説明

燃料電池

【課題】電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層と、ガス拡散層とを備える燃料電池において、触媒層とガス拡散層との接触性を向上させる。
【解決手段】膜電極接合体10は、電解質膜11の両面に、それぞれ、触媒層12と、ガス拡散層13とを備える。触媒層12は、電解質膜11の表面に対してほぼ垂直方向に配向し、この垂直方向についての弾性を有するカーボンナノチューブを備える。膜電極接合体10には、面に対して垂直方向に、カーボンナノチューブの弾性範囲内の荷重が加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、電解質膜の両面に、それぞれ、ガス拡散電極として、触媒層と、ガス拡散層とを接合した構成を有している。このような燃料電池において、触媒層には、一般に、白金等の触媒金属を担持したカーボンブラック、および、電解質が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−353496号公報
【特許文献2】特開2006−085929号公報
【特許文献3】特開2007−257886号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中山喜萬、他、“グリーンエンジニアリングによるカーボンナノコイル、ナノチャプレットおよび関連材料の大量合成と高度機能複合材料の開発研究”、インターネット<URL:http://www.osaka.jst.go.jp/kadai/pdf/h1305.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池では、内部抵抗を減少させて、発電性能の向上を図るために、電解質膜と触媒層とガス拡散層との接触性の確保が求められる。そこで、電解質膜と触媒層とガス拡散層とは、一般に、ホットプレスによって接合される。電解質膜と触媒層との間では、電解質膜の表面が平滑であるので、上記ホットプレスによって、十分な接触性を確保することができる。また、電解質膜と触媒層との間では、上記ホットプレスによって、両者間における電解質の相互拡散が生じ、接触性がさらに向上する。
【0006】
しかし、触媒層とガス拡散層との間では、十分な接触性を確保することが困難だった。すなわち、一般に、ガス拡散層としては、数十ミクロンの空孔径を有するカーボンペーパや、カーボンクロス等が用いられ、その表面には、空孔径と同等の凹凸が存在する。このため、上述したホットプレスによっても、触媒層とガス拡散層との界面の空隙を埋めるには至らず、触媒層とガス拡散層との間においては、接触不良が生じていた。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層と、ガス拡散層とを備える燃料電池において、触媒層とガス拡散層との接触性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層と、ガス拡散層とを備える燃料電池であって、少なくとも一方の前記触媒層は、前記電解質膜と前記ガス拡散層との間に配置され、前記電解質膜の表面に対して垂直方向に配向し、前記電解質膜の表面に対して垂直方向についての弾性を有するカーボンナノチューブを備えており、前記燃料電池は、前記垂直方向に前記カーボンナノチューブの弾性範囲内の荷重を印加する荷重印加部を備える、燃料電池。
【0010】
適用例1の燃料電池では、上記少なくとも一方の触媒層が備えるナノメートルオーダーの外径を有するカーボンナノチューブによって、先に説明したガス拡散層の表面に存在する数十ミクロンの凹凸を埋めて、上記少なくとも一方の触媒層とガス拡散層との接触性を向上させることができる。
【0011】
さらに、適用例1の燃料電池では、上記カーボンナノチューブの弾性によって、電解質膜の膨潤・収縮による厚さの変化を吸収し、電解質膜と触媒層とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することもできる。また、上記カーボンナノチューブの弾性によって、ガス拡散層と当接して配置される集電体(セパレータ)とガス拡散層との接触抵抗の増加を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す説明図である。
【図2】触媒層Aおよび触媒層Bの表面に対して垂直方向に加えた面圧と歪みとの関係を示す説明図である。
【図3】触媒層12の弾性範囲を示す説明図である。
【図4】実施例の触媒層12による効果を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.燃料電池スタックの構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す説明図である。図1では、燃料電池スタック100の側面図を、燃料電池スタック100を構成する単セルの断面図とともに示した。
【0014】
この燃料電池スタック100は、複数の単セルを積層させた積層体を備えている。各単セルは、膜電極接合体10の周縁部に燃料ガスおよび酸化剤ガスの漏洩を防止するためのフレーム状のシール部材14を設け、これらをセパレータ20によって挟持することによって構成されている。各セパレータ20には、燃料ガスまたは酸化剤ガスを流すためのガス流路、および、図示しない冷却水流路が形成されている。なお、燃料電池スタック100における単セルの積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0015】
膜電極接合体10は、プロトン伝導性を有する電解質膜11の両面に、それぞれ、アノード、および、カソードを接合することによって形成されている。そして、アノード、および、カソードは、それぞれ、触媒層12と、ガス拡散層13とを備えている。本実施例では、電解質膜11として、固体高分子膜を用いるものとした。また、ガス拡散層13として、導電性およびガス拡散性を有するカーボンペーパを用いるものとした。なお、膜電極接合体10、特に、触媒層12については、後から詳述する
【0016】
そして、燃料電池スタック100は、単セルの積層方向についての上記積層体の両端部に、それぞれ、図示しない集電板、および、絶縁板を挟んで、エンドプレート30を配置し、これらを締結棒40およびナット42を用いて締結することによって構成される。各エンドプレート30を締結することによって、単セルの積層方向に押圧力が加えられる。このとき、単セルの積層方向に加えられる押圧力(荷重)は、後述する触媒層12の弾性範囲内で選択される。セパレータ20や、エンドプレート30や、締結棒40およびナット42等、単セルの積層方向に押圧力を加える部材は、本発明における荷重印加部に相当する。なお、各エンドプレート30は、剛性を確保するために、鋼等の金属によって形成されている。また、各集電板には、それぞれ出力端子が設けられており、これらの出力端子から燃料電池スタック100によって発電された電力を出力可能となっている。
【0017】
燃料電池スタック100において、各エンドプレート30と各締結棒40とは、例えば、各エンドプレート30の四隅に厚さ方向に形成された各貫通孔(符号省略)に、各締結棒40の両端部に形成された雄ネジ部を挿入して、内壁に雌ネジが形成されたナット42を上記雄ネジ部に螺合することによって固定される。なお、締結棒40における上記雄ネジ部を除く部分の太さは、各エンドプレート30に形成された各貫通孔のサイズよりも太く設定されており、燃料電池スタック100における単セルの積層方向の長さは、各単セルに加えられる荷重の大きさに関わらず、締結棒40における上記雄ネジ部を除く部分の長さによって規定されている。
【0018】
B.膜電極接合体:
本実施例の燃料電池スタック100に用いられる膜電極接合体10において、触媒層12は、後述するように、触媒層12とガス拡散層13との接触性を向上させるために、電解質膜11の表面に対して垂直方向に配向し、この垂直方向に弾性を有するカーボンナノチューブを備えている。以下、本実施例の膜電極接合体10の製造工程について説明する。
【0019】
まず、基板上に、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、基板の表面に対して垂直に配向した複数のカーボンナノチューブを成長させる。ここで、「垂直に配向した」とは、厳密に垂直に配向している必要はない。例えば、予め基板上にカーボンナノチューブを成長させるための成長核を高密度に形成しておくことによって、基板上には、基板の表面に対してほぼ垂直に配向したブラシ状のカーボンナノチューブが成長する。なお、本願発明者は、基板上にブラシ状に成長したカーボンナノチューブが基板の表面に対して垂直方向についての弾性を有するか否か、および、上記垂直方向についての弾性範囲がカーボンナノチューブの成長条件の違いによって変化することを見出した。そして、触媒層12を構成するカーボンナノチューブの成長条件は、成長したカーボンナノチューブが基板の表面に対して垂直方向についての弾性を有するように決定される。
【0020】
次に、ブラシ状に成長させたカーボンナノチューブの全面に白金塩溶液を滴下して、乾燥・焼成還元することによって、カーボンナノチューブに白金を担持させる。そして、白金を担持したカーボンナノチューブに、アイオノマ分散溶液(例えば、ナフィオン分散溶液(「ナフィオン」は、登録商標))を滴下して、乾燥させることによって、白金を担持したカーボンナノチューブがアイオノマ(電解質)によって被覆され、触媒層12となる部材が作製される。
【0021】
次に、上述した工程によって作製された部材、すなわち、白金を担持し、表面が電解質によって被覆されたカーボンナノチューブを、電解質膜11の両面に、それぞれ熱転写する。こうすることによって、電解質膜11の表面に対してほぼ垂直方向に配向し、この垂直方向についての弾性を有するカーボンナノチューブを備える触媒層12が、電解質膜11の両面にそれぞれ形成される。そして、電解質膜11の両面に触媒層12がそれぞれ形成された形成物をカーボンペーパ(ガス拡散層13)によって挟み、これらをホットプレスによって接合することによって、膜電極接合体10が作製される。
【0022】
C.触媒層が備えるカーボンナノチューブの荷重特性:
先述したように、本願発明者は、カーボンナノチューブの成長条件の違いによって、基板上にブラシ状に成長したカーボンナノチューブが、基板の表面に対して垂直方向についての弾性を有する場合と有さない場合とがあることを見出した。この知見は、異なる成長条件で成長させたカーボンナノチューブを用いて作製した触媒層Aおよび触媒層Bに対して、ロードセルを用いた荷重試験を行うことによって得られた。なお、カーボンナノチューブの成長条件以外の触媒層Aと触媒層Bの作製条件は、同じである。
【0023】
図2は、触媒層Aおよび触媒層Bの表面に対して垂直方向に加えた面圧と歪みとの関係を示す説明図である。図2(a)に示したように、触媒層Aでは、表面に対して垂直方向に1.75(MPa)の面圧を加えたときに、約24(%)の歪みが生じ、その後、面圧を0(MPa)に戻したときには、約2(%)の歪みに戻った。一方、図2(b)に示したように、触媒層Bでは、表面に対して1(MPa)の面圧を加えたときに、約28(%)の歪みが生じ、その後、面圧を0(MPa)に戻しても、約22(%)の歪みが生じたまま元の形状に戻らなかった。つまり、触媒層Aは、電解質膜11の表面に対して垂直方向についての弾性を有するのに対し、触媒層Bは、電解質膜11の表面に対して垂直方向についての弾性を有さないという結果が得られた。
【0024】
上述した荷重試験の結果から、本実施例の膜電極接合体10には、電解質膜11の表面に対して垂直方向についての弾性を有する触媒層Aを、触媒層12として用いることとした。そして、上述した荷重試験と同様にして、触媒層12(触媒層A)の弾性範囲を求めた。
【0025】
図3は、触媒層12の弾性範囲を示す説明図である。図示するように、電解質膜11の表面に対して垂直方向(電解質膜11を押圧する方向)の触媒層12の弾性範囲は、0〜約2(MPa)であることが分かった。
【0026】
D.実施例の触媒層による効果:
図4は、実施例の触媒層12による効果を模式的に示す説明図である。先に説明したように、膜電極接合体10の製造工程では、電解質膜11の両面に触媒層12がそれぞれ形成された膜をカーボンペーパ(ガス拡散層13)によって挟み、これらをホットプレスによって接合する。
【0027】
図4の上段に示したように、電解質膜11の両面に触媒層12がそれぞれ形成された膜をカーボンペーパ(ガス拡散層13)によって挟んで、これらをホットプレスするときに、ガス拡散層13の表面には数十ミクロンの凹凸が存在するため、比較的荷重が小さい場合には、触媒層12とガス拡散層13との界面には空隙が存在し、触媒層12とガス拡散層13との接触性が悪い。その後、ホットプレスの荷重を増加させると、触媒層12が備えるカーボンナノチューブの外径がナノメートルオーダーであるので、カーボンナノチューブの先端部が、触媒層12とガス拡散層13との界面に存在した空隙を埋めて、触媒層12とガス拡散層13との接触性が向上する。なお、上記ホットプレス時の荷重は、図3に示したカーボンナノチューブの弾性範囲内の荷重が選択される。
【0028】
以上説明した本実施例の燃料電池スタック100によれば、膜電極接合体10の触媒層12が備えるナノメートルオーダーの外径を有するカーボンナノチューブによって、ガス拡散層13の表面に存在する数十ミクロンの凹凸を埋めて、触媒層12とガス拡散層13との接触性を向上させることができる。
【0029】
さらに、本実施例の燃料電池スタック100によれば、触媒層12が備えるカーボンナノチューブの弾性によって、電解質膜11の膨潤・収縮による厚さの変化を吸収し、電解質膜11と触媒層12とガス拡散層13との接触抵抗の増加を抑制することもできる。また、上記カーボンナノチューブの弾性によって、ガス拡散層13と当接して配置されるセパレータ20とガス拡散層13との接触抵抗の増加を抑制することもできる。
【0030】
なお、本実施例では、電解質膜11の両面に上述したカーボンナノチューブを備える触媒層12を適用するものとしたが、電解質膜11の少なくとも一方の面に上記触媒層12を適用すればよい。
【符号の説明】
【0031】
100…燃料電池スタック
10…膜電極接合体
11…電解質膜
12…触媒層
13…ガス拡散層
14…シール部材
20…セパレータ
30…エンドプレート
40…締結棒
42…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層と、ガス拡散層とを備える燃料電池であって、
少なくとも一方の前記触媒層は、前記電解質膜と前記ガス拡散層との間に配置され、前記電解質膜の表面に対して垂直方向に配向し、前記電解質膜の表面に対して垂直方向についての弾性を有するカーボンナノチューブを備えており、
前記燃料電池は、
前記垂直方向に前記カーボンナノチューブの弾性範囲内の荷重を印加する荷重印加部を備える、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−218820(P2010−218820A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62921(P2009−62921)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】