説明

燃料電池

【課題】 高温運転時における発電性能低下を抑制することができる燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明に係る燃料電池(100)は、プロトン伝導性を有する固体高分子型の電解質膜(12)と、電解質膜を挟持するカソード触媒層(14)およびアノード触媒層(16)と、カソード触媒層の電解質膜と反対側に設けられ、カーボンペーパーからなる第1ガス拡散層(30)と、アノード触媒層の電解質膜と反対側に設けられ、カーボンクロスからなる第2ガス拡散層(35)と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池によれば、第2ガス拡散層は、第1ガス拡散層に比較して高い熱伝導度を有する。それにより、燃料電池の高温運転時における発電性能低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。特に、固体高分子型燃料電池は、各種の燃料電池の中でも比較的低温で作動することから、良好な起動性を有する。そのため、多方面における実用化のために盛んに研究がなされている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質がアノード触媒層およびカソード触媒層によって挟持された膜−電極接合体(MEA:membrance Electrode Assembly)のそれぞれの面にガス拡散層が設けられた構造を有している(例えば、特許文献1参照)。この固体高分子型燃料電池においては、カソード触媒層に酸化剤ガスが供給され、アノード触媒層に燃料ガスが供給される。それにより、水が生成されるとともに、発電が行われる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−73415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固体高分子電解質の含水量が低下すると、固体高分子電解質のイオン伝導性が低下する。したがって、発電性能低下を抑制するためには、固体高分子電解質の含水率を所定の水準に維持する必要がある。しかしながら、高温運転時には電解質膜が乾燥して発電性能が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、高温運転時における発電性能低下を抑制することができる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子型の電解質膜と、電解質膜を挟持するカソード触媒層およびアノード触媒層と、カソード触媒層の電解質膜と反対側に設けられ、カーボンペーパーからなる第1ガス拡散層と、アノード触媒層の電解質膜と反対側に設けられ、カーボンクロスからなる第2ガス拡散層と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
カーボンクロスはカーボンペーパーに比較して高い熱伝導度を有することから、燃料電池の高温運転時において、膜−電極接合体のアノード側の熱流束はカソード側の熱流束に比較して大きくなる。この場合、ソーレ効果によって、カソード側からアノード側に透過する水量が増加する。その結果、膜−電極接合体の固体高分子電解質膜の乾燥が抑制される。それにより、燃料電池の高温運転時における発電性能低下を抑制することができる。
【0009】
上記構成において、第2ガス拡散層の厚みは、第1ガス拡散層の厚みよりも小さくてもよい。この構成によれば、第2ガス拡散層の熱伝導度は第1ガス拡散層の熱伝導度に比較してさらに高くなる。それにより、燃料電池の高温運転時における発電性能低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温運転時における発電性能低下を抑制することができる燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1に係る燃料電池100について説明する。図1は、実施例1に係る燃料電池100の模式的断面図である。燃料電池100は、膜−電極接合体10と、第1MPL20と、第2MPL25と、第1ガス拡散層30と、第2ガス拡散層35と、第1多孔体流路40と、第2多孔体流路45と、第1セパレータ50と、第2セパレータ55と、を備える。
【0013】
膜−電極接合体10は、固体高分子電解質層12と、固体高分子電解質層12の一面に配置されたカソード触媒層14と、固体高分子電解質層12の他面に配置されたアノード触媒層16と、を備える。固体高分子電解質層12は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質からなる。固体高分子電解質として、例えばパーフルオロスルフォン酸型ポリマ等を用いることができる。固体高分子電解質層12の層厚は、特に限定されない。
【0014】
カソード触媒層14およびアノード触媒層16は、触媒を含有する導電性材料からなる。カソード触媒層14およびアノード触媒層16は、例えば白金を担持したカーボンによって構成される。カソード触媒層14は、プロトンと酸素との反応を促進するための触媒層として機能する。アノード触媒層16は、水素のプロトン化を促進するための触媒層として機能する。
【0015】
第1MPL20は、カソード触媒層14の固体高分子電解質層12側と反対側の面に配置されている。第2MPL25は、アノード触媒層16の固体高分子電解質層12側と反対側の面に配置されている。第1MPL20および第2MPL25は、撥水性、導電性およびガス透過性を備えた材料によって構成されたマイクロポーラス層(micro porous layer)である。撥水性、導電性およびガス透過性を備えた材料として、例えば、カーボンを含有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられる。
【0016】
第1MPL20および第2MPL25は、撥水層としての機能を有する。第1MPL20および第2MPL25は、例えば、カーボン粉と撥水性樹脂(例えばPTFE)とが混合されてなる撥水カーボンがさらにペースト化されたものを、ガス拡散層に塗布して焼成することによって、作成される。
【0017】
第1ガス拡散層30は、第1MPL20のカソード触媒層14側と反対側の面に配置されている。第2ガス拡散層35は、第2MPL25のアノード触媒層16側と反対側の面に配置されている。第1ガス拡散層30および第2ガス拡散層35は、膜−電極接合体10に反応ガスを拡散させる機能を有する。第1ガス拡散層30に供給された酸化剤ガスは、主としてカソード触媒層14に向かって拡散する。第2ガス拡散層35に供給された燃料ガスは、主としてアノード触媒層16に向かって拡散する。
【0018】
第1ガス拡散層30および第2ガス拡散層35は、導電性およびガス透過性を備えた材料から構成される。本実施例においては、第1ガス拡散層30は、カーボンペーパーからなる。第2ガス拡散層35は、カーボンクロスからなる。第1ガス拡散層30にカーボンペーパーを用い、第2ガス拡散層35にカーボンクロスを用いる理由については後述する。第1ガス拡散層30および第2ガス拡散層35の厚さは、例えば100μm〜700μm程度である。なお、本実施例において、第1ガス拡散層30および第2ガス拡散層35の厚さは、それぞれ200μm程度である。
【0019】
第1多孔体流路40は、第1ガス拡散層30の第1MPL20側と反対側の面に配置されている。第2多孔体流路45は、第2ガス拡散層35の第2MPL25側と反対側の面に配置されている。第1多孔体流路40は、酸化剤ガスを第1ガス拡散層30に供給するガス流路としての機能を有する。第2多孔体流路45は、燃料ガスを第2ガス拡散層35に供給するガス流路としての機能を有する。本実施例において、第1多孔体流路40および第2多孔体流路45は、発砲焼結金属等の金属多孔体によって構成される。この場合、第1多孔体流路40の孔部41および第2多孔体流路45の孔部46が、それぞれガス流路として機能する。
【0020】
第1セパレータ50は、第1多孔体流路40の第1ガス拡散層30側と反対側の面に配置されている。第2セパレータ55は、第2多孔体流路45の第2ガス拡散層35側と反対側の面に配置されている。第1セパレータ50および第2セパレータ55は、導電性材料からなる。導電性材料として、例えばステンレス等の金属が用いられる。第1セパレータ50および第2セパレータ55は、燃料電池100が複数積層された場合に、第1多孔体流路40と第2多孔体流路45とを仕切る仕切り板としての機能を有するとともに、発生した電力を外部に取り出す機能を有する。
【0021】
なお、第1多孔体流路40および第2多孔体流路45は、ガス流路としての機能を有するものであれば、金属多孔体によって構成されていなくてもよい。また、第1セパレータ50および第2セパレータ55のガス拡散層側の面に溝を形成し、その溝を多孔体流路の代わりにガス流路として用いてもよい。
【0022】
続いて、燃料電池100の動作の概略について説明する。まず、水素を含む燃料ガスが第2多孔体流路45に供給される。燃料ガスは、第2多孔体流路45を流動しつつ、第2ガス拡散層35に到達し、第2MPL25を透過してアノード触媒層16に到達する。アノード触媒層16に到達した燃料ガス中の水素は、プロトンと電子とに分離される。プロトンは、固体高分子電解質層12を伝導して、カソード触媒層14に到達する。
【0023】
酸素を含む酸化剤ガスは第1多孔体流路40に供給される。酸化剤ガスは、第1多孔体流路40を流動しつつ、第1ガス拡散層30に到達し、第1MPL20を透過してカソード触媒層14に到達する。カソード触媒層14においては、酸化剤ガス中の酸素と固体高分子電解質層12を伝導したプロトンとから水が生成されるとともに、電力が発生する。発生した電力は、第1セパレータ50および第2セパレータ55を介して回収される。以上の動作によって、燃料電池100は発電を行う。
【0024】
カソード触媒層14で生成された生成水は、主として、第1MPL20および第1ガス拡散層30を透過して第1多孔体流路40に到達し、外部へ排出される。また、生成水の一部は、固体高分子電解質層12を透過してアノード触媒層16側へ到達する。それにより、固体高分子電解質層12が湿潤される。なお、アノード触媒層16側へ到達した生成水は、第2MPL25および第2ガス拡散層35を透過して第2多孔体流路45に到達し、外部へ排出される。
【0025】
ここで、固体高分子電解質層12は、含水量が低下するとプロトン伝導性が低下する。この場合、燃料電池100の発電性能は低下する。したがって、固体高分子電解質層12が良好なプロトン伝導性を有するためには、固体高分子電解質層12が湿潤している必要がある。
【0026】
燃料電池100の発電の際には、熱が発生する。この熱に起因して、固体高分子電解質層12が乾燥するおそれがある。この場合、固体高分子電解質層12のプロトン伝導性能が低下し、燃料電池100の発電性能低下が生じる。
【0027】
そこで、本実施例においては、第1ガス拡散層30としてカーボンペーパーを用い、第2ガス拡散層35としてカーボンクロスを用いる。図2(a)は、カーボンペーパーの拡大図である。図2(b)は、カーボンペーパーの模式的断面図である。図2(c)は、カーボンクロスの拡大図である。図2(d)は、カーボンクロスの模式的断面図である。図2(a)および図2(b)に示すように、カーボンペーパーは、カーボン繊維32を分散させてすき合わせした構造を有する。一方、図2(c)および図2(d)に示すように、カーボンクロスは、カーボン繊維37を製織して布状にしたもので、カーボン繊維37が編まれた織物構造を有している。
【0028】
図2(b)に示すように、カーボンペーパーにおいては、カーボン繊維32が面方向に伸びているため、厚み方向においてカーボン繊維32同士の界面が比較的多くなっている。この場合、カーボンペーパーの厚み方向においては熱が断続的に伝わる。したがって、カーボンペーパーにおいては、比較的熱が伝わりにくくなっている。これに対して、図2(d)に示すように、カーボンクロスにおいては、カーボン繊維37が厚み方向にも伸びている。この場合、カーボンクロスの厚み方向において熱が連続して伝わる。したがって、カーボンクロスにおいては、比較的熱が伝わりやすくなっている。以上のことから、カーボンクロスは、カーボンペーパーに比較して高い熱伝導度を有している。
【0029】
そこで、カーボンクロスの熱伝導度がカーボンペーパーの熱伝導度に比較して高いことを確認するために、カーボンクロスおよびカーボンペーパーの熱伝導度を測定した。図3は、カーボンクロスおよびカーボンペーパーの熱伝導度を示すグラフである。具体的には、図3は、同じ厚みのカーボンクロスおよびカーボンペーパーに、厚み方向から所定の荷重を加えたときのハーフタイムをレーザフラッシュ法で測定した際の測定結果である。図3において、縦軸はハーフタイム(ms)を示し、横軸は荷重(MPa)を示す。なお、ハーフタイムとは、最大温度上昇の半分の温度に到達するのに要する時間をいう。
【0030】
図3から、いずれの荷重においても、カーボンクロスのハーフタイムの方がカーボンペーパーのハーフタイムに比較して高いことが判る。ハーフタイムが高いということは、熱伝導度が高いことを意味している。つまり、図3から、カーボンクロスはカーボンペーパーに比較して高い熱伝導度を有していることが確認された。
【0031】
本実施例に係る燃料電池100によれば、第1ガス拡散層30はカーボンペーパーからなり、第2ガス拡散層35はカーボンクロスからなることから、第2ガス拡散層35は第2ガス拡散層35に比較して高い熱伝導度を有している。それにより、高温運転時において、第2ガス拡散層35の熱抵抗が第1ガス拡散層30の熱抵抗に比較して小さくなることから、第2ガス拡散層35の熱流束は第1ガス拡散層30の熱流束に比較して大きくなる。この場合、ソーレ効果によって、カソード触媒層14からアノード触媒層16側に透過する生成水の水量が増加する。その結果、固体高分子電解質層12の乾燥が抑制される。それにより、燃料電池100の高温運転時における発電性能低下を抑制することができる。
【0032】
また、第1ガス拡散層30および第2ガス拡散層35の両方がカーボンペーパーまたはカーボンクロスからなる場合であっても、例えば第2ガス拡散層35を第1ガス拡散層30に比較して薄くすることによって、第2ガス拡散層35の熱伝導度を第1ガス拡散層30の熱伝導度に比較して高くすることは可能である。しかしながら、ガス拡散層を薄くすると、ガス拡散層のクッション性が低下する。ガス拡散層のクッション性が低下すると、ガス拡散層の密着性が低下することから、燃料電池100の発電性能低下のおそれがある。また、ガス拡散層を厚くすると、ガス拡散層のガス拡散性能が低下する。この場合、燃料電池100の発電性能低下のおそれがある。
【0033】
この点、本実施例に係る燃料電池100によれば、第2ガス拡散層35の厚さを第1ガス拡散層30の厚さと等しくしても、第2ガス拡散層35の熱伝導度は、第1ガス拡散層30の熱伝導度に比較して高い。したがって、第2ガス拡散層35を第1ガス拡散層30に比較して薄くすることなく、燃料電池100の高温運転時における発電性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1に係る燃料電池の模式的断面図である。
【図2】図2(a)は、カーボンペーパーの拡大図である。図2(b)は、カーボンペーパーの模式的断面図である。図2(c)は、カーボンクロスの拡大図である。図2(d)は、カーボンクロスの模式的断面図である。
【図3】図3は、カーボンクロスおよびカーボンペーパーの熱伝導度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10 膜−電極接合体
12 固体高分子電解質層
14 カソード触媒層
16 アノード触媒層
20 第1MPL
25 第2MPL
30 第1ガス拡散層
32 カーボン繊維
35 第2ガス拡散層
37 カーボン繊維
40 第1多孔体流路
41 孔部
45 第2多孔体流路
46 孔部
50 第1セパレータ
55 第2セパレータ
100 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する固体高分子型の電解質膜と、
前記電解質膜を挟持するカソード触媒層およびアノード触媒層と、
前記カソード触媒層の前記電解質膜と反対側に設けられ、カーボンペーパーからなる第1ガス拡散層と、
前記アノード触媒層の前記電解質膜と反対側に設けられ、カーボンクロスからなる第2ガス拡散層と、を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記第2ガス拡散層の厚みは、前記第1ガス拡散層の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−176576(P2009−176576A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14278(P2008−14278)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】