説明

燃焼設備

【課題】サイクル時間中におけるON時間の割合が比較的高くなる制御領域において、CMを使用する制御形態を採用する場合にも、温度調節出力と実インプットとの間における良好な比例関係を実現でき、火炎検知器による誤検知の可能性を低く抑えることができるとともに、機器の寿命の点でも好ましい燃焼設備を得る。
【解決手段】炉内の熱負荷に応じて、単位サイクル時間内における燃焼のON時間とOFF時間とを設定するとともに、単位サイクル時間周期で燃焼を繰り返す燃焼制御パターンを設定するパターン設定手段と、パターン設定手段にて設定された燃焼制御パターンで、バーナの燃焼を制御する制御手段とを備える燃焼設備を構成するに、OFF時間Lが基準最短OFF時間Lmin以上となり、且つ、サイクル時間Tが最長サイクル時間Tmax以下となるように、バーナの運転制御用の前記燃焼制御パターンを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼により炉内を加熱するバーナと、
前記炉内の熱負荷に応じて、単位サイクル時間内における燃焼のON時間HとOFF時間Lとを設定するとともに、前記単位サイクル時間周期で燃焼を繰り返す燃焼制御パターンを設定するパターン設定手段と、
前記パターン設定手段にて設定された燃焼制御パターンで、前記バーナの燃焼を制御する制御手段とを備える燃焼設備に関する。
【背景技術】
【0002】
このような燃焼設備の代表例は、加熱炉、熱処理炉等の工業炉であり、炉温の均一性・制御応答性の確保、設備に備えられるバーナの寿命確保等が希求されている。
【0003】
発明者らは、燃焼設備として特許文献1に記載の技術を提案した。一方、特許文献2には、同様な燃焼設備において採用可能な燃焼制御方法が提案されている。
【0004】
これらの文献に開示の技術は、炉内温度の制御をバーナのON−OFF制御により実行する技術であり、これらの技術では、炉に設けられた温度調節計の出力信号(%)によりサイクル時間T内のON時間又はOFF時間を設定し、設定された燃焼制御パターンに基づいてバーナをON−OFF制御する。この制御は、実質的に時間比例制御となる。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、燃焼制御パターンのパラメータとして、設定サイクル時間(本発明におけるサイクル時間)が含まれ、パターン設定手段は、選択した燃焼制御パターンにおいて、炉内の熱負荷に応じて、熱負荷が設定値以上のときは、バーナの燃焼時間(本発明におけるON時間)を一定に維持する形態で、熱負荷に応じて設定サイクル時間を調節し、並びに、熱負荷が設定値よりも小のときは、設定サイクル時間を一定に維持する形態で、熱負荷に応じて、バーナの燃焼時間を調節する。このような制御形態を採用することにより、熱負荷が比較的低い範囲で、熱負荷に応じた燃焼制御を実現できる。
【0006】
特許文献2に記載の技術では、温度調節計の出力の範囲を区分し、各区分に対応して最大OFF時間を予め設定しておき、通常のサイクル時間と出力信号により算出されるOFF時間が上記区分に対応する最大OFF時間を越えた場合には、通常のサイクル時間に基づいた制御に代え、当該出力信号に対応する制御において最大OFF時間を設定した場合のサイクル時間を算出して、算出したサイクル時間と前記最大OFF時間に基づいてバーナのON−OFF制御を行う。
このような制御形態を採用することにより、OFF時間が最大OFF時間を越えた場合(最小ON時間が最小値を越えて短くなった場合、即ち、低燃焼側で)に、OFF時間を最大OFF時間に設定してサイクル時間を算出し、最小ON時間を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3527035号公報
【特許文献2】特許4093513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上説明した二つの特許文献において、これらの特許文献は、ともに、低熱負荷側の問題を解決するものであるため、以下、特許文献1に記載の発明を中心に本願の課題を説明する。
【0009】
解決すべき課題1
特許文献1に記載の技術は時間比例制御の一種であり、ON時間を固定したままサイクル時間を可変とすることで機器寿命と制御応答性向上の両立を図ったものである。この技術では、炉圧の急激な変動を嫌う理由から、コントロールモータ(以下CMと略記することがある)を用いた流量制御を用いることが通常である。
しかし、このサイクル時間可変手法では、ON時間を固定しておくと、出力が50%を超えた時点で、OFF時間がON時間を下回ることになる。そして、さらに、熱負荷が増加した場合、OFF時間がコントロールモータ動作時間を下回る状態が発生する。このように、OFF時間がコントロールモータ動作時間を下回ると、実際に期待したインプットとは異なるインプットとなり、出力特性が歪むことでハンチングが起こりやすくなる。
【0010】
この状況を、図5(b)に基づいて説明する。
図5は、温度調節計の温度調節出力(横軸:全サイクル時間でON時間となる場合の温度調節出力を100%とした場合の比率%)と、バーナで実現されるインプット(縦軸:全サイクル時間でON時間となる場合のインプットを100%とした場合の比率%)との関係を示す図である。
この図から判明するように、理想的な挙動では、同図に実線で示すように、温度調節出力に対して線形にインプットが増加してインプット100%に達するべきであるが、実際には、上記CMの使用により温度調節出力が50%より高い領域では、実インプットが理想的な挙動に対してインプット増加側に移動し、温度調節出力より高い値となっている。
【0011】
解決すべき課題2
課題1と同様に、ON時間固定の方式では、図6(b)に示す様に出力が高くなるに従ってOFF時間が短くなる。例えば、ON時間10秒で出力が80%の時、サイクル時間は12.5秒、OFF時間は2.5秒となる。この2.5秒の間にバーナOFF→再点火の動作が行われることになるが、この間に残火が消えなかった場合には、炉に備えられる火炎検出器が誤検知を起こす可能性が発生すると考えられる。
【0012】
解決すべき課題3
課題2の条件では、サイクル時間が12.5秒と極めて短く、機器の寿命を著しく低下させる。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、サイクル時間中におけるON時間の割合が比較的高くなる制御領域において、例えばコントロールモータにより開閉制御される弁を使用する制御形態を採用する場合にも、温度調節出力と実インプットとの間における良好な比例関係を実現でき、火炎検知器による誤検知の可能性を低く抑えることができるとともに、機器の寿命の点でも好ましい燃焼設備を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る
燃焼により炉内を加熱するバーナと、
前記炉内の熱負荷に応じて、単位サイクル時間内における燃焼のON時間HとOFF時間Lとを設定するとともに、前記単位サイクル時間周期で燃焼を繰り返す燃焼制御パターンを設定するパターン設定手段と、
前記パターン設定手段にて設定された燃焼制御パターンで、前記バーナの燃焼を制御する制御手段とを備える燃焼設備の特徴構成は、
前記パターン設定手段は、前記OFF時間Lが基準最短OFF時間Lmin以上となり、且つ、前記サイクル時間Tが最長サイクル時間Tmax以下となるように、前記バーナの運転制御用の前記燃焼制御パターンを設定する点にある。
【0015】
この燃焼設備においては、基準となる最短OFF時間Lminが予め設定されており、この基準最短OFF時間を、例えば前記コントロールモータの動作時間との関係で、弁が完全閉状態から完全開状態に到るまでの所要時間に対して大きくできる。
一方、先にも示したように、本発明において解決すべき課題は、熱負荷が増大し、単一サイクル時間内におけるON時間の割合を増加させる必要がある状況で発生するが、この状態で、サイクル時間を一定とした場合、OFF時間が順次短くなり、燃料供給の開閉を制御する開閉弁の開閉が追いつかなくなり、先に説明した理想的な挙動と実際のインプットとの間に乖離が発生する。
【0016】
図7を使用してこの課題が発生する理由を説明する。
同図において、上側に示されている(a)が、ON時間とOFF時間とが同一となる出力50%時の挙動を示す図である。上側に瞬時に弁の開閉が可能な電磁弁開度の状況を示し、下側に、弁の開閉に所定時間(図示する場合は10秒)を要するコントロールモータにより開閉制御される弁の開度状況を示している。
この図から判明するように、出力50%で、完全閉状態から完全開状態までの所要時間がON時間と同一、且つ完全開状態から完全閉状態までの所要時間がOFF時間と同一の場合は、弁の開閉を完全閉状態と完全開状態との間で、確実に行えることが判る。
即ち、この状態では、燃焼量の制御性に問題が発生することはない。
【0017】
一方、同図において、下側に示されている(b)が、ON時間がOFF時間に対して増加する出力70%時の挙動を示す図である。この図でも、上側に瞬時に弁の開閉が可能な電磁弁開度の状況を示し、下側に、弁の開閉に所定時間(図示する場合は10秒)を要する弁の開度状況を示している。
この図から判明するように、出力70%で、完全閉状態から完全開状態までの所要時間、及び完全開状態から完全閉状態までの所要時間が、OFF時間に対して短くなる場合は、完全閉状態に到達する前に開動作が開始されることとなり、結果的に、弁が開となっている時間が、本来の制御目標とは乖離し、制御性が悪いことが判る。
【0018】
従って、熱負荷が大きくなることによって、サイクル時間内におけるOFF時間が不可避的に短くなる状態にあっても、そのOFF時間に、本願に言う「基準最短OFF時間」なる基準を設け、この時間よりOFF時間が短くならないようにすれば、問題が解消する。
【0019】
この場合、OFF時間を基準最短OFF時間に固定しておくと、熱負荷の上昇に従ってON時間が長くなるため、結果的にサイクル時間が長くならざる得なくなる。
このようにサイクル時間が長くなると、本来サイクル時間を設定して、このサイクル時間で燃焼制御パターンを繰り返すという目的を逸脱することとなり、制御の応答性を確保できない。
そこで、サイクル時間に関して、その上限である最大サイクル時間なる概念を導入し、基準最小OFF時間と最大サイクル時間との両方の要件を満たす条件で、燃焼制御パターンにおけるOFF時間、ON時間及びサイクル時間を設定する。
【0020】
このような制限を設けることで、結果的に、弁の開閉に時間を要する場合にも、弁の完全閉状態から完全開状態、あるいは、その逆の操作において、確実に弁の操作を実現し、熱負荷が大きくなった場合にも、温度調節出力に対する弁を介して炉内に投入されるインプット量を適切に制御できる。
【0021】
上記のように、パターン設定手段により燃焼制御パターンを設定する場合に、以下の手順で設定することが好ましい。
即ち、前記基準最短OFF時間Lminと、前記炉内の熱負荷が大きくなるほど前記ON時間Hが長くなる関係にある、前記サイクル時間T中の前記ON時間Hの比(H/T)であるON時間比Pとから、前記炉内の熱負荷に応じた仮の前記燃焼制御パターン(He,Le,Te=He+Le)を導出し、
このようにして導出された仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)における仮のOFF時間Leが前記基準最短OFF時間Lmin以上であり、且つ、前記仮の燃焼制御パターンにおける仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmax以下であるとき、求められた前記仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)を前記運転制御用の燃焼制御パターンとして設定する。
【0022】
このような設定手順では、基準とする基準最短OFF時間Lminとの関係で、ON時間比Pから、ON時間He、OFF時間Le及びその合計値であるTe=He+Leからなる仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)を、先ず導出する。
そして、本発明の要件である、基準最短OFF時間Lmin、最大サイクル時間Tmaxとの関係を確認する。ここで、OFF時間Lに関しては、その基準最短OFF時間Lminに関する要件を満たすように選択することとなるため、サイクル時間Tの要件を確認する。
要件を満たす場合は、仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)をそのまま採用することで、結果的に、熱負荷が大きい場合にあっても、本発明において必要とする基準最短OFF時間Lmin及び最大サイクル時間Tmaxについての両要件を満たせ、温度調節出力と炉に供給されるインプットの関係を良好に保つことが可能となる。
【0023】
さらに具体的な、パターン設定手段による燃焼制御パターンを設定手法としては、以下の構成を採用できる。
熱負荷が高い場合
前記ON時間比Pが0.5より大きい場合に、
前記パターン設定手段は、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)を、前記基準最短OFF時間をLminとして、Te=Lmin/(1−P)として求め、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより短い場合に、サイクル時間Tを仮のサイクル時間Teとし、ON時間HをTe×Pとして設定する。
この手順を採用することにより、ON時間TをOFF時間Lより長くとる必要がある場合、OFF時間Lを基準最短OFF時間Lminとして保持し、この基準最短OFF時間Lminに対応する仮のサイクル時間(Te=He+Le)をサイクル時間Tとし、ON時間Hも適切に設定することが可能となる。
【0024】
一方、前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより長くなる場合は、サイクル時間Tを最長サイクル時間Tmaxとし、OFF時間LをTmax×(1−P)として設定する。
この場合は、温度調節出力と実インプットとの整合性を犠牲にして、最長サイクル時間を守ることにより制御応答性を確保できる。
【0025】
熱負荷が低い場合
逆に、前記ON時間比Pが0.5より小さい場合に、
前記パターン設定手段は、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)を、前記基準最短ON時間をHminとして、Te=Hmin/Pとして求め、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより短い場合に、サイクル時間Tを仮のサイクル時間Teとし、OFF時間HをLe×(1−P)として設定する。
この手順を採用することにより、ON時間TをOFF時間Lより短くとる必要がある場合、ON時間を基準最短ON時間Hminとして保持し、この基準最短ON時間Hminに対応する仮のサイクル時間(Te=He+Le)をサイクル時間Tとし、OFF時間Lも適切に設定することが可能となる。
【0026】
一方、前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより長くなる場合は、サイクル時間Tを最長サイクル時間Tmaxとし、ON時間HをTmax×Pとして設定することができる。
この場合は、温度調節出力と実インプットとの整合性を犠牲にして、最長サイクル時間を守ることにより制御性応答を確保できる。
【0027】
これまで構成してきた燃焼設備において、
前記バーナに備えられる開閉弁がコントロールモータにより開閉動作制御されるコントロールモータ制御開閉弁であり、
前記基準最短OFF時間Lminが、当該開閉弁が完全閉状態と完全開状態との一方の状態から他方の状態に状態移行するのに要する時間である状態移行時間に関して、当該状態移行時間以上で当該状態移行時間の1.05倍の時間以下の時間に設定されていることが好ましい。
バーナに備えられる開閉弁として、その完全閉状態と完全開状態との間の状態移行に比較的時間を要する弁を採用する場合も、温度調節出力と実インプットとの関係を本来求められている関係に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】燃焼設備の構成を示す図。
【図2】異なった熱負荷に於ける燃焼制御パターンを示す図
【図3】燃焼制御パターンの構成の説明図
【図4】異なった熱負荷に於ける燃焼制御パターンの設定フローを示す図
【図5】本発明と従来技術とにおける温度調節出力とインプットの関係を示す図
【図6】本発明と従来技術とにおける温度調節出力80%における燃焼制御パターンを示す図
【図7】従来技術の課題が発生する原因の説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、ボックス式熱処理炉を加熱する燃焼設備に適用した本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、開閉扉12を備えた箱状の炉体11の炉内13を加熱する4台のバーナ4を、炉体11の天井部に分散配置して設けてある。バーナ4夫々の制御を行う制御部7と、その制御部7に各種の制御指令を送る操作盤8を設けてある。そして、炉内13内に処理物を配置して、制御部7により4台のバーナ4を制御して、炉内13を所定の目標加熱条件に加熱し、処理物の加熱処理を行うように構成してある。
【0030】
バーナ4夫々には、燃料ガス供給路9と、燃焼用空気供給路10を接続してある。燃料ガス供給路9には、バーナ4への燃料ガスの供給を断続するガス用開閉弁Vgを介装し、燃焼用空気供給路10には、バーナ4への燃焼用空気の供給を断続する空気用開閉弁Vaを介装してある。尚、詳細な説明は省略するが、バーナ4には着火用のサブバーナ(図示せず)を備えてある。ガス用開閉弁Vg及び空気用開閉弁VaはコントロールモータCMによりその開閉が制御される開閉弁であり、バーナ4への燃料ガス及び燃焼用空気の供給を断続することにより、バーナ4を燃焼させたり、燃焼を停止させたりできるように構成してある。
【0031】
尚、バーナ4夫々は、同様に構成してあるが、バーナ4夫々の位置関係を明確にするために、開閉扉12に近い位置に位置するものから順に、4m,4n,4o,4pと夫々記載する。
【0032】
次に、燃焼設備の制御構成について説明する。この燃焼設備では、炉内13の全体を一つのゾーンとして制御するように構成してあり、例えば、加熱処理の温度範囲が870°C未満である焼戻モード、及び、加熱処理の温度範囲が870°C以上である焼入モード等の夫々の運転モードでの運転が可能なように構成してある。
【0033】
操作盤8には、目標温度を設定する温度設定部81、運転モードの切り換えを自動で行う自動モードと手動で行う手動モードとに切り換える自動/手動切り換えスイッチ82及び、運転開始/停止スイッチ83等を備えてある。
【0034】
制御部7について、説明を加える。
制御部7には、炉内13の温度を検出する温度検出手段としての温度センサT3の検出温度と温度設定部81にて設定された目標温度との偏差に基づいて、温度調節出力を出力する温度調節手段71と、各バーナ4の夫々についての時間経過に伴う燃焼条件を定めた燃焼制御パターンを設定するパターン設定手段72と、そのパターン設定手段72にて設定された燃焼制御パターンで、4台のバーナ4を制御する制御手段73を備えてある。尚、温度調節手段71は、前記偏差が大になるほど、大なる加熱出力を要求すべく、大なる温度調節出力を出力する。
【0035】
パターン設定手段72は、バーナの燃焼を制御するための燃焼制御パターンの基本情報を記憶する記憶手段72aと、上記基本情報に基づいて各バーナに対する燃焼制御パターンを生成・指令するパターン指令手段72bを備えて構成してあり、制御手段73は、パターン指令手段72bの指令情報に基づいて、指令された燃焼制御パターンで4台のバーナ4をそれぞれ制御する。
【0036】
記憶手段72aに記憶させる基本情報には、4台のバーナ4を燃焼させる順序、即ち、特定のサイクル時間内においてバーナが燃焼を開始する燃焼開始タイミング(特定のサイクル時間の開始タイミングから燃焼開始タイミングまでの時間差(以下、「開始タイミング設定値」とよび、図3にtdとして記載した)が含まれるとともに、サイクル時間Tに関して許容できる最長の時間である最長サイクル時間Tmax、ON時間Hに関して許容できる最短の時間の基準値である基準最短ON時間Hmin及び、OFF時間Lに関して、その許容できる最短の時間の基準値である基準最短OFF時間Lminが含まれている。
これらの基本情報を使用して、各バーナの燃焼制御パターンを設定する設定手法に関しては、後に詳細に説明する。
【0037】
この制御部7では、パターン設定手段72は、温度調節出力、即ち熱負荷が大きくなるに従って、大きな値とされる温度調節出力に応じて、サイクル時間T、ON時間H、OFF時間Lから成る燃焼制御パターンを生成する。ここで、ON時間Hの開始タイミングは、決定されたサイクル時間T内において、先に説明した開始タイミング設定値tdを使用して調整される。本発明にあっては、熱負荷に応じてサイクル時間Tが変わるが、この開始タイミング設定値tdは、各バーナについて、例えば、最長サイクル時間Tmaxに対応する標準値として設定されており、サイクル時間Tが短縮された場合は、その比(T/Tmax)に比例して短縮して適用される。
【0038】
以下、パターン指令手段72bにおいて主に実行される、燃焼制御パターンの生成に関して説明する。以下の説明では、本願独特の、熱負荷(温度調節出力)に対するサイクル時間T、ON時間H、OFF時間Lの設定方法を説明するのに、特定単一のバーナを対象とした場合の、熱負荷に対する燃焼制御パターン(サイクル時間T、ON時間H、OFF時間Lの組合せとして成立する)の決定方法について、まず説明する。燃焼制御パターンが決定された後に、先に説明した、バーナ間における燃焼順及び開始タイミング設定値tdに基づいて、燃焼制御パターン内におけるON時間Hの開始タイミングを調整することとなる。
【0039】
図3は、本発明における、所定の燃焼制御パターンにおける、サイクル時間T、ON時間H、OFF時間Lの関係を示す図であり、ON時間HとOFF時間Lとの和としてサイクル時間Tが成立する。この燃焼制御パターンは、順次、入力されてくる熱負荷(温度調節出力)に応じて設定される。複数のバーナ間において、特定の燃焼制御パターンにおけるサイクル時間は同一とされる。
【0040】
本願に係る燃焼設備にあっては、各バーナの燃焼に関して、最長サイクル時間Tmax、基準最短ON時間Hmin及び基準最短OFF時間Lminが設定されている。
ここで、最長サイクル時間Tmaxは、制御応答性を含む制御性を考えた場合に許容できる最大のサイクル時間であり、基準最短ON時間Hmin、及び基準最短OFF時間Lminは、前者が熱負荷が小さい場合にON時間側で許容できる最短時間の基準値であり、後者が、熱負荷が大きい場合にOFF時間側で許容できる最短時間の基準値である。とくに、後者の最短時間の基準値は、本願独特であり、先に図5(b)で説明したような高熱負荷側で問題となる実インプットの温度調節出力からのずれを吸収するために設定される時間であり、先に、図7で説明したように、開閉弁に備えられるコントロールモータCMによる当該弁の完全開状態と完全閉状態との間で弁を開閉するのに要する時間(図7に示す場合は10秒)と同一もしくは、その時間より長くその時間に近い時間(例えば、完全開状態と完全閉状態との間で弁を制御するのに要する時間の1.05倍の時間)として設定される。
図2、図6(a)に示す実施例では、全てのバーナについて最長サイクル時間Tmaxを同一60秒とし、基準最短ON時間Hminを10秒、基準最短OFF時間Lminを10秒としている。
【0041】
パターン制御手段72は、基準最短ON時間Hmin若しくは基準最短OFF時間Lminと、炉内の熱負荷が大きくなるほどON時間Hが長くなる関係にある、サイクル時間T中のON時間Hの比(H/T)であるON時間比Pとから、前記炉内の熱負荷に応じた仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te=He+Le)を導出するように構成されている。ここで、ON時間比Pは、0〜1の範囲で、先に説明した温度調節出力(熱負荷)に応じて、熱負荷が大きな場合にON時間比Pが大きくなるように決められる。ON時間比P:0は、加熱を行わない0%出力に対応し、ON時間比P:1は、100%出力で加熱を行う場合に対応する。
【0042】
図4は、パターン設定手段72による燃焼制御パターン(H,L,T)の設定フローを示したものである。
パターン設定手段72がON時間比Pに対応する温度調節出力を受取ると、P=温度調節出力/100として、このON時間比Pが0.5より大きいか否かを比較する(ステップ#1)。ここで、ON時間比Pが0.5より大きい場合は、ON時間Hをサイクル時間Tの半分より長い側に設定することを意味し、小さい場合は、OFF時間Lをサイクル時間Tの半分より短い側に設定することを意味する。
【0043】
〔熱負荷大対応〕
以下、先ず、本願が最も問題とする、熱負荷の高い側、換言すると、ON時間比Pが0.5より大きい側の設定方法に関して説明する。図4において、同図左側のフローである。この処理では、ON時間比Pが大きくなるに従って、サイクル時間Tが長くなるため、最長サイクル時間Tmaxに注目しながら、先に説明した基準最短OFF時間Lminをできるだけ守れるように、燃焼制御パターン(H,L,T)を設定する。
【0044】
まず、仮のサイクル時間(Te=He+Le)を、基準最短OFF時間Lminから、Te=Lmin/(1−P)として求める(ステップ#2)。
引き続いて、ステップ#2で求められた仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより長いか否かを比較する(ステップ#3)。
【0045】
ここで、仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより長い場合には(ステップ#3:Yes)、サイクル時間Tを最長サイクル時間Tmaxとし、OFF時間LをTmax×(1−P)として設定する(ステップ#4)。この条件で、当然、ON時間HはTmax×Pとされる。このようにして燃焼制御パターンが設定される領域をZU1として、図5(a)に示した。
【0046】
一方、仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより短い場合には(ステップ#3:No)、サイクル時間Tは、予め求めてある仮のサイクル時間(Te=He+Le)とする(ステップ#5)。この場合、ON時間Hは当然Te×Pとされ,OFF時間Lは、先に選択した条件から基準最短OFF時間をLminとなる。このようにして燃焼制御パターンが設定される領域をZU2として、図5(a)に示した。
【0047】
〔熱負荷小対応〕
次に、熱負荷の低い側、換言すると、ON時間比Pが0.5より小さい側の設定方法に関して説明する。図4において、同図右側のフローである。この処理に関しては、ON時間比Pが小さくなるに従って、OFF時間比(1−P)が大きくなり、同様に、サイクル時間Tが長くなるため、最長サイクル時間Tmaxに注目しながら、先に説明した基準最短ON時間Hminを守れるように、燃焼制御パターン(H,L,T)を設定する。
【0048】
この右側の処理にあっては、仮のサイクル時間(Te=He+Le)を、基準最短ON時間Hminから、Te=Hmin/Pとして求める(ステップ#6)。
引き続いて、ステップ#6で求められた仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより長いか否かを比較する(ステップ#7)。
【0049】
ここで、仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより長い場合には(ステップ#7:Yes)、サイクル時間Tを最長サイクル時間Tmaxとし、ON時間HをTmax×Pとして設定する(ステップ#9)。ここで、OFF時間Lは当然Tmax×(1−P)とされる。このようにして燃焼制御パターンが設定される領域をZL1として、図5(a)に示した。
【0050】
一方、仮のサイクル時間(Te=He+Le)が最長サイクル時間Tmaxより短い場合には(ステップ#7:No)、サイクル時間Tは、予め求めてある仮のサイクル時間(Te=He+Le)とする(ステップ#8)。この場合、OFF時間Lは当然Te×(1−P)とされ,ON時間は、先に選択した条件から基準最短ON時間をHminとなる。このようにして燃焼制御パターンが設定される領域をZL2として、図5(a)に示した。
【0051】
このような燃焼制御パターン(H,L,T)の設定手法をとる場合は、OFF時間Lが基準最短OFF時間Lmin以上となり、且つ、サイクル時間Tが最長サイクル時間Tmax以下となるように、バーナの運転制御用の燃焼制御パターンを設定していることとなり、具体的には、基準最短ON時間Hmin若しくは基準最短OFF時間Lminと、炉内の熱負荷が大きくなるほどON時間Hが長くなる関係にある、サイクル時間T中のON時間Hの比(H/T)であるON時間比P(換言するとOFF時間比(1−P))とから、炉内の熱負荷に応じた仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te=He+Le)を導出し、仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)における仮のOFF時間Leが基準最短OFF時間Lmin以上であり、且つ、仮の燃焼制御パターンにおける仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmax以下であるとき、仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)を運転制御用の燃焼制御パターンとして設定することとなっている。
【0052】
このようにして燃焼制御パターン(H,L,T)を、最長サイクル時間Tmax:60秒、基準最短ON時間Hmin:10秒、及び、基準最短OFF時間Lmin:10秒とした場合の、燃焼制御パターンが図2に示されている。図2には、温度調節出力(「温調出力」と記載)が10%、20%、50%、80%、及び90%の例を示した。さらに、その燃焼制御性を示したのが、図5(a)である。図5(b)の結果と比較して、高熱負荷側の制御性も向上している。
さらに、図6に、本発明(a)と従来技術(b)とに関し温度調節出力80%における燃焼制御パターンの差を比較して示した。従来技術にあっては、ON時間Hが固定であるためOFF時間L及びサイクル時間Tが短くなり、先に説明したOFF時間Lが基準最短OFF時間Lminより短くなる問題が発生する状況にあることがわかる。一方、本発明にあっては、OFF時間Lが基準最短OFF時間Lminに等しくされ、ON時間H及びサイクル時間Tが長くなるため、熱負荷が大きい側の問題が発生することはない。但し、図5(a)に示すように、サイクル時間Tが最長サイクル時間Tmaxを超える場合は、制御応答性の点で問題があるため、例外的にOFF時間Lを短くすることとなる。
【0053】
〔別実施形態〕
上記の実施の形態では、本発明を、ボックス式熱処理炉を加熱する燃焼設備に適用する場合について例示したが、これ以外にも、本発明は、種々の炉を加熱する燃焼設備に適用することができる。
例えば、処理物を入口から炉内に導入するとともに、炉内を通過させた後、出口から排出させる搬送手段を備えた連続炉を加熱する燃焼設備にも適用することができる。
上記の実施形態では、パターン設定手段が温度調節出力を受けて、その出力に基づいて一定の演算処理を実行して燃焼制御パターンを設定する場合を示したが、温度調節出力毎に、予め、本発明の手法に従って設定された燃焼制御パターンを記憶しておき、温度調節出力に対応して記憶手段から呼び出して燃焼制御パターンを設定する構成を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
サイクル時間中におけるON時間の割合が比較的高くなる制御領域において、CMを使用する制御形態を採用する場合にも、温度調節出力と実インプットとの間における良好な比例関係を実現でき、火炎検知器による誤検知の可能性を低く抑えることができるとともに、機器の寿命の点でも好ましい燃焼設備を得ることができた。
【符号の説明】
【0055】
71 温度調節手段
72 パターン設定手段
72b パターン指令手段
73 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼により炉内を加熱するバーナと、
前記炉内の熱負荷に応じて、単位サイクル時間内における燃焼のON時間HとOFF時間Lとを設定するとともに、前記単位サイクル時間周期で燃焼を繰り返す燃焼制御パターンを設定するパターン設定手段と、
前記パターン設定手段にて設定された燃焼制御パターンで、前記バーナの燃焼を制御する制御手段とを備える燃焼設備であって、
前記パターン設定手段は、前記OFF時間Lが基準最短OFF時間Lmin以上となり、且つ、前記サイクル時間Tが最長サイクル時間Tmax以下となるように、前記バーナの運転制御用の前記燃焼制御パターンを設定する燃焼設備。
【請求項2】
前記基準最短OFF時間Lminと、前記炉内の熱負荷が大きくなるほど前記ON時間Hが長くなる関係にある、前記サイクル時間T中の前記ON時間Hの比(H/T)であるON時間比Pとから、前記炉内の熱負荷に応じた仮の前記燃焼制御パターン(He,Le,Te=He+Le)を導出し、
導出された仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)における仮のOFF時間Leが前記基準最短OFF時間Lmin以上であり、且つ、前記仮の燃焼制御パターンにおける仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmax以下であるとき、求められた前記仮の燃焼制御パターン(He,Le,Te)を前記運転制御用の燃焼制御パターンとして設定する請求項1記載の燃焼設備。
【請求項3】
前記ON時間比Pが0.5より大きい場合に、
前記パターン設定手段は、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)を、前記基準最短OFF時間をLminとして、Te=Lmin/(1−P)として求め、
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより短い場合に、サイクル時間Tを仮のサイクル時間Teとし、ON時間HをTe×Pとして設定する請求項2記載の燃焼設備。
【請求項4】
前記仮のサイクル時間(Te=He+Le)が前記最長サイクル時間Tmaxより長くなる場合は、サイクル時間Tを最長サイクル時間Tmaxとし、OFF時間LをTmax×(1−P)として設定する請求項3記載の燃焼設備。
【請求項5】
前記バーナに備えられる開閉弁がコントロールモータにより開閉動作制御されるコントロールモータ制御開閉弁であり、
前記基準最短OFF時間Lminが、当該開閉弁が完全閉状態と完全開状態との一方の状態から他方の状態に移行するのに要する時間である移行時間に関して、当該状態移行時間以上で当該状態移行時間の1.05倍の時間以下の時間に設定されている請求項4記載の燃焼設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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