説明

燃料電池

【課題】天然ガス、ガソリンなどの炭化水素系燃料を、水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単に小型化でき、安定して効率よく経済的に発電できる燃料電池の提供。
【解決手段】天然ガス、ガソリンなどの炭化水素と水を負極活物質とし、プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜を隔膜とし、酸素や空気などの酸化剤を正極活物質として構成される燃料電池であって、好ましくは負極側に遷移金属からなる触媒を用いることにより課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものであり、さらに詳しくは、遷移金属およびその群からなる合金、酸化物、炭化物などを導入した電極からなり、負極活物質とし炭化水素を改質することなく直接的に用いる燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高いエネルギー効率を有し、環境負荷の少ない燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素やメタノールなどの燃料を酸素または空気などの酸化剤を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ型、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに分類される。固体高分子型燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
しかし、従来の燃料電池は、負極燃料として主に水素を用いたものが主流である(例えば、特許文献1〜3など参照)。このような燃料電池は、水素の可燃性や、爆発する危険性があることから、特別な安全配慮をする必要があるという問題がある他に、安全性への対応から、燃料電池装置の大型化や、インフラ設備への巨額の投資が必要になるなどの問題がある。
また、運送時の安全性から、有機燃料の改質水素を用いることも考えられているが、燃料電池本体に水素への改質機を組み込む必要性があり、装置の大型化が懸念されるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−311136号公報
【特許文献2】特開2000−195534号公報
【特許文献3】特開2006−93000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用できる天然ガス、ガソリンなどの炭化水素系燃料を水素に改質することなく、直接負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よく経済的に発電を行うことができる燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の請求項1記載の燃料電池は、炭化水素と水を負極活物質とし、プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜を隔膜とし、酸化剤を正極活物質として構成されることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2記載の燃料電池は、請求項1記載の燃料電池において、負極側に遷移金属からなる触媒を加えることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3記載の燃料電池は、請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池において、前記負極活物質にさらに酸素を加えることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項4記載の燃料電池は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が石油系炭化水素であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項5記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素がナフサであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素がガソリンであることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項7記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が軽油であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項8記載の燃料電池は、請求項1から請求項7いずれかに記載の燃料電池において前記炭化水素が沸点が0℃以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項9記載の燃料電池は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が天然ガスであることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項10記載の燃料電池は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素を、水素に改質することなく用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の燃料電池は、炭化水素と水を負極活物質とし、プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜を隔膜とし、酸化剤を正極活物質として構成されることを特徴とするものであり、
運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用できる天然ガス、ガソリンなどの炭化水素系燃料を水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よく経済的に発電できるという顕著な効果を奏する。
また、限りある資源を有効に使用して効率よく発電でき、炭酸ガスの排出量を最小限に抑えることができるという顕著な効果を奏する。
なお前記プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜とは、プロトン伝導性を有する膜か、あるいは、OH- 伝導性を有する膜か、あるいは、O2-伝導性を有する膜か、あるいは、OH- およびO2-の伝導性を有する膜である。
【0016】
本発明の請求項2記載の燃料電池は、請求項1記載の燃料電池において、負極側に遷移金属からなる触媒を加えることを特徴とするものであり、
負極反応を効率よく進めることができるので、より安定して効率よく経済的に発電できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0017】
本発明の請求項3記載の燃料電池は、請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池において、前記負極活物質にさらに酸素を加えることを特徴とするものであり、
酸素を加えることにより触媒表面への炭素析出(コーキング)を防止できるとともに、CO吸着などによる触媒の被毒を防止できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項4記載の燃料電池は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が石油系炭化水素であることを特徴とするものであり、
石油系炭化水素は例えばガソリンスタンド、LPGスタンド、ガス管、タンクローリーなど、運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、しかも水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よくより経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項5記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素がナフサであることを特徴とするものであり、
ナフサも運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、しかも水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よくより経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項6記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素がガソリンであることを特徴とするものであり、
ガソリンは運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、しかも水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よくより経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項7記載の燃料電池は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が軽油であることを特徴とするものであり、 軽油も運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、しかも水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よくより経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項8記載の燃料電池は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の燃料電池において前記炭化水素が沸点が0℃以上であることを特徴とするものであり、
複雑で高価な超低温貯蔵・気化装置などが不必要となる上、取り扱い易く、直接、負極燃料に供給して容易に用いることができるため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項9記載の燃料電池は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素が天然ガスであることを特徴とするものであり、
天然ガスも運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、しかも水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いることができるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よくより経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項10記載の燃料電池は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の燃料電池において、前記炭化水素を、水素に改質することなく用いることを特徴とするものであり、
水素に改質することなく、炭化水素を直接、負極燃料に用いるので、経済的に発電を行うことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
以下に炭化水素系燃料を用いた場合の基本的な反応のコンセプトを示す。
[1]プロトン伝導膜を用いる場合の反応
負極:
mn +2mH2 O→mCO2 +(4m+n)H+ +(4m+n)e- (1)
【0026】
ガソリン(またはナフサ)の成分であるオクタンを例にとると、
818+16H2 O→8CO2 +50H+ +50e- (2)
が考えられる。
【0027】
この値は、オクタン1モル(114グラム)当たり、50ファラディの電荷となる。50ファラディ(F)=(50×96500)/3600=1340アンペア時なので、負極活物質1kg当たり11750アンペア時の大きな容量が得られる。
【0028】
一方正極の反応は、
正極:
50H+ +50e- +12.5O2 →25H2 O (3)
と考えられ、従って、全体の燃料電池反応は、
818+12.5O2 →8CO2 +9H2 O (4)
となる。
【0029】
一方、式(4)の反応のギブス自由エネルギー変化は、各化合物の標準生成ギブスエネルギー(ΔGf0 )からある程度見積もることができる(化学便覧、基礎編改訂3版、丸善より)。
【0030】
ΔGf0
オクタン(気体) 16.3 kJ mol−1
水 (気体) −228.6
二酸化炭素(気体) −394.4
これらの値から、式(4)のΔGは、−5228.9kJmol-1(標準状態、はぼ室温)となる。
このΔGには50個の電子が関与しているので、起電力は
起電力=(5228900)/(50×96500) = 1.08V (5)
と計算される。
この起電力とオクタン1kg当たりの11750アンペア時の容量から、オクタン1kg当たり、12690ワット時の非常に大きなエネルギーを持つ燃料電池が得られる。
この12690ワット時の値は、オクタン1モル当たりの式(4)のΔG=−5228.9kJmol-1(すなわち、ΔG=−45870kJ/kg)と一致する:45870000÷3600=12740。
【0031】
また、負極側に酸素を適宜加えて電位などをコントロールすることも可能であると考えられる。例えば、式(2)の代わりに、
818+O2 +14H2 O→8CO2 +46H+ +46e- (6)
とすれば、これとカップルする正極側の反応は、
46H+ +46e- +11.5O2 →23H2 O (7)
であり、燃料電池全体の反応は
818+12.5O2 →8CO2 +9H2 O (8)
となり、式(7)のΔGは変わらないが、反応に関与する電子の数が46に変化するので、起電力は式(1)−(4)に基づいて計算した1.08Vの(50/46)倍、1.17Vとなる。
【0032】
上記の起電力の計算は室温におけるものである。高温側では、起電力は以下のように示される。
式(4)、式(8)に示す全電池反応は、反応により分子数が3.5個増加する反応であり、エントロピー増加反応である。
一般的に、熱力学の第3法則から求められるエントロピーは化合物当たり約200J/(Kmol) となる。
従って、式(4)、(8)に示す反応のエンタルピー変化はおおよそ700J/(Kmol)と見積もられる。
【0033】
従って反応温度をたとえば200℃上昇させると、反応のギブス自由エネルギー変化は室温の時のΔG値に比べて、140000J変化して−5228900−140000=−5368900Jとなる。
この時の起電力は、燃料電池の反応が式(1)−(4)に従うとすると、
(5368900)/(50×96500)=1.11V (9)
となり、室温の時の1.08Vよりは少し高くなる。
【0034】
なお、式(2)、式(6)の反応は理想的に負極反応が進む場合であって、例えば酸素添加下の負極反応は、現実的にはたとえば
818+O2 +12H2 O→6CO2 +2CO+42H+ +42e- (10)

818+O2 +10H2 O→6CO2 +2CH4 +30H+ +30e- (11)
となってしまうこともありうる。しかし、このような場合でも、大きなエネルギー密度と電流の大きな容量が得られる。
【0035】
[2]イオン伝導体にO2-伝導体を用いる時(例えばAl23 などが伝導体の例)の負極、正極反応は(理想的には)各々下記のようになる(オクタンを例とする)。
【0036】
負極:
818+25O2-→8CO2 +9H2 O+50e- (12)
正極:
12.5O2 +50e- →25O2- (13)
【0037】
全燃料電池反応:
818+12.5O2 →8CO2 +9H2 O (14)
【0038】
式(14)の反応は、式(4)の反応と同じであり、またプロトン伝導膜を用いる時と同じ50個の電子が反応に関与しているので、起電力も同様に計算される。さらに、負極側活物質にさらに酸素を加えた時の影響、反応温度を変えた時の効果も同様に計算される。
【0039】
[3]更にイオン伝導体にOH- 伝導体を用いる時(陰イオン交換膜などがイオン伝導体)の負極、正極反応は(理想的には)各々下記のようになる(オクタンを例とする)。
【0040】
負極:
818+50OH- →8CO2 +34H2 O+50e- (15)
【0041】
正極:
25O2 +25H2 +50e- →50OH- (16)
【0042】
全燃料電池反応:
818+25O2 +25H2 →8CO2 +34H2 O (17)
【0043】
この燃料電池の室温での起電力は下記の様に計算される。
すなわち、式(17)の反応のΔGは、前出のオクタン、水、二酸化炭素の標準生成ギブスエネルギーから、
ΔG=8×(−394.4)+34×(−228.6)−(16.3)=−10943.9kJ (18)
となる。
【0044】
そして、この燃料電池反応には50e- が関与しているので(式(15)、式(16)を参照)、起電力は、
起電力=(10943900)/(50×96500)=2.27V (19)
と計算される。
【0045】
以上、オクタンを例にして基本反応を示したが、他の炭化水素でも同様なことが考えられる。飽和炭化水素の他に、不飽和炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素などを用いても、同様に考えることができる。
【0046】
[4]次にこの反応を起こすために必要な、遷移金属触媒について説明する。
本燃料電池の大切なポイントは、負極側において、式(2)、(6)、(10)、(11)、(12)、(15)などの反応が起こるかどうかである。
これらの反応は、炭化水素を最終的には小さな分子にしており、炭化水素を分解する反応過程を含むと考えられる。この様な、反応過程は特に式(2)、(6)、(10)、(11)の反応で重要であり、このことに関連して、以下の
(イ)エチレンの加熱分解炉、
(ロ)遷移金属およびその化合物と炭化水素の反応
について述べる。
なお、式(12)、(15)の負極反応は、イオン伝導性が高くO2-、OH-が十分に供給されれば基本的には進行しやすい反応であると考えられる。
【0047】
(イ)エチレンの加熱分解炉:
ナフサと水蒸気の混合ガスを加熱すると、ナフサ中の炭化水素が分解して、より小さな分子(エチレン、プロピレン、アセチレン、プロパン、水素など)になることはよく知られている。
このように、ガソリンの主成分であるナフサ(主成分は沸点39〜200℃の留分、C5〜C12程度の炭化水素に相当)は、水蒸気存在下に過熱すると分解して、小さな分子となる。
この様にして生成する小さな分子は、さらに反応して式(2)、(6)、(10)、(11)のような負極反応に進むことができると期待される。
特にエチレンのように炭素―炭素不飽和結合を持つ炭化水素分子は一般的に、オクタンやエタンなどの飽和炭化水素よりも化学反応性が高いので、より容易に負極反応に進むことができると期待される。
【0048】
(ロ)遷移金属およびその化合物と炭化水素の反応:
エチレンの様な炭素―炭素不飽和結合を持つ炭化水素は、遷移金属化合物により多様な変換反応を受けることが知られている。例えば、パラジウム化合物を触媒として用いて、エチレンを酸素により酸化してアセトアルデヒドを得る反応はワッカー法として広く知られている。
また、ベンゼンなどの芳香族化合物を鉄や銅の化合物を触媒として、酸素や過酸化水素により酸化する反応も知られている。
さらに最近では、従来反応性が低いと考えられていた飽和炭化水素さえも、遷移金属の化合物と反応することが分かってきている。その例を以下に示す。
【0049】
(α)ペンタンが活性ニッケルと反応して有機ニッケル化合物を与え、さらに水素や水と反応してメタン、二酸化炭素、エチレンなどのより小さな化合物を与えることが報告されている[J.Am.Chem.Soc.,100,5973(1978)]。
【0050】
(β)シクロヘキサンがロジウム錯体と反応して、C−H 結合の切断を伴いロジウムに結合して、シクロヘキシルロジウム錯体を与えることが報告されている[J.Am.Chem.Soc.,114,10074(1992)]。この様に、炭化水素内の結合を遷移金属錯体により活性化することができる。
【0051】
(γ)炭化水素が白金錯体と反応して活性化され、H−D交換を行うことが報告されている[J.Am.Chem.Soc.,124,6804(2002)]。
【0052】
(δ)シクロヘキサン、ペンタンなどの炭化水素がC−H結合の開裂を伴って白金錯体に結合することが報告されている[Angew.Chem.Int.Ed.,41,4102(2002)]。
【0053】
(ε)エチレンがルテニウム錯体と反応して、CH2 =CH−Ru結合を持つルテニウム錯体を与えることが報告されている。また、炭化水素とルテニウム錯体の反応で炭素―炭素結合が開裂する例も報告されている[Eur.J.Inorg.Chem.,1009(2002)]。
【0054】
以上の幾つかの例でも判るように、燃料により適切に選んだ遷移金属あるいはその化合物の存在下で、炭化水素が活性化されて反応性の高い分子に変換され、活性化された炭化水素が負極反応に加わって行くことが、理論的にも可能であることがわかる。
【0055】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用する触媒としては、遷移金属単体、遷移金属群からなる合金、酸化物、複酸化物、炭化物、錯体が適当であるが、使用する炭化水素により適切に選ばれる。
ここで言う遷移金属とは量子構造からみると、主量子数4以上の元素のうち、d殻が充たされていく元素から成り、3d殻が充たされる21Sc〜29Cu、4d殻の39Y〜47Ag、5d殻の72Hf〜79Auからなり、基底状態での外側電子配置は(n−1)d1-10ns0-2 (nは主量子数)のものを指し、その中でも特にPt、Pd、Ni、Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Au、Ag、Cuなどが好ましく、この群からなる合金、酸化物、複酸化物、炭化物、錯体からなるものであればよい。
【0056】
触媒は、一般的には浸漬法により作ることができる。
触媒の粒径が大きすぎる場合、触媒の重量あたりの比表面積が低下し、その結果、触媒の単位重量あたりの活性点が少なくなり、得られる発電量が小さくなる恐れがある。逆に、小さすぎる場合は、触媒の安定性が低下するため好ましくない。粒径としては0.5〜50nmが好ましく、更に好ましくは1〜10nmが良い。
【0057】
これらの触媒を担持する担体には、一般的に炭素粉末または、ゼオライトなどが使用される。
炭素の種類は、微粉末状で導電性を有し、電気化学的に安定なものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンが使用できる。この粒径が、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下するため、10〜1000nm程度が好ましい。更に好ましくは20〜100nmが良い。
【0058】
電解質としては、燃料電池の種類によって異なるが、具体的には、例えば、次のようなものを挙げることができる。
すなわち、
A)電解質としてリン酸(H3 PO4 )を用いる
B)溶融した炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸カリウムなど)を用いる
C)酸化物イオンの透過性が高いイオン伝導性セラミックス(安定化ジルコニアやランタン・ガリウムのペロブスカイト酸化物など)などを用いる
D)固体高分子膜を用いる(例えば、スルホン基を持ったフッ素系ポリマー、炭化水素系のプロトン導電性を持つポリマーなどを用いる)
などが挙げられ、このいずれであってもかまわない。
特にD)の固体高分子膜については、例えばナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標)膜などは保水している必要があり、その場合、燃料に水蒸気乃至水を混ぜておく必要がある。
燃料としてガソリンをはじめとする親水性の無い液体の炭化水素を用いる場合は、燃料導入の際に気相燃料に水蒸気を添加するか、イソプロピルアルコールやその他のアルコールと混合した水を混ぜて使用する方法があると考えられる。
【0059】
本発明で使用する水としては、例えば市水をイオン交換樹脂などで処理した純水を使用することが好ましい。
【0060】
本発明で正極活性物質として使用する酸化剤としては、前記正極反応を進めることができる酸化剤であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば安価で入手し易い空気や酸素などを挙げることができる。
【0061】
本発明で使用する燃料(負極活性物質)となる炭化水素源として考えられるのは、現在、原油やLPGなどから得られる石油、灯油、ガソリン、軽油といった精製物である。
これらは運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用でき、水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため、電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よく経済的に発電できる効果があるほか、限りある資源を有効に使用して効率よく発電でき、炭酸ガスなどの排出量を最小限に抑えることができる効果がある。
【0062】
前記式(2)、(6)、(10)、(11)、(12)、(15)などの反応では、二酸化炭素の発生が見られる。負極側燃料が液体であり、特に動力を使用せずにパッシブに供給される場合、発生する二酸化炭素は燃料の補給をミクロに損なうかたちになり、反応を阻害することが考えられる。
従って予め反応経路には、発生する二酸化炭素を吸収乃至分離する装置を設けて置くのが好ましい。具体的には、例えば、化学吸収法(モノエタノールアミンなどのアミン系有機物や、アルカリ金属・アルカリ土類金属の水和物・酸化物などを用いる)、吸着法・PSA法、化学吸収(ガスをゼオライト、活性炭、アルミナに通し、二酸化炭素を吸着させる)、膜分離(高分子膜・セラミック膜を用いた分子ふるい)、あるいはこれらの2つ以上の組み合わせなどを挙げることができる。
【0063】
燃料として特にガソリン、ナフサ、重油などを用いた場合、燃料に含まれる硫黄が触媒を被毒し、燃料電池の性能を低下させる可能性がある。この場合、燃料を予め脱硫しておくか、アノード燃料補給流路に脱硫装置を設けておく必要がある。脱硫部分はカートリッジなどで簡便に交換できる形であるとより好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
図1は、本発明の燃料電池に用いる膜電極結合体の一実施態様の断面概念図である。
プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜である電解質膜12をその両面に常法により負極電極層11、正極電極層13を接合・積層して膜電極結合体10が形成される。
図1において、14は負極活性物質入り口、15は負極活性物質出口、16は正極活性物質入り口、17は正極活性物質出口を示す。
【0066】
図2(イ)は、図1に示した膜電極結合体の負極電極層の断面概念図であり、(ロ)は、図1に示した膜電極結合体の正極電極層の断面概念図である。
図2において、21は触媒の担体、22はナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標)などの電解質、23は負極触媒、24は正極触媒、25はガス拡散層を示す。
【0067】
図3は、この膜電極結合体10を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの一実施態様の構成を示す分解断面図である。
膜電極結合体10の負極電極層11、正極電極層13と対向して、それぞれカーボンペーパーにカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ負極側ガス拡散層25および正極側ガス拡散層25が配置される。これによりそれぞれ負極26および正極27が構成される。そして、単セルに面して極活性物質流通用の流路28を備え、相対する主面に冷却流体流通用の流路29を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ30により挟持して単セル31が構成される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の燃料電池は、炭化水素と水を負極活物質とし、プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜を隔膜とし、酸化剤を正極活物質として構成されることを特徴とするものであり、
運搬・保管などのインフラ設備が整っており、かつ安全性が確認されている既存の設備を利用できる天然ガス、ガソリンなどの炭化水素系燃料を水素に改質することなく、直接、負極燃料に用いるため、改質機のような装置を必要とせず、そのため電池構造を簡単にすることができ、装置全体を小型化することができ、かつ安定して効率よく経済的に発電できるという顕著な効果を奏し、また、限りある資源を有効に使用して効率よく発電でき、炭酸ガスの排出量を最小限に抑えることができるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の燃料電池に用いる膜電極結合体の一実施態様の断面概念図である。
【図2】(イ)は、図1に示した膜電極結合体の負極電極層の断面概念図であり、(ロ)は、図1に示した膜電極結合体の正極電極層の断面概念図である。
【図3】図1に示した膜電極結合体を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの一実施態様の構成を示す分解断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 膜電極結合体
11 負極電極層
12 電解質膜
13 正極電極層
14 負極活性物質入り口
15 負極活性物質出口
16 正極活性物質入り口
17 正極活性物質出口
21 担体
22 電解質
23 負極触媒
24 正極触媒
25 ガス拡散層
26 負極
27 正極
28 流路
29 冷却流体流通用の流路
30 セパレータ
31 単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素と水を負極活物質とし、プロトンあるいは、OH- および/またはO2-の伝導性を有する膜を隔膜とし、酸化剤を正極活物質として構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
負極側に遷移金属からなる触媒を加えることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記負極活物質にさらに酸素を加えることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記炭化水素石油系炭化水素であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
記炭化水素がナフサであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記炭化水素がガソリンであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記炭化水素が軽油であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記炭化水素が沸点が0℃以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記炭化水素が天然ガスであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項10】
前記炭化水素を、水素に改質することなく用いることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−226481(P2008−226481A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58742(P2007−58742)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】