製した。
【0062】
試験1: 白金粒子径の評価
上記で得られた白金担持電極触媒について、担持された白金粒子の粒径を測定した。白金粒子の粒径測定は、それぞれのカーボン粉末のXRDを測定し、得られたXRDプロファイルにおいて、約40°に検出されるPt (111)に相当するピークの半値幅(FWHM)から以下のシェラーの公式を用いて算出した。
【0063】
【数1】

【0064】
XRD測定は、2θで20°〜40°の範囲を0.0025°間隔で実施した。算出された白金粒子の粒径を図1及び2に示す。
【0065】
図1及び2の結果から、各種有機化合物が添加された白金担持電極触媒では、高温条件で熱処理を行った場合でも白金粒子の増大が抑制されることが明らかとなった。
【0066】
試験2: 触媒活性の評価
製造例1.4において調製された、CoTMPPを添加した白金担持電極触媒を450℃〜750℃にて熱処理した試料と、製造例1.2において調製された、H2TMPPを添加した白金担持電極触媒を450℃〜850℃にて熱処理した試料と、製造例1.7において調製された、有機化合物を添加していない白金担持電極触媒を室温及び450℃〜750℃にて熱処理した試料とについて触媒活性を評価した。
【0067】
試料の触媒活性は、サイクリックボルタンメトリー(CV)及び回転ディスク電極(RDE)測定により特性解析した。いずれの技術に対しても、同一の従来型の単一コンパートメント電気化学ガラスセルを用いた。硫酸水銀電極を参照とし、白金線を対電極とした。触媒粉末を、直径5 mmのPTFEで囲まれたガラス質カーボン(GC)ロッドからなる測定電極上に付着させた。
【0068】
電極を以下のように調製した。1 mgの触媒試料を、200μlの0.2%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)中で、超音波照射しながら懸濁させた。この懸濁液を正確にGC電極に移し、空気中、60℃で乾燥させた。
【0069】
そのようにして調製された電極を、1.5〜0 V(NHE)(N2がパージされた0.5 M H2SO4電解液)の電位範囲で、サイクリックボルタモグラム(CV)曲線が定常状態を示すまで(約20スキャン)サイクルさせた。次いで、この電極を、回転ディスク電極(RDE)実験(O2で飽和させた0.5 M H2SO4電解液、室温)に用いた。
【0070】
結果を図3に示す。高温処理前に有機化合物で含浸した場合には、高温処理前に有機化合物で含浸しない場合と比較して、酸素還元反応の触媒活性が高まることが確認された。
【0071】
製造例2.1: MPDによるPt/C触媒の含浸および熱処理
(i)改変剤としてのMPDによるPt/C触媒の含浸
2-メチル-2,4-ペンタンジオール (MPD)の乾燥・脱気済エタノールストック溶液を、以下のように調製した。分析グレードのエタノールをモレキュラーシーブ上で乾燥させ、アルゴンをパージすることによって脱気した。500 mgの分析グレードのMPDを500 mlのメスフラスコに入れた。その後、乾燥・脱気済エタノールでメスフラスコを標線まで満たした。調製されたストック溶液を、グローブボックス内に移動させた。
【0072】
この段落において説明する触媒の含浸は、反応混合物の自然発火を避けるために、グローブボックス内の不活性アルゴン雰囲気下で実施した。45 wt%のPtが担持されている2.0 gのPt/C触媒を秤量して、250 mlのケルダール丸底フラスコに入れた。80 ml量の分析グレードの乾燥・脱気済エタノールを、ケルダールフラスコ内の触媒粉末に加えた。その後、20 ml量の先に調製したMPD/エタノールストック溶液を加えた。触媒懸濁液を含むフラスコを密栓して、グローブボックスから取り出した。
【0073】
調製された触媒のMPD/エタノール懸濁液を、超音波照射しながら30分間撹拌した。
【0074】
上記で説明したように、Pt/C触媒(白金担持カーボン粒子)に1 wt%のMPDを添加した。ここで、MPDのパーセンテージは、Pt/C触媒の重量に基づいて計算された。
【0075】
上記と同様の手順に従って、Pt/C触媒(白金担持カーボン粒子)にそれぞれ0 wt%、0.5 wt%、2.0 wt%、又は5 wt%のMPDを添加することによって試料を調製した。但し、20 mlの前記MPD/エタノールストック溶液を用いる代わりに、MPD/エタノールストック溶液を全く用いないか、又は、10 ml、40 mlもしくは100 mlのストック溶液を用いた。MPDのパーセンテージは、Pt/C触媒の重量に基づいて計算した。
【0076】
(ii)不活性雰囲気下でのロータリーエバポレーターによる乾燥
適切なロータリーエバポレーターを、蒸発及びアルゴンによるパージを繰り返すことによって不活性化した。不活性化後、撹拌した触媒懸濁液を含むケルダールフラスコを、アルゴン逆流下のロータリーエバポレーターに接続した。エタノール溶媒を、200 mbar、50℃の温度で除去した。溶媒を完全に除去した後、氷浴を用いてフラスコを室温未満まで冷却し、外気をロータリーエバポレーターにゆっくりと流入させることで外気に接触させて常圧にした。
【0077】
(iii)不活性雰囲気下での乾燥済担持試料の熱処理(熱分解)
MPD添加Pt/C触媒の乾燥済試料を、水平に配列した分割ヒンジ型(split-hinge)石英ガラス管炉内に入れた。同一グレードのN2と比較して高いガス置換能力及び優れた不活性により、アルゴン5.0を用いた。熱処理前に、炉を7.5 ml/分の流量のアルゴンガスで1時間、室温でパージして、全ての痕跡量の酸素を触媒試料から除去した。続く熱処理の全工程の間、ガス流量を7.5 l/分の一定値に保持した。第一工程において、300 K/時の熱勾配を、炉温度が450℃に達するまで適用した。この温度を、60分間一定に保持した。その後、最終熱分解温度に達するまで、温度を300 K/時の加熱温度で更に上昇させた。最終温度は、500〜850℃の範囲だった(500℃、625℃、750℃及び850℃)。触媒試料をこの温度で30分間保持した。最後に、アルゴンガス気流を保持しながら、炉を90分間で室温まで冷却した。室温に達してから、試料を空気に接触させた。処理中に適用された熱勾配を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
試験3: 白金粒子径の評価
製造例2.1で得られた白金担持電極触媒について、試験1に記載したのと同様の手順により、担持された白金粒子の粒径を測定した。算出された白金粒子の粒径を図4に示す。
【0080】
なお、熱処理温度625℃、750℃、及び850℃、MPD添加量0 wt%の試料の白金粒子径(図4の範囲外にある)は、それぞれ6.5nm、9.5nm、及び17.5nmであった。
【0081】
図4の結果から、MPD添加量が0.5〜2.0 wt%である場合には、625℃以上の高温での熱処理を行っても白金粒子の増大は抑制されることが明らかとなった。
【0082】
試験4: 触媒活性の評価
製造例2.1においてMPD添加量0〜5 wt%の白金担持電極触媒を750℃において熱処理した試料について、試験2と同様の手順により触媒活性を評価した。
【0083】
結果を図5に示す。MPD添加量が0.5 wt%(実施例1)又は1.0 wt%(実施例2)である場合に酸素還元反応の触媒活性が高いことが確認された。一方、MPD添加量が2.0 wt%(比較例1)及び5.0 wt%(比較例2)である場合には、MPDを添加しない場合と比較して酸素還元反応の触媒活性は向上しなかった。
【0084】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書に取り入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、有機化合物とを混合する混合工程と、
混合工程で形成された混合物を不活性ガス雰囲気下において熱処理して前記有機化合物を炭化させる熱処理工程とを含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程が450℃〜850℃の温度において行われる、請求項1の方法。
【請求項3】
前記有機化合物が2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポルフィリン化合物、ベンゾニトリル、ペリレン、およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記有機化合物が2-メチル-2,4-ペンタンジオールであり、
前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子の重量に対して0.3〜2.0 wt%の2-メチル-2,4-ペンタンジオールとを混合する工程である、請求項3の方法。
【請求項5】
前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子の重量に対して0.3〜1.5 wt%の2-メチル-2,4-ペンタンジオールとを混合する工程である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、前記熱処理工程において前記触媒金属と合金化されて触媒活性を有する合金を生じる少なくとも1種の他の金属を含む有機化合物である、請求項1または2の方法。
【請求項7】
前記混合工程が、前記触媒金属の微粒子が担持されている導電性粒子と、溶媒中に溶解された前記有機化合物とを混合し、混合後に溶媒を除去する工程を含む、請求項1〜6のいずれかの方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの方法で製造された燃料電池用電極触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−507723(P2013−507723A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517957(P2012−517957)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/JP2009/068218
【国際公開番号】WO2011/045869
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591157202)ヘルムホルツ−ツェントルム ベルリン フュア マテリアリエン ウント エナギー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz−Zentrum Berlin fuer Materialien und Energie GmbH
【住所又は居所原語表記】Hahn−Meitner−Platz 1,D−14109 Berlin,Germany
【Fターム(参考)】