説明

燃料電池

【課題】燃料欠乏時の材料劣化を抑制することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】アノード2及びカソード3、並びに、アノードとカソードとの間に配設される電解質膜1を備えるMEA5と、アノード側へ配設される第1セパレータ6と、カソード側へ配設される第2セパレータ7と、を備え、第1セパレータが多孔質カーボン材料により形成されるとともに、該第1セパレータに、少なくとも水を含む熱媒体が流通し得る熱媒体流路9aが備えられ、少なくとも、該熱媒体流路の表面に、水電解触媒10が配設され、第1セパレータの内部にプロトン伝導性材料が備えられている燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に燃料欠乏時の材料劣化を抑制することが可能な燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜と、当該電解質膜の両側に配置される電極(アノード及びカソード)とを備える膜電極接合体(以下において、「MEA(Membrane Electrode Assembly)」と記述する。)における電気化学反応により発生した電気エネルギーを、MEAの両側に配設されるセパレータを介して外部に取り出している。燃料電池の中でも、家庭用コージェネレーション・システムや自動車等に使用される固体高分子型燃料電池(以下において、「PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)」と記述する。)は、低温領域での運転が可能である。また、PEFCは、高いエネルギー変換効率を示し、起動時間が短く、かつシステムが小型軽量であることから、電気自動車や携帯用電源の最適な動力源として注目されている。
【0003】
PEFCの単セルは、電解質膜、少なくとも触媒層を備えるカソード及びアノードを具備し、その理論起電力は1.23Vである。しかし、かかる低起電力では、電気自動車等の動力源として不十分であるため、通常は、単セルを直列に積層して積層体を形成し、この積層体における積層方向の両端にエンドプレート等を配置して形成されるスタック形態のPEFCが使用されている。そして、接触抵抗を低減させる等の観点から、スタック形態のPEFCでは、その両端側から締結圧力が加えられている。
【0004】
PEFCにおける電気発生の源となる電気化学反応は、例えば以下の工程で進行する。まず、アノードへと届けられた水素は、触媒(例えば、白金担持カーボン等)の存在下、水素イオンと電子とに分解される。
アノード側:H → 2H + 2e (式1)
そして、発生した水素イオン(以下、「プロトン」ということがある。)は、湿潤状態でイオン伝導性能を発現する電解質膜を通過して、カソードへと移動する。電解質膜はイオンのみを通過させる性質を有するため、発生した電子は電解質膜を通過することができず、外部の回路を通ってカソードへと移動する。燃料電池においては、かかる電子の移動により、電気が発生する。一方で、カソードへと届けられた酸素が、カソードへと移動してきたプロトン及び電子と反応することにより、水が生成される。
カソード側:2H + 2e + (1/2)O → HO (式2)
【0005】
ところで、PEFCを作動させると、セル内部は様々なガス状態となるため、燃料(水素)が欠乏してアノードが高電位状態(例えば、1.5V等の電位状態。以下において同じ。)に曝される虞がある。高電位状態になると、アノードの構成材料(例えば、白金、カーボン等)が劣化し、PEFCの性能が低下するため、燃料欠乏時における材料劣化を抑制することが望まれる。
【0006】
燃料欠乏時における材料劣化等を抑制することにより燃料電池の性能を向上させることを目的とした技術は、これまでにいくつか開示されてきている。例えば、特許文献1には、水素欠乏時にアノード触媒の担体が腐食されるのを防止するため、電極触媒に水電解触媒を混合する技術が開示されており、この技術によれば、燃料電池の電池反転に対する耐性をより強力にすることができる、としている。
【0007】
また、特許文献2には、高分子固体電解質形燃料電池の燃料極において、高分子固体電解質膜に接し、燃料電池反応を進行させる少なくとも1層の反応層と、拡散層に接し、燃料極中の水を電気分解する少なくとも1層の水分解層と、からなることを特徴とする高分子固体電解質形燃料電池の燃料極に関する技術が開示されている。この技術によれば、燃料の欠乏が生じても電極特性の低下を起こし難い高分子固体電解質形燃料電池の燃料極を提供できる、としている。なお、特許文献2における「高分子固体電解質形燃料電池」は上記PEFCに相当し、「燃料極」は上記アノードに相当する。
【0008】
さらに、特許文献3には、触媒と、電子−プロトン両伝導性を有する混合導電性材料とを具備する電極が備えられる高分子電解質型燃料電池に関する技術が開示されており、混合導電性材料としてスルホン化ポリアニリンが例示されている。この技術にかかる高分子電解質型燃料電池によれば、電極内部の反応面積を増大させ、より高い性能を発揮する、としている。なお、特許文献3における「高分子電解質型燃料電池」は上記PEFCに相当する。
【特許文献1】特表2003−508877号公報
【特許文献2】特開2004−22503号公報
【特許文献3】特開2001−110428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術により、電極内に水電解触媒を配置しても、当該水電解触媒へと供給される水が不足すると、水の電気分解反応が起り難くなるため、材料劣化を抑制し難いという問題があった。
【0010】
他方、特許文献3に開示されている技術は、電極とイオン交換膜との界面で十分な反応面積が確保できないという課題に対して、プロトン伝導性高分子電解質と触媒とを充分かつ均一に接触させることにより、電極内部の反応面積を増大させ、より高い性能を発揮し得るPEFCを提供すること等を目的としている。そして、当該特許文献3に、スルホン化ポリアニリンが例示されている。しかし、後述する本発明の課題は、特許文献3にかかる発明の課題と異なり、特許文献3には燃料欠乏時の材料劣化抑制について何も記載されていないため、本技術によっては燃料欠乏時の材料劣化を抑制し難いという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、燃料欠乏時の材料劣化を抑制することが可能な燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
請求項1に記載の発明は、アノード(下記実施形態の説明において、「アノード触媒層」という。)及びカソード(以下実施形態の説明において、「カソード触媒層」という。)、並びに、アノードとカソードとの間に配設される電解質膜を備えるMEAと、アノード側へ配設される第1セパレータと、カソード側へ配設される第2セパレータと、を備え、第1セパレータが多孔質カーボン材料により形成されるとともに、該第1セパレータに、少なくとも水を含む熱媒体が流通し得る熱媒体流路が備えられ、少なくとも、該熱媒体流路の表面に、水電解触媒が配設され、第1セパレータの内部にプロトン伝導性材料が備えられていることを特徴とする、燃料電池により、上記課題を解決する。
【0013】
ここで、「多孔質カーボン材料」とは、アノードへと供給される反応ガス(以下において、「水素」という。)及び水を拡散させ得る多数の細孔を備えるカーボン材料を意味する。本発明において、「第1セパレータが多孔質カーボン材料により形成される」とは、本発明にかかる第1セパレータに配設される水電解触媒、及び、第1セパレータに配設され得る逆浸透膜やガスシール構造等を除く、第1セパレータの主成分が、多孔質カーボン材料であることを意味する。さらに、「熱媒体流路」とは、プロトン伝導性能を発現させるため、電解質膜を所定の温度範囲(例えば、70〜90℃等)に維持すること等を目的として単セルへと供給される熱媒体が流通可能な経路を意味する。熱媒体の具体例としては、温水等の温熱媒体や、冷水、LLC等の冷却媒体を挙げることができる。加えて、「水電解触媒」とは、水の電気分解反応が生じ得る電位環境において、上記式1、式2で表わされる電気分解反応の進行に寄与する触媒(例えば、白金等。以下、「通常触媒」という。)よりも水の電気分解反応を生じさせやすい触媒を意味する。通常触媒が白金である場合、水電解触媒の具体例としては、Ir、IrO等のIr系材料や、RuO等のRu系材料の他、これらの複合物等を挙げることができる。さらにまた、「プロトン伝導性材料」とは、第1セパレータを形成する多孔質カーボン材料よりも良好なプロトン伝導性能と、燃料電池の作動環境に耐え得る耐食性と、第1セパレータ内に固定化され得る定着性と、電子伝導性と、を備える材料を意味し、これらの性質を備えていれば、特に限定されない。本発明にかかるプロトン伝導性材料の具体例としては、ポリアニリンに硫酸基、燐酸基、酢酸基等の酸性基を導入した、硫酸ポリアニリン、燐酸ポリアニリン、酢酸ポリアニリン等、ポリピロールに硫酸基、燐酸基、酢酸基等の酸性基を導入した、硫酸ポリピロール、燐酸ポリピロール、酢酸ポリピロール等、ポリアセンに硫酸基、燐酸基、酢酸基等の酸性基を導入した、硫酸ポリアセン、燐酸ポリアセン、酢酸ポリアセン等、を挙げることができる。さらに、「第1セパレータの内部にプロトン伝導性材料が備えられている」とは、水電解触媒上で生じたプロトン及び電子を、アノードへ供給可能な形態で、プロトン伝導性材料が備えられていることを意味する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池において、プロトン伝導性材料が、硫酸ポリアニリンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、プロトン伝導性材料を備え、多孔質カーボン材料により形成される第1セパレータに、少なくとも水を含む熱媒体が流通し得る熱媒体流路が備えられ、当該熱媒体流路の表面に水電解触媒が備えられている。そのため、熱媒体流路内を流れる熱媒体に含まれる水を、水電解触媒上で分解させてプロトン及び電子を生じさせることができ、このようにして生じたプロトン及び電子を、プロトン伝導性材料によりアノードへ導くことができる。したがって、燃料が欠乏することによりアノードが高電位状態に曝されても、第1セパレータからプロトン及び電子が供給されるので、アノードの構成材料の劣化を抑制できる。すなわち、請求項1に記載の発明によれば、燃料欠乏時における材料劣化を抑制し得る燃料電池を提供できる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、プロトン伝導性材料として硫酸ポリアニリンが備えられている。硫酸ポリアニリンは、硫酸基を備えるため、良好なプロトン伝導性能を有する。したがって、請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加え、プロトン伝導に起因する抵抗過電圧を低減し得る燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
アノードへと供給される水素が不足している燃料欠乏状態で燃料電池を作動させると、アノードが高電位状態に曝される。そして、高電位状態に曝されたアノードでは、上記式2の反応で消費されるプロトン及び電子を供給するため、以下の反応が生じる。
O → (1/2)O + 2H + 2e (式3)
ここで、上記式3は、水の電気分解反応であり、アノード側に水が存在する間は、当該反応によりプロトン及び電子が生成される。ところが、アノード側の水が枯渇する等の理由により、高電位状態に曝されたアノードで上記式3の反応が生じなくなると、アノードの構成材料としてカーボンが備えられる燃料電池では、以下の反応によってプロトン及び電子が生成される。
(1/2C) + HO → (1/2)CO + 2H + 2e (式4)
上記式4は、カーボンの酸化反応であり、かかる反応が進むと、触媒を担持しているカーボンや拡散層に含まれるカーボン等が劣化する。したがって、アノードの材料劣化を抑制するには、上記式4の反応を抑制することが必要であり、それには、燃料欠乏時にアノード側へ上記式3により分解される水を供給することが重要である。そして、上記式3の反応を生じさせるには、アノード側に水電解触媒が備えられる形態の燃料電池とすることが好ましい。
【0018】
本発明は、かかる観点からなされたものであり、その要旨は、アノード側に備えられる水電解触媒へ水を容易に供給可能とするとともに、水電解触媒上で生じたプロトン及び電子をアノードへ容易に伝達可能な構成とすることで、燃料欠乏時の材料劣化を抑制して発電性能を向上させることが可能な、燃料電池を提供することにある。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の図では、特に断らない限り、反応ガスや熱媒体のシール性を確保するために備えられるシール手段の記載を省略するが、本発明の燃料電池のシール性は、所定のシール手段(例えば、単セルの端部等に配設されるフッ素ゴム製のガスケット等)によって確保されているものとする。
【0020】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の燃料電池に備えられる単セル(以下、単に「燃料電池」という。)の一部構成例を概略的に示す断面図であり、図の左右方向が、セルの積層方向である。
【0021】
図示のように、第1実施形態にかかる本発明の燃料電池100は、電解質膜1と、その一方の側に配設されるアノード触媒層2a及び他方の側に配設されるカソード触媒層3aと、を備えるMEA5と、MEA5の一方の側に配設されるアノード拡散層2b及び他方の側に配設されるカソード拡散層3bと、アノード拡散層2bの外側へ配設される第1セパレータ6と、カソード拡散層3bの外側へ配設される第2セパレータ7と、を備えている。アノード2には、アノード触媒層2a及びアノード拡散層2bが、カソード3には、カソード触媒層3a及びカソード拡散層3bが、それぞれ備えられている。さらに、第1セパレータ6は、ポーラスカーボンにより形成され、第1セパレータ6には、第1反応ガス流路8a、8a、…、及び、熱媒体流路9a、9a、…が備えられている。第1セパレータ6の内部には、硫酸ポリアニリン11、11、…が備えられ、熱媒体流路9a、9a、…の表面には、水電解触媒10、10、…(例えば、Ir)が備えられている。また、第2セパレータ7には、第2反応ガス流路8b、8b、…、及び、熱媒体流路9b、9b、…が備えられている。そして、上記形態の燃料電池100は、第1反応ガス流路8a、8a、…に加湿された水素含有ガス(以下、「水素」という。)が、第2反応ガス流路8b、8b、…に加湿された酸素含有ガス(以下、「空気」という。)が、それぞれ供給されるとともに、第1熱媒体流路9a、9a、…及び第2熱媒体流路9b、9b、…に、冷水又は温水等の熱媒体(以下、「水」という。)が流通した状態で、作動される。
【0022】
第1反応ガス流路8a、8a、…を経て供給された水素は、カーボンペーパー等からなるアノード拡散層2bを経て、通常触媒(例えば、白金担持カーボン。以下において同じ。)及び電解質成分(例えば、Nafion等。Nafionは米国デュポン社の登録商標。以下において同じ。)を備えるアノード触媒層2aに達し、通常触媒上でプロトンと電子とに分解される(上記式1)。このようにして生成されたプロトンは、電解質成分を備える電解質膜1を通過して、通常触媒及び電解質成分を備えるカソード触媒層3aへと達する。これに対し、電子は電解質膜1を通過できないので、外部回路を経由してカソード触媒層3aへと達する。他方、第2反応ガス流路8b、8b、…を経て供給された空気は、カーボンペーパー等からなるカソード拡散層3bを経て、カソード触媒層3aへと達する。そして、カソード触媒層3aに備えられる通常触媒上で、酸素と、アノード触媒層2aから移動してきたプロトン及び電子とが反応することにより、水が生成される(上記式2)。アノード触媒層2a及びカソード触媒層3aへ十分な量の反応ガスが供給されている間は、上記式1及び式2の反応により水が生成され、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0023】
ところで、PEFCは通常、多数のセルが積層されたスタック形態で使用され、当該スタック形態のPEFCから電気エネルギーが取り出される。そのため、水素が十分に供給されない等の理由によりスタックに備えられる一部のセルが燃料欠乏により発電不能の状態に陥っても、その他のセルが通常に作動していれば、スタックから電気エネルギーを取り出すことができる。このように、発電不能セルを備えるスタックから電気エネルギーを取り出すと、当該発電不能セルでは、アノードが高電位状態に曝され、上記式3及び式4の反応が生じる。そして、アノード側の水が枯渇すると、上記式4の反応が進行し、アノードの材料が劣化する。
【0024】
一方で、第1反応ガス流路8a、8a、…には加湿された水素が供給されるとともに、燃料電池の作動時には上記式2により水が生成される。ここで、燃料電池10の通常作動時には、第1反応ガス流路8a、8a、…に十分な量の水素が供給されるので、アノード2に存在する余剰水は、第1反応ガス流路8a、8a、…内を流れる水素とともに、セル外へ排出することができる。しかし、アノード2への水素の供給が途絶える(以下、「水素欠状態になる」という。)と、水の排出効率が低下するため、第1セパレータ6に備えられる多数の細孔には水が滞留するものと考えられる。
【0025】
図示のように、本発明の燃料電池100には、第1セパレータ6の内部に硫酸ポリアニリン11、11、…が備えられ、第1セパレータ6に備えられる第1熱媒体流路9a、9a、…の表面に水電解触媒10、10、…が備えられている。そして、硫酸ポリアニリン11、11、…は、水電解触媒10、10、…とアノード拡散層2bとを繋ぐような形態で、備えられている。そのため、燃料電池100によれば、アノード2が水素欠状態となり、アノード2が高電位状態に曝されても、第1セパレータ6内に滞留した水に加え、第1熱媒体流路9a、9a、…内を流れる水を容易に水電解触媒10、10、…へ供給することができるので、当該水電解触媒10、10、…上で分解される水を容易に確保することができる。そして、この反応により生じたプロトン及び電子は、硫酸ポリアニリン11、11、…を経てアノード2へと導かれる。したがって、燃料電池100によれば、第1セパレータ6からアノード2へプロトン及び電子を供給することができるので、上記式4の反応を抑制してアノード2の材料劣化を抑制することができる。すなわち、第1実施形態にかかる燃料電池100によれば、燃料欠乏時における材料劣化を抑制することができる。
【0026】
ここで、本発明にかかる第1セパレータに備えられる硫酸ポリアニリンの配設方法としては、例えば、プレート状に形成された第1セパレータに第1熱媒体流路及び第1反応ガス流路を形成した後、当該第1熱媒体流路の表面から、第1反応ガス流路が形成されている面側へ貫通孔を空け、当該貫通孔に硫酸ポリアニリンを充填し固定する方法等を挙げることができる。このほか、減圧環境下で、第1熱媒体流路及び第1反応ガス流路が形成された第1セパレータ内に硫酸ポリアニリンを浸透させる等の方法で、硫酸ポリアニリンを配設し固定しても良い。
【0027】
また、本発明にかかる第1セパレータに備えられる水電解触媒の配設方法としては、例えば、ポーラスカーボンに第1熱媒体流路を形成した後、当該第1熱媒体流路の表面へ、水電解触媒を固定化する等の方法を挙げることができる。
【0028】
2.第2実施形態
図2は、第2実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図であり、図の左右方向が、セルの積層方向である。図2において、図1に示す部材・物質と同様の構成を採るものには、図1にて使用した符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0029】
図2に示すように、第2実施形態にかかる本発明の燃料電池200は、MEA5と、MEA5の一方の側に配設されるアノード拡散層2b及び他方の側に配設されるカソード拡散層3bと、アノード拡散層2bの外側へ配設される第1セパレータ26と、カソード拡散層3bの外側へ配設される第2セパレータ7と、を備えている。第1セパレータ26は、ポーラスカーボンにより形成されるとともに、第1反応ガス流路8a、8a、…、及び、第1熱媒体流路9a、9a、…が備えられ、第1熱媒体流路9a、9a、…の表面に水電解触媒10、10、…が備えられている。さらに、第1セパレータ26には、逆浸透膜22が備えられ、第1セパレータ26の内部には、硫酸ポリアニリン11、11、…が備えられている。そして、燃料電池200では、逆浸透膜22に対して、第1熱媒体流路9a、9a、…と反対側に位置する流路(図2では不図示)内をLLC等の熱媒体(以下、「LLC」という。)が流れ、逆浸透膜22を透過した純水(以下、単に「水」という。)が、第1熱媒体流路9a、9a、…へと移動し、この水が、水電解触媒10、10、…へと供給される。
【0030】
図2に示すように、本発明の燃料電池200には、逆浸透膜22が備えられている。そのため、水以外の熱媒体が使用されても、逆浸透膜22を透過した水のみを水電解触媒10、10、…上へ供給できる。そのため、第2実施形態によれば、水以外の熱媒体が用いられる場合であっても、アノードへプロトン及び電子を供給することができるので、燃料欠乏時における材料劣化を抑制し得る燃料電池を提供できる。
【0031】
ここで、第2実施形態にかかる第1セパレータ26に備えられる逆浸透膜22の配設方法としては、例えば、第1熱媒体流路9a、9a、…及び第1反応ガス流路8a、8a、…が形成された第1セパレータ26に、逆浸透膜22配設用の貫通孔を形成し、当該貫通孔に、溶解又は溶融状態の逆浸透膜を充填し固定化する等の方法を挙げることができる。また、貫通孔を設けることなく、端部をシール部材でシールすることもできる。
【0032】
上記実施形態では、プロトン伝導性材料として硫酸ポリアニリンが備えられる形態を例示したが、本発明の燃料電池に備えられるプロトン伝導性材料は、これに限定されない。燃料電池の作動環境下で、水電解触媒上で生じたプロトン及び電子をアノードへ供給可能であれば、他のプロトン伝導性材料が備えられていても良い。本発明の燃料電池に備えられ得るプロトン伝導性材料の具体例としては、硫酸ポリアニリンのほか、燐酸ポリアニリン、酢酸ポリアニリン、硫酸ポリピロール、燐酸ポリピロール、酢酸ポリピロール、硫酸ポリアセン、燐酸ポリアセン、酢酸ポリアセン等、を挙げることができる。但し、抵抗過電圧を低減することで燃料電池の性能を向上可能とする等の観点からは、良好なプロトン伝導性及び電子伝導性を備えるプロトン伝導性材料(例えば、硫酸ポリアニリン)を用いることが好ましい。
【0033】
また、上記実施形態では、水電解触媒としてIrが備えられる形態を例示したが、本発明の燃料電池に備えられ得る水電解触媒はIrに限定されない。本発明にかかる水電解触媒は、通常触媒よりも水の電気分解反応を生じさせやすい触媒であればよく、当該水電解触媒の具体例としては、Irのほか、IrO等のIr系材料、RuO等のRu系材料、これらの複合物等、を挙げることができる。
【0034】
さらに、上記実施形態では、第1熱媒体流路9a、9a、…の表面に水電解触媒10、10、…が備えられる形態を例示したが、本発明の燃料電池において、第1セパレータに備えられる水電解触媒が配設され得る箇所は、第1熱媒体流路の表面のみに限定されない。上記形態のほか、例えば、第1熱媒体流路の表面、及び、第1セパレータの内部に、水電解触媒が備えられる形態とすることも可能である。
【0035】
なお、上記実施形態では、通常触媒及び電解質成分を備える形態のアノード触媒層2aを例示したが、本発明の燃料電池では、通常触媒及び電解質成分と水電解触媒とを具備する形態のアノード触媒層としても良い。このような形態であれば、水の電気分解反応の発生頻度を向上させることができる。したがって、かかる形態であっても、アノードが高電位状態に曝された時の材料劣化を容易に抑制して発電性能を向上させることが可能な燃料電池を提供できる。
【0036】
さらに、これまで、アノード2及びカソード3に拡散層2b、3bが備えられる形態の燃料電池100、200を例示したが、本発明の燃料電池は拡散層を備える形態に限定されない。本発明の燃料電池において、アノード及びカソードは、少なくとも触媒層(アノード触媒層及びカソード触媒層)を備えていれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。
【図2】第2実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電解質膜
2 アノード
2a アノード触媒層
2b アノード拡散層
3 カソード
3a カソード触媒層
3b カソード拡散層
5 MEA
6、26 第1セパレータ
7 第2セパレータ
8a 第1反応ガス流路
8b 第2反応ガス流路
9a 第1熱媒体流路
9b 第2熱媒体流路
10 水電解触媒
11 硫酸ポリアニリン(プロトン伝導性材料)
22 逆浸透膜
100、200 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード及びカソード、並びに、前記アノードと前記カソードとの間に配設される電解質膜を備えるMEAと、前記アノード側へ配設される第1セパレータと、前記カソード側へ配設される第2セパレータと、を備え、
前記第1セパレータが多孔質カーボン材料により形成されるとともに、該第1セパレータに、少なくとも水を含む熱媒体が流通し得る熱媒体流路が備えられ、
少なくとも、前記熱媒体流路の表面に、水電解触媒が配設され、
前記第1セパレータの内部にプロトン伝導性材料が備えられていることを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記プロトン伝導性材料が、硫酸ポリアニリンであることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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