説明

物体検知システム及び方法

【課題】複数のレーザセンサ間に生じる微少な検知位置等のズレを解消して、軌道線上の列車走行の障害物体について、存在位置、大きさや形状を容易に特定する。
【解決手段】複数センサからの測距データを、センサ配置を考慮したキャリブレーションを以て、1つにデータ統合をする統合手段と、予め取得された監視領域の背景データと、経時的に得られる座標データとの差分から対象物体の存在位置を検知する。予め登録される物体の大きさに関するマス目情報と、監視領域内をマス目に細分化する検索グリッドを設けグリッド角に占める座標データの割合を演算、対照して物体の大きさや形状を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体検知システム及び方法に係り、特に、走行する列車に対して障害となる障害物をレーザセンサにより検知し、その検知結果を用いて障害物の存在する位置と大きさを監視する物体検知システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象とする領域にレーザレーダを照射して、レーザレーダにより検知された物体との距離情報と走査方向の情報から成る3次元情報を得て、その情報を用いて対象物を識別する物体検知の技術が知られている。
例えば、特許文献1には、1つのレーザレーダを用いて所定の領域及びこれに隣接する周辺領域を走査し、レーザレーダにより検知される距離情報とその走査方向の情報から3次元レーダ情報を求め、3次元レーダ情報から所定の領域及び周辺領域内にある物体が列車であるか否かを識別する検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−212553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術によれば、1つのレーザセンサを用いて対象物体が列車であるか否かについて識別できるが、監視領域が広範囲に及ぶ場合、1つのレーザセンサでは、測距範囲に限界がある。一方、複数のレーザセンサを用いて測距する場合、レーザセンサどうしの検知タイミングや位置、角度の微妙なズレが生じることがあり、その微少な検知位置の不一致を調整することが重要である。然るに、上記特許文献1には、複数のレーザセンサを用いた場合に生じる微少な検知位置の不一致に対する考慮について記載されていない。
【0005】
本発明の目的は、複数のレーザセンサから得られる測距データを統合し、複数のレーザセンサ間に生じる微少な検知位置等のズレを解消して、列車走行における障害物体の位置、大きさや形状を認識することができる物体検知システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る物体検知システムは、好ましくは、複数のレーザセンサを用いて監視領域を照射して、得られた測距データを用いて軌道線上の列車走行への障害物体を検知する物体検知システムであって、複数のレーザセンサからの複数の座標データを1つにデータ統合する統合部と、監視領域内を、縦横のマス目(グリッド角)に細分化して検索グリットを規定すると共に、該検索グリッドのグリッド角を変更制御するグリッド制御手段と、検知対象の物体とマス目情報との関係を予め登録するDBと、予め監視領域における背景データを取得し、これと、経時的に得られる統合された座標データとの比較差分から対象物体の存在位置を検知する機能と、該グリッド制御手段により変更制御される検索グリッドのグリッド角に占める座標データの割合と、該DBに登録される物体の大きさに関するマス目の情報を演算、対照して、物体の大きさや形状を特定する物体検知部と、を有する物体検知システムとして構成される。
【0007】
好ましい例では、上記物体検知システムにおいて、前記統合部は、複数のレーザセンサからの座標データを複数のレーザセンサの配置を考慮したキャリブレーションを以て統合処理をする機能を有し、
前記物体検知部は、物体の形状を連続する座標点であるポイントデータとし、これの周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理と、予め取得される背景データと、経時的に測距して得られる座標データとを比較処理して物体の存在位置を検知する機能を有し、
さらに、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報と、前記グリッド制御手段にて監視領域内をマス目に細分化する検索グリッドを設け、グリッド角に占める座標データの割合を演算、対照して物体の大きさや形状を特定する機能とを有する。
【0008】
本発明に係る物体検知方法は、好ましくは、複数のレーザセンサを用いて監視領域を照射して、得られた測距データを用いて軌道線上の列車走行への障害物体を検知する物体検知方法であって、複数のレーザセンサからの複数の座標データを1つにデータ統合する統合ステップと、監視領域内を、縦横のマス目(グリッド角)に細分化して検索グリットを規定すると共に、該検索グリッドのグリッド角を変更制御するグリッド制御ステップと、検知対象の物体とマス目情報との関係を予めDBに登録するステップと、予め監視領域における背景データを取得し、これと、経時的に得られる統合された座標データとの比較差分から対象物体の存在位置を検知し、該グリッド制御により変更制御される検索グリッドのグリッド角に占める座標データの割合と、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報とを演算、対照して、物体の大きさや形状を容易に特定する物体検知ステップとを有する物体検知方法として構成される。
【0009】
好ましい例では、上記物体検知方法において、前記統合ステップでは、複数のレーザセンサからの座標データを複数のレーザセンサの配置を考慮したキャリブレーションを以て統合処理をする統合ステップを有し、
前記物体検知ステップでは、物体の形状を連続する座標点であるポイントデータとし、これの周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理と、予め取得される背景データと、経時的に測距して得られる座標データとを比較処理して物体の存在位置を検知する検知ステップを有し、
さらに、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報と、グリッド制御ステップにて監視領域内をマス目に細分化する検索グリッドを設け、グリッド角に占める座標データの割合を演算、対照して物体の大きさや形状を特定する処理ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軌道線上の物体の測距において、軌道線上に検知される物体を背景データと経時的に測距される測距データを照合することで、物体の存在位置と大きさや形状を認識することができる。とりわけ、列車走行の障害となる物体が存在する場合は、軌道線上の物体の存在位置を絞り込んで検知し、予め設定される検索グリッドを用いてグリッド角に占める座標データの割合を以て、その大きさを特定して、形状を表示することができる。また、監視する物体の大きさについて、有る程度の範囲内に限られる場合は、測距データからレーザセンサからその物体までの距離を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施例による物体検知システムの構成例を示す図。
【図2】実施例1による監視領域の軌道線上に物体を検知した例を示す図。
【図3】実施例1による背景データDB1821の記録フォーマットを示す図。
【図4】実施例1による測距データDB1822の記録フォーマットを示す図。
【図5】実施例1によるクラスタDB1823の記録フォーマットを示す図。
【図6】実施例1によるデータ統合を説明する図。
【図7】実施例1による検知データと検索グリッドによる制御を示す図。
【図8】実施例1における直交座標と角度変換のクラスタ検出処理を示すフローチャート。
【図9】実施例2における監視領域の軌道線上に列車を検知した例を示す図。
【図10】実施例3におけるレーザセンサを用いた物体検知の処理を示すフローチャート。
【図11】物体の検知部1804におけるグリッド角の制御動作を示すフローチャート。
【図12】実施例1における物体特定DB1824の記録フーマットを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、軌道線上における障害物体を監視する検知システムの構成を示す。
この検知システムは、監視領域(点線で示す)11内の物体を監視するために配置された、複数のレーザセンサ121、122(総称して12と示すことがある)と、レーザセンサ12で検知されたデータを処理するレーザ制御装置18により構成される。
【0013】
ここで、レーザセンサ121はレーザを照射して背景142及びその背景の前に在る物体(或いは通過する列車)を検知する。同様にして、レーザセンサ122はその走査によって背景141及びその背景の前に在る物体(或いは通過する列車)を検知する。各レーザセンサ12は、監視領域を左周りに0.5°毎に移動させながらレーザ光を照射して、取得した測距データをレーザ制御装置18に順次経時的に取り込む。
【0014】
レーザ制御装置18は、その測距データを用いて軌道線上の物体の位置を算出する処理部180と、測距データ及び物体の位置の算出に関連する種々のデータを記憶するデータベース(DB)182と、表示装置183、及び入力装置184を有して構成される。なお、図示していないが、障害物体が検知された場合に警報を発する警報装置を備えてもよい。
処理部180はプロセッサであり、本発明に特有のプログラムをこのプロセッサで実行することで、統合部1802及び検知部1804の機能が実現される。プログラムは、図示しないメモリ又は記憶装置等に予め記憶されている。
DB182には、背景DB1821(図3)、測距データDB1822(図4)、クラスタDB1823(図5)、物体特定DB1824(図12)等の各DBが格納される。
【0015】
統合部1802は、各測距データの位置座標(x,yの極座標)を、各レーザセンサの位置を考慮して統合(キャリブレーション)して重ね合わせて1つ統合データを生成する。これにより、レーザセンサ毎のズレ、不一致に寄ることなく、測距データを取得することができる。
【0016】
検知部1804は、統合された測距データを用いて、物体及びその大きさを検出する。即ち、統合部1802で1つに統合された背景データと、経時的に測距して得られ、統合された測距データとを比較処理して、その差分から検知された物体のみの座標データを抽出し、このデータを対象に物体の存在位置を検知する。検知部1804はまた、物体の位置(座標)検知と、物体検知から連続して物体の大きさ、若しくは形状をグリッド角の大きさを徐々に小さく、例えば、当初グリッド角を50(cm)として、物体が検知された場合は、グリッド角を半分25(cm)として物体の大きさを算出する。グリッド角のマス目を細かくすることは、画像で言えば解像度を上げる処理と類似した処理となり、これにより物体の大きさ、若しくは表面形状を把握することができる。例えば、グリッド角を、50(cm)→25(cm)→10(cm)→5(cm)のように制御して、物体の大きさや形状を特定することができる。
なお、統合部1802及び検知部1804の処理動作については後で詳述する。
【0017】
背景DB1821は、図3に示すように、複数のレーザセンサ12を左周りに0.5°毎に移動させながらレーザ光を照射して、監視領域の背景から取得した測距データ即ちレーザセンサと背景との距離データを記憶する。背景に看板や電柱などが存在すると、その部分の距離が距離として反映される。
【0018】
測距データDB1822は、図4に示すように、複数のレーザセンサ12で同様の測定を行い、得られた測距データを記憶する。背景データに加えて、列車や障害物体を検知した距離データが含まれる。なお、背景DB1821を単独に構成しないで、測距データDB1822に併合して構成することもできる。
クラスタDB1823は、図5に示すように、距離データと背景データの差分から計算された、物体を示す複数のポイント座標(位置座標)と、そのポイント座標から計算された物体の中心座標(位置座標)を、当該物体毎に付与されたクラスタIDに関連つけて記憶する。
【0019】
物体特定DB1824は、図12に示すように、検知の対象とする特定物体と検索グリッドのグリッド角サイズ(即ちグリッドのマス数(縦と横のマス数を乗じたもの))の関係を予め登録する。例えば、人物は50マス×50マス(1cm角)が登録される。レーザセンサから得られた経時的な測距データと物体特定DB1824の登録データを照合することで、検知対象の物体が特定される。
【0020】
次に、統合部1802及び検知部1804における処理動作について詳細に説明する。
図6は、統合部1802におけるデータ統合を概念的に示す。
複数のレーザセンサを用いる場合、各測距データは、各レーザセンサからの物体までの距離を示す座標データとして得られることになる。得られた複数のデータをそのまま重ね合わせたのでは、監視領域内に検知される物体を表示した状態(監視領域内に検知物体を描写した一枚の絵)にはならないことから、各レーザセンサ位置を考慮したデータの統合配置が行われる。
【0021】
例えば、レーザセンサ121から得られた測距データ601(物体の大きさα[cm])と、レーザセンサ122から得られた測距データ602(物体の大きさβ[cm])について言えば、レーザセンサ121と、レーザセンサ122の位置から測距される物体の大きさは、それぞれα,β[cm]である。
実際の物体の大きさがγ[cm]であった場合、統合部1802における統合処理により、正しくγ(=α+β)[cm]として求められ、各レーザセンサを考慮して統合しキャリブレーションから、測距データ603(物体の大きさD:γ[cm])として、その存在位置と大きさにて表示することができる。
これは、背景データ取得においても、経時的に得られる測距データからの物体検知においても検知処理の前段処理として実施されるものである。
【0022】
検知部1804では、統合部1802で1つに統合されたデータを、物体の形状を連続する座標点であるポイントデータとし、これの周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理を行う。このクラスタ毎(固有IDが付与された)に物体を検知しているので、測距の途切れ(死角や、物体の動きによるものなど)から、再び測距された場合は同一物体として個別IDを引き継ぎ、物体の位置座表を検知する。
【0023】
図7は、検知データと検索グリッドによる制御を示す。
この物体検知システムでは、先に差分抽出されたデータ(即ち複数のレーザセンサの測距データの合成後の背景データと、複数のレーザセンサから経時的に得られる合成後の測距データの差分データ)74,75に、検索グリッド71〜73を重ね合わせる(即ち設定されたグリッド角の大きさに、監視領域を細分化する)処理を行うことで、軌道線上にて検知された物体が障害物体であることを認識する。つまり、グリッド角のマス目の大きさを制御することで、物体検知と物体の大きさを特定する。そして、予め想定される物体の大きさをグリッド角サイズにてどの程度かをDBに登録しておき、検知したら直ぐにグリッド角にて大きさを計測して、軌道線上の障害物となるか否かを判断する。
【0024】
監視領域11は、(保守などの特別な条件を除き)レーザセンサが走査する軌道線上を、列車以外は通過しないことを前提にしている。このため、列車及び許可条件(工事、保守列車などを含む特別条件下)以外に検知した物体は障害物体として認識する。クラスタ処理にて付与される固有のIDは、測距におけるデータの途切れ(死角や、物体の動きによるものなど)において、クラスタから同一物体して認識するために用いられる値として用いられる。
【0025】
検索グリッドのサイズの変更(グリッド角の変更)は、監視領域で検知する対象物体に合わせて監視継続中に、そのサイズを変更して設定することができる。
例えば、当初は、検索グリッド角を200(cm)に設定しておき、列車ならば軌道線上に対して、走行方向に長く続く物体として検知される。例えば、検索グリッド角が200(cm)の状態で、レーザセンサから見て軌道線上の存在位置に横方向で500(cm)(3マス分の検索グリッドにクラスタデータが検知される)を超える物体が検知された場合は、軌道線上に列車が検知されたと認識する。
【0026】
一方、人物や物体等の障害物ならば経時的な測定で1マスの検知が繰り返される、若しくは、物体が移動する毎に検知されるマス目の位置が移動する可能性があるので、これらを考慮して検索グリッドのサイズを変更制御する。
例えば、当初設定したグリッド角200(cm)から、監視領域内においてある物体を検知した場合、グリッド角の大きさを200(cm)→50(cm)に制御して、対象が人物であると検知する。更に、グリッド角を50(cm)→20(cm)・・・5(cm)まで変更制御することで、人物の進入や石などの軌道線上の列車走行の障害となる位置(場所)に存在する物体の大きさや形状を特定することができる。
【0027】
このように、監視領域で検知された軌道線上の物体について、物体の座標データが占める割合で障害物体の大きさを認識することができる。検索グリッドのサイズを細分化制御することで、物体検知への確からしさ(解像度)が上がり、物体の形状についても認識することが可能となる。
【0028】
図11は、物体の検知部1804におけるグリッド角の制御動作を示す。
本発明は、軌道線上において列車の走行に障害となる物体を検知する。そこで、検知部1804において検知された物体が列車であるかを判定し(S1101)、検知された物体が列車であると判断された場合は、正規の検知物であるため、物体の大きさや形状を特定する必要がなく、正常検知として終了する(S1106)。
【0029】
物体が列車であると判断されない場合は、障害物体の可能性があるので、物体の大きさや形状を特定する処理を行う(S1102)。その結果、検知した物体の大きさや形状を特定については、グリッド角の制御を行う(S1103)。その場合、少なくとも一度以上、対象検知物体の特定データを記憶する物体特定DB1824の内容と測定されたデータとを比較する(S1104)。その結果、測距データに関係する何れのデータも物体特定DB1824に存在しない、つまり、物体の大きさや形状の特定が不要と判断された場合は、特定不要として終了する(S1102、S1106)。
【0030】
一方、物体の大きさや形状を特定することが必要な場合、例えば測定当初のグリッド角200(cm)から、監視領域内においてある物体を検知した場合、グリッド角を200(cm)→50(cm)に制御して、検知対象物体を例えば人物と判定する。
ここで、検索グリッドによるグリッド角サイズを制御し、検知物体の大きさから人物を特定する場合の例について説明する。
【0031】
<例1>人物を検知する例
(a)物体特定DB1824には、特定対象の物体として、人物(1cm角)が、50マス×50マスと登録されている。
(b)この状態で、レーザセンサにより物体が検知され、経時的な測距データから物体の存在位置と、予め設定された検索グリッドサイズからクリッド角のマス数データが得られる。
測距データ(検索グリッド50cm角設定)からマス数で50cm角:1マス×1マスを取得の場合、縮尺率としてb)を50倍してa)と対照すると、
(1cm角:50マス×50マス)=(50cm角:50マス×50マス)・・・(1)
となることから、検索グリッドの大きさから特定された物体は、人物であることが分かる。
【0032】
<例2>列車を検知する例
(a)物体特定DB1824には、特定対象の物体として、列車(1cm角)が、400マス×400マス)が登録されている。
(b)測距データ(検索グリッド200cm角の設定)からマス数で200cm角/2マス×10マスを取得の場合、縮尺率としてb)を200倍してa)と対照すると、
(1cm角:400マス×400マス)=(200cm角:400マス×2000マス)・・(2)となる。
ここで、列車が特定される場合は、検索グリッド角において、横方向:200cm角:2000マスとなっても、監視領域における物体の大きさを考慮した概念的な判定(物体特定DB1824登録の大きさと合致による物体特定、同DBの大きさを超える物体であることから物体を特定など)を以て、判断することが可能となる。
【0033】
上記のように、物体特定DB1824に登録されたクリッド角のマス数データと、縮尺率として検索グリッド設定角の値を乗じ、対照することにより物体の特定することができる。ここで用いられる縮尺率は、上記(1)(2)式から、検索グリッド設定角値を乗じることが分かる。
このようにして、グリッド角サイズは制御により変動しても、物体特定DB1824に登録された物体特定基準と縮尺率を用いて照合することで、容易に物体を特定することがでる。
【0034】
次に、物体の大きさや形状が特定できたかの判断(S1105)において、大きさや形状が特定できないと判断された場合には、再度、ステップS1102を経由して、上記した処理を繰り返す。即ち、更に、グリッド角を50(cm)→20(cm)→5(cm)と段階的に変更して、軌道線上の列車走行の障害となる位置に存在する物体(人物や石など障害物)の大きさや形状を特定する(S1103)。
そして、予め登録される対象検知物体を示す物体特定DB1824の物体の大きさに関する情報と、グリッド角内に存在する物体の座標データが占める割合を以って測定した物体の大きさとを比較する(S1104)。比較の結果、検知された物体が対象検知物体との比較一致から物体の大きさや形状を特定できたと判断すると(S1105)、処理を終了する。
なお、雨、ごみ屑や空中を舞う浮遊物などの物体検知は、一時的に測距されるポイントデータをクラスタ処理にて連続するデータで纏まりとして処理することにより、適切に除去され良好に物体検知をすることができる。
【0035】
[実施例1]
図2は、監視領域の軌道線上に障害物体を検知した例を示す。
この検知システムにおいて、2つのレーザセンサを使用し、監視領域の軌道線上の障害物体の位置検知と、大きさや形状を特定する例について説明する。
レーザセンサは、直交座標(座標値)と監視領域に対してどの方向を向いているかの水平角度を示し、例えば水平を0°とし、そこから垂直方向にn°(0°≦n≦180°)まで回転した場合の値を示すものである。
図2に示す例では、背景DB1821(図3)は、角度0.5°毎に取得された背景データ142、背景データ141、即ちレーザセンサ121と背景142との距離について、及びレーザセンサ122と背景141との距離を示す測距データを記憶することになる。
【0036】
図8は、直交座標と角度変換におけるクラスタ検出の処理を示す。
初期化処理では、レーザセンサの位置設定、監視領域、検索グリッドのサイズ等の各種設定を行う(S801)。
ここで、レーザセンサの位置設定とは、例えば、(S802〜S803での)複数のレーザセンサからの測距データを1つの測距データとして重ね合わせて統合するときに、監視領域を1枚の絵に描写するキャリブレーションをした場合、監視領域に対して各レーザセンサの位置を登録しておくことを意味する。
【0037】
また、検索グリッドの設定とは、例えば、(S805で)監視領域内を一定の面積を持ったマス目に区切ることを意味し、実施例1〜3においては、監視領域が軌道線上に設けられる場合は、列車か、それ以外の障害物体かを大きさを以て判断できれば良いので、50(cm)角程度の検索グリッドが設定される。但し、検索グリッドは、監視領域における検知対象物を予め登録しておくことで、これとの比較により、大きさから物体を容易に特定すること、検索グリッドのサイズ変更により(物体検知への確からしさ)解像度を上げることで、物体の形状を表示することもできる。
【0038】
背景データ取得処理(S802)では、初期化処理(S801)の後に、軌道線上に背景以外に列車、障害物体が存在しない状態において、背景142、背景141をレーザセンサ121、122でそれぞれ取得する。
各レーザセンサから得られる測距データ(この場合は背景データ)は、各レーザセンサの位置を考慮したデータ配置(キャリブレーション)を以て重ね合わせて統合し、背景DB1821(図3)に保存する。
【0039】
測距データ受信処理(S803)では、監視時間の経過後も、経時的に得られる測距データのレベルについて、認識可能レベルまでのレーザ光が反射されているかを判断し、認識可能レベルの場合は、測距データから物体の形状を、連続する点の集まりの座標値をポイントデータとして連続的に記憶する。この場合のポイントデータは、(角度、距離)データから直行座標系データに変換されたものであり、背景データと差分を減じた、レーザセンサで検出された物体データである。
【0040】
クラスタ検出処理(S804)では、この測距データから物体の形状を連続する座標値をポイントデータとし、更に、周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで固有IDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理をすることで、軌道線上の物体の存在位置を検知する。
【0041】
障害物体の判断(物体大きさ特定)の処理(S805)では、検知された障害物体について、監視領域に予め設定される検索グリッドを用いてグリッド角に占める座標データの割合を似て、その大きさを特定する。更に検索グリッドを小さいサイズに設定変更し、物体の形状把握することも可能である。
【0042】
物体の存在する位置の検知処理(S806)では、クラスタ検出処理(S804)にて、固有のIDが付与され、中心座標が求めたクラスタ処理された1つの測距データから対象となる軌道線上の障害物体の存在する位置座標を検知から画面表示処理(S807)へ遷移し、検知物体が列車の場合は、測距データ受信処理(S809)へ遷移する(S806)。
【0043】
画面表示処理では、上記の処理(S801〜S806)までで求められた、クラスタ処理された中心座標と、物体の存在座標を表示装置に表示する(S807)。また、警報通知処理(S808)では、障害物体検知された場合において、画面表示処理(S807)と共に、警報通知する。
【0044】
検知終了判定の処理(S809)では、軌道線上の監視領域に(障害)物体が検知されている状態、又は検知を継続する場合は、測距データ受信処理(S804)へ遷移し、物体が検知されなくなった状態、若しくは検知終了を判断する。
【0045】
本実施例によれば、障害物体が動きを伴う場合においても、検索グリッドにより、一旦、その大きさが特定され、固有IDを付与して監視できた時点で、これをDBに記憶するので、連続する物体の動きに対して、固有IDを以て、正確に存在位置、大きさ、若しくは形状を表示することができる。
【0046】
また、本図に示される軌道線上の物体は、検索グリッドにより物体の大きさが列車と異なるサイズと認識されることで、障害物体検知による画面表示処理(S807)、又は警報通知処理(S808)が実行される。なお、軌道線上に列車を検知した場合における処理については、後述の[実施例2]にて説明する。
【0047】
複数のレーザセンサどうしの検知タイミングや位置、角度のズレ等により生じる物体位置の微少不一致については、データ統合手段にてレーザセンサ121、レーザセンサ122による各々の測距データは、各レーザセンサの位置を考慮した配置(キャリブレーション)を以て重ね合わせて統合し、1つの測距データとする。
また、物体の大きさ判断により、予め監視領域で測距対象となる物体を予想し、そのサイズ(目安値)を登録しておき、検索グリッドを以て得られる物体サイズと比較することで、対象物体を判断することができる。
【0048】
[実施例2]
図9は、監視領域の軌道線上に列車を検知した例を示す。
初期化処理(S801)から軌道線上の物体の存在位置検知(S806)は、前述の[実施例1]に説明される通りである。
障害物体の判断/物体大きさ特定では、列車90について監視領域に予め設定される検索グリッドを用いてグリッド角に占める座標データの割合を似て、その大きさを特定する。
【0049】
検知物体の列車判断として、通常の列車は、1両当たりの長さが約2000(cm)であり、障害物体を検知するための検索グリッドを、50(cm)角,100(cm)角、2000(cm)角に設定した場合においても、列車は、明らかに大きい(移動方向に対しては長い物体と認識され得る)物体が軌道線上に検知されることから、障害物体ではないと判断する。
軌道線上は、通常、列車の走行が前提であるため、列車以外(保守などの特別な条件を除く)の障害物体を検知した場合は、列車よりも小さい(移動方向に対しては短い物体と認識され得る)サイズの物体が検知されることになる。
検索グリッドは、物体の大きさを容易に特定するためのスケール(定規)としていることから、監視中においても、そのサイズを可変して、物体の確からしいサイズの特定や形状を表示することも可能である。
【0050】
なお、図9において、レーザセンサの測距により軌道線上の列車までの距離dは周知の方法を用いて算出することができる。即ち、軌道線上を走行する列車について(障害物体の検知は除外される)は、監視領域内の監視において、測距する列車までの大きさやその移動方向に一定の条件を設定することで、軌道線上の列車形状を連続する点の集まり(座標値データ)として認識し、これによりレーザセンサから列車までの距離を求めることができる。
【0051】
[実施例3]
図10は、レーザセンサを用いた物体検知の動作を示すフローチャートである。
この例は、レーザセンサからの測距結果と、測距データを受信するごとに予め保存した背景データとの比較処理をすることで、物体の存在を検知する。
まず、初期設定として監視領域、監視時間や検知条件をDBに保存する(S1001)。
背景データ取得をするため、監視領域11を背景以外が存在しない無人の状態において測距を実施し、測距完了にて背景データを背景DB1821(図3)に保存する(S1002)。監視領域が変更、或いは再設定されたときには、この処理を繰り返すことで背景データを更新することができる。
【0052】
次に、監視領域を監視時間の経過ごとに、経時的に物体までの距離を測距して測距データを取得する。測距データの反射光が判定可能レベルで測距データが取得された場合には、先の処理(S1002)で取得した背景データと比較をして、監視領域に存在する物体の形状を連続する点の集まりの座標値として、ポイントデータとして測距データDB1822(図4)に保存する。(S1003)。
【0053】
ポイントデータとして測距データDBに保存された座標値を近接した周辺データとして纏めて、クラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、中心座標を求めるクラスタ検出処理を行い、結果をクラスタDB823(図5)に保存する(S1004)。
この処理において、測距データの反射光が判定レベル以下で測距データが取得されなかったとの判定が経時的に発生しているかを検出する。
【0054】
経時的に反射光が判定レベル以下である状態を検出している場合には、レーザセンサへの反射光において乱反射が発生したと判断し、背景データと測距データとの差分を抽出と、背景DBから背景データの値を読み出してポイントデータに変換したデータである消失点(図示していない)の各消失点座標と、各レーザセンサ座標とを結ぶことによって描かれ、図形ごとに領域IDという固有IDを付与して頂点を求める物体の存在領域を検出して、物体の存在領域を検知する(S1005)。
障害物体の存在領域の検知により、障害物体の存在位置を表示装置183に表示し、かつ警報装置(図示せず)に対して警告を発信する(S1006)。
以上、一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、更に変形したり応用して実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
11:監視領域 12、121、122:レーザセンサ
141:背景A、142:背景B 18:レーザ制御装置 180:データ処理部
1802:統合部 1804:検知部 182:DB 183:表示装置 184:入力装置
20:障害物 29:検索グリッド 61:検索グリッド 62:領域A 63:領域B
64:検知結果A 65:検知結果B 90:列車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザセンサを用いて監視領域を照射して、得られた測距データを用いて軌道線上の列車走行への障害物体を検知する物体検知システムであって、
複数のレーザセンサからの複数の座標データを1つにデータ統合する統合部と、
監視領域内を、縦横のマス目(グリッド角)に細分化して検索グリットを規定すると共に、該検索グリッドのグリッド角を変更制御するグリッド制御手段と、
検知対象の物体とマス目情報との関係を予め登録する物体特定DBと、
予め監視領域における背景データを取得し、これと、経時的に得られる統合された座標データとの比較差分から対象物体の存在位置を検知する機能と、該グリッド制御手段により変更制御される検索グリッドのグリッド角に占める座標データの割合と、該物体特定DBに登録される物体の大きさに関するマス目情報とを演算、対照して、物体の大きさや形状を特定する物体検知部と
を有することを特徴とする物体検知システム。
【請求項2】
前記統合部は、複数のレーザセンサからの座標データを複数のレーザセンサの配置を考慮したキャリブレーションを以て統合処理をする機能を有し、
前記物体検知部は、物体の形状を連続する座標点であるポイントデータとし、これの周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理と、予め取得される背景データと、経時的に測距して得られる座標データとを比較処理して物体の存在位置を検知する機能を有し、
さらに、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報と、前記グリッド制御手段にて監視領域内をマス目に細分化する検索グリッドを設け、グリッド角に占める座標データの割合を演算、対照して物体の大きさや形状を特定する機能と
を有することを特徴とする請求項1の物体検知システム。
【請求項3】
複数のレーザセンサを用いて監視領域を照射して、得られた測距データを用いて軌道線上の列車走行への障害物体を検知する物体検知方法であって、
複数のレーザセンサからの複数の座標データを1つにデータ統合する統合ステップと、
監視領域内を、縦横のマス目(グリッド角)に細分化して検索グリットを規定すると共に、該検索グリッドのグリッド角を変更制御するグリッド制御ステップと、
検知対象の物体とマス目情報との関係を予めDBに登録する登録ステップと、
予め監視領域における背景データを取得し、これと、経時的に得られる統合された座標データとの比較差分から対象物体の存在位置を検知し、前記グリッド制御により変更制御される検索グリッドのグリッド角に占める座標データの割合と、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報とを演算、対照して、物体の大きさや形状を特定する物体検知ステップとを有することを特徴とする物体検知方法。
【請求項4】
前記統合ステップでは、複数のレーザセンサからの座標データを複数のレーザセンサの配置を考慮したキャリブレーションを以て統合処理をする統合ステップを有し、
前記物体検知ステップでは、物体の形状を連続する座標点であるポイントデータとし、これの周辺ポイントデータをクラスタと呼ぶ纏まりで区別して固有のIDを付与し、その中心座標を求めるクラスタ処理と、予め取得される背景データと、経時的に測距して得られる座標データとを比較処理して物体の存在位置を検知する検知ステップを有し、
さらに、予め登録される物体の大きさに関するマス目情報と、グリッド制御ステップにて監視領域内をマス目に細分化する検索グリッドを設け、グリッド角に占める座標データの割合を演算、対照して物体の大きさや形状を特定する処理ステップと、
を有することを特徴とする請求項3の物体検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−46062(P2012−46062A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189567(P2010−189567)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【Fターム(参考)】