説明

燃料電池用電極触媒

本発明は、微小な結晶粒径を有する白金粒子を高密度に担持した、燃料電池用白金触媒を提供することを目的とする。前記目的を解決するために、本発明は、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で熱処理するアンモニア処理工程;
アンモニア処理工程後のカーボン担体を、溶媒中に白金塩を溶解した溶液に混合し、形成された混合物中にて白金塩とカーボン担体とを接触させる白金塩接触工程;
該混合物から溶媒を除去しカーボン担体を回収する回収工程;および
回収されたカーボン担体を不活性ガス雰囲気下で熱処理する熱処理工程;
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性に優れた燃料電池用電極触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素および酸素を電気化学的に反応させて電力を得るため、発電に伴って生じる生成物は原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどないクリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)のように分類される。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性のイオン交換性固体高分子膜を電解質として使用する。具体的には、触媒層およびガス拡散層からなる一対の電極により固体高分子電解質膜を挟み込むように該電極を設け、一方の電極(燃料極:アノード)側に水素を含む燃料ガスを、もう一方の電極(空気極:カソード)側に酸素を含む酸化剤を供給し、起電力を得る。
【0005】
ここで、アノード側では下記の(1)式に示す酸化反応が、カソード側では下記の(2)式に示す還元反応が進行し、全体として(3)式に示す反応が進行して外部回路に起電力を供給する。
H2→2H++2e- (1)
(1/2)O2+2H++2e-→H2O (2)
H2+(1/2)O2→H2O (3)
【0006】
固体高分子型燃料電池は、(1)高いイオン伝導性を有する高分子電解質膜が開発されたこと、(2)高分子電解質膜と同種または異種のイオン交換樹脂(高分子電解質)で被覆した触媒担持カーボンを電極触媒層の構成材料として使用し、いわゆる触媒層内の反応サイトの3次元化が図られるようになったこと等によって、電池特性が飛躍的に向上した。このような高い電池特性に加えて、固体高分子型燃料電池は、作動温度が常温から100℃までの範囲であることから迅速な起動が可能であり、かつ出力密度が高いことから小型軽量化が容易であるという特徴を具備する。これらの特徴から、固体高分子型燃料電池は、電気自動車の動力電源および小型コージェネレーションシステムのような定置型システムの電源としての実用化が期待されている。
【0007】
前記のように、固体高分子型燃料電池に使用される電極は、触媒担持カーボン担体を含有する触媒層、およびこの触媒層に反応ガスを供給するとともに電子を集電するガス拡散層からなる。触媒層内には、担体であるカーボン粒子表面または粒子間に形成される微小細孔からなる空隙部が存在している。カーボン担体に白金等の貴金属触媒を担持する場合、触媒粒子の粒径はカーボン担体の比表面積および触媒金属の担持密度に大きく支配される。すなわち、空隙部の存在によりカーボン担体の比表面積が増大すると、同じ触媒担持量でもより微小な触媒粒子を高分散に担持することが可能となる。一方、低比表面積および/または高担持密度条件下では、触媒粒子の粒径は大きくなり、結果として活性点数が減少し、触媒活性の低下につながる。
【0008】
一方、前記触媒としては、通常、白金、白金合金等の貴金属触媒が使用されている。かかる貴金属は高価であり、その使用量は燃料電池の製造コストに直結する重要な要素とみなされている。
【0009】
白金担持カーボン担体は、通常、白金塩または白金錯体溶液にカーボンブラック等の担体を浸漬・分散させ、これを高温で熱処理することで製造されている。しかしながら、該方法では、高温熱処理時に白金がカーボン担体表面を移動し凝集(シンタリング)することで白金粒子が大きくなる現象が問題とされている。
【0010】
これに対して、導電性微粒子を乾燥雰囲気中に流動させ、この中に金属触媒を含む溶液または分散液を噴霧することによって、触媒担持導電性炭素粒子を得る方法(特許文献1)、白金錯体の水溶液中にカーボン粉末を分散させ、平衡化した後に還元剤を用いて白金錯体イオンをカーボン担体上にて還元し、金属白金の粒子として担持させる方法(特許文献2)、パラジウム溶液中でカーボンブラックを超音波処理した後、塩化白金、アンモニウムイオンを含み水酸化ナトリウムでpH:10以上に調整されためっき液に接触させ、ヒドラジン(還元剤)をめっき液に添加してカーボンブラックの粒子表面に白金を無電解めっき還元析出させる方法(特許文献3)など、種々の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003-242987号公報
【特許文献2】特開2004-335252号公報
【特許文献3】特開2006-346571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
白金塩溶液にカーボン担体を分散させた後に高温熱処理する方法は製造工程が単純なために、代替として開発されている他の製造法に比べて安定した品質の電極触媒を得られる利点を有する。しかしながら、前記のように、この方法では、シンタリングが発生することで白金粒子が大きくなる現象が知られている。この現象は、以下のメカニズム:カーボン担体表面の白金吸着部位の数が少ないと、白金塩または白金錯体が担体に保持される時点で担体表面に均一に分散・分布することができないため、熱処理時にそれぞれの吸着部位に白金が凝集することで、結果として白金粒子が大きく成長する;のように生じると考えられる。
【0013】
シンタリングが発生して白金粒子が大きくなると白金の反応表面積が減少し、十分な触媒活性が得られなくなり、電池電圧が低下するという問題が生じる。それ故本発明は、燃料電池に用いる電極触媒として、微小な白金粒子が担持されたカーボン担体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、本発明者らは、アンモニアガスで処理されたカーボン粉末上に微小な白金粒子が担持されることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、第一に、本発明は、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で熱処理するアンモニア処理工程;
アンモニア処理工程後のカーボン担体を、溶媒中に白金塩を溶解した溶液に混合し、形成された混合物中にて白金塩とカーボン担体とを接触させる白金塩接触工程;
該混合物から溶媒を除去しカーボン担体を回収する回収工程;および
回収されたカーボン担体を不活性ガス雰囲気下で熱処理する熱処理工程;
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法である。
【0016】
前記アンモニア処理工程は、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で600〜1000℃に10〜120分間保持する工程を含むことが好ましい。
前記白金塩接触工程は、前記混合物を超音波処理することを含むことが好ましい。
【0017】
前記熱処理工程は、回収工程で回収されたカーボン担体を不活性ガス雰囲気下で200〜800℃において10〜120分間処理する工程を含むことが好ましい。
前記白金塩は、白金(II)アセチルアセトネートであることが好ましい。
【0018】
第二に、本発明は、白金粒子が担持されたカーボン担体を含む燃料電池用電極触媒であって、該白金粒子が10〜60重量%の担持密度および1.0〜6.0 nmの平均粒径を有し、かつ該電極触媒が10000〜40000 cm2Pt/g触媒の1 g当たりの白金粒子の電気化学表面積を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例1)およびアンモニア処理を施さない白金担持カーボン粉末(比較例1)のX線回折(XRD)を示す。
【図2】図2は、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例2)およびアンモニア処理を施さない白金担持カーボン粉末(比較例2)を用いて作製した電極触媒により測定した、電流−電圧特性のターフェルプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.電極触媒
本発明の燃料電池用電極触媒は、白金粒子がカーボン担体に担持された構成を有する。
白金粒子の担持密度は、電極触媒の総重量に対するカーボン担体に担持された白金粒子の重量%で定義される。かかる担持密度は、電極触媒粉末から担持された白金を溶解し、溶解した白金の濃度分析をすることによって算出される。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金粒子の担持密度は10〜60重量%であることが好ましい。
【0021】
同一重量の白金を担持する場合、得られた白金粒子の粒径が小さいほど、電極の総表面積に対する白金粒子の表面積が増大する。それ故、白金粒子の平均粒径は小さいことが好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金粒子の平均粒径は1.0〜6.0 nmであることが好ましい。
【0022】
なお、白金粒子の粒径は、当業界で周知のXRD測定により算出される。すなわち、電極触媒のXRDを測定し、約40°に検出されるPt (111)に相当するピークの半値幅から算出することができる。
【0023】
電極触媒中のカーボン担体に担持された白金粒子の表面積は、電極触媒の単位重量あたりに存在しうる白金粒子の電気化学表面積で定義される。本発明の燃料電池用電極触媒において、1 gの電極触媒に対する白金粒子の電気化学表面積は10000〜40000 cm2Pt/g触媒であることが好ましい。
【0024】
なお、白金粒子の電気化学表面積は、電気化学的分析によって得られる。例えば、電極触媒中の白金粒子の電気化学表面積は、当業界で周知のCV測定で得られるH2脱離ピークから算出される。
【0025】
本発明の電極触媒は、白金の電気化学表面積が大きく、かつ優れた触媒活性を有することから、燃料電池に使用すると白金使用量を削減しながらも高い発電効率を示す燃料電池を得ることが可能となる。
【0026】
2.電極触媒の製造方法
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で熱処理する工程(アンモニア処理工程);アンモニア処理工程後のカーボン担体を、溶媒中に白金(Pt)塩を溶解した溶液に混合し、形成された混合物中にて白金塩とカーボン担体とを接触させる工程(白金塩接触工程);該混合物から溶媒を除去しカーボン担体を回収する工程(回収工程);および回収されたカーボン担体を不活性ガス雰囲気下で熱処理する工程(熱処理工程);を含む。
【0027】
前記アンモニア処理工程において、カーボン担体にアンモニア由来の官能基が導入されると考えられる。この官能基は、その後行われる白金塩接触工程において、白金塩に対して化学的吸着作用を生じ、該白金塩をカーボン担体表面に対して強く吸着させると推測される。
【0028】
カーボン担体に保持された白金塩は、熱処理工程において金属白金まで熱還元される。この工程において、隣接する白金塩同士が担体表面を移動して凝集するシンタリングが発生すると、結果として得られる白金粒子の粒径は大きくなる。しかしながら、本発明の製造方法においては、アンモニア処理工程において導入された官能基を含むカーボン担体表面の化学的性質に起因する吸着作用により、白金塩がカーボン担体に強く吸着されていると推測される。それ故、熱処理工程におけるシンタリングの発生が抑制され、微小粒径の白金粒子が得られる。
【0029】
以上のように、本発明の製造方法によれば、安価なアンモニアガス雰囲気下でカーボン担体を高温熱処理することにより、微小粒径の白金粒子を担持した電極触媒を製造することが可能である。
【0030】
2.1.アンモニア処理工程
前記のように、アンモニア処理工程は、白金塩を吸着することができる官能基をカーボン担体表面に導入することを目的とする。本工程は、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で熱処理することにより実施される。
【0031】
本発明の製造方法において使用されるカーボン担体は、熱処理によって析出した白金粒子を担持できるとともに、それ自体が導電性を具備するものであれば特に限定されるものではない。燃料電池用電極触媒に慣用されている様々な材料を使用することができる。白金粒子を担持する目的のために、例えばカーボンブラックのような、導電性を具備し、かつ比表面積が大きい担体材料が好ましい。特定の実施形態において、比表面積は200〜2,000 cm2/gであることが好ましい。比表面積はN2吸着(通称BET法)によって測定することができる。好適な担体材料は、限定するものではないが、例えばKetjen EC(登録商標:Ketjen Black International社)、Ketjen 600JD(登録商標:Ketjen Black International社)またはBlack Pearls(登録商標:Cabot社)のようなカーボン粉末である。
【0032】
本発明の製造方法において使用されるアンモニアガスは、白金塩に対するカーボン担体の吸着力を高める効果を付与することを目的として選択される。吸着力を高める効果としては、例えば、カーボン担体表面がアンモニアガスによって化学的に修飾され、該ガス由来の官能基がカーボン担体表面に導入されることが挙げられる。本発明の製造方法において、アンモニアガスの組成は20〜100%であることが好ましい。なお、アンモニアガスの組成が100%未満の場合にアンモニアガスと混合される他の種類のガスとしては、下記の不活性ガスが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、アンモニア処理工程は、カーボン担体をアンモニアガス雰囲気下で熱処理することにより実施される。熱処理は、前記のようにガス由来の官能基をカーボン担体に導入するための処理であって、白金粒子の微小化を達成するためには高温熱処理することが好ましい。本工程において、熱処理の温度は600〜1000℃であることが好ましい。また、熱処理の時間は10〜120分間であることが好ましい。
【0034】
アンモニア処理工程において、高温熱処理の前に昇温工程および/または高温熱処理の後に冷却工程を行うことが好ましい。前記昇温工程および/または冷却工程は、例えば窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0035】
特定の実施形態において、前記昇温工程は、100〜800℃/時の昇温速度で熱処理温度まで昇温することが好ましい。特定の実施形態において、前記昇温工程は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。また、前記冷却工程は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0036】
前記アンモニア処理工程は、ガスの流量制御および昇温制御が可能な熱処理炉内で連続的に行うことが好ましい。かかる装置は当業界で慣用されており、これを用いることによって所望の温度勾配およびガス雰囲気条件で前記昇温および/または冷却工程を実施することが可能となる。
【0037】
2.2.白金塩接触工程
白金塩接触工程は、アンモニア処理を施したカーボン担体に対して、白金塩を強く吸着させることを目的とする。本工程は、アンモニア処理工程後のカーボン担体を、溶媒中に白金塩を溶解した溶液に混合し、形成された混合物中にて白金塩とカーボン担体とを接触させることにより実施される。
【0038】
本発明の製造方法において使用される白金塩は、本工程において使用する溶媒に可溶であり、かつ熱処理工程においてカーボン担体表面に微小な白金粒子を析出できる物質であれば特に限定されるものではない。特定の実施形態において、好適な白金塩は、白金(II)アセチルアセトネート(Pt(C5H7O2)2)である。
【0039】
本発明の製造方法において使用される溶媒は、前記白金塩を溶解することができる物質であれば特に限定されるものではない。使用される白金塩に対応して、前記の意図にかなう様々な溶媒を使用することが可能である。除去が容易なことから、揮発性の高い有機溶媒を使用することが好ましい。特定の実施形態において、好適な溶媒は、テトラヒドロフランまたはエタノールである。
【0040】
本発明の製造方法において形成される混合物は、前記溶媒中に溶解した白金塩および分散したカーボン担体を含む。混合物中の白金塩およびカーボン担体の組成比は、最終的にカーボン担体に担持される白金の担持密度を規定する要因となりうる。それ故、所望の白金担持密度に対応して様々な組成を設定することが可能である。特定の実施形態において、カーボン担体に対する白金塩の重量組成は、10〜60重量%であることが好ましい。
【0041】
白金塩接触工程は、混合物中でカーボン担体を分散させる工程を含む。不溶態で存在するカーボン担体を分散させることにより、白金塩をカーボン担体表面に接触させることができる。分散させるためには、例えば、超音波処理、撹拌子による撹拌または旋回振盪もしくは往復振盪装置による撹拌のような、均一な分散を可能にする当業界で慣用されるあらゆる方法を使用することができる。好適な方法は超音波処理である。特定の実施形態において、本工程の処理時間は10〜120分間であることが好ましい。
【0042】
2.3.回収工程
回収工程は、前記カーボン担体および白金塩の混合物から溶媒を除去することにより、白金塩を表面に保持したカーボン担体を回収する工程である。回収工程において行われる溶媒の除去は、溶媒が全く存在しないか、またはその後行われる熱処理工程において実質的な影響を及ぼさない含有量で存在する状態まで溶媒を除去することを含む。
【0043】
溶媒の除去には、例えば、蒸発除去、濾過または減圧乾燥のような、当業界で慣用されるあらゆる方法を使用することができる。好適な方法は蒸発除去である。ロータリーエバポレータを用いる蒸発除去がより好ましい。
【0044】
2.4.熱処理工程
熱処理工程は、カーボン担体の表面に吸着保持された白金塩を熱還元して金属白金の粒子を得る工程である。
【0045】
本発明の製造方法において使用される不活性ガスは、該ガスに含まれる成分が電極触媒材料と反応しないか、または電極触媒の性能に対して実質的な影響を及ぼす反応をしない物質であれば特に限定されるものではない。当業界で慣用されるあらゆる不活性ガスを使用することができる。好適なガスは窒素、アルゴンまたはヘリウムガスである。
【0046】
本発明の製造方法において、白金粒子のシンタリングを抑制するためには、カーボン担体表面において白金塩に対する吸着作用を維持しつつ、白金の熱還元が進行する温度で熱処理工程を行うことが好ましい。本工程において、熱処理の温度は200〜800℃であることが好ましい。また、熱処理の時間は10〜120分間であることが好ましい。かかる工程は、アンモニア処理工程と同様、ガスの流量制御および昇温制御が可能な熱処理炉内で実施されることが好ましい。
【0047】
以上説明したように、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、アンモニア処理を施したカーボン粉末と白金を熱処理することで、微小な白金粒子をカーボン表面に高分散に担持させることが可能となる。当該製造方法は、安価なアンモニアガス雰囲気下でカーボン担体を高温熱処理することにより、前記の好ましい効果を得ることが可能である。本発明の製造方法によって得られた電極触媒は、白金の電気化学表面積が大きく、かつ優れた触媒活性を有することから、白金使用量を削減しながらも高い発電効率を示す燃料電池を得ることが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
(アンモニア処理工程)
担持カーボン粉末としてKetjen EC(登録商標:Ketjen Black International社)(比表面積:800 m2/g)を用いた。0.5 gのカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度800℃/時で800℃まで昇温した。炉内温度が800℃に到達した後、アンモニア(NH3)ガスを0.2 L/時の流量で窒素ガスに加えて、NH3/N2比が50%となるようにした。前記カーボン粉末を、アンモニアガス雰囲気下、800℃で30分間保持することでアンモニア処理を行った。アンモニア処理終了後、導入ガスを再び窒素ガスに切り替え、0.2 L/時の流量で炉内に導入し、カーボン粉末を室温まで冷却した。
【0050】
(白金塩接触工程、回収工程および熱処理工程)
0.06 gの白金(II)アセチルアセトネート(Pt(C5H7O2)2)を50 mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。0.1 gのアンモニア処理カーボン粉末(Ketjen EC)を、前記白金(II)アセチルアセトネートTHF溶液に混合した(20重量%の白金担持密度に相当する)。この混合液を30分間超音波処理することにより、該混合液を均一な分散液とした。その後、ロータリーエバポレータを用いてTHFを蒸発除去し、カーボン粉末を回収した。回収したカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度400℃/時で400℃まで昇温した。炉内温度が400℃に到達した後、窒素ガス雰囲気下、400℃で30分間保持することで熱処理を行った。熱処理終了後、白金担持カーボン粉末(Ketjen EC)を室温まで冷却した。
【0051】
[実施例2]
(アンモニア処理工程)
担持カーボン粉末としてBlack Pearls(登録商標:Cabot社)(比表面積:1500 m2/g)を用いた。0.5 gのカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度800℃/時で800℃まで昇温した。炉内温度が800℃に到達した後、アンモニア(NH3)ガスを0.2 L/時の流量で窒素ガスに加えて、NH3/N2比が50%となるようにした。前記カーボン粉末を、アンモニアガス雰囲気下、800℃で30分間保持することでアンモニア処理を行った。アンモニア処理終了後、導入ガスを再び窒素ガスに切り替え、0.2 L/時の流量で炉内に導入し、カーボン粉末を室温まで冷却した。
【0052】
(白金塩接触工程、回収工程および熱処理工程)
0.03 gの白金(II)アセチルアセトネート(Pt(C5H7O2)2)を50 mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。0.1 gのアンモニア処理カーボン粉末(Black Pearls)を、前記白金(II)アセチルアセトネートTHF溶液に混合した(11重量%の白金担持密度に相当する)。この混合液を30分間超音波処理することにより、該混合液を均一な分散液とした。その後、ロータリーエバポレータを用いてTHFを蒸発除去し、カーボン粉末を回収した。回収したカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度400℃/時で400℃まで昇温した。炉内温度が400℃に到達した後、窒素ガス雰囲気下、400℃で30分間保持することで熱処理を行った。熱処理終了後、白金担持カーボン粉末(Black Pearls)を室温まで冷却した。
【0053】
[比較例1]
(白金塩接触工程、回収工程および熱処理工程)
0.06 gの白金(II)アセチルアセトネート(Pt(C5H7O2)2)を50 mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。0.1 gのカーボン粉末(Ketjen EC)を、前記白金(II)アセチルアセトネートTHF溶液に混合した(20重量%の白金担持密度に相当する)。この混合液を30分間超音波処理することにより、該混合液を均一な分散液とした。その後、ロータリーエバポレータを用いてTHFを蒸発除去し、カーボン粉末を回収した。回収したカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度400℃/時で400℃まで昇温した。炉内温度が400℃に到達した後、窒素ガス雰囲気下、400℃で30分間保持することで熱処理を行った。熱処理終了後、白金担持カーボン粉末(Ketjen EC)を室温まで冷却した。
【0054】
[比較例2]
(白金塩接触工程、回収工程および熱処理工程)
0.03 gの白金(II)アセチルアセトネート(Pt(C5H7O2)2)を50 mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。0.1 gのカーボン粉末(Black Pearls)を、前記白金(II)アセチルアセトネートTHF溶液に混合した(11重量%の白金担持密度に相当する)。この混合液を30分間超音波処理することにより、該混合液を均一な分散液とした。その後、ロータリーエバポレータを用いてTHFを蒸発除去し、カーボン粉末を回収した。回収したカーボン粉末を石英ボートに入れ、横型の熱処理炉内に静置した。窒素ガスを0.2 L/時の流量で炉内に導入しながら、昇温速度400℃/時で400℃まで昇温した。炉内温度が400℃に到達した後、窒素ガス雰囲気下、400℃で30分間保持することで熱処理を行った。熱処理終了後、白金担持カーボン粉末(Black Pearls)を室温まで冷却した。
【0055】
[白金粒径の評価]
前記実施例1および比較例1によって得られた白金担持カーボン粉末について、担持した白金粒子の粒径を測定した。白金粒子の粒径測定は、それぞれのカーボン粉末のXRDを測定し、得られたXRDプロファイルにおいて、約40°に検出されるPt (111)に相当するピークの半値幅(FWHM)から以下のシェラーの公式を用いて算出した。
【0056】
【数1】

【0057】
XRD測定は、2θ=20°〜40°の範囲を0.0025°間隔で実施した(図1)。実施例1の半値幅は3.7065であり、比較例1の半値幅は2.088であった。同一条件において、Black Pearlsに担持した白金の粒径(実施例2)はXRD測定には小さすぎたため、XRD測定からはその粒径は決定できなかった。算出されたKetjen EC上の白金粒子の粒径を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果より、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例1)は、アンモニア処理を施さないカーボン粉末(比較例1)に比べて約56%粒径が小さい白金粒子を担持していることが示された。実施例1および比較例1はともに20重量%の白金担持密度であるので、実施例1のカーボン担体は、比較例1のカーボン担体に比べてより微小粒径でかつより多数の白金粒子を表面に分散担持していると推測される。すなわち、カーボン担体をアンモニア処理することにより、シンタリングの発生を抑止しながら、微小粒径の白金粒子を高分散に担持することが可能となる。
【0060】
[触媒活性の評価]
サイクリックボルタンメトリー(CV)及び回転ディスク電極(RDE)測定によって、試料の触媒活性を特徴付けした。いずれの測定においても同一の、通常の一体型電気化学ガラスセルを用いた。硫酸水銀電極を参照電極として、白金線を対電極として用いた。触媒粉末を、PTFEで囲われたガラス状カーボン(GC)ロッド(直径5 mm)からなる作用電極上に付着させた。
【0061】
電極を以下の手順で調製した。1 mgの触媒試料を、超音波照射しながら200 μlの0.2%ナフィオン(登録商標)溶液(Aldrich)中に懸濁させた。次いで、正確な量のこの懸濁液をGC電極上に移し、空気中、60℃で乾燥させた。最終的な電極負荷量は、25μgの触媒である。
【0062】
上記のようにして調製した電極を、サイクリックボルタモグラム(CV)曲線が定常状態の特徴を示すまで(約20スキャン)、1.5〜0 V (NHE)(N2でパージされた0.5 M H2SO4電解質液)の電位範囲で回転させた。続けて、回転ディスク電極(RDE)測定(O2で飽和された0.5 M H2SO4電解質液中、室温)に電極を使用した。
結果を図2に示す。
【0063】
図2のターフェルプロットから、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例2)は、アンモニア処理を施さないカーボン粉末(比較例2)に比べて触媒活性が向上し、電流上昇に伴う電圧降下も緩やかであることが示された。
【0064】
白金粒子の電気化学的な表面積は、CV測定で得られたH2脱離ピークから算出した。H2脱離ピークが大きいほど、電気化学表面積が大きいことを表している。触媒の重量に対する電気化学的に評価可能な白金表面積を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例1および2)は、アンモニア処理を施さないカーボン粉末(比較例1および2)に比べて電極触媒1 g当たりの白金の電気化学表面積が向上した。前記の傾向は、Ketjen ECおよびBlack Pearlsいずれのカーボン粉末を用いても確認された。このような良好な特性は、アンモニア処理によって生じるカーボン表面の改質、特にアンモニア由来の官能基の導入により、白金塩に対する化学的吸着作用が向上したことに起因すると考えられる。すなわち、白金塩接触工程において、白金塩をカーボン表面に均一に吸着させることにより、その後の熱処理工程において、隣接する白金同士のシンタリングを抑制する効果を奏すると推測される。かかる効果により、カーボン担体表面に担持された白金粒子の粒径を小さくすることが可能となり(表1参照)、その一方で白金の担持密度は低下せず、白金粒子はカーボン担体表面に高分散に担持される。したがって、アンモニア処理を施した白金担持カーボン粉末(実施例1および2)は、アンモニア処理を施さないカーボン粉末(比較例1および2)に比べて、1 g当たりの白金粒子の電気化学表面積として定義される白金粒子の表面積が向上したと推測される。また、この電気化学表面積の向上が、触媒活性の向上の一因でもあると考えられる(図2参照)。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、燃料電池に用いる電極触媒として、微小な白金粒子が担持されたカーボン担体およびその製造方法を提供することが可能となる。
【0068】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で熱処理するアンモニア処理工程;
アンモニア処理工程後のカーボン担体を、溶媒中に白金塩を溶解した溶液に混合し、形成された混合物中にて白金塩とカーボン担体とを接触させる白金塩接触工程;
該混合物から溶媒を除去しカーボン担体を回収する回収工程;および
回収されたカーボン担体を不活性ガス雰囲気下で熱処理する熱処理工程;
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
アンモニア処理工程が、カーボン担体を、アンモニアガス雰囲気下で600〜1000℃に10〜120分間保持する工程を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
白金塩接触工程が、前記混合物を超音波処理することを含む、請求項1または2の方法。
【請求項4】
熱処理工程が、回収工程で回収されたカーボン担体を、不活性ガス雰囲気下で200〜800℃において10〜120分間処理する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記白金塩が白金(II)アセチルアセトネートである、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
白金粒子が担持されたカーボン担体を含む燃料電池用電極触媒であって、該白金粒子が10〜60重量%の担持密度および1.0〜6.0 nmの平均粒径を有し、かつ該電極触媒が10000〜40000 cm2Pt/g触媒の1 g当たりの白金粒子の電気化学表面積を有することを特徴とする、前記燃料電池用電極触媒。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−529722(P2012−529722A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551732(P2011−551732)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【国際出願番号】PCT/JP2009/060981
【国際公開番号】WO2010/143311
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591157202)ヘルムホルツ−ツェントルム ベルリン フュア マテリアリエン ウント エナギー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz−Zentrum Berlin fuer Materialien und Energie GmbH
【住所又は居所原語表記】Hahn−Meitner−Platz 1,D−14109 Berlin,Germany
【Fターム(参考)】