説明

燃料電池

【課題】本発明は、マニホールド入口とマニホールド出口とを短絡する隙間流路をシールで閉塞するに際し、閉塞した隙間流路を反応ガスが流れにくく、シールとガス拡散層との間に隙間が発生しにくく、シール効果に優れ、もって発電効率を効果的に向上させることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】一対の電極間に配置した高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の両面に配置したガス拡散層と、ガス拡散層の周縁に前記ガス拡散層と一体的に設けたシール部材と、マニホールド入り口から出口へ通じる反応ガス誘導通路を設けたセパレータとよりなる燃料電池において、 前記ガス拡散層の周縁を薄肉部とすると共に前記薄肉部の両面に弾性突起を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4および図5に示すように、マニホールド入口10からマニホールド出口11へ通じる溝状の反応ガス誘導通路4を平面上に設けたセパレータ5を両側に配置して高分子電解質膜(MEA)1を挟み込む構造の燃料電池においては、高分子電解質膜1の両側に配置されるガス拡散層(GDL)2の外周部の寸法精度や組立位置精度の都合により、ガス拡散層2の外周部とこのガス拡散層2を収容すべくセパレータ5に設けた段差12との間に隙間cが発生する。この隙間cは、ガス拡散層2が段差12へ乗り上げないようにするため、無くすことは実際上困難な隙間である。
【0003】
しかしながら、このようにガス拡散層2の外周部とセパレータ5の段差12との間に隙間cが存在すると、この隙間cがマニホールド入口10とマニホールド出口11とを短絡させる隙間流路13を形成する。
【0004】
したがって、反応ガスは、本来その全てが反応ガス誘導通路4を流れるべきところ、図5に波線矢印で示すようにその一部が隙間流路13を流れ、この隙間流路13を流れるガスは反応しないことから、この分、燃料電池の発電効率が低下する不都合がある。
【0005】
また、従来、図6および図7に示すように、反応ガスが所定のガス誘導通路4以外を流れるのを有効に阻止することを目的として、セパレータ5および電解質膜1間をシールするシール部材30とセパレータ5内部に配置されるガス拡散層20との間に形成される隙間流路13に充填シール40を設けた燃料電池が提案されているが、この従来技術には以下のような不都合がある(特開2004−119121号公報)。
【0006】
すなわち、図6の平面図に示すように、マニホールド入口10とマニホールド出口11とを短絡する隙間流路13において、この隙間流路13を閉塞する充填シール40は、マニホールド入口10近傍、マニホールド出口11近傍および隙間流路13の屈曲部近傍の三箇所に設けられるが、このように一本の長い隙間流路13に充填シール40を三箇所設けるだけでは、これにより閉塞される隙間流路13の長さ(充填シール57間の間隔)が極めて長く設定されることになる。したがって、ガス拡散層20の外周部から漏れ出る反応ガスがこの閉塞された隙間流路13に滞留し、この滞留した反応ガスが閉塞された隙間流路13を流れてマニホールド出口11近傍でガス拡散層20外周部からガス誘導通路4側へ戻ると云う流れが発生し、このような変則的な流れが発生すると、充填シール40を設けても十分な効率改善の効果を得ることができない。
【0007】
また、図7の断面図に示すように、液状シールや固体充填シール等よりなる充填シール40は、ガス拡散層20の外周部にピタリと隣接するように成形されている。この場合、ガス拡散層20外周の寸法精度は一般にあまり良くなく、またガス拡散層20を含む膜電極複合体50とセパレータ5との組立位置精度にも限界があるため、このような構成では、充填シール40をガス拡散層20の外周部に隣接するように配置しようとすると、ガス拡散層20の寸法や組立位置のバラツキにより充填シール40とガス拡散層20とが重なり合う事態が発生する。したがって、このように充填シール40とガス拡散層20とが重なり合った部位においてはスタック組立時に過大な締付け反力が発生し、薄い金属板や脆弱なカーボンプレート等よりなるセパレータ5や電解質膜1に大きなダメージを与えることになる。このため、実際の充填シール40の配置は、ガス拡散層20の寸法や組立位置のバラツキを考慮して安全側の小さめに設定する必要があり、この場合には充填シール40とガス拡散層20との間に隙間が形成される箇所も当然出てくることから、やはり目的の効率改善の効果を低下させることになる。
【0008】
更に、スタックの組み立てをより容易にするために、第8図に示す様に、電解質膜1と、この電解質膜1の両面に配置されたガス拡散層2,2と、セパレータ5および電解質膜1間をシールするシール部材3とを一体化したものが提案された。
しかし、ガス拡散層2の寸法精度や組立位置のバラツキにより、不可避的に隙間流路13が存在してしまう。
【0009】
【特許文献1】特開2004−119121号公報
【特許文献2】特開2005−285350号公報
【特許文献3】特開2006−120376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて、マニホールド入口とマニホールド出口とを短絡する隙間流路をシールで閉塞するに際し、閉塞した隙間流路を反応ガスが流れにくく、シールとガス拡散層との間に隙間が発生しにくく、シール効果に優れ、もって発電効率を効果的に向上させることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【0011】
またこれに加えて、上記隙間流路を閉塞する弾性突起、シール部材、電解質膜、ガス拡散層を一体化することにより、スタックの組立作業が容易に行える燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明にあっては、一対の電極間に配置した高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の両面に配置したガス拡散層と、ガス拡散層の周縁に前記ガス拡散層と一体的に設けたシール部材と、マニホールド入り口から出口へ通じる反応ガス誘導通路を設けたセパレータとよりなる燃料電池において、
前記ガス拡散層の周縁を薄肉部とすると共に前記薄肉部の両面に弾性突起を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明の燃料電池によれば、弾性突起により隙間流路を閉塞して反応ガスの流れを阻止することから、反応ガスが隙間流路を流れて発電効率が低下するのを抑えることが出来る。
また、請求項2記載の発明の燃料電池によれば、セパレータに設けた突状部とガス拡散層との間に形成される隙間流路を極力小さく抑えることが出来る。
【0014】
更に、請求項3記載の発明の燃料電池によれば、シール部材とガス拡散層とを一体成形することが容易である。
更に、請求項4記載の発明の燃料電池によれば、ガス拡散層内部まで液状ゴムがしみ込むため、ガス拡散層の周縁部におけるガス漏れをより確実に防止できる。
更に、請求項5記載の発明の燃料電池によれば、弾性突起をガス拡散層側に確実に固着出来る。
【0015】
更に、請求項6記載の発明の燃料電池によれば、弾性突起とシール部材を同時に成形できるため、製造コストを低く抑えることが出来る。
更に、請求項7記載の発明の燃料電池によれば、スタックの組立て時に弾性突起が内側に容易に変形し、隙間流路を閉塞することができる。
【0016】
更に、請求項8記載の発明の燃料電池によれば、スタックの組立て時に弾性突起が外側に容易に変形し、隙間流路を閉塞することができる。
更に、請求項9記載の発明の燃料電池によれば、スタック組立て時に過大な締付力が発生し、セパレータや電解質膜にダメージを与えることがない。
【0017】
更に、請求項10記載の発明の燃料電池によれば、反応ガスが隙間流路を流れることを効率的に阻止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
第1図乃至3図に基づき発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0019】
第2図において、一対の電極間に配置した高分子電解質膜1の上下両面には、ガス拡散層2、2が配置されている。
そして、このガス拡散層2、2の周縁には、ガス拡散層2、2と一体的に設けたシール部材3が設けられている。
このガス拡散層2、2の周縁は薄肉部6となっており、この薄肉部6には、内側に湾曲した弾性突起7、7が一体的に設けてある。
この、ガス拡散層2、2、電解質膜1、シール部材3及び弾性突起7、7が一体化された部材は、第1図に示す、マニホールド入り口から出口へ通じる反応ガス誘導通路4を設けた二枚のセパレータ5、5間に挟持される。
【0020】
このセパレータ5、5には、誘導通路4を囲む様に突状部8が設けられ、この突状部8により薄肉部6が挟持されるとともに、弾性突起7が突状部8の内側近傍に配置される構成となっている。
シール部材3は、一般的な合成ゴムや、TPEが用いられるが、成形性の観点から、液状ゴムが好ましい。
液状ゴムとしては、液状シリコーンゴム、液状ふっ素ゴム、液状EPDM、液状ACM等である。
【0021】
シール性の観点から、材質は低硬度で自己粘着性のあるものが好ましい。
液状ゴムを用いて成形すると、シール部材3を成形する際に、液状ゴムがガス拡散層2、2の薄肉部6にしみ込んで、高分子電解質膜1及びガス拡散層2、2を一体化する。
そして、弾性突起7は液状ゴムがしみ込んだ領域に設けてある。
弾性突起7は、シール部材3が成形される際に、同一の材質で成形することが好ましい。
第2図の実施例では、弾性突起7は内側に湾曲した形状としたが、第3図に示す様に、外側に湾曲した形状としてもよい。
【0022】
弾性突起7はスタック組立て時に、薄肉部6の領域に収まっていて、突状部8と薄肉部6との間や、電解質膜1の厚肉部とセパレータ5との間に挟まれることはない大きさとなっている。
また、当然のことながら、弾性突起7は、スタック組立て時に、セパレータ5、5に接する高さを有している。
【0023】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】燃料電池にかかる発明の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1のセパレータを除いた組込み前の燃料電池を示す断面図である。
【図3】図1のセパレータを除いた組込み前の他の燃料電池を示す断面図である。
【図4】従来例に係る燃料電池を示す断面図である。
【図5】図4に示した燃料電池のセパレータの平面図である。
【図6】他の従来例に係る燃料電池のセパレータの平面図である。
【図7】図6のセパレータを用いた従来例の燃料電池用を示す断面図である。
【図8】セパレータを除いた組込み前の他の従来例に係る燃料電池を示す断面図である。
【図9】図8の部材をセパレータと共に組み込んだ他の従来例に係る燃料電池を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1‥‥電解質膜
2‥‥ガス拡散層
3‥‥シール部材
4‥‥誘導通路
5‥‥セパレータ
6‥‥薄肉部
7‥‥弾性突起
8‥‥突状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に配置した高分子電解質膜(1)と、前記高分子電解質膜(1)の両面に配置したガス拡散層(2)、(2)と、ガス拡散層(2)、(2)の周縁に前記ガス拡散層(2)、(2)と一体的に設けたシール部材(3)と、マニホールド入り口から出口へ通じる反応ガス誘導通路(4)を設けたセパレータ(5)、(5)とよりなる燃料電池において、
前記ガス拡散層(2)、(2)の周縁を薄肉部(6)とすると共に前記薄肉部(6)の両面に弾性突起(7)を設けたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記セパレータ(5)、(5)に突状部(8)が設けられ、前記突状部(8)により前記薄肉部(6)が挟持されるとともに、前記弾性突起(7)が前記突状部(8)の内側近傍に配置されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記シール部材(3)が液状ゴムを用いて成形されていることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記シール部材(3)を成形する際の液状ゴムが前記ガス拡散層(2)、(2)の薄肉部(6)にしみ込んで前記高分子電解質膜(1)及び前記ガス拡散層(2)、(2)を一体化していることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
前記弾性突起(7)は前記液状ゴムがしみ込んだ領域に設けてあることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
前記弾性突起(7)が前記シール部材(3)と同一の材質であることを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記弾性突起(7)が内側に湾曲した形状であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記弾性突起(7)が外側に湾曲した形状であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記弾性突起(7)はスタック組立て時に、前記薄肉部(6)の領域に収まっていることを特徴とする請求項1〜8いずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記弾性突起(7)は、スタック組立て時に、セパレータ(5)、(5)に接する高さを有していることを特徴とする請求項1〜9いずれか一項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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