説明

燃料電池

【課題】放熱が促進されることにより、出力の安定化と、長寿命化が可能な直接メタノール型燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜17と、電解質膜の一方の面に間隔をおいて配置された複数の燃料極13と、電解質膜の他方の面に燃料極のそれぞれと対向するように間隔をおいて配置された複数の空気極16と、を有する膜電極接合体2と、膜電極接合体2の複数の空気極16の電解質膜17側とは反対の面側及び複数の燃料極13の電解質膜17側とは反対の面側の少なくとも一方に配置された熱伝導体40と、を具備する燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体燃料を用いた燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
高温で作動する燃料電池において、燃料電池を収納する機器の筐体が高温になることを防止する目的で、燃料電池を覆う断熱体の外表面を伝熱体で覆う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方で、燃料電池セパレータなどの用途に好適な高い熱伝導性を有する熱伝導性成形体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。特に、この熱伝導性成形体によれば、熱伝導率の異方性により電気・電子機器用の筐体、部材とした場合に、筐体の放熱設計などにおいて有用であることが開示されている。
【0005】
単位電池を複数個積層して積層体を形成してなる燃料電池において、温度分布を均一化する目的で、平面方向の熱伝導率が積層方向の熱伝導率よりも大きいガス分離板と単位電池とを交互に積層して、上下端部に冷却板を配置した構成が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−202611号公報
【特許文献2】特開2006−49878号公報
【特許文献3】特開平9−289026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池として、例えば、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。
【0008】
DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。これらのうち、内部気化型等のパッシブ方式はDMFCの小型化に対して有利である。パッシブ型DMFCは、例えば燃料極、電解質膜および空気極を有する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備えて構成されている。
【0009】
このような膜電極接合体の面内において、意図しない温度ばらつきが生じることがある。特に、膜電極接合体の周辺部では比較的放熱が促進されるのに対して、中央部では熱が逃げにくく、周辺部と中央部とで大きな温度差が生じやすくなる。また、このような温度差に伴って飽和水蒸気圧差も生じ、膜電極接合体において発電反応に必要な物質の授受が阻害され、結果として、出力の低下や不安定化を招くおそれがある。
【0010】
この発明の目的は、安定して高い出力を得ることが可能な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の態様による燃料電池は、
電解質膜と、前記電解質膜の一方の面に間隔をおいて配置された複数の燃料極と、前記電解質膜の他方の面に前記燃料極のそれぞれと対向するように間隔をおいて配置された複数の空気極と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記複数の空気極の前記電解質膜側とは反対の面側及び前記複数の燃料極の前記電解質膜側とは反対の面側の少なくとも一方に配置された熱伝導体と、
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、安定して高い出力を得ることが可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示した燃料電池における膜電極接合体の構造の一部の断面を概略的に示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示した膜電極接合体の平面図である。
【図4】図4は、図1に示した燃料電池に適用可能な膜電極接合体及び熱伝導体の構造を概略的に示す断面図である。
【図5】図5は、図1に示した燃料電池に適用可能な膜電極接合体及び熱伝導体の他の構造を概略的に示す断面図である。
【図6】図6は、図1に示した燃料電池に適用可能な膜電極接合体及び熱伝導体の他の構造を概略的に示す断面図である。
【図7】図7は、図1に示した燃料電池に適用可能な膜電極接合体及び熱伝導体の他の構造を概略的に示す断面図である。
【図8】図8は、膜電極接合体における面内の温度分布の一例を説明するための図である。
【図9】図9は、熱伝導体の熱伝導率比に対する膜電極接合体の面内の温度分布を測定した結果を示す図である。
【図10】図10は、熱伝導体の厚みに対する膜電極接合体の面内の温度分布を測定した結果を示す図である。
【図11】図11は、実施例5に係る燃料電池の構成を概略的に示す図である。
【図12】図12は、実施例1乃至5及び比較例1における性能評価の測定結果(平均出力及び平均温度)を示す図である。
【図13】図13は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図14】図14は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図15】図15は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図16】図16は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図17】図17は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図18】図18は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図19】図19は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図20】図20は、本実施形態の燃料電池において膜電極接合体に組み合わせられる熱伝導体のバリエーションを説明するための図である。
【図21】図21は、膜電極接合体の形状と熱伝導体の熱伝導性との関係を説明するための図である。
【図22】図22は、実施例6乃至8及び比較例2における性能評価の測定結果(出力密度及び温度差)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の一実施の形態に係る燃料電池に関する技術について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、この実施の形態に係る燃料電池1の構造を概略的に示す断面図である。
【0016】
燃料電池1は、起電部を構成する膜電極接合体(MEA)2と、膜電極接合体2に燃料を供給する燃料供給機構3と、から主として構成されている。
【0017】
すなわち、燃料電池1において、膜電極接合体2は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とを備えて構成されている。
【0018】
アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11には、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14には、PtやPt−Ni等を用いることが好ましい。ただし、触媒は、これらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。また、触媒は、炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0019】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜17は、これらに限られるものではない。
【0020】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層11の集電機能を有するものである。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層14の集電機能を有するものである。アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、例えばカーボンペーパーなどの導電性を有する多孔質基材によって構成されている。
【0021】
このような膜電極接合体2は、集電体18によって挟持されている。すなわち、集電体18は、膜電極接合体2のアノード13の側に配置されたアノード集電体18A及び膜電極接合体2のカソード16の側に配置されたカソード集電体18Cを有している。アノード集電体18Aは、アノードガス拡散層12に重なっている。カソード集電体18Cは、カソードガス拡散層15に重なっている。これらのアノード集電体18A及びカソード集電体18Cは、図示しない開口を有している。
【0022】
アノード集電体18A及びカソード集電体18Cとしては、例えば金(Au)、ニッケル(Ni)などの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいは、ステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材、さらには、グラファイト(黒鉛)等の炭素質材料などをそれぞれ使用することができる。
【0023】
膜電極接合体2は、電解質膜17のアノード側及びカソード側にそれぞれ配置されたゴム製のOリング等のシール部材19によってシールされている。すなわち、シール部材19は、電解質膜17とアノード集電体18Aとの間、及び、電解質膜17とカソード集電体18Cとの間にそれぞれ配置されており、これにより、膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。なお、膜電極接合体2において、電解質膜17のうち、アノード触媒層11及びカソード触媒層14にともに接しておらず、かつシール部材19によって囲まれた内側に相当する位置に、1個乃至複数個のガス排出孔(図示せず)を設けても良い。
【0024】
膜電極接合体2のカソード16の側において、集電体18とカバープレート21との間には、通気性を有する絶縁材料によって形成された板状体20が配置されている。この板状体20は、主に保湿層として機能する。すなわち、この板状体20は、カソード集電体18Cの上に配置され、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カソード触媒層14への空気の取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。この板状体20は、例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体などが挙げられる。
【0025】
上述した膜電極接合体2は、燃料供給機構3とカバープレート21との間に配置されている。カバープレート21は、板状体20の上に配置されている。このカバープレート21は、外観が略矩形状のものであり、例えばステンレス鋼(SUS)によって形成されている。また、カバープレート21は、酸化剤である空気を取入れるための複数の開口部(空気導入孔)21Aを有している。
【0026】
カソード集電体18Cと板状体20との間には、後述する熱伝導体40が配置されている。また、図1に示したように、熱伝導体40とカソード集電体18Cとの間には、絶縁体50が配置されることが望ましい。
【0027】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13に対して燃料を供給するように構成されているが、特に、特定の構成に限定されるものではない。以下に、燃料供給機構3の一例について説明する。
【0028】
燃料供給機構3は、例えば、箱状に形成された容器30を備えている。この燃料供給機構3は、液体燃料を収容する燃料収容部4と流路5を介して接続されている。容器30は、燃料導入口30Aを有しており、この燃料導入口30Aと流路5とが接続されている。この容器30は、例えば樹脂製容器によって構成される。容器30を形成する材料としては、液体燃料に対する耐性を有している材料が選択される。
【0029】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13の面方向に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料供給部31を備えている。ここでは、特に、燃料供給部31が燃料分配板31Aを備えた構成について説明するが、燃料供給部31は他の構成であっても良い。
【0030】
すなわち、燃料分配板31Aは、1つの燃料注入口32と、複数の燃料排出口33とを有しており、細管34のような燃料通路を介して燃料注入口32と燃料排出口33とを接続した構成である。燃料通路は、燃料分配板31A内に形成した細管34に代えて燃料流通溝等で構成してもよい。この場合、燃料流通溝を有する流路板を複数の燃料排出口を有する拡散板で覆うことによって、燃料分配板31Aを構成することも可能である。
【0031】
細管34の一端(始端部)には、燃料注入口32が設けられている。細管34は、途中で複数に分岐しており、これらの分岐した細管34の各終端部に燃料排出口33がそれぞれ設けられている。燃料注入口32は、容器30の燃料導入口30Aと連通している。これにより、燃料分配板31Aの燃料注入口32が流路5を介して燃料収容部4に接続される。燃料排出口33は、複数、例えば128箇所にあり、液体燃料もしくはその気化成分を排出する。
【0032】
燃料注入口32から注入された液体燃料は、複数に分岐した細管34を介して複数の燃料排出口33にそれぞれ導かれる。このような燃料分配板31Aを使用することによって、燃料注入口32から注入された液体燃料を方向や位置に係わりなく、複数の燃料排出口33に均等に分配することができる。従って、膜電極接合体2の面内における発電反応の均一性をより一層高めることが可能となる。
【0033】
さらに、細管34で燃料注入口32と複数の燃料排出口33とを接続することによって、燃料電池の特定箇所により多くの燃料を供給するような設計も可能となる。これは、膜電極接合体2の発電度合いの均一性の向上等に寄与する。
【0034】
このような燃料分配板31Aは、液体燃料の気化成分や液体燃料を透過させない材料で形成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で形成される。また、燃料分配板31Aは、例えば、液体燃料の気化成分と液体燃料とを分離し、その気化成分を膜電極接合体2の側へ透過させる気液分離膜で構成されてもよい。気液分離膜には、例えば、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などが適用可能である。
【0035】
膜電極接合体2は、そのアノード13が上述したような燃料分配板31Aの燃料排出口33に対向するように配置されている。カバープレート21は、燃料供給機構3との間に膜電極接合体2を保持した状態で容器30に対してカシメ、ネジ止め、リベット継手などの手法により固定されている。これにより、燃料電池(DMFC)1の発電ユニットが構成されている。
【0036】
燃料供給部31は、燃料分配板31Aと膜電極接合体2との間に燃料拡散室31Bとして機能する空間を形成するような構成であることが望ましい。この燃料拡散室31Bは、燃料排出口33から液体燃料が排出されたとしても気化を促進するとともに、面方向への拡散を促進する機能を有している。
【0037】
膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、膜電極接合体2をアノード13側から支持する支持部材を配置しても良い。
【0038】
また、膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、少なくとも1つの多孔体を配置しても良い。
【0039】
燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。なお、液体燃料は、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容される。
【0040】
燃料収容部4に収容された液体燃料は、重力を利用して流路5を介して燃料供給部31で落下させて送液することができる。また、流路5に多孔体等を充填して、毛細管現象により燃料収容部4に収容された液体燃料を燃料供給部31まで送液してもよい。
【0041】
流路5は、配管などで構成されているが、燃料供給部31や燃料収容部4と独立した配管に限られるものではない。例えば、流路5は、燃料供給部31や燃料収容部4を積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の燃料流路であってもよい。すなわち、燃料供給部31は、種々の形態の燃料流路等を介して燃料収容部4と連通されていればよい。
【0042】
さらに、流路5には、ポンプ6が介在していても良い。ポンプ6は、燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。燃料供給部31から膜電極接合体2に供給された燃料は、発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部4に戻されることはない。
【0043】
この実施の形態の燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ6を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。図1に示す燃料電池1は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0044】
ポンプ6の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。
【0045】
ロータリーベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0046】
なお、ポンプ6と燃料供給部31との間にリザーバを設けてもよい。
【0047】
また、燃料電池1の安定性や信頼性を高めるために、ポンプ6と直列に燃料遮断バルブを配置してもよい。燃料遮断バルブには、電磁石、モータ、形状記憶合金、圧電セラミックス、バイメタル等をアクチュエータとして、開閉動作を電気信号で制御することが可能な電気駆動バルブが適用される。燃料遮断バルブは、状態保持機能を有するラッチタイプのバルブであることが好ましい。
【0048】
また、燃料収容部4や流路5には、燃料収容部4内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着してもよい。燃料収容部4から燃料供給機構3で膜電極接合体2に燃料を供給する場合、ポンプ6に代えて燃料遮断バルブのみを配置した構成とすることも可能である。この際の燃料遮断バルブは、流路5による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0049】
この実施の形態の燃料電池1においては、ポンプ6を用いて燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料が間欠的に送液される。ポンプ6で送液された液体燃料は、燃料供給部31を経て膜電極接合体2のアノード13の全面に対して均一に供給される。
【0050】
すなわち、複数の単セルCの各アノード13の平面方向に対して均一に燃料が供給され、これにより発電反応が生起される。燃料供給用(送液用)のポンプ6の運転動作は、燃料電池1の出力、温度情報、電力供給先である電子機器の運転情報等に基づいて制御することが好ましい。
【0051】
上述した燃料電池1においては、燃料収容部4から流路5を介して燃料供給部31に導入された液体燃料は、液体燃料のまま、もしくは液体燃料と液体燃料が気化した気化成分とが混在する状態で、燃料供給部31の燃料排出口33から集電体18のアノード集電体18Aを介して膜電極接合体2のアノード13に供給される。
【0052】
アノード13に供給された燃料は、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる、あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0053】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は、集電体18を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体18を経由してカソード16に導かれる。(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には、酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0054】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
上述した燃料電池1の発電反応において、発電する電力を増大させるためには触媒反応を円滑に行わせるとともに、膜電極接合体2の電極全体に均一に燃料を供給し、電極全体をより有効に発電に寄与させることが重要となる。
【0055】
ところで、この実施の形態においては、図2及び図3に示すように、膜電極接合体2は、単一の電解質膜17の一方の面17Aにおいて間隔をおいて配置された複数のアノード13と、電解質膜17の他方の面17Cにおいてアノード13のそれぞれと対向するように間隔をおいて配置された複数のカソード16と、を備えている。ここでは、アノード13及びカソード16がそれぞれ4個である場合を示している。
【0056】
これらのアノード13とカソード16との各組み合わせは、それぞれ電解質膜17を挟持し、単セルCをなしている。複数の単セルCは、略同等のサイズであるとともに略同一の形状である。つまり、単セルCを構成するアノード13の各々も略同等のサイズであるとともに略同一の形状であり、しかも、単セルCを構成するカソード16の各々も略同等のサイズであるとともに略同一の形状である。ここでは、単セルCの各々は、同一平面上において、その長手方向と直交する方向に間隔をおいて並んで配置されている。なお、膜電極接合体2の構造は、ここに示した例に限らず他の構造であっても良い。
【0057】
ここで示した各単セルCは、第1方向Xに平行な長辺を有するとともに第1方向Xに直交する第2方向Yに平行な短辺を有する略長方形状に形成されている。つまり、単セルCの長手方向は、第1方向Xに相当する。また、各単セルCを構成するアノード13及びカソード16についても、第1方向Xに平行な長辺を有するとともに第2方向Yに平行な短辺を有する略長方形状に形成されている。
【0058】
複数の単セルCの並び方向は、それぞれの単セルCの長手方向すなわち第1方向Xに直交する第2方向Yと平行である。つまり、複数のアノード13の並び方向は第2方向Yであり、また、複数のカソード16の並び方向は第2方向Yである。
【0059】
膜電極接合体2の外形については、略長方形状に形成されていても良いし、略正方形状に形成されていても良い。
【0060】
図2及び図3に示したような複数の単セルCを有する膜電極接合体2においては、各単セルCは、図示しない集電体によって電気的に直列に接続されている。すなわち、図2などに示した膜電極接合体2に対応するために、集電体は、それぞれ4個のアノード集電体及びカソード集電体を有している。アノード集電体のそれぞれは、各単セルCにおいてアノードガス拡散層12に積層されている。また、カソード集電体のそれぞれは、各単セルCにおいてカソードガス拡散層15に積層されている。
【0061】
次に、熱伝導体40についてより詳細に説明する。
【0062】
図4は、膜電極接合体2及び熱伝導体40の構造を概略的に示す断面図である。なお、図4においては、説明に必要な主要部のみを模式的に図示しており、熱伝導体40とカソード集電体18Cとの間の絶縁体50は省略している。
【0063】
より具体的には、熱伝導体40は、膜電極接合体2のサイズ(例えば、電解質膜17の外形寸法に対応)と同等に形成され、各単セルCのカソード16と対向するように配置されている。つまり、単一の熱伝導体40は、各カソード16と対向するとともに隣り合うカソード16の間の空間部SPの直上にも位置している。換言すると、熱伝導体40は、隣り合う複数のカソード16に跨って配置されている。
【0064】
このような熱伝導体40と膜電極接合体2との間、より具体的には、熱伝導体40とカソード16のカソードガス拡散層15との間には、カソード集電体18Cが配置されている。換言すると、ここに示した熱伝導体40は、カソード集電体18Cと図示しないカバープレート21との間に配置されている。
【0065】
このような熱伝導体40やカソード集電体18Cは、膜電極接合体2に対してカソード側に配置されるが、これらが通気性を有しているため、発電反応に必要な各カソード16への空気あるいは酸素の導入、さらには、各カソード16から外部への水蒸気などの気体の排出を阻害することはない。
【0066】
このような構成の熱伝導体40は、熱移動を可能とするバイパスとして機能する。このため、熱伝導体40は、膜電極接合体2のカソード16の側において高温部から低温部への熱の移動を促進することが可能となる。すなわち、ある一つの単セルCを構成するカソード16の高温部の熱は、熱伝導体40を介して、同一の単セルCにおけるカソード16における低温部へと移動可能となるとともに、隣り合う他の単セルCを構成する比較的低温のカソード16へと移動可能となる。当然のことながら、比較的高温の空間部SPの熱も熱伝導体40を介して低温部へと移動可能となる。
【0067】
したがって、膜電極接合体2の面内における温度差を低減することができ、温度分布の均一化を図ることが可能となる。また、間隔をおいて並列配置された単セルCの間(より具体的には、隣り合うカソード16の間)が空気などによって電気的に絶縁されるとともに熱的にも断熱されたとしても、複数の単セルCに跨って配置された熱伝導体40による熱移動の促進作用により、膜電極接合体2の面内における温度差を低減することができる。
【0068】
図1及び図4に示した例では、熱伝導体40が膜電極接合体2のカソード16の側に配置された場合について説明したが、熱伝導体40が膜電極接合体2のアノード13の側に配置されても良い。
【0069】
図5は、膜電極接合体及び熱伝導体の他の構造を概略的に示す断面図である。なお、図5においては、説明に必要な主要部のみを模式的に図示しており、熱伝導体40とアノード集電体18Aとの間の絶縁体50は省略している。
【0070】
より具体的には、熱伝導体40は、膜電極接合体2のサイズ(例えば、電解質膜17の外形寸法に対応)と同等に形成され、各単セルCのアノード13と対向するように配置されている。つまり、単一の熱伝導体40は、各アノード13と対向するとともに隣り合うアノード13の間の空間部SPの直上にも位置している。換言すると、熱伝導体40は、隣り合う複数のアノード13に跨って配置されている。
【0071】
このような熱伝導体40と膜電極接合体2との間、より具体的には、熱伝導体40とアノード13のアノードガス拡散層12との間には、アノード集電体18Aが配置されている。換言すると、ここに示した熱伝導体40は、アノード集電体18Aと図示しない燃料供給機構3との間に配置されている。このような熱伝導体40やアノード集電体18Aは、膜電極接合体2に対してアノード側に配置されるが、これらが通気性を有しているため、発電反応に必要な各アノード13への燃料ガスの導入を阻害することはない。
【0072】
このような構成の熱伝導体40は、熱移動を可能とするバイパスとして機能する。このため、熱伝導体40は、膜電極接合体2のアノード13の側において高温部から低温部への熱の移動を促進することが可能となる。すなわち、ある一つの単セルCを構成するアノード13の高温部の熱は、熱伝導体40を介して、同一の単セルCにおけるアノード13における低温部へと移動可能となるとともに、隣り合う他の単セルCを構成する比較的低温のアノード13へと移動可能となる。当然のことながら、比較的高温の空間部SPの熱も熱伝導体40を介して低温部へと移動可能となる。
【0073】
したがって、膜電極接合体2の面内における温度差を低減することができ、温度分布の均一化を図ることが可能となる。また、間隔をおいて並列配置された単セルCの間(より具体的には、隣り合うアノード13の間)が空気などによって電気的に絶縁されるとともに熱的にも断熱されたとしても、複数の単セルCに跨って配置された熱伝導体40による熱移動の促進作用により、膜電極接合体2の面内における温度差を低減することができる。
【0074】
上述した例では、熱伝導体40が膜電極接合体2のカソード16の側のみに配置された場合、及び、熱伝導体40が膜電極接合体2のアノード13の側のみに配置された場合について説明したが、熱伝導体40は、膜電極接合体2のアノード13の側及びカソード16の側の両方に配置されても良い。
【0075】
図6は、膜電極接合体及び熱伝導体の他の構造を概略的に示す断面図である。なお、図6においては、説明に必要な主要部のみを模式的に図示しており、熱伝導体40とアノード集電体18Aとの間の絶縁体50、及び、熱伝導体40とカソード集電体18Cとの間の絶縁体50は省略している。
【0076】
より具体的には、熱伝導体40は、膜電極接合体2のサイズ(例えば、電解質膜17の外形寸法に対応)と同等に形成され、各単セルCのアノード13及びカソード16とそれぞれ対向するように配置されている。つまり、単一の熱伝導体40は、各アノード13と対向するとともに隣り合うアノード13の間の空間部SPの直上にも位置している。また、単一の熱伝導体40は、各カソード16と対向するとともに隣り合うカソード16の間の空間部SPの直上にも位置している。
【0077】
このような構成においては、図4に示した例及び図5に示した例の両方の効果が同時に得られる。
【0078】
このように、熱伝導体40は、膜電極接合体2の複数のカソード16の電解質膜17側とは反対の面側及び複数のアノード13の電解質膜17側とは反対の面側の少なくとも一方に配置されていれば良い。
【0079】
なお、熱伝導体40は、必ずしも全てのアノード13またはカソード16と対向していなくてもよい。例えば、図7に示すように、熱伝導体40は、膜電極接合体2のサイズよりも小さく形成され、複数のアノード13及び複数のカソード16のうち、一部を露出していてもよい。つまり、両端の単セルCを構成するアノード13及びカソード16の一部は、熱伝導体40と対向することなく、熱伝導体40から露出している。
【0080】
このような場合であっても、膜電極接合体2に形成された全ての単セルCを含む発電部(つまり、図示しないシール部材によって囲まれた全ての単セルCが占める領域及び隣接する単セルCの間の間隔を含めた領域)の外形寸法Dの80%以上の面積が熱伝導体40によって覆われていれば、熱伝導体40を介した十分な熱移動が可能となり、膜電極接合体2の面内における温度分布の均一化を図ることが可能である。
【0081】
図7に示した例では、アノード13に対向する熱伝導体40及びカソード16に対向する熱伝導体40の両方の外形寸法がそれぞれ発電部の外形寸法Dの80%の面積を有している。なお、図4に示した例のように、熱伝導体40がカソード16のみに対向する場合や、図5に示した例のように、熱伝導体40がアノード13のみに対向する場合であっても、それぞれの熱伝導体40の外形寸法が膜電極接合体2における発電部の外形寸法Dの80%以上の面積を有していれば、温度分布の均一化の効果は得られる。
【0082】
上述した例のように複数の単セルCを備えた膜電極接合体2の面内においては、図8に示すように、中央部2Cは比較的放熱されにくく高温となりやすく、逆に、周辺部2Pは中央部と比較して低温となりやすい。この場合、熱伝導体40を配置したことにより、膜電極接合体2の中央部2Cから周辺部2Pへの熱移動が促進され、膜電極接合体2の中央部2Cと周辺部2Pとでの温度差を低減することが可能となる。つまり、膜電極接合体2の面内における温度分布を均一化することが可能となる。
【0083】
このため、温度差に起因した飽和水蒸気圧差も低減され、膜電極接合体2の面内において、中央部2C及び周辺部2Pのいずれにおいても、発電反応に必要な物質の授受を促進することが可能となる。例えば、周辺部2Pが極端に低温となることなく、適度に高温部からの熱により加温されることにより、発電反応で生成した水の凝集を抑制して空気の取り込み不足を解消できるとともに、アノード側での液体燃料の気化が促進され、安定して高い発電効率を維持することが可能となる。一方で、中央部2Cが極端に高温となることがなくなり、適度に放熱することにより、発電反応に必要な水が蒸散するのを抑制して、安定して高い発電効率を維持することが可能となる。
【0084】
これにより、安定して高い出力を得ることが可能となる。
【0085】
上述した熱伝導体40としては、液体燃料や水、酸素等によって溶解や腐食、酸化等を生じることがなく、かつ熱伝導率の高い材料によって形成されることが望ましい。また、熱伝導体40は、通気性を確保する必要があり、多孔質性あるいは貫通孔を有している。このうち、多孔質性の熱伝導体40としては、炭素繊維素材が好適であり、例えば、東レ社製のカーボンペーパー(TGP−Hシリーズ)や、SGLカーボンジャパン社製のカーボンペーパー(GDLシリーズ)などが適用可能である。また、貫通孔を有する熱伝導体40としては、黒鉛(グラファイト)などの炭素質の材料をシート状に加工したグラファイトシート(例えば、グラフテック社製のグラファイトシート(eGrafシリーズ)に貫通孔を形成したものなどが適用可能である。さらに、熱伝導体40としては、熱伝導性に優れた金、アルミニウム、銅、タングステン、モリブデン等の金属、または、ステンレスなどのこれらの金属の合金に貫通孔を形成したものなどが適用可能である。
【0086】
熱伝導体40として金属材料を用いた場合、カソード16で生成した水や、大気中に含まれる酸素や水蒸気等によって酸化、腐食を生じる可能性がある。それを防ぐために、熱伝導体40としては、ステンレス等の腐食しにくい材料を用いるか、または、熱伝導体40の表面に、金などの酸化しにくい金属をメッキしたり、炭素質の物質や、樹脂もしくはゴムでコーティングを施したり、液体燃料の蒸気に溶解しない塗料で塗装する等しても良い。
【0087】
上記のようにコーティングを施すための樹脂もしくはゴムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、シリコーン樹脂等の樹脂、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム等のゴムが使用可能である。これら樹脂やゴムは金属に比べて熱伝導率が低いため、コーティングを施す場合には、コーティングする樹脂もしくはゴムはできるだけ薄くするのが望ましい。
【0088】
上述した熱伝導体40とカソード集電体18Cとの間、及び、熱伝導体40とアノード集電体18Aとの間には、必要に応じて、熱伝導体40と集電体18との間を電気的に絶縁するために、絶縁体50が配置される。また、導電性を有する材料で形成された熱伝導体40が複数の単セルCに対して共通に配置される場合には、隣り合う単セルCの間を絶縁するためにも、熱伝導体40と集電体18との間には、絶縁体50を配置することが望ましい。
【0089】
また、絶縁体50は、熱伝導体40と同様に通気性を確保する必要があり、多孔質性あるいは貫通孔を有している。このため、絶縁体50が膜電極接合体2のカソード16の側に配置された場合に、各カソード16への発電反応に必要な空気あるいは酸素の導入、さらには、各カソード16から外部への水蒸気などの気体の排出を阻害することはない。同様に、絶縁体50が膜電極接合体2のアノード13の側に配置された場合にも、各アノード13への発電反応に必要な燃料ガスの導入を阻害することはない。
【0090】
この絶縁体50は、フィルム状あるいは板状に形成されており、その厚みとしては、絶縁性を確保できれば特に制限はないが、モジュールの薄型化の要求に対応するためには100μm以下であることが望ましく、ここではたとえば20μmである。
【0091】
このような絶縁体50を構成する材料としては、上述したのと同様の樹脂やゴム等の材料が使用可能であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが好適である。また、熱伝導体40の腐食を防止するための上記したコーティングや塗装が、絶縁体50を兼ねていても良い。
【0092】
上述した熱伝導体40は、その平面方向の熱伝導率λplが厚み方向の熱伝導率λtよりも大きい熱伝導異方性を有していることが望ましい。つまり、熱伝導体40に求められる特性は、面内の熱分布の均一化であり、厚み方向の熱伝導率λtの方が大きい場合には厚み方向への熱の移動が促進され、面内つまり膜電極接合体の高温部から低温部への熱の移動が阻害されてしまうおそれがある。
【0093】
このような熱伝導体40において、平面方向の熱伝導率λplと厚み方向の熱伝導率λtとの比λ=λpl/λtは、10以上であることが望ましく、20以上であることがより望ましい。なお、ここで説明した熱伝導率λpl及びλtは、レーザーフラッシュ法によって測定したものである。
【0094】
ここで、熱伝導率比λによって変化する膜電極接合体2の面内の温度分布を測定した。このとき、温度(すなわち、膜電極接合体の表面温度)は、各単セルCにおけるカソードガス拡散層15と絶縁体50との間に挟み込んだ熱電対によって測定した。なお、熱電対は、各単セルCの長手方向の中心部において複数個所設置した。測定結果を図9に示す。この図9においては、面内の最高温度に対する温度差ΔT(℃)を縦軸とした。
【0095】
図9に示したように、比λ=1の場合には、熱伝導体40を配置しなかった場合と大差はなかった。これに対して、熱伝導異方性を有する(つまり、λpl>λt)熱伝導体40を適用した場合には、膜電極接合体2の中央部2Cと周辺部2Pとでの温度差が低減される傾向が確認された。
【0096】
比λが10以上の熱伝導体40を適用した場合には、全ての単セルCの中心部での温度差を3℃程度に緩和することができた。
【0097】
さらに、比λが20以上の熱伝導体40を適用した場合には、膜電極接合体2の全域にわたって温度差を3℃以内に緩和することができた。このとき、カソードガス拡散層15における面内の飽和水蒸気圧差が±10%以下となることが確認された。
【0098】
上述した熱伝導体40は、膜電極接合体2の面内の温度分布の均一化を図る上で十分な厚みであることが望ましく、その厚みは100μm以上であることが望ましいが、モジュールの薄型化の要求に対応するためにはより薄いほうが望ましい。
【0099】
ここで、熱伝導体40の厚みtによって変化する膜電極接合体2の面内の温度分布を測定した。このときの温度測定条件は上記の通りである。測定結果を図10に示す。この図10においては、面内の最高温度に対する温度差ΔT(℃)を縦軸とした。
【0100】
図10に示したように、熱伝導体40の厚みtが厚いほど、膜電極接合体2の中央部2Cと周辺部2Pとでの温度差が低減される傾向が確認された。厚みtが100μm以上の熱伝導体40を適用した場合には、全ての単セルCの中心部での温度差を3℃程度に緩和することができた。さらに、厚みtが250μm以上の熱伝導体40を適用した場合には、膜電極接合体2の全域にわたって温度差を3℃以内に緩和することができた。
【0101】
ここで、この熱伝導体40の厚みtについては、例えばその熱伝導体の熱伝導率λとの関係から、λ×tが1000以上であることが好ましい。
【0102】
熱伝導体40の気孔率は、板状体20の気孔率より高く設定することが望ましい。すなわち、膜電極接合体2のカソード側に配置される熱伝導体40及び板状体20は、ともにカソード16への空気の導入を阻害しないように通気性を有している。一方で、板状体20は保湿層としての機能を有することから、十分な保湿力を確保するためには板状体20の気孔率は25%程度である。これに対して、熱伝導体40は、板状体20よりもカソード側に位置しており、カソード16への空気の導入を阻害しないように、板状体20よりも高い気孔率に設定されている。
【0103】
また、熱伝導体40の気孔率は、その熱伝導率をコントロールするファクターの1つである。すなわち、気孔率が高いほど熱伝導体40の内部が気体成分で満たされ、放熱性能の低下を招く。つまり、気孔率が高いほど熱伝導率は低下する。このように、熱伝導体40には、熱伝導性を確保しつつ、通気性を確保することが要求され、両者を考慮すると、熱伝導体40の気孔率は50%以上であることが望ましい。
【0104】
なお、膜電極接合体2の面内の温度分布は、中央部2Cで高く、周辺部2Pで低い場合が多い。これに対応するため、熱伝導体40においては、その中央部での気孔率が周辺部より小さいことが望ましい。つまり、熱伝導体40において、膜電極接合体2の中央部2Cに対向する部分では比較的熱伝導率が高く、熱の移動を促進するとともに、周辺部2Pに対向する部分では比較的熱伝導率が低い半面、通気性が高く発電反応を促進することが可能となる。
【0105】
このとき、熱伝導体40は、その気孔率が中央部から周辺部に向かって連続的に大きくなるように構成しても良い。この場合、熱伝導体40の面内での熱伝導率が一定ではなく、中央部から周辺部にかけて連続的に大きくなる。
【0106】
≪第1実施例≫
以下に説明する各実施例及び比較例に係る燃料電池の膜電極接合体2は、図2などに示したように、4つの単セルCを備えた構成であり、各単セルCが集電体18によって電気的に直列に接続されている。
【0107】
(実施例1)
図4などに示したように、実施例1に係る燃料電池においては、熱伝導体40は、膜電極接合体2のカソード16側のみに配置されている。この熱伝導体40としては、カーボンペーパーを適用した。すなわち、膜電極接合体2の各単セルCのカソード16には、集電体18のカソード集電体18Cが重なる。カソード集電体18Cの上には、絶縁体50を介して熱伝導体40が配置されている。熱伝導体40の上には、板状体20を介してカバープレート21が配置されている。このため、カソード16で発生した熱は、カソード集電体18Cを介して熱伝導体40に伝わり、面内に拡散する。
【0108】
(実施例2)
図5などに示したように、実施例2に係る燃料電池においては、熱伝導体40は、膜電極接合体2のアノード13側のみに配置されている。この熱伝導体40としては、カーボンペーパーを適用した。すなわち、膜電極接合体2の各単セルCのアノード13には、集電体18のアノード集電体18Aが重なる。アノード集電体18Aの上には、絶縁体50を介して熱伝導体40が配置されている。このため、アノード13で発生した熱は、アノード集電体18Aを介して熱伝導体40に伝わり、面内に拡散する。
【0109】
(実施例3)
図6などに示したように、実施例3に係る燃料電池においては、熱伝導体40は、膜電極接合体2のアノード13側及びカソード16側の両方に配置されている。この熱伝導体40としては、カーボンペーパーを適用した。アノード13側およびカソード16側のそれぞれの構成は実施例1及び実施例2と同様である。
【0110】
(実施例4)
図7などに示したように、実施例4に係る燃料電池においては、熱伝導体40は、実施例3と同様に、膜電極接合体2のアノード13側及びカソード16側の両方に配置されている。この熱伝導体40としては、カーボンペーパーを適用した。なお、実施例1乃至3では、熱伝導体40は、全てのアノード13あるいは全てのカソード16の全面に対向するように配置されたが、実施例4では、熱伝導体40は、外形寸法Dの80%に相当する面積を有しており、一部のアノード13及び一部のカソードには対向していない。
【0111】
(実施例5)
実施例5に係る燃料電池においては、熱伝導体40は、実施例3と同様に、膜電極接合体2のアノード13側及びカソード16側の両方に配置されている。特に、この実施例5においては、熱伝導体40は、カーボンペーパーに代えて、金(Au)によって形成されている。
【0112】
より具体的には、図11に示すように、膜電極接合体2の各単セルCのカソード16には、集電体18のカソード集電体18Cが重なる。この場合、カソード集電体18Cは、格子状に形成され、カソード16の周縁部などと接触している。カソード集電体18Cの上には、図示しないPTFEによって形成された絶縁体を介して熱伝導体40が配置されている。この熱伝導体40は、カソード集電体18Cと同様の形状を有しており、貫通孔40Aが形成されている。熱伝導体40の上には、図示しない板状体を介してカバープレート21が配置されている。
【0113】
このような構成により、開口部21Aから導入された空気は、熱伝導体40の貫通孔40Aを通り、カソード集電体18Cを介してカソード16に取り込まれ、発電反応に利用される。
【0114】
一方で、膜電極接合体2の各単セルCのアノード13には、集電体18のアノード集電体18Aが重なる。この場合、アノード集電体18Aは、カソード集電体18Cと同様の格子状に形成され、アノード13の周縁部などと接触している。アノード集電体18Aの上には、図示しないPTFEによって形成された絶縁体を介して熱伝導体40が配置されている。この熱伝導体40にも、図11に示した例と同様に、貫通孔40Aが形成されている。
【0115】
このような構成により、燃料供給機構3から供給された燃料ガスは、熱伝導体40の貫通孔40Aを通り、アノード集電体18Aを介してアノード13に取り込まれ、発電反応に利用される。
【0116】
(比較例1)
比較例に係る燃料電池は、熱伝導体を備えていない。
【0117】
《性能評価》
上述した燃料電池について、性能評価を行った。この性能評価は、温度25℃、相対湿度50%の環境で行った。燃料収容部には純メタノールを注入し、一定電圧で発電を行い、出力電圧及び発電中のカソード側の表面温度をそれぞれ測定した。出力については、10時間での平均出力を算出した。また、表面温度については、図11に示したように、中央部、中間部、及び、端部の3箇所でそれぞれ測定し、10時間での平均温度を算出した。
【0118】
結果を図12に示す。すなわち、比較例1の平均出力を100としたとき、いずれの実施例においても、比較例1よりも高い出力が得られることが確認された。また、比較例1の中央部における平均温度を100としたとき、比較例1においては、中央部から端部にかけて大きな温度差(15%)が生じているのに対して、いずれの実施例においても中央部と端部とでの温度差は10%以下であり、比較例1よりも面内の温度分布が均一化できていることが確認された。
【0119】
次に、膜電極接合体2に組み合わせられる熱伝導体40のバリエーションについて説明する。
【0120】
図13に示すように、膜電極接合体2は、略長方形状に形成され、第1方向Xに平行な長辺2Lを有するとともに第2方向Yに平行な短辺2Sを有している。この膜電極接合体2は、4つの単セルCを備えている。各単セルCは、略長方形状に形成され、第1方向Xに平行な長辺CLを有するとともに第2方向Yに平行な短辺CSを有している。
【0121】
熱伝導体40は、膜電極接合体2のアノード13の側及びカソード16の側の少なくとも一方に配置されている。図13では、膜電極接合体2の上に熱伝導体40が重なった状態を図示している。すなわち、熱伝導体40は、単一の平板状に形成され、4つの開口部41を有している。各開口部41は、各単セルCの一部を露出するように形成されている。つまり、各開口部41は、単セルCの外形寸法よりも小さい略長方形状に形成され、単セルCの長辺CLと平行でありながら単セルCの長辺CLよりも短い長辺41Lを有するとともに、単セルCの短辺CSと平行でありながら単セルCの短辺CSよりも短い短辺41Sを有している。
【0122】
このような熱伝導体40は、各単セルCの周縁に沿った額縁状に形成されている。つまり、熱伝導体40は、単セルCを構成するアノード13の各々の周縁及びカソード16の各々の周縁の少なくとも一方に沿った額縁状に形成されている。
【0123】
また、この熱伝導体40においては、隣り合う単セルCの間の直上にスリット42が形成されている。つまり、熱伝導体40において、隣り合うアノード13の間及び隣り合うカソード16の間の少なくとも一方の直上には、スリット42が形成されている。このため、熱伝導体40は、複数の単セルCに跨ることがなく、各単セルCに独立に配置されている。但し、熱伝導体40の周縁では繋がっており、単一の熱伝導体40を構成している。
【0124】
図14に示した例の熱伝導体40は、図13に示した熱伝導体40と比較して、さらに、各単セルCの長辺CLに平行な第1方向Xに沿って直線状に形成された1本の第1延出部43が追加された点で相違している。この第1延出部43は、各単セルCの上に配置されている。換言すると、各単セルCの上の開口部41は、1本の第1延出部43により分割された2個のセグメントからなる。なお、第1延出部43が各単セルCの上に2本以上配置されても良い。
【0125】
図15に示した例の熱伝導体40は、図14に示した熱伝導体40と比較して、さらに、各単セルCの短辺CSに平行な第2方向Yに沿って直線状に形成された3本の第2延出部44が追加された点で相違している。これらの第2延出部44は、各単セルCの上に略等間隔に配置されている。換言すると、各単セルCの上の開口部41は、1本の第1延出部43及び3本の第2延出部44により分割された8個のセグメントからなる。つまり、熱伝導体40は、各単セルCの上において第1方向Xと第2方向Yとに交差する格子状に形成されている。なお、第2延出部44が各単セルCの上に1乃至2本配置されても良いし、4本以上配置されても良い。
【0126】
図16に示した例の熱伝導体40は、図15に示した熱伝導体40と比較して、さらにより多くの第2延出部44が追加された点で相違している。ここでは、15本の第2延出部44が各単セルCの上に略等間隔に配置されている。換言すると、各単セルCの上の開口部41は、1本の第1延出部43及び15本の第2延出部44により分割された略正方形状の32個のセグメントからなる。つまり、熱伝導体40は、各単セルCの上において第1方向Xと第2方向Yとに交差する格子状に形成されている。
【0127】
図17に示す例の膜電極接合体2は、略正方形状に形成され、第1方向X及び第2方向Yに平行な各辺の長さが略等しい。この膜電極接合体2は、4つの単セルCを備えている。これらの4つの単セルCは、第1方向X及び第2方向Yにそれぞれ2個ずつ並べた2×2のマトリクス状に配置されている。つまり、単セルCを構成するアノード13及びカソード16は、2×2のマトリクス状に配置されている。
【0128】
このような膜電極接合体2に適用される熱伝導体40は、略正方形状に形成され、膜電極接合体2のアノード13の側及びカソード16の側の少なくとも一方に配置されている。図17では、膜電極接合体2の上に熱伝導体40が重なった状態を図示している。すなわち、熱伝導体40は、単一の平板状に形成され、各単セルCの一部を露出する開口部41を有している。各単セルCの上の開口部41は、略正方形状の複数のセグメントからなる。つまり、熱伝導体40は、各単セルCの上において格子状に形成されている。
【0129】
なお、図16や図17に示したような熱伝導体40は、m及びnを1以上の整数としたときm×nのマトリクス状に配置された単セルCを備えた膜電極接合体2に対して適用可能である。
【0130】
図18に示した例の熱伝導体40は、図17に示した熱伝導体40と比較して、中央部から周辺部に向かって放射状に形成された点で相違している。すなわち、熱伝導体40は、各単セルCの一部を露出するとともに放射状に形成された開口部41を有している。
【0131】
なお、図18に示したような熱伝導体40は、m及びnを1以上の整数としたときm×nのマトリクス状に配置された単セルCを備えた膜電極接合体2に対して適用可能である。
【0132】
図19に示す例の膜電極接合体2は、略円形状に形成されている。この膜電極接合体2は、4つの単セルCを備えている。これらの4個の単セルCは、膜電極接合体2の中心から円周に向かって放射状に配置されている。つまり、各単セルC、あるいは、単セルCを構成するアノード13及びカソード16は、扇形状に形成されている。
【0133】
このような膜電極接合体2に適用される熱伝導体40は、略円形状に形成され、膜電極接合体2のアノード13の側及びカソード16の側の少なくとも一方に配置されている。図19では、膜電極接合体2の上に熱伝導体40が重なった状態を図示している。すなわち、熱伝導体40は、単一の平板状に形成され、各単セルCの一部を露出する開口部41を有している。各単セルCの上の開口部41は、放射状に形成されている。つまり、熱伝導体40は、各単セルCの上において放射状に形成されている。
【0134】
なお、図19に示したような熱伝導体40は、3個以下の単セルCを備えた膜電極接合体2や、5個以上の単セルCを備えた膜電極接合体2などに対して適用可能である。
【0135】
図20に示す例の膜電極接合体2は、略六角形状に形成されている。この膜電極接合体2は、6つの単セルCを備えている。これらの6個の単セルCは、膜電極接合体2の中央部から周辺部に向かって放射状に配置されている。つまり、各単セルC、あるいは、単セルCを構成するアノード13及びカソード16は、三角形状に形成されている。
【0136】
このような膜電極接合体2に適用される熱伝導体40は、略六角形状に形成され、膜電極接合体2のアノード13の側及びカソード16の側の少なくとも一方に配置されている。図20では、膜電極接合体2の上に熱伝導体40が重なった状態を図示している。すなわち、熱伝導体40は、単一の平板状に形成され、各単セルCの一部を露出する開口部41を有している。各単セルCの上の開口部41は、放射状に形成されている。つまり、熱伝導体40は、各単セルCの上において放射状に形成されている。
【0137】
なお、図20に示したような熱伝導体40は、外形が六角形状の膜電極接合体に限らず、Nを3以上の整数としたときN角形状の膜電極接合体2に対して適用可能である。
【0138】
ところで、本実施形態を別の観点から規定すると、以下の通りとなる。
【0139】
図21には、燃料電池1を構成する膜電極接合体2及び熱伝導体40の分解図が模式的に示されている。
【0140】
膜電極接合体2が略長方形状に形成されている場合、膜電極接合体2の長辺2Lに平行な第1方向Xの長さをLxとし、膜電極接合体2の短辺2Sに平行な第2方向Yの長さをLyとする。ここでは、単セルCの個数や配置にかかわらず、膜電極接合体2に形成された全ての単セルCを含む発電部2Xの第1方向Xに沿った長さをLxとし、発電部2Xの第2方向Yに沿った長さをLyとしている。
【0141】
このような膜電極接合体2に適用される熱伝導体40については、第1方向Xの熱伝導体40の熱伝導率λxと第1方向Xの熱伝導体40の断面積Sxとの積(λx×Sx)を熱伝導性Λxとし、第2方向Yの熱伝導体40の熱伝導率λyと第2方向Yの熱伝導体40の断面積Syとの積(λy×Sy)を熱伝導性Λyとする。
【0142】
この場合、膜電極接合体2と熱伝導体40とを組み合わせた燃料電池1においては、以下の関係を満たすように構成されている。
【0143】
(Λx×Lx)/(Λy×Ly)>1
この関係を満たす燃料電池1によれば、上述した本実施形態の効果が得られる。
【0144】
また、本実施形態をさらに別の観点から規定すると、以下の通りとなる。
【0145】
膜電極接合体2が略正方形状または略長方形状に形成され、この膜電極接合体2に形成された各単セルCの長手方向つまりアノード13の各々及びカソード16の各々の長手方向が第1方向Xに平行であり、複数の単セルCの並び方向つまり複数のアノード13の並び方向及び複数のカソード16の並び方向が第1方向Xに直交する第2方向Yに平行である場合、膜電極接合体2の第1方向Xの長さをLxとし、膜電極接合体2の第2方向Yの長さをLyとする。ここでも、膜電極接合体2に形成された全ての単セルCを含む発電部2Xの第1方向Xに沿った長さをLxとし、発電部2Xの第2方向Yに沿った長さをLyとしている。
【0146】
このような膜電極接合体2に適用される熱伝導体40については、第1方向Xの熱伝導体40の熱伝導率λxと第1方向Xの熱伝導体40の断面積Sxとの積(λx×Sx)を熱伝導性Λxとし、第2方向Yの熱伝導体40の熱伝導率λyと第2方向Yの熱伝導体40の断面積Syとの積(λy×Sy)を熱伝導性Λyとする。
【0147】
この場合、膜電極接合体2と熱伝導体40とを組み合わせた燃料電池1においては、以下の関係を満たすように構成されている。
【0148】
(Λx×Lx)/(Λy×Ly)>1
この関係を満たす燃料電池1によれば、上述した本実施形態の効果が得られる。
【0149】
以下に、第2実施例について説明する。
【0150】
≪第2実施例≫
(実施例6)
アノード用触媒粒子(Pt:Ru=1:1)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、アノード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層12としての多孔質カーボンペーパー(81mm×9.7mmの長方形)に塗布することにより、厚さが100μmのアノード触媒層11を得た。
【0151】
カソード用触媒粒子(Pt)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、カソード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをカソードガス拡散層15としての多孔質カーボンペーパーに塗布することにより、厚さが100μmのカソード触媒層14を得た。
【0152】
なお、アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、同一形状かつ同一の大きさであり、厚さも等しく、それぞれのガス拡散層に塗布されたアノード触媒層11及びカソード触媒層14も同一形状かつ同一の大きさである。
【0153】
上記したように作製したアノード触媒層11とカソード触媒層14との間に、電解質膜17として厚さが30μmで、含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(商品名:nafion膜、デュポン社製)を、4つのアノードガス拡散層12および4つのカソードガス拡散層15が、それぞれの長手方向が略平行で、その間隔が1.2mmとなるように並んで配置し、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向するように位置を合わせた状態で、ホットプレスを施すことにより、膜電極接合体2を得た。
【0154】
このように作成した膜電極接合体2は、集電体18によって挟持され、アノードガス拡散層12とアノード集電体18Aとが対向するとともに、カソードガス拡散層15とカソード集電体18Cとが対向している。すなわち、カソード集電体18Cとして、カソードガス拡散層15の上に金箔を積層した。また、アノード集電体18Aとして、アノードガス拡散層12の上に金箔を積層した。これらのアノード集電体18A及びカソード集電体18Cは、上記した4対のアノード触媒層11とカソード触媒層14とが電気的に直列に接続されるように形成されている。
【0155】
膜電極接合体2の電解質膜17と集電体18との間には、アノード側及びカソード側の双方について、シール部材19として、それぞれ幅が2mmのゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0156】
カソード集電体18Cの上には、絶縁体50として、厚さが20μmで気孔率68%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製微多孔膜を積層した。更に、この絶縁体50の上には、熱伝導体40として、厚さが50μmのグラファイトシート(グラフテック社製;型番SS400−0.05)を図13に示したような形状に切り抜き、積層した。この熱伝導体40であるグラファイトシートは、平面方向(図13に示した第1方向Xおよび第2方向Y)の熱伝導率λplが400W/mKであり、その厚み方向(図13の第1方向X及び第2方向Yに直交するZ方向)の熱伝導率λtが3.5W/mKである。
【0157】
この実施例6においては、図13に示した熱伝導体40の第1方向Xの熱伝導性Λx及び第2方向Yの熱伝導性Λyと、膜電極接合体2の第1方向Xの長さLx及び膜電極接合体2の第2方向Yの長さLyとから求められる(Λx×Lx)/(Λy×Ly)の値は、4.47である。
【0158】
熱伝導体40の上には、板状体20として、厚さが0.75mmであり、透気度が3.0秒/100cm(JIS P 8117:2009に規定の測定方法による)であり、透湿度が3000g/(m・24h)(JIS L 1099:2006 A−1に規定の測定方法による)のポリエチレン製多孔質フィルムを、長さ85mm、幅46.6mmの長方形に切り、積層した。外気からカソード16に供給される空気は、この板状体20を透過することとなる。
【0159】
この板状体20の上には、カバープレート21として、外形が90mm×48mmの長方形であり、厚さが0.3mmのステンレス板(SUS304)を積層した。このカバープレート21には、一辺の長さが3.5mmの正方形の120個の開口部21Aが形成されている。
【0160】
温度が25℃、相対湿度が50%の環境の下、上記したように作成した燃料電池1に、純度99.9重量%の純メタノールを供給した。また、定電圧電源を接続して、燃料電池1の出力電圧が直列に接続した4対の単セルの中の1対あたり0.35Vで一定になるように、燃料電池1に流れる電流を制御し、このとき、燃料電池1から得られる出力密度を計測した。
【0161】
ここで、燃料電池1の出力密度(mW/cm)とは、燃料電池1に流れる電流密度(発電部の面積1cm当りの電流値(mA/cm))に燃料電池1の出力電圧を乗じたものである。また、発電部の面積とは、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向している部分の面積である。本実施例では、アノード触媒層11とカソード触媒層14の面積が等しく、かつ完全に対向しているので、発電部の面積はこれらの触媒層の面積に等しい。
【0162】
また、図11に示したように、カバープレート21の中央部と端部の表面にそれぞれ熱電対を取り付け、この2点間の温度差を測定した。
【0163】
(実施例7)
熱伝導体40の形状を図15のようにした以外は、実施例6と同様である。この実施例7では、(Λx×Lx)/(Λy×Ly)の値は6.21である。
【0164】
(実施例8)
熱伝導体40の形状を図16のようにした以外は、実施例6と同様である。この実施例7では、(Λx×Lx)/(Λy×Ly)の値は1.53である。
【0165】
(比較例2)
いずれの形状の熱伝導体40も設けない以外は、実施例6と同様である。
【0166】
図22には、以上の結果をまとめて示したものである。なお、燃料電池1の出力密度を計測した結果と、カバープレート21の表面における中央部と端部との温度差を計測した結果は、それぞれ比較例2の値を100とした相対値で示してある。実施例6乃至8のいずれにおいても、比較例2より温度分布が均一化され、しかも、比較例2よりも高い出力密度が得られることが確認された。
【0167】
以上説明したように、この実施の形態によれば、膜電極接合体の面内での温度の分布のばらつきを緩和し、発電反応に必要な物質の授受の阻害因子を取り除き、安定して高い出力を得ることが可能であるとともに長寿命化が可能な燃料電池を提供することができ、さらには、その応用機器を提供することもできる。
【0168】
上述した各実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、燃料を面方向に分散させつつ供給する燃料供給部31は、特に燃料濃度が濃い場合に有効である。このため、各実施形態の燃料電池1は、濃度が80wt%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。したがって、各実施形態は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液や純メタノールを液体燃料として用いた燃料電池1に好適である。
【0169】
さらに、上述した各実施形態は、本発明をセミパッシブ型の燃料電池1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、内部気化型の純パッシブ型の燃料電池に対しても適用可能である。
【0170】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、MEAに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、全てが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除したりする等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0171】
1…燃料電池 2…膜電極接合体 3…燃料供給機構
11…アノード触媒層 12…アノードガス拡散層 13…アノード(燃料極)
14…カソード触媒層 15…カソードガス拡散層 16…カソード(空気極)
17…電解質膜 18…集電体
20…板状体(保湿層)
21…カバープレート
40…熱伝導体
50…絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜の一方の面に間隔をおいて配置された複数の燃料極と、前記電解質膜の他方の面に前記燃料極のそれぞれと対向するように間隔をおいて配置された複数の空気極と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記複数の空気極の前記電解質膜側とは反対の面側及び前記複数の燃料極の前記電解質膜側とは反対の面側の少なくとも一方に配置された熱伝導体と、
を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
さらに、前記熱伝導体と前記膜電極接合体との間に集電体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
さらに、前記熱伝導体と前記集電体との間に配置され通気性を有する絶縁体を備えたことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記熱伝導体は、多孔質性あるいは貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記熱伝導体は、その平面方向の熱伝導率λplが厚み方向の熱伝導率λtよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記熱伝導体において、熱伝導率λplと熱伝導率λtとの比λpl/λtが10以上であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記熱伝導体の気孔率は、50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記熱伝導体において、その中央部での気孔率が周辺部より小さいことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記熱伝導体は、隣り合う前記燃料極及び隣り合う前記空気極の少なくとも一方に跨って配置されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記熱伝導体において、隣り合う前記燃料極の間及び隣り合う前記空気極の間の少なくとも一方の直上にスリットが形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記熱伝導体は、前記燃料極の各々の周縁及び前記空気極の各々の周縁の少なくとも一方に沿った額縁状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記燃料極及び前記空気極は略長方形状に形成され、
前記熱伝導体は、前記燃料極の各々の長辺に平行な方向及び前記空気極の各々の長辺に平行な方向の少なくとも一方に沿って形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記熱伝導体は、格子状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項14】
前記燃料極及び前記空気極は、m及びnを1以上の整数としたときm×nのマトリクス状に配置されたことを特徴とする請求項13に記載の燃料電池。
【請求項15】
前記熱伝導体は、中央部から周辺部に向かって放射状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項16】
前記燃料極及び前記空気極は、放射状、または、m及びnを1以上の整数としたときm×nのマトリクス状に配置されたことを特徴とする請求項15に記載の燃料電池。
【請求項17】
前記膜電極接合体は略長方形状に形成され、前記膜電極接合体の長辺に平行な第1方向の長さをLx、前記膜電極接合体の短辺に平行な第2方向の長さをLy、前記第1方向の前記熱伝導体の熱伝導率λxと前記第1方向の前記熱伝導体の断面積Sxとの積(λx×Sx)を熱伝導性Λxとし、前記第2方向の前記熱伝導体の熱伝導率λyと前記第2方向の前記熱伝導体の断面積Syとの積(λy×Sy)を熱伝導性Λyとしたとき、
(Λx×Lx)/(Λy×Ly)>1
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項18】
前記燃料極の各々及び前記空気極の各々の長手方向が第1方向に平行であり、前記複数の燃料極の並び方向及び前記複数の空気極の並び方向が第1方向に直交する第2方向に平行である前記膜電極接合体は、略正方形状または略長方形状に形成され、
前記膜電極接合体の第1方向の長さをLx、前記膜電極接合体の第2方向の長さをLy、前記第1方向の前記熱伝導体の熱伝導率λxと前記第1方向の前記熱伝導体の断面積Sxとの積(λx×Sx)を熱伝導性Λxとし、前記第2方向の前記熱伝導体の熱伝導率λyと前記第2方向の前記熱伝導体の断面積Syとの積(λy×Sy)を熱伝導性Λyとしたとき、
(Λx×Lx)/(Λy×Ly)>1
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項19】
前記熱伝導体は、グラファイトシートであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−97928(P2010−97928A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159976(P2009−159976)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】