説明

燃料電池

【課題】燃料電池において、触媒層からの白金イオンの溶出を抑制するとともに、電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗、電解質膜と触媒層との接触抵抗、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制する。
【解決手段】燃料電池100は、電解質膜10と、白金または白金合金を含む触媒層20と、ガス拡散層30と、触媒層20に含まれる白金または白金合金から溶出した白金イオンを捕捉するための白金イオン捕捉層40,42と、を備える。白金イオン捕捉層40,42は、それぞれ、メッシュ構造を有する部材からなり、電解質膜10と触媒層20との間、および、触媒層20とガス拡散層30との間の、空気の入口近傍の領域に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれ、アノード、および、カソードを設けることによって構成される。アノード、および、カソードは、それぞれ、触媒層と、ガス拡散層とを備える。
【0003】
このような燃料電池において、触媒層には、触媒としての白金または白金合金が含まれる。そして、電解質膜として、固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池では、燃料電池による発電時に、触媒層に含まれる白金または白金合金から白金イオンが溶出して電解質膜に析出し、この白金イオンがOHラジカル等のラジカルを発生させ、このラジカルが電解質膜を劣化させることが知られている。
【0004】
そこで、従来、触媒層から溶出した白金イオンに起因する電解質膜の劣化を抑制するための技術が提案されている。例えば、下記特許文献1には、カソード触媒層と電解質膜との間に、カソード触媒層から電解質膜への触媒イオンの溶出を抑制ないし防止する機能を有するカソード側ブロッキング層を設けることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−242423号公報
【特許文献2】特開2002−198059号公報
【特許文献3】特開平6−325778号公報
【特許文献4】特開2008−177132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、カソード側ブロッキング層が、カソード触媒層の全面に配置されるため、電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗の増加や、電解質膜と触媒層との接触抵抗の増加を招いていた。また、触媒層から溶出した白金イオンは、発電時に生成された生成水とともにガス拡散層側にも移動することが知られており、このガス拡散層側に溶出した白金イオンは、燃料電池の外部に排出されてしまい、リサイクルがなされていなかった。なお、燃料電池の外部への白金イオンの排出は、固体高分子型燃料電池に限られず、触媒層が白金または白金合金を含む燃料電池に共通する。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池において、触媒層からの白金イオンの溶出を抑制するとともに、電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗、電解質膜と触媒層との接触抵抗、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]燃料電池であって、電解質膜と、前記電解質膜の両面に設けられ、触媒としての白金または白金合金を含む触媒層と、前記触媒層の前記電解質膜と反対側の表面に設けられ、発電に供する反応ガスを前記触媒層に拡散させつつ供給するためのガス拡散層と、前記触媒層に含まれる白金または白金合金から溶出した白金イオンを捕捉するための第1の白金イオン捕捉層と、を備え、前記第1の白金イオン捕捉層は、メッシュ構造を有する部材からなり、前記電解質膜と前記触媒層との間と、前記触媒層と前記ガス拡散層との間と、のうちの少なくとも一方の一部の領域に配置されている、燃料電池。
【0010】
適用例1の燃料電池において、第1の白金イオン捕捉層を、電解質膜と触媒層との間に配置すれば、触媒層から電解質膜への白金イオンの溶出を抑制することができる。このとき、第1の白金イオン捕捉層は、電解質膜と触媒層との間における触媒層の全面ではなく、一部の領域に配置されるので、プロトン移動抵抗の増加、および、電解質膜と触媒層との接触抵抗の増加を抑制することができる。また、第1の白金イオン捕捉層を、触媒層とガス拡散層との間に配置すれば、触媒層からガス拡散層への白金イオンの溶出を抑制することができる。このとき、第1の白金イオン捕捉層は、触媒層とガス拡散層との間における触媒層の全面ではなく、一部の領域に配置されるので、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することができる。つまり、適用例1の燃料電池によって、触媒層からの白金イオンの溶出を抑制するとともに、電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗、電解質膜と触媒層との接触抵抗、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0011】
なお、適用例1の燃料電池において、第1の白金イオン捕捉層は、白金イオンと接触したときに、白金イオンを捕捉して有機白金錯体を生成しうる材料からなることが好ましく、さらに、有機白金錯体が、平面型単核錯体であることが好ましい。
【0012】
[適用例2]適用例1記載の燃料電池であって、前記一部の領域は、発電時に、前記白金イオンの溶出量が比較的多くなる領域である、燃料電池。
【0013】
適用例2の燃料電池によって、触媒層からの白金イオンの溶出を、効果的に抑制することができる。
【0014】
[適用例3]適用例1記載の燃料電池であって、前記一部の領域は、発電量が比較的多くなる領域である、燃料電池。
【0015】
燃料電池において、酸化剤ガスの入口近傍の発電領域等、発電量が比較的多くなる領域では、一般に、触媒層からの白金イオンの溶出量が比較的多くなる。したがって、適用例3の燃料電池によって、触媒層からの白金イオンの溶出を、効果的に抑制することができる。
【0016】
[適用例4]適用例1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、前記第1の白金イオン捕捉層が配置される領域の面積は、前記触媒層の面積の1/2以下である、燃料電池。
【0017】
適用例4の燃料電池によって、第1の白金イオン捕捉層を設けることによる電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗、電解質膜と触媒層との接触抵抗、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0018】
[適用例5]適用例1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、さらに、前記電解質膜と前記触媒層との間と、前記触媒層と前記ガス拡散層との間と、のうちの少なくとも一方であって、前記第1の白金イオン捕捉層が配置されていない少なくとも一部の領域に、メッシュ構造を有する部材からなり、前記第1の白金イオン捕捉層のメッシュピッチよりも大きいメッシュピッチを有する第2の白金イオン捕捉層を備える、燃料電池。
【0019】
適用例5の燃料電池では、例えば、触媒層において、発電時の白金イオンの溶出量が比較的多い領域に、第1の白金イオン捕捉層を配置し、白金イオンの溶出量が比較的少ない領域に、第2の白金イオン捕捉層を配置する。こうすることによって、触媒層における比較的白金イオンの溶出量が少ない領域からの白金イオンの溶出も抑制することができる。また、第2の白金イオン捕捉層のメッシュピッチが、第1の白金イオン捕捉層のメッシュピッチよりも大きいので、先述した電解質膜から触媒層へのプロトン移動抵抗、電解質膜と触媒層との接触抵抗、触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加も抑制することができる。
【0020】
[適用例6]適用例1ないし5のいずれかに記載の燃料電池であって、前記第1の白金イオン捕捉層におけるメッシュの形状は、正N角形(Nは6以上の整数)である、燃料電池。
【0021】
燃料電池において、電解質膜、および、触媒層は、発電・非発電時の乾湿サイクルによって、膨潤・収縮を繰り返し、面に対する水平方向および垂直方向に、繰り返し応力を受けるため、第1の白金イオン捕捉層も応力を受けることになる。適用例6の燃料電池では、第1の白金イオン捕捉層におけるメッシュの形状を、正N角形(Nは6以上の整数)とすることによって、メッシュの形状が他の形状である場合と比較して、上記応力を緩和させ、電解質膜、および、触媒層の応力による破壊を抑制することができる。なお、本適用例の第1の白金イオン捕捉層のメッシュの形状は、燃料電池が、第2の白金イオン捕捉層を備える場合には、第2の白金イオン捕捉層のメッシュの形状にも適用することが好ましい。
【0022】
[適用例7]適用例1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、前記第1の白金イオン捕捉層は、メッシュ構造を有するフィルム状の部材からなる、燃料電池。
【0023】
第1の白金イオン捕捉層をフィルム状とすることによって、他の形状とする場合と比較して、複雑なメッシュ形状を容易に製造することができる。例えば、フィルム状の第1の白金イオン捕捉層は、白金イオンを捕捉する機能を有する材料を溶解した溶液を型に流し込んで固体化したり、膜を製造した後にプレス加工によって打ち抜いたりすることによって製造することができる。したがって、複雑なメッシュ形状を有する第1の白金イオン捕捉層を製造するときに要する時間やコストを削減することができる。なお、本適用例の第1の白金イオン捕捉層の形状は、燃料電池が、第2の白金イオン捕捉層を備える場合には、第2の白金イオン捕捉層の形状にも適用可能である。
【0024】
[適用例8]適用例1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、前記第1の白金イオン捕捉層は、メッシュ構造を有する第1のメッシュ部材、および、第2のメッシュ部材を含む多層構造を有しており、前記第1のメッシュ部材と前記第2のメッシュ部材とは、積層方向から見たときに、前記第1のメッシュ部材における格子点と前記第2のメッシュ部材における格子点とが不一致となるように積層されている、燃料電池。
【0025】
適用例8の燃料電池によって、第1の白金イオン捕捉層の強度を高めることができる。なお、本適用例の第1の白金イオン捕捉層の構造は、燃料電池が、第2の白金イオン捕捉層を備える場合には、第2の白金イオン捕捉層の構造にも適用可能である。
【0026】
[適用例9]適用例1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、前記第1の白金イオン捕捉層におけるメッシュ構造は、薄膜状の部材を短冊状に裁断し、該短冊状に裁断された複数の部材を組み合わせることによって作製されている、燃料電池。
【0027】
適用例9の燃料電池によって、第1の白金イオン捕捉層を製造するときの歩留まりを向上させることができる。なお、本適用例の第1の白金イオン捕捉層の製造方法は、燃料電池が、第2の白金イオン捕捉層を備える場合には、第2の白金イオン捕捉層の製造方法にも適用可能である。
【0028】
本発明は、上述の燃料電池としての構成の他、燃料電池に用いられる膜電極接合体の発明として構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池100の一部を示す説明図である。なお、ここでは、酸化剤ガスとしての空気が供給される燃料電池100のカソード側を示している。
【0030】
図示するように、燃料電池100は、電解質膜10と、触媒層20と、ガス拡散層30と、を備えている。本実施例では、電解質膜10として、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子膜を用いるものとした。電解質膜10として、固体高分子以外の材料を用いるものとしてもよい。触媒層20は、触媒として、白金または白金合金を含んでいる。ガス拡散層30は、発電に供する反応ガスを触媒層20に拡散させつつ供給するための層である。ガス拡散層30としては、ガス拡散性、および、導電性を有する部材、例えば、カーボンペーパや、カーボンクロスが用いられる。
【0031】
そして、本実施例の燃料電池100では、電解質膜10と触媒層20との間の一部の領域に、白金イオン捕捉層40が配置されている。また、触媒層20とガス拡散層30との間の一部の領域に、白金イオン捕捉層42が配置されている。白金イオン捕捉層40,42は、発電時に触媒層20からの白金イオンの溶出を抑制するための層である。この白金イオン捕捉層40,42は、白金イオンと接触したときに、白金イオンを捕捉する機能を有する材料からなり、白金イオンを捕捉して有機白金錯体を生成しうる材料からなることが好ましい。さらに、有機白金錯体は、平面型単核錯体であることが好ましい。
【0032】
本実施例では、白金イオン捕捉層40,42は、空気の入口近傍の、比較的発電量が多くなる発電領域に配置されている。そして、白金イオン捕捉層40,42が配置されている領域の面積は、触媒層20の面積の1/2以下である。
【0033】
本実施例における白金イオン捕捉層40,42は、メッシュ構造を有するフィルム状の部材からなる。そして、本実施例では、白金イオン捕捉層40,42は、単層構造であるものとした。なお、白金イオン捕捉層40,42のメッシュピッチは、本実施例では、5(μm)であるものとした。白金イオン捕捉層40,42のメッシュピッチは、適宜、変更可能である。
【0034】
図2は、白金イオン捕捉層40,42の平面図である。図2(a)に、本実施例の白金イオン捕捉層40,42の平面図を示した。また、図2(b),(c),(d)に、比較例1〜3としての白金イオン捕捉層の平面図をそれぞれ示した。図2(a)に示したように、本実施例の白金イオン捕捉層40,42におけるメッシュ形状は、正六角形である。
【0035】
燃料電池100において、電解質膜10、および、触媒層20は、発電・非発電時の乾湿サイクルによって、膨潤・収縮を繰り返し、面に対する水平方向および垂直方向に、繰り返し応力を受けるため、白金イオン捕捉層40,42も応力を受けることになる。そして、図2(b)に示した正三角形のメッシュ形状を有する比較例1の白金イオン捕捉層では、図中に矢印で示した6方向の応力に弱い。また、図2(c)に示した正方形のメッシュ構造を有する比較例2の白金イオン捕捉層では、図中に矢印で示した4方向の応力に弱い。また、図2(d)に示した長方形を斜めにずらして配置したメッシュ構造を有する比較例3の白金イオン捕捉層では、図中に矢印で示した2方向の応力に弱い。
【0036】
これに対し、本実施例における白金イオン捕捉層40,42では、メッシュ形状を、正六角形とすることによって、比較例1〜3の白金イオン捕捉層と比較して、上記応力を均一に分散させて緩和し、電解質膜10、および、触媒層20の応力による破壊を抑制することができる。
【0037】
以上説明し第1実施例の燃料電池100によれば、電解質膜10と触媒層20との間に、白金イオン捕捉層40が配置されているので、触媒層20から電解質膜10への白金イオンの溶出を抑制することができる。そして、白金イオン捕捉層40は、電解質膜10と触媒層20との間における触媒層20の全面ではなく、一部の領域に配置されているので、プロトン移動抵抗の増加、および、電解質膜10と触媒層20との接触抵抗の増加を抑制することができる。また、触媒層20とガス拡散層30との間に、白金イオン捕捉層42が配置されているので、触媒層20からガス拡散層30への白金イオンの溶出を抑制することができる。そして、白金イオン捕捉層42は、触媒層20とガス拡散層30との間における触媒層20の全面ではなく、一部の領域に配置されているので、触媒層20とガス拡散層30との接触抵抗の増加を抑制することができる。つまり、本実施例の燃料電池100によって、触媒層20からの白金イオンの溶出を抑制するとともに、電解質膜10から触媒層20へのプロトン移動抵抗、電解質膜10と触媒層20との接触抵抗、触媒層20とガス拡散層30との接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0038】
また、本実施例の燃料電池100では、白金イオン捕捉層40,42は、発電量が比較的多くなり、白金イオンの溶出量が比較的多くなる一部の領域に配置されているので、触媒層20からの白金イオンの溶出を、効果的に抑制することができる。
【0039】
また、本実施例の燃料電池100では、白金イオン捕捉層40,42が、メッシュ構造を有するフィルム状の部材からなるものとしているので、例えば、白金イオンを捕捉する機能を有する材料を溶解した溶液を型に流し込んで固体化したり、膜を製造した後にプレス加工によって打ち抜いたりすることによって、複雑なメッシュ形状を比較的容易に製造することができる。したがって、複雑なメッシュ形状を有する白金イオン捕捉層を製造するときに要する時間やコストを削減することができる。
【0040】
B.第2実施例:
図3は、本発明の第2実施例としての燃料電池100Aの一部を示す説明図である。第1実施例と同様に、酸化剤ガスとしての空気が供給される燃料電池100Aのカソード側を示した。
【0041】
図示するように、第2実施例の燃料電池100Aでは、第1実施例の燃料電池100の構造に加えて、電解質膜10と触媒層20との間の白金イオン捕捉層40が配置されていない領域に、白金イオン捕捉層44が配置されている。また、触媒層20とガス拡散層30との間の白金イオン捕捉層42が配置されていない領域に、白金イオン捕捉層46が配置されている。白金イオン捕捉層44,46が配置されている領域は、発電量が比較的少なく、触媒層20からの白金イオンの溶出量が比較的少ない領域である。白金イオン捕捉層40,42は、本発明における第1の白金イオン捕捉層に相当する。また、白金イオン捕捉層44,46は、本発明における第2の白金イオン捕捉層に相当する。
【0042】
白金イオン捕捉層44,46は、白金イオン捕捉層40,42と同様に、単層のメッシュ構造を有するフィルム状の部材からなり、メッシュ形状は、正六角形である。そして、白金イオン捕捉層44,46のメッシュピッチは、白金イオン捕捉層40,42のメッシュピッチよりも大きい。なお、白金イオン捕捉層44,46のメッシュピッチは、本実施例では、50(μm)であるものとした。白金イオン捕捉層44,46のメッシュピッチは、白金イオン捕捉層40,42のメッシュピッチよりも大きい条件下で、適宜、変更可能である。また、白金イオン捕捉層40,42のメッシュ形状と、白金イオン捕捉層44,46のメッシュ形状を、互いに異なる形状としてもよい。
【0043】
以上説明した第2実施例の燃料電池100Aによっても、第1実施例の燃料電池100と同様に、触媒層20からの白金イオンの溶出を抑制するとともに、電解質膜10から触媒層20へのプロトン移動抵抗、電解質膜10と触媒層20との接触抵抗、触媒層20とガス拡散層30との接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0044】
また、第2実施例の燃料電池100Aでは、白金イオン捕捉層40,42が配置されていない領域に、白金イオン捕捉層44,46が配置されているので、触媒層20における比較的白金イオンの溶出量が少ない領域からの白金イオンの溶出も抑制することができる。なお、白金イオン捕捉層44,46のメッシュピッチは、白金イオン捕捉層40,42のメッシュピッチよりも十分に大きいので、電解質膜10から触媒層20へのプロトン移動抵抗、電解質膜10と触媒層20との接触抵抗、触媒層20とガス拡散層30との接触抵抗の増加も抑制することができる。
【0045】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0046】
C1.変形例1:
上記実施例では、白金イオン捕捉層40,42、あるいは、白金イオン捕捉層44,46は、それぞれ、単層のメッシュ構造を有するフィルム状の部材であるものとしたが、本発明は、これに限られない。各白金イオン捕捉層を、多層構造としてもよい。
【0047】
図4は、変形例としての白金イオン捕捉層40A,40Bを示す説明図である。図4(a)に示したように、白金イオン捕捉層40Aは、正三角形のメッシュ形状を有する2つのメッシュ部材40A1,40A2を積層することによって作製される。なお、メッシュ部材40A1,40A2の積層時には、メッシュ部材40A1における格子点P1と、メッシュ部材40A2における格子点P2とが不一致となるように積層される。また、図4(b)に示したように、白金イオン捕捉層40Bは、正方形のメッシュ形状を有する2つのメッシュ部材40B1,40B2を積層することによって作製される。なお、メッシュ部材40B1,40B2の積層時には、メッシュ部材40B1における格子点P1と、メッシュ部材40B2における格子点P2とが不一致となるように積層される。このような多層構造を有する白金イオン捕捉層によれば、その強度を高めることができる。
【0048】
また、白金イオン捕捉層は、白金イオンを捕捉する機能を有する材料によって作製された薄膜状の部材を短冊状に裁断し、短冊状に裁断された複数の部材を組み合わせることによって作製するようにしてもよい。
【0049】
C2.変形例2:
上記実施例では、白金イオン捕捉層40,42、あるいは、白金イオン捕捉層44,46のメッシュ形状は、正六角形であるものとしたが、本発明は、これに限られない。ただし、先に説明した応力緩和の観点から、各白金イオン捕捉層のメッシュ形状は、正N角形(Nは6以上の整数)とすることが好ましい。各白金イオン捕捉層のメッシュ形状を、さらに複雑な形状としてもよい。
【0050】
C3.変形例3:
上記実施例では、白金イオン捕捉層40,42が配置される領域の面積は、触媒層20の面積の1/2以下であるものとしたが、本発明は、これに限られない。ただし、白金イオン捕捉層40,42が配置される領域の面積は、触媒層20の面積の1/2以下とすることによって、白金イオン捕捉層40,42を設けることによる電解質膜10から触媒層20へのプロトン移動抵抗、電解質膜10と触媒層20との接触抵抗、触媒層20とガス拡散層30との接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0051】
C4.変形例4:
上記実施例では、触媒層20の両面に、白金イオン捕捉層40,42、あるいは、白金イオン捕捉層44,46を配置するものとしたが、本発明は、これに限られない。上記白金イオン捕捉層は、電解質膜10と触媒層20との間と、触媒層20とガス拡散層30との間と、のうちの少なくとも一方の一部の領域に配置されればよい。
【0052】
C5.変形例5:
上記第2実施例では、電解質膜10と触媒層20との間の白金イオン捕捉層40が配置されていない領域全面に、白金イオン捕捉層44を配置し、また、触媒層20とガス拡散層30との間の白金イオン捕捉層42が配置されていない領域全面に、白金イオン捕捉層46を配置するものとしたが、本発明は、これに限られない。触媒層20からの白金イオンの溶出量が微量となる領域を、白金イオン捕捉層が配置されない領域としてもよい。また、各白金イオン捕捉層のメッシュピッチを、触媒層20からの白金イオンの溶出量に応じて、段階的に変化させるようにしてもよい。
【0053】
C6.変形例6:
上記実施例では、白金イオン捕捉層40,42、また、白金イオン捕捉層44,46を、燃料電池100,100Aのカソード側に適用した場合について説明したが、アノード側に適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池100の一部を示す説明図である。
【図2】白金イオン捕捉層40,42の平面図である。
【図3】本発明の第2実施例としての燃料電池100Aの一部を示す説明図である。
【図4】変形例としての白金イオン捕捉層40A,40Bを示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
100,100A…燃料電池
10…電解質膜
20…触媒層
30…ガス拡散層
40,42…白金イオン捕捉層(第1の白金イオン捕捉層)
44,46…白金イオン捕捉層(第2の白金イオン捕捉層)
40A,40B…白金イオン捕捉層
40A1,40A2,40B1,40B2…メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、
前記電解質膜の両面に設けられ、触媒としての白金または白金合金を含む触媒層と、
前記触媒層の前記電解質膜と反対側の表面に設けられ、発電に供する反応ガスを前記触媒層に拡散させつつ供給するためのガス拡散層と、
前記触媒層に含まれる白金または白金合金から溶出した白金イオンを捕捉するための第1の白金イオン捕捉層と、を備え、
前記第1の白金イオン捕捉層は、
メッシュ構造を有する部材からなり、
前記電解質膜と前記触媒層との間と、前記触媒層と前記ガス拡散層との間と、のうちの少なくとも一方の一部の領域に配置されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記一部の領域は、発電時に、前記白金イオンの溶出量が比較的多くなる領域である、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記一部の領域は、発電量が比較的多くなる領域である、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の白金イオン捕捉層が配置される領域の面積は、前記触媒層の面積の1/2以下である、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、さらに、
前記電解質膜と前記触媒層との間と、前記触媒層と前記ガス拡散層との間と、のうちの少なくとも一方であって、前記第1の白金イオン捕捉層が配置されていない少なくとも一部の領域に、メッシュ構造を有する部材からなり、前記第1の白金イオン捕捉層のメッシュピッチよりも大きいメッシュピッチを有する第2の白金イオン捕捉層を備える、
燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の白金イオン捕捉層におけるメッシュの形状は、正N角形(Nは6以上の整数)である、
燃料電池。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の白金イオン捕捉層は、メッシュ構造を有するフィルム状の部材からなる、
燃料電池。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の白金イオン捕捉層は、メッシュ構造を有する第1のメッシュ部材、および、第2のメッシュ部材を含む多層構造を有しており、
前記第1のメッシュ部材と前記第2のメッシュ部材とは、積層方向から見たときに、前記第1のメッシュ部材における格子点と前記第2のメッシュにおける格子点とが不一致となるように積層されている、
燃料電池。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の白金イオン捕捉層におけるメッシュ構造は、薄膜状の部材を短冊状に裁断し、該短冊状に裁断された複数の部材を組み合わせることによって作製されている、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−157467(P2010−157467A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191(P2009−191)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】