説明

燃料電池

【課題】フラッディング抑制に優れた燃料電池を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体、及び、当該膜・電極接合体をさらに挟持する一対のセパレータを有する単セルを備える燃料電池であって、前記セパレータの前記膜・電極接合体側の面に、前記膜・電極接合体へと供給される反応ガスが流通する反応ガス流入流路、及び、前記膜・電極接合体を通過した反応ガスが流通する反応ガス流出流路が備えられ、前記反応ガス流出流路の上流端が閉塞され、且つ、前記反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とが、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態であり、当該下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁によって仕切られていることを特徴とする、燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッディング抑制に優れた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e (1)
(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、(1)式で生じたプロトンは、水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0004】
また、酸素を酸化剤とした場合、カソードでは(2)式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → HO (2)
カソードで生成した水は、主としてガス拡散層を通り、外部へと排出される。このように、燃料電池では、水以外の排出物がなく、クリーンな発電装置である。
【0005】
一般にカソードでは、アノードからの水の移動と電極反応によるカソード内での水の生成の両方の原因によって、水が過剰に存在する傾向がある。あまりに水分量が過剰となると、水蒸気が多孔質のカソード側ガス拡散層内で凝縮して水滴となり空孔を塞いでしまう、いわゆるフラッディングが発生し、カソード側ガス拡散層のガス透過に支障をきたす問題が生じていた。その結果、従来の燃料電池においては、酸化剤ガスがカソード側触媒層に行き渡らなくなって、発電効率が低下してしまうという課題が存在した。
【0006】
このような発電効率の低下の課題を解決するために、ガス供給用のガス流路部と、ガス排出用のガス流路部が分離されて設置された閉塞流路を採用する技術が、これまでにも開発されている。特許文献1には、電解質膜を有する発電セルと、前記発電セルに対向するセパレータとを備え、前記セパレータの前記発電セル側の面に、入口部が閉塞部材により閉塞された溝状の流路と出口部が前記閉塞部材により閉塞された溝状の流路とが交互にストライプ状に並ぶガス流路が形成されていることを特徴とする燃料電池の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−127770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された技術は、膜・電極接合体から排出される水分量の多寡に即してフラッディングの抑制を図るものではない。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、フラッディング抑制に優れた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池は、高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体、及び、当該膜・電極接合体をさらに挟持する一対のセパレータを有する単セルを備える燃料電池であって、前記セパレータの前記膜・電極接合体側の面に、前記膜・電極接合体へと供給される反応ガスが流通する反応ガス流入流路、及び、前記膜・電極接合体を通過した反応ガスが流通する反応ガス流出流路が備えられ、前記反応ガス流出流路の上流端が閉塞され、且つ、前記反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とが、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態であり、当該下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁によって仕切られていることを特徴とする。
【0010】
このような構成の燃料電池は、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁が設けられているため、前記膜・電極接合体から排出され、前記下流端に貯留した水を、前記反応ガス流出流路へ強制的に排出することができ、フラッディングを防止することができる。また、このような構成の燃料電池は、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には、前記反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端を前記排液弁によって閉ざすことによって、反応ガスを十分に前記膜・電極接合体へと供給し、併せてガス流路内の乾燥を防ぐことができる。
【0011】
本発明の燃料電池は、前記排液弁は、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて、開度を2段階以上増減させることが好ましい。
【0012】
このような構成の燃料電池は、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量が多い場合と少ない場合の少なくとも2段階に分けて前記排液弁を制御することができる。
【0013】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記反応ガス流入流路は、その上流端又は流路途中から下流端のガス流れ方向を重力方向下向きにして設けられており、前記排液弁の一部分は前記反応ガス流入流路上に固定され、前記排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、前記排液弁は、当該反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の荷重により反応ガス流入流路の下流方向に変位して開度を増やすことができ、且つ、当該排液弁を反応ガス流入流路の上流方向に付勢して開度を減らすことができる弾性部を有し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、前記弾性部の弾性力が前記水の荷重よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、前記水の荷重が前記弾性部の弾性力よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を開放するという構成をとることができる。
【0014】
このような構成の燃料電池は、重力によって、前記膜・電極接合体から排出された水を、前記反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端から、前記排液弁を介して、前記反応ガス流出流路へと排出することができる。また、このような構成の燃料電池は、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量に応じて、前記膜・電極接合体から排出された水の前記反応ガス流出流路への排出の是非を、複雑な制御を実行することなく、自動的に決定することができる。
【0015】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記排液弁が、当該排液弁を前記反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して前記反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、前記弾性部の弾性力が前記回動性接続部材に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成をとることができる。
【0016】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記排液弁が、当該排液弁を前記反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して前記反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、前記弾性部の弾性力が前記排液弁の弁体部分に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成をとることができる。
【0017】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記排液弁が弾性材料で形成されており、当該排液弁が弾性変形することで前記反応ガス流入流路の下流方向に変位し、且つ、当該排液弁自らが前記弾性部を構成して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成をとることができる。
【0018】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記排液弁の一部分は前記反応ガス流入流路上に固定され、前記排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、前記排液弁は、当該排液弁の弁体部分のガス流れ方向上流側の面と前記反応ガス流入流路の排液弁よりも上流側の内面とを接続したブリッジ構造を形成し、吸水膨潤して開度を増やすことができる膨潤性部材を有し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、前記排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、前記膨潤性部材が吸水膨潤により寸法増大して排液弁が反応ガス流入流路を開放するという構成をとることができる。
【0019】
このような構成の燃料電池は、前記膜・電極接合体から排出された水を、前記膨潤性部材が吸水することによって、自動的に排液弁が反応ガス流入流路を開放する状態にすることができる。また、このような構成の燃料電池は、前記膜・電極接合体から排出された水が、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留していない場合には、前記膨潤性部材によって前記排液弁を閉じた状態に固定することができる。このように、本発明の燃料電池は、複雑な制御を実行することなく、前記排液弁の開閉を、前記膜・電極接合体から排出された水の量に応じて行うことができる。
【0020】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記セパレータを、当該セパレータ内に設けられた前記反応ガス流入流路の下流端を遠心方向に向けて回転させる機構を更に備えるという構成をとることができる。
【0021】
このような構成の燃料電池は、遠心力によって、前記膜・電極接合体から排出された水を、前記反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端から、前記排液弁を介して、前記反応ガス流出流路へと排出することができる。また、このような構成の燃料電池は、生成水にかかる遠心力が、排液弁が流路を閉ざす状態に固定する力を上回る場合には、生成水が自動的に排液弁を開き、その結果生成水が前記反応ガス流出流路へ排出され、フラッディングを解消することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁が設けられているため、前記膜・電極接合体から排出され、前記下流端に貯留した水を、前記反応ガス流出流路へ強制的に排出することができ、フラッディングを防止することができる。また、本発明によれば、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には、前記反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端を前記排液弁によって閉ざすことによって、反応ガスを十分に前記膜・電極接合体へと供給し、併せてガス流路内の乾燥を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本第1の典型例中の単セルの一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明の燃料電池に用いられる単セルのアノード電極側セパレータの一例を示す図である。
【図3】本発明の燃料電池に用いられる単セルの、カソード電極側セパレータの一例を示す図であって、セパレータに水平な方向に切断した断面を模式的に示した図である。
【図4】排液弁を備える反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端近傍における、セパレータとガス拡散層との積層部分の断面を模式的に示した図である。
【図5】本第1の典型例において用いられる他の弾性部の様子を示した断面模式図である。
【図6】本第2の典型例において用いられる排液弁の様子を示した断面模式図である。
【図7】本第3の典型例において用いられる排液弁の様子を示しており、ガス流れ方向に垂直な断面模式図である。
【図8】本発明の燃料電池の第4の典型例である、排液弁が膨潤性部材を有する例の様子を示した断面模式図である。
【図9】単セルを回転させる例について示した概略模式図である。
【図10】単セルを回転させる例において、その制御について示したフローチャートである。
【図11】従来技術において、閉塞流路を用いた単セルが有する、反応ガス流入流路と反応ガス流出流路それぞれの反応ガスの流路内流速v(m/s)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の燃料電池は、高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体、及び、当該膜・電極接合体をさらに挟持する一対のセパレータを有する単セルを備える燃料電池であって、前記セパレータの前記膜・電極接合体側の面に、前記膜・電極接合体へと供給される反応ガスが流通する反応ガス流入流路、及び、前記膜・電極接合体を通過した反応ガスが流通する反応ガス流出流路が備えられ、前記反応ガス流出流路の上流端が閉塞され、且つ、前記反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とが、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態であり、当該下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁によって仕切られていることを特徴とする。
【0025】
本発明において、「反応ガス」とは、アノードに供給される燃料ガス、及び、カソードに供給される酸化剤ガスのいずれも含んでいる。したがって、「反応ガス流入流路」とは、「燃料ガス流入流路」及び「酸化剤ガス流入流路」のいずれをも含み、「反応ガス流出流路」とは、「燃料ガス流出流路」及び「酸化剤ガス流出流路」のいずれをも含む。
なお、「反応ガス流出流路」とは、反応ガスを積極的に排出する流路では必ずしもなく、結果的に反応ガスが燃料電池外へ流出されてしまう流路を含む。また、「反応ガス流出流路」は、反応ガスのみが流出する流路では必ずしもなく、例えば、膜・電極接合体から排出される気体や、反応生成水等の液体も流出するものとする。なお、本明細書においては、「反応ガス流入流路」及び「反応ガス流出流路」を合わせて「反応ガス流路」という場合がある。
【0026】
従来から、燃料電池の単セルに用いられるセパレータには様々な形状が採用されている。その中でも、反応ガス等の気体や、電極反応によって生じる生成水等の液体等の移動促進を課題としたものとして、閉塞流路を設けたセパレータがある。
閉塞流路とは、反応ガス流入流路及び反応ガス流出流路からなり、かつ、当該反応ガス流入流路がガス流れ方向下流端が閉塞された流路であり、当該反応ガス流出流路がガス流れ方向上流端が閉塞されている反応ガス流路のことをいう。このような閉塞流路においては、特にカソード電極側において、反応ガス流入流路及び反応ガス流出流路に挟まれたセパレータの部位、いわゆるセパレータのリブの部位が存在する膜・電極接合体の表面に強制的に酸化剤ガスを供給できるため、濃度過電圧が大きくなる高負荷状態において特に性能向上の効果がある。
【0027】
一般的に、閉塞部を持たないストレート流路を有する単セルでは、カソード電極側のガス流路の酸化剤ガス流れ方向下流において、電極反応によって生じる生成水が貯留する量が多くなり、ガス流路やガス拡散層の水詰まり、すなわちフラッディングによるガス拡散性阻害に起因する性能低下が生じやすい。
図11は、従来技術において、閉塞流路を用いた単セルが有する、反応ガス流入流路と反応ガス流出流路それぞれの反応ガスの流路内流速v(m/s)を示したグラフである。図11に示すように、閉塞流路を用いた単セルでは、反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端において、ガスの流速が0となる。これにより当該ガス流れ方向下流端で一度生成水が貯留してしまうと、このような生成水を排出する推進力が存在しないため、ストレート流路を有する単セルと比較して、反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端におけるフラッディングがさらに生じやすいというデメリットがあった。
本発明は、反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とを仕切る排液弁を設置することによって、反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端において生じたフラッディングを、当該フラッディングが生じた場合にのみ自動的に解消する手段を提供し、通常運転時、すなわちフラッディングが生じていない場合には閉塞流路のメリットを最大限引き出すことを目的とする。
【0028】
本発明でいう「排液弁」は、反応ガス流入流路の下流端と、反応ガス流出流路とを仕切る弁であり、反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態に保たれている。ここで、排液弁が設置される部位は、反応ガス流出流路においては特に限定されない。しかし、反応ガス流出流路中の排液弁が設置される部位としては、反応ガス流入流路及び流出流路の形状や、両流路の配置の組み合わせ等から、最適な部位を選択するのが好ましい。
排液弁は、下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる働きを持つ。「水の量の増減に応じて開度を増減させる」とは、例えば、水滴程度の水分量が生じ、フラッディングの症状が相対的に軽い場合には、排液弁が相対的に狭い開度で開くのに対し、連続した液体相を成すような水分量が生じ、フラッディングの症状が相対的に重い場合には、排液弁が相対的に広い開度で開くことを意味する。「水の量の増減に応じて開度を増減させる」ことの一例としては、水分量に略比例した開度で排液弁が開くことが挙げられる。なお、本発明でいう「排液弁」は、液体の排出のみを行う弁であってもよいし、液体に限らず気体の排出を伴う弁であってもよい。ただし、本発明でいう「排液弁」は、電極反応で生じた生成水のみを選択的に排出する弁であることが好ましい。
【0029】
反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量が多い場合と少ない場合の少なくとも2段階に分けて排液弁を制御することができるという観点から、排液弁は、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて、開度を2段階以上増減させることが好ましい。
【0030】
本発明の排液弁は、下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる働きを示し、且つ、流体(本発明でいえば、主に電極反応で生じた生成水)の通路を開閉することのできる可動機構を有するものであれば特に限定されず、どのような態様の弁も採用することができる。また、排液弁本体の材料(金属、非金属)等を考慮して、最適な弁を採用することができる。
【0031】
本発明の燃料電池の一形態としては、反応ガス流入流路は、その上流端又は流路途中から下流端のガス流れ方向を重力方向下向きにして設けられており、排液弁の一部分は反応ガス流入流路上に固定され、排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、排液弁は、当該反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の荷重により反応ガス流入流路の下流方向に変位して開度を増やすことができ、且つ、当該排液弁を反応ガス流入流路の上流方向に付勢して開度を減らすことができる弾性部を有し、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、弾性部の弾性力が水の荷重よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、水の荷重が弾性部の弾性力よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を開放するという構成をとることができる。
このような構成を取ることによって、本形態の燃料電池は、重力によって、膜・電極接合体から排出された水を、反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端から、排液弁を介して、反応ガス流出流路へと排出することができる。また、このような構成を取ることによって、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量に応じて、膜・電極接合体から排出された水の反応ガス流出流路への排出の是非を、複雑な制御を実行することなく、自動的に決定することができる。
ここでいう「(反応ガス流入流路の)上流端又は流路途中から下流端のガス流れ方向を重力方向下向きにして設けられており」とは、ガス流れ方向の向きが、流路の各部分においてはそれぞれ別の向きであったとしても、流路全体、少なくとも流路の上流端から下流端、又は流路途中から下流端においては重力方向下向きであるということを意味する。具体的には、流路の上流端から下流端まで、又は流路途中から下流端までにおけるガス流れ方向の向きを示すベクトルをすべて足し合わせると、重力方向下向きのベクトルとなるか、又は、重力方向下向きから立体角にしてπ/2[sr]以下の角度を有するベクトルとなるということを意味する。
【0032】
「弾性部」とは、弾性体に接続されているか、又は、当該排液弁それ自体の全体若しくは一部が弾性体で形成されている部位であることを意味する。また、「排液弁を反応ガス流入流路の上流方向に付勢して」とは、弾性部が有する伸長方向又は収縮方向の弾性力によって付勢されていることを意味する。したがって、弾性部が排液弁のどの部位に位置しているかによって、付勢を司る弾性力の方向が異なる。
排液弁による反応ガス流入流路の閉鎖/開放は、弾性部の弾性力が所定の大きさに設定されていることにより、直接的に制御することができる。
【0033】
なお、ここでいう「反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時」とは、必ずしも1回のみ生じるとは限らない。すなわち、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時、排液弁が反応ガス流入流路を開放した結果、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が一時的には所定量未満となるが、電極反応が進行して再び膜・電極接合体から水が排出され、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上となる場合も想定し得る。このような場合においても、本形態においては、再び排液弁が反応ガス流入流路を開放し、水を排出することができる。すなわち、本形態は、1回のみではなく、複数回フラッディングが生じた場合に対しても、各フラッディングが生じた際にその効果を発揮することができる。
【0034】
以下、上述した弾性部を有する排液弁を備える燃料電池について、第1乃至第3の典型例の詳細を述べる。
【0035】
本発明の燃料電池の第1の典型例は、排液弁は、当該排液弁を反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、弾性部の弾性力が回動性接続部材に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成である。
【0036】
図1は、本第1の典型例中の単セルの一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本第1の典型例中の単セルは、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
単セル100は、平型単セルであって、水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ということがある)1と、前記電解質膜1を挟んだ一対のアノード電極6及びカソード電極7とでなる膜・電極接合体8を含み、さらに前記膜・電極接合体8を電極の外側から挟んだ一対のセパレータ9及び10とでなる。セパレータと電極の境界には反応ガス流路(反応ガス流入流路又は反応ガス流出流路を含む。)11及び12が確保され、アノード側の流路(燃料ガス流入流路及び燃料ガス流出流路を含む。)11では水素ガスに代表される燃料が、カソード側の流路(酸化剤ガス流入流路又は酸化剤ガス流出流路を含む。)12では酸化剤ガス(通常は空気又は酸素)がそれぞれ連続的に供給/排出される。通常は電極として、電解質膜側から順に触媒層とガス拡散層とを積層して構成されたものが用いられる。すなわち、アノード電極6はアノード触媒層2とガス拡散層4とを積層したものからなり、カソード電極7はカソード触媒層3とガス拡散層5とを積層したものからなる。
【0037】
図2(a)は、本第1の典型例中の単セルの、アノード電極側セパレータの一例を示す図であって、セパレータに水平な方向に切断した断面を模式的に示した図である。また、図3は、本第1の典型例中の単セルの、カソード電極側セパレータの一例を示す図であって、セパレータに水平な方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明の燃料電池に用いられる単セルのセパレータは、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。図2(a)に示すアノード電極側セパレータ及び図3に示すカソード電極側セパレータは、本第1の典型例においては類似した構造を有するので、以下、主に図2(a)に示すアノード電極側セパレータについて説明する。
燃料ガス流入流路11a及び燃料ガス流出流路11bは、それぞれセパレータの、膜・電極接合体が有するアノード電極側の面に形成された溝である。本第1の典型例においては、流入流路11a及び流出流路11bは、いずれもくし形状の溝であり、セパレータ上において、互いに組み合わさって形成されている。セパレータの四隅には、燃料ガス供給孔21a、燃料ガス排出孔21b、酸化剤ガス供給孔22a、酸化剤ガス排出孔22bが設けられている。これら4つの孔は、セパレータを貫通して設けられた孔である。なお、矢印は、燃料ガスの流れる方向を示す。
燃料ガス供給孔21aから供給された燃料ガスは、燃料ガス流入流路11aを矢印の方向にしたがって移動する。この移動の際に、燃料ガスの大部分はアノード電極が有するガス拡散層へと拡散し、電極反応に関わった後、生成水及び反応に使用されなかった燃料ガスは、燃料ガス流出流路11bを矢印の方向にしたがって移動し、燃料ガス排出孔21bへ至る(これと同様に、図3に示すように、酸化剤ガス供給孔22aから供給された酸化剤ガスは、酸化剤ガス流入流路12aを矢印の方向にしたがって移動し、その際に、酸化剤ガスの大部分はカソード電極が有するガス拡散層へと拡散し、電極反応に関わった後、生成水及び反応に使用されなかった酸化剤ガスは、酸化剤ガス流出流路12bを矢印の方向にしたがって移動し、酸化剤ガス排出孔22bへ至る。)。しかし燃料ガスの残りの一部分は、ガス拡散層へと拡散することなく、ガス流れ方向下流端近傍30へと到達する。このとき、ガス流れ方向下流端近傍30には、燃料ガスの他に、膜・電極接合体における上記反応(2)において生成された水が、電解質膜を介して到達する。
【0038】
図2(b)は、図2(a)中に図示されたセパレータの、仮想線41における断面を模式的に示した図である。図2(b)には、燃料ガス流入流路11aとなる溝が形成されている様子と共に、ガス流れ方向下流端近傍30において、排液弁31が設置されている様子が模式的に示されている。排液弁31は、図2(a)の斜線で示した部分全てに設置されるものとする。
排液弁31は、反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とを仕切る弁であり、反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態に保たれている。また、図に示すように、排液弁31は、回動性接続部材32、弾性部33及び弁体34からなる。弾性部33は、コイル状バネからなる。なお、弾性部33の様子を明確に図示するため、回動性接続部材32は図示されていないが、回動性接続部材32は、例えば、蝶番等のような形状を有するものとする。排液弁31は、当該排液弁31を反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材32を介して反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、弾性部33の弾性力が回動性接続部材32に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されている。
【0039】
図4は、排液弁を備える反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端近傍における、セパレータとガス拡散層との積層部分の断面を模式的に示した図である。図4(a)〜(c)はいずれも、セパレータ9とガス拡散層4とが積層され、セパレータ9とガス拡散層4との間に挟まれた燃料ガス流入流路11aの断面の様子を示している。図4(a)〜(c)に示された排液弁31は、回動性接続部材32によってセパレータ9と一体となっているものとする。なお、図4(a)〜(c)においてはいずれも、矢印は燃料ガス流入流路11aを流通する燃料ガスの流れる方向を示すものとする。
図4(a)は、燃料ガス流入流路11a内に水分がない時の様子を示した図である。この状態において、弁体34は燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対して垂直に立っており、したがって、排液弁31によって、ガス流れ方向下流端は閉鎖されている。
図4(b)は、燃料ガス流入流路11a内に少量の水分が貯留した際の様子を示した図である。この状態において、水滴42が流通することによって、弁体34は燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対して斜めの方向に倒れ、排液弁31は一部が開放された状態となっている。フラッディングの症状が軽い場合には、このように排液弁が狭い開度で開くことにより、水分が排出されて、フラッディングが解消された結果図4(a)の状態に戻る。しかし、排液弁が狭い開度で開いても解消することができないほど、フラッディングの症状が重い場合には、排液弁がさらに広い開度で開く図4(c)の状態へと進む。
図4(c)は、燃料ガス流入流路11a内に多量の水分が貯留した際の様子を示した図である。この状態において、水分43が流通することによって、弁体34は燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対してほぼ水平に倒れ、排液弁31は全面的に開放された状態となっている。図4(c)に示されるように、排液弁の開度が最終的に広くなる、好ましくは全開になることにより、フラッディングの症状が重い場合においても、フラッディングを解消することができる。
このように、本第1の典型例においては、反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる(図4(b)及び(c))排液弁が設けられているため、膜・電極接合体から排出され、前記下流端に貯留した水を、反応ガス流出流路へ強制的に排出することができ、フラッディングを防止することができる。また、本第1の典型例においては、反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には、反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端を排液弁によって閉ざすことによって、反応ガスを十分に膜・電極接合体へと供給し、併せてガス流路内の乾燥を防ぐことができる。
このような排液弁31は、図3の斜線で示した部分全てにおいて設置することにより、カソード電極側セパレータにおいても、同様の効果を得ることができる。
【0040】
本第1の典型例においては、弾性部は図2及び図4に図示したものに必ずしも限定されない。図5は、本第1の典型例において用いられる他の弾性部の様子を示した断面模式図である。なお、図5(a)及び(b)においてはいずれも、矢印は燃料ガス流入流路11aを流通する燃料ガスの流れる方向を示すものとする。
図5(a)のように、弾性部33が弁体34よりもガス流れ方向上流側に設置された場合には、弾性部33が伸長するほど排液弁31が開き、弾性部33が収縮するほど排液弁31が閉じる。すなわち、弾性部33は、当該弾性部33の収縮方向の弾性力によって、燃料ガス流入流路のガス流れ方向上流方向に付勢されている。
一方、図5(b)のように、弾性部33が弁体34よりもガス流れ方向下流側に設置された場合には、弾性部33が収縮するほど排液弁31が開き、弾性部33が伸長するほど排液弁31が閉じる。すなわち、弾性部33は、当該弾性部33の伸長方向の弾性力によって、燃料ガス流入流路のガス流れ方向上流方向に付勢されている。
【0041】
本発明の燃料電池の第2の典型例は、排液弁が、当該排液弁を反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、弾性部の弾性力が排液弁の弁体部分に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成である。
本第2の典型例は、排液弁の形状以外は、図2〜図4に示した第1の典型例と同様の構造を有し、且つ、同様の働きを示す。
図6は、本第2の典型例において用いられる排液弁の様子を示した断面模式図である。なお、図6においては、図2及び図4とは異なり、回動性接続部材32を明示している。図6(a)及び(b)のいずれの場合も、排液弁31が、当該排液弁31を反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材32を介して反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、弾性部33の弾性力が排液弁31の弁体部分34に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されている。なお、図6(a)及び(b)においてはいずれも、矢印は燃料ガス流入流路11aを流通する燃料ガスの流れる方向を示すものとする。
図6(a)のように、弾性部33が弁体34よりもガス流れ方向上流側に設置された場合には、弾性部33が伸長するほど排液弁31が開き、弾性部33が収縮するほど排液弁31が閉じる。すなわち、弾性部33は、当該弾性部33の収縮方向の弾性力によって、燃料ガス流入流路のガス流れ方向上流方向に付勢されている。
一方、図6(b)のように、弾性部33が弁体34よりもガス流れ方向下流側に設置された場合には、弾性部33が収縮するほど排液弁31が開き、弾性部33が伸長するほど排液弁31が閉じる。すなわち、弾性部33は、当該弾性部33の伸長方向の弾性力によって、燃料ガス流入流路のガス流れ方向上流方向に付勢されている。
以上、主にアノード電極側セパレータについて説明したが、本発明の燃料電池の第2の典型例は、カソード電極側セパレータにおいて図6に示した排液弁を設置した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0042】
本発明の燃料電池の第3の典型例は、排液弁が弾性材料で形成されており、当該排液弁が弾性変形することで反応ガス流入流路の下流方向に変位し、且つ、当該排液弁自らが弾性部を構成して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されているという構成である。
本第3の典型例は、排液弁の形状以外は、図2〜図4に示した第1の典型例と同様の構造を有し、且つ、同様の働きを示す。
図7は、本第3の典型例において用いられる排液弁の様子を示しており、ガス流れ方向に垂直な断面模式図である。いま、燃料ガスは、紙面に対して垂直な方向に、紙面のこちら側から向こう側に流れるものとし、燃料ガス流入流路11a内に設置された排液弁31は、燃料ガスの流れを燃料ガス流入流路のガス流れ方向下流端において、せき止めるものであるとする。
図7(a)は、排液弁31が燃料ガス流入流路11aの底面でのみ固定されている場合の様子を示している。このような構造のときには、流路11aの下流端に貯留する水が所定量未満の時には、弾性部の弾性力が水の荷重よりも優勢となって排液弁31が流路11aを閉鎖するが、流路11aの下流端に貯留する水が所定量以上の時には、水の荷重が弾性部、すなわち排液弁31の弾性力よりも優勢となって、流路11aの底面において固定された排液弁の部位35以外の排液弁の部位が、紙面の向こう側へめくれる結果、排液弁31が流路11aを開放する。その結果フラッディングが解消されれば、排液弁31の弾性力によって、再び排液弁31が流路11aを閉鎖する。
図7(b)は、排液弁31が燃料ガス流入流路11aの底面及び側面で固定されている場合の様子を示している。このような構造のときにも、流路11aの下流端に貯留する水が所定量以上の時には、水の荷重が弾性部、すなわち排液弁31の弾性力よりも優勢となって、流路11aの底面と側面において固定された排液弁の部位35以外の排液弁の部位が、紙面の向こう側へめくれる結果、排液弁31が流路11aを開放する。
以上、主にアノード電極側セパレータについて説明したが、本発明の燃料電池の第3の典型例は、カソード電極側セパレータにおいて図7に示した排液弁を設置した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0043】
本発明の燃料電池の一形態としては、前記排液弁の一部分は前記反応ガス流入流路上に固定され、前記排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、前記排液弁は、当該排液弁の弁体部分のガス流れ方向上流側の面と前記反応ガス流入流路の排液弁よりも上流側の内面とを接続したブリッジ構造を形成し、吸水膨潤して開度を増やすことができる膨潤性部材を有し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、前記排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、前記膨潤性部材が吸水膨潤により寸法増大して排液弁が反応ガス流入流路を開放するという構成をとることができる。
このような構成を取ることによって、膜・電極接合体から排出された水を、膨潤性部材が吸水し、自動的に排液弁が反応ガス流入流路を開放する状態にすることができる。また、このような構成を取ることによって、膜・電極接合体から排出された水が、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留していない場合には、前記膨潤性部材によって前記排液弁を閉じた状態に固定することができる。このように、本形態は、複雑な制御を実行することなく、排液弁の開閉を、膜・電極接合体から排出された水の量に応じて行うことができる。
膨潤性部材は、通常時に排液弁を閉じた状態に固定する働き、及び、吸水時に排液弁を開く状態にする働きを有していれば、材料や形状等は特に限定されない。また、複数の部品が組み合わさって、これらの働きを発揮するものであってもよい。
このような膨潤性部材としては、吸水時に膨潤する材料を用いたものを例示することができる。吸水時に膨潤する材料としては、具体的には、ナフィオン(商品名)等の高分子電解質材料を例示することができる。
【0044】
図8は、本発明の燃料電池の第4の典型例である、排液弁が膨潤性部材を有する例の様子を示した断面模式図である。
図8(a)〜(c)はいずれも、セパレータ9とガス拡散層4とが積層され、セパレータ9とガス拡散層4との間に挟まれた燃料ガス流入流路11aの断面の様子を示している。図8(a)〜(c)に示された排液弁31は、回動性接続部材32によってセパレータ9と一体となっており、弁体34が膨潤性部材36によって閉じた状態に固定されているものとする。なお、図8(a)〜(c)においてはいずれも、矢印は燃料ガス流入流路11aを流通する燃料ガスの流れる方向を示すものとする。
図8(a)は、燃料ガス流入流路11a内に水分がない時の様子を示した図である。膨潤性部材36は、排液弁の弁体34のガス流れ方向上流側の面と燃料ガス流入流路の排液弁31よりも上流側の内面とを接続したブリッジ構造を形成している。この状態において、弁体34は、膨潤性部材36によって燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対して垂直な状態に固定されており、したがって、排液弁31によって、ガス流れ方向下流端は閉塞状態となっている。
図8(b)は、燃料ガス流入流路11a内に少量の水分が貯留した際の様子を示した図である。この状態において、水滴42が流通することによって、膨潤性部材36が水滴を吸収して膨潤する。したがって、膨潤性部材36によって垂直に固定されていた弁体34は、燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対して斜めの方向に倒れ、排液弁31は一部が開放された状態となっている。フラッディングの症状が軽い場合には、このように排液弁が狭い開度で開くことにより、水分が排出されて、フラッディングが解消された結果図8(a)の状態に戻る。しかし、排液弁が狭い開度で開いても解消することができないほど、フラッディングの症状が重い場合には、排液弁がさらに広い開度で開く図8(c)の状態へと進む。
図8(b)の状態においては、水分の貯留と膨潤性部材36の膨潤が並行して生ずる。したがって、フラッディング初期の状態においては、必ずしも排液弁が開く必要はなく、膨潤によって膨潤性部材36の寸法変化が著しくなった場合において、排液弁が初めて開くという設定にしてもよい。このような排液弁の開度は、膨潤性部材36の材料を適宜選択することにより微調整することができ、その結果、最適な開度調節機能を有する排液弁を得ることができる。
図8(c)は、燃料ガス流入流路11a内に多量の水分が貯留した際の様子を示した図である。この状態において、水分43が流通することによって、膨潤性部材36が水分を吸収して十分に膨潤する。したがって、膨潤性部材36によって垂直に固定されていた弁体34は、燃料ガス流入流路11aのガス流れ方向に対してほぼ水平に倒れ、排液弁31は全面的に開放された状態となっている。図8(c)に示されるように、排液弁の開度が最終的に広くなる、好ましくは全開になることにより、フラッディングの症状が重い場合においても、反応ガス流出流路へ水分を排出することにより、フラッディングを解消することができる。
以上、主にアノード電極側セパレータについて説明したが、本発明の燃料電池の第4の典型例は、カソード電極側セパレータにおいて図8に示した排液弁を設置した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0045】
以下、本発明に係る燃料電池の単セル中の構成要素である、高分子電解質膜、電極中の触媒層及びガス拡散層について述べる。
【0046】
ここで、高分子電解質膜とは、燃料電池において使用される高分子電解質膜であり、ナフィオン(商品名)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のようなフッ素系高分子電解質を含むフッ素系高分子電解質膜の他、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラフェニレン等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用プラスチック等の炭化水素系高分子にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ボロン酸基等のプロトン酸基(プロトン伝導性基)を導入した炭化水素系高分子電解質を含む炭化水素系高分子電解質膜等が挙げられる。
【0047】
電極は、触媒層とガス拡散層とを有する。
アノード触媒層及びカソード触媒層はいずれも、触媒、導電性材料及び高分子電解質を含有する触媒インクを用いて形成することができる。
高分子電解質としては、上述した高分子電解質膜同様の材料を用いることができる。
触媒としては、通常、触媒成分を導電性粒子に担持させたものが用いられる。触媒成分としては、アノードに供給される燃料の酸化反応又はカソードに供給される酸化剤の還元反応に対して触媒活性を有しているものであれば、特に限定されず、固体高分子型燃料電池に一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、白金、又はルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、銅等の金属と白金との合金等を用いることができる。
【0048】
触媒担体である導電性粒子としては、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維のような導電性炭素材料、金属粒子や金属繊維等の金属材料も用いることができる。導電性材料は、触媒層に導電性を付与するための導電性材料としての役割も担っている。
【0049】
触媒層の形成方法は特に限定されず、例えば、触媒インクをガス拡散層シートの表面に塗布、乾燥することによって、ガス拡散層シート表面に触媒層を形成してもよいし、或いは、電解質膜表面に触媒インクを塗布、乾燥することによって、電解質膜表面に触媒層を形成してもよい。或いは、転写用基材表面に触媒インクを塗布、乾燥することによって、転写シートを作製し、該転写シートを、電解質膜又はガス拡散シートと熱圧着等により接合した後、転写シートの基材フィルムを剥離する方法で、電解質膜表面上に触媒層を形成するか、ガス拡散層シート表面に触媒層を形成してもよい。
【0050】
触媒インクは上記のような触媒と電極用電解質とを、溶媒に溶解又は分散させて得られる。触媒インクの溶媒は、適宜選択すればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒、又はこれら有機溶媒の混合物やこれら有機溶媒と水との混合物を用いることができる。触媒インクには、触媒及び電解質以外にも、必要に応じて結着剤や撥水性樹脂等のその他の成分を含有させてもよい。
【0051】
触媒インクの塗布方法、乾燥方法等は適宜選択することができる。例えば、塗布方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法などが挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが挙げられる。減圧乾燥、加熱乾燥における具体的な条件に制限はなく、適宜設定すればよい。また、触媒層の膜厚は、特に限定されないが、1〜50μm程度とすればよい。
【0052】
ガス拡散層を形成するガス拡散層シートとしては、触媒層に効率良く燃料を供給することができるガス拡散性、導電性、及びガス拡散層を構成する材料として要求される強度を有するもの、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル−クロム合金、銅及びその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属から構成される金属メッシュ又は金属多孔質体等の導電性多孔質体からなるものが挙げられる。導電性多孔質体の厚さは、50〜500μm程度であることが好ましい。
【0053】
ガス拡散層シートは、上記したような導電性多孔質体の単層からなるものであってもよいが、触媒層に面する側に撥水層を設けることもできる。撥水層は、通常、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂等を含む多孔質構造を有するものである。撥水層は、必ずしも必要なものではないが、触媒層及び電解質膜内の水分量を適度に保持しつつ、ガス拡散層の排水性を高めることができる上に、触媒層とガス拡散層間の電気的接触を改善することができるという利点がある。
上記したような方法によって触媒層を形成した電解質膜及びガス拡散層シートは、適宜、重ね併せて熱圧着等し、互いに接合することで、膜・電極接合体が得られる。
【0054】
作製された膜・電極接合体は、さらに、上述した反応ガス流路を有するセパレータで狭持され、単セルを形成する。セパレータとしては、導電性及びガスシール性を有し、集電体及びガスシール体として機能しうるもの、例えば、炭素繊維を高濃度に含有し、樹脂との複合材からなるカーボンセパレータや、金属材料を用いた金属セパレータ等を用いることができる。金属セパレータとしては、耐腐食性に優れた金属材料からなるものや、表面をカーボンや耐腐食性に優れた金属材料等で被覆し、耐腐食性を高めるコーティングが施されたもの等が挙げられる。
【0055】
上述したような排液弁を用いることによる、反応ガス流入流路内の水分調整の効果をよりよく発揮させるために、反応ガス流入流路全体を強制的にある一定の向きに配向させるという構成をとることができる。
その一例としては、遠心力によって、膜・電極接合体から排出された水を、排液弁を介して、反応ガス流出流路へと排出することができるという観点から、セパレータを、当該セパレータ内に設けられた反応ガス流入流路の下流端を遠心方向に向けて回転させる機構を更に備えるという構成を挙げることができる。このような構成をとることで、生成水にかかる遠心力が、排液弁が流路を閉ざす状態に固定する力を上回る場合には、生成水が自動的に排液弁を開き、その結果生成水が反応ガス流出流路へ排出され、フラッディングを解消することができる。
【0056】
図9は、上述した単セルを回転させる例について示した概略模式図である。また、図10は、単セルを回転させる例において、その制御について示したフローチャートである。なお、図9においては、ガスの流通経路を明確に示すために、単セル中の反応ガス流路(燃料ガス流路、酸化剤ガス流路のどちらでもよい。)の一部のみを抜粋して記載している。また、図9においては、矢印は反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガスのどちらでもよい。)の流通方向を示している。また、図9においては明示されていないものの、排液弁は、反応ガス流入流路の下流端と反応ガス流出流路とを仕切る位置にあるものとする。
図9に示すように、本例の燃料電池は、セパレータを、当該セパレータを含む単セルごと、当該セパレータ内に設けられた反応ガス流入流路の下流端を遠心方向に向けて回転させる機構を備えている。
【0057】
以下、図10のフローチャートに基づいて、単セルを回転させる燃料電池の制御について説明する。
単セルを全く回転させていない状態を初期状態とする。まず、図10中に示したステップS11において、単セル中の異常発生の有無を検討する。単セル中の異常の検知方法としては、単セルモニタ等を用いる方法が例示できる。なお、ステップS11において検知すべき、フラッディングに伴う単セルの異常としては、抵抗増加を伴わない電圧低下や、電圧のバタつき(電圧が一定値を維持できず、細かく変動すること)等が挙げられる。ステップS11において、単セル中に異常発生が認められた場合においては、ステップS12に進む。なお、ステップS11を実行する時間間隔、すなわち、単セル中に異常発生が認められないと判定されてから再度単セル中の異常発生の有無の判定を実行する時間間隔としては、短くて数秒、長くても数分の時間間隔とする。
ステップS12においては、図9に示したような回転軸を中心に、単セルを回転させる。その結果、生成水にかかる遠心力が自動的に排液弁を開き(ステップS13)、反応ガス流入流路のガス流れ方向末端に貯留した水分が、反応ガス流出流路へ排出される(ステップS14)。
一定時間回転させた後にステップS15に進み、単セル中に発生していた異常が解消されたか否かを判定する。この時の判定方法としては、電圧を測定し、当該電圧を異常発生前の電圧と比較した結果電圧が回復していれば、そのことをもって、単セル中に発生していた異常が解消されたとみなす方法等を例示することができる。
ステップS15において、単セル中に発生していた異常が解消されていないと判定されれば、ステップS12へと戻り、単セルの回転数を増加させる。以下、単セル中の異常の有無を判断するための判定と、単セルの回転数の増加とを、単セル中の異常が解消されるまで交互に繰り返す。
ステップS15において、単セル中に発生していた異常が解消されたと判定されれば、ステップS16へと進み、通常運転を再開させる。このとき、回転を続行したまま通常運転を再開してもよいし、回転を停止して通常運転を再開してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…固体高分子電解質膜
2…アノード触媒層
3…カソード触媒層
4,5…ガス拡散層
6…アノード電極
7…カソード電極
8…膜・電極接合体
9,10…セパレータ
11…燃料ガス流路
11a…燃料ガス流入流路
11b…燃料ガス流出流路
12…酸化剤流路
12a…酸化剤ガス流入流路
12b…酸化剤ガス流出流路
21a…燃料ガス供給孔
21b…燃料ガス排出孔
22a…酸化剤ガス供給孔
22b…酸化剤ガス排出孔
30…反応ガス流入流路のガス流れ方向下流端近傍
31…排液弁
32…回動性接続部材
33…弾性部
34…弁体
35…流路に固定された排液弁の部位
36…膨潤性部材
41…仮想線
42…水滴
43…水分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体、及び、当該膜・電極接合体をさらに挟持する一対のセパレータを有する単セルを備える燃料電池であって、
前記セパレータの前記膜・電極接合体側の面に、前記膜・電極接合体へと供給される反応ガスが流通する反応ガス流入流路、及び、前記膜・電極接合体を通過した反応ガスが流通する反応ガス流出流路が備えられ、
前記反応ガス流出流路の上流端が閉塞され、且つ、前記反応ガス流入流路の下流端と、前記反応ガス流出流路とが、前記反応ガス流入流路の下流端に水が貯留していない場合には閉じた状態であり、当該下流端に貯留する水の量の増減に応じて開度を増減させる排液弁によって仕切られていることを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記排液弁は、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の量の増減に応じて、開度を2段階以上増減させる、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記反応ガス流入流路は、その上流端又は流路途中から下流端のガス流れ方向を重力方向下向きにして設けられており、
前記排液弁の一部分は前記反応ガス流入流路上に固定され、前記排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、前記排液弁は、当該反応ガス流入流路の下流端に貯留する水の荷重により反応ガス流入流路の下流方向に変位して開度を増やすことができ、且つ、当該排液弁を反応ガス流入流路の上流方向に付勢して開度を減らすことができる弾性部を有し、
前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、前記弾性部の弾性力が前記水の荷重よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、前記水の荷重が前記弾性部の弾性力よりも優勢となって排液弁が反応ガス流入流路を開放する、請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記排液弁は、当該排液弁を前記反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して前記反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、前記弾性部の弾性力が前記回動性接続部材に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されている、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記排液弁は、当該排液弁を前記反応ガス流入流路の下流方向に回動させることが可能な回動性接続部材を介して前記反応ガス流入流路の内壁が接続されて固定されており、且つ、前記弾性部の弾性力が前記排液弁の弁体部分に直接作用して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されている、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記排液弁は弾性材料で形成されており、当該排液弁が弾性変形することで前記反応ガス流入流路の下流方向に変位し、且つ、当該排液弁自らが前記弾性部を構成して反応ガス流入流路の上流方向に付勢されている、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記排液弁の一部分は前記反応ガス流入流路上に固定され、前記排液弁の固定されていない部分は変位可能であり、且つ、前記排液弁は、当該排液弁の弁体部分のガス流れ方向上流側の面と前記反応ガス流入流路の排液弁よりも上流側の内面とを接続したブリッジ構造を形成し、吸水膨潤して開度を増やすことができる膨潤性部材を有し、
前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量未満の時には、前記排液弁が反応ガス流入流路を閉鎖し、前記反応ガス流入流路の下流端に貯留する水が所定量以上の時には、前記膨潤性部材が吸水膨潤により寸法増大して排液弁が反応ガス流入流路を開放する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記セパレータを、当該セパレータ内に設けられた前記反応ガス流入流路の下流端を遠心方向に向けて回転させる機構を更に備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−212199(P2010−212199A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59843(P2009−59843)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】