説明

燃料電池電極として好適な白金およびパラジウム合金

本発明は、燃料電池、例えば、プロトン交換膜(PEM)燃料電池などに使用される電極触媒に関する。本発明は、燃料電池電極における新規の革新的な触媒組成物を提供するための、貴金属の低濃度置換による貴金属含有量の低減および触媒効率の向上に関する。本発明の新規な電極触媒は、Sc、Y、およびLa、ならびにそれらの混合物より選択されるさらなる元素によって合金化された、Pt、Pd、およびそれらの任意の混合物より選択される貴金属を含み、この場合、当該合金は、導電性担持材料上に担持される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、燃料電池(例えば、プロトン交換膜(PEM)燃料電池−高分子電解質膜燃料電池としても知られる)において使用される電極触媒に関する。本発明は、燃料電池電極における新規の革新的な触媒組成物を提供するための、貴金属の低濃度置換による貴金属含有量の低減および触媒効率の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
燃料電池は、燃焼させずに水素と酸素とを結合させて水を生成し、直流電力を発生させる。当該プロセスは、電気分解の逆のプロセスとして説明することができる。燃料電池は、定置式および携帯式電力用途に対する可能性を秘めているが、しかしながら、定置式および携帯式用途での発電に対する燃料電池の商業的実行可能性は、製造、コスト、および耐久性に関する多くの問題の解決如何にかかっている。
【0003】
電気化学燃料電池は、燃料および酸化剤を電気および反応生成物に変換する。典型的な燃料電池は、膜と、陰極および陽極と呼ばれる2つの電極とから成る。当該膜は、陰極と陽極の間に挟装されている。燃料、例えば水素などが陽極に供給され、そこで、電極触媒によって以下の反応が触媒される:2H2→4H++4e-
【0004】
陽極では、水素が、水素イオン(プロトン)および電子に分離する。当該プロトンは、陽極から膜を通って陰極へと移動する。当該電子は、電流の形態において陽極から外部回路を通って移動する。酸化剤は、酸素または酸素含有空気の形態において陰極に供給され、ここで、膜を通過してきた水素イオンおよび外部回路からの電子と反応して、反応生成物として液体の水を形成する。当該反応は、通常、白金族元素によって触媒される。陰極では、以下のような反応が生じる:O2+4H++4e-→2H2O。
【0005】
160年前、原始的な燃料電池において化学エネルギーが電気エネルギーに首尾良く変換されることが最初に実証された。しかしながら、燃料電池技術に伴う魅力的なシステム効率および環境上の恩恵にもかかわらず、初期の科学的実験を、商業的に実施可能な工業製品へと発展させることが困難であることが判明した。問題は、多くの場合、電力発電のコストおよび効率を、既存の発電技術と張り合うだけのものすることができるような適切な材料が無いことに関連していた。
【0006】
プロトン交換膜燃料電池は、効率および燃料電池の実用的な設計の両方において、過去数年間において著しく改良されてきた。携帯電池および自動車用バッテリーに対して、燃料電池のいくつかのプロトタイプの代替が実証された。しかしながら、電極触媒のコスト、活性、安定性に関連する問題は、高分子電解質燃料電池の開発における主要な懸念である。例えば、白金(Pt)ベースの触媒は、燃料電池および他の触媒用途に対して最も良好な結果を示している触媒である。残念ながら、白金の高コストおよび品不足が、大規模な用途でのこの材料の使用の足枷となっている。その上、低温高分子電解質膜燃料電池の開発は、その酸素還元反応(ORR)が遅いためにたとえ触媒として白金を使用しても触媒活性が低いという事実が妨げとなっている。
【0007】
加えて、陽極での白金の使用には、一酸化炭素不純物による触媒表面の活性低下という問題がある。陰極側では、膜を通過するメタノールおよび他の炭素含有燃料が白金による触媒作用の下で陰極において酸素と反応し、それによって燃料電池の効率が減少するために、通常、多めの触媒充填量が用いられてきた。
【0008】
触媒効率を向上させ、コストを低減するため、触媒としてのPt合金を形成するために白金以外の貴金属および非貴金属が使用されている。Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Auなどの貴金属が調査されている。Sn、W、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどの非貴金属(米国特許第6,562,499号(特許文献1))についても検討されている。様々なPt合金が、燃料電池用途のための触媒として開示されている。触媒としての二元合金としては、Pt−Cr(米国特許第4,316,944号(特許文献2))、Pt−V(米国特許第4,202,934号(特許文献3))、Pt−Ta(米国特許第5,183,713号(特許文献4))、Pt−Cu(米国特許第4,716,087号(特許文献5))、Pt−Ru(米国特許第6,007,934号(特許文献6))、Pt−Ti、Pt−Cr、Pt−Mn、Pt−Fe、Pt−Co、Pt−Ni、Pt−Cu(英国特許出願公開第2242203号(特許文献7))が挙げられる。触媒としての三元合金としては、Pt−Ru−Os(米国特許第5,856,036号(特許文献8))、Pt−Ni−Co、Pt−Cr−C、Pt−Cr−Ce(米国特許第5,079,107号(特許文献9))、Pt−Co−Cr(米国特許第4,711,829号(特許文献10))、Pt−Fe−Co(米国特許第4,794,054号(特許文献11))、Pt−Ru−Ni(米国特許第6,517,965号(特許文献12))、Pt−Ga−(Cr、Co、Ni)(米国特許第4,880,711(特許文献13))、Pt−Co−Cr(米国特許第4,447,506号(特許文献14))が挙げられる。触媒としての四元合金としては、Pt−Ni−Co−Mn、(米国特許第5,225,391号(特許文献15))、Pt−Fe−Co−Cu(米国特許第5,024,905号(特許文献16))が挙げられる。
【0009】
しかしながら、PEM燃料電池を実行可能な技術とするためには、触媒活性の増加または電極のコスト低減が依然として必要とされている。電極を分離している高価なイオン伝導性膜のコストは、電極の幾何学的面積/活性サイト密度に対応しているため、安価だが活性サイト密度が低い低活性の電極を使用することによってコストを削減しても、膜のコスト増加によって相殺されるであろう。その上、活性サイト密度の減少は、より厚い電極を使用することによっては相殺できず、反応性ガスの輸送も遅らせるであろう。一例として、とりわけ、Lefevreら,Science,324,71(2009)(非特許文献1)において開示されているような、いわゆるFe/C/N電極について言及すべきである。当該電極は、白金電極に匹敵するターンオーバー頻度、すなわち、1秒間において活性サイトあたりの生成される電子の数を有するが、依然として活性サイト密度は低い。
【0010】
特開平10−214630号公報(特許文献17)では、高分子電解質燃料電池における、貴金属および希土類金属を含有する二元合金の使用について開示されている。この出願による合金は、20重量%以上の「金属間化合物」を含有する。これは、単一の秩序相中に20%以上の合金が存在するという意味に解釈される。合金の残りの部分が何で構成されているかについては完全には明かではないが、あまり明確には定義されない比率の構成金属であると考えられるであろう。合金全体で、電極触媒として機能している。
【0011】
韓国特許出願第2003−0030686号(特許文献18)では、主成分としてPt5La、Pt3Sc、Pt2Ti、Pt4Y、Pt3Y、Pt5Hf、PtEr、またはPt5Ceと、0.1〜20重量%の、モリブデン、タンタル、およびタングステンからなる群より選択される1種または複数種の金属とを有する金属合金を含む、電子管のための金属陰極について開示されている。当該陰極はさらに、0.5〜25重量%の、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムからなる群より選択される1種または複数種の元素を含む。しかしながら、当該陰極が、電子管以外の他の用途とって有用であり得るというようなことは示唆されていない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、純粋な白金と比べて酸素還元に対する触媒活性を高めた電極合金材料を提供することにある。本発明のさらなる目的は、純粋な白金と比べて、匹敵する活性サイト密度を維持しつつも、より低コストである電極合金を提供することにある。本発明の別の目的は、Ptよりも高められた活性が長時間にわたって安定しているような電極合金材料を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,562,499号
【特許文献2】米国特許第4,316,944号
【特許文献3】米国特許第4,202,934号
【特許文献4】米国特許第5,183,713号
【特許文献5】米国特許第4,716,087号
【特許文献6】米国特許第6,007,934号
【特許文献7】英国特許出願公開第2242203号
【特許文献8】米国特許第5,856,036号
【特許文献9】米国特許第5,079,107号
【特許文献10】米国特許第4,711,829号
【特許文献11】米国特許第4,794,054号
【特許文献12】米国特許第6,517,965号
【特許文献13】米国特許第4,880,711
【特許文献14】米国特許第4,447,506号
【特許文献15】米国特許第5,225,391号
【特許文献16】米国特許第5,024,905号
【特許文献17】特開平10−214630号公報
【特許文献18】韓国特許出願第2003−0030686号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Lefevreら,Science,324,71(2009)
【発明の概要】
【0015】
本発明の発明者たちは、上記において説明した目的が、Pd、Pt、およびそれらの混合物より選択される1種または複数種の貴金属と、Sc、Y、およびLaからなる群より選択される少なくとも1種の他の元素とを含有する合金を含む電極であって、当該合金が導電性担持材料上に担持されている電極を提供することによる本発明の一局面によって達成され得るということを見出した。
【0016】
別の局面において、本発明は、本発明の電極を有する電気化学電池、例えば燃料電池などに関する。
【0017】
さらなる局面において、本発明は、本発明による合金の、電極触媒としての使用に関する。
【0018】
さらなる局面において、本発明は、純粋な貴金属の表面層−本出願中において貴金属被膜(例えば、Pt被膜)として記載される層−を有する本発明の合金の使用に関する。
【0019】
本発明の電極は、純粋な白金よりも最大12倍活性が高いことが見出された。その上、本発明の電極は、純粋な白金ではなく、非貴金属との合金であるため、活性サイト密度を維持しつつも、同時に電極のコストが低減された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】燃料電池の電極において本発明の触媒が使用されている燃料電池の概略図を示す模式図。
【図2】Pt、Pt3Sc、Pt3Y、Pt5Y、およびPt5LaのX線回折トレース。
【図3】Ar+スパッタ清浄化された(A)Pt3Scおよび(B)Pt3YのAESスペクトル。
【図4】2mMのCu2+の存在下および不在下で測定した、(A)Pt、(B)Pt3Sc、および(C)Pt3Yのサイクリックボルタモグラム。
【図5】(A)O2飽和電解質中でのPt、Pt3Sc、およびPt3Yのサイクリックボルタモグラム(陽極の掃引のみを示している)、および(B)(A)と同じ条件下におけるPt3YおよびPt3Scのみの最初の定常サイクル(実線)および90分のサイクル後(点線)の比較を示す。
【図6】反応電流密度jkとして表された、Pt、Pt3Sc、Pt5Y、Pt5La、およびPt3Yに対する電極電位Uの関数としての比活性度を示すグラフ表示。
【図7】線形目盛上にプロットした、図6に示されたデータからのPtに対する活性増強(jk/jkPt)を示すグラフ表示。
【図8a】Pt3Yの角度分解XPS深さプロファイルによる、合金のPt被膜を示すグラフ表示。
【図8b】Pt3Yの角度分解XPS深さプロファイルによる、合金のPt被膜を示すグラフ表示。
【図8c】Pt3Yの角度分解XPS深さプロファイルによる、合金のPt被膜を示すグラフ表示。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の詳細な説明
定義と命名法
合金
合金は、金属マトリックス中における1種または複数種の元素の部分的または完全な固溶体である。完全な固溶体の合金は、単一固相微細構造を生じるが、その一方で、部分的な固溶体は、熱的(熱処理)履歴に応じた分布において均質であり得る2つ以上の相を生じる。合金は、通常、成分元素とは異なる特性を有する。
【0022】
金属間化合物
本文脈において、「金属間化合物」なる用語は、単一の秩序相として存在するような合金を意味する。合金は、必ずしも秩序相または単一相である必要はない。
【0023】
電極触媒
本発明の文脈において、「電極触媒」は、電気化学反応に関与する触媒である。触媒材料は、プロセスにおいて消費されることなく、化学反応の速度を変更し、かつ高める。電極触媒は、電極表面において機能するか、またはそれ自体が電極表面であり得るような触媒の特定の形態である。電極触媒が不均一に機能する場合、通常、当該電極触媒は、固体、例えば、平坦な白金表面または白金ナノ粒子などである。電極触媒が、例えば配位錯体または酵素などのように均一に機能する場合、当該電極触媒は、液相である。電極触媒は、電極と反応剤との間の電子の移動を補助し、および/または半反応全体によって記載される中間的化学変換を促進する。
【0024】
電気化学電池
本発明の文脈において、「電気化学電池」は、化学反応から起電力(電圧)および電流を生み出すために、またはその逆、例えば電流による化学反応などのために使用されるデバイスである。電流は、導電体における異なる端部での電子を放出および受容する反応によって生じる。「電気化学電池」は、少なくとも2つの電極と、当該電極を分離している少なくとも1つの電解質とを有する。当該電解質は、液体溶液またはイオン伝導性膜であり得、これは、電子をあまり通さず、電池全体における電気的中性を回復するためにイオンを通過させる。電気化学電池に好適な電解質は、当業者に公知である。ある特定のタイプの電気化学電池、例えば、燃料電池などにとって好適な電解質の一例は、Nafion(登録商標)である。好適な液体電解質の例は、リン酸である。
【0025】
燃料電池
本発明の文脈において、「燃料電池」は、燃料と酸化剤との間の反応のエネルギーが直接的に電気エネルギーに変換される電気化学電池である。典型的な燃料電池を図1に示す。燃料電池に好適な燃料の例は、水素ガスH2およびメタノールである。典型的な酸化剤は酸素ガスO2である。
【0026】
導電性担持体
「導電性担持材料」または「導電性担持体」なる用語は、20℃において、最大で700オームメートル、好ましくは最大で1オームメートル、最も好ましくは最大で0.001オームメートルの抵抗率を有する固体材料を意味する。本発明において使用されるような「導電性担持材料」は、電気化学電池、例えば、燃料電池などにおける使用に好適である。本発明のいくつかの態様において、当該導電性担持材料が気体分子に対して透過性であることが望ましい場合もある。
【0027】
「導電性担持材料」または「導電性担持体」なる用語はさらに、電極支持層または他の任意の導電手段を備える非導電性担持材料も包含し、この場合、当該導電手段は、担持材料上に被着されるべき電極触媒材料に接触するような方式において、非導電性担持材料に取り付けられる。このタイプの「導電性担持材料」の一例は、米国特許第5,338,430号および同第6,040,077号に見出すことができ、なお、これら両方の特許は、その全体が本明細書に組み入れられる。米国特許第6,040,077号では、PtまたはPt/Ruが有機非導電性担持材料、いわゆるウィスカー上に被着されているPEM燃料電池について開示されている。当該ウィスカーは、基材上に成長させた針状ナノ構造体である。当該非導電性担持材料を備える米国特許第6,040,077号における触媒電極は、電気回路を完成させるためにELAT(商標)電極支持材料で被覆されている。
【0028】
陽極および陰極
電気化学電池の電極は、陽極または陰極のどちらかとして呼ぶことができる。陽極は、電子が電池から離れて酸化が生じる電極として定義され、陰極は、電子が電池へと入って還元が生じる電極として定義される。電極は、電池に印加される電圧ならびに電池の設計に応じて、陽極または陰極のどちらかになり得る。
【0029】
イオン伝導性膜
電気化学電池内に電気化学回路を作り出すために、電極は、イオン伝導性膜によって分離され得る。電極を分離している当該膜は、一方の電極から他方の電極へのイオンの拡散を可能にするが、燃料および酸化剤ガスは分離したままに維持しなければならない。さらに、電子の流れも防がなければならない。膜を越えての燃料または酸化剤ガスの拡散または漏れは、望ましくない結果、例えば、回路の短絡または触媒の活性低下などを引き起こし得る。電子が膜を通過できる場合、当該デバイスは、完全にまたは部分的に短絡しており、生み出される有用な電力は、失われるかまたは減少する。好適なイオン伝導性膜としては、Nafion、酸化シリコンNafion複合材料、ポリペルフルオロスルホン酸、ポリアリーレンチオエーテルスルホン、ポリベンゾイミダゾール、アルカリ金属の硫酸水素塩、ポリホスファゼン、スルホン酸化(PPO)、シリカポリマー複合材料、有機アミノアニオン交換膜などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0030】
燃料電池での使用に好適なイオン伝導性膜は、概して非常に高価であり、したがって、燃料電池の使用の実行可能性は、商業的に、少なくとも部分的に、燃料電池において使用されるイオン伝導性膜の最小化にかかっている。
【0031】
ナノ粒子
燃料電池などの用途において、本発明の電極触媒は、有利には、ナノ粒子の形態において適用され得る。一般的に、ナノ粒子は、重量あたりの表面積が大きいという利点を有しており、そのことにより、ナノ粒子は、例えば触媒においてなど、広い表面積が有利である用途において関心対象とされている。非常に高価な触媒の場合、当該表面積と重量の比は、明らかにより重要となる。
【0032】
本発明による電極触媒材料は、当業者に周知の方法を適用することによって、燃料電池での使用に好適なナノ粒子へと転化させることができる。そのような方法の例は、とりわけ、米国特許第5,922,487号、同第6,066,410号、同第7,351,444号、米国特許出願公開第2004/0115507号、および同第2009/0075142号に見出すことができる。
【0033】
貴金属被膜
本発明の文脈において、「貴金属被膜」なる用語は、本発明において使用されるような合金が、角度分解X線光電子分光法(ARXPS)による測定において、当該合金の表面においてまたは表面近傍においてほぼ100%の貴金属の相対強度を有するような場合を意味し、これは他の1種または複数種の金属ではほぼ0%の相対強度に一致する。貴金属被膜を越えると、すなわち、合金の表面のより深い部分では、合金の貴金属および1種または複数種のさらなる金属の相対強度は、合金のバルク組成に対応する一定値、例えば、Pt3Yに対応する値に近づくであろう。
【0034】
本発明の態様
本発明は、貴金属合金を含む電極に関する。貴金属が、特に電気化学電池、例えば燃料電池または電解セルなどにおいて最も良好な触媒であることは、当技術分野において公知である。貴金属合金を使用する代わりに、非常に高価な貴金属をあまり高価でない金属に換えることにより、電極のコストを低減することができるだけでなく、電極の活性も高めることができる。白金およびパラジウムなどの貴金属と、Cr、Co、V、およびNiなどの他の遷移金属とによるこのような合金の開発に、多くの努力が費やされてきた。しかしながら、これらの先行技術の合金触媒を採用している燃料電池の、所定の電流密度における作動電圧は、時間と共に、純粋なPt電極触媒を採用している燃料電池の作動電圧へと減少していく。このような先行技術の合金触媒についてのレビューは、Gasteigerら,Appi.Catal.B-Environ SB,9-35(2005)において見出すことができる。本発明を用いることにより、Sc、Y、およびLaからなる群より選択される元素を含む貴金属合金は、驚いたことに、電極の活性を向上させると共に安定性を確保することによって両方の問題を解決する。図7に示されているように、Pt3Y電極の活性は、純粋なPt電極よりも1桁も高くあり得る。
【0035】
さらに、本発明の電極に含まれる合金は、その表面に貴金属被覆層−いわゆる貴金属「被膜」−を形成する。これは、PEM燃料電池の高い電位および酸性条件下で電極の安定性を確保するために重要である。
【0036】
本発明は、導電性担持体上に担持された電極触媒合金に関する。当該担持体は、いくつかの異なる目的のために機能する。第一に、当該担持体は、非常に広い面積で非常に薄い層において当該担持体上に被着され得る触媒材料を単に担持する目的のために機能する。これは、触媒の広い表面積を覆うために必要な触媒材料の質量を最小化するという利点を有する。この効果を最適化するために、様々な表面細孔および粗度において担持体を作製することにより、担持体の表面積、延いては触媒の表面積を増加させることができる。カーボンナノチューブなどのより魅力的な担持体が、これらの目的のために調査されている。さらに、当該担持体は、触媒の活性サイトへの、および活性サイトからの電子(および場合によってはイオン)伝導のための経路を提供することによって、導電性材料としても機能する。最後に、当該担持体は、触媒へのガスの移動を促進するために、ガス透過性でもあり得る。
【0037】
本発明の一態様において、合金において使用される貴金属は白金である。白金は、長い間、陰極反応にとって最も良好な触媒の1つとして知られてきた。その欠点の1つは、非常に高価なことである。Ptの薄層の被着、またはより安価な材料との合金化、あるいはその両方など、コスト効率を改善するためのいくつかの試みがなされてきた。本発明に従って合金化することによって、合金の活性の増加およびより安価な置換金属(Sc、Y、La)により、白金を非常に少量において使用することができる。
【0038】
貴金属と、Sc、Y、およびLaの群より選択される金属との合金化は、先行技術の合金と比べて好ましい合金化エネルギーを有するという利点を有する。そのような合金の典型的な合金エネルギー(合金形成の熱−合金の熱エネルギーと置換金属の熱エネルギーとの間の差として算出される)は、−0.3〜0.05eV/原子の範囲にあるが、本発明による合金は、最高−1eV/原子までの合金化エネルギーを有しており、したがって、それらは、熱力学的にはるかに安定である。
【0039】
本発明の一局面は、Pd、Pt、Au、およびそれらの混合物から選択される1種または複数種の貴金属と、Sc、Y、およびLaからなる群より選択される少なくとも1種の他の元素とを含有する合金を含む電極であって、該合金が導電性担持材料上に担持されている電極に関する。当該合金の貴金属は、白金、金、またはパラジウム、ならびにそれらの任意の混合物のいずれかであり得る。一態様において、当該貴金属は、実質的に純粋な白金である。別の態様において、当該貴金属は、実質的に純粋なパラジウムである。当該合金が白金とパラジウムとの混合物を含有する発明の態様では、当該混合物は、白金およびパラジウムを任意の比率、例えば、原子比1:1などにおいて含み得る。
【0040】
金は、合金の表面上に被着することによって本発明の電極に含まれ得る。一例として、金は、白金/イットリウム合金の表面上に被着され得る。
【0041】
本発明の文脈において、例えば「実質的に純粋な白金」などのように、実質的に純粋な金属もしくは合金について言及する場合、それは、当業者によって適用される通常の測定の不確定性限界内において、本発明の電極の特性、例えば、電極の活性などをほとんど変えない程度の不純物を含む純粋な金属もしくは合金を包含することを意味する。
【0042】
本発明による電極の合金は、1種または複数種のさらなる元素、すなわち1種または複数種の非貴金属を含み、これらは、スカンジウム、イットリウム、およびランタン、ならびにそれらの任意の混合物からなる群より選択される。一態様において、当該1種または複数種のさらなる元素は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。さらなる態様において、当該さらなる元素は、実質的に純粋なイットリウムである。別の態様において、当該さらなる元素は、実質的に純粋なランタンである。
【0043】
本発明の一態様において、電極の合金は、白金およびスカンジウムの実質的に純粋な混合物からなる。本発明の別の態様において、電極の合金は、白金およびイットリウムの実質的に純粋な混合物からなる。さらに別の態様において、電極の合金は、白金およびランタンの実質的に純粋な混合物からなる。
【0044】
上記において言及したように、本発明は、貴金属および/またはさらなる非貴金属の混合物の合金を含む電極にも関する。したがって、当該合金は、三元合金または四元合金であってもよい。5種以上の金属の混合物についても、本発明によって包含されることが想到される。
【0045】
本発明の電極において、1種または複数種の貴金属と、1種または複数種のさらなる元素、すなわち1種または複数種の非貴金属との間の比率は変わり得る。さらなる態様において、本発明は、1種または複数種の貴金属と1種または複数種のさらなる元素との原子比が、1:20〜20:1の範囲、例えば、1:3〜8:1の範囲、例えば、1:2〜6:1の範囲、好ましくは1:1〜5:1の範囲、より好ましくは2:1〜4:1の範囲、さらにより好ましくは2.5:1〜3.5:1の範囲である電極に関する。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、1種または複数種の貴金属と1種または複数種のさらなる元素との間の原子比が、20:1〜2.5:1の範囲、例えば、10:1〜2.8:1の範囲、例えば5:1〜3:1の範囲などである電極に関する。
【0047】
これらの範囲外の原子比を有する電極が、PEM燃料電池に含まれていてもよい。しかしながら、上記において示された原子比の範囲内の組成の触媒を残して、過剰な貴金属または非貴金属は酸性電解質中に溶解するであろう。
【0048】
したがって、本発明は、1:20〜20:1の間、例えば、1:3〜8:1の間、例えば、1:2〜6:1の間など、好ましくは1:1〜5:1の間、より好ましくは2:1〜4:1の間、さらにより好ましくは2.5:1〜3.5:1の間の原子比において白金およびスカンジウムを含有する合金を含む電極を包含する。その上、本発明は、1:20〜20:1の間、例えば、1:3〜8:1の間、例えば、1:2〜6:1の間、好ましくは1:1〜5:1の間、より好ましくは2:1〜4:1の間、さらにより好ましくは2.5:1〜3.5:1の間、の原子比において、白金およびイットリウムを含有する合金を含む電極を包含する。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、合金がPt3Yである電極に関する。本発明の文脈において、「Pt3Y」なる用語は、原子比3:1のPtおよびYの混合物である。当業者が、本発明のこの態様による電極の組成を測定しても、測定された比率が、正確に3:1の比率からわずかに逸脱した比率となる場合もある。しかしながら、そのような逸脱が、当業者によって許容される通常の不確定性限界内である限り、実質的に3:1に等しい測定された組成を有する電極も、この態様の範囲によって包含されることが想定される。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、合金がPt5Yである電極に関する。本発明の文脈において、「Pt5Y」なる用語は、原子比5:1のPtおよびYの混合物である。当業者が、本発明のこの態様による電極の組成を測定しても、測定された比率が、正確に5:1の比率から、わずかに逸脱した比率となる場合もある。しかしながら、そのような逸脱が当業者によって許容される通常の不確定性限界内である限り、実質的に5:1に等しい測定された組成を有する電極も、この態様の範囲によって包含されることが想定される。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、合金がPt3Scである電極に関する。本発明の文脈において、「Pt3Sc」なる用語は、原子比3:1のPtおよびScの混合物である。当業者が、本発明のこの態様による電極の組成を測定しても、測定された比率が、正確に3:1の比率から、わずかに逸脱した比率となる場合もある。しかしながら、そのような逸脱が当業者によって許容される通常の不確定性限界内である限り、実質的に3:1に等しい測定された組成を有する電極も、この態様の範囲によって包含されることが想定される。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、合金がPt5Laである電極に関する。本発明の文脈において、「Pt5La」なる用語は、原子比5:1のPtおよびLaの混合物である。当業者が、本発明のこの態様による電極の組成を測定しても、測定された比率が、正確に5:1の比率から、わずかに逸脱した比率となる場合もある。しかしながら、そのような逸脱が当業者によって許容される通常の不確定性限界内である限り、実質的に5:1に等しい測定された組成を有する電極も、この態様の範囲によって包含されることが想定される。
【0053】
上記において言及したように、合金は、単一の秩序相において存在し得、これは、本文脈において「金属間化合物」とも呼ばれる。現時点での好ましい態様において、本発明による電極の合金は、少なくとも70重量%、例えば、少なくとも75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、または95重量%などの金属間化合物を含有する。別の態様において、当該合金は、実質的に金属間化合物のみを含有する。
【0054】
一例として、合金がPt3Yである態様は、少なくとも70%の金属間化合物を含有し得、すなわち、Pt3Yの少なくとも70%は単一の秩序相である。
【0055】
さらなる態様において、本発明による電極の合金が、Pt5La、Pt3Sc、Pt4Y、またはPt3Yである場合、電極も、0.1〜20重量%の、モリブデン、タンタル、およびタングステンからなる群より選択される1種または複数種の金属、および0.5〜25重量%の、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムからなる群より選択される1種または複数種の元素を含有しない。
【0056】
さらなる局面において、本発明は、本発明による電極を含む電気化学電池に関する。
【0057】
本発明の電極は、任意のタイプの電気化学電池での使用が想定されるが、本発明の発明者らは、本発明の電極が、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池において特に有用であるということを見出した。したがって、一態様において、本発明は、燃料電池である電気化学電池に関する。さらに、本発明の電極が、低温燃料電池、すなわち、300℃未満、例えば、0℃〜300℃の範囲などで作動する燃料電池において特に有用であるということが見出された。
【0058】
本発明の電極は、電気化学電池の電圧および設計に応じて、当該電気化学電池の陽極または陰極のどちらかとして機能し得る。しかしながら、本発明の電極は、好ましくは陰極として使用される。好ましい態様において、本発明の電極は、燃料電池における陰極として使用される。
【0059】
さらなる局面において、本発明は、電極触媒として本明細書において定義されたような合金の使用に関する。
【0060】
さらなる局面において、本発明は、酸化可能な燃料、例えばH2またはメタノールなど、および酸化剤、例えばO2などを、燃料電池、例えば本明細書において定義されたような低温燃料電池などに供給する工程を含む、電気エネルギーを産生する方法に関する。
【0061】
本発明の様々な態様は、他の任意の態様と組み合わせることができる。
【0062】
本明細書中において、「含む(「comprising」または「comprises」)」なる用語は、他の可能性のある要素または工程を排除しない。同様に、「1つの(「a」または「an」)」などの参照の言及は、複数を排除するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0063】
電極
各電極の直径は5mmであった(0.196cm2の幾何学的表面積)。合金は、合金製造の技術分野において周知の技術により標準的な合金として製造した。仕様に関して、世界中のいくつかの製造元が、標準的な技法によって当該合金を製造するであろう。そのような製造元の1つは、ドイツのMateck GmbHである。これらの実施例で使用するPt3Y、Pt5Y、Pt5La、およびPt3Sc電極に対する仕様は、純度99.95%、直径5±0.05mm×厚さ3±0.5mm、片面研磨であった。各電極のバルク組成は、PANalytical X'Pert PRO計測器を使用してX線回折(XRD)により検証した。これらの測定の結果は、Pt、Pt3Y、Pt5La、およびIr5Ceのリファレンスのパターンと共に図2に示す。Pt、Pt3Y、およびPt5Laのパターンは、粉末回折ファイルデータベースからのこれらの化合物のそれぞれのリファレンストレースに対応している。Pt3ScおよびPt5Yについての利用可能なリファレンスデータは無かった。しかしながら、Pt3ScおよびPt5YのXRDトレースは、それぞれPt3YおよびIr5Ceと同じ結晶空間群に一致した。これらのデータから、各電極の大部分が、二次的な相はほとんど存在せず、単一の金属間化合物相にほぼ一致した。
【0064】
AES分析
電気化学的測定の前に、電極を超高真空(UHV)室において事前調整した。当該室は、Phiオージェ電子分光法(AES)設備を備えている。各ディスクに対し、AESスペクトルによってCおよびOがごく少量しか存在しないことが示されるまで、Ar+でスパッタ清浄化を行った。AESスペクトルは、150μmのスポットサイズにおいて5keVの加速電圧を用いて、30〜1030eVの範囲にわたって記録した。これらのスペクトルは、金属表面上のいくつかの異なる場所において測定した。スパッタリングは、Ar+イオンの1keVのビームにより、15μAにおいて6×6mmの面積に対して実施した。当該室は、1×10-10Torr未満のベース圧力に維持した。
【0065】
図3Aおよび3Bは、それぞれPt3ScおよびPt3Yディスクのオージェスペクトルを示している。Pt3Scの場合のOのわずかなピークを除いて、明らかに、すべてのピークがPtおよびYもしくはScの特徴的ピークに一致した。これらのスペクトルより、表面領域近傍において、Pt3Scディスクの組成は、Ptが〜70%およびScが〜30%であり、ならびにPt3Yディスクの組成は、Ptが〜80%およびYが〜20%であった。
【0066】
電気化学測定
UHV室から電極を取り出した数秒以内に、当該清浄な電極を、H2で飽和させた超純水(Millipore Milli−Q水,18 MΩcm-1)の小滴により保護した。次いで、当該電極を、表を下に向けて湿ったポリプロピレンフィルム上に置き、回転ディスク電極(RDE)の軸中に押し込んだ。
【0067】
当該電気化学実験は、コンピュータによって制御されたBio−Logic InstrumentsのVMP2ポテンシオスタットにより実施した。RDEアセンブリは、Pine Instruments Corporationにより提供された。標準的な三区画ガラスセルを使用した。各測定の前に、セルを熱硝酸(10重量%)中で清浄化し、次いで、超純水中で数回超音波洗浄した。電解質は、0.1MのHClO4(Aldrich,TraceSELECT(登録商標)Ultra)を超純水から調製した。対向電極はPtワイヤであり、参照電極はHg/Hg2SO4電極であり、両方とも、セラミックフリットを用いて作用電極の区画から分離した。各測定の後、同じ電解質中で、可逆水素電極(RHE)に対する参照電極の電位を確認した。すべての電位は、RHEに対して補正し、オーム損失を修正する。当該測定は、室温(23±2℃)において実施した。RDEを、0.05Vの電位制御下で、セル内の、N2(N5、Air Products)を飽和させた電解質中に浸漬した。酸素還元反応(ORR)活性測定は、O2(N55、Air Products)で飽和させた電解質中で実施した。Cuアンダーポテンシャル析出(CuUPD)実験は、ハンギングメニスカス構成において実施した。
【0068】
Cuアンダーポテンシャル析出実験では、最初に、0.1MのCuO(Aldrich、99.9999%)を0.3MのHClO4溶液に溶解させ、次いで、この溶液の一定分量を電解質に添加して、2mMのCu2+濃度を得た。
【0069】
GreenおよびKucernak(J.Phys.Chem.B 106 (2002),1036)の手順に従ってCuのアンダーポテンシャル析出を用いて、電極の真の表面積を評価した。Cu2+の存在下で、最初に、吸着されたCuが確実に存在しないように電極を100秒間1Vに分極させ、その後、さらに0.3Vに100秒間維持してCuの完全な単層を電気吸着させた。最後に、1Vまで電位を掃引して、電極からCuを陽極から脱着させた。各Pt表面原子が、吸着された単一のCu原子によって覆われると仮定すると、Cuが電気脱着してCu2+となる電荷は、420μCcm-2であるはずである。
【0070】
角度分解X線光電子分光法
X線光電子分光法(XPS)は、表面分析技術であり、通常、超高真空条件下でエクスサイチューにおいて実施される(Chorkendorff and Niemantsverdriet,Concepts of Modern Catalysis and Kinetics,2003)。入射したX線ビームが表面に当たると、光電子が放出される。これらの光電子の結合エネルギーは、表面および表面領域近傍における元素組成および原子の化学状態の特徴を示している。試料の垂線に対する光電子分析装置の角度を変えることにより、異なる深さスケールを調べることができる。したがって、角度分解XPSでは、非破壊深さプロファイルを得ることが可能である。
【0071】
実施例1−Cuアンダーポテンシャル析出
図4は、2mMのCu2+の存在下および不在下でのPt、Pt3Sc、およびPt3Yのボルタモグラムを示している。測定は、ハンギングメニスカス構成において、0.1MのHClO4中で20mVs-1において実施した。実線によって示されているCu2+の存在下で測定されたボルタモグラムは、0.3Vにおいて完全にCu単層を吸着させた後に実施した。Cu2+不在下で測定されたボルタモグラムは、点線で表されている。斜線の面積は、Cuの剥離のための積分された電荷に対応している。明らかに、各電極は、Cu2+の存在下で、異なるボルタンメトリー的プロファイルを有している。これらの相違にもかかわらず、すべてのボルタモグラムでの積分されたCu剥離電荷は、電極の組成に関係なく、83±2μCとなった。このことは、幾何学的および微視的な表面積が等しい(〜0.2cm2)ということを示唆している。かなりの量のScまたはYが、電極の表面に残存しているはずであり、これらのサイトではアンダーポテンシャル析出は可能ではなかったであろうし、減少した電荷は単層を形成するために必要であろう。ScまたはY成分が溶解する場合、それは、表面がかなり粗くなる原因となるであろう。そのような場合、Cuの電気脱着のための電荷はもっと高くなることが予想されるであろう。したがって、図4に示されているデータは、滑らかで安定なPt被膜がPt3ScおよびPt3Y電極の表面上に形成されているとの結論を支持するものである。
【0072】
実施例2−電極の活性
ORRに対する触媒の活性は、O2飽和溶液中でのサイクリックボルタモグラムを実施することによって測定し、図4(A)に示した。各電極に対して開始は〜1Vでスタートしており、ならびに反応速度支配(すなわち、電流が拡散によって制限されていない)の特徴である初期の電流の急激な増加が存在している。低い電位(〜0.7V<U<〜0.95V)では、電流は、質量輸送(拡散)がかなり重要な役割を果たす混合型に近づく。この電位範囲は、燃料電池用途にとって最も関心対象である範囲であり、燃料電池の作動電位は、通常、この範囲である。さらに低い電位において、電流は、その拡散律速値の〜5.8mAcm-2に達する。混合型において、異なる触媒のORR活性は、半波電位U1/2(すなわち、電流がその拡散律速値の半値に達する電位)を評価することによって比較することができる。Pt3Scは、U1/2においてPtに対して〜20mVの正へのシフトを示し、その一方で、Pt3Yは〜60mVの正へのシフトを示す。これらのデータは、Pt3YおよびPt3Scの両方がPtを上回って著しい活性向上を示すことを示している。半波電位における正へのシフトは、より高い電位において拡散律速値に達する、すなわち、反応速度が純粋な白金よりも速いということ意味している。
【0073】
現代のPEM燃料電池は、反応ガスの効率的な送達のために設計されており、したがって、質量輸送効果の重要性は二次的に過ぎず、よって、電気化学的反応速度は、非効率性の主な原因である(Gasteigerら,Appl.Catal.BEnviron.,56,9(2005))。図6において、測定された電流密度は、電位Uの関数として、触媒の真の反応電流密度jkを得るために、質量輸送に対して修正される。
【0074】
酸素還元の反応電流密度jkは、以下の式を使用して算出した:
1/jk=1/jmeas−1/jd
この場合、jmeasは、測定された電流密度であり、jdは、拡散律速電流密度である。
【0075】
同じ触媒のランク付けが、半波電位によって特定されるものとして見出され、以下の順に活性が増加する:
Pt<Pt3Sc<Pt3Y
【0076】
図7では、Ptに対するPt3ScおよびPt3Yの活性増強を、電位の関数としてプロットしている。0.9Vにおいて、Pt3Scは、Ptに対して比活性度の50%の増加を示しており、その一方で、Pt3Yは、6倍の向上を示している。0.85Vでは、Pt3Scではおよそ2倍、Pt3Yでは12倍の増強である。
【0077】
外挿すると、燃料電池が最も一般的に作動する電位である0.7Vでは、活性の増加はさらに高い。同じ作動電位でのそのような高い電流の増加は、結果として、同じ条件下での出力電力増加を生じる。このことは、商業的に実施可能な燃料電池を達成する目的において重要である。
【0078】
Pt3Y電極は、先行技術における任意のバルク多結晶性金属表面に対して現条件下で測定された最も高いORR活性を示すということが見出された。Pt3Ni(111)の単結晶データ(Stamenkovicら,Science,315,493(2007))は、本多結晶Pt3Y試料と同様の活性を示しており、その一方で、多結晶Pt3Niは、活性としてはそれほどでもない(Stamenkovicら,J.Phys.Chem.B,106,11970(2002))。
【0079】
本発明の合金電極は、図5Bに示されているように、比較的厳しい条件(0.1MのHClO4)が適用されているにもかかわらず、継続的なサイクル下で安定である。
【0080】
実施例3−Pt3YのARXPS
本発明において採用されているような合金の貴金属被膜に対する証拠は、図8において提供されており、これは、Pt3Y試料の深さプロファイルであって、角度分解X線光電子分光分析データで構成されている。これは、(上記において実施例2で説明したような)電気化学電池における触媒活性の測定の後に測定した。この場合、当該被膜は、触媒表面を酸性電解質に晒すことによって形成され、卑金属Yは、表面層から自然に溶解するであろう。
【0081】
図8aおよび8bは、表面垂線に対する分析装置の角度の関数として、Ptの4fおよびYの3dのピークの強度を示している。電気化学電池からXPS分析室へ触媒表面を移動させるプロセスにおいて、当該表面は、実験室の大気から生じる、有機物による偶発的な層で汚染されるであろう。これは、反応条件下には存在しないであろう。結果として、PtおよびYの両方のピークは、高い角度では非常に強度が低いが、この場合、分析は主に表面のすぐ近傍を調べている。しかしながら、角度が減少するに従い、測定は表面下のより深い部分を調べることになるために、PtおよびYの両方のピークの強度は増加する。図8cの深さプロファイルは、CおよびOの対応するピークと、図8aおよび7bに示したデータを組み合わせたモデルとで構成される。図1cの軸の絶対値はあまり正確ではなく、データを近似するために使用したモデルへの入力に応じて変わる。その結果、当該データは、定量的よりも定性的に解釈されるべきである。表面において、非常に小さなPtのシグナルが存在するが、Yのシグナルは存在せず、大きなCおよびOのシグナルが存在しており、これは、有機不純物で構成された被覆層が存在するという概念を支持している。しかしながら、Ptのピークは、C、O、およびYのシグナルが無視できる表面下およそ1nmにおいて、最大値の100%相対強度まで増加する。これは、完全にPtから成る触媒表面に被膜が存在することの明確な証拠を提示している。当該被膜の下では、深さの増加に伴って、バルク組成を表す一定強度にYおよびPtの両方が達するまで、Yの濃度も増加する。
【0082】
実施例4−Pt5YおよびPt5Laの活性
反応電流密度を測定し、実施例2において説明したように、Pt5YおよびPt5Laに対して同じ方法で計算した。結果を、Pt、Pt3Sc、およびPt3Yの結果と一緒に図6に示す。0.9Vでは、Pt5LaおよびPt5Yは、それぞれ3倍および4倍の向上を示している。0.85Vでは、当該増強は、それぞれPt5LaおよびPt5Yについておよそ6倍および8倍である。
【0083】
したがって、触媒のランク付けは、Pt3Y>Pt5Y>Pt5La>Pt3Sc>Ptであることがわかる。
【0084】
本発明について特定の態様と関連して説明してきたが、いかなる点においても、提示された実施例に限定されるとは解釈されるべきではない。本発明の範囲は、一連の添付した特許請求の範囲によって設定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd、Pt、およびそれらの混合物から選択される1種または複数種の貴金属と、Sc、Y、およびLa、ならびにそれらの任意の混合物からなる群より選択される少なくとも1種の他の元素とを含有する合金を含む電極であって、該合金が導電性担持材料上に担持されており、ただし、該合金が、Pt5La、Pt3Sc、Pt4Y、またはPt3Yの場合、該電極も、0.1〜20重量%の、モリブデン、タンタル、およびタングステンからなる群より選択される1種または複数種の金属、ならびに0.5〜25重量%の、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムからなる群より選択される1種または複数種の元素を含有しない、電極。
【請求項2】
貴金属が白金である、請求項1記載の電極。
【請求項3】
他の元素が、Y、La、またはそれらの混合物である、請求項1または2のいずれか一項記載の電極。
【請求項4】
1種または複数種の貴金属と少なくとも1種の他の元素との間の原子比が、3:1〜8:1の範囲内である、前記請求項のいずれか一項記載の電極。
【請求項5】
1種または複数種の貴金属と少なくとも1種の他の元素との間の原子比が、3:1〜5:1である、前記請求項のいずれか一項記載の電極。
【請求項6】
前記合金がPt3Yである、前記請求項のいずれか一項記載の電極。
【請求項7】
前記合金がPt5Laである、請求項1〜5のいずれか一項記載の電極。
【請求項8】
前記合金がPt5Yである、請求項1〜5のいずれか一項記載の電極。
【請求項9】
前記合金が、少なくとも70重量%の金属間化合物を含有する、前記請求項のいずれか一項記載の電極。
【請求項10】
前記請求項のいずれか一項記載の電極と電解質とを含む電気化学電池であって、燃料電池である、電気化学電池。
【請求項11】
前記電極が陰極である、請求項10記載の電気化学電池。
【請求項12】
前記電極の合金が、電解質への曝露に際して貴金属被膜を形成する、請求項10または11のいずれか一項記載の電気化学電池。
【請求項13】
電解質がイオン伝導性膜である、請求項10〜12のいずれか一項記載の電気化学電池。
【請求項14】
電気触媒としての、請求項1〜9のいずれか一項記載の合金の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図8c】
image rotate


【公表番号】特表2012−533837(P2012−533837A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519889(P2012−519889)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050193
【国際公開番号】WO2011/006511
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(511195736)ダンマークス テクニスク ユニバーシテット (2)
【Fターム(参考)】