説明

燃料電池

【課題】液体燃料を用いた燃料電池において、空気極で生成した水を燃料極へ還流させる量と空気の空気極への供給量とをバランスさせて出力特性を向上させる。
【解決手段】燃料電池1は、触媒層11およびガス拡散層12からなる燃料極13と、触媒層14およびガス拡散層15からなる空気極16と、燃料極13の触媒層11と空気極16の触媒層14とに挟持された電解質膜17と、空気極16の触媒層14で生成した水の蒸散を抑止する保湿層31と、空気導入口32を有するカバー層33とを具備する。空気極16のガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の熱抵抗をそれぞれAガス拡散層、A保湿層およびAカバー層とし、空気極16のガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の物質移動抵抗をそれぞれBガス拡散層、B保湿層およびBカバー層としたとき、Aガス拡散層<Aカバー層<A保湿層およびBガス拡散層<B保湿層<Bカバー層の条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。これらのうち、内部気化型等のパッシブ方式はDMFCの小型化に対して特に有利である。
【0004】
パッシブ型DMFCにおいては、液体燃料として、通常、メタノール水溶液が使用され、メタノールと水の双方を気化ガスの形で燃料極に供給している。しかし、水はメタノールに比べて気化速度が遅いため、メタノール供給量に対し、水の供給量が相対的に不足する。その結果、メタノールを内部改質する反応の反応抵抗が高くなるため、十分な出力特性が得られない。
【0005】
そこで、空気極の外側に保湿板を配置し、空気極で生成した水を電解質膜を通して燃料極に戻すようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。空気極で生成した水を電解質膜を通して燃料極に供給(還流)することにより、燃料の内部改質反応の反応抵抗を低下させることができる。ただし、この場合、保湿板を設けたことによって空気の導入量が減り、所期の出力特性を十分に向上させることができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、空気極で生成した水を電解質膜を介して燃料極へ供給する量と、空気の空気極への供給量とを適正にバランスさせて、出力特性を十分に向上させることができる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る燃料電池は、触媒層およびガス拡散層からなる燃料極と、触媒層およびガス拡散層からなる空気極と、前記燃料極の触媒層と前記空気極の触媒層とに挟持された電解質膜と、前記空気極のガス拡散層の外表面に積層された前記空気極の触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層と、前記保湿層の外表面に積層された空気導入口を有するカバー層とを具備し、前記空気極のガス拡散層、保湿層およびカバー層の厚さ方向の熱抵抗をそれぞれAガス拡散層、A保湿層およびAカバー層とし、かつ、前記空気極のガス拡散層、保湿層およびカバー層の厚さ方向の物質移動抵抗をそれぞれBガス拡散層、B保湿層およびBカバー層としたとき、下記(i)および(ii)の条件を満足することを特徴としている。
(i)Aガス拡散層<Aカバー層<A保湿層
(ii)Bガス拡散層<B保湿層<Bカバー層
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る燃料電池によれば、空気極で生成した水を電解質膜を介して燃料極へ供給する量と、空気の空気極への供給量とを適正にバランスさせることができ、出力特性を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す燃料電池の一変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態による燃料電池の構成を示す断面図である。図1に示す燃料電池1は、起電部を構成する燃料電池セル2と、この燃料電池セル2に燃料を供給する燃料分配機構3と、液体燃料を収容する燃料収容部4と、これら燃料分配機構3と燃料収容部4とを接続する流路5と、空気を取り入れ燃料電池セル2に供給する空気供給部6から主として構成されている。
【0012】
燃料電池セル2は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とから構成される膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を有している。
【0013】
アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11にはメタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14にはPtやPt−Ni等を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0014】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、これらに限られるものではない。
【0015】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと共に、アノード触媒層11の集電体も兼ねている。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤(空気)を均一に供給する役割を果たすと共に、カソード触媒層14の集電体も兼ねている。アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15は多孔質基材で構成されている。アノードガス拡散層12には、必要に応じて導電層(図示なし)が積層される。導電層は、例えばAu、Niのような導電性金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、多孔質膜、薄膜、あるいはステンレス鋼(SUS)等の導電性金属材料にAu等の良導電性金属を被覆した複合材等で構成される。
【0016】
燃料収容部4には、燃料電池セル2に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には燃料電池セル(MEA)2に応じた液体燃料が収容される。
【0017】
燃料電池セル(MEA)2のアノード13側には、燃料分配機構3が配置されている。燃料分配機構3は配管のような液体燃料の流路5を介して燃料収容部4と接続されている。燃料分配機構3には燃料収容部4から流路5を介して液体燃料が導入される。流路5は燃料分配機構3や燃料収容部4と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構3と燃料収容部4とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構3は流路5を介して燃料収容部4と接続されていればよい。
【0018】
燃料分配機構3は、液体燃料が流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、液体燃料もしくはその気化成分を排出する複数の燃料排出口22とを有する燃料分配板23を備えている。ここで、気化成分とは、例えば液体燃料として純メタノールを使用した場合、気化したメタノールを意味し、また、液体燃料としてメタノール水溶液を使用した場合、メタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合ガスを意味する。燃料分配板23の内部には、液体燃料の通路として機能する細管24が形成されている。細管24の一端(始端部)には燃料注入口21が設けられている。細管24は途中で複数に分岐しており、これら分岐した細管24の各終端部に燃料排出口22がそれぞれ設けられている。細管24は例えば内径が0.05〜5mmの貫通孔であることが好ましい。
【0019】
燃料注入口21から燃料分配機構3に導入された液体燃料は、複数に分岐した細管24を介して複数の燃料排出口22にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口22には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示なし)を配置してもよい。これによって、燃料電池セル2のアノード13には液体燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構3とアノード13との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口22からアノード13の複数箇所に向けて排出される。
【0020】
一方、カソード16のカソードガス拡散層15上には、空気供給部6を構成する保湿層31が積層され、この保湿層31上には、酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口32が複数個形成されたカバー層33が積層されている。カバー層33は、膜電極接合体を含む積層構造を加圧してその密着性を高める役割も果たしている。カバー層33は、例えばSUS304のような金属から形成される。
【0021】
保湿層31は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑止すると共に、カソードガス拡散層15に空気を均一に導入することによりカソード触媒層14への空気の均一拡散を促進する役割を果たしている。保湿層31は、液体燃料に対して不活性で、溶解しない絶縁材料から形成されていることが好ましい。例えば液体燃料がメタノールの場合に、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0022】
カソードガス拡散層15と、その上に積層された保湿層31およびカバー層33は、カソード触媒層14で生成された水が電解質膜17を通してアノード触媒層11に供給され、アノード触媒層11における燃料の内部改質反応の反応抵抗の低下に寄与すると共に、カバー層33から取り入れられた空気が保湿層31とカソードガス拡散層15を拡散してカソード触媒層14における発電反応を十分に生起させることが可能なように、下記(i)および(ii)の条件をいずれも満足するように構成されている。
(i)Aガス拡散層<Aカバー層<A保湿層
(ii)Bガス拡散層<B保湿層<Bカバー層
ここで、Aガス拡散層、A保湿層およびAカバー層は、それぞれカソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の熱抵抗であり、Bガス拡散層、B保湿層およびBカバー層は、それぞれカソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の物質移動抵抗である。上記(1)および(2)の条件のいずれか一方でも満たさない場合には、水のアノード触媒層11への供給量または空気のカソード触媒層14への導入量が低下し、所期の出力特性が得られない。
【0023】
出力特性を向上させる上で、保湿層31の熱抵抗A保湿層が、カソードガス拡散層15の熱抵抗Aガス拡散層の20〜30倍で、カバー層33の熱抵抗Aカバー層が、カソードガス拡散層15の熱抵抗Aガス拡散層の3〜4倍であることが好ましい。また、保湿層31の物質移動抵抗B保湿層が、カソードガス拡散層15の物質移動抵抗Bガス拡散層の20〜25倍であり、カバー層33の物質移動抵抗Bカバー層が、カソードガス拡散層15の物質移動抵抗Bガス拡散層の45〜50倍であることが好ましい。
【0024】
なお、ここでいう「熱抵抗」および「物質移動抵抗」は、層の厚さ方向、つまり膜電極接合体(MEA)2の主面に垂直な方向の熱抵抗および物質移動抵抗を意味する。カソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の熱抵抗は、それぞれの層について測定した熱伝導率λと層厚Lから次式により求められる。
熱抵抗A= L[m]/λ[mK/W]
また、カソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の物質移動抵抗は、それぞれの層について測定した拡散係数Dと層厚Lから次式により求められる。
物質移動抵抗B= L[m]/D[s/m]
熱伝導率λは、例えばレーザフラッシュ法により測定することができ、拡散係数Dは、例えばWilke−Kallenbach法により測定することができる。
【0025】
上記熱抵抗および物質移動抵抗は、各層を構成する材料、厚み、気孔率、開口率等を適宜選択することによって調整することができる。
【0026】
カソードガス拡散層15と保湿層31との界面において、面方向の温度差が3℃以下であることが好ましい。また、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15との界面における相対湿度が70〜80%であることが好ましい。カソードガス拡散層15と保湿層31との界面における面方向の温度差が3℃を超えると、同界面においてフラッティングが起こり、上述した効果が得られないおそれがある。また、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15との界面における相対湿度が70%未満または80%を超えた場合にも、同様に、上述した効果が十分に得られないおそれがある。
【0027】
なお、電解質膜17と燃料分配機構3および保湿層19との間には、それぞれゴム製のOリング34が介在されており、これらによって燃料電池セル(MEA)2からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0028】
上記のように構成される燃料電池1においては、燃料分配機構3から放出された燃料が、燃料電池セル2のアノード13に供給される。燃料は、燃料電池セル2内において、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応して(1)式の内部改質反応が生じる。
CHOH+HO → CO+6H+6e …(1)
【0029】
この反応で生成した電子(e)は集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、カソード(空気極)16に導かれる。また、(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H)は電解質膜17を経てカソード触媒層14に導かれる。一方、カバー層33の空気導入口32から取り入れられた空気は、保湿層31とカソードガス拡散層15を拡散してカソード触媒層14に供給される。カソード触媒層14に導かれた電子(e)とプロトン(H)は、そこで空気中の酸素と下記(2)式に従って反応し、この反応に伴って水が生成する。
6e+6H+(3/2)O → 3HO …(2)
【0030】
上記(2)式の反応等によってカソード触媒層14中に生成した水は、カソードガス拡散層15内を拡散して保湿層31に到達し、保湿層31によって蒸散を阻害され、カソード触媒層14中の水分含有量が増加する。このカソード触媒層14中の水分含有量がアノード触媒層11の水分含有量より多くなると、浸透圧現象によって、カソード触媒層14中に生成した水が電解質膜17を通過してアノード触媒層11に移動する反応が促進され、その結果、前述した(1)式に示す内部改質反応が促進されることになる。一方、上記(2)式の発電反応を促進するためには、空気の供給が不可欠であり、空気の供給が不十分であると、反応は円滑に進まず、水の生成も減少する。従って、出力特性を向上させるためには、カソード触媒層14中に生成した水の蒸散を抑制し、水のアノード触媒層11への移動を促進しつつ、カソード触媒層14へ十分な量の空気を供給することが重要となる。
【0031】
本実施形態の燃料電池1においては、前述したようにカソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の熱抵抗および物質移動抵抗を特定したことにより、カソード触媒層14中に生成した水の蒸散の抑制と、カソード触媒層14への空気の供給のバランスをとることができている。このため、出力特性を十分に、かつ安定して向上させることができる。
【0032】
上述した実施形態において、液体燃料を燃料収容部4から燃料分配機構3まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部4から燃料分配機構3まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路5を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部4から燃料分配機構3まで送液することができる。さらに、燃料収容部4を加圧しその圧力により液体燃料を燃料収容部4から燃料分配機構3へ送液することができる。また、燃料収容部4から燃料分配機構3への送液はポンプで行ってもよい。この場合、ポンプは燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料分配機構3に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。このようなポンプで必要時に液体燃料を送液することによって、燃料供給量の制御性を高めることができる。ポンプとしては、例えばロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。さらに、ポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合、燃料遮断バルブは、流路5による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0033】
また、上述した実施形態においては、燃料分配機構3として、燃料注入口21と、液体燃料もしくはその気化成分を排出する複数の燃料排出口22とを細管24で接続したものを用いているが、例えば図2に示すように、内部に空隙部25が設けられ、この空隙部25から燃料を複数の燃料排出口22に分配するようにしたものであってもよい。
【0034】
図2に示す燃料分配機構3は、液体燃料が流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、液体燃料やその気化成分を排出する複数の燃料排出口22とを有する燃料分配板23Aを備えている。燃料分配板23Aの内部には、液体燃料の通路となる空隙部25が形成されている。複数の燃料排出口22は液体燃料の通路として機能する空隙部25にそれぞれ直接接続されている。燃料注入口21から燃料分配機構3に導入された液体燃料は空隙部25に入り、この空隙部25を介して複数の燃料排出口22にそれぞれ導かれる。
【0035】
さらに、上述した実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、熱抵抗および物質移動抵抗が特定の相対関係にあるカソードガス拡散層15、保湿層31およびカバー層33の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、上述した実施形態の燃料電池1は、濃度が80%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる、従って、上記実施形態は濃度が80%以上のメタノールを液体燃料として用いた燃料電池に適用することが好ましい。
【0036】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、MEAに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、全てが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組合せたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
[触媒ペーストの調製]
Pt−Ru微粒子を担持したカーボン粒子、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、イオン交換水およびメトキシプロパノールを混合し、アノード用触媒ペーストを調製した。また、Pt微粒子を担持したカーボン粒子、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、イオン交換水およびメトキシプロパノールを混合し、カソード用触媒ペーストを調製した。
【0039】
[燃料電池用膜電極接合体および燃料電池の製造]
(実施例1)
アノードガス拡散層として、カーボンペーパからなる多孔質基材(厚み250μm、面積32cm、気孔率78体積%、熱伝導率1.7W/mK、拡散係数2.22×10−5/s)を用意し、その片面に、上記アノード用触媒ペーストを塗布し乾燥させて厚さ50μmのアノード触媒層を形成した。また、カソードガス拡散層として、同様の多孔質基材を用意し、その片面に、上記カソード用触媒ペーストを塗布し乾燥させて厚さ45μmのカソード触媒層を形成した。
【0040】
上記アノード触媒層を形成した多孔質基材およびカソード触媒層を形成した多孔質基材をそれぞれアノード極およびカソード極として、電解質膜の厚さ50μm、含水率25質量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(ナフィオン膜、デュポン社製)の両面に、各触媒層を電解質膜側に向けて重ね合わせ、150℃、4MPaで10分間、加熱プレスして膜電極接合体を作製した。また、保湿層として、ポリエチレン製多孔質フィルム(厚さ2000μm、面積40cm、気孔率26体積%、熱伝導率0.50W/mK、拡散係数7.41×10−6/s)を用意した。さらに、カバー層として、空気導入口を形成したSUS304板(厚さ4000μm、面積45cm、開口率25.5面積%、熱伝導率8.0W/mK、拡散係数7.27×10−6/s)を用意した。
【0041】
上記膜電極接合体、保湿層およびカバー層を用いて、パッシブ型のDMFCを組み立てた。
【0042】
(実施例2、3、比較例1〜7)
カソードガス拡散層、保湿層およびカバー層の形成に用いる材料の変更も含めて、厚さ、気孔率、開口率、熱伝導率、拡散係数を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、パッシブ型のDMFCを組み立てた。
【0043】
【表1】

【0044】
上記各実施例および各比較例で作製されたパッシブ型DMFCの液体燃料タンクに純メタノールを注入して、温度25℃、相対湿度50%の環境下、セル温度を55℃に制御して、動作させ、下記に示す方法で放熱フラックスおよび排出水蒸気フラックスを測定した。
【0045】
[放熱フラックス]
DMFCのカバー層の表面の中央部を含めた数点(各実施例および各比較例のそれぞれ同じ位置の数点)の温度を熱電対で測定し、制御温度部と外表面の温度差から通過熱量Qを求める。
【0046】
[排出水蒸気フラックス]
外表面雰囲気の水蒸気濃度を水蒸気検知管で実測し、空気中の水蒸気濃度と外表面水蒸気濃度の差から通過水蒸気量Fを求める。
【0047】
これらの測定結果を、カソードガス拡散層、保湿層およびカバー層の熱抵抗比および物質移動抵抗比と共に表2に示す。なお、放熱フラックスおよび排出水蒸気フラックスは、いずれも比較例1の測定値を100としたときの相対値で示している。また、熱抵抗比は、レーザフラッシュ法により測定した熱伝導率から算出した熱抵抗より求めたものであり、物質移動抵抗比は、Wilke−Kallenbach法により測定した拡散係数から算出した物質移動抵抗より求めたものである。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、本発明に係る実施例では、放熱量が多く、かつ排出水蒸気の量が少なくなっており、カソード触媒層で十分な触媒反応が生起され、かつカソード触媒層で生じた水がアノード触媒層へ十分に還流されていることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1…燃料電池、2…燃料電池セル、3…燃料分配機構、4…燃料収容部、5…流路、6…空気導入部、11…アノード触媒層、12…アノードガス拡散層、13…アノード(燃料極)、14…カソード触媒層、15…カソードガス拡散層、16…カソード(空気極)、17…電解質膜、21…燃料注入口、22…燃料排出口、23,23A…燃料分配板、24…細管、25…空隙部、31…保湿層、32…空気導入口、33…カバー層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層およびガス拡散層からなる燃料極と、
触媒層およびガス拡散層からなる空気極と、
前記燃料極の触媒層と前記空気極の触媒層とに挟持された電解質膜と、
前記空気極のガス拡散層の外表面に積層された前記空気極の触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層と、
前記保湿層の外表面に積層された空気導入口を有するカバー層とを具備し、
前記空気極のガス拡散層、保湿層およびカバー層の厚さ方向の熱抵抗をそれぞれAガス拡散層、A保湿層およびAカバー層とし、かつ、前記空気極のガス拡散層、保湿層およびカバー層の厚さ方向の物質移動抵抗をそれぞれBガス拡散層、B保湿層およびBカバー層としたとき、下記(i)および(ii)の条件を満足することを特徴とする燃料電池。
(i)Aガス拡散層<Aカバー層<A保湿層
(ii)Bガス拡散層<B保湿層<Bカバー層
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、
保湿層の熱抵抗A保湿層が、ガス拡散層の熱抵抗Aガス拡散層の20〜30倍であり、カバー層の熱抵抗Aカバー層が、ガス拡散層の熱抵抗Aガス拡散層の3〜4倍であることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池において、
保湿層の物質移動抵抗B保湿層が、ガス拡散層の物質移動抵抗Bガス拡散層の20〜25倍であり、カバー層の物質移動抵抗Bカバー層が、ガス拡散層の物質移動抵抗Bガス拡散層の45〜50倍であることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記空気極のガス拡散層と前記保湿層との界面における面方向の温度差が3℃以下であることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記空気極の触媒層とガス拡散層との界面における相対湿度が70〜80%であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記液体燃料はメタノール燃料であることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池において、
前記メタノール燃料は、メタノール濃度が80%以上のメタノール水溶液または純メタノールであることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−170863(P2010−170863A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12835(P2009−12835)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】