説明

燃料電池電極の製造方法

【課題】 任意の所定形状の電極中の、電極構成成分の組成、濃度を三次元的に変化させた燃料電池電極の製造方法の提供。
【解決手段】 (1)感光体ドラムを帯電させ光を照射して照射部分を光の強さに応じて除電し帯電部位に電極材料を帯電の強さに応じて静電気で付着させこれを膜に転写することを複数回実行して電極を形成する燃料電池電極14、17の製造方法において、各回で電極材料12P、15Pの種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御して、電極構造を三次元的に制御する燃料電池電極の製造方法。
(2)燃料電池電極の製造をカラー複写に対応させた場合、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、種類の異なる触媒層を複数層塗り重ねた、固体高分子電解質型燃料電池電極の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】固体高分子電解質型燃料電池は、イオン交換膜からなる電解質膜とこの電解質膜の一面に配置されたアノードおよび電解質膜の他面に配置されたカソードとからなる膜−電極アッセンブリ(MEA:Membrane-Electrode Assembly )と、アノード、カソードに燃料ガス(水素)および酸化ガス(酸素、通常は空気)を供給するための流体流路を形成するセパレータとを複数重ねてセル積層体とし、セル積層体のセル積層方向両端に、ターミナル(電極板)、インシュレータ、エンドプレートを配置し、セル積層体をセル積層方向に締め付け、セル積層体の外側でセル積層方向に延びる締結部材(たとえば、テンションプレート)にて固定したスタックからなる。アノード、カソードは触媒層を有する。触媒層とセパレータとの間には拡散層が設けられる。固体高分子電解質型燃料電池では、アノード側では、水素を水素イオンと電子にする反応が行われ、水素イオンは電解質膜中をカソード側に移動し、カソード側では酸素と水素イオンおよび電子(隣りのMEAのアノードで生成した電子がセパレータを通してくる、またはセル積層体の一端のセルのアノードで生成した電子が外部回路を通してくる)から水を生成する反応が行われる。
アノード側:H2 →2H+ +2e-カソード側:2H+ +2e- +(1/2)O2 →H2 O電解質膜には、通常、厚さが10〜100μm程度のものが用いられる。触媒層は、それぞれ1〜10μm程度の厚さで、電解質膜の両面に、あるいは拡散層(カーボンペーパ、カーボンクロスからなる)の片面に、塗布・形成される。電解質膜に電極(アノード、カソード)材料を塗布する方法としては、従来、印刷、ローラーコート、スプレー等により直接塗布する湿式塗布方法と、予めポリテトラフルオロエチレンシート等に塗布した触媒層を熱転写(ホットプレス)で電解質膜に付着させシートを除去する方法がある。また、特殊な塗布方法として、特開平3−295168号公報は、燃料電池の電極材料を電解質膜全面に静電気により付着させる方法を開示している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】特開平3−295168号公報の方法は、乾式塗布のため、従来の湿式塗布における溶剤の電解質膜の攻撃、膨潤・収縮による電極のクラック発生などの問題は除去できるが、なお、つぎの問題があった。すなわち、所定形状パターンの電極中において電極構成成分の組成や濃度を三次元的に(電極厚さ方向および電極厚さ方向と直交する面内方向の少なくとも一方向に)変えた電極を作ることはできない。本発明の目的は、任意の所定形状の電極中の、電極構成成分の組成、濃度を三次元的に(電極厚さ方向、それと直交面内方向の少なくとも一方向に)変化させた燃料電池電極の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 感光体ドラムを帯電させ光を照射して照射部分を光の強さに応じて除電し帯電部位に電極材料を帯電の強さに応じて静電気で付着させこれを膜に転写することを複数回実行して電極を形成する燃料電池電極の製造方法において、各回で電極材料の種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御して、電極構造を三次元的に制御する燃料電池電極の製造方法。
(2) 燃料電池電極の製造をカラー複写に対応させた場合、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する(1)記載の燃料電池電極の製造方法。
(3) 電極材料はカーボン粒子、該カーボン粒子に担持される触媒貴金属と、該カーボン粒子および該触媒貴金属が膜へ転写される前または転写された後に該カーボン粒子および該触媒貴金属に混合されるバインダーを成分として含んでおり、これら成分の種類、混合比率、混合形態、各成分の粒子サイズの何れか少なくとも一つを異ならせることにより、電極材料の種類が異ならされる(1)記載の燃料電池電極の製造方法。
【0005】上記(1)〜(3)の燃料電池電極の製造方法では、各回で電極材料の種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御するので、電極の構造(組成・密度、膜厚等)を、三次元的に(電極厚さ方向およびそれと直交する面内方向に)任意に制御することができる。本方法をカラー複写(カラーコピー)に対応させると、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する。電極材料の種類は、成分の混合比率、混合形態、各成分の粒子サイズの何れか少なくとも一つを異ならせることにより変えることができる。本方法は、静電気による電極材料の感光体ドラム表面への付着とその転写であるため、乾式法であり、従来の湿式塗布における溶剤の電解質膜の攻撃、膨潤・収縮による電極のクラック発生はない。
【0006】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の燃料電池電極の製造方法を図1〜図8を参照して、説明する。本発明の燃料電池電極の製造方法によって製造された電極を有する燃料電池は、固体高分子電解質型燃料電池10である。本発明の燃料電池10は、たとえば燃料電池自動車に搭載される。ただし、自動車以外に用いられてもよい。
【0007】固体高分子電解質型燃料電池10は、図1R>1、図2に示すように、イオン交換膜からなる電解質膜11とこの電解質膜11の一面に配置されたアノード14および電解質膜11の他面に配置されたカソード17とからなる膜−電極アッセンブリ(MEA:Membrane-Electrode Assembly )と、アノード、カソードに燃料ガス(水素)および酸化ガス(酸素、通常は空気)を供給するための燃料ガス流路27、酸化ガス流路28を形成するセパレータ18とを複数重ねてセル19の積層体とし、セル積層体のセル積層方向両端に、ターミナル20(電極板)、インシュレータ21、エンドプレート22を配置し、セル積層体をセル積層方向に締め付け、セル積層体の外側でセル積層方向に延びる締結部材(テンションプレート24)、ボルト25にて固定したスタック23からなる。アノード14、カソード17は触媒層12、15を有する。触媒層12、15とセパレータ18との間には拡散層13、16が設けられる。セパレータ18には、セルを冷却するための冷媒(通常、冷却水)が流れる冷媒流路26も形成されている。
【0008】触媒層12、15からなる電極14、18は、電解質膜11の両面に塗布形成されるか、あるいは拡散層13、16の片面に塗布形成される。電極形成材料は、カーボン粉末に触媒貴金属(たとえば、Pt)を担持させたものである。カーボン粉末および触媒貴金属の電極形成材料は、導電性を有するが、非磁性である。そして、非磁性である点において、コピー機のトナーと異なる。電極形成材料はバインダー(電解質)粉末を混合されているものを用いてもよい。電解質膜は非磁性、非導電性である。
【0009】本発明の燃料電池電極の製造方法を実施する装置は、図3、図4に示すように、膜送り方向に複数の電極材料転写部が順に設置されている。各電極材料転写部は、感光体ドラム30と、感光体ドラム30表面を静電気で帯電させる帯電ローラー31と、感光体ドラム30に投光し感光体ドラム表面のうち所定パターン(この所定パターン部位に電極層が形成される)以外の部分を除電する投光装置32(レーザ光が投光された部位が除電される)と、電極材料粉末12P、15Pを収容している容器33から感光体ドラム30表面に電極材料粉末12P、15Pを供給する材料供給ローラー34と、感光体ドラム30との間に電解質11または拡散層13、16からなる膜を通し該膜11(または13、16であるが、以下では、膜11とする)を上記感光体ドラム30に圧接するもう一つのドラム30Aまたはローラー30Bと、感光体ドラム30位置より膜11の送り方向下流に設けられた定着ローラー35と、からなる。
【0010】感光体ドラム30、帯電ローラー31、材料供給ローラー34、感光体ドラム30に圧接するもう一つのドラム30Aまたはローラー30Bを備えた電極材料転写部と、定着ローラー31を備えた定着部とは、不活性ガス雰囲気36中に配設されている。不活性ガスは、たとえば窒素である。不活性ガス雰囲気36中に配設するのは、加熱雰囲気(たとえば、定着ローラー35を加熱する場合は50〜150℃に加熱する)で塗布が行われるので、カーボン粉末の発火のおそれを皆無にして、万全の安全性を期するためである。
【0011】本発明の燃料電池電極の製造方法を実施する装置は、電極材料粉末12P、15Pがバインダー(バインダーは電解質からなる)をまぶせられたりバインダー粒子を混合されていない場合には、定着ローラー35より膜11の送り方向下流に設けられたバインダー供給装置37およびその下流に設けられた乾燥部40とをさらに有していてもよい。バインダー供給装置37はバインダー塗布部を構成する。電極材料粉末12P、15Pがバインダーをまぶせられたりバインダー粒子を混合されている場合は、バインダー供給装置37および乾燥部40を設けなくてもよい。乾燥部40は常温〜150℃までの温度を有し、バインダーを乾燥させる。
【0012】本発明の燃料電池電極の製造方法は、電極材料粉末12P、15Pを静電気にて感光体ドラム30上に保持させる工程と、感光体ドラム30上の電極材料粉末を、転写を行って(感光体ドラム30からいったん中間媒体膜に転写し該中間媒体膜から目標の膜に転写する場合を含む)目標の膜(以下、膜が電解質膜11である場合を例にとるが拡散層膜13、16でもよい)に転写する工程と、転写された所定パターンの電極材料粉末12P、15Pを膜11に定着させる工程と、を有している。
【0013】上記電極材料粉末を静電気にて感光体ドラム30上に保持させる工程においては、帯電ローラ31を感光体ドラム30に接触させて感光体ドラム30表面を静電気で帯電させ、感光体ドラム30表面に或るパターンをもってレーザ光をあてて光の強さに応じて除電し、感光体ドラム30に電極材料粉末12P、15Pを供給して感光体ドラム30表面の所定パターン(除電部位のパターンと反対パターン)の帯電部位に帯電の強さに応じて電極材料粉末12P、15Pを静電気にて保持させる。コピー機の場合は磁力で粉末をドラム上に保持させるが、本発明では静電気で感光体ドラム30上に電極材料粉末12P、15Pを保持させる。ついで、静電保持させた電極材料粉末12P、15Pを膜11に転写する。この転写を複数の電極材料転写部位で1回ずつ行うことにより、全ての電極材料転写部位を通過した時には、複数回の塗布が行われた電極が形成される。
【0014】図5は所定パターンの一例を示す。図5では、触媒層の面内構成を、ガス流路27、28に対応する部分(「黒」と表示した部分)と、セパレータリブに対応する部分(「赤」と表示した部分)とで変えたものを示している。ガス流路27、28に対応する部分は拡散層13、16がセパレータリブで押圧されていないためガスが十分に流れてきて発電反応を生じ得るので触媒成分が多いことが望ましいが、セパレータリブで押圧される部分はガスの流通が不十分なため触媒成分を少なくして高価な触媒成分を少量にすることが望ましい。レーザ光をあてるパターンと光の強弱を変える(リブ対応部はレーザ光量を強くしガス流路対応部はレーザ光量を零にするかまたは弱くする)ことによって、この条件を容易に満足させることができ、最適出力とコストダウンとを両立させることができる。
【0015】膜11に転写された所定パターンの電極材料粉末12P、15Pを膜11に定着させる工程においては、定着が所定の圧力と所定の熱をもって行われる。圧力は4MPa以上で、コピー機の場合の圧力の約10倍であり、温度は50〜150℃が望ましい。150℃以上では膜11が温度でダメージを受け、50℃以下では加熱の効果が少ないからである。80〜120℃程度が好ましい。
【0016】転写された所定パターンの、カーボン粒子、触媒貴金属からなる電極材料粉末12P、15Pを膜11に定着ローラー35にて定着させる工程の後に、定着された電極材料粉末上に液状バインダー38を塗布する工程と、塗布した液状バインダーを乾燥させる工程を、設けてもよい。液状バインダー38はローラー39塗布してもよいし、スプレー塗布してもよい。これらの工程を設けるのは、電極材料粉末12P、15Pの膜11への定着をより完全にするためである。
【0017】ただし、電極材料粉末12P、15Pを静電気にて感光体ドラム30上に所定パターンをもって保持させる工程において、カーボン、触媒貴金属からなる電極材料粉末12P、15Pに予めバインダーをまぶしておいたり、あるいはカーボン、触媒貴金属からなる電極材料粉末12P、15Pに予め粉体バインダーを混合しておく場合は、定着工程でカーボン、触媒貴金属、バインダーからなる電極材料粉末12P、15Pが膜11に十分に定着するので、上記の液状バインダー38塗布工程とその乾燥工程は設けなくてもよい。
【0018】本発明の方法では、図6〜図8に示すように、電極材料12P、15Pを膜11に転写することを複数回実行して電極14、17を形成する際に、各回で電極材料12P、15Pの種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御して、電極構造を三次元的に制御する。燃料電池電極の製造をカラー複写に対応させた場合、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する。
【0019】電極材料12P、15Pはカーボン粒子、該カーボン粒子に担持される触媒貴金属と、該カーボン粒子および該触媒貴金属が膜へ転写される前または転写された後に該カーボン粒子および該触媒貴金属に混合されるバインダーを成分として含んでおり、これら成分の種類、混合比率、混合形態、各成分の粒子サイズの何れか少なくとも一つを異ならせることにより、電極材料の種類が異ならされる。さらに詳しくは、カーボン粒子径・形状を変えるか、カーボン粒子に担持させている貴金属の種類(白金、ルテニウム、または複数種の貴金属の混合したもの、その混合割合を変えたもの、等)を変えるか、カーボンと貴金属と電解質の含有比率を変えるか、電解質の混合のさせ方を変えるか(貴金属担持のカーボン粒子に電解質をまぶしておくか、電解質の粒子を貴金属担持のカーボン粒子と混合させるか、等)等により、電極材料の種類が変えられる。
【0020】カラー複写の色は、青、赤(マゼンダ)、黄、黒の4色であるが、電極材料の場合は色数は4に限る必要はない。そして、電極材料の種類の数だけの電極材料転写部の電極材料収容装置33を膜送り方向に設置しておき、各種類の電極材料を別々に電極材料収容装置33に入れておき、送られる膜11に各種の電極材料を順次塗布していく。
【0021】図7、図8は4種(カラー複写で言えば4色)の電極材料を電解質膜11上に塗り重ねていく場合の電極14、17の断面構造の一例を示している。図7の例では、第1触媒層は第1の種類(カラー複写で言えば、たとえば、色が「黒」)の電極材料を電解質膜平面上に面内方向に濃淡を付けて塗布する。第2触媒層は第2の種類(カラー複写で言えば、たとえば、「黄」)の電極材料を第1触媒層平面上に面内方向に厚さを異ならせて(カラー複写で言えば、濃淡を付けて)塗り重ねる。第3触媒層は第3の種類(カラー複写で言えば、たとえば、「赤」)の電極材料を第2触媒層平面上に面内方向に厚さを異ならせて(カラー複写で言えば、濃淡を付けて)塗り重ねる。第4触媒層は第4の種類(カラー複写で言えば、たとえば、「青」)の電極材料を第3触媒層平面上に面内方向に厚さを異ならせて(カラー複写で言えば、濃淡を付けて)濃淡を付けて塗り重ねる。その結果、図8に示す断面構造をもつ電極14、17が形成される。この場合、複数層からなる電極の厚さは、接触圧を均一にする上で、一定であることが望ましい。
【0022】たとえば、水素濃度、水素入口から水素出口に向かって燃料ガス流路に沿って減少し、酸素濃度も空気入口から空気出口に向かって酸化ガス流路に沿って減少するので、発電をセル面内で均一に行う場合には、水素出口側で水素入口側に比べてアノード14の触媒金属比率を増大させ、空気出口側で空気入口側に比べてカソード17の触媒金属比率を増大させる、といった具合である。塗布制御は、反応ガスの流路パターン、その流路に沿った反応ガスの設計濃度、温度、湿度、セル面内の設計電流密度、各電極材料収容装置33に入れた各種電極材料の種類、等のデータをコンピュータに入力して投光装置32が投光すべき投光の強度値を演算し、その出力値を投光装置32に送って、塗布面内方向に投光走査していく際の投光の強度を制御する等によって、容易に行うことができる。
【0023】つぎに、上記の本発明の方法の作用を説明する。まず、感光体ドラム30表面全面を帯電させ、レーザ光投光の際、電極材料を塗布しない部分にパターン露光してその部分を除電し、静電気を帯電している部分のみに電極材料粉末12P、15Pを付着させ、それを電解質11または拡散層13、16からなる膜に転写するので、露光のパターンと該露光パターンの各部位での強弱のコントロールで任意の形状の電極14、17や、所定形状中の各部位において濃度等を変えた電極14、17を作ることができる。
【0024】すなわち、パターン露光のため、任意の形状の電極14、17が得られ、かつその形状の中においても、電極濃度(コピーで言えば濃淡)を変えることができる。たとえば、セパレータの溝(ガス流路)に対応する部分は電極材料粉末を高濃度で形成し、セパレータのリブ(ガス流路でない部分)で拡散層を介して圧接される部分は電極材料粉末を低濃度で形成することができ、高価な触媒貴金属の塗布量を低減できる。また、ガスは下流にいく程低濃度になるので、それに合わせて電極材料粉末の塗布濃度を変えることができ、流路に沿って均一な発電とすることにも寄与できる。従来はこのようなセル面内でパターンや濃度を変えることはできないが、本発明ではコピーと同じように変えることが容易にできる。
【0025】また、静電気による電極材料粉末12P、15Pの感光体ドラム30表面への付着とその転写(膜11への転写)であるため、本発明は乾式法であり、従来の湿式塗布における溶剤の電解質膜の攻撃、膨潤・収縮による電極のクラック発生などの問題が除去される。
【0026】つぎに、図3、図4のそれぞれの実施例に示す方法を説明する。図3の実施例では、膜11の両面に電極材料粉末12P、15Pが塗布され触媒層12、15が形成される。膜11は、上から下に送られる。電極材料転写工程とその定着工程が膜送り方向に複数回実行される。図示例は複数回(図3の例では2回の場合を示すが2回に限るものではない)実行される場合を示し、第1回目の電極材料転写部、その定着部、第2回目の電極材料転写部、その定着部が、膜送り方向に順に設けられて、塗布、定着が実行される。また、電極材料粉末収容容器33内の電極材料粉末12P、15Pはバインダーをまぶされておらず、あるいはバインダー粒子が混合されていないので、最終の定着工程の後にバインダー塗布工程とバインダー乾燥工程が設けられている。バインダー塗布はたとえばロールコートによる。図3の方法では、電極材料粉末収容容器33にはそれぞれ異なる種類の電極材料12P(15p)が入れられており、各電極材料転写部では、各層の塗布パターン形状、濃度、層厚を、変えることができる。これにより、セル面内方向の塗布パターン形状、濃度、組成、および厚さ方向の層厚さ、組成、等を変化させることができ、電極14、17の構造を三次元に変化させることができる。
【0027】図4の実施例では、膜11(または13、16)の片面に膜送り方向に複数設けた電極材料転写部で、複数回(図示例では回数は2であるが、2に限るものではない)、電極材料粉末12P、15Pが塗布され、全層の塗布後、塗布電極材料は定着部35で膜11(または13、16)に定着され、電極14、17が形成される。膜11(または13、16)は、水平に送られる。電極材料粉末収容容器33内の電極材料粉末12P、15Pはバインダーをまぶされておらず、あるいはバインダー粒子が混合されていないので、定着工程の後にバインダー塗布工程とバインダー乾燥工程が設けられている。図4の方法では、電極材料粉末収容容器33にはそれぞれ異なる種類の電極材料12P(15p)が入れられており、各電極材料転写部では、各層の塗布パターン形状、濃度、層厚を、変えることができる。これにより、セル面内方向の塗布パターン形状、濃度、組成、および厚さ方向の層厚さ、組成、等を変化させることができ、電極14、17の構造を三次元に変化させることができる。
【0028】
【発明の効果】請求項1〜3の燃料電池電極の製造方法によれば、各回で電極材料の種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御するので、電極の構造(組成・密度、膜厚等)を、三次元的に(電極厚さ方向およびそれと直交する面内方向に)任意に制御することができる。また、本方法は、静電気による電極材料の感光体ドラム表面への付着とその転写であるため、乾式法であり、従来の湿式塗布における溶剤の電解質膜の攻撃、膨潤・収縮による電極のクラック発生はない。請求項2の燃料電池電極の製造方法によれば、本方法をカラー複写(カラーコピー)に対応させることができる。その場合、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する。請求項3の燃料電池電極の製造方法によれば、電極材料の種類を、成分の混合比率、混合形態、各成分の粒子サイズの何れか少なくとも一つを異ならせることにより変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池電極の製造方法で製造された電極をもつ燃料電池の全体正面図である。
【図2】図1のセルの拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施例の燃料電池電極の製造方法を実施する装置の側面図である。
【図4】本発明のもう一つの実施例の燃料電池電極の製造方法を実施する装置の側面図である。
【図5】本発明の燃料電池電極の製造方法で製造された燃料電池電極の塗布パターンを示す平面図である。
【図6】本発明の燃料電池電極の製造方法で製造された燃料電池電極の、流路に沿った、ガス圧・濃度の分布を示す平面図である。
【図7】本発明の燃料電池電極の製造方法における各回塗布で塗布面内における濃度(色に対応)の変化を示す各塗布層の平面図である。
【図8】図7の各回の塗布層を複数層に塗り重ねて示した電極の厚さ方向の断面図である。
【符号の説明】
10 (固体高分子電解質型)燃料電池
11 電解質膜
12 触媒層
12P 電極材料粉末(アノード用)
13 拡散層
14 電極(アノード、燃料極)
15 触媒層
15P 電極材料粉末(カソード用)
16 拡散層
17 電極(カソード、空気極)
18 セパレータ
19 セル
20 ターミナル
21 インシュレータ
22 エンドプレート
23 スタック
24 テンションプレート
25 ボルト
30 感光体ドラム
30A 対向ドラム
30B 対向ローラー
31 帯電ローラー
32 投光装置(レーザ光投光手段)
33 電極材料収容装置
34 電極材料粉末供給ローラー
35 定着ローラー
36 不活性ガス雰囲気
37 バインダー塗布ユニット
38 バインダー
39 バインダー塗布ローラー
40 乾燥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 感光体ドラムを帯電させ光を照射して照射部分を光の強さに応じて除電し帯電部位に電極材料を帯電の強さに応じて静電気で付着させこれを膜に転写することを複数回実行して電極を形成する燃料電池電極の製造方法において、各回で電極材料の種類を異ならしめ、各回で塗布層厚を制御して、電極構造を三次元的に制御する燃料電池電極の製造方法。
【請求項2】 燃料電池電極の製造をカラー複写に対応させた場合、各回の電極材料の種類がカラー複写の色に対応し、各回の塗布層厚がその回で塗布される色の濃さに対応する請求項1記載の燃料電池電極の製造方法。
【請求項3】 電極材料はカーボン粒子、該カーボン粒子に担持される触媒貴金属と、該カーボン粒子および該触媒貴金属が膜へ転写される前または転写された後に該カーボン粒子および該触媒貴金属に混合されるバインダーを成分として含んでおり、これら成分の種類、混合比率、混合形態、各成分の粒子サイズの何れか少なくとも一つを異ならせることにより、電極材料の種類が異ならされる請求項1記載の燃料電池電極の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図5】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【公開番号】特開2003−163010(P2003−163010A)
【公開日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−362229(P2001−362229)
【出願日】平成13年11月28日(2001.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】