説明

燃料電池装置、および燃料電池スタックの保持機構

【課題】燃料電池スタック全体としての耐久性を損なうことなく、燃料電池スタックの耐振動性を高める。
【解決手段】電解質膜および該電解質膜上に形成された一対の電極を含む発電体を複数積層して成る燃料電池スタック20を備える燃料電池装置10であって、燃料電池スタック20に固定されて燃料電池スタック20を支持する第1ないし第3の支持部を備え、第1および第2の支持部は、燃料電池スタック20の積層方向に対する位置がほぼ同一となる位置において、燃料電池スタック20に固定されており、第1および第2の支持部が固定された位置と、第3の支持部が固定された位置との、積層方向における距離は、積層された複数の発電体全体の積層方向における両端部間の距離よりも短い燃料電池装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池装置、および、燃料電池スタックの保持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般に、単セルを複数積層したスタック構造を有すると共に、スタック構造の両端部には剛性の高い部材であるエンドプレートを備え、エンドプレート間に締結力を加えることによって、スタック構造を保持している。このような燃料電池を所望の場所に設置する際には、例えば、エンドプレートに設けた設置用の取り付け部材により、所望の場所への固定が行なわれる。このような燃料電池を、例えば車両に搭載して車両の駆動用電源として用いる場合には、車両の振動に耐える耐久性が必要になる。そのため、燃料電池スタックの耐振動性を高める構成として、上記エンドプレートに設けた設置用の取り付け部材に加えて、さらに、積層方向の中間部分に、支持部材を追加して設ける構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このように、燃料電池スタックの両端部に加えて、燃料電池スタックの中ほどに支持部材を追加して設けることにより、燃料電池スタックの耐振動性の向上を図っている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−93454
【特許文献2】特開平5−283097
【特許文献3】特開平6−013103
【特許文献4】特開2004−164969
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池スタックを支持しつつ固定する取り付け部材を設ける箇所を、燃料電池スタックの両端に加えて、さらに積層方向の中間部分に追加すると、燃料電池スタックを支持する取り付け部材における変位が燃料電池スタックに入力されることになる。具体的には、例えば燃料電池を駆動用電源として車載する場合には、燃料電池スタックが固定される車体における撓みやねじれが取り付け部材を介して燃料電池スタックに伝わり、燃料電池スタック内で応力を発生することになる。そのため、取り付け部材に支持される支持部位を増やして耐振動性の向上を図ったにも拘わらず、却って、燃料電池スタックの耐久性が不十分となる可能性がある。また、取り付け部材を設ける箇所の増加は、部品点数の増加および製造工程の煩雑化を伴うため、採用し難い場合がある。
【0005】
なお、燃料電池スタックにおける耐振動性および耐久性を向上させる要求は、車両のような移動体に搭載する場合に限るものではなく、例えば定置型の燃料電池システムにおいても同様に求められる。定置型の燃料電池システムでは、例えば地震発生時における耐振動性が重要となる。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池スタック全体としての耐久性を損なうことなく、燃料電池スタックの耐振動性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0008】
[適用例1]
電解質膜および該電解質膜上に形成された一対の電極を含む発電体を複数積層して成る燃料電池スタックを備える燃料電池装置であって、
前記燃料電池スタックに固定されて前記燃料電池スタックを支持する第1ないし第3の支持部を備え、
前記第1および第2の支持部は、前記燃料電池スタックの積層方向に対する位置がほぼ同一となる位置において、前記燃料電池スタックに固定されており、
前記第1および第2の支持部が固定された位置と、前記第3の支持部が固定された位置との、前記積層方向における距離は、積層された複数の前記発電体全体の前記積層方向における両端部間の距離よりも短い
燃料電池装置。
【0009】
適用例1に記載の燃料電池装置では、第1および第2の支持部が固定された位置と、第3の支持部が固定された位置との、積層方向における距離は、積層された複数の発電体全体の積層方向における両端部の長さよりも短くなっているため、燃料電池スタックの固有振動数を高めることができる。そのため、燃料電池装置が固定される場所が振動する場合であっても、燃料電池スタックの共振を抑え、燃料電池スタックの耐振動性を高めることができる。また、燃料電池スタックを3つの支持部によって3点で固定するため、燃料電池装置の取り付け場所に変位が生じても、燃料電池スタックの取り付け面の歪みが抑えられ、取り付け面の歪みに起因する燃料電池装置の耐久性の低下を抑制することができる。また、支持部を3つとすることにより、燃料電池装置の部品点数を抑制することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池装置であって、前記燃料電池スタックは、該燃料電池スタックの両端に配置された一対のエンドプレートと、複数の前記発電体と共に前記燃料電池スタックの内部に積層された1以上の中間プレートと、を備え、前記エンドプレートと前記中間プレートとから選択されると共に少なくとも1枚の中間プレートを含む2枚のプレートであって、前記燃料電池スタック全体を構成する発電体の数よりも少ない数の複数の発電体が間に配置された2枚のプレートの内、一方のプレートである第1のプレートにおいて前記第1および第2の支持部が固定されており、前記2枚のプレートの内の他方のプレートである第2のプレートにおいて前記第3の支持部が固定されている燃料電池装置。適用例2に記載の燃料電池装置によれば、一対のエンドプレートと中間プレートとから選択される少なくとも1枚の中間プレートを含む2枚のプレートの内、一方のプレートにおいて2つの支持部が固定されており、他方のプレートにおいて1つの支持部が固定されているため、エンドプレートのそれぞれに支持部を設けて燃料電池スタックを支持する場合に比べて、積層方向における支持部材間の距離を短くすることができる。これにより、エンドプレートのそれぞれに支持部を設けて燃料電池スタックを支持する場合に比べて、燃料電池スタックの固有振動数を大きくすることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池装置であって、前記燃料電池スタックは、前記燃料電池スタック全体を構成する発電体の数よりも少ない数の複数の発電体が間に配置された2枚の中間プレートを備え、前記2枚の中間プレートの一方が、前記第1のプレートであり、前記2枚の中間プレートのうちの他方が、前記第2のプレートである燃料電池装置。適用例3に記載の燃料電池装置によれば、燃料電池スタックの固有振動数は、2枚の中間プレート間の積層方向の距離に応じた値となるため、エンドプレートのそれぞれに支持部を設けて燃料電池スタックを支持する場合に比べて、燃料電池スタックの固有振動数を大きくすることができる。
【0012】
[適用例4]
適用例2記載の燃料電池装置であって、前記燃料電池スタックは、1枚の中間プレートを備え、前記一対のエンドプレートの一方と前記中間プレートとの内の、一方が前記第1のプレートであり他方が前記第2のプレートである燃料電池装置。適用例4に記載の燃料電池装置によれば、燃料電池スタックの固有振動数は、支持部が固定された中間プレートと、支持部が取り付けられたエンドプレートとの間の積層方向の距離に応じた値となるため、エンドプレートのそれぞれに支持部を設けて燃料電池スタックを支持する場合に比べて、燃料電池スタックの固有振動数を大きくすることができる。
【0013】
[適用例5]
適用例1ないし4いずれか記載の燃料電池装置であって、前記燃料電池装置は、車両の駆動用電源として車両に搭載されており、前記第1ないし第3の支持部で固定された前記燃料電池スタックにおける固有振動数は、100Hz以上である燃料電池装置。適用例5に記載の燃料電池装置によれば、燃料電池スタックの固有振動数を100Hz以上とすることにより、車両の走行時に燃料電池スタックが共振することを抑制する効果を高めることができる。
【0014】
[適用例6]
適用例1ないし4いずれか記載の燃料電池装置であって、前記燃料電池装置は、定置型電源であり、前記第1ないし第3の支持部で固定された前記燃料電池スタックにおける固有振動数は、10Hz以上である燃料電池装置。適用例6に記載の燃料電池装置によれば、燃料電池スタックの固有振動数を10Hz以上とすることにより、地震発生時に燃料電池スタックが共振することを抑制する効果を高めることができる。
【0015】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池スタックの保持機構や、本発明の燃料電池装置を搭載する移動体などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の好適な一実施例である燃料電池装置10の外観を模式的に表わす説明図である。本実施例の燃料電池装置10は、車両に搭載されて、車両の駆動用電源として用いられる。燃料電池装置10は、燃料電池スタック20と、燃料電池スタック20を車体に対して固定するマウント部25とを備えている。図1では、燃料電池装置10を、燃料電池スタック20の一方の側面から見た様子を、平面的に表わしている。本実施例の燃料電池装置10は、マウント部25による燃料電池スタック20の支持に係る構成に特徴があるが、最初に、燃料電池スタック20の構成について説明する。なお、図1では、矢印によって上下方向を示しており、以下の説明では、燃料電池スタック20あるいは燃料電池スタック20を構成する各部材の面において、上方の面を上面と呼び、下方の面を底面と呼ぶ。
【0017】
A1.燃料電池スタック20の構成:
燃料電池スタック20は、複数の単セル50を積層することによって構成されている。図2は、単セル50の構成の概略を表わす分解斜視図である。各単セル50は、電解質膜上に電極であるアノードおよびカソードを形成して成るMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極接合体)30と、電極上に配置されたガス拡散層31(図1では、MEA30の一方の面上に配置されたガス拡散層31のみを示す)と、ガス拡散層31上に配置されたガスセパレータ32,33と、を備えている。
【0018】
MEA30を構成する電解質膜は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されるプロトン伝導性のイオン交換膜とすることができる。ガス拡散層31は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。ガスセパレータ32,33は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成することができる。
【0019】
ガスセパレータ32,33は、MEA30との間に形成される反応ガス(水素を含有する燃料ガスあるいは酸素を含有する酸化ガス)の流路の壁面を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。表面に溝40が形成されたガスセパレータ32とMEA30との間には、酸化ガスの流路であるセル内酸化ガス流路が形成される。また、表面に溝41が形成されたガスセパレータ33とMEA30との間には、燃料ガスの流路であるセル内燃料ガス流路が形成される。単セル50を組み立てる際には、MEA30の外周にシール部(図示せず)を配置して、単セル50内のガス流路のシール性を確保しつつ、ガスセパレータ32、33間を接合する。
【0020】
ここで、ガスセパレータ32,33において、セル内ガス流路を形成するための溝40,41が設けられた面の裏面には、凹部42が形成されている(ただし、ガスセパレータ32の裏面に形成された凹部42は図2では図示せず)。ガスセパレータ32,33のそれぞれに形成された凹部42は、互いに対応する形状を有しており、複数の単セル50を積層して燃料電池を組み立てたときには、隣り合う一方の単セル50のガスセパレータ32に形成された凹部42と、隣り合う他方の単セル50のガスセパレータ33に形成された凹部42とが、丁度重なり合って、セル間冷媒流路を形成する。
【0021】
ガスセパレータ32,33は、その外周近くの互いに対応する位置に、複数の孔部である孔部34〜39を備えている。単セル50を複数積層して燃料電池を組み立てると、各セパレータの対応する位置に設けられた孔部は、互いに重なり合って、ガスセパレータの積層方向に燃料電池内部を貫通する流路を形成する。すなわち、孔部34〜37は、セル内ガス流路に対して反応ガスを供給・排出する給排ガス流路であるガスマニホールドを形成する。また、孔部38,39は、セル間冷媒流路に対して冷媒を供給・排出する冷媒マニホールドを形成する。
【0022】
また、燃料電池スタック20は、図1に示すように、単セル50の積層構造内において、単セル50間に配置されて単セル50と共に積層される板状部材である第1中間プレート60および第2中間プレート61を備えている。図3は、中間プレート60,61の構成の概略を表わす平面図である。中間プレート60,61には、ガスセパレータ32,33と同様の位置に、同様の形状の孔部34〜39が形成されている。中間プレート60,61に形成されたこのような孔部34〜39は、中間プレート60,61が燃料電池スタック20内に組み込まれたときには、ガスセパレータ32,33に形成された孔部34〜39と共に、既述した各マニホールドを形成する。なお、中間プレート60,61は、導電性材料、例えばステンレス鋼などの金属材料により形成することができ、ガスセパレータ32,33よりも剛性の高い部材により形成することが望ましい。
【0023】
さらに、燃料電池スタック20は、図1に示すように、上記のような単セル50の積層構造の外側に、出力端子を備える集電板(ターミナル)51,52と、絶縁板(インシュレータ)53,54と、エンドプレート55,56と、を順次積層することによって構成されている。集電板51,52のいずれかと、これに対応する絶縁板53,54のいずれか及びエンドプレート55,56のいずれかにおいては、ガスセパレータ32,33に形成された孔部34〜39のそれぞれに対応する位置に、これら孔部によって形成されるマニホールドと連通する開口部が設けられている。これらの開口部に対して、各流体(燃料ガス、酸化ガス、冷媒)の供給装置あるいは排出装置が接続される(図示せず)。
【0024】
また、燃料電池スタック20は、燃料電池スタック20の積層方向に延出して、燃料電池スタック20の積層方向長さとほぼ同一の長さを有するテンションプレート58をさらに備えている。このテンションプレート58は、燃料電池スタック20の両端部に設けられたエンドプレート55,56に対してボルト59によって結合されることにより、燃料電池スタック20を構成する各積層部材を、押圧力が加えられた状態で締結している。
【0025】
燃料電池スタック20を構成する各部材の形状等については種々の変形が可能であり、燃料電池スタック20は、複数の板状部材を積層することによって、電解質膜および電解質膜上に形成された一対の電極を含む発電体を複数積層した構造を有していれば良い。ここで、燃料電池スタック20における単セル50の積層数は、燃料電池スタック20に要求される出力に応じて任意に設定可能である。また、本実施例の燃料電池スタック20は、電解質膜として高分子電解質膜を備える固体高分子型燃料電池としたが、固体酸化物型燃料電池等、他種の燃料電池としても良い。
【0026】
A2.燃料電池スタック20の保持機構:
本実施例の燃料電池装置10は、上記のような燃料電池スタック20を底面側で支持しつつ車体(本実施例ではサイドフレーム15)に固定する支持部としての3つのマウント部25を備える保持機構を有している。3つのマウント部25の内、2つのマウント部25は、第1中間プレート60に取り付けられており、残りの1つのマウント部25は、第2中間プレート61に取り付けられている。図4は、燃料電池装置10を、上方(上面側)から見ることによってマウント部25の平面的な配置を表わす説明図である。図4では、底面側に配置されるマウント部25の位置を、破線で表わした丸によって示している。第1中間プレート60では、その底面の両端部近傍に、2つのマウント部25が設けられている。また、第2中間プレート61では、その底面の中央部に、マウント部25が設けられている。
【0027】
図5は、マウント部25の構成を表わす説明図である。図5では、第1中間プレートに取り付けられた一方のマウント部25について、図4における5−5断面の様子を示しているが、他の2つのマウント部25も同様の構成を備えている。
【0028】
マウント部25は、第1マウント部材70と、第2マウント部材71と、第3マウント部材72と、第4マウント部材73と、中間プレート固定ボルト74と、マウント固定ボルト75とを備えている。本実施例では、第1マウント部材70および第3マウント部材72を金属材料で構成し、第2マウント部材71および第4マウント部材73を絶縁弾性部材として構成しているが、異なる構成としても良い。例えば、すべてを絶縁弾性部材によって構成しても良く、燃料電池スタック20と車体とを絶縁しつつ、燃料電池スタック20を支持できればよい。第1マウント部材70ないし第4マウント部材73は順次積層され、第1マウント部材70は第1中間プレート60の底面に当接し、第4マウント部材73はサイドフレーム15に当接するように配置される。
【0029】
第1マウント部材70ないし第3マウント部材72は、積層されたときに重なって連通する中空部をそれぞれ有している。中間プレート固定ボルト74は、この中空部分を貫通し、先端部が第1中間プレート60に螺合される。これにより、第1マウント部材70ないし第3マウント部材72は、第1中間プレート60に固定される。同様に、第3マウント部材72および第4マウント部材73は、積層されたときに重なって連通する中空部をそれぞれ有している。マウント固定ボルト75は、サイドフレーム15を貫通して配置されると共に、さらに上記中空部分を貫通して、先端部が第3マウント部材72上においてナットにより締結されている。これにより、第3マウント部材72および第4マウント部材73は、サイドフレーム15に固定される。その結果、燃料電池スタック20は、第1中間プレート60において、マウント部25を介してサイドフレーム15に固定される。
【0030】
以上のように構成された本実施例の燃料電池装置10によれば、燃料電池スタック20を、エンドプレート55,56よりも積層方向内側に配置した中間プレート60,61において支持しているため、燃料電池スタック20の固有振動数を高めることができる。図6は、燃料電池スタックがマウント部によって支持される様子を、図1と同様の方向から見た様子として模式的に表わす説明図である。図6(A)は、本実施例の燃料電池装置10を表わし、図6(B)は、中間プレート60,61を備えることなく、エンドプレート55,56において燃料電池スタックを支持する燃料電池装置を表わす。このような燃料電池装置が振動するときの様子を解析する際には、一般に燃料電池装置においては積層方向が長手方向であるため、積層方向に離間して設けられたマウント部間の、積層方向における距離を弦の長さとして、両端を支持された両持ち梁のモデルに簡略化して考えることが可能である。図6に示すように、燃料電池スタック20の中央部よりの位置に2枚の中間プレート60,61を設けて燃料電池スタック20を支持することで、エンドプレート55,56において燃料電池スタック20を支持する場合よりも、両持ち梁の弦の長さをより短くすることができる。ここで、両持ち梁の固有振動数ωは、以下の(1)式で表わされることが知られている。
【0031】
ω=λ2(1/l2)√(EI/ρA) …(1)
ただし、λ:固有値、l:弦の長さ、EI:剛性、ρ:密度、A:断面積。
【0032】
このように、固有振動数ωは、弦の長さの2乗に反比例するため、マウント部25を設けるための中間プレート60,61をさらに設けて弦の長さを短くすることにより、燃料電池スタック20の固有振動数ωの値を大きくすることができる。このように、燃料電池スタック20の固有振動数ωの値を大きくすることにより、車両の走行時に燃料電池装置10に振動が入力されても、燃料電池スタック20の共振を抑え、燃料電池装置10の耐久性を高めることができる。すなわち、エンドプレートで燃料電池スタック20を固定したときの燃料電池スタック20の固有振動数が、車両走行時に燃料電池スタック20に入力されることになる振動の振動数に比較的近く、共振を起こし得る場合であっても、中間プレートを設けて支持部の位置を変更するという簡便な構成により、容易に共振を抑制することができる。なお、車両が悪路を走行する際に入力される振動の振動数は、一般に100Hz弱程度であるため、中間プレート60,61間の距離である弦の長さは、燃料電池スタック20の固有振動数ωが、100Hz以上となる長さとすることが望ましい。また、燃料電池装置10を、車両以外の移動体に搭載して駆動用電源として用いることも可能であるが、この場合にも、移動体において発生する振動の振動数に応じて、共振を抑制できるように、中間プレート60,61間の距離(弦の長さ)を充分に短くすれば良い。
【0033】
ここで、燃料電池スタック20の固有振動数ωは、弦の長さの他に、上記したように剛性や密度、あるいは断面積により変動する値である。これら弦の長さ以外の要因は、具体的には、燃料電池スタック20を構成する各部材の材料や、燃料電池スタック20に加えられる締結圧などにより定まる値である。したがって、所定の材料からなる部材を組み立てて燃料電池スタック20を作製する際には、本実施例のように中間プレートをさらに設けて燃料電池スタック20の弦の長さを短くすることにより、容易に燃料電池スタックの固有振動数ωを高め、共振を抑制することが可能になる。
【0034】
さらに、本実施例の燃料電池装置10によれば、2枚の中間プレート60,61において、3つのマウント部25によって燃料電池スタック20の固定を行なっており、燃料電池スタック20を3点で支持しているため、車体の撓みやねじれの燃料電池スタック20に対する入力を抑制できるという効果が得られる。すなわち、燃料電池スタック20を4点以上で支持して固定する場合には、走行時などに車体に撓みやねじれが生じると、燃料電池スタック20の固定面が歪むことになり、車体に生じたこのような変位がマウント部25などの支持部を介して燃料電池スタック20に入力されてしまう。燃料電池スタック20に対して車体の変位が入力されると、燃料電池スタック20内に応力が発生して、燃料電池スタック20の耐久性の低下が引き起こされる可能性がある。これに対して、本実施例のように燃料電池スタック20を3点で支持する場合には、車体に撓みやねじれなどの変位が生じても、このような変位は主として燃料電池スタック20の固定面の傾きの変化を引き起こすだけであり、固定面全体の歪みを小さく抑えることができる。したがって、3点支持の場合には、車体の変位の燃料電池スタック20への入力を抑制し、燃料電池スタック20の耐久性を向上させることができる。また、燃料電池スタック20を3点で支持することにより、燃料電池スタック20を固定するための部品点数も抑えることができる。
【0035】
なお、本実施例では、第1中間プレート60とエンドプレート55との距離、および、第2中間プレート61とエンドプレート56との距離がほぼ等しくなるように中間プレート60,61を配置したが、異なる構成としても良い。エンドプレートと中間プレートとの距離に拘わらず、中間プレート60,61間の距離(弦の長さ)を調節することにより、燃料電池スタック20の固有振動数ωを、所望の値に調節することが可能になる。
【0036】
また、燃料電池装置10を車体に対して固定する際に、燃料電池スタック20をケース内に収納することとしても良いが、この場合には、例えば、車体に対してケースを固定すると共に、このケースに対して、燃料電池スタック20を、中間プレート60,61およびマウント部25を介して固定すればよい。このように、積層部材である中間プレートにおいて燃料電池スタック20が直接支持されており、両端のエンドプレートで支持する場合に比べて両持ち梁の弦の長さを短くする態様で燃料電池スタック20が固定されているならば、実施例と同様の効果が得られる。
【0037】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0038】
B1.変形例1:
実施例では、燃料電池スタック20において2枚の中間プレート60,61を設け、一方の中間プレートの2カ所および他方の中間プレートの1カ所において燃料電池スタック20を支持することとしたが、異なる構成としても良い。例えば、中間プレートは1枚のみ設け、他の中間プレートの代わりに、一方のエンドプレートを用いても良い。2枚のエンドプレートと1以上の中間プレートとの中から選択されると共に少なくとも1枚の中間プレートを含む2枚のプレートの内、一方のプレートにおいて2つのマウント部25が設けられており、他方のプレートにおいて1つのマウント部25が設けられていれば、実施例と同様に弦を短くすることにより燃料電池スタック20の固有振動数ωの値を大きくする効果が得られる。
【0039】
B2.変形例2:
実施例では、マウント部25を取り付けるために、燃料電池スタック20においてさらに中間プレートを設けることとしたが、燃料電池スタック20を構成する積層部材のいずれかにおいて燃料電池スタック20を3点支持するならば、実施例の中間プレートとは異なる部材において支持部の取り付けを行なっても良い。燃料電池スタック20と設置場所(実施例ではサイドフレーム15)との間の短絡が防止できれば良く、例えば、燃料電池を構成する所定の単セル50の外周を取り囲むように設けた樹脂ベルトを用いることができる。すなわち、燃料電池スタック20を支持すべき箇所であって、所望の弦の長さに対応する距離をおいた2カ所において、当該箇所に位置する単セル50の外周を取り囲むように樹脂ベルトを巻き付け、この樹脂ベルト部分に支持部を取り付けることとしても良い。この場合には、燃料電池スタック20内に特別な部材をさらに積層する必要がない。また、このように、単セル50の外周部に配置される絶縁性部材を介して燃料電池スタック20の固定を行なう際には、固定場所は、特定の単セル50に対応する場所としても良く、あるいは、隣接する複数の単セル50にわたる場所としても良い。また、このとき、実施例における第1中間プレート60に設けられた2つのマウント部25のように積層方向に対して並んで配置すべき2つの支持部は、同一の単セル50に対応して設けられる必要はなく、積層方向への若干のずれは許容される。このような場合であっても、燃料電池スタック20を3点で支持すると共に、2点は、積層方向に対してほぼ同じ位置であることにより、弦を短くして固有振動数ωの値を大きくする同様の効果を得ることができる。
【0040】
B3.変形例3:
実施例では、燃料電池装置10は、駆動用電源として移動体に搭載することとしたが、異なる構成としても良い。例えば、燃料電池装置10を、定置型電源とすることができる。定置型電源の出力をより大きくするためには、直列に積層する単セル50の数をより多くする必要があり、このような燃料電池スタック20をエンドプレートにおいて支えようとすると、積層した単セル50の枚数に応じて弦の長さが長くなり、固有振動数ωの値が小さくなる。このように大出力の燃料電池装置であっても、本発明を適用することにより、固有振動数ωの値を充分に大きくすることが可能になる。ここで、定置型燃料電池装置の耐久性を問題にする際に考慮すべき大きな地震が発生する際には、このような地震の振動数は一般に0.5〜2Hz程度であるため、定置型の燃料電池装置においては、燃料電池スタックの固有振動数の値が10Hz以上になるように、燃料電池スタックを3点支持する際の支持部間の積層方向に対する距離(弦の長さ)を調節することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】燃料電池装置10の外観を模式的に表わす説明図である。
【図2】単セル50の構成の概略を表わす分解斜視図である。
【図3】中間プレート60,61の構成の概略を表わす平面図である。
【図4】マウント部25の配置を表わす説明図である。
【図5】マウント部25の構成を表わす説明図である。
【図6】燃料電池スタックがマウント部によって支持される様子を模式的に表わす説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10…燃料電池装置
15…サイドフレーム
20…燃料電池スタック
25…マウント部
30…MEA
31…ガス拡散層
32,33…ガスセパレータ
34〜39…孔部
40,41…溝
42…凹部
50…単セル
55,56…エンドプレート
58…テンションプレート
59…ボルト
60…第1中間プレート
61…第2中間プレート
70…第1マウント部材
71…第2マウント部材
72…第3マウント部材
73…第4マウント部材
74…中間プレート固定ボルト
75…マウント固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜および該電解質膜上に形成された一対の電極を含む発電体を複数積層して成る燃料電池スタックを備える燃料電池装置であって、
前記燃料電池スタックに固定されて前記燃料電池スタックを支持する第1ないし第3の支持部を備え、
前記第1および第2の支持部は、前記燃料電池スタックの積層方向に対する位置がほぼ同一となる位置において、前記燃料電池スタックに固定されており、
前記第1および第2の支持部が固定された位置と、前記第3の支持部が固定された位置との、前記積層方向における距離は、積層された複数の前記発電体全体の前記積層方向における両端部間の距離よりも短い
燃料電池装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池装置であって、
前記燃料電池スタックは、該燃料電池スタックの両端に配置された一対のエンドプレートと、複数の前記発電体と共に前記燃料電池スタックの内部に積層された1以上の中間プレートと、を備え、
前記エンドプレートと前記中間プレートとから選択されると共に少なくとも1枚の中間プレートを含む2枚のプレートであって、前記燃料電池スタック全体を構成する発電体の数よりも少ない数の複数の発電体が間に配置された2枚のプレートの内、一方のプレートである第1のプレートにおいて前記第1および第2の支持部が固定されており、前記2枚のプレートの内の他方のプレートである第2のプレートにおいて前記第3の支持部が固定されている
燃料電池装置。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池装置であって、
前記燃料電池スタックは、前記燃料電池スタック全体を構成する発電体の数よりも少ない数の複数の発電体が間に配置された2枚の中間プレートを備え、
前記2枚の中間プレートの一方が、前記第1のプレートであり、前記2枚の中間プレートのうちの他方が、前記第2のプレートである
燃料電池装置。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池装置であって、
前記燃料電池スタックは、1枚の中間プレートを備え、
前記一対のエンドプレートの一方と前記中間プレートとの内の、一方が前記第1のプレートであり他方が前記第2のプレートである
燃料電池装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池装置であって、
前記燃料電池装置は、車両の駆動用電源として車両に搭載されており、
前記第1ないし第3の支持部で固定された前記燃料電池スタックにおける固有振動数は、100Hz以上である
燃料電池装置。
【請求項6】
請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池装置であって、
前記燃料電池装置は、定置型電源であり、
前記第1ないし第3の支持部で固定された前記燃料電池スタックにおける固有振動数は、10Hz以上である
燃料電池装置。
【請求項7】
電解質膜および該電解質膜上に形成された一対の電極を含む発電体を複数積層して成る燃料電池スタックの保持機構であって、
前記燃料電池スタックに固定されて前記燃料電池スタックを支持する第1ないし第3の支持部を備え、
前記第1および第2の支持部は、前記燃料電池スタックの積層方向に対する位置がほぼ同一となる位置において、前記燃料電池スタックに固定されており、
前記第1および第2の支持部が固定された位置と、前記第3の支持部が固定された位置との、前記積層方向における距離は、積層された複数の前記発電体全体の前記積層方向における両端部間の距離よりも短い
燃料電池スタックの保持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−27543(P2010−27543A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190682(P2008−190682)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】