説明

物品位置決め機構

【課題】高精度な位置決めが可能で且つ確実に回転拘束が可能な物品位置決め機構を提供すること、強度と耐久性に優れる物品位置決め機構を提供する。
【解決手段】物品位置決め機構10は、物品が固定されたホルダ部材11と取付け部に固定された枠形部材12とを備え、ホルダ部材11は、位置決め用規制面17と、正多角形に形成され且つ取付け部側へ移行する程軸心に近づくように傾斜したテーパ係合雄部18とを有し、枠形部材12は、位置決め用規制面17を受止めて軸心方向へ位置決めする基準面と、正多角形に形成され且つテーパ係合雄部18と同方向に傾斜したテーパ係合雌部38とを有し、ホルダ部材11を取付け部2に固定手段により固定するとき、軸心から離隔する径方向と取付け部へ接近する方向へのテーパ係合雌部38の外周側壁部の弾性変形を介して、テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物品位置決め機構に関し、特に部品又は工具からなる物品をテーパ係合雄部を有するホルダ部材に保持し、機械装置の可動部材の取付け部にテーパ係合雌部を有する枠形部材を設け、テーパ係合雄部をテーパ係合雌部に密着状に係合することで位置決め及び回転拘束するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械やロボットなどの各種機械装置において、ワークを加工する場合に、この作業に供する部品又は工具からなる物品を、各種機械装置の可動部材の取付け部に対して、ホルダ部材を介して位置決めすると共に回転拘束しなければならない。このため、精度良く位置決め可能で且つ確実に回転拘束可能な種々の物品位置決め機構が開発されて実用化されている。特に、工作機械においては、ワークを高精度に加工するためには、回転工具や旋削工具などを保持した工具ホルダを、工作機械の主軸やターレットに対して高精度に位置決めし且つ確実に回転拘束することが必要である。
【0003】
ここで、上記の物品位置決め機構として、例えば特許文献1には、刃物台のターレットに工具ホルダを高精度に位置決めするための位置決め機構が開示されている。この位置決め機構においては、工具ホルダのターレット取付け面外周近傍部に4つの凹状のキー溝を形成し、刃物台のターレットのホルダ取付け面に前記キー溝に対応する3つの凸状のキーを形成している。工具ホルダをターレットに取り付ける場合、工具ホルダの取付け面をターレットの取付け面に当接して4つのうちの3つのキー溝を、これらに対応する3つのキーに夫々係合することで、工具ホルダをターレットの取付け面に対して鉛直方向と水平方向に位置決めし且つ回転拘束することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−167862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の位置決め機構では、複数のキーの係合面に、複数のキー溝の係合面を確実に係合させるためには、各キーとこれに対応する各キー溝のサイズを微調節しなければならない。この微調節は、最終的には人の手により摺り合わせする必要があり、この作業に多大の労力と時間がかかる。複数のキーと複数のキー溝とを夫々係合させるためには、何れかのキーの係合面とキー溝の係合面との間に僅かな隙間が生じるので、位置決め精度を例えば2,3μmまで高めることが困難になってしまう。
【0006】
また、工具ホルダのターレット取付面をターレットのホルダ取付面に当接させながら、複数のキー溝を対応するキーに夫々係合させる作業は手間がかかるため、キー溝の係合面とキーの係合面とを接触させて傷つけてしまい、耐久性が低下する虞がある。さらに、複数のキーとキー溝により位置決めする場合、これらの構成部材が小さいサイズだとキーやキー溝の剛性に欠ける上、回転拘束力が弱くなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、高精度な位置決めが可能で且つ確実に回転拘束が可能な物品位置決め機構を提供すること、強度と耐久性に優れる物品位置決め機構を提供することなどである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の物品位置決め機構は、機械装置の可動部材の取付け部に部品又は工具からなる物品を位置決めすると共に回転拘束するための物品位置決め機構において、前記物品が固定されたホルダ部材と前記取付け部に固定された枠形部材とを備え、前記ホルダ部材は、前記取付け部の軸心と直交状の位置決め用規制面と、前記軸心と直交方向の断面が外側へ凸の複数の円弧状角部と複数の辺部分とを有する正多角形的形状に形成され且つ前記取付け部側へ移行する程前記軸心に近づくように傾斜したテーパ係合雄部とを有し、前記枠形部材は、前記位置決め用規制面を受止めて前記軸心方向へ位置決めする基準面と、前記軸心と直交方向の断面が外側へ凸の複数の円弧状角部と複数の辺部分とを有する正多角形的形状に形成され且つ前記テーパ係合雄部と同方向に傾斜したテーパ係合雌部とを有し、前記ホルダ部材を前記取付け部又は枠形部材に固定手段により固定するとき、前記軸心から離隔する径方向と前記取付け部へ接近する方向への前記テーパ係合雌部の外周側壁部の弾性変形を介して、前記テーパ係合雄部がテーパ係合雌部に密着状に係合するように構成したことを特徴としている。
【0009】
請求項2の物品位置決め機構は、請求項1の発明において、前記テーパ係合雄部の前記複数の辺部分の各々は、その中央部に形成された逃し凹部と、この逃し凹部の両側に形成された1対の接触面とを有し、前記テーパ係合雌部の前記複数の辺部分の各々は、その中央部に形成された逃し凹部と、この逃し凹部の両側に形成された1対の接触面とを有することを特徴としている。
【0010】
請求項3の物品位置決め機構は、請求項1又は2の発明において、前記テーパ係合雄部と前記テーパ係合雌部の正多角形的形状が正四角形的形状であり、前記テーパ係合雄部の複数の辺部分の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成され、前記テーパ係合雌部の複数の辺部分の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成されたことを特徴としている。
【0011】
請求項4の物品位置決め機構は、請求項3の発明において、前記テーパ係合雌部の外周側壁部の奥側には、前記テーパ係合雄部が前記テーパ係合雌部に密着状に係合する際の前記取付け部へ接近する方向への弾性変形を促進するための環状空間が形成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項5の物品位置決め機構は、請求項3の発明において、前記ホルダ部材は、前記テーパ係合雄部を形成する係合雄部形成部材と、この係合雄部形成部材が複数のボルトで固定されるホルダ本体とを有することを特徴としている。
【0013】
請求項6の物品位置決め機構は、請求項1の発明において、前記機械装置の可動部材は、ターレット式旋盤のターレットであり、このターレットはその外周部に複数の前記取付け部を有し、これら取付け部に前記枠形部材が夫々設けられたことを特徴としている。
【0014】
請求項7の物品位置決め機構は、請求項6の発明において、前記枠形部材は、前記取付け部に複数のノックピンで位置決めされて複数のボルトで固定されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、前記ホルダ部材を前記取付け部又は枠形部材に固定手段により固定するとき、前記軸心から離隔する径方向と前記取付け部へ接近する方向への前記テーパ係合雌部の外周側壁部の弾性変形を介して、前記テーパ係合雄部がテーパ係合雌部に密着状に係合するので、この物品位置決め機構により、物品が固定されたホルダ部材を取付け部に対して高精度に位置決めすることができ、確実に回転拘束することができる。特許文献1の複数組のキーとキー溝のように小さい構成部材を使用して位置決め且つ回転拘束する場合と比較して、本願では正多角形的形状のテーパ係合雄雌部を使用して位置決め且つ回転拘束するので、位置決め機構の剛性を高めることができる。1組のテーパ係合雄部とテーパ係合雌部とを係合させるので、複数組のキー溝とキーの組み合わせと比較して、スムーズに係合することができ、係合面への余計な接触を回避できるので、耐久性に優れる物品位置決め機構が得られる。
【0016】
請求項2の発明によれば、前記テーパ係合雄部と前記テーパ係合雌部の前記複数の辺部分の各々は、その中央部に形成された逃し凹部と、この逃し凹部の両側に形成された1対の接触面とを有するので、テーパ係合雄部とテーパ係合雌部とが密着状に係合する際に、1対の接触面により密着箇所の数が2倍になり取付け部の軸心と直交する方向への位置決め精度と回転拘束力が向上する。また、辺部分に逃し凹部を設けたことにより1対の接触面の圧縮応力が増大するので径拡大方向への弾性変形を促進し密着性を向上することができる。さらに、逃し凹部の表面を研磨加工する必要がないので、研磨加工コストを低減できる。
【0017】
請求項3の発明によれば、前記テーパ係合雄部と前記テーパ係合雌部の正多角形的形状が正四角形的形状であり、前記テーパ係合雄部と前記テーパ係合雌部の複数の辺部分の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成されたので、テーパ係合雄部とテーパ係合雌部とが密着状に係合する際に、テーパ係合雄部の辺部分とテーパ係合雌部の辺部分との接触面積が増加し、高精度に工具ホルダをセンタリングすることができ、求心性を向上させることができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、前記テーパ係合雌部の外周側壁部の奥側には、前記テーパ係合雄部が前記テーパ係合雌部に密着状に係合する際の前記取付け部へ接近する方向への弾性変形を促進するための環状空間が形成されたので、この環状空間により、前記枠形部材のテーパ係合雌部の前記取付け部に接近する方向への弾性変形を促進することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、前記ホルダ部材は、前記テーパ係合雄部を形成する係合雄部形成部材と、この係合雄部形成部材が複数のボルトで固定されるホルダ本体とを有するので、このホルダ本体にテーパ係合雄部を一体的に形成するより生産性が向上し、この係合雄部形成部材は、複数のボルトでホルダ本体に固定するので、種々の形状のホルダ本体に適用可能である。
【0020】
請求項6の発明によれば、前記機械装置の可動部材は、ターレット式旋盤のターレットであり、このターレットはその外周部に複数の前記取付け部を有し、これら取付け部に前記枠形部材が夫々設けられたので、このターレット式旋盤のターレットの複数の取付け部に対して、複数のホルダ部材を高精度に位置決め且つ確実に回転拘束することができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、前記枠形部材は、前記取付け部に複数のノックピンで位置決めされて複数のボルトで固定されたので、この枠形部材は、取付け部に対して繰り返し着脱可能なので再現性が向上し、この取付け部にテーパ係合雌部を一体的に形成するより生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係るターレットと物品位置決め機構の斜視図である。
【図2】ターレットと物品位置決め機構の要部拡大斜視図である。
【図3】物品位置決め機構の斜視図である。
【図4】物品位置決め機構のホルダ部材の側面図である。
【図5】物品位置決め機構の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】物品位置決め機構のホルダ部材の底面図である。
【図9】図8の要部拡大底面図である。
【図10】物品位置決め機構の枠形部材の平面図である。
【図11】図10の要部拡大底面図である。
【図12】他の変更形態に係る枠形部材の平面図である。
【図13】他の変更形態に係る機械装置と物品位置決め機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0024】
先ず、本発明の物品位置決め機構10が適用されるターレット1について説明する。
このターレット1(機械装置の可動部材に相当する)は、ターレット式旋盤に取り付けられるものである。図1,2に示すように、ターレット1は、リング状に構成され、その外周部に複数の取付け部2を有している。これら取付け部2には、物品位置決め機構10の枠形部材12が夫々設けられている。取付け部2の軸心2a方向に直交する方向に穴を削り広げるエンドミルT1や軸心2a方向へ推進して削り込むドリルT2などの回転工具を保持する回転工具用ホルダ部材11,11Aや、バイトS1,S2などの旋削工具を保持する旋削工具用ホルダ部材11B,11Cなどの複数のホルダ部材11〜11Cが、複数の取付け部2に枠形部材12を介して夫々固定されている。
【0025】
このターレット1は、図示は省略するが、ターレット式旋盤の刃物台本体に回転駆動可能に支持されている。割り出し機構(図示外)により、ターレット1を回転させてターレット1に取り付けられた複数のホルダ部材11〜11Cのうち、例えばエンドミルT1を保持した回転工具用ホルダ部材11を加工位置に割り出し、回転駆動機構(図示外)により、ホルダ部材11に保持された回転工具T1を回転させ、ワークを切削加工することができる。
【0026】
ここで、物品位置決め機構10について説明するが、ターレット1には複数の取付け部2に同構造の複数の物品位置決め機構10が適用されているので、ここではそのうちの1つの物品位置決め機構10について説明する。尚、ホルダ部材11には、旋削工具用ホルダ部材11,11Aや回転工具用ホルダ部材11B,11Cがあるが、ここでは、エンドミルT1を固定した回転工具用ホルダ部材11を例にして説明する。
【0027】
図1,図2に示すように、ターレット1の複数の取付け部2には、鉛直な軸心2aと、ホルダ部材11に保持された回転工具T1の回転軸(図示外)が挿通される軸孔3と、ホルダ部材11を取付け部2に固定するための4本のボルト4が夫々螺合される4つのボルト孔5と、枠形部材12を取付け部2に固定するための4本のボルト6が夫々螺合される4つのボルト孔7と、枠形部材12を位置決めするためのノックピン8が挿入される2つのピン孔9とが形成されている。尚、本実施例のターレット1は、その外周部に12個の取付け部2を有している。
【0028】
図1〜図11に示すように、物品位置決め機構10は、工具T1が固定されたホルダ部材11と、取付け部2に固定された枠形部材12とを備えている。この物品位置決め機構10は、ターレット1の取付け部2に枠形部材12を介してホルダ部材11(部品又は工具からなる物品に相当する)を位置決めすると共に回転拘束するためのものである。
【0029】
次に、枠形部材12について説明する。
図1〜図3,図6,図7,図10,図11に示すように、枠形部材12は、平面視にて正方形の鋼製の板状部材から形成されている。枠形部材12は、開口40と、外周側壁部12aと、ホルダ部材11の位置決め用規制面17を受止めて軸心2a方向へ位置決めする基準面37と、ホルダ部材11のテーパ係合雄部18と同方向に傾斜したテーパ係合雌部38などを有している。枠形部材12は、取付け部2に2本のノックピン8で位置決めされて4本のボルト6で固定されている。枠形部材12の上面部には、その一辺が辺部分の約0.5〜0.6倍の長さを有する開口40が形成されている。
【0030】
次に、基準面37について説明する。
図2,図10に示すように、基準面37は、枠形部材12の上面に構成されている。この基準面37には、4本のボルト4が挿通される4つの挿通孔43と、4本のボルト6が挿入されるボルト装着孔44と、2本のノックピン8が挿入される2つのピン孔45が形成されている。
【0031】
次に、テーパ係合雌部38について説明する。
図2,図3,図10,図11に示すように、テーパ係合雌部38は、軸心2aと直交方向の断面が外側へ凸の4つの円弧状角部46と4つの辺部分47とを有し、正四角形的形状(擬似正四角形又は略正四角形又は正四角形に近い形状)に形成されている。テーパ係合雌部38は、ターレット1の軸心1aの方へ移行する程軸心2aに近づくように傾斜状に形成されている。テーパ係合雌部38は、枠形部材12の開口40の上部周壁41に一体的に形成されている。テーパ係合雌部38の複数の辺部分47の各々が外側へ僅かに膨らんだ微小曲率の円弧状に形成されている。
【0032】
テーパ係合雌部38の複数の辺部分47の各々は、その中央部に形成された逃し凹部48と、この逃し凹部48の両側に形成された1対の接触面49とを有する(図11参照)。テーパ係合雌部38の逃し凹部48は、枠形部材12の開口40の上部周壁41に軸心2a方向に沿って浅溝状に形成されている。逃し凹部48は、辺部分47の約1/2の領域に形成されている。
【0033】
次に、環状空間40aについて説明する。
図3,図6,図7に示すように、環状空間40aは、開口40の上部周壁41の奥側に形成されている。この環状空間40aは、テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合する際の取付け部2へ接近する方向へ(奥方)の弾性変形を促進するためのものである。環状空間40aは、開口40の下部周壁42の内周側に形成されている。
【0034】
次に、ホルダ部材11について説明する。
図1〜図9に示すように、ホルダ部材11は、テーパ係合雄部18を形成する係合雄部形成部材14と、この係合雄部形成部材14が複数のボルト15で固定されるホルダ本体16とを有している。
【0035】
次に、ホルダ本体16について説明する。
図1〜図7に示すように、ホルダ本体16は、本体部31と、係合雄部形成部材14が固定される平板部32と、工具保持部33などから構成されている。この工具保持部33には、エンドミルT1が固定されている。エンドミルT1が回転駆動される場合、エンドミルT1の回転軸が回転駆動機構の回転軸に連結されるが、公知の技術であるため詳細な説明は省略する。このホルダ本体16の平板部32の四隅部には、ホルダ部材11をターレット1の取付け部2に固定するため、4本のボルト4が挿入される4つのボルト装着孔34が形成されている。
【0036】
次に、係合雄部形成部材14について説明する。
係合雄部形成部材14は、平面視にて正方形の鋼製の板状部材から形成されている。係合雄部形成部材14は、取付け部2の軸心2aと直交状の位置決め用規制面17と、取付け部2側へ移行する程軸心2aに近づくように傾斜したテーパ係合雄部18と、取付け部2の軸孔3に連通する貫通孔19とを有している。
【0037】
次に、位置決め用規制面17について説明する。
図3,図8に示すように、位置決め用規制面17は、係合雄部形成部材14の底面側四隅部において、テーパ係合雄部18より外側の部分に平面視にて開角が約45°の円弧状に形成されている。これら位置決め用規制面17の各々の中心部には、ボルト4が挿通される挿通孔21が夫々形成されている(図6参照)。この位置決め用規制面17が、基準面37に当接して軸心2a方向位置の位置決めがなされる。
【0038】
これら位置決め用規制面17の径方向内側には、浅い環状凹溝22が形成されている。浅い環状凹溝22には、4本のボルト15が挿入される4つのボルト装着孔と、係合雄部形成部材14をホルダ本体16に位置決めするための2本のノックピンが挿入される2つのピン孔24が形成されている。
【0039】
次に、テーパ係合雄部18について説明する。
図3,図4,図6〜図9に示すように、テーパ係合雄部18は、軸心2aと直交方向の断面が外側へ凸の4つの円弧状角部26と4つの辺部分27とを有し、正四角形的形状(擬似正四角形又は略正四角形又は正四角形に近い形状)に形成されている。テーパ係合雄部18は、係合雄部形成部材14の底面から一体的に突出するように形成されている。テーパ係合雄部18の取付け部2の軸心2aに対する傾斜角は、7°〜12°程度が望ましい(図6,図7参照)。テーパ係合雄部18の4つの辺部分27の各々は、外側へ僅かに膨らんだ微小曲率の円弧状に形成されている(図9の仮想線参照)。
【0040】
テーパ係合雄部18の複数の辺部分27の各々は、その中央部に形成された逃し凹部28と、この逃し凹部28の両側に面取りされた1対の接触面29とを有している(図9参照)。テーパ係合雄部18の逃し凹部28は、係合雄部形成部材14のテーパ面に軸心方向に沿って浅溝状に形成されている。逃し凹部28は、辺部分の約1/2の領域に形成されている。
【0041】
この物品位置決め機構10は、ホルダ部材11を枠形部材12を介して取付け部2に4本のボルト4(固定手段)により固定するとき、軸心2aから離隔する径方向と取付け部2へ接近する方向へのテーパ係合雌部38の外周側壁部12aの数μmの弾性変形を介して、テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合するように構成されている。テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合している状態では、円弧状角部26と円弧状角部46との間と逃し凹部28と逃し凹部48との間に僅かな隙間が形成され(図6参照)、1対の接触面29が1対の接触面49に密着状に係合する(図7参照)。尚、ホルダ部材11を枠形部材12にボルトなどの固定手段で固定するように構成しても良い。
【0042】
次に、物品位置決め機構10の作用及び効果について説明する。
先ず、ターレット1の取付け部2にホルダ部材11を固定するため、ホルダ部材11の係合雄部形成部材14と取付け部2に固定された枠形部材12の軸心2a回りの回転位相を一致させた状態で、ホルダ部材11を枠形部材12に係合させ、テーパ係合雌部38の接触面49にテーパ係合雄部18の接触面29を軽く当接させる。尚、このときホルダ部材11の係合雄部形成部材14の4つの位置決め用規制面17と枠形部材12の基準面37との間には約0.03〜0.15μmの隙間が形成される。
【0043】
次に、4本のボルト4をホルダ部材11のボルト装着孔34に夫々挿入し、係合雄部形成部材14の挿通孔21と枠形部材12の挿通孔43を挿通させ、ターレット1の取付け部2のボルト孔5に螺合して、ホルダ部材11を枠形部材12を介して取付け部2に固定すると、軸心2aから離隔する径方向と取付け部2へ接近する方向へのテーパ係合雌部38の外周側壁部12aの弾性変形を介して、テーパ係合雄部18の接触面29がテーパ係合雌部38の接触面49に密着状に係合して、その後に、位置決め用規制面17が基準面37に当接して前記弾性変形が止まると共に軸心2a方向の位置決めが完了する。この弾性変形は、上部周壁41の径方向弾性圧縮変形と軸心2a方向への弾性変形を含むものである。
【0044】
ホルダ部材11の位置決め用規制面17を枠形部材12の基準面37に密着させることにより、ホルダ部材11を取付け部2の軸心2a方向に高精度に位置決めすることができる。テーパ係合雌部38の接触面49をテーパ係合雄部18の接触面29に密着させることにより、ホルダ部材11を軸心2aから離隔する径方向へ高精度に位置決めすることができる。さらに、取付け部2の軸心2a回りの回転位相を高精度で位置決めすることができ、取付け部2に対してホルダ部材11が軸心2a回りに回転しないように拘束することができる。このように、位置決め用規制面17又は基準面37の高さ方向位置を微調節することなく、また、テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38の何れかに可動部材を用いることなく、2面拘束を確実に達成できる。
【0045】
このように、ホルダ部材11を取付け部2又は枠形部材12にボルト4(固定手段)により固定するとき、軸心2aから離隔する径方向と取付け部2へ接近する方向へのテーパ係合雌部38の外周側壁部12aの弾性変形を介して、テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合するので、この物品位置決め機構10により、工具T1が固定されたホルダ部材11を取付け部2に対して高精度に位置決めすることができ、且つ確実に回転拘束することができる。複数組のキーとキー溝のように小さい構成部材を使用して位置決め且つ回転拘束する場合と比較して、本願では正四角形的形状のテーパ係合雄部18と雌部38を使用して位置決め且つ回転拘束するので、物品位置決め機構10の剛性を高めることができる。1組のテーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38とを係合させるので、複数組のキー溝とキーの組み合わせと比較して、スムーズに係合することができ、テーパ係合雄雌部18,38への余計な接触を回避できるので、耐久性に優れる物品位置決め機構10が得られる。
【0046】
テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38の複数の辺部分27,47の各々は、その中央部に形成された逃し凹部28,48と、この逃し凹部28,48の両側に形成された1対の接触面29,49とを有するので、テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38とが密着状に係合する際に、1対の接触面29,49により密着箇所の数が2倍になり取付け部2の軸心2aと直交する方向への位置決め精度と回転拘束力が向上する。また、辺部分27,47に逃し凹部28,48を設けたことにより1対の接触面29,49の圧縮応力が増大するので径拡大方向への弾性変形を促進し密着性を向上することができる。さらに、逃し凹部28,48の表面を研磨加工する必要がないので、研磨加工コストを低減できる。
【0047】
テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38の正多角形的形状が正四角形的形状であり、テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38の複数の辺部分27,47の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成されたので、テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38とが密着状に係合する際に、テーパ係合雄部18の辺部分27とテーパ係合雌部38の辺部分47との接触面積が増加し、高精度にホルダ部材11をセンタリングすることができ、求心性を向上させることができる。
【0048】
テーパ係合雌部38の外周側壁部12aの奥側には、テーパ係合雄部18がテーパ係合雌部38に密着状に係合する際の取付け部2へ接近する方向への弾性変形を促進するための環状空間40aが形成されたので、この環状空間40aにより、枠形部材12のテーパ係合雌部38の取付け部2に接近する方向への弾性変形を促進することができる。
【0049】
ホルダ部材11は、テーパ係合雄部18を形成する係合雄部形成部材14と、この係合雄部形成部材14が複数のボルト15で固定されるホルダ本体16とを有するので、このホルダ本体16にテーパ係合雄部18を一体的に形成するより生産性が向上し、この係合雄部形成部材14は、複数のボルト15でホルダ本体16に固定するので、種々の形状のホルダ本体16に適用可能である。
【0050】
機械装置の可動部材は、ターレット式旋盤のターレット1であり、このターレット1はその外周部に複数の取付け部2を有し、これら取付け部2に枠形部材12が夫々設けられたので、このターレット式旋盤のターレット1の複数の取付け部2に対して、複数のホルダ部材11を高精度に位置決め且つ確実に回転拘束することができる。
【0051】
枠形部材12は、取付け部2に複数のノックピン8で位置決めされて複数のボルト6で固定されたので、この枠形部材12は、取付け部2に対して繰り返し着脱可能なので再現性が向上し、この取付け部2にテーパ係合雌部38を一体的に形成するより生産性が向上する。
【0052】
尚、本実施例はホルダ部材11を例として説明したが、ホルダ部材11A〜11Cもホルダ部材11と同様に、テーパ係合雄部18を形成する係合雄部形成部材14を有し、この係合雄部形成部材14が複数のボルト15で固定される各工具T2,S1,S2に対応した形状のホルダ本体16A〜16Cとを有している。ホルダ本体16A〜16Cにおいても、ホルダ本体16と同様に、4本のボルト4(固定手段)を介して取付け部2に夫々固定するための4つのボルト装着孔34が夫々形成されている。
【0053】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
[1]図12に示すように、枠形部材12Aのテーパ係合雌部38Aの円弧状角部46Aに弾性変形促進部として径方向外側に向けて複数のスリット53を形成しても良い。この構成によると、テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38Aが密着状に係合するとき、テーパ係合雌部38Aの外周側壁部12aの軸心2aから離隔する径方向と取付け部2へ接近する方向への弾性変形を促進することができる。
[2]図13に示すように、物品位置決め機構10は、ターレット式旋盤のターレット1に適用されるだけでなく、物品位置決め機構10Aのように圧造成形機60やその他種々の成形機にも適用することができる。この場合は、物品位置決め機構10Aにより、パンチ61やダイ62をラム63や機台64(可動部に相当する)の取付け部に対して夫々高精度に位置決めし且つ確実に回転拘束することができる。
[3]複数の辺部分27,47の各々の形状は、外側へ僅かに膨らんだ円弧状に限定する必要はなく、直線状に形成しても良い。
[4]テーパ係合雄部18とテーパ係合雌部38の形状は正四角形的形状に限定する必要はなく、正五角形的形状や正六角形的形状など種々の正多角形的形状に構成しても良い。
[5]本実施例では、テーパ係合雄部18が形成された係合雄部形成部材14をホルダ本体16に固定し、テーパ係合雌部38が形成された枠形部材12を取付け部2に固定しているが、特にこの構成に限定する必要はなく、係合雄部形成部材14を取付け部2に固定し、枠形部材12をホルダ本体16に固定するように構成しても良い。
[6]本実施例では、ホルダ部材11に位置決め用規制面17とテーパ係合雄部18とを形成し、枠形部材12に基準面37とテーパ係合雌部38とを形成しているが、この構成とは逆に、枠形部材12に位置決め用規制面17とテーパ係合雄部18とを形成し、ホルダ部材11に基準面37とテーパ係合雌部38とを形成するように構成しても良い。
[7]その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において前記実施例に種々の変形を付加した形態で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の物品位置決め機構は、工作機械やロボットなどの各種機械装置、その他の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ターレット
2 取付け部
2a 軸心
4 ボルト(固定手段)
8 ノックピン
10,10A 物品位置決め機構
11〜11C ホルダ部材
12 枠形部材
12a 外周側壁部
14 係合雄部形成部材
16〜16C ホルダ本体
17 位置決め用規制面
18 テーパ係合雄部
26 円弧状角部
27 辺部分
28 逃し凹部
29 接触面
37 基準面
38,38A テーパ係合雌部
40a 環状空間
46 円弧状角部
47 辺部分
48 逃し凹部
49 接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置の可動部材の取付け部に部品又は工具からなる物品を位置決めすると共に回転拘束するための物品位置決め機構において、
前記物品が固定されたホルダ部材と前記取付け部に固定された枠形部材とを備え、
前記ホルダ部材は、前記取付け部の軸心と直交状の位置決め用規制面と、前記軸心と直交方向の断面が外側へ凸の複数の円弧状角部と複数の辺部分とを有する正多角形的形状に形成され且つ前記取付け部側へ移行する程前記軸心に近づくように傾斜したテーパ係合雄部とを有し、
前記枠形部材は、前記位置決め用規制面を受止めて前記軸心方向へ位置決めする基準面と、前記軸心と直交方向の断面が外側へ凸の複数の円弧状角部と複数の辺部分とを有する正多角形的形状に形成され且つ前記テーパ係合雄部と同方向に傾斜したテーパ係合雌部とを有し、
前記ホルダ部材を前記取付け部又は枠形部材に固定手段により固定するとき、前記軸心から離隔する径方向と前記取付け部へ接近する方向への前記テーパ係合雌部の外周側壁部の弾性変形を介して、前記テーパ係合雄部がテーパ係合雌部に密着状に係合するように構成したことを特徴とする物品位置決め機構。
【請求項2】
前記テーパ係合雄部の前記複数の辺部分の各々は、その中央部に形成された逃し凹部と、この逃し凹部の両側に形成された1対の接触面とを有し、
前記テーパ係合雌部の前記複数の辺部分の各々は、その中央部に形成された逃し凹部と、この逃し凹部の両側に形成された1対の接触面とを有することを特徴とする請求項1に記載の物品位置決め機構。
【請求項3】
前記テーパ係合雄部と前記テーパ係合雌部の正多角形的形状が正四角形的形状であり、
前記テーパ係合雄部の複数の辺部分の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成され、前記テーパ係合雌部の複数の辺部分の各々が外側へ僅かに膨らんだ円弧状に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の物品位置決め機構。
【請求項4】
前記テーパ係合雌部の外周側壁部の奥側には、前記テーパ係合雄部が前記テーパ係合雌部に密着状に係合する際の前記取付け部へ接近する方向への弾性変形を促進するための環状空間が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の物品位置決め機構。
【請求項5】
前記ホルダ部材は、前記テーパ係合雄部を形成する係合雄部形成部材と、この係合雄部形成部材が複数のボルトで固定されるホルダ本体とを有することを特徴とする請求項3に記載の物品位置決め機構。
【請求項6】
前記機械装置の可動部材は、ターレット式旋盤のターレットであり、このターレットはその外周部に複数の前記取付け部を有し、これら取付け部に前記枠形部材が夫々設けられたことを特徴とする請求項1に記載の物品位置決め機構。
【請求項7】
前記枠形部材は、前記取付け部に複数のノックピンで位置決めされて複数のボルトで固定されたことを特徴とする請求項6に記載の物品位置決め機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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