説明

物体を支持するための方法

【課題】コンパクトに構成された簡単に取り付け可能な磁気軸受装置が使用可能である物体の位置のための簡単な測定方法を提供する。
【解決手段】磁気軸受装置において、支持コイルが直列に接続されていて、支持コイルに電流が供給可能である。両支持コイル(14,14’)を接続する点(18)と電圧源との結合によって支持コイルが操作要素として使用され、支持コイル(14,14’)への電圧パルスの供給によって、支持すべき物体(10)の位置のための間接証拠である支持コイル(14および14’)のインダクタンスが推定され。それにより位置調節が可能にされる。したがって、同一の支持コイル(14および14’)により、安定に調節される支持力をもたらすと同時に、位置センサの代役を努めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体を支持するため方法に関するものであり、リニアモータにも回転モータにも使用可能である。回転モータにおける使用が有利であり、そのうちでも特に回転子軸が磁気軸受において支持される回転モータにおける使用が有利である。磁気軸受装置自体は固定子の一部である。
【背景技術】
【0002】
軸受をとりわけ能動的に調節可能にしようとするものである。これは、磁気軸受のための磁界が、少なくとも部分的に、物体を支持するための力を生じさせる支持コイルと呼ばれる2つのコイルによって発生されることを示している。一般には、能動的に調節される磁気軸受は位置センサを備えている。この位置センサは、磁気軸受装置における物体位置のための測定信号を検出し、この測定値が調節回路において入力量(制御量)として使用される。磁気軸受装置においては位置センサに高度の要求が課される。すなわち、激しい使用のために、位置センサが頑強であることが必要である。位置センサにはごく僅かのスペースしか許されない。回転子の場合には、位置センサによって発生させられる信号は僅かな位相遅れ時間しか許されない。信号のノイズ出力は僅かでなければならない。一般に位置センサとしては容量的または誘導的に動作するセンサが使用される。位置測定のためのセンサの使用は、取り付け費用が高いという欠点をともなう。なぜならば、このセンサは取り付けられ、且つ調整されなければならず、評価電子装置のために磁気軸受内部から信号線が引き出されなければならず、そしてこの評価電子装置が調節ユニットと配線されなければならないからである。位置センサのスペースのために、システム全体の構造空間が、位置センサなしのシステムよりも大きくなる。磁気軸受の支持力は磁気的な能動部分のサイズのみによって決まる。従来技術において使用されるような必要な位置センサによって、磁気軸受の支持力が増加することなしに、磁気軸受のサイズが大きくなる。更に、調節技術の視点から、1つの単独のセンサが1つの単独の分離した点で位置を測定することは不利である。この幾何学上の測定点は、構造的理由から、常に磁気的な能動部分の作用位置から離れている。特に支持すべき物体の曲げ振動(これは、特に回転子において発生し得る。)の際に、磁気的な能動部分の作用面における振動振幅がセンサにおいて測定される振動振幅と大きく相違することがある。極端な場合には、符号相違さえも発生することがあり、それによって調節が不安定になる。
【0003】
軸受要素として少なくとも2つの直列接続された電気的なコイルが用いられ、このコイル対が位置センサとしても電磁操作要素としても作用する磁気軸受調節器は公知である(例えば、特許文献1参照)。これらのコイルによって発生させられる磁界が、永久磁石対によって発生させられるバイアス磁界に重なり合う。それは、一方で磁界強めを、他方で磁界弱めを生じさせ、それによって本来の支持力が生じる。これらのコイルに高周波信号が供給される。両コイル間において同期整流器の高域通過フィルタを介して信号が取り出され、コイルに印加される出力信号の調節の際にこの同期整流器の出力が使用される。特許文献1において使用される両コイル間の1つの点における電位測定は、支持コイルとしてのコイルの使用と、バイアス磁化コイルとしてのコイルの使用とを両立可能にすることはできない。永久磁石の代わりにコイルによってバイアス磁化も形成しようとする場合には、これらのバイアス磁化コイルを付加的な構成部分として磁気軸受調節器の両コイルに加えなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許出願公開第93/23683号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来技術の磁気軸受の欠点を除去し、特にコンパクトに構成され、且つ簡単に取り付け可能な磁気軸受装置が使用可能である物体位置の簡単な測定方法を提供することにある。また、物体の位置の最適な調節も可能にしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、請求項1による特徴を有する物体の支持のための方法によって解決される。請求項6による装置も本発明に属する。
【0007】
本発明は、本出願の出願日後に公開された欧州特許庁経由国際特許出願公開第2007/060413号明細書に記載されているような磁気軸受装置を基礎とする。この磁気軸受装置は直列接続された2つの支持コイルを有し、この直列接続回路には電圧が印加可能である。これは、それぞれが1つの第1および第2の端子を持つ複数の支持コイルのそれぞれの第1の端子と制御可能な電圧源とが結合されることによって、特に接続されることによって可能となる。ここで電圧源とは、2つの接続点間に電位差を印加するユニットであると理解される。両支持コイルのそれぞれの第2の端子は接続導体により互いに接続されている。更に、使用される磁気軸受装置において、両支持コイルの接続導体も上記電圧源に制御可能に結合されている。この結合は、例えば次のように実施されているとよい。すなわち、この接続導体が他の制御可能な電圧源との直列接続回路によって両支持コイルの一方の第1の端子に接続されている。それによってこの接続導体と支持コイルの第1の端子との間の電位差を予め与えることができる。この接続導体と第2の支持コイルの第1の端子との間の電位差に関しては自由度が存在しない。なぜならば、電位差は、3つの任意の接続点の間において2つの電位差のみが自由に選択可能であるという事実からもたらされるからである。
【0008】
従来技術によれば、2つの電位差を3つの接続点の間において予め与え得るような構成を可能にする多くの方法および装置が公知である。本発明にとって公知の方法のどれが使用されるか重要なことではない。1kW以上の電力範囲における技術的用途において、パルス幅変調は電位差制御として定着した。この場合には唯一の電圧源のみが使用される。大抵のこの種の装置において電圧源はそれの両極間において固定の電位差を設定する。前述の支持コイルシステムが接続されている3つの上述の接続点のそれぞれは、高速のスイッチングを行なうスイッチ要素により、絶えず両電圧源の両極間で往復しながら切り換えられる。このような装置は、一般に電力変換器と呼ばれ、3つの接続点は電力変換器相もしくは相と呼ばれる。接続点間の電位差は、スイッチ要素がこれらの相を電圧源の正極もしくは負極に接続する時間幅の比を介して制御される。この電力変換器は当該技術において周知であり、ここで更に説明する必要のないものである。
【0009】
両支持コイルの直列接続および接続導体の付加的な接続によって、両支持コイル中の電流が個別に調節可能であるように、両支持コイルの両端子に電圧を予め与えることができる。両支持コイルの両電流のそれぞれは非常に速くそれぞれの電流目標値に従う。したがって、本発明に関する磁気軸受装置は、3つの接続点もしくは相のうちの少なくとも2つにおいて電流を測定することができる複数の電流測定装置を備えている。電力変換器においてはこのような電流測定装置は一般的である。本発明に関するコイル装置においては、流入する電流が常に流出する電流に等しい。したがって、3つの接続点もしくは相における電流の総和は常に零である。したがって、電流測定装置の節約のために3つの電流のうちの2つのみを直接的に測定し、第3の電流は間接的に計算によってリアルタイムで求めることが許される。例えば、i3=−i1−i2である。本発明にとって、第3の電流が直接的に測定によって求められたか、それとも間接的に計算によってリアルタイムで求められたかは重要なことではない。
【0010】
普通の場合には継鉄もしくは継鉄グループに巻装されている両支持コイルのそれぞれは、電流によって、支持すべき物体に対して磁界を形成し、それによって物体とそれぞれの支持コイルとの間で吸引力が発生する。両支持コイルは、物体に対して、電流によって生じる物体への磁力がほぼ共通の作用線上にあって互いに逆方向に向くように配置されている。結果として物体に作用する力は常に共通な作用線の上にあって、その大きさおよびその極性は、両支持コイル中の両電流の重み付けによって影響を及ぼされる。それゆえ、本発明は異なる電流強さの電流が両支持コイルを介して流れることによって物体への力が制御可能である磁気軸受装置に関する。
【0011】
コイル間のタップで電圧測定が行なわれる特許文献1のものとは違って、ここでは2つのコイル間のタップに電位が印加され、したがって他の端子に対する相対的な電圧が印加される。それによって先ず、両支持コイル中の両電流を異なる電流強さでもって予め設定することができる可能性がもたらされる。これとは違って特許文献1においては両コイル中の電流が常に等しい大きさである。接続導体での電位には制御的な方法は採られていない。むしろそれどころか、支持される物体の位置に対する明確な高周波差信号(電圧信号)が存分に能力を発揮することができるように、接続導体に対する制御的作用が厳しく抑制されているにちがいない。
【0012】
等しい大きさの両電流にもかかわらず異なる強さの磁界を得ることができるようにするためには、他の磁界を重畳するための付加的な装置が必要である。このために永久磁石が用意される。本発明に関する装置では、接続導体への制御可能な電位の印加によって両支持コイル中の電流を予め与えることができる。したがって、支持コイル対して付加的にバイアス磁化の発生のための特別な要素を用意する必要性がなくなり、それによって磁気軸受装置がとりわけコンパクトになる。
【0013】
物体が強磁性吸引によって無接触支持されることに基づく全ての装置におけると同様に、この場合にもコイル電流の高速な制御が好ましい。例えば、磁力が重力に対して釣り合うようにコイル電流が静的に予め与えられるならば、既に物体の最小移動が次のことをもたらすであろう。すなわち、物体が継鉄間の中央で浮遊しないで一方の継鉄に引き寄せられ、これにくっつくことである。これは、コイル電流が予め与えられた場合には、物体と継鉄との間の間隙が小さくなると、磁界が強められ、そしてそれにともなって吸引力も強められることによる。静的に予め与えられたコイル電流では物体の位置が不安定である。物体が高い加速度でもって両継鉄の一方にぶつかる。そこで、制御の課題は、一方の継鉄に物体がぶつかる前に対向側の継鉄によって物体が引き寄せられるように、コイル電流を迅速に変化させることにある。物体が継鉄に近づけば近づくほど、対向側の継鉄における電流をますます大きく制御しなければならない。これは、両継鉄間の安定浮遊をやっと可能にする絶え間ないプロセスである。このような磁気軸受装置が従来技術において多くの事例で採用された。このような制御自体は本発明の対象ではない。
【0014】
電流の適切な制御のためには、いずれの場合にも両継鉄間における物体の位置の測定が必要である。したがって、力がパルス電流により調節される磁気支持のための装置は、少なくとも1つの位置センサを含んでいなければならない。本発明によれば、これまで説明した磁気軸受装置が同時に位置センサとして利用される。これは、磁気軸受装置内に支持される物体が支持コイルのインダクタンスに影響を及ぼすために可能である。一般に支持コイルが継鉄上に巻かれ、物体と継鉄との間の空隙がこの支持コイルのインダクタンスに直接的に影響を及ぼす。今や支持コイルの第2の端子において1つの電位が1つの電圧源によって規定可能であることから、第1の端子に結合される電圧源により、つまり第1の端子に交番する電位が印加されることにより、(好ましくは一定の周波数を有する)電圧パルス列が発生させられる。それと同時に、第2の端子における電位は、第1の端子のようには変化させられない(一定の電位または大きな時間スケールにおいて変化する電位である)。この電圧パルスは支持コイル内に電流を生じさせる。電流が相殺されないようにこの電圧パルスが選ばれるならば、結果として生じる電流が第2の端子に結合された電圧源を通して流れ、これが測定されるならば、支持コイルのインダクタンスを推定すること、したがって磁気軸受装置内において支持された物体の位置を推定することができる。結果として生じる電流の測定のためには、例えば電力変換器の既存の電流測定装置を使用できる。
【0015】
その測定が継鉄間における物体の位置の決定に利用され、磁気軸受装置内において支持される物体の位置が上述のように第2の端子に結合された電圧源に流れる電流によって安定に調節されることは有意義なことである。第2の端子に結合される電圧源が次のように設計されているならば、すなわち電圧パルスの周波数よりも低い周波数を有する付加的な電圧または付加的な直流電圧を与えるように設計されているならば、それにより両支持コイル内の電流分布を予め与えることができる。この後者の電圧を次のように調節するとよい。すなわち、電圧パルスによって誘導され測定される電流が予め定められた電流強度値を持つ、すなわちインダクタンスが予め定められた値を持つように調節する。このインダクタンス値は、支持コイルが巻かれている継鉄に対する物体の予め定められた空隙に相当する。
【0016】
電流に対する直接的な調節の代わりに、測定された1つの電流もしくは測定された複数の電流から、支持すべき物体の位置を導き出してもよい。この位置を調節装置において実際値として使用するとよい。調節のための目標値は、例えば使用者によって設定可能とすることができる。調節装置において普通のように、実際値が目標値と比較される。比較結果が、例えばこの場合に形成された差が、付加的な電圧の調節において使用される。
【0017】
電圧パルスは、平均的には、支持される物体に力作用を及ぼすべきではない。したがって電圧パルスは時間的平均値では零の値を持つことが好ましい。この電圧パルスによって生じる電流は、個々の支持コイルにおいて時間的平均値では力作用を及ぼさない。両支持コイルによって位置決定の枠内で発生させられる力は正確に相殺されることが好ましい。これは、制御装置が、支持コイルのそれぞれの第1の端子における電圧パルスを、支持コイルのそれぞれの第2の端子における電位に対して、次のように互いに調整する場合に可能となる。すなわち、支持コイルの両端子間の電圧時間積(すなわち、電圧の積分)が消滅するように互いに調整する場合である。
【0018】
本発明による方法は、例えばトランスラピッド(注:ドイツで開発された磁気浮上式高速鉄道の名称。あるいはこのシステムの開発・販売を行なっている企業名)において使用されるような磁気式リニアガイドにおいて使用可能である。磁気軸受装置は、回転子の回転軸が磁気軸受装置内において支持される装置に属することが好ましい。その場合に磁気軸受装置は固定子の一部である。本発明によって初めて、回転軸の位置を特別の位置センサなしに安定に調節する実現性が提供される。
【0019】
2つの(もしくは4つの)支持コイルが2つの対向する継鉄上に配置されている場合には、回転子の回転軸の位置を1つの座標において測定して修正もしくは調節することができる。第2の座標においても調節を行なうことを可能にするためには、第1の磁気軸受装置に対してできるだけ90°(例えば80°乃至100°、好ましくは87°乃至98°)だけずらされた2番目の同様の磁気軸受装置が用意されなければならず、この第2の磁気軸受装置は同一平面、すなわち回転軸によって定められる回転子の軸線に垂直である平面内に配置されているとよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明において使用可能な磁気軸受装置の第1の実施形態を示す概略的な配線図である。
【図2】図2は本発明において使用可能な磁気軸受装置の第2の実施形態を具体的に示す概略的な配線図である。
【図3】図3は本発明にしたがって使用される電流パルスのない場合における電圧の時間的経過を示すタイムチャートである。
【図4】図4は図3の電圧によって誘導される電流を示すタイムチャートである。
【図5】図5は本発明にしたがって供給される電流パルスのある場合における電圧の時間的経過を示すタイムチャートである。
【図6】図6は図5の電圧によって誘導される電流を示すタイムチャートである。
【図7】図7は支持すべき物体が理想位置からずれた場合における電流を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において図面を参照しながら本発明の有利な実施形態を説明する。
【0022】
10により示された物体、ここでは回転子の回転軸を支持するために、磁界が発生させられ、この磁界によって回転軸10が支持される。この回転軸10は透磁性でなければならない。磁界は、同様に透磁性である継鉄12もしくは12’上に巻かれた支持コイルを通して送られる電流によって形成される。
【0023】
図1による本発明の第1の実施形態の場合には、各継鉄12もしくは12’上に支持コイル14もしくは14’が巻かれている。図2による実施形態の場合には、継鉄12もしくは12’上におけるそれぞれの第1の支持コイル14もしくは14’に対して第2の支持コイル16もしくは16’が加わっている。コイル16および16’は、例えば本発明によらない磁気軸受に由来してよく、この磁気軸受が本発明によるセンサレス位置検出装置に改造される。新しいパワーエレクトロニクスおよび新しい制御技術により既存の機械の評価が高められるがしかし高価な電気機械部分が残されているこのような改造は普通のことであり、「レトロフィット」と呼ばれている。
【0024】
本発明の両実施形態の全てに共通なことは、これらの支持コイル14,14’が直列に接続されていることである。各コイル14もしくは14’は2つの端子(往路導線および帰路導線)を持ち、コイル14の帰路導線がコイル14’の往路導線に接続されている。これは、コイル14および14’の第2の端子が点18に接続されていると見ることができる。これらの図には、3相電力変換器が使用される実施形態が示されている。相がU,V,Wにて示されている。通常の電力変換器において各接続が次の構成を有する。すなわち、それぞれの接続点の電位を正極と負極との間で規則正しく切り換えるパワースイッチ24が共通の電圧源22の後方に配置されていて、それから電流測定装置26が設けられ、それから接続点28が電流測定装置26の後方に設けられている。
【0025】
点18と相Uとを接続することによって、コイル14および14’に異なる電流、すなわち電流IaおよびIbを供給することが可能となる。それによって、回転軸10に選択可能な大きさおよび極性を有する操作力を作用させることが可能となる。回転軸10への操作力は回転軸10をバランス状態に調節しようとするものである。したがって、磁石装置は回転軸10の位置を少なくとも間接的に求めることができなければならない。これは、コイル14もしくは14’のインダクタンスもしくは相Uの電流への電圧パルスの作用の測定を介して行なわれる。図3は、3つの接続点における電圧の典型的な時間的経過を示す。これらの電圧は、観察期間において物体の安定支持のために調節装置によって電圧源22の正極と負極との間の中間点を基準にして制御された電圧である。以下において、これらの電圧は、電圧パルスと区別するために「支持電圧」と呼ぶことにする。電圧源22の正極における電圧についての曲線30、電圧源22の負極における電圧についての曲線32、接続点Uにおける電圧についての曲線34、接続点Vにおける電圧についての曲線36、接続点Wにおける電圧についての曲線38が示されている。コイル14’における電圧は電圧Vと電圧Uとの差からもたらされ、コイル14における電圧は電圧Wと電圧Uとの差からもたらされる。両コイル電圧は互いに異なる値を取り得る。
【0026】
図示された電圧経過は、この形態にてアナログの電圧発生装置を有する3相電圧源において観察したものである。これに対してパルス幅変調される電圧源では、電圧が高いスイッチング周波数(数kHz)で正極と負極との間で往復のスイッチング動作をする。相端子における電圧は、厳密に言えば、中間状態をとることができない。それにもかかわらず、電圧中間状態がパルス幅変調のデューティ比として解釈されるならば、支持電圧の上記説明はパルス幅変調システムにおいても通用する。インダクタンスにより支持コイルが電流を平滑するので、スイッチング周波数が十分に大きいならば、アナログ電圧発生装置におけると同じ物理学的作用が生じる。したがって、本発明にとって、3つの相における電圧がアナログ的に発生させられるか、それともパルス幅変調(PWM)によって発生させられるかは重要なことではない。ここに示されたグラフ表示に関してはアナログ的な考察が好ましい。なぜならば、そのほうが容易に理解できるからである。
【0027】
図4は3つの接続点における電流の典型的な時間的経過を示す。これらの電流は、観察期間において物体の安定支持のためにもたらされる電流である。以下において、これらの電流は、これらを、電圧パルスに対する応答として生じる電流パルスと区別するために、「支持電流」と呼ぶことにする。曲線40は接続点Uを介する電流であり、曲線42は接続点Vを介する電流であり、曲線44は接続点Wを介する電流である。コイル14における電流(相電流W)はコイル14’における電流(相電流V)とは異なる。しかし、3つの相電流の総和は常に零でなければならない。なぜならば、3つの図示された接続端子のほかには、電流が流出し得る他の端子が存在しないからである。
【0028】
ここで、供給される電圧パルスが供給される、本発明による磁気軸受装置を考察する。この場合に電圧パルスは支持電圧に対して加算される。この電圧パルスは、動作のために必要な支持電流を過剰には乱さない。したがって、電圧パルスは好ましくは支持電圧に関して対称的、すなわち支持電圧を上回っている電圧時間積46の成分が支持電圧を下回っている成分により相殺されるように対称的である。それゆえ電圧パルスは支持電圧の電圧時間積の中味に影響を及ぼすことはない。このための適切な制御装置が3相電力変換器20内に組み込まれる。
【0029】
この電圧パルスは、例えば規則正しい時間的順序で発生させられるので、或る一定の周波数を割り当てることができる波形が生じる。この周波数は数kHzの範囲にあるとよい。出力トランジスタの固定のパルス周波数を有する電力変換器の場合には、この電圧パルスをちょうどこの固定の出力パルス周波数に同期させるか、もしくは出力トランジスタのパルスパターンに直接的に組み入れることが非常に有利である。
【0030】
有利な実施形態では電圧パルスが複数の支持コイルの第1の端子にのみ印加される。図1において、これは制御装置20の端子VおよびWである。端子Uには支持電圧が存在するが、電圧パルスは加えられていない。この有利な実施形態では電圧パルスが端子VおよびWにおいて互いに反転されて(「逆位相に」とも言う。)加えられているので、端子Vを電圧パルスのソースと理解し、端子Wを電圧パルスのシンクと理解することができる。これが図5において図3からの曲線と類似の定義を有する曲線30’,32’,36’,38’に基づいて示されている。更に、これらの電圧パルスは、支持コイル14および14’における両電圧時間積46の交流成分が等しい大きさであるように選ばれているべきである。この対称性によって、すなわち同じ大きさで且つ逆位相の成分によって、電圧パルスにより生じさせられる力作用が、対向する両継鉄12および12’において広範に相殺される。したがって、電圧パルスに由来する乱れは最小限である。
【0031】
電流回路に存在する電圧の総和とは異なる外部電圧がインダクタンスLに印加されると、次の電流変化di/dtが生じる。
di/dt=1/L×(Uaussen−Uint
ただし、Uaussenは外部で印加される電圧であり、Uintは電流回路内に存在する電圧、例えば抵抗における電圧降下と誘起された電圧との和である。
【0032】
電圧パルスの印加がなければ、外側から印加される電圧が電流回路内に存在する電圧の和とちょうど互いに釣り合っているので、支持コイルの電流はほぼ一定のままである。電圧パルスの印加により電流が電圧パルスに同期して支持電流平均値を中心として上昇および下降する。例えば矩形波状の電圧パルスに対して電流が三角波状のパルスでもって応答する。この場合に電圧パルスの与えられた電圧時間積において電流パルスの振幅はインダクタンスの逆数によって直接的に決定される。このことは、図6において、図4と類似の曲線40’,42’,44’に基づいて認識することができる。
【0033】
物体10が両継鉄12および12’の間の中央位置にある時には、両方の空隙が等しい大きさであり、したがって支持コイル14および14’の両インダクタンスの大きさが等しい。それゆえ、両支持コイルにおける電流パルスの振幅の大きさが同様に等しくなる。これらの電圧パルスは逆位相で印加されるので、両電流パルスは同様に逆位相であり、その結果、相Uへは電流パルスが流出しない。
【0034】
回転軸10が両継鉄間の中央から離れると、インダクタンスの一方が小さくなり、インダクタンスの他方が大きくなる。このことは、電圧パルスの両支持コイルへの印加によって生じたコイル14もしくは14’中の電流に基づいて検出される。これは、図7において、図4および図6に類似する曲線40”,42”,44”に基づいて認識することができる。電流の強さは相Uにおいて直接的または間接的に測定される。なぜならば、コイル14および14’が同じ電流を供給されない場合には、電流の強さIuが零と異なるからである。各支持コイルの第2の端子に接続されている相端子が、支持電流ならびに中心からはずれた位置において生じる電流パルスの成分を流す。位置測定のためには、電流パルスのみが評価に役立つが、支持電流は評価に役立たない。したがって、電流パルスの信号成分が支持電流から分離されるべきである。このために従来技術によれば多くの方法が使用可能である。例えば電流の測定信号を同期整流器により処理することができる。他の方法は、例えば発生する電流パルスに3相交流系における位相角を割り付けることである。従来技術に基づく電力変換器はそれ相応の機能を有する。回転磁界内で定められた方向を割り当てることができ、更にまた電圧パルスに対する1つの周波数および/または1つの位相関係を有する電流成分を位置の測定信号として解釈することができるであろう。
【0035】
図1による装置においては、2つだけのコイル14および14’を使用して、回転軸10を支持する磁界をもたらすことができ、また、バランスからはずれた際に回転軸10の位置を調整する力をもたらすことができる。電圧パルスによって誘導された電流の測定を介してバランス位置からの回転軸10の位置偏差の大きさおよび方向を推定することができ、それによりバランスに向けて調節を行なうことができる。
【0036】
図2よる実施形態は以下の点で図1による実施形態と異なる。すなわち、支持コイル14および14’に対して直列に接続された支持コイル16および16’が配置され、両支持コイル14および16が継鉄12上に対称的に配置され、両支持コイル14’および16’が継鉄12’上に対称的に配置されている。図1による実施形態に比べて高い対称性によって、磁界をより均一に形成することができる。
【0037】
従来の位置センサの場合には位置測定装置の有効面積が小さい。本発明による磁気軸受装置(図1および図2)の場合には位置測定装置の有効面積が相対的に大きい。したがって測定結果の特性も改善される。なぜならば、従来の位置センサが唯一の測定点しか表さないのに対し、本方法では測定結果が支持コイル14もしくは14’のもとにある多数の個々の点にわたる平均値からもたらされるからである。したがって、曲げ共振、不つりあい、表面不精確が発生する場合ならびにノイズが存在する場合にも、この磁気軸受装置は特別に安定に動作する。
【0038】
1つの位置センサおよび場合によってはバイアス磁化のための複数のコイルも特別に提供されなければならない従来技術の装置に比べて、3つの実施形態による本磁気軸受はとりわけコンパクトに構成されている、もしくはそのように構成可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 物体(回転軸)
12,12’ 継鉄
14,14’ 第1の支持コイル
16,16’ 第2の支持コイル
18 接続点
20 電力変換器
22 電圧源
24 パワースイッチ
26 電流測定装置
28 接続点
30,30’ 曲線
32,32’ 曲線
34,34’ 曲線
36,36’ 曲線
38,38’ 曲線
40,40’,40” 曲線
42,42’,42” 曲線
44,44’,44” 曲線
46 電圧時間積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの支持コイル(14,14’)を含む磁気軸受装置により物体を支持するための方法であって、支持コイル(14,14’)のそれぞれの第1の端子が電圧源(V,W)の付属の端子に結合され、支持コイル(14,14’)のそれぞれの第2の端子が互いに接続され、それにより支持コイル(14,14’)が互いに直列に接続されていて、支持コイル(14,14’)の第2の端子が共通に同様に電圧源(U)の端子に結合されている方法において、第1の端子に結合された電圧源(V,W)が電圧パルス列を発生し、支持コイル(14,14’)の第2の端子に結合された電圧源(U)の端子を介して流れかつ電圧パルスによって生じる電流が測定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
支持コイル(14,14’)の第2の端子に結合された電圧源(U)が、電圧パルスの周波数よりも低い周波数を有する付加的な電圧または直流電圧を発生し、調節装置(20)がこの付加的な電圧を次のように調節すること、すなわち電圧パルスによって生じ、測定される電流が予め定められた電流強度値を持つように調節することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
支持コイル(14,14’)の第2の端子に結合された電圧源(U)が、電圧パルスの周波数よりも低い周波数を有する付加的な電圧または直流電圧を発生し、測定された電流から支持すべき物体の位置が導き出され、この導出された位置が実際値として位置の目標値と比較され、付加的な電圧の調節の際に使用されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
電圧パルスの時間的な平均値が零の値を持つことを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の方法。
【請求項5】
制御装置が、前記電圧パルスと、第2の端子に結合された電圧源の端子に印加される電位とを互いに次のように調整すること、すなわち両支持コイル(14,14’)を介して与えられる電圧パルスの電圧時間積が等しい大きさであるように調整することを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の方法。
【請求項6】
回転子の回転軸(10)が支持される少なくとも1つの磁気軸受装置と、磁気軸受装置内における回転軸(10)の位置を調節するための調節手段とを備えた装置において、調節手段が電流強度を測定するための測定装置を有することを特徴とする装置。
【請求項7】
2つの支持コイル(14,14’)を有する2つの磁気軸受装置を備え、
支持コイル(14,14’)の第1の端子が電圧源(V,W)のそれぞれ付属の端子にそれぞれ結合され、支持コイル(14,14’)のそれぞれの第2の端子が互いに結合されることにより2つの支持コイル(14,14’)が直列に接続されていて、
支持コイル(14,14’)の第2の端子が共通に同様に電圧源(U)の端子に結合されていて、
各磁気軸受装置において両支持コイルが互いに対向し、両磁気軸受装置の支持コイルが80°乃至100°だけ互いにずらされて配置されている請求項6記載の装置。
【請求項8】
2つの支持コイル(14,14’)を有する2つの磁気軸受装置を備え、
支持コイル(14,14’)の第1の端子が電圧源(V,W)のそれぞれ付属の端子にそれぞれ結合され、支持コイル(14,14’)のそれぞれの第2の端子が互いに結合されることにより2つの支持コイル(14,14’)が直列に接続されていて、
支持コイル(14,14’)の第2の端子が共通に同様に電圧源(U)の端子に結合されていて、
各磁気軸受装置において両支持コイルが互いに対向し、両磁気軸受装置の支持コイルが87°乃至93°だけ互いにずらされて配置されている請求項6記載の装置。
【請求項9】
電流強度の測定のための電流測定装置(26)によって測定された値から実際位置を導き出し、実際位置と目標位置との比較に基づいて少なくとも1つの制御量を規定するように、調節手段が設計されていることを特徴とする請求項6乃至8の1つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−293800(P2009−293800A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130430(P2009−130430)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】