説明

物体識別方法および装置

【課題】 砲弾のX線透視画像からその特徴量(特徴情報)を精度良く求めて砲弾の種別を精度良く識別することのできる物体識別方法および装置を提供する。
【解決手段】 砲弾における損壊し易い部品部分の画像成分をX線透視画像から除去した後、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記砲弾の外形や構造を検出する為の閾値を決定し、この閾値に基づいてX線透視画像から抽出された画像成分から前記砲弾の特徴量を検出してその種別を判定する。特に肉厚の砲弾底部を基準として砲弾の特徴量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地中等に放置されていた砲弾の種別を、そのX線透視画像から識別するに好適な物体識別方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長期間に亘って地中等に放置されていた砲弾を回収して廃棄処理する場合、その砲弾の種別を識別することが重要である。このような物体の識別は、専ら、X線装置を用いて検査対象物である砲弾のX線透視画像を得、その外形形状や内部構造の特徴を調べることにより行われる(例えば特許文献1を参照)。具体的には砲弾の外形寸法、その内部構造物の有無や大きさ等の特徴量を求め、これらの特徴量に従って砲弾の種別が判定される。
【特許文献1】特開2003−90700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら検査対象物である砲弾が長期間に亘って地中等に放置されていた場合、腐食や付着物の影響によってその外形や内部構造が変形している虞がある。これ故、検査対象物(砲弾)のX線透視画像を得ても、そのX線透視画像から砲弾の種別を判定するに必要な特徴点の情報、例えば最大砲弾径や伝火薬筒の長さ、更には炸薬筒の有無等を正確に抽出することが困難なことが多々ある。例えば検査対象物である砲弾が薬莢、弾頭栓、尾翼等の付属物を含んでいると、X線透視画像に写り込んだ上記付属物からその弾底部等を誤検出する虞があり、砲弾自体の特徴量を正確に検出することが困難となる。また腐食や付着物の影響を受けて砲弾筒部の厚みが変化しているような場合、最大砲弾径等の特徴的な寸法・構造、更にはその内部構造物の特徴量を正確に求めることが困難となる。
【0004】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、例えば長期間に亘って地中等に放置されていたことに起因して腐食や変形を生じた砲弾であっても、そのX線透視画像から各種の砲弾に固有な特徴量(特徴情報)を精度良く求めることができ、その特徴情報に従って砲弾の種別を精度良く識別することのできる物体識別方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するべく本発明に係る物体識別方法は請求項1に記載するように
<a> 外形および内部構造物に特徴を有する検査対象物のX線透視画像を得、このX線透視画像から求められる上記検査対象物の特徴量から該検査対象物の種別を判定するに際して(前提条件)、
<b> 前記検査対象物における損壊し易い部品部分の画像成分を前記X線透視画像から除去した後、
<c> 前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を決定し、
<d> この閾値に基づいて前記X線透視画像から抽出された画像成分から前記検査対象物の特徴量を検出して該検査対象物の種別を判定する
ことを特徴としている。
【0006】
好ましくは請求項2に記載するように前記検査対象物が、地中等に長期間に亘って放置されていた砲弾である場合には、この砲弾における薬莢、弾頭栓、および尾翼等の部品に相当する画像部分を前記X線透視画像から除去した後、前記X線透視画像から前記砲弾の画像領域の抽出に用いる為の閾値を、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムがピークとなる輝度レベルに基づいて設定する。そしてこの閾値に従って前記X線透視画像から抽出した画像領域において前記砲弾の特徴部分を検出することで、その前記特徴量を、例えば最大砲弾径、炸薬筒の有無、伝火薬筒の長さ等として求めることを特徴としている。
【0007】
特に請求項3に記載するように前記伝火薬筒の長さ等については、前記X線透視画像から検出される特徴点の1つである砲弾の弾底部を基準とし、この基準点から各特徴点までの距離をそれぞれ高精度に計測した上で、これらの計測値からその特徴量を逆算する等して求めることを特徴としている。つまり砲弾の弾底部のように腐食・変形し難い部位を計測の基準点として設定し、この基準点からの各特徴点の位置関係をそれぞれ正確に計測することで前記伝火薬筒の長さ等を正確に求めることを特徴としている。
【0008】
また本発明に係る物体識別装置は請求項4に記載するように
<A> 外形および内部構造物に特徴を有する検査対象物のX線透視画像を得るX線透視装置と、上記X線透視画像を画像処理して前記検査対象物の種別を判定する画像処理装置とを備えたものであって(前提条件)、
前記画像処理装置は、
<B> 前記検査対象物における損壊し易い部品部分の画像成分を前記X線透視画像から除去する第1の画像処理手段と、
<C> 前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を決定し、この閾値に基づいて前記X線透視画像中における前記検査対象物の特徴部分を抽出する第2の画像処理手段と、
<D> この第2の画像処理手段にて抽出した上記特徴部分における特徴量を求め、その特徴量に従って前記検査対象物の種別を判定する判定手段と
を具備したことを特徴としている。
【0009】
好ましくは請求項5に記載するように前記検査対象物が地中等に放置されていた砲弾である場合には、前記第1の画像処理手段においては、前記砲弾における薬莢、弾頭栓、尾翼等の付属部品の前記X線透視画像中における画像領域を検出して当該画像領域を画像処理対象から除外する。また前記第2の画像処理手段においては、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムがピークとなる輝度レベルを前記砲弾の外筒部を特定するレベルであると看做し、この輝度レベルを砲弾領域を規定する閾値として前記X線透視画像中における前記砲弾の特徴部分を抽出して特徴量の検出に供するように構成される。
【0010】
更には請求項6に記載するように前記判定手段においては、前記第2の画像処理手段にて求められた前記検査対象物の複数の特徴部分における特徴量を、前記検査対象物の予め変形し難いことが明らかな部位を基準として計測される上記特徴部分までの計測値からそれぞれ求めるように構成される。
尚、前記検査対象物の予め変形し難いことが明らかな部位は、例えば請求項7に記載するように長期間に亘って地中等に放置されていた砲弾であっても、腐食や変形が殆ど生じることのない所定の厚みを有する弾底部として設定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る物体識別方法および装置によれば、検査対象物における損壊し易い部品部分、具体的には砲弾における薬莢、弾頭栓、尾翼等の付属部品の画像成分を前記X線透視画像から除去した後、更に前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を決定し、この閾値に基づいて前記X線透視画像から前記検査対象物の特徴量を検出するための画像領域を切り出すので、検査対象物(砲弾)の腐食や付着物に起因する変形に拘わることなく、その種別の判定に必要な特徴量を精度良く検出することが可能となる。
【0012】
特に砲弾における薬莢、弾頭栓、尾翼等の付属部品の画像成分をX線透視画像から除去するので、種別の判定に必要な特徴量を含む砲弾領域を正しく検出することができる。更には輝度ヒストグラムに基づいて決定された閾値に従って前記X線透視画像から砲弾領域を抽出するので、砲弾の外表面等における腐食や付着物による外形変形の影響を受けることなしに砲弾領域の画像だけを正確に抽出することが可能となる。この結果、最大砲弾径等の特徴量を高精度に計測することが可能となり、またその内部構造等を精度良く認識することが可能となるので、これらの特徴情報に基づいて検査対象物(砲弾)の種別を高精度に識別することが可能となる。
【0013】
更には砲弾の特徴量を検出するに際して、砲弾の弾底部のように腐食・変形し難い部位を基準とし、この基準位置からの各特徴点の位置関係をそれぞれ計測して、例えば砲弾内部の伝火薬筒の長さ等を逆算するので、その特徴量を精度良く求めることが可能となる。ちなみに従来のように砲弾頭を基準とした場合、砲弾頭の位置自体が弾頭栓の有無やその変形等に起因して変化する虞がある。従って上述したように砲弾の弾底部を基準として砲弾各部の特徴量を計測れば、その基準自体を安定に定めることができるので、特徴量に対する計測精度を十分に高めることができ、これによって種別判定の信頼性を容易に高めることが可能となる。
【0014】
従って本発明によれば検査対象物(砲弾)の変形の影響を受けることなく、そのX線透視画像から求められる特徴量に従って上記検査対象物(砲弾)の種別を精度良く識別(判定)することができる等の実用上多大なる効果が奏せられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る物体識別方法および装置について、地中等から掘り出された各種砲弾の識別検査を例に説明する。
図1は砲弾(検査対象物S)のX線透視画像を得、このX線透視画像を画像処理して上記砲弾の種別を識別する物体識別装置の要部概略構成図である。この物体識別装置は、概略的にはX線透視装置10と、砲弾(検査対象物)Sを移送して上記X線透視装置10による透視検査に供するコンベア機構20と、前記X線透視装置10を用いて得られる砲弾(検査対象物)SのX線透視画像を入力して前記砲弾(検査対象物)Sの種別を判定する画像処理装置30とを備える。
【0016】
コンベア機構20は、インバータ21により回転駆動されるモータ22を動力源として搬送駆動されるベルトコンベア23からなり、砲弾(検査対象物)Sはこのベルトコンベア23上に載置されて前記X線透視装置10による透視検査に供される。特に概略円柱形状をなして転がり易い砲弾(検査対象物)Sは、例えば架台24上に載置され、その転がりが防止された状態で前記コンベア機構20による搬送に供される。尚、コンベア機構20による砲弾(検査対象物)Sの搬送は、例えば砲弾(検査対象物)Sの軸方向を前記コンベア機構20の搬送方向に揃えた状態で行われる。
【0017】
一方、前記X線透視装置10は、前記コンベア機構20の側部に設けられて、X線制御装置11により駆動されて前記コンベア機構20による搬送路を略直角に横切るX線を発生するX線発生装置12と、前記コンベア機構20を挟んで前記X線発生装置12に対峙して設けられて前記砲弾(検査対象物)Sを透過したX線を検出するラインセンサ13とを備える。このラインセンサ13は、図2に示すようにベルトコンベア23上の砲弾(検査対象物)Sを輪切りにした状態で、その断面におけるX線透過量を線状に検出する役割を担う。
【0018】
このようにしてラインセンサ13にて線状に検出されるX線透過量の情報を前記ベルトコンベア23による砲弾(検査対象物)Sの搬送(移送)に同期して該砲弾(検査対象物)Sの軸方向に異なる各部位毎に順次得、これらの各部位でのX線透過量の情報を前記ベルトコンベア23の搬送方向(砲弾Sの軸方向)に繋ぎ合わせることで前記砲弾(検査対象物)Sの全体に亘る1枚(1フレーム)のX線透過画像が求められる。
【0019】
一方、例えばマイクロコンピュータを主体として構成される画像処理装置30は、上述したラインセンサ13を介して検出される前記砲弾(検査対象物)Sの全体に亘るX線透過画像を取り込んで画像処理に供するフレームグラバ31を備える。そして画像処理装置30は、上記砲弾SのX線透過画像に対して後述する画像処理を施すことで、前記砲弾Sの外形やその内部構造に対する特徴情報を得、更にその特徴量を求めることで検査対象物である砲弾Sの種別を識別している。
【0020】
尚、図中32は前記画像処理装置30に組み込まれて前述したX線透過画像の表示や、その画像処理結果の表示等に用いられるディスプレイである。また図中33は、画像処理の為の各種制御パラメータの入力等に用いられるキーボードであり、更に図中34は前記ディスプレイ32に表示された各種情報に対するポインティングデバイスとしてのマウスである。
【0021】
ここで前記画像処理装置30における前記砲弾(検査対象物)SのX線透過画像に対する画像処理について説明すると、この画像処理は基本的には図3に示す手順に従って実行される。
即ち、前記X線透視装置10を用いて求められた砲弾(検査対象物)SのX線透過画像が求められると(ステップS1)、画像処理装置30においては、先ず上記X線透過画像に対する濃度変換処理を実行する(ステップS2)。この濃度変換処理は、X線透過画像中の主として砲弾を透過した領域の輝度レベルが低くなった部分(暗い部分)における輝度差を引き延ばすことで(拡大して)、砲弾における特徴部が明確に表れるようにする処理からなる。即ち、X線透視画像における砲弾部分の画像は、砲弾の弾殻が厚いが故に低輝度レベルの画像成分に偏ることが多い。そこで低輝度レベルでのコントラストを高くして砲弾における特徴部の特徴を明確に表すべく、例えば図4に示すようなセンサ出力に対する表示明度の関係に従ってX線透視画像を濃度変換処理し、砲弾を透過した部位におけるX線透過画像の明暗差を大きくし、逆に砲弾を透過することのない高輝度レベルの背景部分のコントラストを圧縮する。この結果、例えば図5(a)(b)に示すように砲弾部分の特徴を幅広く階調表現した画像を得る。
【0022】
しかる後、前記X線透過画像中から砲弾の特徴を明確に表現する砲弾領域だけを抽出する(ステップS3)。この処理は砲弾以外のノイズ要素、具体的には砲弾における薬莢、弾頭栓、尾翼等の付属部品の画像成分を、例えばその画像領域の連続性や輝度レベルの違い等を利用して検出し、これらの情報を画像処理対象から除外する処理からなる。即ち、図5(a)(b)に示したように砲弾のX線透過画像には、その砲弾部に付属する薬莢、弾頭栓、尾翼等の画像成分が含まれることが多々ある。しかもこれらの付属部品は腐食等に起因して砲弾部に比較して大きく変形していることが多く、砲弾の種別を特定する特徴に関与していないことが多い。
【0023】
そこで、例えば前記X線透過画像に対してメディアンフィルタ処理を施して1画素幅のノイズ成分を除去する。更には上記X線透過画像を2値化処理した後、その2値化画像を所定回数に亘って収縮・膨張処理を施して線状部分を除去し、また孤立した微小な画像領域を検査対象から除去する。即ち、図5(b)に示すようなX線透過画像を所定の閾値にて2値化した場合、例えば図6(a)に示すようにその2値化画像を得ることができる。このような2値化画像に対して収縮処理を施せば、図6(b)に示すように所定幅以下の細線部分が画像領域の収縮によって消滅し、この収縮画像を膨張処理すれば図6(c)に示すように或る大きさを有する画像領域だけが残されることになる。その上で、所定面積以上の画像領域を砲弾部分として判定し、この砲弾領域から孤立している画像領域を上記砲弾に付属している部品部分であると判定すれば、図6(d)に示すようにその付属品部分を除去した砲弾部分の画像だけを抽出することが可能となる。
【0024】
このようにして形状変形している可能性の高い砲弾の付属部品(薬莢、弾頭栓、尾翼等)の画像成分を除去し、砲弾部分の画像領域だけを抽出したならば、その砲弾領域に関する特徴情報、具体的にはその面積や輝度平均値、輝度分散値等を保存する。その上で砲弾の中心軸を求め(決定し)、この中心軸が水平になるように画像を回転させて、その後の特徴量検出の為の画像処理の容易化を図る(ステップS4)。この画像の回転処理については、例えば上記砲弾領域のモーメントを計算し、一次モーメントからその重心位置を求める。次いで上記重心位置と砲弾領域の二次モーメントとから重心を通る主軸(砲弾の中心軸)の傾きを求め、この傾きに従って砲弾の中心軸が水平となるように画像を回転処理するようにすれば良い。
【0025】
以上のようにしてX線透過画像に対する前処理を終了したならば、次に上記砲弾の画像からその外形に関する特徴量、具体的には砲弾の長さ、弾頭部および弾底部の幅、最大砲弾径をそれぞれ計測し、更には弾頭栓の有無を判定する(ステップS5)。次いで前記X線透過画像から砲弾の内部構造を調べ、特に砲弾内部の伝火薬筒を検出して該伝火薬筒に関する特徴量、具体的には伝火薬筒の位置、伝火薬筒の長さとその幅、砲弾の中心軸に対する芯ずれ量等をそれぞれ計測する(ステップS6)。
【0026】
しかる後、前記X線透過画像から砲弾の内部に炸薬筒が存在するか否かを調べ、炸薬筒が存在する場合には、その位置、長さ、幅、砲弾の中心軸に対する芯ずれ量等の炸薬筒に関する特徴量をそれぞれ計測する(ステップS7)。そして上述したようにして砲弾の幾つかの特徴部分に関する特徴量をそれぞれ求めたならば、これらの特徴量を総合判定し、予めデータベース(図示せず)に蓄積されている各種砲弾の特徴と照合する等して検査対象としている砲弾の種別を判定する(ステップS8)。
【0027】
即ち、検査対象とする砲弾は、その種別に応じた異なる特徴を有している。例えば図7(a)〜(h)に代表的な砲弾の特徴を示すように、いわゆる75mm弾、90mm弾、105mm弾、150mm弾によってその弾殻1がなす外形形状と大きさ(弾径、長さ)が異なると共に、その内部構造物である伝火薬筒2の長さが異なる。また砲弾の種別によって炸薬筒3を備えたもの(いわゆる赤弾)と、備えていないもの(いわゆる黄弾)とがある。その他にも、いわゆる青白弾等と称される砲弾もあるが、ここでは省略する。従って前述したX線透過画像から上述したステップS6,〜S8によりそれぞれ求められる砲弾の特徴を調べれば、その特徴量から検査に供した砲弾の種別を識別することが可能となる。
【0028】
しかしながら検査対象とする砲弾は、前述したように長期間に亘って地中等に放置されていたものであり、腐食や付着物(泥や錆)によって形状変形していることが多い。そしてこの形状変形に起因してX線透過画像における弾殻の厚みが変化し、その最大砲弾径が誤って計測される虞がある。しかも砲弾の弾殻1とその内部構造物である炸薬筒3の区別がつき難くなることもある。更にはアダプタが装着される弾頭部の変形に起因して、その内部構造物である伝火薬筒2の長さが誤って計測される虞もある。
【0029】
具体的には
(a) 泥や錆等の付着物の影響により最大砲弾径が実際の砲弾径よりも大きく計測される
(b) 付着物の影響により付着物と弾殻1との境目を炸薬筒3との境目であると誤判定し、炸薬筒3の有無が誤って判定される
(c) 薬莢を砲弾の一部として誤検出し、砲弾外形の抽出が失敗する
(d) 弾頭栓の有無を誤判定し、弾頭部の位置検出に失敗して砲弾の長さや伝火薬筒2の長さが誤計測される
等の不具合が生じ易い。
【0030】
そこで本発明においては前述した如くしてX線透過画像から砲弾の特徴量を検出するに際して前記X線透視画像の輝度ヒストグラムを求め、この輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を設定するようにしている。具体的にはX線透視画像の輝度ヒストグラムがピークとなる輝度レベルが、主として砲弾の弾殻(外形部)1を表していることに着目し、輝度ヒストグラムにおいてピークとなる輝度レベルに基づいて閾値を動的に設定し、この閾値を用いて前記X線透過画像から砲弾領域を抽出するようにしている。
【0031】
即ち、砲弾の外形を正確に認識してその最大砲弾径を計測する場合には、X線透過画像から砲弾(弾殻)表面への付着物を確実に除去し、砲弾領域だけを抽出し得る閾値を最適設定することが重要である。そこで砲弾のX線透過画像における輝度レベルのヒストグラムを求めてみたところ、砲弾における弾殻1の厚みによってピークをとる輝度レベルが変化し、またこのピークをとる輝度レベルを境として、低輝度レベル側に砲弾の画像成分が集中して存在することを見出した。
【0032】
具体的には図8に炸薬筒を有する75mm弾(黄弾)の輝度ヒストグラムの例Aと、炸薬筒を有する90mm弾(黄弾)の輝度ヒストグラムの例Bとをそれぞれ示すように、砲弾領域を形成する画像成分の輝度レベルは、或る輝度レベルをピークとした低輝度レベル側に分布する。そして上記ピークをとる輝度レベルが砲弾の外殻(弾殻)の厚みによって変化することから、当該輝度レベルは、専ら上記砲弾の外殻(弾殻)部分の輝度を表していると認められる。また上記ピークをとる輝度レベルを超える高輝度の画像成分の出現頻度は急激に低下し、これらの高輝度レベルの画像成分は、専ら砲弾の内部空間を透過した成分や、砲弾の周囲の背景部分の画像成分を示していると認められる。
【0033】
そこで本発明においては上述したヒストグラムがピークをとる輝度レベルを基準として砲弾領域を抽出する為の閾値を動的に設定し、この閾値が砲弾の弾殻とその背景との境界を形成していると看做して前記X線透過画像から砲弾領域を抽出するようにしている。この結果、砲弾の弾殻部分での輝度レベルとその周囲に付着した泥や錆等の付着物との輝度レベルとの微妙な差を弁別可能な閾値を最適設定することが可能となり、砲弾に付着した泥や錆等の画像成分を除去し、弾殻に囲まれた砲弾領域だけを精度良く切り出すことが可能となる。従って砲弾の最大砲弾径やその砲弾長等の特徴量を精度良く計測することが可能となる。
【0034】
ここで前述したステップS5,S6,S7にそれぞれ示す外形検出処理、伝火薬筒検出処理、および炸薬筒検出処理について今少し詳しく説明する。
外形検出処理(ステップS5)は、基本的には砲弾の長さ、弾頭部および弾底部の幅、最大弾頭径、および弾頭栓の有無等の特徴量を計測(検出)する処理からなり、例えば図9に示す処理手順に従って実行される。具体的には砲弾の中心軸に沿ってその幅と位置とを検出し(ステップS11)、図10に砲弾の概略的な外形形状を示すように、砲弾幅が最大となる位置とその最大幅とを求めることで弾頭径を計測する(ステップS12)。次いで上記中心軸に沿って砲弾尾部側に向けてその幅を順次調べ、例えば砲弾の重心から所定距離以上離れて、且つ或る幅以上の弾径をなす部分までの位置を求め、その最終位置を弾底部として検出する(ステップS13)。同様に中心軸に沿って砲弾頭部側に向けてその幅を順次調べ、例えば砲弾の重心から所定距離以上離れて、且つ或る幅以上の弾径をなす部分までの位置を求め、その最終位置を弾頭部として検出する(ステップS14)。
【0035】
しかる後、上述した如く求めた弾頭部での幅を基準として、その幅が弾頭部の幅よりも狭くなった領域がどの程度の長さまで続くかを探索する。そしてその長さが、所定長αよりも長い場合には、その画像部位が上記弾頭部に装着された弾頭栓を示していると判定する(ステップS15)。そして弾頭栓が検出された場合には、この弾頭栓を除いた位置を弾頭部であると、弾頭部の位置を修正する。その上で前記弾頭部から弾底部までの距離を砲弾の長さとして求める。尚、弾殻螺歪みがある場合には、上述した如く求められる砲弾の幅の中心位置を結ぶ線は曲線となる。従ってこの曲線と前述した中心軸とのずれ量を検出し(ステップS16)、このずれ量を弾殻の歪みとして求めることも有用である。
【0036】
一方、前述した伝火薬筒の検出処理(ステップS6)は、例えば図11に示す処理手順に従って実行される。即ち、前述したように抽出される砲弾の画像領域において、先ず伝火薬筒の底部検出を行う。この伝火薬筒の底部検出は、X線透過画像に対して横方向のエッジ強調処理を施し、伝火薬筒の底部を含む画像上の縦線成分を強調する(ステップS21)。しかる後、砲弾の中心軸の近傍を探索して弾頭部に近い縦線検出位置を検出し、図12に示す砲弾の弾殻と伝火薬筒との概略的な関係に従って上記検出位置を伝火薬筒の底部として検出する(ステップS22)。尚、縦線を検出することができなかった場合には、伝火薬筒の検出処理を失敗したとする。
【0037】
次いで伝火薬筒の底部の位置、その底部位置から弾頭部までの距離、底部位置から弾底部までの距離等を当該伝火薬筒の底部に関する特徴量としてそれぞれ計測する(ステップS23)。特に砲弾における弾底部は一般に肉厚であり、砲弾が長期間に亘って地中に放置されていたとしてもその変形が極めて少ないと考えられるので、弾底部を基準として伝火薬筒の特徴量を求めることが好ましい。換言すれば砲弾の弾頭部については、弾頭栓の有無等や変形によってその特徴量自体の信頼性が、上述した弾底部に比較して低くなることがあるので、弾底部を基準とした方が伝火薬筒の特徴量を高精度に求めることができると言える。
【0038】
しかる後、伝火薬筒の側面を検出するべく、上記特徴量に従って伝火薬筒底部と弾頭部とを囲む領域近傍にマスク領域を設定し(ステップS24)、伝火薬筒の側面上部および側面下部の特徴量の検出処理に供する。そしてこの伝火薬筒の側面上部および側面下部の特徴量の検出については、先ず前述したX線透過画像に対して縦方向のエッジ強調処理を施し、伝火薬筒の側部を含む画像上の横線成分を強調する(ステップS25)。次いでこの横線成分の強調処理を施した画像を用いて、前述した伝火薬筒底部位置における横線成分を探索し(ステップS26)、その横線成分検出位置を伝火薬筒の側面として検出する。そして伝火薬筒の側面画検出されたならば、その側面部における特徴量を、例えば中心軸からの距離や、そのずれ量等として検出する(ステップS27)。
【0039】
これに対して前述した炸薬筒の検出処理(ステップS7)は、例えば図13に示す処理手順に従って実行される。この炸薬筒の検出処理は、前述した伝火薬筒と異なって炸薬筒の底部が砲弾の底部近傍に存在し、砲弾底部との識別が困難であることから、炸薬筒の側面部の検出処理から行われる。具体的には、一般的には炸薬筒は弾殻の内壁面に沿って存在することから、先ず砲弾の外形領域を収縮させたマスク領域を炸薬筒の存在領域として設定する(ステップS31)。その上で前述したX線透過画像に対するエッジ強調処理を施した後、砲弾の重心位置を基準としてその上方を探索し、図14に示す砲弾の弾殻と炸薬筒筒の位置関係に従って炸薬筒の側面上部を検出する(ステップS32)。同様にして砲弾の重心位置を基準としてその下方を探索し、炸薬筒の側面下部を検出する。尚、所定の範囲内において炸薬筒の側面を検出することができなかった場合には、その検出処理に失敗したとする。そして炸薬筒の側面が検出されたならば、これらの側面上部と下部との距離を炸薬筒の幅として、更には中心軸からのずれをその特徴量として検出する(ステップS33)。
【0040】
しかる後、炸薬筒の底部は、上述した如く検出された側面上部の端部と、側面下部の端部とを結ぶ位置に存在すると考えられるので、これらの端部を内包する矩形領域を炸薬筒底部が存在するマスク領域として設定する(ステップS34)。そしてこのマスク領域における画像の縦線成分をエッジ強調処理して炸薬筒の底部を検出し、その特徴量を求める(ステップS35)。この炸薬筒の底部の特徴量についても、例えば弾頭部からの距離や弾底部からの距離等として求めるようにすれば良い。
【0041】
かくして上述した如くして求めた砲弾の外形に関する特徴量、その内部の伝火薬筒に関する特徴量、更には炸薬筒に関する特徴量に基づいて砲弾の種別を識別する本装置によれば、予め薬莢や弾頭栓等の砲弾の付属部品についての画像成分を除去した状態において、その輝度ヒストグラムに応じて設定した閾値の下で砲弾領域の画像だけを抽出して特徴量の検出処理に供するので、砲弾の変形や付着物の影響を効果的に排除して、その特徴量を信頼性良く検出することができる。従って砲弾の種別判定に対する信頼性を、実用的に十分なレベルまで高めることが可能となる。
【0042】
更には各部の特徴量を検出するに際して、肉厚であるが故に腐食や変形の影響を受け難い砲弾底部を基準として複数の特徴部位の位置関係・寸法等を求めるので、その特徴量自体の計測信頼性を十分に高めることができる。従ってこの点でも、砲弾の種別判定に対する信頼性を十分に高めることができる。特に砲弾の弾頭部には弾頭栓が装着されたり、弾頭栓自体が大きく変形していることも多いので、上述したように砲弾底部を基準として砲弾の特徴量を計測した方が、誤差要因の入り込みを少なくすることができ、簡易にその計測信頼性を高めることが可能となる等の利点がある。
【0043】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えばX線透過画像の輝度レベルのヒストグラムに基づいて設定する閾値については、ピークとなる輝度レベルの近傍において、そのヒストグラム値が急激に低下する輝度レベル等として定めることも可能である。また砲弾の頭部における弾頭栓装着用の凹部を特徴量の検出対象から除外することで、その弾頭部の位置を正確に検出することも可能である。更には特徴量の検出処理手順等については、検出対象やその検出仕様等に応じて種々変更可能である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る物体識別装置の概略構成図。
【図2】X線透視装置による検出対象物(砲弾)のX線透視検査の形態を示す図。
【図3】本発明に係る物体識別の処理手順の一例を示す図。
【図4】X線透視画像に対する濃度変換処理の特性例を示す図。
【図5】砲弾のX線透視画像の例を示す図。
【図6】X線透視画像からの薬莢等の付属部品の除去処理の概念を示す図。
【図7】代表的な砲弾の特徴を示す図。
【図8】砲弾のX線透視画像における輝度ヒストグラムの例を示す図。
【図9】外形検出処理の概略的な処理手順を示す図。
【図10】砲弾の外形とその特徴を模式的に示す図。
【図11】伝火薬筒の検出処理の概略的な処理手順を示す図。
【図12】砲弾における伝火薬筒の構造とその特徴を示す図。
【図13】炸薬筒の検出処理の概略的な処理手順を示す図。
【図14】砲弾における炸薬筒の構造とその特徴を示す図。
【符号の説明】
【0045】
S 検査対象物(砲弾)
1 弾殻
2 伝火薬筒
3 炸薬筒
10 X線透視装置
12 X線発生装置
13 ラインセンサ
20 コンベア機構
30 画像処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形および内部構造物に特徴を有する検査対象物のX線透視画像を得、このX線透視画像から求められる上記検査対象物の特徴量から該検査対象物の種別を判定するに際し、
前記検査対象物における損壊し易い部品部分の画像成分を前記X線透視画像から除去した後、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を決定し、この閾値に基づいて前記X線透視画像から抽出された画像成分から前記検査対象物の特徴量を検出して該検査対象物の種別を判定することを特徴とする物体識別方法。
【請求項2】
前記検査対象物は、地中等に放置されていた砲弾であって、前記X線透視画像から除去する画像成分は、上記砲弾における薬莢、弾頭栓、および尾翼等の部品に相当する画像部分であり、
前記閾値は、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムがピークとなる輝度レベルに基づいて設定されて前記X線透視画像からの前記砲弾の画像領域の抽出に用いられ、
前記特徴量は、前記砲弾の画像領域に示される最大砲弾径、炸薬筒の有無、伝火薬筒の長さ等として求められるものである請求項1に記載の物体識別方法。
【請求項3】
前記伝火薬筒の長さ等は、前記砲弾の弾底部を基準として計測される特徴点までの距離から求められるものである請求項2に記載の物体識別方法。
【請求項4】
外形および内部構造物に特徴を有する検査対象物のX線透視画像を得るX線透視装置と、上記X線透視画像を画像処理して前記検査対象物の種別を判定する画像処理装置とを備えてなり、
前記画像処理装置は、前記検査対象物における損壊し易い部品部分の画像成分を前記X線透視画像から除去する第1の画像処理手段と、
前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに従って前記検査対象物の特徴部分を検出する為の閾値を決定し、この閾値に基づいて前記X線透視画像中における前記検査対象物の特徴部分を抽出する第2の画像処理手段と、
抽出した上記特徴部分の特徴量を求め、その特徴量に従って前記検査対象物の種別を判定する判定手段と
を具備したことを特徴とする物体識別装置。
【請求項5】
前記検査対象物は、地中等に放置されていた砲弾であって、
前記第1の画像処理手段は、前記砲弾における薬莢、弾頭栓、尾翼等の前記X線透視画像中における画像領域を検出して当該画像領域を画像処理対象から除外し、前記第2の画像処理手段は、前記X線透視画像の輝度ヒストグラムに基づいて設定される閾値を用いて前記X線透視画像中における前記砲弾の特徴部分を抽出して特徴量の検出に供するものである請求項4に記載の物体識別装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記第2の画像処理手段にて求められた前記検査対象物の複数の特徴部分における特徴量を、前記検査対象物の予め変形し難いことが明らかな部位を基準として計測される上記特徴部分までの計測値からそれぞれ求めるものである請求項4に記載の物体識別装置。
【請求項7】
前記検査対象物の予め変形し難いことが明らかな部位は、地中等に放置されていた砲弾の弾底部である請求項6に記載の物体識別装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−38532(P2006−38532A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216120(P2004−216120)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】