説明

燃料電池用電極触媒及びそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】低加湿条件下で高い出力性能をもたらすPt/C触媒を開発し、その触媒を用いた高出力性能の燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】
燃料電池用電極触媒に添加する酸化ニオブの組成範囲を白金又は白金合金に対してモル比で0.005〜0.05とする。これにより、燃料電池の出力性能を飛躍的に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びそれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子電解質型燃料電池における電極触媒のカソード及びアノード触媒には、白金又は白金合金等の貴金属をカーボンブラックに担持した触媒が用いられてきた。一般的に、白金担持カーボンブラック触媒(以下、Pt/C触媒とする)は、塩化白金酸水溶液に亜硫酸水素ナトリウムを加えた後、過酸化水素水と反応させ、生じた白金コロイドをカーボンブラックに担持させて、洗浄後、必要に応じて熱処理することにより調製される。高分子電解質型燃料電池の電極は、白金担持カーボンブラックを高分子電解質溶液に分散させてインクを調製し、そのインクをカーボンペーパーなどのガス拡散基材に塗布し、乾燥することにより作製される。高分子電解質膜を前記電極2枚で挟み、ホットプレスをすることにより電解質膜−電極接合体(MEA)が組立てられる。
【0003】
ところで、白金は高価な貴金属であるため、アノード触媒及びカソード触媒ともに、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが望まれている。しかし、現在のところ、1台あたりの自動車用燃料電池に必要とされる白金使用量は依然多く、将来、燃料電池車を普及させるためには白金使用量の大幅な低減が求められている。そのため、より少量の白金で触媒活性を高める検討がなされ、その結果、白金と種々の金属とからなる合金触媒等が開発されている。具体的には、CO被毒の回避を目的とした白金とルテニウム又はモリブデン等とからなる合金触媒が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、白金−コバルト合金を触媒成分とする燃料電池用電極触媒の発明が開示されている。この発明は、触媒表面及び/又は触媒近傍に遷移金属−4窒化物構造(MN4構造)を配置して触媒の耐久性を向上させることができる。しかし、この電極触媒では白金や白金−コバルト合金の表面にOHが吸着して一時被毒することを原因とする触媒活性の劣化を解決できておらず、実用的な自動車用燃料電池にまでは至っていない。
【0005】
次に、カソード触媒において白金量が多くなる理由について述べる。カソード反応では反応中間体であるOHが白金表面に一時被毒し、これが反応を阻害する。被毒した白金は、還元されるまで反応することができず、このとき過電圧が発生するため電圧をロスしてしまう。これは、電流−電圧(IV)カーブにおいて低電流密度域で電圧が急速に落ち込む現象として観測される。それ故、所定の効率(燃費)を得るには最頻出電流密度において所定の電圧値を得る必要がある。この電圧値と白金量との間には実験的に70mV/decadeの関係が見出されている。すなわち、白金目付け量が1/10になると電圧値が70mV低下する関係となる。現在の触媒技術では前記所定の電圧値を得るためには白金量で補うしかないというのが現状である。これが白金量の多くなる理由である。
【0006】
カソード触媒の白金量を低減させるためには、白金の単位質量あたりの活性(質量活性)の向上が必要となる。1990年頃から白金をCo、Fe、Ni等遷移金属と合金化することによって、白金の質量活性を向上させる試みが行われてきた。これら白金合金触媒の性能向上メカニズムの研究により、白金合金触媒表面上で、OH吸着による一時被毒が緩和されることが明らかとなった。OHの吸着力は、OHと白金表面(フェルミレベル)の電子的相互作用によって決まる。一般に、白金表面の電子密度が高いほどOHとの相互作用が強くなり、強固な吸着となる。白金合金触媒は、合金化によって白金表面の電子密度が下がることでOHの吸着力を弱め、一時被毒を緩和できることが理論的及び実験的に証明されている。
【0007】
現在では白金−コバルト合金のような白金合金触媒が実用段階に入っている。しかしながら、依然として白金合金触媒でのOHの一時被毒を原因とする過電圧は大きく、白金の質量活性を飛躍的に高めるには、OH被毒をさらに緩和する必要がある。また、合金触媒では合金成分がイオンとして溶出し、これが触媒層中アイオノマ中のプロトン伝導阻害を誘発することも指摘されている。
【0008】
触媒化学の分野では、1980年頃からSMSI(Strong Metal Support Interaction)に関する研究が始まっている。SMSIとは金属と担体の電子的相互作用によって触媒の活性・選択性向上など特異な機能を引き出す概念である。例えば、自動車用三元触媒のPt/CeO2が有する酸素吸放出能も、SMSIの一つである。このSMSIを利用した研究が燃料電池用電極触媒の分野でも進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−44659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、触媒被毒を緩和し、またSMSI効果を引き出す目的で、様々な金属酸化物をPt/C触媒に添加した燃料電池触媒の開発を行ってきた。その結果、Pt/C触媒に酸化ニオブを担持させることによって低加湿条件下においても燃料電池の出力性能を向上させ得ることを見出し、その知見に基づいた発明を出願した(特願2009−5969号)。しかしながら、当該発明の低加湿出力性能は、実用レベルとしては十分とは言えず、さらなる向上が必要であるという課題が残されていた。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、低加湿条件下でより高い出力をもたらすPt/C触媒を開発し、その触媒を用いた高出力性能の燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、燃料電池用電極触媒において、燃料電池の出力性能を飛躍的に向上させることのできる酸化ニオブの組成範囲を見出した。本明細書は、当該知見に基づく以下の発明を包含する。
(1)白金又は白金合金及び酸化ニオブを含み、かつ酸化ニオブと白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005:1〜0.05:1である燃料電池用電極触媒。
(2)白金又は白金合金が担体に担持されている、前記(1)の燃料電池用電極触媒。
(3)担体がカーボンである、前記(2)の燃料電池用電極触媒。
(4)白金又は白金合金と酸化ニオブが合金化されていない、前記(1)〜(3)のいずれかの燃料電池用電極触媒。
(5)白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005〜0.05となるように酸化ニオブを白金又は白金合金を担持した担体に形成させて得られうる燃料電池用電極触媒。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかの燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池用電極触媒によれば、従来の燃料電池と比較して燃料電池の低加湿出力性能を飛躍的に向上させることができる。
本発明の固体高分子型燃料電池によれば、従来の燃料電池に比べて高い出力性能を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酸化ニオブを担持させたPt/C電極触媒における白金粒径及びCO吸着量との関係
【図2】酸化ニオブを担持させたPt/C電極触媒を備えた燃料電池のMEAによる低加湿条件下での電圧性能
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.燃料電池用電極触媒
本発明の一の実施形態は、燃料電池用電極触媒である。本発明の燃料電池用電極触媒は、白金又は白金合金及び酸化ニオブ(NbOx)を含み、かつ酸化ニオブと白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005:1〜0.05:1であることを特徴とする。以下、本発明の燃料電池用電極触媒について具体的に説明をする。
【0016】
1−1.燃料電池用電極触媒の構成
本発明の燃料電池用電極触媒は、白金又は白金合金及び酸化ニオブを含む。また、白金又は白金合金を担持する担体を含むことができる。
【0017】
1−1−1.触媒成分
本発明の燃料電池用電極触媒における触媒成分は白金である。白金は高価な貴金属であり、アノード触媒、カソード触媒ともに、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが好ましい。そこで、白金の触媒活性を損なうことなくその使用量を削減するために、白金と種々の遷移金属からなる白金合金を触媒成分として用いてもよい。前記遷移金属としては、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、タンタル(Ta)及び金(Au)から選択される一以上が挙げられる。
【0018】
白金又は白金合金の担持密度は、電極触媒の総重量に対する担持された白金又は白金合金の重量%で定義される。かかる担持密度は、白金の場合には、{白金重量/(白金重量+担体重量)}×100の計算式により算出される。また、白金合金の場合には、{(白金重量+遷移金属重量)/(白金重量+遷移金属重量+担体重量)}×100の計算式により算出される。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金又は白金合金の担持密度は10〜60重量%であることが好ましい。
【0019】
白金合金の組成は、担持された白金合金の総重量に対する白金及び/又は遷移金属の重量%で定義される。かかる組成は、{白金重量/(白金重量+遷移金属重量)}×100の計算式により算出される。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金合金の組成は白金が90〜100重量%に対して遷移金属が0〜10重量%であることが好ましい。
【0020】
1−1−2.酸化ニオブ
酸化ニオブは、SMSI効果を引き出し、触媒被毒を緩和する目的で白金又は白金合金を含む電極触媒上に形成される。酸化ニオブを担持した前記電極触媒は、他の金属酸化物を担持したそれと比較して低加湿条件下での燃料電池性能、特に出力性能を向上させることができる。また、酸化ニオブは、触媒粒子、すなわち白金又は白金合金の粒径の増大を抑制することが可能である。さらに、酸化ニオブは、触媒粒子の表面又はその近傍に存在することで、COが触媒粒子の表面に吸着するのを抑制すると考えられる。結果として、酸化ニオブは、担持量依存的に触媒表面のCO吸着を抑制することができる。したがって、白金担持電極触媒に酸化ニオブを担持させることにより、H吸着に対する性能を損なうことなく、触媒成分中の白金又は白金表面へのCO吸着を選択的に軽減する効果を奏することが可能である。それ故、天然ガスなどを燃料とする改質器と組み合わせて使う燃料電池において、本発明の酸化ニオブを担持した電極触媒をアノード触媒として使用することにより、アノード反応に対する触媒活性を損なうことなくCO被毒による触媒活性の低下を選択的に軽減することが可能となる。酸化ニオブは、本発明の燃料電池用電極触媒において完全に酸化された状態で存在する。例えば、Nb2O5の酸化状態である。
なお、後述するように、本発明の燃料電池用電極触媒において、酸化ニオブは触媒成分である白金又は白金合金とは合金化されていない。
【0021】
本発明の燃料電池用電極触媒において、酸化ニオブと白金又は白金合金中の白金とのモル比は0.005:1〜0.05:1、好ましくは0.008:1〜0.04:1、より好ましくは0.01:1〜0.03:1である。本モル比の組成範囲内で酸化ニオブを担持する燃料電池用電極触媒は、低加湿条件下で燃料電池の出力性能を飛躍的に向上させることができる。
【0022】
酸化ニオブが、燃料電池用電極触媒において配置される位置・場所は、特に限定しない。例えば、(1)白金又は白金合金からなる触媒成分中に助触媒として含まれてもよく、(2)前記白金又は白金合金からなる触媒成分のコア材として含まれてもよく、(3)燃料電池用電極触媒中に添加剤として含まれてもよく、あるいは(4)担体表面及び/又は内部に含まれてもよい。白金又は白金合金からなる触媒成分中に助触媒として含まれるのが好ましい。
【0023】
本発明の燃料電池用電極触媒は、酸化ニオブに加えて、他の金属酸化物を含んでいてもよい。例えば、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化シリコン及び酸化スズから選択される一以上の遷移金属酸化物が挙げられる。
【0024】
1−1−3.担体
本発明の燃料電池用電極触媒は、触媒成分である白金又は白金合金及び酸化ニオブを担持させるため担体を含むことが好ましい。本担体は、白金又は白金合金を直接的又は間接的に担持し、かつそれ自体が導電性を具備するものであれば特に限定されない。例えば、燃料電池用電極触媒に慣用されている様々な材料を使用することができる。好ましくは、カーボンである。カーボンブラックのように比表面積が大きい担体材料は特に好ましい。これは、より広い触媒担持面積を確保することで担持する触媒粒子の微小化が可能となり、その結果、触媒活性を向上させることができるからである。
【0025】
本発明の燃料電池用電極触媒において使用される担体は、電気抵抗率が0.05〜0.50Ωcmであることが好ましい。また、比表面積が30〜1500m2/gであることが好ましい。電気抵抗率はJIS K1469によって測定することができる。また、比表面積は、窒素BET吸着法によって測定することができる。好適な担体材料は、限定はしないが、例えば、カーボンブラック(例えば、Ketjen EC;ケチェンブラックインターナショナル製)、アセチレンブラック(ケチェンブラックインターナショナル製)、バルカンXC-72R(Cabot製)、デンカブラック(DENKA製)、ファーネスブラック、グラファイトのようなカーボン微粒子である。
【0026】
1−2.燃料電池用電極触媒の製造方法
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、白金又は白金合金からなる触媒粉末と酸化ニオブとが前記モル比で互いに接触した状態を形成し得る方法であれば、特に限定はしない。例えば、当業界で慣用される様々な方法を用いて、白金又は白金合金に酸化ニオブを担持させる方法でもよいし、酸化ニオブを担持した担体に白金又は白金合金を形成させる方法でもよいし、担体表面に白金又は白金合金を担持させ、その後さらに酸化ニオブを担持させる方法でもよいし、白金又は白金合金を担持した担体に酸化ニオブを形成させる方法でもよいし、又は担体表面に酸化ニオブを担持させ、その後さらに白金又は白金合金を担持させる方法でもよい。好ましくは、白金又は白金合金を担持した担体に酸化ニオブを形成させる方法、又は担体表面に白金又は白金合金を担持させ、その後さらに酸化ニオブを担持させる方法である。以下、担体表面に白金又は白金合金を担持させ、その後さらに酸化ニオブを担持させる方法について具体的に説明をする。
【0027】
本発明の燃料電池用電極触媒は、(1)白金担持工程、及び(2)酸化ニオブ担持工程を含む方法で製造することができる。
(1)白金担持工程
「白金担持工程」とは、担体上に白金又は白金合金からなる触媒成分を形成させて、白金又は白金合金を担持した担体(以下、白金/担体とする)を得る工程である。
【0028】
本工程は、白金/担体を形成できる当業界で慣用される様々な方法を利用することができる。例えば、本工程は、白金錯体と担体とを水中で接触させて混合物溶液とする工程(接触工程);前記混合物溶液にアンモニア等の塩基を加えて溶液をアルカリ性とし、白金錯体を不溶性の水酸化物として担体表面に析出させる工程(白金水酸化物析出工程);白金の水酸化物が析出した担体を回収する工程(担体回収工程);回収した担体を真空下で乾燥する工程(担体乾燥工程);並びに乾燥した担体を水素雰囲気下で熱還元して、白金が担体に担持された電極触媒粉末を得る工程(熱還元工程)を含む方法で構成されていてもよい。白金を担持した担体に遷移金属を合金化することによって、白金合金担体を得ることもできる。
【0029】
(2)酸化ニオブ担持工程
「酸化ニオブ担持工程」とは、白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005〜0.05となるように、酸化ニオブを前記白金/担体上に担持させる工程である。
【0030】
本工程は、白金/担体上に酸化ニオブを担持できる当業界で慣用される様々な方法を利用することができる。例えば、本工程は、白金/担体とニオブ塩を、白金又は白金合金中の白金に対して酸化ニオブのモル比が0.005〜0.05となるように混合して、水中で接触させて混合物溶液とする工程(ニオブ接触工程);前記混合物溶液に塩基を加えた後、前記ニオブを不溶性の酸化ニオブとして白金/担体表面上に析出させる工程(酸化ニオブ析出工程);酸化ニオブが析出した白金/担体を回収する工程(回収工程);回収した前記酸化ニオブが析出した白金/担体を真空下で乾燥する工程(乾燥工程);並びに乾燥した前記白金/担体を不活性ガス雰囲気下で焼成して、酸化ニオブを担持した電極触媒を得る工程(焼成工程)を含む方法構成されていてもよい。前記焼成工程は、例えば、窒素ガス雰囲気下で300〜900℃にて30〜300分間焼成することで達成できる。
【0031】
2.固体高分子型燃料電池
本発明の一の実施形態は、前記本発明の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池である。
上述したように、本発明の白金又は白金合金中の白金に対して酸化ニオブを0.005〜0.05のモル比で含有する燃料電池用電極触媒は、低加湿条件下における燃料電池の出力性能を飛躍的に向上させることできる。したがって、本発明の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池は、燃料電池の実用化と普及に貢献することが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
(酸化ニオブ/Pt/C触媒の調製)
<比較例>:Pt/C
市販カーボンKetjen EC(ケチェンブラックインターナショナル製)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10として水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃にて2時間保持して還元処理した後、窒素ガス中で700℃にて2時間保持して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを含有しない対照触媒であって、Pt(45wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。
【0033】
<実施例1>
市販カーボンKe tjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃にて2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0034】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.01gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃にて2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.005のモル比で添加した触媒であって、Nb(0.1wt%)/Pt(45.0wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。
【0035】
<実施例2>
市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃、2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0036】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.02gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃、2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.01のモル比で添加した触媒であって、Nb(0.2wt%)/Pt(44.9wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。
【0037】
<実施例3>
市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃、2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0038】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.04gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃、2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.02のモル比で添加した触媒であって、Nb(0.4wt%)/Pt(44.8wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。
【0039】
<実施例4>
市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃、2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0040】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.1gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃、2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.05のモル比で添加した触媒であって、Nb(1.1wt%)/Pt(44.4wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。
【0041】
<実施例5>
市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃、2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0042】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃、2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
【0043】
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.1のモル比で添加した触媒であって、Nb(2.0wt%)/Pt(43.7wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。また、本触媒粉末は、特願2009−5969号に記載した実施例9の触媒粉末と同一の製造方法によって得られたものである。
【0044】
<実施例6>
市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加えて分散させた(接触工程)。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた(白金水酸化物析出工程)。この分散液をろ過し(担体回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(担体乾燥工程)。次に水素ガス中で200℃、2時間保持して還元処理して触媒粉末を得た(熱還元工程)。
【0045】
上記触媒粉末と塩化ニオブ0.4gを純水0.5Lに加えて分散させた(ニオブ接触工程)。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6とし酸化ニオブを形成した(酸化ニオブ析出工程)。この分散液をろ過し(回収工程)、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた(乾燥工程)。次に窒素ガス中で700℃、2時間保持して目的の触媒粉末を得た(焼成工程)。
【0046】
ここで得られた触媒粉末は、酸化ニオブを白金に対して0.2のモル比で添加した触媒であって、Nb(4.2wt%)/Pt(42.7wt%)/C(700℃、2時間)で構成される。また、本触媒粉末は、特願2009−5969号に記載した実施例10の触媒粉末と同一の製造方法によって得られたものである。
【0047】
(触媒物性の評価)
X線回析(X-ray diffraction:XRD)法により求めた白金粒径、及び公知のC0パルス法から求めたCO吸着量を図1に示す。本図からも明らかなように、前記比較例及び各実施例は、焼成工程における熱処理条件が同じであるため、白金の粒径は、ニオブ添加量とは無関係にほぼ一定である(図1;丸プロット)。一方、CO吸着量(図1;は、白金に対する酸化ニオブの添加量がモル比で0.005(実施例1)〜0.05(実施例4)のときに高く、特に0.01(実施例2)〜0.02(実施例3)のときは最大値を示した。前述のように白金粒径には変化がないため、白金に対して前記モル比の範囲内にある酸化ニオブは、白金の表面性上に何らかの影響を及ぼしていると考えられる。モル比0.02を超えるあたりからCO吸着量が徐々に低下するのは、白金粒子表面が酸化ニオブによって被覆されるためと考えられる。
【0048】
なお、触媒成分である白金は、酸化ニオブと合金化せず白金として存在していることを確認した。白金に対する酸化ニオブのモル比が0.005(実施例1)〜0.05(実施例4)のときにXRDから求めたPt格子定数は、それぞれ3.930Å(実施例1)、3.929Å(実施例2)、3.930Å(実施例3)、3.934Å(実施例4)であった。ここで、Pt/Cの格子定数は、3.926±0.05Åの範囲にある。仮に白金と酸化ニオブが白金−ニオブ合金を形成していた場合には白金よりも格子定数が小さくなることが予想される。したがって、上記実施例における触媒は、いずれも白金であって、添加した酸化ニオブとは合金化していないことが明らかになった。
【0049】
(MEAによる燃料電池特性の評価)
比較例及び実施例1〜6によって得られた電極触媒について、MEA(電解質膜−電極接合体)評価により電圧性能を測定した。加湿条件は低加湿とした。この調整は、温度設定したバブラー内にガスを導入して水分吸収させることで行った。80℃に設定したバブラーを通過したときに対する相対湿度で約40%を低加湿条件とした。出力電圧は、1.0A/cm2における電圧を測定した値(出力点電圧)を測定した。
【0050】
結果を図2に示す。本発明者らは、特願2009−5969号において、酸化ニオブを白金に対するモル比で0.1(実施例9;本明細書実施例5に相当)、0.2(実施例10;本明細書実施例6に相当)、0.5(実施例11)及び1(実施例12)を添加した触媒(700℃、2時間)についてMEAによる燃料電池特性を検討した。その結果、酸化ニオブを添加していない比較例1に比べて、低加湿出力性能を向上できること示した。しかし、酸化ニオブを白金又は白金に対するモル比で0.005(実施例1:E1)〜0.05(実施例4:E4)の微小添加組成域で含有する燃料電池用電極触媒は、特願2009−5969号で確認した酸化ニオブ含有燃料電池用電極触媒の出力点電圧を大幅に上回ることが判明した。特に、実施例3(E3;酸化ニオブのモル比0.02)においては、実施例6(E6;酸化ニオブのモル比0.2)に対して130mV以上の性能向上が確認された。
【0051】
以上の結果から、白金又は白金合金中の白金に対して酸化ニオブを0.005〜0.05のモル比で添加することによって、低加湿条件下における燃料電池の出力性能を飛躍的に向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
C1:比較例
E1:実施例1
E2:実施例2
E3:実施例3
E4:実施例4
E5:実施例5
E6:実施例6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金及び酸化ニオブを含み、かつ酸化ニオブと白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005:1〜0.05:1である燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
白金又は白金合金が担体に担持されている、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
担体がカーボンである、請求項2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
白金又は白金合金と酸化ニオブが合金化されていない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
白金又は白金合金中の白金とのモル比が0.005〜0.05となるように酸化ニオブを白金又は白金合金を担持した担体に形成させて得られうる燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−14506(P2011−14506A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159999(P2009−159999)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】