説明

燃料電池

【課題】スタッキング時等で作用する圧縮力が補強膜の積層箇所に集中して作用した場合でも、過面圧領域や面圧無領域が生じることを効果的に解消することができ、電極体の発電領域を可及的に広範囲とすることができる、燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体3と、その両側に配されたガス透過層と、いずれか一方のガス透過層側に配された、第1のプレート71、中間層73、第2のプレート72が積層された3層構造のセパレータ7と、からなる燃料電池であって、電解質膜1のうち、触媒層2,2’で被覆されていない周縁の露出領域1aとガス透過層の間には補強膜9,9’が介在し、それらの一部が触媒層2,2’上に積層して積層箇所Xを形成しており、中間層73のうち、補強膜9,9’の積層箇所Xに対応する領域には、少なくとも第1のプレート71もしくは第2のプレート72の撓みを吸収自在な吸収機構が具備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層の周縁であって、ガス透過層と電解質膜の間に補強膜を備えた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
上記するガス拡散層の形態として、拡散層基材と集電層(MPL:Micro Porous Layer)とから構成されるものは一般に知られるところである。一般には、触媒層は電解質膜よりも狭小な平面積(小さな平面積)を有しており、電解質膜が触媒層にて被覆されていない触媒層の周縁の露出領域には、ポリマー素材の補強膜(もしくは保護フィルム)が配設されており、この補強膜が拡散層基材と電解質膜の間に介在した構造が一般的である。補強膜を触媒層の周縁領域で拡散層基材と電解質膜の間に介在させることにより、触媒層を有する電解質膜(膜電極接合体)とガス拡散層をたとえば100〜130℃程度の高温雰囲気下、1〜3MPa程度の圧縮力で熱圧着する(電解質膜に影響を与えない熱圧着条件)際に、繊維質の拡散層基材の表面から突出する毛羽が電解質膜に突き刺さることを抑止することができる。
【0005】
また、上記する燃料電池セルにおいては、膜電極接合体に供給される燃料ガスや酸化剤ガス、さらにはセルの昇温を抑止するための冷却水などの流体をシールするためのガスケットが電極体や金属多孔体の周縁に形成されている。このガスケット成形は一般に射出成形や圧縮成形にておこなわれている。たとえばガス流路となる金属多孔体を具備する燃料電池セルにおいては、成形型のキャビティ内にアノード側もしくはカソード側の一方の金属多孔体を収容し、次いで電極体を収容し、次いでアノード側もしくはカソード側の他方の金属多孔体を収容した姿勢で、電極体および金属多孔体の周縁のガスケット形成用キャビティに樹脂を注入してガスケット成形がおこなわれている。なお、キャビティ内にアノード側もしくはカソード側いずれか一方のセパレータを最初に収容し、次いで上記する構成部材を収容して射出成形をおこなう方法もある。
【0006】
上記するセパレータには、たとえばチタンやステンレスからなる2枚のプレートの間に流路が形成された中間プレートが介層された3層構造のものや、中間層を樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却水流路を形成するものなどがある。この3層構造のセパレータは、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。すなわち、この3層構造セパレータを有する燃料電池セルのセル構成部材は、一つの3層構造セパレータと、アノード側およびカソード側のガス透過層(エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などの金属多孔体からなるガス流路層)と、電極体(膜電極接合体およびガス拡散層)と、からなり、複数の燃料電池セルが積層された姿勢において、任意の燃料電池セルは、その両端にアノード側およびカソード側のセパレータを有することとなる。
【0007】
上記する補強膜とガスケットを備えた従来の燃料電池セルの構造を図3に示しており、同図にはさらに、スタッキング時の圧縮力による、電極体に作用する面圧を該電極体の部位ごとに示している。図3において、電解質膜aと、カソード側およびアノード側の触媒層b1、b2と、から膜電極接合体cが形成され、この膜電極接合体cをカソード側およびアノード側のガス拡散層d(拡散層基材d1と集電層d2とから構成される)が挟持して形成される。触媒層b1、b2は電解質膜aに比して狭小であり、電解質膜aが触媒層b1、b2で被覆されていない露出領域にはカソード側およびアノード側の補強膜e1,e2が配され、これらが電解質膜aと拡散層基材d1の間に介在している。また、図示例はガス流路となる金属多孔体fをカソード側およびアノード側に備えたものであり、電極体と金属多孔体fの周縁には、射出成形され、その内部に流体流通用のマニホールドMを有するガスケットgが形成されている。また、セパレータhは、2枚のステンレス製もしくはチタン製のプレートh1、h2と、このプレート間に介在して冷却水などの冷却媒体用の流路を画成する中間層h3と、から構成されている。
【0008】
図示例のごとく、補強膜e1,e2は、その触媒層側端部が触媒層b1、b2にラップ(積層)しているのが一般的である。この補強膜e1,e2は、熱圧着時に拡散層基材の毛羽が電解質膜aに突き刺さると、この突き刺さり箇所がガスのクロスリークを助長することとなり、燃料電池のクロスリーク耐久性が低下し、発電性能の低下に直結するという課題を解消するために設けられている。すなわち、電解質膜aが触媒層b1、b2と接触している領域は、該触媒層b1、b2にて電解質膜aが毛羽の突き刺さりから保護されている一方で、上記する電解質膜aの露出領域は補強膜e1,e2で毛羽の突き刺さりから保護される。ここで、触媒層b1、b2の端部から毛羽が電解質膜aに通じることを回避するべく、図示するように、補強膜e1,e2の端部を触媒層b1、b2にラップさせるようにしている。上記補強膜のラップ構造を呈する従来技術として、特許文献1に開示の燃料電池を挙げることができる。
【0009】
なお、一般に補強膜は電解質膜や触媒層に比して高剛性であり、硬度も相対的に高いことから、上記する毛羽が突き刺さった場合でも、補強膜を貫通する毛羽の数は極めて少なくなり、結果として、補強膜を介し、電解質膜を介してアノード側とカソード側を毛羽が貫通することが効果的に抑止されている。
【0010】
ところで、燃料電池スタックは複数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされて形成されるものであるが、このスタッキング時の圧縮力は各燃料電池セルに伝達され、図示のごとく膜電極接合体cに対してその上下から圧縮力Pとして作用する。ここで、図示のごとく補強膜e1,e2が触媒層b1、b2とラップしている場合、相対的に高剛性の補強膜がラップしている電極体箇所A(補強膜の積層箇所)が相対的に多くの割合の圧縮力を負担することとなり、それに起因して、他の電極体箇所には所期の圧縮力が作用しなくなるという課題が生じ得る。
【0011】
あるいは、図3の面圧グラフで示すように、補強膜が触媒層に積層してなる電極体箇所Aでは面圧が過度に高くなり、その外側の補強膜が存在する領域は、該補強膜が電解質膜等に比して高剛性であるがゆえに過面圧領域となる。その一方で、電極体箇所Aの内側は、ガス拡散層と触媒層が接触しない箇所Gが存在することにより、この箇所Gに対応する電極体箇所には面圧が作用せず、面圧無領域が形成される。そして、この面圧無領域より内側の発電領域で正常面圧領域が形成されるものである。同図からも明らかなように、この面圧無領域は、本来的には発電領域として見込むことのできる領域であるにもかかわらず、実際には面圧が作用しないために発電に寄与せず、結果として発電量の少ない燃料電池セルとならざるを得ないという課題も生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−71542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒層の周縁であって、ガス透過層と電解質膜の間に補強膜(たとえば保護フィルム)を備え、この補強膜の端部が触媒層に積層(ラップ)している膜電極接合体と、該膜電極接合体の両側に配されたガス透過層と、を備えた燃料電池セルが積層されてなる燃料電池において、この補強膜が触媒層にラップしている電極体箇所が、スタッキング時の圧縮力のうちの相対的に多くの割合の圧縮力を負担し、そのために他の電極体箇所には所期の圧縮力が作用しなくなってしまうという課題や、あるいは、本来的に発電領域であるはずの電極体箇所に面圧が作用せず、そのために発電量が低くならざるを得ないという課題、を効果的に解消することのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配され、いずれか一方のガス透過層側には、第1のプレート、中間層、第2のプレートが積層された3層構造のセパレータが配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、少なくとも、前記電解質膜のうち、触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、補強膜が介在し、かつ、該補強膜の一部が触媒層上に積層して積層箇所を形成しており、セパレータの前記中間層のうち、補強膜の前記積層箇所に対応する領域には、少なくとも前記第1のプレートもしくは第2のプレートの撓みを吸収自在な吸収機構が具備されているものである。
【0015】
本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルは、第1のプレート(たとえばカソード側プレート)、中間層(もしくは中間プレート)、第2のプレート(たとえばアノード側プレート)が積層してなる3層構造のセパレータを有し、さらに、電解質膜のうち、触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間に補強膜が介在し、この補強膜の一部が触媒層上に積層して積層箇所を形成してなるものである。さらに、この中間層のうち、補強膜の該積層箇所に対応する領域に適宜の吸収機構を有することにより、たとえばスタッキング時の圧縮力が燃料電池セルに作用し、上記積層箇所にて相対的に大きな圧縮力が作用した際に、該積層箇所に対応する補強膜、電解質膜、ガス透過層、セパレータの第1、もしくは第2のプレートをこの吸収機構内に撓ませることにより、該積層箇所に生じ得る相対的に大きな圧縮力を軽減できる燃料電池である。
【0016】
ここで、上記する積層箇所に相対的に大きな圧縮力が作用する理由は、補強膜が触媒層上にラップしているために、このラップした補強膜の厚み分だけ、当該箇所におけるガス拡散層やガス流路層がセル積層方向に膨らんでしまうこと、補強膜は電解質膜等に比して相対的に高剛性であること、より、圧縮力がこの積層箇所に集中し易くなるためである。なお、補強膜自体の厚みを可及的に薄層にするというアプローチも考えられるが、薄層にも限界があること、薄層にすることで、当初の配設目的である毛羽の突き刺さりによる貫通孔回避を達することができなくなる、などの理由から効果的なアプローチとは言い難い。
【0017】
本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルは、アノード側およびカソード側の双方の電極に補強膜(たとえば保護フィルム)を有する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方の電極に補強膜を有する形態の双方を包含するものである。
【0018】
また、燃料電池セルの構造は、膜電極接合体(MEA)のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体(MEGA)と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
【0019】
上記する3層構造のセパレータを構成する第1のプレート、中間層、第2のプレートは、ともにステンレスやチタンなどから形成することができ、その軽量化を図るべく、中間層は熱可塑性樹脂から成形されるものであってもよい。また、3つのプレートが金属素材からなる場合には、それぞれのプレートをろう付けすることで一体化でき、中間層が樹脂製の場合には、第1のプレートと中間層、第2のプレートと中間層をそれぞれ耐熱性の接着剤等で一体化できる。
【0020】
第1のプレート、第2のプレート、中間層にはそれぞれ、冷却媒体流通用のマニホールド、酸化剤ガスや燃料ガスの供給用および排出用の各マニホールドが開設され、特に中間層には、その中央領域に冷却媒体がその面内方向に流れるための流路が形成されている。
【0021】
ここで、上記する「吸収機構」として、たとえば以下の2つの形態を挙げることができる。
【0022】
その一つは、吸収機構が、中間層に設けられた空洞からなる形態である。この空洞は、3層構造のセパレータの中間層のうち、上記する積層箇所に対応する位置に設けられるものであり、たとえば酸化剤ガスや燃料ガスを導入したり、排出するための既存の流通路を吸収機構として利用してもよいし(この流通路に上記積層箇所が位置するようにセルを製作する)、積層箇所に対応する位置に所望の大きさの空洞を新規に形成してもよい。
【0023】
また、吸収機構の他の一つは、吸収機構が、中間層に設けられ、上記する積層箇所以外の中間層と比較して相対的に剛性の低い低剛性領域からなる形態である。たとえば、ステンレス製の中間層において、上記積層箇所に対応する箇所に弾性ゴム等からなる低剛性領域を設け、この弾性ゴム等の変形性能により、対応する箇所の補強膜、電解質膜、ガス透過層、セパレータの第1、もしくは第2のプレートを撓ませることができる。
【0024】
スタッキング時の圧縮力が作用した際に、積層箇所に対応する少なくともセパレータの第1、もしくは第2のプレート、より具体的には、補強膜、電解質膜、ガス透過層、セパレータの第1、もしくは第2のプレートを該吸収機構内に撓ませることにより、図3で示したような過面圧領域の発生を効果的に解消することができ、この過面圧領域の解消と同時に、面圧無領域の発生も解消することができる。したがって、過面圧領域にスタッキング時の圧縮力の多くが作用して、その他の電極体領域に所望の圧縮力が作用しなくなるという課題や、面圧無領域の発生によって発電領域が少なくなり、発電量の少ない燃料電池となるという課題を効果的に解消することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、少なくとも、電解質膜のうち、触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間に補強膜が介在し、かつ、該補強膜の一部が触媒層上に積層して積層箇所を形成するものに関し、3層構造のセパレータを形成する中間層のうち、上記積層箇所に対応する位置に設けられた適宜の吸収機構により、スタッキング時等の圧縮力が補強膜の上記積層箇所に集中し、相対的に多くの圧縮力が該積層箇所の電極体に作用した場合でも、少なくとも、該積層箇所に対応するセパレータの第1、もしくは第2のプレートをこの吸収機構内に撓ませることにより、過面圧領域や面圧無領域が生じることを効果的に解消することができ、電極体の発電領域を可及的に広範囲に広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の一部を拡大した縦断面図である。
【図2】本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの他の実施の形態の一部を拡大した縦断面図である。
【図3】従来の燃料電池の電極体とガスケットの一部を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、カソード側およびアノード側の双方に補強膜が配されたセル構造を示しているが、ガス拡散層からの毛羽の突き刺さりに起因した電解質膜を貫通する貫通孔が形成されないことを前提として、アノード側およびカソード側のいずれか一方にのみ補強膜が配されたセル構造であってもよい。
【0028】
図1、図2はそれぞれ、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の電極体とガスケットの一部を拡大した縦断面図である。この電極体5は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,2’と、から膜電極接合体3が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層4,4’(ガス透過層)が挟持して形成されている。なお、図示例では、電極体5の両側にカソード側およびアノード側のガス流路となる金属多孔体6,6’(ガス透過層)が配され、この電極体5および金属多孔体6,6’の周縁に樹脂素材のガスケット8が形成されている。
【0029】
ここで、触媒層2,2’は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,2’の周縁には該触媒層2,2’が存在しない露出領域1aが形成される。
【0030】
この露出領域1aには、カソード側およびアノード側の補強膜9,9’が配されており、より具体的には、該補強膜9,9’の一部が触媒層2,2’上にラップして積層箇所Xを形成した姿勢で、触媒層2,2’から露出領域1aに亘って補強膜9,9’が配されており、ガス拡散層4,4’から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
【0031】
ここで、膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0032】
また、触媒層2,2’は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4,4’等の基材にたとえば塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0033】
また、ガス拡散層4,4’は、拡散層基材と集電層(図示せず)からなるものであり、拡散層基材としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層はアノード側、カソード側の触媒層2’,2から電子を集める電極の役割を果たすとともに、生成水等を排水する撥水作用を有するものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料と、フッ素樹脂(PTFE)などから形成できる。
【0034】
また、金属多孔体6,6’は、エキスパンドメタルや金属発砲焼結体からなり、この発砲焼結体においては、チタンやステンレス、銅、ニッケル等の耐食性に優れた金属素材が使用されるのがよく、さらには、ステンレス中にクロム炭化物や鉄−クロム炭化物などを分散した発泡体であってもよい。
【0035】
さらに、補強膜9,9’は、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
ガスケット8は、その端部のマニホールドMの周縁に該マニホールドMを囲繞する無端リブ8aを有するものである。その成形方法の概要は、不図示の成形型内に3層構造のセパレータ7、アノード側の金属多孔体6’,電極体5、カソード側の金属多孔体6の順に収容して型閉めし、膜電極接合体3の側方のガスケット用キャビティ内に樹脂を注入する(射出成形)等の方法でおこなわれる。ここで、このガスケットの材料としては、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタンRTVゴムやブチルゴム系樹脂、シリコーンRTVゴム、EPDM系樹脂等が使用できる。
【0036】
ここで、3層構造のセパレータ7は、ステンレスやチタンからなるアノード側プレート71(第1のプレート),カソード側プレート72(第2のプレート)と、その間に、金属素材もしくは樹脂素材で冷却水等の冷却媒体用流路が形成された中間層73(中間プレート)が介層されたものである。このセパレータ7は、自身が構成要素となる燃料電池セルのアノード側の多孔体6'に燃料ガスを供給するためのガス流路(不図示)と、セルの積層姿勢において隣接するセルのカソード側の多孔体6に酸化剤ガスを供給するためのガス流路(不図示)が形成されており、さらには、上記する冷却媒体用流路(不図示)が形成されている。
【0037】
そして、中間層73のうち、補強膜9,9’が触媒層2,2’にラップしている積層箇所Xに対応する位置には、空洞73Aが形成されている。
【0038】
この空洞73Aにより、スタッキング時の圧縮力が燃料電池セルに作用し、積層箇所Xにて相対的に大きな圧縮力が作用した際に、該積層箇所Xに対応する補強膜、電解質膜、ガス透過層、セパレータのアノード側およびカソード側プレートをこの空洞73A内に撓ませることができ、従来構造の場合に該積層箇所Xに生じていた過度の圧縮力を効果的に解消もしくは緩和することができる。
【0039】
なお、この空洞73Aは、中間層73に形成されている、上記する酸化剤ガスや燃料ガスの導入用もしくは排出用のガス流路を上記積層箇所Xに対応する位置に設けることでこれを利用する形態であってもよいし、積層箇所Xに対応する位置に所望の大きさの空洞を新規に形成するものであってもよい。
【0040】
一方、図2で示す燃料電池セルでは、図1で示す空洞73Aの代わりに、弾性を有する弾性ゴムからなる低剛性領域73Bを設けたものである。積層箇所Xに対応する補強膜、電解質膜、ガス透過層、セパレータのアノード側およびカソード側プレートの撓みをこの弾性ゴムで吸収することにより、積層箇所Xに生じ得る相対的に大きな圧縮力を軽減することができる。
【0041】
図1,2で示す燃料電池セルによれば、3層構造のセパレータ7を構成する中間層73のうち、補強膜の積層箇所に対応する位置に、空洞73Aや低剛性領域73Bが配されていることにより、当該積層箇所に対応する電極体部位に過度の面圧が生じたり、この過度の面圧領域に隣接する位置に面圧が生じない領域(面圧無領域)が形成されるといった課題を効果的に解消することができる。したがって、電極体における発電領域を可及的に広範囲に広げることができ、発電性能に優れた燃料電池を形成することが可能となる。
【0042】
なお、実際の燃料電池は、図1,2で示す燃料電池セルが所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にターミナルプレート、絶縁プレート、エンドプレートが配され、テンションプレートを介して圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1…電解質膜、1a…電解質膜の露出領域、2…カソード側の触媒層、2’…アノード側の触媒層、3…膜電極接合体、4…カソード側のガス拡散層(ガス透過層)、4’…アノード側のガス拡散層(ガス透過層)、5…電極体、6…カソード側のガス流路層(ガス透過層)、6’…アノード側のガス流路層(ガス透過層)、7…セパレータ、71…アノード側プレート(第1のプレート)、72…カソード側プレート(第2のプレート)、73…中間層(中間プレート)、73A…空洞(吸収機構)、73B…低剛性領域(吸収機構)、8…ガスケット、9…カソード側の補強膜、9’…アノード側の補強膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配され、いずれか一方のガス透過層側には、第1のプレート、中間層、第2のプレートが積層された3層構造のセパレータが配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、
少なくとも、前記電解質膜のうち、触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、補強膜が介在し、かつ、該補強膜の一部が触媒層上に積層して積層箇所を形成しており、
セパレータの前記中間層のうち、補強膜の前記積層箇所に対応する領域には、少なくとも前記第1のプレートもしくは第2のプレートの撓みを吸収自在な吸収機構が具備されている、燃料電池。
【請求項2】
前記吸収機構が、中間層に設けられた空洞からなる、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記吸収機構が、中間層に設けられた、相対的に剛性の低い低剛性領域からなる、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記ガス透過層は、ガス拡散層、金属多孔体からなるガス流路層、該ガス拡散層と該ガス流路層の組み合わせ、のいずれかの形態からなり、
アノード側とカソード側双方のガス透過層が、複数の前記形態中の同一の形態、もしくは異なる形態のいずれかからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−218717(P2010−218717A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60681(P2009−60681)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】