説明

燃料電池

【課題】酸化剤電極へ酸素を効率良く供給できると共に酸化剤電極の近傍から水を排出できて、出力の向上を図れる燃料電池を提供する。
【解決手段】この燃料電池によれば、酸素透過層5を構成するセリア(酸化セリウム(CeO))を含む材料の粒構造を通して、酸化剤電極4へ酸素をより効率よく供給できる。また、酸化剤電極4付近の水を酸素透過層5の上記セリアを含む材料の粒界を通して排出できる。よって、この酸素透過層5によれば、酸素の透過経路と水の排出経路とを分けることができ、水の排出が酸素の透過を阻害するのを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電極、電解質膜、および酸化剤電極を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素含有ガスまたは有機アルコール等と、酸素を含むガスとを電極に供給して、発電を行う発電機である。水素は電極上で酸化され、水素イオンは電解質を伝導し、酸化剤電極側に移動する。酸化剤電極側では、供給された酸素と移動してきた水素イオンが反応して水を生成する。また、電子は外部回路を流通することにより、電気エネルギーを生成する。
【0003】
燃料電池は、発電による排出物の環境に対する負荷が少なく、クリーンな発電システムとして注目されている。燃料電池のうち、電解質として水素イオン導電体を有する固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池は、現在、宇宙用や車両用等の移動用電源としての用途が提案されている。
【0004】
図5に示す従来例の燃料電池は、例えば、特開2003−86192号公報(特許文献1)に開示されるような固体高分子型燃料電池である。この燃料電池は、燃料電極110と、酸化剤電極111と、この燃料電極110と酸化剤電極111とに挟まれた電解質膜112とで構成した発電素子113を有する。
【0005】
この発電素子113の両側の面にそれぞれ流路板116,117を配置して、発電素子113の両側に燃料流路114,酸化剤流路115を形成している。 図5に示すような固体高分子型燃料電池に用いる高分子電解質膜112は、膜内に水を含有することによって高いプロトン導伝性を示す。このため、電解質膜112がプロトン導伝性を維持するためには、電解質膜112が水を含有している必要がある。
【0006】
しかし、発電素子113の発電反応によって生成された水が酸化剤電極111の近傍に留まると、酸化剤電極111への酸素の供給が妨げられる。よって、酸化剤電極111の近傍の水は速やかに排出しなければならない。
【0007】
そこで、この従来例では、図5に示すように、酸化剤電極111と酸化剤流路115とに挟まれたガス拡散層119を有し、このガス拡散層119を通して、酸化剤流路115から酸化剤電極111への酸素の供給と、酸化剤電極111の近傍から酸化剤流路115への水の排出とを行っている。なお、このガス拡散層119は、カーボン繊維などの多孔質材料によって形成される。
【0008】
ところが、図5に示す従来例の燃料電池では、酸化剤電極111の近傍の水がガス拡散層119を通して酸化剤流路115に排出されることに起因して、酸化剤流路115からガス拡散層119を経由する酸化剤電極111への酸素の供給が阻害される。このため、燃料電池の出力低下を招き、酸化剤流路115への酸化剤の供給量を増加させても、燃料電池の出力が向上しないという問題が生じる。
【特許文献1】特開2003−86192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明の課題は、酸化剤電極へ酸素を効率良く供給できると共に酸化剤電極の近傍から水を排出できて、出力の向上を図れる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の燃料電池は、液体燃料が供給されると共にこの液体燃料から陽イオンと電子を生成する燃料電極と、
上記燃料電極に対向するように配置されると共に上記燃料電極からの陽イオンが透過する電解質膜と、
酸化剤が供給されると共に上記電解質膜に対向するように配置され、上記電解質膜を透過した上記陽イオンと上記酸化剤とを反応させる酸化剤極とを備え、
上記燃料電極に対向するように配置されると共に上記燃料電極に上記液体燃料を供給する第1の流路を形成する第1の流路板と、
上記酸化剤電極に対向するように配置されると共に上記酸化剤電極に上記酸化剤を供給する第2の流路を形成する第2の流路板と、
上記酸化剤電極と上記第2の流路板との間に配置されると共に酸素透過性を有する材料で作製された酸素透過層とを備えることを特徴としている。
【0011】
この発明の燃料電池によれば、上記酸化剤電極と上記第2の流路板との間に配置した酸素透過層が酸素透過性を有する材料で作製されている。よって、第2の流路から上記酸素透過層を通して酸化剤電極へ酸素を効率よく供給できると共に、酸化剤電極付近の水を上記酸素透過層を通して排出することができる。
【0012】
また、一実施形態の燃料電池は、上記酸素透過性を有する材料が、少なくともセリアを含む。
【0013】
この実施形態の燃料電池によれば、この酸素透過層を構成するセリア(酸化セリウム(CeO))を含む材料の粒構造を通して、酸化剤電極へ酸素をより効率よく供給できる。また、上記酸素透過層の上記セリアを含む材料の粒界を通して酸化剤電極付近の水を排出できる。よって、この酸素透過層によれば、酸素の透過経路と水の排出経路とを分けることができ、水の排出が酸素の透過を阻害するのを抑制できる。
【0014】
また、一実施形態の燃料電池は、上記酸素透過性を有する材料が、少なくともセリアとジルコニアとの固溶体を含む。
【0015】
この実施形態の燃料電池によれば、セリア(酸化セリウム(CeO))とジルコニア(ZrO)との固溶体を含む材料で上記酸素透過層を作製したので、この酸素透過層を通して酸化剤電極へ酸素をより効率よく供給できる。
【0016】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の粒構造が、柱状構造である。
【0017】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の粒構造が柱状構造であるので、第2の流路から酸化剤電極への酸素の供給、および、酸化剤電極近傍からの水の排出を効率良く行うことが可能となる。
【0018】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが、5nm以上である。
【0019】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の柱状構造の平均的な粒サイズが5nm以上であるので、第2の流路から上記柱状構造の酸素透過層を通して酸化剤電極へ酸素を効率的に供給できる。なお、上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが5nmを下回る場合には、酸素透過層による酸素の透過性能が著しく低下する。
【0020】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが、1000nm以下である。
【0021】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが1000nm以下であるので、水の排出性能を著しく低下させることなく、酸素の透過性能を確保できる。なお、上記酸素透過層の柱状構造の平均的な粒サイズが1000nmを上回る場合には、酸素透過層による酸素の透過性能に対する水の排出性能が著しく低下する。
【0022】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の層厚が、50nm以上、かつ、5000nm以下である。
【0023】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の層厚が5000nm以下であるので、第2の流路から上記柱状構造の酸素透過層を通して酸化剤電極へ酸素を効率的に供給できる。なお、上記酸素透過層の層厚が5000nmを超える場合には酸素の透過性能に比べて水の排出性能が著しく低下する。上記酸素透過層の層厚が50nmを下回る場合には所望の柱状構造の層を得るのが困難となる。
【0024】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>を含む。
【0025】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の結晶構造が均質になるので、均一な酸素透過性能が得られる。
【0026】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<110>および<111>を含む。
【0027】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>単一配向である場合に比べて、上記酸素透過層のうちのセリア層の粒界比率を高めることができる。よって、この酸素透過層を通して酸素を酸化剤電極へより効率よく供給できる。
【0028】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<111>を含む。
【0029】
この実施形態の燃料電池によれば、酸素透過層の柱状構造の結晶成長方位が<100>配向である場合と比較して、酸素透過面を大きく確保することができる。
【0030】
また、一実施形態の燃料電池では、上記発電素子を形成する基板が、イットリウム安定化ジルコニア基板である。
【0031】
この実施形態の燃料電池によれば、上記発電素子を形成する基板を、例えば厚さが50μm程度の薄膜基板とし、この薄膜基板上にセリア(あるいはセリアとジルコニアとの固溶体)を材料として酸素透過層を高温で成膜することが可能となる。
【0032】
また、一実施形態の燃料電池では、上記酸化剤電極が、ルテニウム酸化膜である。
【0033】
この実施形態の燃料電池によれば、上記酸化剤電極を、酸素透過層を作製する材料としてのセリア(あるいはセリアとジルコニアとの固溶体)のように高温で成膜する材料の下地としても使用することができる。
【発明の効果】
【0034】
この発明の燃料電池によれば、酸化剤電極と第2の流路板との間に配置した酸素透過層が酸素透過性を有する材料で作製されている。よって、第2の流路から酸素透過層を通して酸化剤電極へ酸素を効率よく供給できると共に、酸素透過層を通して酸化剤電極付近の水を排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0036】
図1は、この発明の燃料電池の実施形態の層構造を示す断面図である。この実施形態は、燃料電極2と、燃料電極2に対向するように配置された電解質膜3と、燃料電極2の反対側で電解質膜3に対向するように配置された酸化剤電極4を備える。燃料電極2と電解質膜3と酸化剤電極4とが発電素子を構成している。また、この燃料電池は、燃料電極2に対向するように配置されると共に燃料電極2に液体燃料を供給する燃料流路11を形成する燃料流路板1を有する。この燃料流路板1が第1の流路板であり、燃料流路11が第1の流路である。
【0037】
上記燃料電極2は、金属触媒を含む樹脂層で作製される。この金属触媒としては、一例として白金−ルテニウム合金などが用いられるが、その他に、白金と金、白金とオスミウム、白金とロジウムなどの合金を用いることができる。また、燃料電極2の樹脂層としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸系樹脂が用いられる。
【0038】
また、電解質膜3の材質としては、例えば、プロトン伝導性の耐熱耐酸性の材料であれば有機材料、無機材料を問わないが、ここでは、有機系の含フッ素高分子を骨格とするスルホン酸基含有パーフルオロカーボン(ナフィオン117(デュポン社製)(登録商標))を用いている。また、電解質膜3はプロトン伝導性の機能を有すればよく、他の基材に電解質膜を埋め込んだものであってもよい。
【0039】
また、燃料流路板1としては、金属、シリコン基板、ガラス基板、樹脂基板など液体燃料に対する透過性の無い基板が使用可能であるが、ここでは微細加工を施したニッケル板を用いている。
【0040】
そして、この燃料流路板1と燃料電極2との間に拡散層7が配置されている。この拡散層7としては、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属などの多孔質材を用いることができる。
【0041】
また、この燃料電池は、上記酸化剤電極4に対向するように配置されると共に酸化剤電極4に酸化剤を供給する酸化剤流路12を形成する酸化剤流路板6を有する。この酸化剤流路板6が第2の流路板であり、酸化剤流路12が第2の流路である。そして、この酸化剤流路板6と酸化剤電極4との間に拡散層8が配置されている。
【0042】
この拡散層8としては、燃料電極2側の拡散層7と同様に、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属などの多孔質材を用いることができる。また、酸化剤電極4は、燃料電極2と同様に、金属触媒を含む樹脂層で作製される。
【0043】
さらに、この実施形態は、酸化剤電極4と拡散層8との間に配置されると共に酸素透過性を有する材料で作製された酸素透過層5を備える。この実施形態では、酸素透過層5を作製する酸素透過性を有する材料の一例として、セリア(酸化セリウム)を含む材料を用いた。このセリアの代表的な組成はCeOであるが、CeO結晶はその結晶構造内を酸素が透過する性質を有する。参考文献(R&D Review of Toyota CRDL Vol. 37 No.4 pp.1−5)に示されるように、CeO結晶は酸素を高濃度側から吸収し、低濃度側へ吸蔵した酸素を放出する性質を有することが分かっている。
【0044】
この実施形態に示すように、酸素透過層5を構成する酸素透過性を有する材料としてセリアを含む材料を用いることにより、酸素透過層5は酸素濃度の高い酸化剤流路12側から結晶中に酸素を取り込むと共に、酸素濃度の低い酸化剤電極4側へ酸素を効率よく供給することができる。
【0045】
この実施形態の燃料電池では、例えばメタノールと水との混合物が液体燃料として燃料流路11内に供給される。この液体燃料は、燃料流路11から燃料電極2に隣接する拡散層7に供給され、拡散層7内を拡散し浸透して燃料電極2に達して反応し、陽イオン(H+)と電子および排出ガスとしての二酸化炭素が生成する。陽イオン(H+)は、電解質膜3を経由して、酸化剤極4に至る。一方、上記電子は、燃料電極2から外部回路(図示せず)を経由して、酸化剤電極4に導かれる。また、燃料電極2で生成した二酸化炭素は、拡散層7内を拡散して、排出口(図示せず)から排出される。
【0046】
一方、酸化剤流路12から導入された酸化剤の一例としての酸素は、拡散層8内に拡散し、図2に例示するように、酸素透過層5のセリアを含む材料内を透過して、酸化剤電極4へ供給される。上記酸素は、酸化剤電極4において燃料電極2からの陽イオン(H+)および電子と反応して水が生成する。この水は、図2に例示するように、酸素透過層5のセリアを含む材料の粒界を通して拡散し、拡散層8内を拡散し、排出口(図示せず)から排出される。
【0047】
このように、この実施形態によれば、酸素透過層5における酸素の透過経路と水の排出経路とを分けることができ、水の排出が酸素の透過を阻害するのを抑制できる。したがって、この実施形態によれば、酸化剤電極4へ酸素を効率良く供給できると共に酸化剤電極4の近傍から水を排出できて、出力の向上を図れる。
【0048】
なお、上記実施形態では、酸素透過層5を構成する酸素透過性を有する材料としてCeO(酸化セリウム)の結晶構造を有するセリアを用いたが、上記酸素透過性を有する材料としてはセリアとジルコニアの固溶体を用いてもよい。CeO−ZrOまたはCe1−XZrは、CeO結晶と同様に、酸素透過性を有している。よって、酸素透過層5をセリアとジルコニアの固溶体を含む材料で作製した場合も、上記実施形態と同様の効果が得られる。さらに、セリアとジルコニアの固溶比率を変えることによって、上記固溶体の格子定数が変わり、酸素透過性能を変えることが可能であるから、燃料電池の動作状況に合わせて酸素透過性の異なる酸素透過層5が得られる。
【0049】
また、上記セリアを含む材料またはセリアとジルコニアの固溶体を含む材料で作製した酸素透過層5において、上記酸素透過層5の粒構造が柱状構造である場合は、酸化剤流路12から酸化剤電極4への酸素の供給、および、酸化剤電極4近傍から拡散層8への水の排出をより効率良く行うことが可能となる。
【0050】
さらに、上記セリアを含む材料またはセリアとジルコニアの固溶体を含む材料で作製した粒構造が柱状構造である酸素透過層5において、この柱状構造の平均的な粒サイズが5nm以上にすれば、酸化剤流路12から上記柱状構造の酸素透過層5を通して酸化剤電極4へ酸素を効率的に供給できる。なお、上記酸素透過層5の柱状構造の平均的な粒サイズが5nmを下回る場合には、酸素透過層5による酸素の透過性能が著しく低下する。
【0051】
また、上記酸素透過層5の柱状構造の平均的な粒サイズを1000nm以下にすれば、水の排出性能を著しく低下させることなく、酸素の透過性能を確保できる。なお、上記酸素透過層5の柱状構造の平均的な粒サイズが1000nmを上回る場合には、酸素透過層5による酸素の透過性能に対する水の排出性能が著しく低下する。
【0052】
また、上記柱状構造の酸素透過層5の層厚が5000nm以下である場合は、酸化剤流路12から酸素透過層5を通して酸化剤電極4へ酸素を効率的に供給できる。なお、上記酸素透過層5の層厚が5000nmを超える場合には酸素の透過性能に比べて水の排出性能が著しく低下する。
【0053】
また、上記酸素透過層5の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>を含む場合は、上記酸素透過層5の結晶構造が均質になるので、均一な酸素透過性能が得られる。また、上記酸素透過層5の上記柱状構造の結晶成長方位が<111>を含む場合は、上記酸素透過層5の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>単一配向である場合に比べて、上記酸素透過層5のうちのセリア層の粒界比率を高めることができる。よって、この酸素透過層5を通して酸素を酸化剤電極4へより効率よく供給できる。また、上記酸素透過層5の上記柱状構造の結晶成長方位が<110>を含む場合は、上記酸素透過層5の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>配向である場合と比較して、酸素透過面を大きく確保することができる。
【0054】
次に、図3A〜図3D、図4A〜図4Cを順に参照して、上記実施形態の燃料電池の製造方法の一例を説明する。
【0055】
まず、図3Aに示すように、下地基板20としては、例えば、イットリウム安定化ジルコニア基板(以下、YSZ基板という)を用いる。このYSZ基板は、耐熱性に優れているので、厚さが50μm程度であっても、下地基板20上にセリア、あるいはセリアとジルコニアとの固溶体のような材料を高温で成膜することが可能となる。この下地基板20上に、公知のスパッタ法によって酸化剤電極としてのルテニウム酸化膜24を形成する。このルテニウム酸化膜24は、導電性であると共に耐熱性に優れているので、セリア、あるいはセリアとジルコニアとの固溶体のような高温で成膜する材料の下地としての役割も果たす。
【0056】
次に、図3Bに示すように、ルテニウム酸化膜24の表面全体に、例えば、公知のパルスレーザー堆積法(以下、PLD法という)により酸素透過性を有する材料から成る薄膜層(酸素透過層)として300nmのセリア層25を形成する。このセリア層25を形成する時の成膜チャンバー内の酸素圧力を7Pa以上に保つことにより、柱状構造のCeOを有するセリア層25が得られる。これにより、セリア層25の結晶粒および粒界を膜厚方向に貫く構造にできるので、酸素の供給と水の排出とを上述のように効率良く行うことが可能となる。また、上記セリア層25の形成時の圧力を低くすることにより、柱状構造のCeO結晶の粒サイズをさらに小さくすることができるが、平均粒サイズは5nm以上が好ましい。その理由は、柱状構造のCeO結晶の平均粒サイズが5nmを下回ると、粒界の比率が大きくなり過ぎて、酸素の透過性能が低下してしまうからである。
【0057】
一方、上記セリア層25の形成時の圧力を高くすることにより、柱状構造のCeO結晶の平均の粒サイズを大きくすることができるが、上記柱状構造のCeO結晶の平均粒サイズは、5000nm以下であることが好ましい。その理由は、上記柱状構造のCeO結晶の平均粒サイズが5000nmを超えると、粒界の比率が小さくなり過ぎて酸素の透過能に比べて、水の排出性能が低下しまうからである。なお、上記柱状構造のCeO結晶の平均粒サイズが、1000nm以下であることがより好ましい。
【0058】
また、セリア層25を形成する時の成膜チャンバー内の酸素圧力を12Paに保つことが好ましい。この場合、CeO結晶の粒サイズは10nm程度で粒界を緻密に分布させることができる。なお、ここでは、柱状構造のセリア層25の成膜厚さを、300nmとしているが、成膜厚さはこれに限るものではない。しかし、柱状構造のセリア層25の厚さが5000nmを超えると、粒界が長くなり、酸素の透過性能に比べて水の排出効率が著しく低下するので、セリア層25の厚さを5000nm以下とすることが好ましい。
【0059】
こうして、セリア層25を形成した後、図3Cに示すように、公知のフォトリソグラフィー法により、YSZ基板である下地基板20の裏面をパターニングし、下地基板20の裏面20Aからエッチングしてルテニウム酸化膜24の裏面24Aを露出させる。次に、図3Dに示すように、この露出したルテニウム酸化膜24の裏面24A上に電解質膜23としての陽イオン交換高分子膜を形成する。
【0060】
次に、図4Aに示すように、この電解質膜23の表面に燃料電極22としてのAu層を形成する。
【0061】
次に、図4Bに示すように、このようにして作製した燃料電極22,電解質膜23,酸化剤電極24およびセリア層25で構成される積層基板の両側面に、燃料供給用の拡散層27および酸化剤供給用の拡散層28を接合する。次に、図4Cに示すように、上記拡散層27,28を接合した積層基板を挟むように、流路板21および26を接合する。
【0062】
これにより、図1に示す実施形態と実質的に同じ構造の燃料電池を製造することができる。
【0063】
なお、上記燃料電池の製造方法では、酸化剤供給用のガス拡散層28をセリア層25に接合したが、この実施形態では、セリア層の粒サイズが十分小さいので、拡散層28を省くこともできる。
【0064】
また、上記燃料電池の製造方法において、(100)面のYSZ単結晶基板を下地基板20として用い、<100>配向したルテニウム酸化膜24上に、セリアを成膜温度500℃以上で形成することによって、<100>に単一配向したセリア層25が得られる。セリア層25を、<100>に単一配向させた場合、結晶構造が均質なため、均一な酸素透過性能が得られる。
【0065】
また、<100>配向したルテニウム酸化膜24上にセリアを成膜温度500℃以下で形成した場合、<100>、<110>、<111>配向の混在したセリア層25が得られる。これにより、<100>に単一配向させた場合に比べてセリア層25の粒界比率を高めることができる。
【0066】
また、多結晶のYSZ基板(イットリウム安定化ジルコニア基板)上では、<111>に優先配向したルテニウム酸化膜24が得られるので、このルテニウム酸化膜24上に形成されるセリア層25を、<111>に優先配向させることができる。セリア層25を<111>に優先配向させた場合、セリア層25の表面に凹凸が形成されるので、同じ面積の<100>配向させたセリア層と比較して酸素透過面を大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明の燃料電池の実施形態の構造を説明する概略図である。
【図2】上記実施形態の酸素透過層5において酸素と水が透過する様子を説明する概略模式図である。
【図3A】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図3B】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図3C】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図3D】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図4A】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図4B】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図4C】上記実施形態の燃料電池の作製工程を説明する概略図である。
【図5】従来例の燃料電池の構造を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料流路板
2 燃料電極
3 電解質膜
4 酸化剤電極
5 酸素透過層
6 酸化剤流路板
7 燃料供給用の拡散層
8 酸化剤供給用の拡散層
11 燃料流路
12 酸化剤流路
20 下地基板
21 燃料流路板
22 燃料電極
23 電解質膜
24 ルテニウム酸化膜
25 セリア層
26 酸化剤流路板
27 燃料供給用の拡散層
28 酸化剤供給用の拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料が供給されると共にこの液体燃料から陽イオンと電子を生成する燃料電極と、
上記燃料電極に対向するように配置されると共に上記燃料電極からの陽イオンが透過する電解質膜と、
酸化剤が供給されると共に上記電解質膜に対向するように配置され、上記電解質膜を透過した上記陽イオンと上記酸化剤とを反応させる酸化剤極と、
上記燃料電極に対向するように配置されると共に上記燃料電極に上記液体燃料を供給する第1の流路を形成する第1の流路板と、
上記酸化剤電極に対向するように配置されると共に上記酸化剤電極に上記酸化剤を供給する第2の流路を形成する第2の流路板と、
上記酸化剤電極と上記第2の流路板との間に配置されると共に酸素透過性を有する材料で作製された酸素透過層とを備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
上記酸素透過性を有する材料が、少なくともセリアを含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池において、
上記酸素透過性を有する材料が、少なくともセリアとジルコニアとの固溶体を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項2または3に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の粒構造が、柱状構造であることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが、5nm以上であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項4または5に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の柱状構造の平均粒サイズが、1000nm以下であることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の層厚が、5000nm以下、かつ、50nm以上であることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項4に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<100>を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項4に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<110>および<111>を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項4に記載の燃料電池において、
上記酸素透過層の上記柱状構造の結晶成長方位が<111>を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
請求項2に記載の燃料電池において、
上記発電素子を形成する基板が、イットリウム安定化ジルコニア基板であることを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
請求項2に記載の燃料電池において、
上記酸化剤電極が、ルテニウム酸化膜であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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